著者
周 立波 清水 淳 尾嶌 裕隆 山本 武幸 江田 弘 神谷 純生 岩瀬 久雄 山下 輝樹 田代 芳章 田 業氷
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,超高速光通信用可変分散補償器のコア要素である単結晶Siエタロンの加工技術を確立することを目的に,独自に開発したSiと化学反応するCMG加工技術を用いて,大口径Siウエハを高精度・高品位に加工できるOne-stop加工システムを開発し,CMG砥石およびプロセスの最適化を行い,固定砥粒加工だけでGBIR<0.3μm,加工変質層のない15μmの極薄Siウエハを実現した.
著者
瀬野 悍二
出版者
埼玉県立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1985

癌細胞の自律増殖や悪性形質維持を決定する細胞内因子の遺伝的基礎を知るために、そのために分離した突然変異株とバイオテクノロジーの手法を駆使して以下の成果をおさめた。(1)ヒトの細胞周期関連増殖必須遺伝子のクローン化に成功し、増殖の調節機構を分子レベルで解明する端緒が開かれた。すなわち、【G_1】期の進行に関する約70キロ塩基対のDNA、【G_2】期の染色体凝縮を調節する約30キロ塩基対のDNA、およびDNA複製に必須なチミジル酸合成酵素の約23キロ塩基対のDNAで、いずれも生物活性を示した。DNAポリメラーゼαの遺伝子についてはクローン化に至らなかったが、遺伝子座をX染色体に決定した。(2)細胞周期におけるチミジル酸合成酵素遺伝子の発現様式を同遺伝子の上記クローン化断片をプローブにヒト正常2倍体線維芽細胞を用いて解析したところ、発現の調節は転写ではなく、転写以降のステップで行われていた。本成果は、癌遺伝子をはじめとする増殖関連遺伝子の今後の研究に新しい視点を与えるものである。(3)高温におくと染色体異常を誘発する突然変異株を分離した。この成果は、染色体の転座、欠失、増幅の機構を分子レベルで定量的に解析できることを約束する。(4)細胞の悪性化の指標とされる軟寒天内増殖が特定の未知増殖因子に依存することを、同因子に対する感受性の低下した癌細胞突然変異株の性状解析から解明した。本因子を同定するに至らなかったが、既知増殖因子はいずれも上記機能を代行できない。(5)インシュリン受容体欠損変異株の解析から、インシュリン様第1因子の受容体がその代行をすることを解明した。この成果は、増殖因子相互の生体内における役割の解明につながる。(6)悪性化増殖因子-β(TGF-β)に感受性を増し、ヌードマウスでの造腫瘍性も増した形質膜異常変異株を分離したが、前癌状態のモデルとして興味深い。今後(3)〜(6)についても遺伝子をクローン化し、情報発現機構を解明する。
著者
瀬野 悍二 清水 信義 佐藤 弘毅 西本 毅治 西島 正弘 花岡 文雄
出版者
埼玉県立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1984

細胞増殖において染色体DNAが複製を完了した後正しく娘細胞に分配される際、染色体凝縮は必須の反応である。この染色体凝縮の調節遺伝子を変異株の利用によってヒトDNAからクローン化し、さらに同cDNAをクローン化した。その結果、本遺伝子は421アミノ酸からなる蛋白質をコードし、約55アミノ酸を単位とする7回繰返し構造を含むユニークなものであった。同遺伝子座をヒト第1染色体に決定した。DNA複製の主役を担うDNAポリメラーゼαの温度感受性変異株を高温にさらすと、M期において高頻度の染色体異常及び姉妹染色分体交換が誘発された。このことは、DNA複製の阻害がDNA2重鎖切断を介して染色体の不安定性を引き起し細胞死につながることを明確に示す。ヒトチミジル酸合成酵素mRNAの5'側非翻訳領域は28塩基を基本単位とする3回反復構造からなり、3通りのstem-loopを形成しうる。本構造を改変し翻訳活性との対応をみたところ、上記stem-loop構造が翻訳を抑制することが示唆された。高温にさらすと染色体異常や姉妹染色分体交換を誘発する変異株を14株分離したが、同条件下に外来遺伝子を移入すると形質転換頻度が正常値より40-70倍高いもの、あるいは低いものがあった。この結果は、染色体不安定性が遺伝子組換えと関連することを示す。また、遺伝子組換えのin vitroの測定系の樹立に関し、基礎検定を終えた。ホスファチジルセリン(PS)要求変異株を分離しPSが細胞増殖に必須であること、PSはホスファチジルコリンを前駆体としてリン脂質・セリン交換酵素によって生合成されることを解明した。また、Sindbisウイルス感染に際してPSがウイルスとエンドソーム膜との融合過程に必須の膜成分であることを示唆した。
著者
池井 寧 山下 利之 茅原 拓朗 上岡 玲子 上岡 玲子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,人間の記憶力強化の新しい手法として,空間情報にかかわる人間の記憶特性を利用した容量拡大の方法論を構築することである.本手法の特徴は,携帯型コンピュータ等を用いて,場所(空間)やモノの画像と記憶掛けくぎ画像の素早い合成操作を行わせることだけで記憶を高めうることである.携帯電話を含む小型コンピュータを用いた複数の実験で,短い制限時間の記憶課題において,本手法を用いない場合に比較して著しい再生率の向上を達成しうることが実証された.
著者
岩崎 貴哉 金澤 敏彦 松澤 暢 三浦 哲 壁谷澤 寿海 多々納 裕一
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2007

2007年7月16日10時13分, 新潟県上中越沖の深さ約17kmを震源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生した. この地震により, 新潟県と長野県で最大震度6強を観測し, 大きな被害をもたらした. 発震機構は北西-南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型で, 地殻内の浅い地震である. 今回の地震は, 未知の伏在断層で発生したもので, 震源断層の実態を明らかにするためは, 海陸を通じた地震観測により余震の精密な空間分布等を求める必要がある. 特に, 今回の地震は堆積層に覆われた地域で発生しており, このような地域で余震の分布から震源断層の実態を明らかにすることは, 今後の同様の地域での地震発生を考える上で重要である. そこで, 平成19年度の本調査研究では, 海底地震計及び陸上臨時観測点を合計79台設置し, 余震の精密な空間分布等を求め, 今回の活動で発生した断層の正確な形状等を把握し, 本震の性質の推定等を行なった. その結果, 余震域の南西側は南東傾斜の余震分布が支配的であり, 北東側では北西及び南等傾斜の分布が混在することがわかった. 北東側と南西側では構造異なり, 両地域の間が構造境界になっているらしい. また, このような地域での地震発生を理解することは, 同様な他の地域における地震発生予測にも不可欠であり, 社会的にも強く要請されることである. 更に, 本調査研究では, 強震観測・建物被害や地震による災害の救援などを調査から被害の特徴と要因を明らかにし, 震源断層に関する理学的研究と連携させて実施した. 強震観測によれば, この断層面は, 震源域南西側の余震分布でみられる南東傾斜である可能性が強いが, 本震の位置はこの北西傾斜の地震群の中にある可能性がある. GPS観測では, 観測点が陸域に限られているために, この地震の断層モデルを特定するには至らなかったが, 予稿変動を捉え, その時定数(decay time)0.35-2.83日と求まった.平成20年度は, その研究成果をとりまとめた.
著者
保城 広至
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、実証に入る前に、本プロジェクトに必要とされる基本的な知識の底上げ、特に理論と方法論を幅広く吸収することに努めた。理論的には、1950年代から始まり、1970年代に急速に廃れていった地域統合論の研究群を一通りサーベイし、90年代以降における新しい地域主義論との相違が何であるのかを把握することに努めている。ただしこれはまだサーベイ中であり、先行研究が主張していること以上の新規な視点が提出できるとは考えていない。仮に興味深い知見を発見することができたなら、平成22年度中に、紀要か研究ノートとして和文雑誌に投稿する予定である。また、今世紀に入って雪崩のように出版されている、東アジア地域主義に関する書籍や論文のサーベイも同時進行中である。方法論的には、一つは中級統計、もう一つは定性的研究の方法論を集中的に学習している。前者は昨年度と同様ミシガン大学の統計セミナーに参加して、今回はMLE(最尤法)の基礎を学習した。今後データを集めた後、計量的な分析を加える予定である。また、定性的研究の方法論としては、報告者の従来のディシプリンである外交史アプローチは、どのようにすれば理論化が可能かという問題に一つの解答が出たため、それを国内の学術雑誌に投稿し、「学界展望」として採用された。今秋掲載の予定である。本来の予定であればすでに実証研究を始めているはずであるが、理論的・方法論的知識をより広く、より深く習得た方がおそらく実証も行いやすいという判断により、今年度はそちらの部分に力を注いだ。報告者は4月より就職するため、残念ながら今回のプロジェクトはいったん打ち切りとなるが、民間あるいは他の科学研究費補助金を申請して、本プロジェクトを継続していくつもりである。
著者
山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

温帯果樹は芽を分化させたのち、翌春の生長開始期まで休眠状態で越冬する。越冬芽は一定期間の低温に遭遇することにより自発休眠から覚醒し、好適条件下で発芽可能な状態となる。果樹の休眠現象の調査研究の多くは休眠覚醒期の生理と人為的制御法の検討に向けられており、休眠現象の分子レベルでの実態は明らかとなっていない。果樹の越冬芽は花器官が分化していく花芽と栄養生長点が存在する葉芽にわけられる。休眠の実態は両者で異なることから、本研究では花芽と葉芽を明確に区別可能な純正花芽をもつウメを材料とした。ウメ品種‘南高'とタイや台湾で育成されたST, SC,‘二青梅'を供試し、その休眠深度を秋から早春にかけて調査した。その結果、2006年11月26日時点で加温したST, SC,‘二青梅'はいずれも20日前後で萌芽したのに対し、‘南高'では萌芽に至らなかったことから、後者3系統は休眠覚醒に必要な低温要求量が著しく低い系統と位置づけることができた。これらの系統を供試して、細胞周期関連遺伝子であるサイクリンB遺伝子の発現レベルを調査した結果、‘南高'と比較して他の3系統では発現レベルの上昇が早い時期からみられた。しかしながら、その発現量は気温の変化に敏感に反応することが示唆され、サンプリング時期によっては発現レベルの季節的変動がみられないこともあった。したがって、これら遺伝子の発現レベルのみでは越冬芽の休眠深度をはかる指標として不適切な可能性も考えられた。そこで本研究では自発休眠と他発休眠を明確に区別するための分子マーカーの獲得を目的として、自発休眠芽で特異的に発現している遺伝子の探索を試みた。その結果、転写因子や植物ホルモン関連遺伝子などの単離に成功した。
著者
近藤 悟 平井 信博 瀬戸 秀春
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

植物体の生理活性物質であるアブシシン酸(ABA)およびジャスモン酸(JA)は環境ストレスに反応するストレスホルモンとして知られている。一般に6℃以下の低温は熱帯果実において貯蔵期間を延長するものの、果皮の褐色化などいわゆる低温障害の原因となり、著しく商品性を損なう。本研究では低温がABAおよびJA代謝、ABA合成経路の鍵酵素である9-シスエポキシカロチノイドジオキシゲナーゼ(NCED)遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。低温ストレスはコントロール区に比較して、ABAの増加を誘導した。ABAおよびその代謝物であるファゼイン酸(PA)、ジヒドロファゼイン酸(DPA)およびそのエピ体であるepi-ジヒドロファゼイン酸(epi-DPA)は貯蔵日数とともに増加した。マンゴー果実において、ABAの主要代謝物はepi-DPAであった。JA濃度もまた、ABAと同様に低温貯蔵中、徐々に増加した。NCEDはカウピーより単離されているNCED遺伝子配列を基にディジェネレートプライマーを設計し、マンゴー果実のcDNAを鋳型として、RT-PCRにより遺伝子のクローニングを行った。本研究では1遺伝子を単離した。マンゴー果実からクローニングしたNCED遺伝子はカウピーおよびブドウ等と高い相同性を示した。低温ストレス下でのマンゴー果実におけるNCED遺伝子の発現を示す。NCEDの転写量はコントロール区の果実に比較し低温ストレス下で増加し、ABAの変化と一致した。以上の結果は低温ストレスは、ストレスシグナル物質としてのABAの増加を誘導するが、これはNCED遺伝子の発現増加に起因するものであることが推定される。
著者
弦間 洋 小松 春喜 伊東 卓爾 中野 幹夫 近藤 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

暖地での高品質果実生産のための指針を得る目的で、果皮着色機構、成熟制御機構並びに分裂果等の障害発生機構の解明を行い、一定の成果が得られた。すなわち、リンゴ及びブドウ果実のアントシアニン生成経路の詳細な調査を基に、暖地産果実の色素発現生理の一部を解明することができた。例えば、ブドウ'巨峰'の場合、適地である長野産はアントシアニン含量が高く、暖地産のものは低含量であったが、熊本産はプロアントシニンやフラポノール含量が高く、前駆体のフラバノノールからアントシアニンに至る経路が高温によって阻害され、一方、和歌山、広島産ではこれらの含量が低く、フラパノノール合成以前の過程で阻害された可能性が推察された。ジャスモン酸アナログのn-プロピルジハイドロジャスモン酸(PDJ)とABA混用処理をベレゾーン以前に行うと、不適環境下での着色改善に効果があった。暖地リンゴの着色に及ぼす環境要因について、紫外線(UV)吸収及び透過フィルムで被袋し、さらに果実温を調節して検討したところ、低温(外気温より3〜4℃低い)によってアントシアニン畜積が認められ、内生ABA含量も増加する傾向にあった。しかし、UVの影響については明らかにし得なかった。リンゴ品種には貯蔵中に果皮に脂発生するものがあり、'つがる'果実で検討したところ暖地産(和歌山、熊本、広島)は'ふじ'同様着色は劣るが、適地産(秋田)に比べ脂上がりが少ないことが認められた。果実成熟にABAが関与することがオウトウ及びブドウ'ピオーネ'における消長から伺えた。すなわち、ブドウでは着色期前にs-ABAのピークが観察され、着色に勝る有核果で明らかに高い含量であった。また、種子で生産されたs-ABAは果皮ABA濃度を上昇させるが、t-ABAへの代謝はないことを明らかにした。モモの着色機構についても、無袋果が有袋果に着色が勝ることから直光型であることを認めた。さらに裂果障害を人為的に再現するため、葉の水ポテンシャルで-3.0MPa程度の乾燥処理を施したが裂果は起こらなかったものの、糖度が向上すること、フェノールの蓄積があることなどを認めた。これらの知見は暖地における品質改善への指針として利用できる。
著者
長谷川 耕二郎 北島 宣
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

カキ果実の離脱過程は"誘導段階"→"決定段階"→"実行段階"と考えられるが、離脱過程に関与する要因は明らかではない。本研究は、離脱過程に関与する要因を明らかにするとともに、離層細胞の形態形成と離脱過程における形態的変化を明らかにし、"実行段階"を分子細胞生物学的に捉えようとした。離層細胞は満開6週間前から識別されはじめ、満開4週間前には離層組織が観察でき、満開1週間後にはほぼ完成していた。樹上環状剥皮処理果実と室内水差し処理果実の離脱の推移はほぼ同様であり、両者の離脱過程はほぼ同様であると考えられた。20℃→5℃の変温処理では子房より果梗が顕著に早く離脱するので果梗と子房の離脱過程は異なると考えられた。エチレン発生量は離脱前に増加し、果肉部より果梗部から発生していた。さらに、35℃、20℃で離脱前に急激に多量のエチレンが発生し、変温処理では少量ではあるが離脱前にピークを示しており、少量のエチレンが離脱に密接に関係していると考えられた。採取果実のジベレリンとサイトカイニン様物質処理による、離脱、呼吸量、エチレン発生量の違いはみられず、これらは離脱過程に関係していないと考えられた。35℃処理、20℃処理、20℃36時間後5℃処理、20℃24時間後5℃処理、20℃12時間後5℃処理の順に自然離脱と強制離脱の差が小さく、離脱の実行段階の進行は温度に依存していると考えられた。35℃、20℃、20℃48時間後→5℃、20℃36時間後→5℃、20℃24時間後→5℃処理ですべて離脱したが5℃処理は離脱せず、20℃では24時間までに決定段階に入っていると考えられた。20℃処理果実の離層細胞は処理24時間後から凝縮した核が散在的に観察でき、時間の経過に伴ってその数は増加した。このことから、果実の離脱は核の断片化によるアポトーシスである可能性が示唆され、実行段階は核の断片化で捉えられると考えられた。
著者
有馬 道久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,小学校に入学した児童が,潜在的カリキュラムをどのようにして習得していくのかについて検討した。2000年度は,小学校1年生のあるクラスについて,4月,6月,11月,翌年の3月に計36日間,計58時間の授業を観察,録画し,カテゴリー分析と事例分析を行った。このクラスには40名(男女同数)の児童が在籍し,担任教師は教歴17年の39歳の男性であった。その結果,児童は,潜在的カリキュラムの1つである教室ルールとして,「適切な姿勢のとり方」,「発表の仕方」,「号令の掛け方」などを学習することがわかった。教師は,入学直後は「説明する」という方略を用いるが,しだいに「ほめる」,「注意する」,「待つ」という方略を多用するようになることがわかった。2001年度は,1年生の別のクラスについて,4月,11月,翌年の2月に計32日間の朝の会と48時間の授業を観察,録画した。このクラスには35名(男子20名,女子15名)の児童が在籍し,担任教師は教歴32年の54歳の女性であった。ADHD(注意欠陥/多動性障害)児と集団保育未経験児の2人の児童に焦点を当てて,事例分析を行った。その結果,教師は,この2人の児童に対してかなり長時間の個別対応を行い,社会的スキルを指導していることがわかった。そして,この相互作用を通じて,クラスのすべての児童に「我慢すること(教師の指示に従うこと,順番や時期を待つこと,課題に集中すること)」という潜在的カリキュラムを教えていることが明らかになった。
著者
勝田 茂 鰺坂 隆一 大森 一伸 奥本 正 久野 譜也
出版者
東亜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、1999年に1回目の測定を行った超高齢エリートアスリートに対し、2001、2002及び2003年と測定を継続し、身体活動能力はどこまで維持できるかを検証することを目的として実施した。被験者は全国各種マスターズ大会や世界ベテランズ大会等で活躍している80歳以上(一部女性は70代を含む)の超高齢エリートアスリート33名(男性18名、女性15名)及びコントロール31名(男性9名、女性22名)、合計64名であった。測定項目は全身持久力、等速性下肢筋力、筋横断面積、骨密度、文部省新体力テストおよびライフスタイルに関する調査であった。その結果、この5年間で、文部省新体力テスト(高齢者用)においては、男性は筋力・柔軟性敏捷性は10%以内の低下率であったが、歩行能力は-20%以上、バランス能(開眼片足立ち)は-50%以上と最も高い低下率を示した。女性も同様の傾向であったが、低下率は男惟よりも小さく体力がよく保たれていた。等速性筋力では、男女とも高速(180deg/sec)における膝関節屈曲筋力の低下が著明で、これは筋横断面積において大腿四頭筋よりも屈筋であるハムストリングの低下率が大きいことと符合していた。VO2maxは20-25ml/kg/minで、5年間で約-20%を示し,男女とも同様の傾向を示した。骨密度の減少は数%に止まった。また、調査から多くのシニアエリートアスリートは、80歳代でも週2-3回、1回1-2時間の練習またはトレーニングを行い、年間数回の国内・国際大会に出場し、常に積極的に前向きに生きている様子が伺えた。これらの被験者の中には50歳代・60歳代になってからスポーツを始めた者も多く、高齢化社会にあって「スポーツも生きがいに足るものである」こと示す、よい参考例になるものであると考えらる。
著者
長ヶ原 誠 山口 泰雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、これまで国内外で展開されている自治体レベルの生涯スポーツキャンペーンの事例を集約・評価すると共に、これらの情報を元に筆者らが自治体においてスポーツ潜在層を対象としたキャンペーン事業を直接支援するアクションリサーチを展開し、その効果を実証的立場から縦断的に評価しながら、今後の生涯スポーツ振興キャンペーンの計画化・実践・および評価法についての具体的な提案とモデルを構築することにある。分析の枠組として、キャンペーン後のスポーツ実施頻度に影響する要因を前提・実現・強化要因の分類に基づき,縦断的手法を用いて明らかにした。長ヶ原ら(2002)が行った「健康日本21地方計画における身体活動目標を達成するための条件指標と測定尺度の開発に関する研究」において使用された条件指標ならびに測定尺度をベースラインデータとし、キャンペーンを実施期間中の2004年に、初回調査(2002年)において同意を得た1,239名に対し郵送法による同じ内容の質問紙調査を実施した。2004年時のスポーツ実施頻度を従属変数として、まず2002年時点の年齢、健康状態、スポーツ実施頻度をコントロール変数として投入し、第2段階で同じく2002年時点の前提・実現・強化要因それぞれを投入する階層的重回帰分析を行った。その結果、実現要因の「スポーツ実施の資源認知(β=.125)」ならびに強化要因の「便益効果認知(β=.132)」に上昇率ならびに影響度の有意性が確認された。したがって、スポーツ参加の欲求を実現する機会や資源、場所等の環境的要因および運動・スポーツに関する好ましい身体的・心理的効果を認知させることに着目した運動・スポーツプロモーション戦略が、将来的なスポーツ実施頻度に影響を与えることが示唆され、これらの要因に着目した成人を対象とするスポーツ振興キャンペーンの妥当性が実証された。
著者
金坂 清則 山田 誠 新谷 英治 勝田 茂 坂本 勉 天野 太郎 小方 登 秋山 元秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、19世紀の世界をリードした西欧の中でもとりわけ重要だった大英帝国の人々が行った旅や探険とその記録としての旅行記について、アジアに関するものに絞り、歴史地理学的観点を主軸に据えつつ、歴史学者や言語学者の参画も得て多面的に研究し、そのことを通して、未開拓のこの分野の研究の新たな地平を切り開く一歩にした。また、その成果を地理学のみならず歴史学や文学の世界にも提示して学問分野の枠組みを越えることの有効性を具体的に提示し、かつそれを一般社会にも還元することを試みた。このため、I英国人旅行家の旅と旅行記に関する研究、II英国人の旅と旅行記に関するフィールドワーク的研究、III旅のルートの地図・衛星画像上での復原、IV19世紀のアジアを描く英国人の旅行記文献目録編纂という枠組みで研究を進めた。Iでは、このような研究の出発点となるテキストの翻訳に力点を置く研究と、それ以外の理論的研究に分け、前者については最も重要かつ代表的な作品と目されるJourneys in Persia and Kurdistanについてそれを行い、後者については、最重要人物であるイザベラ・バードやその他の人々の日本・ペルシャ・チベット・シベリアへの旅と旅行記を対象に研究した。IIについては、イザベラ・バードの第IV期の作品であるJourneys in Persia and Kurdistanと、第V期の作品であるKorea & Her NeighboursおよびThe Yangtze Valley and Beyondを対象とし、このような研究が不可欠であり、旅行記の新しい読み方になることを明示した。またツイン・タイム・トラベル(Twin Time Travel)という新しい旅の形の重要性を提示し、社会的関心を惹起した。IIIでは縮尺10万分の1という従来例のない精度でバードの揚子江流域の旅のルートを復原すると共に、この種の研究に衛星画像の分析を生かすことができる可能性を西アジアについて示した。また今後の研究に必須の財産となる目録を編纂した(IV)。
著者
高木 竜輔
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は先行研究に基づき滋賀県と徳島県の事例についてヒアリングとサーベイによる分析を実施した。新幹線新駅建設反対を訴えた嘉田氏が2006年7月に滋賀県知事に当選した。知事選挙の分析では、有権者の投票行動で9割の有権者が新駅建設に反対しており、嘉田氏への投票に影響を及ぼしていた。しかしそれだけでなく、官僚支配への忌避観もまた影響を及ぼしていた。徳島や長野も含めて、官僚支配への嫌悪を規定要因として公共事業などのきっかけ要因が地方政治の転換をもたらしている。徳島も可動堰建設問題を契機として2002年に住民投票派の大田知事が誕生したが、大田県政は11ヶ月しかもたなかった。なぜなのか。その一つは、底辺民主主義を実行する手段が住民投票から知事選挙へ変わったことにより、そのことを徹底して問うことが困難になったことである。すなわち運動と知事が乖離し、知事を通じて運動の要求を議会において実行することの難しさが生じた(多数派の野党、知事と議会の関係に運動が介入しづらい、など)。さらに、可動堰建設反対運動の支持者におけるNPC(ニュー・ポリティカル・カルチャー)的特性、すなわち文化的にはリベラルだが財政的には保守的な性格が(だからこそ無駄な公共事業に反対する)11ヶ月の間に可動堰問題を決着できなかった大田知事への不満として現れ、2003年の出直し選挙において支持者の間に亀裂を生み出し、また政治の停滞を訴え改革派知事として経営感覚を打ち出す官僚出身の対立候補への共感を生み出してしまうという構図も現れた。公共事業をきっかけに市民運動が知事選で勝利する滋賀や2002年の徳島、2003年の徳島のように改革派知事の事例において、そこで問われているのは55年体制における自民党システム(樺島,2004)への反発であり、どちらにおいても何らかの手段で(無駄な事業の中止や効率的実施)行政領域の縮小を訴えることで勝利を収めていることがみてとれるのである。
著者
久保田 滋 伊藤 美登里 樋口 直人 矢部 拓也 松谷 満 成 元哲
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究期間全体を通じて、申請書に記載した知事選や総選挙に関するサーベイ調査に加えて聞き取り調査も実施し、以下のようなデータが得られた。(1)投票行動に関するデータ。徳島、高知(2004年)、東京(2005年)、長野・滋賀(2006年)、東京(2007年)。(2)政治に関わる行為者に対する聞き取り。徳島(150件)、滋賀(40件)、高知・長野(各10件)。こうしたデータの解析のうち、徳島調査については成果を刊行し、他の都県については予備的な分析を発表し本格的な解析に着手するところである。そうした段階で当初の仮説の当否とその後の発展は、以下のとおりである。(1)政治的亀裂構造の再編に伴い、テクノクラシー-底辺民主主義-ポピュリズムという3つの供給様式が生じるという仮説は、調査地以外の宮崎・大阪といった事例をみても妥当かつ有効であることが検証された。(2)新たな政治的亀裂として院内-院外があるという見通しを得られたため、それを徳島の事例で検証したところ有効であることが確認できた。すなわち、院内=保革問わずすべての既成勢力は、既得権益に関わる争点が生じたときに対応できず、院外=既成勢力とは関係の薄い一般有権者の代弁者(住民運動や知事個人など)が現れたときに対抗しえない。(3)(2)の結果として、議会=政党を迂回した政治的意思決定がなされる「中抜きの構造」がもたらされる。(1)で述べた3つの新たな供給様式は中抜きの構造に親和的であるが、テクノクラシーが地方自治の脱政治化を目的とするのに対し、底辺民主主義とポピュリズムは再政治家をもたらす。このうち底辺民主主義は強い正統性を持つが、決定単位を分散化することで決定コストの上昇をもたらす点で、より効率の良いテクノクラシーに敗北することが、徳島調査の結論となる。
著者
伊藤 景一 渡辺 弘美
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(研究1)在宅ケアの質の測定はアウトカム評価に焦点が当てられているが、神経疾患を持つ在宅ケア患者へのケアの効果評価には、長期間のアウトカム指標を開発する必要がある。そこでケアの効果評価に活用する指標を開発し各種妥当性を検証した。指標開発のための追跡調査を2回実施。べースライン:5年間に大学病院神経内科を退院した463名(指標開発の対象者)。初回調査年から2年後フォローアップ:201名(妥当性検証)。開発手順は日常生活行動を遂行する困難度を基に5因子構造の指標項目を構成。構造方程式モデリング(SEM)と一般線形モデルから構成概念及び予測妥当性を検証した。臨床的関連性から指標の利用可能性評価。指標は25項目から成る5指標で構成。SEMから各指標の上位に総合的アウトカム指標を仮定した二次因子モデルのパス係数、適合度指標ともに受入基準を満たした。各指標は、疾病障害対処困難・不安指標、家族介護負担・Strain指標、運動機能不全指標、身体症状発現指標、地域医療・ソーシャルネットワーク利用阻害指標、と解釈。指標が2年後のHRQOLに及ぼす影響を、多重指標モデルで検証。5指標全てが有意に2年後のHRQOLに影響を与えていたが、第1指標と第3指標からのパス係数の値が大きかった。2年間における指標の改善の有無がHRQOLに与える影響をみると、各指標が影響を及ぼしている側面は異なっていた。身体機能と役割機能のドメインの改善群と非改善群間の差が大きかった。指標の改善率は26-40%、安定率は54-70%。第1と第3指標は在宅療養におけるHRQOLの多くの側面に関与することが示され、指標によるアセスメント結果を基に、在宅ケア患者の心理社会的問題の抽出とサービスの改善や新システムの構築に寄与できると考えられた。(研究2)追跡期間中の症状と機能レベルの変化が健康関連QOLに及ぼす影響をSEMによるパスモデルで解析し、先行研究の仮説を検証するべく各種臨床変数とHRQOLのリンケージを試みた。この結果は、Diseases→Symptoms→Change in physical disabilities→General health perception→HRQOLの順序で影響が及ぼされる階層的なパスモデル構造を見出した。
著者
吉村 安郎 松田 秀司 KINGETSU Akira 金月 章
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

実験手技が担当確立したとはいっても、処置中には出血死のマウスもある程度あった。合計49匹の成熟雄ICR mouse(下顎頭切除15匹、下顎頭切除後に耳介軟骨移植31匹、顎関節部を開放しもとにもどしたもの3匹)を処置後136日から187日まで飼育し屠殺した。その後両側の顎関節部を取りだし、通法通り組織標本を作製し、組織学的検索、免疫組織化学的検索とした。咬合状態をみると明らかに咬合異常を生じた症例は5例あり、4匹は死亡時に確認したものである。毎日マウスを観察していないため、咬合異常を生じた症例数はさらに数は多いのではないかと推測する。本年度は少なくとも下顎頭の欠損(すなわち咬合高径の減少)は明らかに咬合異常を起しうることを明確に示した。H-E染色による組織学的検査では、下顎頭切除例では、一般の骨折端とほぼ同様に治癒する。耳介軟骨移植例では、下顎運動のため移植軟骨は外側方に移動し、下顎頭欠損部に一致して存在していないことが多い。移植軟骨は耳介軟骨の性質を保有していた。免疫染色ではTransforming growth factor-βは顎関節関節腔表層細胞は下顎頭、下顎関節窩ともに陽性で、下層の軟骨は一般的に陰性である。移植耳介軟骨細胞も陽性細胞はわずかで、一般的に陰性である。fibroblast growth factor-2は下顎頭、下顎関節窩いづれも関節腔に近い間葉細胞、より下層の軟骨細胞も陽性であるが、表層に近い細胞群に活性は強い。移植軟骨は陽性のものと陰性のものが混在した。bone morphogenetic proteinは顎関節の関節腔の間葉細胞、軟骨細胞いづれにも陰性であり、移植軟骨は同様に陰性であった。Laminin染色においては、関節腔側にある細胞群も、それより下層の軟骨細胞ともに陰性反応を示した。移植軟骨細胞は一般的には陰性である。