著者
呉 艶
出版者
同志社大学国文学会
雑誌
同志社国文学 (ISSN:03898717)
巻号頁・発行日
no.75, pp.14-26, 2011-12

異類婚姻譚は古く、どの時代にも、諸民族の間に存在するものであり、日本と中国の同類のものは、時代的にも、距離的にも、互いに遠く隔たっているとは言え、一致するところが多く見られる。本稿は六朝小説などの中国の古典文学における異類婚の事例を取り上げ、日本のそれと比較しながら、その接点をめぐって考察を進め、更に、社会形態と宗教思想からの影響を考えながら、異類婚姻譚に表出する性差意識を検証するものである。
著者
末吉 孝一郎 吉岡 伴樹 船越 拓 鈴木 義彦 藤芳 直彦 森本 文雄 渋谷 正徳
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.434-439, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

患者は60歳の女性。運動会で突然の心肺停止状態となり,bystander CPRが施行された。電気的除細動で心拍再開し当院へ救急搬送となった。冠動脈造影(coronary angiography; CAG)にて急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)と診断し経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention; PCI)を施行した。集中治療室(intensive care unit; ICU)へ入室し抗凝固療法が施行されたが,カテコラミン投与下にても循環動態は安定せず,貧血の進行と肝逸脱酵素の上昇を認めた。第2病日に施行した腹部造影CTでは肝右葉に被膜下血腫と実質損傷を認め,肝左葉実質の損傷も認めたためこれが出血源と考えられた。被膜下血腫により圧排された肝右葉は均一に造影されず,肝実質組織内圧上昇による血流障害を認め,肝コンパートメント症候群であると診断した。まず抗凝固療法を中止し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)及び濃厚血小板液(platelet concentrate; PC)投与による凝固能改善を図り,人赤血球濃厚液(red cells MAP; MAP)投与を行ったが循環動態の改善を認めなかったため,腹部血管造影を施行した。腹部血管造影では動脈相での明らかな造影剤の血管外漏出(extravasation)は認めなかったが,肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)を行うことで循環動態は安定した。以後,全身状態は改善したが,血腫の縮小を促進させるために穿刺ドレナージを行い,第73病日に独歩退院となった。肝コンパートメント症候群の報告例は極めて稀であり,肝虚血に対しては減圧による虚血の解除が必要であると報告されている。しかしながら本症例ではTAEにて保存的に治癒せしめることができた。
著者
栗原 龍之典 諸岡 遼 濵中 咲希 田中 久弥 馬原 孝彦 都河 明人 羽生 春夫
出版者
ヒューマンインタフェース学会
雑誌
ヒューマンインタフェース学会論文誌 (ISSN:13447262)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.21-30, 2019-02-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

We have studied the screening tool for dementia patients using a P300-based spelling-BCI to develop a new cognitive function evaluation method. We quantified a low attention with dementia using the average distance from the incorrect characters to the correct characters on the Japanese alphabet screen. We called the character distance to Spelling-Error Distance Value (SEDV). We conducted experiments for 24 elderly subjects, and performed regression analysis between SEDV and neuropsychological testing (MMSE, FAB, TMT and DST). As the results, there was a significant negative correlation between MMSE and SEDV (r = −0.41, p < 0.05), and there was a significant negative correlation between FAB and SEDV (r = −0.65, p < 0.001). Next, 24 subjects divided into five groups according to the MMSE scores. There was a difference of SEDV 2.58 characters between MMSE average of 10.5 point group and MMSE average score of 27.6 point group, 2.89 characters between the 10.5 point group and the 24.9 point group. Therefore, SEDV could be an index of the low attention with dementia in the limited MMSE average group. In addition, because of significant negative correlation between FAB and SEDV in less than 24 point of MMSE (r = −0.95, p < 0.05), SEDV could be an index of frontal lobe function deterioration limitedly.
著者
中村 良介 山本 聡 松永 恒雄 小川 佳子 横田 康宏 石原 吉明 廣井 孝弘
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-24, 2014-03-25 (Released:2017-08-25)

我々は月探査機「かぐや」に搭載されたスペクトルプロファイラ(SP)データの全量解析を行い,月表面に露出しているカンラン石・低カルシウム輝石に富む岩相の全球分布を調べた.その結果,(1)カンラン石はモスクワの海・危難の海といった地殻が薄く比較的小さい衝突盆地周辺に(2)低カルシウム輝石は月の三大衝突盆地,すなわち南極=エイトケン盆地・雨の海・プロセラルム盆地の周囲に,それぞれ局在することが明らかとなった.表層の斜長岩地殻が完全に吹き飛ばされた衝突盆地の内部では,その下にあるマントルが大規模に溶融して「マグマの海」が形成される.原始地球への巨大衝突によって形成された月は,当初数百km以上の厚さのマグマオーシャン(マグマの大洋)によって覆われていた.「マグマの海」は,このマグマオーシャンのミニチュアであり,SPが捉えたカンラン石・低カルシウム輝石の分布は,その分別結晶化過程を反映していると考えられる.今後「かぐや」分光データの詳細な解析をすすめ,「マグマの海」の組成およびその分化過程を読み解いていけば,同じ手法を用いてマグマオーシャンの分化過程や月の内部構造・バルク組成にも強い制約を加えることができるだろう.同様に月の「マグマの海」の研究は,ほぼ同規模の小惑星ベスタ上のマグマオーシャンや,月よりもさらに規模の大きい地球のマグマオーシャンの分化過程についても,新たな知見をもたらすことが期待される.
著者
早瀬 吉雄
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.943-948,a1, 1994-10-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
10

水田域は, 自然の水循環を通じて洪水調節などの国土保全機能を果たしている。ここでは, 水田域の洪水防止機能の評価は, 耕作放棄など農業によって, 治水計画上の保留量が変化して計画洪水流量に及ぼす影響の検討と考え, 分布型流出モデルを用いて棚田域や中山間地水田域で耕作放棄した場合の試算を行い, 洪水防止・軽減機能の評価を検討した。機械排水している低平地水田域では,“自然に溜まる” 氾濫湛水量で評価され, ダムの洪水調節容量に相当する流域のある例を示した。さらに, 中山間地・農村域での洪水防止機能向上事業を土地改良事業と連携して推進することによって流域の水害発生の危険度の低下が図れることを提案した。
著者
宮岡 佳子 秋元 世志枝 上田 嘉代子 加茂 登志子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.194-201, 2009-10-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
4

近年,月経前不快気分障害(PMDD)が,精神科医,婦人科医双方で注目されている.PMDDは,PMSのある種の重症型であり,うつ病に類似した症状を持っている.著者らは,DSM-IVの診断基準を基に,Steinerら(2003)の尺度を参考にしてPMDD評価尺度を開発し,その妥当性と信頼性を検討した.20から45歳までの327名の女性に尺度を実施した.因子分析では,3因子が抽出され,「疲れ・身体症状」「抑うつ気分」「対人関係・怒り」と名付けた.PMDD評価尺度の各因子と項目全体のCronbach'sα係数から,高い内的整合性が得られた.黄体期後期つまり月経前にある女性を抽出し,その群で,PMDD評価尺度と自己記入式抑うつ尺度の相関に有意な相関がみられた.よって,この尺度は妥当性と信頼性があることが示された.PMDDの発症頻度は5.9%であった.以上の結果から,PMDD評価尺度は,PMDDをスクリーニングするために有効な尺度であることが示唆された.
著者
長崎 敏也
出版者
応用森林学会
雑誌
森林応用研究 (ISSN:13429493)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-38, 1999

近年,南方熊楠が,明治政府による「神社合祀」に反対し,神社と神社林を守る運動を行ったことが,環境保護運動の先駆として,最近の環境問題に対する関心の高まりとともに注目されるようになっている。現在のところ,南方熊楠は,明治時代に既に「エコロジー」という言葉を用いたことから,自然と人間の生活をつながりあるものとしてとらえる,現代の環境保護に関する思想に相当する思想を持ち,神社合祀反対運動はその視点に立って行われたもめであるとする見方が有力である。しかし,南方熊楠が神社合祀反対運動に際して用いた論理は,「神社」が廃社となることによって,地域社会の習慣や伝統が崩壊し,「神社林」を伐採することによって貴重な生物が滅ぶというものであり,「神社」と「神社林」は分離されている。自然と人間の生活との関係については,既に主張され,あるいは知られていたことを利用しているに過ぎず,「エコロジー」という言葉も,当時外国で既に誕生していた「生態学」を意味する程度である。
著者
村松 慶一 松居 辰則
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18828930)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.819-828, 2009-02-28 (Released:2016-01-25)
参考文献数
17

This study is to constitute a framework for understanding aesthetic sensibility by introducing a mental model called the content space which is defined as a set of all possible contents of consciousness. An aesthetic sensation is a conscious process, thus it belongs to the content space. On the other hand, all mental process must be realized by neural activities which were initially evolved in human ancestors. Because aesthetic sensation is a content of consciousness appeared only in human, it is highly probable that its origin can be explained by a correlating process of biological evolution and cultural development. As the bridge between mental and physiological processes, the emotion and mood relating aesthetic sensation are also considered in the proposed model.
著者
宇留野 隆 正木 千恵 渋谷 洋 北川 亘 長濱 充二 杉野 公則 伊藤 公一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.9-13, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
5

最初に,永続性副甲状腺機能低下症を回避するために必要な,術翌日の血中i-PTH(Day1-PTH:非移植副甲状腺機能)と移植腺数を検討した。Day1-PTH≧10pg/mlでは,永続性機能低下は0.6%(3/493)と低かった。Day1-PTH<10pg/mlでも,2腺以上移植した症例は,9.2%(22/239)に抑えられた。次に,術中i-PTH値(全摘後5分値:PTT-PTH)と,Day1-PTHの相関を調べた。PTT-PTH≧15pg/mlは,Day1-PTH≧10pg/mlに対して,感度80.15%,特異度82.91%,PPV 76.22%,NPV 85.94%であった。計算上,PTT-PTH<15pg/mlの時,移植腺なしでは,36.1%の確率で永続性機能低下となりえる。2腺以上の移植を行うと8.3%となり,絶対危険減少27.8%,相対危険減少77.0%が期待される。
著者
石黒 直子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.415-423, 2001-07-01
参考文献数
30

長野県中部に位置する諏訪湖で起こる御神渡りは宗教的に重要な現象であったため,その記録は550年以上にわたりほぼ途切れることなく継続する.そしてこの記録は冬季の気候復元のための貴重なデータとして注目されてきた.本研究では,この記録を使用するのに際し,重要な問題となるデータの均質性にっいて,・データソースの歴史的変遷の観点から検討を行った.その結果,諏訪大社管轄の記録の中でも,データソースの変化に伴い内容に相違がみられた.とくに,15~17世紀にかけての御神渡りの観測基準が現在と異なり,氷の割れる音を聞いて観測していた可能性が示唆された.さらに近年の気象観測データに基づいた解析から,諏訪大社と諏訪測候所による結氷日の観測基準が異なることに由来する,両者の結氷日の質的な違いを明らかにした.これらの違いに留意してこのデータを使用することによってより精度の高い気候復元が可能になるであろう.