著者
山本 仁志 諏訪 博彦 岡田 勇 鳥海 不二夫 和泉 潔 橋本 康弘
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:13440896)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-43, 2011-09

本研究の目的は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトにおけるコミュニケーション構造の推移に着目し,SNSのライフサイクルにある種の法則性を見出すことである。我々は,SNSにおけるコミュニケーションのされ方の移り変わりに着目し,コミュニケーション関係は固定的に維持されるのか,推移していくのか,コミュニケーション関係はフレンドネットワークと近いのか,無関係なのかといったコミュニケーションの性質を表す因子を抽出している。これらの指標から,コミュニケーション構造の推移を明らかにし,その推移をライフサイクルとみなしSNSを分類している。分類したSNSのネットワーク構造や活性化の度合いを比較し,さらに特徴を分析している。その結果,現実の人間関係がベースとなるSNSは規模が小さく密なコミュニケーションがなされていることを確認している。また,ファンサイトのような対象物を中心としたSNSは,初期に開拓的であるものがより活性化することを確認している。
著者
鈴木 裕一 鈴木 薪雄 寺嶋 一彦
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
「運動と振動の制御」シンポジウム講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2001, pp.452-455, 2001

This paper is concerned with a human interface between a human operator for decision-making of obstacle avoidance and a crane transferring an object. A semi-automatic control system is proposed in terms of a diffusion equation strategy in order to check and revise the reference trajectory directed by human operator for obstacle avoidance. Moreover, this system includes an optimal servo controller to suppress the sway of the transfer object and to control the cart velocity. The usefulness of the proposed method is demonstrated through experimental studies.
著者
中島 省吾
出版者
日経BP社
雑誌
日経Windowsプロ (ISSN:13468308)
巻号頁・発行日
no.105, pp.102-107, 2005-12

Windows XPではMS-DOSのアプリケーションが動く。MS-DOSはリアル・モードで動作するOSなのに,なぜそのアプリケーションがプロテクト・モードのWindowsで動くのだろうか。しかも,MS-DOSは16ビット・プログラムである。どうして32ビット・プログラムと共存して動いているのであろうか。
著者
二村 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.91, 2009

<b>I.はじめに</b><br> 戦後日本の地理学がアメリカ合衆国の地理学界(以下「アメリカ地理学」と略)の影響を受けて発展してきたことは論をまたない。第二次大戦後のアメリカ地理学がどのように発展したかについては、キーパーソンの活躍と関連させて検討した杉浦(2001)や、地域研究の視点からアメリカ地理学の変遷と将来の可能性を論じた矢ヶ崎(2000)などがある。一方で、近年のアメリカ地理学について全国組織や地域支部の変化から分析したものは少ない。<br> 発表者は2001年から合衆国の大学院地理学科に6年半留学し、文献知識では得られなかったアメリカ地理学の諸相について学ぶ機会を得た。本報告ではこれまでの知見をふまえ、近年のアメリカ地理学で見られる変化について報告する。中でもアメリカ地理学でもっとも重要な組織であるアメリカ地理学会(AAG)の役割に着目し、近年のAAGの活動や問題点とそれに対応する動向について言及する。<br><br><b>II.AAGの全国組織と地域支部</b><br> 1904年に設立されたAAGは2004年に創立100周年を迎え、近年その規模は拡大傾向にある。AAGは現在2つの学術雑誌(<i>Annals of the Association of American Geographers</i>と<i>Professional Geographer</i>)を年4回ずつ刊行しており、前者は英語圏地理学で最も評価の高い雑誌の一つである。また、全国規模のAAG年次大会(以下「AAG大会」と略)が毎年3月か4月に開催され、ここには毎年数千人の参加者が国内外から集まる。大会開催地は毎年全米各地の大都市で持ち回りとなっており、特別講演や委員会会合から一般発表やレセプションまで約5日間に渡る予定が組まれている。<br> また、全国組織であるAAGの下には現在9つの地域支部があり、毎年秋に各支部で各々の地域大会が行われている。地域大会の活況の度合いは地区によって差が大きい。活動が縮小傾向の地区が多い一方で、南東支部は支部大会を60年以上開催している歴史を持つ。後者においては、予算が少なく学部教育が中心である小規模大学の地理学教室の場合、AAG大会より支部大会を重視する傾向がある。<br><br><b>III.AAGの肥大化に対する批判と新たな動き</b><br> 急速なAAGの拡大には批判もあり、中でもAAG大会は肥大化に伴う弊害が指摘されている。大会は通常大都市中心部の大手ホテルで開催されるが、大会参加者の増加とともに口頭発表やパネルセッション数も増え、大会を通して研究発表が施設内に分散する部屋十数室で行われるようになった。そのため、現在の大会では次なる発表を聴講するためにセッションの途中で部屋を退出して別会場へ移動せざるを得ない状況が頻発することが問題視されている(Kurtz and de Leeuw 2008)。McCarthy (2008) はこの現状を鑑みて「もはやAAG大会は機能が収拾のつかない大会となっている」と断言し、出席者の過密なスケジュールを軽減するために、パネル討論・口頭発表・座長などに参加登録できる回数を一人当たり2セッションまで限定することを提案している。<br> 一方、AAG大会に対する不満や、隣接分野との交流の活発化などを背景に、AAGや地域支部とは異なる小規模な地理学研究集会の開催が増えている。この一例として、1994年にオハイオ州立大・シンシナティ大・ケンタッキー大の地理学者が集まって始め現在も続いている「批判地理学小集会」(The Mini-Conference on Critical Geography)が挙げられる(Dept. of Geography, Univ. of Kentucky 2007)。ここではAAG大会のような過密日程を避け、個々の発表に全員が参加し自由に議論することに重きをおいている。社会理論を援用した批判的人文地理学の研究が盛んになるにつれて、活発な議論や人的交流が期待できる同集会は地理学内外の大学院生や若手教官に注目されるようになり、次第に当該地域外からも参加者が集まるようになっている。<br><br><b>IV.おわりに</b><br> 学問の細分化と学際分野交流が進む昨今、AAG大会はアメリカ地理学の研究を先導する学術大会の限界を露呈しはじめている。一方、経済や学問のグローバル化が進む現在、会員数が増加してAAGが肥大化することは不可避な流れともいえる。このような文脈のもと、今後日本の地理学がどのようにアメリカ地理学と関わっていくか積極的に検討し、かつ交流していくことが求められる。<br><br>
出版者
日経BP社
雑誌
日経ア-キテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.735, pp.51-55, 2003-01-06

「『自然の恵みフェア』という食品展が東京ビッグサイトであります。そこで待ち合わせましょう」と場所が指定された。アンビエックスの代表を務める相根さがね昭典氏は,シックハウス対策の専門家として知られる設計者だ。それがなぜ食品展なのか? 記者の疑問は,展示会場に設営されていた日本有機食品認定連絡協議会のブースの前に行くまで解けなかった。
著者
ROUJEAUB JC
雑誌
Arch Dermatol
巻号頁・発行日
vol.132, pp.1499-1502, 1996
被引用文献数
1 7
著者
久岡白 陽花 橋村 一彦 北風 政史 大原 貴裕 中谷 敏 住田 善之 神崎 秀明 金 智隆 中内 祥文 林 孝浩 宮崎 俊一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.772-775, 2009

症例は50歳, 男性. 主訴は呼吸困難. 既往歴として34歳より高血圧あり. 就寝時の息苦しさを主訴に入院. 心エコーで僧帽弁後尖middle scallopの逸脱による僧帽弁閉鎖不全, 心拡大を認め, 左室造影で重症の僧帽弁閉鎖不全と全周性の壁運動低下(左室駆出率30%)を認めた. 僧帽弁置換術の適応と考え精査を施行. 経胸壁心エコー, 経食道心エコーで左房内に隔壁様構造物を認めた. 経胸壁3D心エコーでは, 隔壁様構造物は左肺静脈壁より左房自由壁側に連続するが, 中隔側では欠損し三日月様構造を呈しており, 特徴的な形態より三心房心と診断した. 欠損孔は大きく(3.88cm<sup>2</sup>), 流入障害は認められなかった. 重症僧帽弁閉鎖不全症に対し僧帽弁形成術を施行し, 同時に左房内異常隔壁切除を施行した. 僧帽弁閉鎖不全の術前精査の際に偶然診断された三心房心を経験し, 3Dエコーで観察し得たので報告する.
著者
杉村 龍也 吉村 公博 井木 徹 松村 弥和 蟹江 史明 今川 智香子 梶原 佳代子 龍樹 利加子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79, 2006

<b><緒言></b>医療法の改正や診療報酬の改定、社会福祉基礎構造改革で介護保険法を主とした社会保障領域における福祉制度の改正や新設などにより、患者を取り巻く医療供給体制がここ数年目まぐるしく変化してきている。急性期病床の加茂病院においても、退院や転院に関する援助件数が、年々飛躍的に増加している。そこで、医療供給体制の変化と当地域医療保健福祉連携室における相談実績の統計資料とを比較検討し、豊田市(人口40万)における今後の地域医療のあり方を考察する。<BR>〈<b><方法></b>〉平成7年度から平成17年度の加茂病院の地域医療保健福祉連携室の相談実績の統計や豊田市周辺の医療・介護提供施設の状況と、第2次医療法改正から現在までの医療供給体制の推移を比較検討する。<BR><b><結果></b>加茂病院の地域医療保健福祉連携室における対応件数は開設当時から現在に至るまで年々増加の一途をたどってきている。その内訳を見ると、全体的に増加傾向であるが、中でも退院・転院に関する相談は顕著である。平成7年当時と比べると、退院・転院相談の実件数は平成12年で2倍強、平成16年では4倍強となっている。<BR> 転院の例として平成9年当時の医療・介護提供施設を見てみると、転院先として挙げられるのは老人病院と長期療養型病床群、老人保健施設しかなく、特に豊田市では、平成9年当時は長期療養型病床群が無く、老人病院も市内には一ヶ所のみであり、周辺市町村への転院が殆どであった。そのため、施設待機の1ヵ月から2ヶ月を加茂病院での入院継続を余儀なくするケースも多かった。<BR> しかし、現在の医療・介護提供施設を見ると、施設がそれぞれ専門分化してきている。急性期病院では、急性期加算をとるための平均在院日数を意識しながらの退院指示や、受入れ施設に併せた形での退院指示が増えている。回復期リハビリテーション病棟では、入院日数や入院までの日数に制限が設定されるようになり、早期での転院を求められるようになった。以前のように施設待機を急性期病院で過ごすことが難しくなり、早期での退院指示に不安を抱える患者・家族が多くなったのである。つまり、単独の医療機関では、治療から療養・介護までの一連の医療の提供ができないのである。<BR> この現状は、国の医療費抑制政策が大きな要因となっている。特に平成12年の介護保険法施行や平成14年の急性期入院加算の設置などは、専門特化しないと病院が生き残っていけない現状を作り出したと言える。それ以上に影響を被ったのは患者・家族である。社会構造や家族形態の変化による家庭介護力不足が深刻な中で、医療依存度が高い患者でも退院指示が出されるようになり、高額な施設への転院や、充分な準備の無い中での退院を迫られる状況となった。以上のことが退院相談増加に繋がっていると言える。<BR> 結論として、今後の地域医療では、単独の医療機関だけで充分な医療の提供はできない。そのため、患者・家族に不安の無い充分な医療を提供するには、医療費抑制政策の中で専門分化した複数の医療機関が、相互の特性を活かした密接な連携を図り、地域の中で一つの大きな医療機関として機能する必要があると考える。
著者
永江 敏規 鈴木 直雄
出版者
日本蠶絲學會
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.40-45, 1982 (Released:2011-12-19)
著者
田島 健次
出版者
THE SOCIRETY OF RUBBER SCIENCE AND TECHNOLOGYY, JAPAN
雑誌
日本ゴム協会誌 (ISSN:0029022X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.12, pp.406-411, 2012 (Released:2013-08-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1

Cellulose is the most abundant biopolymer in nature and is utilized in a wide variety of industries. Although plants produce the most cellulose, some animals and bacteria also produce cellulose. Acetobacter (=Gluconacetobacter), which is a Gram-negative bacterium, produces cellulose called bacterial cellulose (BC) from glucose on the surface of a culture medium. Even in plants, there is little knowledge concerning the mechanisms of cellulose biosynthesis. Due to its ease of handling, Acetobacter xylinum (A. xylinum) has been studied as a model organism of cellulose production. BC has exceptional physicochemical properties, such as ultrafine reticulated structure, high crystallinity, high tensile strength, high hydrophilicity, moldability during formation, and biocompatibility, although its chemical structure is the same as those of the cellulose produced by plants and algae. These remarkable characteristics are of interest for the development and manufacture of a wide range of materials, such as food matrices, dietary fiber, acoustic membranes, special biomaterials. In this article, I introduce cellulose synthesis by bacteria (features and applications) and the synthetic mechanism of BC.
著者
篠田 雅人 高木 良成 玉置 文一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.306-314, 1966

Anti-saliva Parotin-A serum was obtained after the administration of saliva Parotin-A (SPA) to intact rabbits in the following doses : 10 &mu;g./kg. for 10 days, 100 &mu;g./kg. on the 11th day, 1 mg. on the 42nd day, and 2 mg. on the 54th day. By the technique of Ouchterlony, the antiserum obtained showed a precipitin band against SPA, but was not reactive to Parotin, S-Parotin, &alpha;-Uroparotin, &beta;-Uroparotin, lyophylized saliva, etc., showing immunological specificity of the antiserum. The quantitative precipitin tests indicated that 1 ml. of the antiserum corresponded to 300 &mu;g. of SPA. Administration of SPA mixed with the antiserum was found to be as effective as SPA alone upon the circulating leucocytes, while the antiserum itself showed no significant influence upon them. After mixing SPA with the antiserum in a ratio which ensured complete precipitation of SPA, the precipitate as well as the supernatant showed leucocyte-promoting activitiy. Besides this activity, the precipitate reduced the circulating lymphocytes, while the supernatant increased the granulocytes more markedly. These results suggest that the SPA used in this study contained at least two components ; one was precipitated by the antiserum and, after precipitation, still retained its leucocyte-promoting activity and the other was not precipitated. It was also found that the antigenic center of SPA would be different from the leucocyte-promoting activity in the molecules.
著者
岡崎 好秀 東 知宏 田中 浩二 石黒 延技 大田原 香織 久米 美佳 宮城 淳 大町 耕市 松村 誠士 下野 勉
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.310-318, 1998-07-30
被引用文献数
11

カリオスタットと齲蝕の関係について数多くの報告があるが,歯周疾患との関係については少ない。学童期における歯肉炎の多くは,不潔性歯肉炎であり,齲蝕と同様プラークが原因である。そこで中学生437名を対象に,齲蝕活動性試験カリオスタット^[○!R]および唾液潜血テストサリバスター潜血用^[○!R]を行い,齲蝕歯数(D歯数)・歯肉炎との関係について調査した。1)カリオスタット24時間判定結果(24H)においては,D歯数・歯肉炎と高度の相関関係が認められた(p<0.001)。また,歯肉炎の程度より3つに群分けし,カリオスタット(24H)との関係をみたところ,有意な分布の差が認められた(χ^2検定p<0.001)。2)カリオスタット48時間判定結果(48H)においては,D歯数・歯肉炎との間に相関関係が認められた(p<0.05p<0.001)。しかし歯肉炎の群分けにおいては,カリオスタット(48H)に有意な分布の差が認められなかった。3)サリバスターはD歯数と有意な関係は認めなかった。しかし歯肉炎とは相関関係が認められた(p<0.05)。歯肉炎の群分けにおいては,サリバスターには,有意な分布の差が認められなかった。4)カリオスタット(24H)とサリバスターの間には,有意な関係が認められなかった。5)カリオスタット(24H)を用い, 1.0以上を基準として歯肉炎をスクリーニングし敏感度・特異度を算出すると,それぞれ0.34,0.83となった。サリバスターで+以上をスクリーニング基準とすると0.55,0.55であった。歯垢を試料とするカリオスタットは,口腔衛生状態を反映し,齲蝕だけでなく,歯肉炎とも関係が深いことが考えられた。
著者
堀尾 尚志 居垣 千尋 佐々木 圭一 牧 大助
出版者
神戸大学農学部
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.117-122, 1982

Among the steering modes of farm tractor, the crab-steering has hardly been taken up in production and also in research. That mode of steering may be unapplicable to manual operating that has made familiar with normal mode of steering for long time, but because the vehicle with that mode can always hold its body in a certine direction, that type has a profitable property for the automatic guidance in field operation, and positional relation of sensor and implement is one-dimensional problem and attaching point of sensor to body is unrestricted. This type vehicle can not turn, but travelling of field operation necessitates no turning in many kinds of operations except at head land. At head land, it may be solved to change steering mode. The authors aspect to the property of crab-steering and aimed to develop the automatic guidance system with this steering mode. In this paper, the stability of relay-control system of automatic guidance was considered with describing-function method, and the results of tracking tests with trial vehicle were discussed and considered by means of time varying Fourier coefficients of tracking pass.
著者
初谷 譲次
出版者
天理大学
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.129-141, 2015-02

カスタ戦争(メキシコ史上最大規模の先住民反乱:1847~1901年)の末裔であるクルソーマヤは,メキシコ・キンタナロー州において,軍事的色彩は喪失しているとはいえ,今なお,反乱過程で再編成した強固なエスニック・コミュニティを形成している。十字架信仰と教会護衛制度を軸とするマヤ教会コミュニティは植民地支配によって押し付けられたカトリックの祈りを自らの文化資本として再領土化している。他方で,メキシコ国家は,1910年の革命以降一貫してきた「統合主義」的先住民政策を,サリナス政権(1988~94年)期における新自由主義路線への方向転換を契機として「多文化主義」へとシフトしてきている。本稿は,マヤ教会コミュニティが国家によるマヤ先住民の包摂を促進する受け皿となっていることを肯定的に捉えようとするものである。
著者
初谷 譲次
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-30, 2010-10

本稿は3年計画の科研プロジェクト「日常的実践におけるマヤ言説の再領土化に関する研究」の最終年度に実施したフィールド調査の報告書であり,前2作の完結編となる。したがって,前2作で積み残していた2つの課題を中心に取り組んだ。ひとつは,トゥルム村の外部世界との接触の歴史である。そしてもうひとつはマヤ教会で日常的に実践されているミサと呼ばれる祈りのマヤ語部分の翻訳・分析である。かつてサマと呼ばれたトゥルム村はスペイン植民地支配(エンコミエンダ制度)に組み込まれ過疎化・消滅してしまう。しかし,19世紀に勃発したカスタ戦争を契機にトゥルム村は反乱拠点として復活する。そして,20世紀には遺跡の考古学的調査ブームとメキシコ国家統合によって村は条理空間にのみこまれていく。このような過酷な運命に翻弄されながらも,押し付けられたカトリックの祈りをブリコラージュによる摸倣と継承を繰り返しながら,自らの日常的実践の資産として再領土化してきた。かれらの日常的実践は,かたくなに伝統を守りながらマヤ文化の復興をはかるという本質主義的語りのなかに回収されてしまいがちである。しかし,彼らの祈りのなかには,いわゆる「マヤ的要素」は見あたらない。今回分析したマヤ語の祈りにも,カトリックを逸脱するような要素は見られなかった。マヤの人びとがときには経験知をときには科学的リテラシーを使い分けて,秩序ある条理空間と顔の見えるローカルな日常的平滑空間の両方を生きているとすれば,まごうことのない近代的自我を確立して合理的な科学的リテラシーのみを駆使して生きていると錯覚しているわれわれのやっていることとさほど変わらないのかもしれない。