著者
松澤 哲宏 堀江 義一 矢口 貴志 坂本 裕美子 吹春 俊光
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.jjom.H22-05, 2011-05-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
10

千葉県船橋市の農場の温室で栽培中のシクラメンの鉢の土壌表面に多数の白色の菌核が発生した.同時に菌核の発生した鉢からまれに小型の黄色のキノコが発生した.この菌核から純粋分離した菌株,培地上で形成された菌核,鉢から発生した黄色のキノコ,保存されていたコガネキヌカラカサタケの標本から DNA を抽出し,ITS,D1/D2 領域の塩基配列を用いて分析した結果,鉢から発生した菌核およびキノコはコガネキヌカラカサタケであることが知られた.すなわち鉢の土壌上に多数発生した菌核は同時に発生したキノコと同一の菌種である事が明らかとなった.これまでコガネキヌカラカサタケの菌核による栽培植物の被害は報告されておらず新しい知見として報告する. 併せてコガネキヌカラカサタケの培地上での性質を記載した.
著者
Ichiro Nakagawa Masashi Kotsugi Shohei Yokoyama Ryosuke Maeoka Tomoya Okamoto Hiromitsu Sasaki Kenta Nakase Ai Okamoto Yudai Morisaki
出版者
The Japanese Society for Neuroendovascular Therapy
雑誌
Journal of Neuroendovascular Therapy (ISSN:18824072)
巻号頁・発行日
pp.ra.2023-0018, (Released:2023-05-26)
参考文献数
50

Anterior cranial fossa (ACF) dural arteriovenous fistula (DAVF) is a rare lesion among cerebral DAVFs. This lesion shows significant bleeding risk because of the angioarchitecture, involving direct leptomeningeal retrograde venous drainage, as a nonsinus-type DAVF. Over the years, direct surgery has been considered the primary treatment for ACF DAVF, offering favorable clinical outcomes compared to a low complete obliteration rate with endovascular treatment and the relatively high risk of blindness due to central retinal artery occlusion with transophthalmic artery embolization. In recent years, however, significant improvements in DSA and 3D reconstruction imaging quality have allowed a much more precise understanding of the angioarchitecture of the shunt and vascular access route. In addition, advances in endovascular devices, including catheters and embolic materials, have facilitated microcatheter navigation into more distal vessels and more reliable closure of the fistulous point. Supported by such technological innovations, endovascular approaches to the treatment of ACF DAVF have been becoming successful first-line treatments. This article reviews the evolution of treatment strategies and the current status of endovascular treatment for ACF DAVF, with a particular focus on transarterial embolization.
著者
孫 大輔 塚原 美穂子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.129-132, 2018-09-20 (Released:2018-09-26)
参考文献数
6

オープンダイアローグは,「社交ネットワークの視点」や「不確実性への耐性」といった7つの原則に基づき,「ポリフォニー(多声性)」の状態を目指す対話的アプローチである.この手法は,フィンランドで精神疾患に対するアプローチとして始まったが,今後プライマリ・ケア領域でも大きな可能性を持つと考えられる.特に複雑性・不確実性の高いケースに対して有効性が期待される.
著者
細川 まゆ子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

中国やインド等、高濃度のフッ素を含有する水を摂取している地域では骨フッ素症や斑状歯の患者が多く発生している。その他の健康被害として近年ではIQ低下、認知機能障害および学習・行動障害等自閉症スペクトラム障害と類似した症状が報告されている。フッ素は出生前後に曝露されると脳の発達に影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。動物実験ではフッ素曝露による記憶学習能力低下や不安感について一様の見解が得られないが、一般に胎児期から発達期の化学物質曝露は神経系への影響が大とされる。本研究では、妊娠期飲料水中フッ素曝露による仔マウスの自閉症スペクトラム障害を引き起こす可能性について検討することを目的とする。
著者
関沢 まゆみ
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.191, pp.91-136, 2015-02-27

1960年代以降,高度経済成長期(1955-1973)をへて,列島各地では土葬から火葬へと葬法が変化した。その後も1990年代までは旧来の葬儀を伝承し,比較的長く土葬が行われてきていた地域もあったが,それらも2000年以降,急速に火葬へと変化した。本論ではそれらの地域における火葬の普及とそれに伴う葬送墓制の変化について現地確認と分析とを試みるものである。論点は以下の通りである。第1,火葬化が民俗学にもたらしたのは「遺骨葬」と「遺骸葬」という2つの概念設定である。火葬化が全国規模で進んだ近年の葬送の儀式次第の中での火葬の位置には,A「通夜→葬儀・告別式→火葬」タイプと,B「通夜→火葬→葬儀・告別式」タイプの2つがみられる。Aは「遺骸葬」,Bは「遺骨葬」と呼ぶべき方式である。比較的長く土葬が行われてきていた地域,たとえば近畿地方の滋賀県や関東地方の栃木県などでは,葬儀で引導を渡して殻にしてから火葬をするというAタイプが多く,東北地方の秋田県や九州地方の熊本県などでは先に火葬をしてから葬儀を行うというBタイプが多い。第2,Bタイプの「遺骨葬」の受容は昭和30年代の東北地方や昭和50年代の九州地方等の事例があるが,注目されるのはいずれも土葬の頃と同じように墓地への野辺送りや霊魂送りの習俗が継承されていたという点である。しかし,2000年代以降のもう一つの大変化,「自宅葬」から「ホール葬」へという葬儀の場所の変化とともにそれらは消滅していった。第3,両墓制は民俗学が長年研究対象としてきた習俗であるが,土葬から火葬へと変化する中で消滅していきつつある。そして死穢忌避観念の希薄化が進み,集落近くや寺や従来の埋葬墓地などへ新たな石塔墓地を造成する動きが活発になっている。これまで無石塔墓制であった集落にも初めて石塔墓地造成がなされている。火葬が石塔その他の納骨施設を必須としたのである。第4,近代以降,旧来の極端な死穢忌避観念が希薄化し喪失へと向かっている動向が注目されているが,それを一気に加速させているのがこの土葬から火葬への変化といえる。旧来の土葬や野辺送りがなくなり,死穢忌避観念が希薄化もしくは喪失してきているのが2010年代の葬送の特徴である。
著者
安田 憲司 塚﨑 敦 十倉 好紀
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.640-647, 2018-09-05 (Released:2019-04-27)
参考文献数
43

磁性体や強誘電体,超伝導体といった対称性の破れを伴う秩序相に加え,物質中のバンド構造のトポロジーで分類されるトポロジカル相が物性物理学分野において近年注目を集めている.固体中のバンド構造が非自明なトポロジカル数を有する場合,その固体表面や界面にはバルクの状態と異なる特徴的なバンド分散を生じる.このような表面状態を観測する手法には,角度分解光電子分光や走査トンネル顕微分光法が主として用いられ,トポロジカル絶縁体,トポロジカル超伝導体,ディラック半金属,ワイル半金属などの新たな物質相の実験的検証が進められている.それに加えて近年では,カイラルアノマリーやワイル軌道など,特異なバンド構造に由来した新奇な輸送現象を観測して,外場などで制御しようとする取り組みが盛んになっている.トポロジカル秩序に由来する輸送現象として最も研究されてきたのが量子ホール効果である.量子ホール効果は,2次元電子系に外部磁場を印加することで試料端に1次元のカイラルエッジ伝導を生じて,ホール抵抗の量子化が観測される現象である.この外部磁場を磁化に置き換えた量子異常ホール効果は,以前から理論的な提案がなされていたが,磁性元素Crを添加したトポロジカル絶縁体薄膜(Bi1-x Sbx)2Te3において最近初めて実現された.量子異常ホール効果は,強磁場を要する量子ホール効果と異なり,零磁場でカイラルエッジ伝導を実現可能である上,磁気秩序変数によってトポロジカル数を制御できるという特徴を持っている.磁場や磁化の方向から一義的に決まる方向にしか運動できないカイラルエッジ伝導は,不純物や欠陥といった乱れによる電子散乱が禁制となるため,非散逸な1次元伝導を実現できる.そのため,カイラルエッジ伝導の次世代低消費電力素子への利用が期待されるが,試料端以外の場所に形成することが困難なため,制御性に乏しいという問題があった.この問題に対し量子異常ホール効果では,試料端のみならず磁壁においてもカイラルエッジ伝導を生じることから,磁区の制御によって伝導の方向のみならずその位置までも自在に制御可能になると期待される.我々は磁気力顕微鏡によって局所的に磁区を書き込む手法を確立し,デバイス試料内に一本だけ磁壁を有する状態を作り出した.この試料に対し,輸送特性のその場測定を行ったところ,単一磁区の状態と異なる特徴的な量子化抵抗値が観測され,磁壁でのカイラルエッジ伝導の発現が明らかになった.さらに,単一デバイス内に様々な磁区構造を形成して抵抗測定を行ったところ,いずれの磁区構造においても理論値との良い一致を示し,カイラルエッジ伝導からなる非散逸伝導回路を磁区の制御によって自在に設計できることが実証された.
著者
遠藤 薫
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.118-121, 2016-01-15

いま「カワイイ」文化に世界が注目している.なぜ,「カワイイ」文化に人びとは惹きつけられるのか.「カワイイ」といった感性的価値は,単なる表層的な感覚,社会や人生に重大な意味をもたない残余的な事柄と扱われがちである.しかし,本稿では,日本の「カワイイ」文化の系譜をたどることによって,それが通時的不変性と経時的可変性性の双方によって構成されていること,およびその本質が弱者や対抗者の包摂と異文化間のハイブリッドにあることを明らかにし,グローバリゼーション時代におけるその社会的意義について考察する.
著者
松本 昭彦 MATSUMOTO Akihiko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.109-124, 2016-03-22

『枕草子』第九十八段「中納言まゐりたまひて」段は、有名な「海月の骨」の秀句の段であるが、従来この秀句は、隆家の「見たことないほどすばらしい扇の骨だ」との発言に対し、「見たことないなら海月の骨ですね」と清少納言がしゃれを言ったと解釈されてきた。しかし、「海月の骨」とは、長生きすれば見られるかもしれない奇蹟・幸運の意味の成句であり、この場面は、定子が皇子を懐妊もしくは生んだ直後と考えられることから、ここではその皇子の将来の即位を<予祝>する意味を込めたしゃれであると考えるべきである。またこの章段末尾の部分は、この章段の執筆によって、そのような<予祝>にも関わらず若くして亡くなってしまった定子、結局皇位には就けない皇子・敦康親王の悲運を読者に再確認させてしまうことに対する「言い訳」と考える。
著者
宮本 基杖
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.27-43, 2023-01-20 (Released:2023-02-17)
参考文献数
106

熱帯林減少は地球規模の環境問題であると共に温室効果ガスの排出源でもあることから,森林減少を止める対策が国際的な取組として広く推進されている。しかし,その成果は当初の期待に及ばず,地域社会への影響など懸念の声もある。取組が難航する理由は適切な対策を選択できていないためであり,それは森林減少の根本原因が理解されていないことに関連する。本稿では,世界の先行研究と著者の東南アジアでの実証研究を基に,森林減少の原因について解明された全容を示し,発生と制御の仕組みを明らかにすると共に,持続可能な解決策を提案する。森林減少の直接原因は農業地代(農地収益性)の上昇に集約される。主要な根本原因は貧困であることが特定された。森林減少の発生と制御の仕組みは農業地代・貧困率・森林率の3要因で説明できる。現行の取組は農業地代を低下させる対策が中心であるが,それは効果が高いものの,コストと社会的影響を考慮しなければ持続性が低い。他方,貧困削減策は根本的解決の効果があり,持続性も高いことが実証されている。世界の森林減少対策は抜本的改革が求められており,対策の主軸を農業地代低下策から貧困削減策に移すことが肝要である。
著者
池田 信 Makoto Ikeda
雑誌
関西学院史紀要 (ISSN:09179704)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-63, 2010-03-25
著者
福田 裕子 田中 裕貴子 森田 貴子 中永 あやこ 道下 佳子 中蔵 伊知郎 北澤 文章 辻川 正彦
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.264-271, 2021-05-10 (Released:2022-05-18)
参考文献数
19

We experienced two cases with mild to moderate renal dysfunction in which amantadine hydrochloride (amantadine) intoxication was followed by increases in its blood levels. Case 1 was a patient with mild to moderate renal dysfunction [estimated glomerular filtration rate (eGFRcreat): 48.9 mL/min/1.73m2; glomerular filtration rate (GFR) category: G3a] taking amantadine 300 mg daily. In Case 1, the blood level of amantadine at 13 hours and 30 mins after administration was 2,368 ng/mL, pyrexia, myoclonus, and psychological symptoms were observed. After discontinuing amantadine, the patient’s myoclonus improved, but he died of acute respiratory distress syndrome. Case 2 was a patient with mild to moderate renal dysfunction [eGFRcreat: 55.6 mL/min/1.73m2; GFR category: G3a] taking amantadine 100 mg daily. In the patient, pyrexia, myoclonus, and consciousness disorder were observed. The blood level of amantadine 88 hours after the last dose was 265 ng/mL, and the blood level that was collected 24 hours after the end of administration was estimated to be about 2,600 to 4,200 ng/mL. In all cases, the clinical features were consistent with the common symptoms of amantadine intoxication, and improved by discontinuing amantadine. Taken together, these findings suggest that the patients were intoxicated with amantadine. These results indicate that amantadine intoxication due to elevated blood levels also occurs in patients with mild to moderate renal dysfunction during the administration of the usual dose of amantadine. In addition, the measurement of amantadine blood levels may be useful in avoiding amantadine intoxication.
著者
楠本 泰士 樋室 伸顕 西部 寿人 木元 稔 宮本 清隆 高木 健志 髙橋 恵里 阿部 広和
出版者
一般社団法人 日本小児理学療法学会
雑誌
小児理学療法学 (ISSN:27586456)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.7-17, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

【目的】共同意思決定(Shared decision making;SDM)の知識と実践状況の乖離,患者の年齢帯や療法士の経験年数による目標設定の違いを明らかにすることを目的とした。【方法】小児疾患に関わる療法士115名を対象とし,ウェブアンケートにて目標設定の負担や実践の程度,目標設定に関するSDMの実践状況や内容を調査した。経験年数による2群で比較し,自由記述の内容は質的記述的分析を行った。【結果】目標設定に負担を感じている対象者が全体の2/3以上いた。2群間でSDMの実践状況に差はなく,対象児の年齢に応じて目標設定内容に違いがあった。SDMの実践状況と質的記述的分析の抽出内容に乖離があった。【結論】小児分野の療法士は,SDMの知識とSDMの実践状況に乖離があり,経験年数の違いにより目標設定内容に違いがあることが示唆された。SDMの正しい理解や経験年数,目標設定の思考過程を参照して,卒前卒後教育に活かしていく必要がある。
著者
砂本 文彦
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.63, no.510, pp.235-242, 1998-08-30 (Released:2017-02-02)
参考文献数
74
被引用文献数
1 1

The Board of Tourist Industry (B.T.I.) and the Committee of Tourist Industry (C.T.I), as the solo government administrative organs to attain foreign currency, had promoted to construct "Kokusai Kanko Hotel" during 1930s. The aim of this paper is to make clear states of "Kokusai Kanko Hotel" and resort in early Showa-era. Main conclusions are as follows; (1) B.T.I and C.T.I had understood importance of hotel enterprises and supported the establishments of 14 hotels. (2) Each of their designs had had equipment and appearances for them with resort themes. (3) Most of hotels had been located on tourist resorts between Yokohama to Nagasaki.
著者
澤海 崇文 望月 正哉 瀧澤 純 吉澤 英里
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-10, 2023-05-15 (Released:2023-05-20)
参考文献数
33

In recent years, some forms of interpersonal communication labeled “ijiri” have played a significant role among the youth. This paper investigates what type of affective experience ijiri is perceived to cause compared with similar behaviors like teasing and bullying. We recruited 312 university students and asked them to answer questions about the possible affective experiences that arise in either of the agents (actor or receiver) in response to each type of behavior. The rating was done from the standpoint of either the actor, receiver, or third party. Results revealed that compared with the other two types of behavior, ijiri was perceived to cause lesser negative affective experiences. Affective experiences entailed by each type of behavior were influenced by the role of the respondent and that of the appraisal target. Future research is warranted to investigate the generalizability of the findings, given the limitations of self-reported measurements and conceptualization of affects.