著者
池田 敬 白川 拓巳 鈴木 正嗣
出版者
Association of Wildlife and Human Society
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-20, 2018 (Released:2018-10-04)
参考文献数
30

We compared the attractiveness of five baits (mineral salt, corn, hay cube, rice bran, and Japanese cedar cutting seedling) to sika deer (Cervus nippon) and wild boar (Sus scrofa). We conducted four feeding experiments using camera traps from August 16 to November 19, 2017. To evaluate the attractiveness of the five baits, we counted the number of animals photographed per hour for each bait. We then evaluated the appearance patterns of deer and boar to feeding sites and clarified the influence of the appearance of each mammal on other mammal. Deer strongly preferred mineral salt (P < 0.001), while boar preferred rice bran (P < 0.01). In addition, deer and boar showed similar appearance patterns. To capture only deer, mineral salt would be the most effective bait.
著者
城 斗志夫 工藤 卓伸 田﨑 裕二 藤井 二精 原 崇
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.315-322, 2013-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

キノコにおいて香りは美味しさを構成する大事な要素である.そのために多くのキノコにおいて香気成分が分析されている.キノコの中にはマツタケや干しシイタケのように特徴香を持つものもあるが,大部分のキノコにおける香りの主成分は1-オクテン-3-オールや1-オクテン-3-オン,3-オクタノン,3-オクタノールなどの揮発性C8化合物である.C8化合物の生合成には,脂質過酸化酵素,過酸化脂質開裂酵素,酸化還元酵素が関与すると考えられているが,よくわかっていない部分も多い.そこで本稿ではキノコの香気とその生合成に関わる酵素について述べる.
著者
江馬 眞 原 洋明 松本 真理子 広瀬 明彦 鎌田 栄一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5026, 2007 (Released:2007-06-23)

食品添加物として使われているpolysorbate 80 (PS80)のラットにおける発生神経毒性をOECD試験ガイドライン・ドラフトに準拠して実施した。ラットの妊娠0日から分娩後21日まで、0, 0.018, 0.13, 1.0または7.5%のPS80 (0, 0.04, 0.25, 1.86, or 16.78 ml/kg bw/day)を含む飲水を自由摂取させた。妊娠ラットは自然分娩させ、児は21日に離乳させた。妊娠中及び授乳中の母ラットの体重は7.5%投与群で有意に低かった。繁殖指標へのPS80投与に関連した影響は認められなかった。児の生後14-15日、 17-18日、 20-21日、 33-37日及び60-66日の20時、2時、8時及び14時に測定した自発運動量にはPS80投与の影響はみられなかった。耳介開展、毛生及び切歯萌出等の発育指標、性成熟、正向反射、負の走地性、瞳孔反射、耳介反射、疼痛反応、空中正向反射にはPS80投与の影響は観察されなかった。条件回避反応については、生後23-27日の検査において7.5%投与群の雌雄の児で回避反応率の低下がみられたが、生後60-67日の検査ではいずれのPS80投与群にも投与の影響は認められなかった。離乳前及び離乳後の児体重は7.5%投与群の雌雄で対照群に比べて有意に低かった。生後22日及び70日の雌雄の児の主要器官重量にPS80投与の影響はみられず、脳、脊髄及び座骨神経の病理組織学的所見にもPS80投与の影響は観察されなかった。以上の結果から、ラットの妊娠中及び授乳中にPS80を含む飲水を与えたとき、母体及び児の体重低下を引き起こす7.5%投与群において一過性の条件回避反応率の低下が惹起されることが明らかになった。本実験におけるNOAELは1.0% (1.86 ml/kg bw/day)と考えられた。
著者
大戸 茂弘 小柳 悟 松永 直哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.115-119, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

社会の少子化および高齢化が進む中で,集団の医療から個の医療へとその重点が移りつつある.現在,個体間変動要因の代表例である遺伝子多型に関する研究およびその治療への応用は確立されつつあるが,遺伝子診断のみでは説明できない現象もある.従って,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動のみならず個体内変動に着目した研究の充実は必至である.こうした状況の中で,投薬時刻や投薬タイミングにより薬の効き方が大きく異なることがわかってきた(時間薬理学:chronopharmacology).また薬の効き方を決定する薬の体内での動き方や薬に対する生体の感じ方も生体リズムの影響を受ける.従って投薬タイミングを考慮することにより医薬品の有効性や安全性を高めることも可能となる(時間治療学:chronotherapy).最近では,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきた.生体リズム調整薬のみならず生体リズムを考慮した時間制御型DDS(chrono-drug delivery system)や服薬時刻により処方内容を変更した製剤が開発されている(時間薬剤学:chronopharmaceutics).その背景には時計遺伝子に関する研究の発展があげられる.すなわち,時計遺伝子が,睡眠障害,循環器疾患,メタボリックシンドローム,がんなどの疾患発症リスクおよび薬物輸送・代謝リズムに深く関わっていることがわかってきた.
著者
熊谷 仁
出版者
一般社団法人 日本食品工学会
雑誌
日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.123-134, 2008-09-15 (Released:2010-06-08)
参考文献数
13
被引用文献数
11 7

食品の内部の構造や状態を反映する電気物性および誘電緩和について概説した.物体の電気的な特性としては, 大きく分けて電気 (電荷) を蓄える性質と電気を流す性質があるが, 電気を蓄える“能力”を表すのが誘電率ε', 電気の通り易さを表すのが電気伝導度σ'である.また, 解析の便のために誘電損失ε” (=σ'/ (2πfe0) : e0, 真空の誘電率; f, 周波数) を用いることも多い.電気物性の測定において, 試料に交流電場を印加すると, 周波数fの増加に伴って内部の電気双極子が電場の変化に追随できなるため, 誘電率ε'が低下し, 同時に電気伝導度σ'が増加, 誘電損失ε”がピークを示すことがあるが, この現象が誘電緩和である.誘電緩和のデータをCole-Cole式やCole-Davidson式などの半経験式を用いて解析することにより, 電気双極子の配向時間に相当する緩和時間τをはじめとする重要なパラメータが求められる.対象とする系, 測定周波数によって, さまざまな種類の電気双極子の配向に起因する誘電緩和が観測され, 系の内部構造や状態に関する様々な情報が得られる.例えば103~107Hz近辺で観測される緩和は, 球状タンパク質であるBSA溶液では分子回転による配向分極に, ゼラチン溶液では分子鎖の揺らぎに, 高分子電解質溶液では対イオンの揺らぎに, W/Oエマルションでは水一油界面での界面分極に起因する.誘電緩和データから, 系の構造についての詳細な情報を得るには, スケーリング則などの理論を併用することが有効である.
著者
小泉 直美
出版者
梅花女子大学・大学院児童文学会
雑誌
梅花児童文学 = The Baika Journal of Children's Literature (ISSN:13403192)
巻号頁・発行日
no.30, pp.26-39, 2023-03-15

平成期(1989-2019)の「ヘンゼルとグレーテル」の邦訳は現在106 話確認している。それらを分析すると、収録されている形態に変化が生じていることが判明する。昭和期には児童向け雑誌に多く収録されていたものが、平成期には雑誌での収録は激減し、読み聞かせ物語集への収録が増える。そこでは話が短縮され、子どもたちが鴨(家鴨)に救助される場面では、グレーテルの的確な判断を示す言葉が削除されている。女の子の賢さが描かれていないのである。一方、話は短縮されても「お菓子の家」は昭和期よりも華やかに描かれ強調されている。あたかもこの話は「お菓子の家」の話であるかのように、視覚的表現で読者に印象づけているのである。また原典では子どもたちが帰宅したとき母親は死亡しているが、平成期には「家出する」「実家に戻る」「父親に追い出される」という表現が出現する。子どもと両親との関係だけでなく、夫婦の在り方が児童書の中に組み入れられているのである。さらにパロディ版も出現する。平成期は昭和期からの読書推進活動が実を結んだ時代である。さまざまな方法で読書への興味を持たせようとしたことが読み取れる。
著者
飯野 守
出版者
文教大学
雑誌
情報研究 = Information and Communication Studies (ISSN:03893367)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.29-44, 2009-01-01

This article discusses the prominent cases of the federal courts of the United States in which the main issue is how parody is treated under U.S. copyright law. In the U.S., the defense of fair use is thought necessary to fulfill the purpose of protecting copyright "[t]o promote the Progress of Science and useful Arts," and a new work that uses the elements of the original work may weigh in favor of fair use if it is sufficiently "transformative." The United States Supreme Court defines parody as a derivative work which uses "some elements of a prior author's composition to create a new one that, at least in part, comments on that author's works," and the Supreme Court treats the parody work which is transformative as fair. The point is, parody that is sufficiently "transformative" is ategorized as a kind of comment, or a creative work, and its use of prior work is fair in case law of the United States. This article points out that the above point of view is very useful when we consider Japanese copyright law, especially when copyright infringement by parody is at issue.
著者
野原 寛文 前田 育子 久澄 倫之介 内山 岳人 平島 紘子 中田 大仁 大野 里香 長谷川 哲朗 清水 健史
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
pp.778, (Released:2020-08-20)
参考文献数
9

Many unidentified bodies are expected to be discovered during a major disaster. Therefore it is necessary to establish a technique of identity estimation from the DNA of the dead person. Y-STR haplotype is genetically same among male relatives unless a genetical mutation occurs, and it is expected that the same Y-STR haplotype tends to be distributed in nearby residential areas. In this study, we analyzed Y-STR haplotypes and Y-haplogroups from 1,702 samples mainly collected from Miyazaki Prefecture to examine whether the geographic origin can be estimated. Y-haplogroup tended to be distributed differently between inside and outside of Miyazaki Prefecture. Some specific Y-STR haplotypes were intensively distributed in the southern and northern parts of Miyazaki Prefecture. These findings are thought to lead to the construction of a geographic origin estimation system in Miyazaki Prefecture, and are expected to be used in disaster victim identifications and criminal investigations in the future.
著者
Kazuhiro KAMIYA Hajime OHMURA Daisuke ETO Kazutaka MUKAI Shigeto USHIYA Atsushi HIRAGA Sadao YOKOTA
出版者
Japanese Society of Equine Science
雑誌
Journal of Equine Science (ISSN:13403516)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.97-100, 2003 (Released:2003-12-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

T. M. Opera O is considered as one of the greatest racehorses in the history of horseracing in Japan. Only a very few data is available on circulatory function of elite Thoroughbred racehorses. Recently, we obtained data on circulatory parameters of T. M. Opera O. The left ventricular mass of T. M. Opera O, as measured on an echocardiogram, was 4.60 kg. The resting heart rate (HR) of T. M. Opera O was 25 beat/min. The low-frequency and high-frequency power, as determined by an analysis of HR variability, were 13,900 and 5.963 ms2, respectively, which were considerably higher than those of the other racehorses. These results suggest that a large heart, formed by genetic factors and training, markedly enhanced the parasympathetic nervous activity and reduced the resting HR of T. M. Opera O. The data we obtained from T. M. Opera O is invaluable for understanding the physical fitness of elite Thoroughbreds and for further developing their athletic performance.
著者
宮森 孝子
出版者
一般社団法人 日本統合医療学会
雑誌
日本統合医療学会誌 (ISSN:24355372)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.94-102, 2020-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
21

アロマテラピーで使用する精油は、植物が病原性微生物や環境から身を守るため、光合成の過程でつくる炭化水素と官能基から成る有機化合物である。19世紀までの薬のない時代において人類が感染症と闘った歴史の陰には常に精油があり、現代の治療薬も精油の芳香分子の構造を模倣し創薬されてきた経緯がある。特にオレガノ精油は西欧において天然の抗生剤ともいわれ重宝されてきた。フランスのメディカルアロマテラピーにおいて、オレガノ精油に含有される分子に抗ウイルス作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗原虫/抗寄生虫作用、また免疫調整作用があるとされる。COVID-19に対する確たる治療薬やワクチンがいまだない状況において、精油使用は感染症に対するセルフケアの方略の一つとして見直し活用するに値すると思われる。また嗅覚の機序とストレスの発症機序がほぼ同じであることから、香りはストレス緩和に有用である。したがって心身の些細な違和感を知覚したとき、不安感や恐怖感が生じたときに精油を用いてセルフケアすることにより感染症の予防や緩和、ストレス軽減が期待できると考える。ここでは感染経路に応じた具体的な精油使用法とその根拠を述べる。
著者
児玉 望 Nozomi Kodama
出版者
熊本大学文学部言語学研究室
雑誌
ありあけ 熊本大学言語学論集
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-40, 2008-03-30

児玉(2007)では、川上秦氏の「句」を、階層的な日本語音韻構造におけるアクセント句の上位の構造(音韻句)として位置づけることを提案した。本稿では引き続き、この「音韻構造の階層性」について、主として鹿児島方言と東京方言を中心に考察する。
著者
篠田 謙一
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.154-160, 2008 (Released:2008-12-27)
参考文献数
30
被引用文献数
1

歴史時代と現代の台湾原住民の関係について考察する目的で,国立台湾大学が所蔵する台湾原住民ブヌン族の古人骨試料からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAの分析を行った。合計で34体分の肋骨サンプルを実験に用い,最終的に25体で塩基配列データを得た。全体で15のハプロタイプを区別したが,特定のハプロタイプが多数を占めると言うことはなく,多様性が保たれていることが判明した。次にハプログループ頻度を用いて現代の原住民8集団との系統関係を解析した。その結果,今回のサンプルは現代のブヌン集団に最も近縁であることが示され,少なくともブヌン族では歴史時代からの遺伝的な特徴が,そのまま保存されていることが証明された。また各集団の遺伝的な関係は,基本的には地理的な近縁関係を反映していることも明らかとなった。今回の研究は,これらのサンプルに解析できる量のDNAが保存されていることを明らかにし,博物館・大学に収蔵されている人骨試料が,現在では収集が困難になりつつある原住民のDNAサンプルの供給源としても大きな価値があることを証明した。
著者
林 政彦 民谷 晴亮 小松 睦美 堤 貞夫 山崎 淳司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成19年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.4, 2007 (Released:2008-06-01)

アメシストを加熱することによりシトリンの色調に変化させることはよく知られている。そこで、次の4つの産地の天然アメシストと1つの合成アメシストをそれぞれ加熱実験し、色調の変化を追ってみた。 (1)ブラジル、リオ・グランデ産:Iai, Rio Grande do Sul, Brazil (2)ウルグアイ産:North Cantera mine, Artigas, Uruguay (3)メキシコ産:Ras Begas mine, Mexico (4)ロシア製合成アメシスト:Synthetic amethyst, Russian Academy これら加熱実験結果から、ブラジルのリオ・グランデ産、ウルグアイ産及び合成アメシストは、420~450度で脱色し、その後に黄色あるいは黄褐色のシトリン(黄水晶)の色調を呈するようになった。 今回の加熱実験結果で着目すべき点は、メキシコ産アメシストについては、脱色はするがその後の色調の変化は見られず、最終的に白色(不透明な無色)になったことである。 以上の結果をふまえて、加熱によるアメシストのシトリンへの変化について、CL像の観察・化学分析・IR吸収スペクトル測定などを行った結果から、次のような結論を得た。 ・カラーセンターによって生じた可視領域の吸収(550nm付近)が、420~500度の加熱によって消滅した結果、紫色は消失した。 ・黄色に変化するというのは、分光特性において可視部から紫外部にかけて徐々に吸収が大きくなることを示している。 ・黄色に変化しないものは、カラーセンターによって生じた可視領域の吸収(550nm付近)が、加熱によって消滅した後、さらに加熱温度を上昇しつづけても、その他の吸収の変化が可視領域になかったことを示している。 ・アメシストを加熱することによりシトリンの色調に変化させるには、H2O分子の存在と450~500度という温度が必要である。
著者
上原 拓也 井上 達雄
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.44, no.498, pp.309-315, 1995-03-15 (Released:2009-06-03)
参考文献数
19
被引用文献数
4 9

The quenching process of a Japanese sword is simulated by a CAE system “HEARTS” developed by one of the authors. The system is available to consider the coupling effect among metallurgical change due to phase transformation, temperature and inelastic stress/strain.In the quenching process of the Japanese sword, a special kind of clay is pasted on the surface to control the heat transfer coefficient between metal and water. The dependence of the coefficient on the thickness of clay and also the surface temperature is experimentally evaluated first by using a cylindrical rod of silver. The results show a relatively higher value with thin-pasted clay than that without clay at a high temperature range. The data are then applied to simulate the variation of temperature coupled with the structural change from austenite to martensite and pearlite as well as the variation of stress. It gives an attractive result that the sword is bent two times to the direction opposite to the normal shape due to the complicated time difference between martensitic and pearlitic transformation and thermal contraction. The simulated results of residual stress distributions are compared with the measured data by X-ray diffraction technique.
著者
堀井 裕之
出版者
明治大学
巻号頁・発行日
pp.1-312, 2018-01-01

2017
著者
大久保 豪
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.45-59, 2021-07-08 (Released:2021-07-13)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本稿の目的は,国際比較によって日本の患者自己負担を相対化させ,その特徴を明らかにすることである。比較の対象国として,日本と同様に社会保険方式を採っているドイツ及びフランス,税方式を採っている代表的な国であるイギリスの3ヵ国を選択した。本稿ではまず各国の医療制度(医療提供制度及び医療財政制度)の仕組みと特徴を記述し,その後に患者自己負担について,4ヵ国共通の視点(a.年齢,b.所得,c.疾患・障害,d.高額医療費,e.医薬品,f.入院・外来,g.受診経路)で整理した。4ヵ国を通観した結果,特徴的だったのは第1に患者自己負担の医療政策における重要性の相違である。イギリスは原則無料で,ドイツも患者自己負担に重きを置いてはいない。一方で,日本とフランスは患者自己負担の割合が大きく,その仕組みも複雑である。第2は,高齢者に対する負担の特例の有無である。日本では,高齢であることを理由とした患者自己負担の減免が行われているが,ドイツ及びフランスでは行われていない。イギリスでは高齢者の患者自己負担が免除されるが,そもそもイギリスは患者自己負担の割合自体が小さい。第3は,患者自己負担とゲートキーパー機能との関係である。ゲートキーパー機能が最も強いのはイギリスであり,病院受診にはGP診療所の紹介が必要である。ドイツやフランスではイギリスほど強くはないが,日本のように病院を直接受診することが一般的なわけではない。患者自己負担は医療制度というシステムの構成要素の一つであり,その国の医療提供体制及び医療財政の仕組み,そしてその背景にある歴史的経緯や経済状況などの様々な要因によって形作られてきた仕組みであるという点に留意する必要がある。
著者
田嶋 宏隆 久米 学 小川 真由 渡邊 俊 内山 里美 内山 耕蔵 大坪 鉄治 古賀 春美 亀井 裕介 三田村 啓理
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.AA2023-11, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

ニホンウナギ Anguilla japonica はかつて日本全国で豊富に漁獲された。しかし、現在は個体数が激減している。福岡県柳川市の掘割も本種の個体数が減少した場所の一つである。これは、水門の改修に伴い、シラスウナギの川から掘割内への侵入個体が激減したことが要因であると考えられている。現在、地元の高校やNPO法人により掘割へのニホンウナギの放流活動が行われている。しかしながら、野生個体または放流個体が掘割内に定着しているかは明らかになっていない。そこで本研究では、現在、福岡県柳川市の掘割にニホンウナギが生息しているかを明らかにするため、電気ショッカーを用いて本種の採集を試みた。その結果、5回の調査(2021年10月、2022年2月・3月・11月、2023年2月)において、合計47個体のニホンウナギを採集した。採集した個体が放流個体か天然個体かは判断することができなかった。採集された個体の全長は122–623 mmの範囲であった。47個体のうち2個体の銀ウナギが2022年11月の調査時に採集され、残りの45個体は黄ウナギですべての調査時に採集された。砂泥中からは139 mmから558 mmまで様々な全長の個体が採集された。中・大礫から採集された個体に比べ、巨礫や石垣から採集された個体の全長は大きい傾向があった。調査月の違いやウナギの全長に関わりなく本種を採集できたことから、掘割はニホンウナギが生息・成長するための環境を少なからず備えていると推測した。