著者
永松 大 山中 雪愛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.57-62, 2018

<p>ハマナスは植栽の一方で,自生個体群は各地で希少化している。日本海側自生南限地帯である鳥取市白兎海岸のハマナス群落の現状を詳細に調査し,1988 年の学術調査と比較して分布南限での 28 年間の変化,保全効果と課題を検討した。その結果,群落の縮小はみられないが,被度が低くなっていた。以前多かったネザサは保全活動により大幅に減少したが,新たに多くの内陸性植物が定着し,特にチガヤの影響が懸念された。ハマナス群落維持と内陸性植物の抑制には継続的な砂丘砂の供給が望ましく,過去の人為改変により海岸砂丘から切り離された白兎海岸のハマナス群落では,その役割を人間が果たすことが必要と思われる。</p>
著者
佐藤 功
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.302, 2016

<p>  製薬企業が直面している問題点として,新薬開発における成功確率の低さによる研究・開発費の高騰や,創薬難易度(対象疾患の希少化や標的分子の減少)の上昇による競争の激化があります.これらの問題を解決する一つの手段として,オープンイノベーションが提唱されています.これまでも,多くの製薬企業が,アカデミアやバイオベンチャーとの共同研究・開発を実施してきていますが,今後はますます活発になると予想されます.一方で,規制当局から創薬に求められる科学的レベルも向上しています.そのため,アカデミアとの連携にあたっても,新規分子や作用機序の発見だけでは,共同開発に踏み切れないことが多くあります.製薬企業が期待するのは,新規性・革新性,作用機序と有効性の関連性,プロダクトのプロファイル,知的財産の排他性,そして競合優位性です.医師主導治験を実施するにあたり,これらの点をご紹介したいと思います.</p>
著者
本庄 華織 大里 俊明 大森 惠 村木 岳史 石川 耕平 岡村 尚泰 中村 博彦
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.525-530, 2019-05-10

Ⅰ.はじめに もやもや病では,過換気や啼泣によるhypocapniaが虚血発作や脳梗塞発症の引き金になることがよく知られている.そのため,小児もやもや病の血行再建術の周術期管理において,啼泣を回避することが虚血性合併症を予防する上で非常に大切である.特に術直後は,麻酔覚醒時の術後興奮,疼痛,不安により啼泣しやすい状況にある.さらに脳循環動態が極めて不安定なために,啼泣によるhypocapniaにより広範な脳梗塞に至る危険性がある.啼泣を回避し,normocapniaを維持するため,麻酔科の協力を得て,superficial temporal artery(STA)-middle cerebral artery(MCA)anastomosis+encephalo-myo-synangiosis(EMS)終了後,抜管時より翌朝までデクスメデトミジン(dexmedetomidine:DEX)にて持続的に鎮静を行った. 海外では,DEXのもつ鎮静・鎮痛・臓器保護作用,そして呼吸抑制が少ないという特徴より,小児への投与の有効性が報告されている22,24).日本では2004年から市販されているが,小児例,脳神経外科領域での報告例は少ない. 小児もやもや病の術後啼泣回避のための鎮静薬として,DEXの有用性を検討したので報告する.
著者
山田 晋 大久保 悟 北川 淑子 武内 和彦
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
日本造園学会 全国大会 研究発表論文集 抄録
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.49, 2007

水田面積の減少が顕著な大都市圏では,全国的には水田で普通に生育する種の希少化が深刻で,とくに水稲作に強く依存して生育する種(水田農業依存種と定義)を保全する必要性が高まっている。本研究では,耕起管理と代かき管理を,耕作放棄水田で4年間実施した。集約化が進んでいない水稲作地や,耕作放棄地で水稲作が再開された場合と比較しながら,各管理による成立植生の特徴を把握し,代かきや耕起が,水田雑草群落や,そのなかの1種群である水田農業依存種の維持に対し有効か検討した。耕起管理区における水田農業依存種数は,管理年次とともに減少した。一方,代かき管理区では,その種数は概ね維持され,復元水田と類似した。代かき管理は水田農業依存種を少なくとも4年間の期間内維持する点で,有効な管理手法と判断された。
著者
永松 大 坂田 成孝
出版者
鳥取県生物学会
雑誌
山陰自然史研究 (ISSN:13492535)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.49-55, 2008-12-31

希少化している山地草原性スミレ類の生育実態を明らかにすることを目的として, 鳥取県東部2ヶ所の山地草原でスミレ類の調査を行った。あわせて, 山地草原性のスミレ類が存続していくための管理方法に関して考察をおこなった。調査は草刈りで草地が維持されている八頭郡智頭町篭山(以下, 篭山)と放置されている八頭郡若桜町つく米(以下, つく米)の対照的な2ヶ所の草地でおこなった。2005年から2008年にかけて調査を行い, 篭山では13種, つく米では6種のスミレ類の自生を確認した。篭山では8カ所にプロットを設定し, スミレ類の種名と個体数を記録した。つく米でも同様に中央部1カ所で調査した。篭山ではアケボノスミレの個体密度が最も高かった。次いでヒゴスミレとニオイタチツボスミレが多く, 周辺では得難いスミレの貴重な自生地と考えられた。つく米はススキの密な群落であったが, 県内では他に1ヵ所でしか報告されていないサクラスミレが現存していることを確認した。つく米では2008年秋から鳥取県の保安林改良事業が始ることとなり, 地ならし, 植樹, 保育作業で今後環境が大きく変わる。今後の推移に注目する必要がある。We studied grassland Viola species at two contrastive grasslands in eastern part of Tottori Prefecture. Study sites were set at Kagoyama, in Chizu Town and at Tsukuyone in Wakasa Town. Kagoyama site is maintainedas grassland by annual mowing. Tsukuyone site is suffering from neglect and covered dense Miscanthus sinensis thicket. From 2005 to 2008, thirteen and six Viola species were found at Kagoyama site and Tsukuyone site, respectively. At Kagoyama site, Viola rossii had maximum density following V. chaerophylloides var. sieboldiana and V. obtusa. Critically endangered species in Tottori Pref., V. hirtipes was found at Tsukuyone site. The present habitat condition at Tsukuyone site was not suitable for grassland Viola species. We have to pay attention to the condition of this grassland.
著者
佐藤 幹也 田宮 菜奈子 伊藤 智子 高橋 秀人 野口 晴子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.287-294, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
22

目的 全国の介護報酬明細個票(介護保険レセプト)から介護サービス利用額を利用時間に換算し,在宅要介護者のフォーマルケア時間を要介護度別に推計して在宅介護の公平性を検討した。方法 調査対象は2013年6月に介護保険在宅介護サービス(居宅系サービスと通所系サービスを合わせた狭義の在宅介護サービス,および短期入所サービスに細分化)を利用した全国の65歳以上の要介護者(要介護1-5)2,188,397人である。介護報酬の算定要件に基づいて介護保険サービスのサービス項目ごとにケア時間を設定し,利用者ごとに1か月間の利用実績を合算して得られたケア時間を30で除したものを1日当たりのフォーマルケア時間として,これを男女別に層化した上で要介護度別に集計した。結果 居宅系サービスと通所系介護サービスの狭義の在宅介護サービスおよび短期入所サービスを合算した1日当たりの総フォーマルケア時間は,要介護1で男性97.4分と女性112.7分,要介護2で118.3分と149.1分,要介護3で186.9分と246.4分,要介護4で215.2分と273.2分,要介護5で213.1分と261.4分であった。短期入所サービスのフォーマルケア時間は要介護度とともに増加したが,短期入所を除いた狭義の在宅介護サービスのフォーマルケア時間は要介護3で頭打ちとなり要介護4-5ではむしろ減少した。狭義の在宅サービスをさらに居宅系介護サービスと通所系介護サービスに細分化すると,前者は要介護度に応じて増加したが,後者は要介護3で頭打ちとなっていた。結論 在宅介護サービスの利用量を時間の観点から評価した本研究の結果からは,介護ニーズが増大する要介護4-5の在宅要介護者でむしろフォーマルケアの供給が減少しており,介護保険制度によるフォーマルケアは必ずしも介護ニーズに対して公平ではないことが分かった。在宅介護の公平性を保ちつつ介護保険制度の持続可能性を高めるためには,高要介護度者に対して時間的効率性の高い在宅介護サービスを推進するなどして高要介護度者のフォーマルケア時間を増加させるような施策を推進する必要があると考えられた。
著者
村山 洋史 小宮山 恵美 平原 佐斗司 野中 久美子 飯島 勝矢 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.317-326, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
26

目的 ソーシャルキャピタルは多職種連携を促進する重要な要因であることが示されている。本研究では,在宅医療の推進を目的に作成された「在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会」(以下,研修会)の参加者を対象に,在宅医療・介護従事者に対するソーシャルキャピタルの醸成効果を検討した。方法 東京都北区で2014年7月~2015年1月に実施された研修会参加者への自記式質問紙調査のデータを用いた。質問紙調査は研修会の前後で実施した。研修会の参加者は,区内で在宅医療・介護に従事している,あるいは関心を持っている専門職であった。開業医・病院医師には延べ5.0日,開業医・病院医師以外には延べ4.5日のプログラムが提供された。在宅医療の動機付け項目として,在宅医療に対するイメージ形成と効力感を測定した。ソーシャルキャピタルに関しては,同職種への信頼感と互酬性の規範(結束型×認知的ソーシャルキャピタル),他職種への信頼感と互酬性の規範(橋渡し型×認知的ソーシャルキャピタル)を測定した。加えて,開業医以外の職種に対しては,開業医との関係に特化し,開業医への信頼感と互酬性の規範(橋渡し型×認知的ソーシャルキャピタル)と開業医との連携活動状況(業務協力と交流の2因子を含む;橋渡し型×構造的ソーシャルキャピタル)を把握した。解析には一般化推定方程式を用い,効果量を求めた。活動内容 研修会参加者54人中,研修会前後の両方の回答が得られた52人(うち2人が開業医)を対象とした。まず,在宅医療の動機付け項目では,効力感は変化がなかったものの,在宅医療に対するイメージ形成の得点は研修会前後で向上していた。ソーシャルキャピタルでは,同職種への信頼感と互酬性の規範の両者とも研修会前後で得点が向上していた。一方,他職種への信頼感と互酬性の規範は,両項目とも得点の向上は見られなかった。開業医以外の職種のみに限定した開業医との関係では,信頼感と互酬性の規範,および連携活動状況の業務協力において得点の向上が見られた。さらに,研修会参加者内での信頼感と互酬性の規範も向上していた。結論 研修会に参加することで,在宅医療・介護従事者に対するソーシャルキャピタルが醸成されていた。在宅医療・介護領域におけるソーシャルキャピタルの醸成に向け,本研修会のような機会の提供は一つの方策と考えられた。
著者
井本 知江 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.295-305, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
26

目的 特定健康診査(以下,健診)の受診行動に健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシー(以下,HL),ソーシャル・キャピタル(以下,SC)が関連しているのかを保険者別に検討し,今後の受診勧奨を含めた保健活動のあり方について示唆を得ることを目的とした。方法 受診者とは過去2年間に1回以上健診を受診した者,未受診者とは過去2年間に1回も健診を受診していない者とした。対象者は40~74歳の男女1,048人とし,郵送による無記名の自記式質問紙法で行った。健康増進ライフスタイルの把握には日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(以下,HPLPⅡ)を,HLの把握には14-item Health Literacy Scaleを,SCの把握には埴淵らの6項目を用いた。保険者別(国民健康保険:国保,被用者保険:社保)に健診受診の有無と属性,HPLPⅡ, HL, SCとの関連について検討した。分析には属性・SCにはχ2検定を,HPLPⅡにはt検定を,HLにはMann-WhitneyのU検定を用いた。結果 有効回答率は男性34.4%,女性39.6%で,健診受診者の割合は国保の男性68.8%,女性79.4%,社保の男性91.7%,女性72.6%であった。国保の男性は同居の配偶者がいない者がいる者に比べて受診割合が有意に低く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの身体活動得点が有意に低かった。社保の男性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの栄養得点が有意に高く,SCの近所付き合いの程度が有意に高く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの健康の意識得点が有意に低かった。結論 健診の受診行動には,国保の男性を除いて,健康増進ライフスタイル,SCが関連していた。健診受診勧奨を含めた保健活動のあり方として,国保の男性の場合,配偶者や家族,親戚,近隣者などからの勧奨が健診受診に有効であること,女性の場合,日常生活に身体活動を取り入れることが健康への関心を高め,健診受診に繋がること,社保の男性の場合,健診結果を食生活の改善に活かせる工夫が必要であること,女性の場合,健康意識を高める支援が必要であることが示唆された。
著者
大島 真理夫
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.61-78, 2005
参考文献数
33

The 73rd annual meeting of the Socio-Economic History Society was held at Osaka City University on May 29 and 30, 2004. The general session was organized by Mario OSHIMA under the title shown above. The speakers took different approaches from those adopted in Japan so far to describe early modern economic history. They focused their views on the scarcity of land used for agriculture as a factor existing nearly everywhere in the world during this era. Industrious revolution, the term coined by Akira HAYAMI three decades ago, can be understood as farmers' efforts to overcome this resource constraint in rural Japan during the 18th and 19th centuries. Atsushi AOKI presented detailed research on four-character words representing land scarcity in formal Chinese histories and agricultural advisory documents issued by local governments, finding the constraint intensified already in the 11th and 12th centuries. Akihiko ETO presented evidence showing that 17th-century Japan still had land available for rice cultivation, which was much needed because of the big spurt of castle-town construction and the development of silver/gold mines aimed at obtaining foreign exchange; however, the country faced resource constraints during the latter half of the century. Takashi IIDA, basing his detailed study on Mark Brandenburg, pointed out that the sharp division between the full farmer class and cottagers in 18th-century eastern Elbe, Germany, intensified as population and agricultural production grew. Tsuneyuki DOHI and Atsuko OHASHI presented comments from the Russian and East Asian perspectives, respectively.
著者
藤田 壮 盛岡 通 徳永 拓
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
環境システム研究論文集 (ISSN:13459597)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.47-53, 2000

日本の都市では高度経済成長期に建造された膨大な建設ストックが, 21世紀の前半に一斉に更新の時期を迎える.それに伴う膨大な建設廃棄物の循環利用は, 新規資源の希少化や最終処分場の社会的コスト上昇のもとで緊急の課題となる.本研究では建設構造物の主要資材であるコンクリートをとりあげ, 建設廃コンクリートのリサイクルパスのフレームを示すとともに, 国土スケールの建設物資材のマテリアルフロー分析を通じて, 現状の社会システム下でのコンクリート廃棄物のリサイクル特性を明らかにする.さらに大阪市を対象に, 都市と地区単位で分散型の廃コンクリートの循環利用を実現することによる環境負荷削減効果を試算し, それにもとつく政策設計への知見を示す.
著者
村野 昭人 藤田 壮 盛岡 通 小岩 真之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
環境システム研究論文集 (ISSN:13459597)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.347-354, 2001

日本では, 高度成長期に建設された大量の都市構造物の解体に伴い, 21世紀前半には建設廃棄物が大量に発生することが予想されている. さらに, 最終処分場の用地不足や天然資源の希少化が経済活動の制約になると考えられており, 都市構造物の建設や廃棄に伴い発生する環境負荷を制御することが, 緊急の社会要請となっている. 本研究では, まず製品連鎖マネジメントの概念に基づき, 都市構造物をマネジメントする政策オプションの整理を行った. 次に, 政策オプションの導入効果を評価するためのシステムを構築した.最後に, 政策オプションを組み合わせることによって政策シナリオを作成し, 各シナリオの環境負荷削減効果について国土を対象としたケーススタディ評価を行った.
著者
堀本 佳誉 菊池 真 小塚 直樹 舘 延忠
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B1567, 2008

【諸言】常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症のひとつである、眼球運動失行を伴う失調症(AOA1)はaprataxin遺伝子の変異により起こる疾患である。この遺伝子の翻訳するタンパクは一本鎖遺伝子損傷修復機能を有することが確認されている。疾患の発症時期は10歳以前であり、発症早期より失調症状が認められ、その後、疾患の進行とともに末梢神経障害が著明となる。成人期AOA1患者の小脳症状と末梢神経障害の臨床症状を知ることは、予後を予測した理学療法を行うために重要である。また、一過性の過負荷の運動は遺伝子やタンパクの損傷を引き起こし、逆に規則的で適度な運動は損傷を一定に保つか減少させることが知られており、AOA1患者の臨床症状における遺伝子損傷レベルを知ることは適切な運動量・強度の処方の上で重要な指標となる。<BR>【方法】対象はAOA1患者(689insT)の姉妹(44歳、48歳)であった。末梢神経症状の量的評価として運動神経伝導速度の計測を行った。対象神経は、上肢は尺骨神経、下肢は腓骨神経とした。重症度は厚生省運動失調調査研究班によるSCDの重症度分類、小脳症状はInternational Cooperative Ataxia Rating Scale、末梢神経症状はNeuropathy Disability Score、筋力評価はMedical Research Council sum score(MRCS)を用い、質的評価を行った。遺伝子損傷レベルの測定は平常時の尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(以下8-OHdG)濃度測定を行い、40代女性10名(43.3±2.1歳;41~46歳)を対照群とした。各被検者に対し、本研究の説明を行い、書面にて同意を得た。<BR>【結果】神経伝導速度は、尺骨神経では21.2m/s、20.5 m/s、腓骨神経では計測不能で、尺骨神経では20歳代から40歳代の約15年で20m/s程度の低下が認められた。質的評価により、重度の小脳失調と、特に末梢部・下肢に強い筋力低下が認められることが明らかとなった。尿中8-OHdGでは、対照群は3.7±1.2ng/mg、AOA1患者はそれぞれ4.0ng/mg、7.3ng/mgであり、対照群との差は認められなかった。<BR>【考察】成人期AOA1患者の臨床症状の評価により、より早期に小脳症状に対する理学療法のみでなく、末梢神経障害を考慮した身体局所の選択的筋力強化、関節変形・拘縮の予防的運動療法などの理学療法を行うことが重要になると考えられた。平常時の尿中8-OHdGは対照群との差が認められなかったが、過負荷な運動はAOA1患者の病状の進行を助長してしまう可能性があることを考慮すると、今後、理学療法前後の尿中8-OHdGの測定を行う必要があると考える。
著者
森本 浩之 浅井 友詞 中山 明峰 加賀 富士枝 和田 郁雄 水谷 陽子 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1152, 2011

【目的】<BR>世界では前庭機能障害によるめまいや姿勢不安定に対するリハビリテーションが古くから数多く行われている。日本においては一部では行われているものの一般的ではない。<BR>前庭機能障害患者は非常に多く、また前庭機能障害に対するリハビリテーションを必要としている患者も少なくはない。<BR>今回我々は前庭神経腫瘍摘出後6年経過し、前庭障害の改善がみられなかった症例に対するリハビリテーションを経験し、良好な結果を得たので報告する。<BR>【方法】<BR>症例は60歳の男性で、6年前に左前庭神経腫瘍の摘出術を行った。その後、抗めまい剤などの薬物治療を継続して行っていたが、めまい感、姿勢不安定感などの症状が改善しないためリハビリテーションを行うこととなった。<BR>リハビリテーションはCawthorne、Cookseyらが報告したものをもとにAdaptation、Substitution、Habituationを行った。Adaptationは文字が書かれたカード(名刺)を手に持ち、カードの文字が正確に見える状態でカードと頭部を水平および垂直方向に出来るだけ早く動かした。Substitutionは閉眼にて柔らかいパッドの上に立たせた。Habituationは問診やMotion Sensitivity Quotientにて、めまい感や姿勢不安定感が強くなる動きを選択し、その動作を繰り返し行わせた。リハビリテーションの時間は1回50分、頻度は週に2-3回、また病院でのリハビリテーション以外にHome exerciseとして上記のAdaptation、Habituationを毎日行い、合計3週間行った。<BR>評価は3週間のリハビリテーション前後にDizziness Handicap Inventoryの日本語版(以下DHI)、VAS(めまい感、姿勢不安定感)、Neurocom社製Balancemaster<SUP>&#9415;</SUP>にて4つのCondition(Condition 1:開眼・硬い床、Condition 2:閉眼・硬い床、Condition 3:開眼・柔らかい床、Condition 4:閉眼・柔らかい床)における重心動揺の総軌跡長を計測した。<BR>【説明と同意】<BR>本研究の主旨を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>DHIは、リハビリテーション前では44点、リハビリテーション後では32点であり改善がみられた。<BR>VASは、リハビリテーション前ではめまい感49mm、姿勢不安定感51mm、リハビリテーション後ではめまい感31mm、姿勢不安定感24mmで、めまい感・姿勢不安定感ともに改善がみられた。<BR>重心動揺は、リハビリテーション前ではcondition 1が4.27cm、condition 2が6.23cm、condition 3が9.49cm、condition 4が61.34cm、リハビリテーション後ではcondition1が3.26cm、condition 2が2.93cm、condition 3が6.44cm、condition 4が61.17cmであり、すべてのConditionにおいてわずかではあるが重心動揺の減少がみられた。特にCondition 4においてはリハビリテーション前では3回中2回は転倒により計測不能であったが、リハビリテーション後では3回全てにおいて計測する事が可能であった。<BR>【考察】<BR>前庭神経腫瘍摘出後の後遺症に関して、3週間のリハビリテーションでDHI、VAS、重心動揺において効果が認められた。Girayらは慢性前庭機能障害患者に対し4週間の短期的なリハビリテーションを行い、その効果を報告している。今回も先行研究と同様に3週間の短期的なリハビリテーションで効果を認めることができた。<BR>今回の症例では手術から6年経過していたが中枢代償が完成されておらず、めまい感や姿勢不安定感が残存していた。前庭機能障害に対するリハビリテーションは、平衡制御システムの障害に対し本来身体に備わっている可塑性を促進させ、かつ残存している健常機能で消失している機能を置換・代用し、平衡機能を向上させることを目的としている。今回前庭リハビリテーションを行ったことにより前庭および視覚・体性感覚が刺激され、その結果中枢代償が引き起こされめまい感や姿勢不安定感が改善したと考えられる。<BR>今回は3週間での短期的なリハビリテーションであったが、6ヵ月後までの効果を認めている報告もあり、さらなる平衡機能の向上が期待できると考える。今後もリハビリテーションを継続して行い、経過を追っていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>日本においては前庭機能障害に対するリハビリテーションは確立されていない。前庭障害の患者は多く、リハビリテーションを必要としている患者も多く、今後症例数を増やし前庭障害に対するリハビリテーションを確立していくことが課題である。
著者
千葉 拓郎 田井 秀一 上羽 貞行 小林 力
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.702-708, 2008
参考文献数
18

我々は,矩形の圧電バイモルフ振動子を3角形に加工した3角形圧電バイモルフ振動子を使って,その先端に針を付けた振動型粘度計の開発してきた。これまでに約20〜400Hzの非共振帯の周波数を使って,バイモルフ入出力間の位相差から高い検出感度で広範囲の粘度測定を行ってきた。そこで,本実験では特に非ニュートン性の高粘度液体の測定において要望されている,更に低い1〜20Hzの超低周波領域での高粘度液体の測定を試みた。この超低周波領域では位相差が急上昇する特異な特性が現れて計測不能であったが,バイモルフの出力インピーダンスを改善することにより,これまでに類のない1Hzからの超低周波領域での粘度測定を可能とすることができた。
著者
高橋 麻衣子 鈴木 啓司 山下 俊一 甲斐 雅亮
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.118, 2008

哺乳類細胞における主要なDNA損傷修復経路として非相同末端結合修復(NHEJ)と相同組換え修復(HR)が知られ、NHEJは主にG1期で、HRはS期からG2期で働くことが知られている。最近、NHEJ修復経路の中にさらに複数の経路が存在し、少なくともDNA-PKcs/Kuに依存した経路とartemisを必要とする2経路があることが明らかになってきた。しかしながら、これら修復経路がどのような役割分担をしているのかは依然不明である。そこで本研究では、制限酵素を細胞内に直接導入して同じ形状のDNA切断末端を誘導するという系を用い、DNA切断末端の構造依存的な修復経路の役割分担を検討することを目的とした。G0期に同調した正常ヒト二倍体細胞に、制限酵素(Pvu II、100 U)をエレクロポレーション法を用いて細胞内に導入し、DNA二重鎖切断の誘導を抗53BP1抗体を用いた蛍光免疫染色法により検討した。その結果、まず制限酵素導入後1時間の段階で、約90%の細胞の核内に53BP1フォーカスが誘導されるのを確認した。その内、核全面に分布するタイプや計測不能な多数のフォーカスを持つ細胞が60%程度存在し、残りの約20%の細胞は、3〜20個程度が核内に散在するフォーカスのタイプ(タイプIIIフォーカス)であった。制限酵素導入後時間が経つにつれてタイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合が増加し、DSBの修復が確認できた。次に、artemis依存的な修復経路を阻害するために、ATM阻害剤KU55933を処理した結果、タイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合は処理の有無により顕著な差はみられなかったが、artemisを阻害した細胞では核あたりのフォーカス数はより多かった。以上の結果から、ブラントエンドタイプの切断末端が、その修復にartemisの活性を必要とすることが明らかになった。
著者
菅野 茂 須藤 有二 澤崎 坦 澤崎 徹 加納 康彦 松井 寛二 森 裕司
出版者
公益社団法人 日本実験動物学会
雑誌
Experimental Animals (ISSN:00075124)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.433-439, 1980
被引用文献数
5

東京大学農学部附属牧場コロニーのシバヤギ55頭を対象にRaBA-Super Systemを用い, 血清総蛋白以下16項目の臨床血液化学値の測定を行った。<BR>1) ビリルビン, コレステロール, TTT, ALPおよびCPKのバラツキが著しかったが, 計測不能の項目はなかった。<BR>2) 年齢による差がみとめられ, 血糖, ChE, ALPおよびCPKは育成群が, 血清総蛋白およびアルブミンは成熟群が高値を示した。<BR>3) 雌成熟群におけるGPTおよびBUN値は秋, 冬に比べ, 夏に有意に低い値を示した。<BR>4) トリグリセライドおよびアルブミンについて, RaBA法と用手法の同時比較を行ったところ, 測定法による差がみとめられた。