著者
河合 正計 吉田 政雄 古山 公英 金子 芳洋
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.101-110, 1986
被引用文献数
2

りんご園において動力噴霧機によりフェニトロチオン(MEP)水和剤1,000倍液を散布した時の散布者の被ぼく量とその影響について検討したo散布者は不織布性防除衣, スミトモ3Mマスク, ゴム手袋などを着用した。推定全身被ばく量は散布時のノズル竿の長さにより異なり, 短い方(平均217mg)が長い方(平均44mg)より多かった。散布時の推定皮膚接触量は1.2-23.9mgで, MEPのラットにおける急性経皮毒性より考えても, また,散布者の口元付近の気中MEP濃度から考えても今回の散布条件は安全であると考えられた。<BR>散布直後の血液中では全員にMEPが検出(0.0004-0.0222ppm)され, 1日後では9名中4名に0.0004-0.0009ppm検出されたが, 3目および7日後には全員検出されなかった。<BR>体内に吸収されたMEP量を知るために, 尿中MEP代謝物のすべてをNMCとして測定した結果, 散布後24時間内では全員に0.19-1.43mg排泄されたが, 3日後のスポット尿では9名中1名(0.19ppm)のみ, 7目後では全員に検出されなかった。これらのことからMEPは迅速に代謝, 排泄されるが,散布により体内にごく微量ではあるが吸収されるので, 連日散布はできるだけさけるべきである。<BR>今回の散布条件においては今回の防護装備で, 安全に散布しうると考えられるが, できるだけ吸収農薬量を少なくするため, 散布後できるだけ早く, うがいや身体の洗浄をすることが望ましい。
著者
頼 明照 土津田 義久 貫井 孝 大西 哲也
出版者
The Japan Institute of Electronics Packaging
雑誌
サーキットテクノロジ (ISSN:09148299)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.136-143, 1993

プリント配線板 (PWB) 上ヘサイズの異なるチップ (3mm<SUP>□</SUP>, 6mm<SUP>□</SUP>, 9mm<SUP>□</SUP>) をフリップチップCOB (Chip On Board) 実装したサンプルを用いて, それぞれの熱疲労寿命を評価した。その結果, レジンのないサンプルでは, チップサイズが小さくなるほど寿命は延びるが, いずれの場合も非常に寿命が短く, 実使用レベルにないことがわかった。一方, 熱膨張係数をはんだに合わせたレジンをチップー基板間に注入することによって, 各サンプルの信頼性は飛躍的に向上し, 十分実使用レベルにあることが判明した。レジンを注入していないサンプルで生じた不良については解析を行い, その不良モードを明らかにした。また, 大サイズチップ (12mm<SUP>□</SUP>, 15mm<SUP>□</SUP>) についても同様の評価を行い, 信頼性に見通しを得た。さらに, 4MマスクROMデバイスをPWB上ヘフリップチップボンディングし, 信頼性評価を行ったところ, 温度サイクルテスト (-65℃/150℃) 2000サイクル, 高温高湿通電テスト (85℃, 85%RH, 5.5V) 4000hおよび高温動作テスト (125℃, 5.5V) 4000hまで良好に動作できることを確認した。
著者
山本 志乃
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.181, pp.11-38, 2014-03

日本における定期市は,近代化の過程で多くが姿を消したが,一方で,現在でも地域の経済活動として機能していたり,形を変えて新たに創設されるものがあるなど,普遍性をもった商いの形である。定期市への出店を生業活動としてみた場合,継続的な取引を成り立たせる販売戦略がそこには存在する。本稿では,これを生業の技術のひとつと考え,現行の定期市における具体例を用いて分析を試みた。事例としたのは,藩政期にさかのぼる歴史をもつ高知の街路市で,親子2代約60年にわたって榊(サカキ)と樒(シキミ,本稿では地元の呼称にしたがってシキビと表記する)のみを扱ってきた店である。サカキとシキビはともに歳時習俗に関わる身近な植物であり,高知では年間通して需要がある。もとは山に自生するものを切り集めて売っていたが,1970年代より中山間地域の現金収入手段のひとつとしてとくにシキビの栽培が奨励されたことから,人工栽培された良質の枝を仕入れて販売するようになった。その際,キリコとよばれる伐採専門の技術者が,山主と契約してサカキ・シキビの管理・伐採に携わる。高知では概して,コバ(小葉)とよばれる小ぶりでつやのある葉が好まれる。こうした商品価値の高い枝に育てるのは,山主の丹念な消毒作業と,キリコの技術による。一方で街路市の売り手は,さまざまな技量を駆使し,安い単価で少しでも多くの荷を捌く。この店に対しては,品物の質がよいことと良心的であることが最大の評価として聞かれ,結果として多くの常連客を抱えている。つまり,山主・キリコ・売り手の3者それぞれがもつ技の連携によって,小規模ながらも客に対して最良の品を提供する流通を成り立たせてきたことになる。また売り手にとっては,この連携を継続することが究極の目標でもあり,街路市の商売に潜在する共存への指向性が改めて浮き彫りとなった。Regular markets held on fixed days of the week or month is one of general business forms in Japan. While many were disappearing in the modernization process, some are still working as a local economic activity, and some have been newly established in a different form. If you make a living by running a stall at a regular market, you need a sales strategy to continue your business. Regarding this as one of occupational techniques, this paper analyzes a concrete example of current regular market business.As a case study, this paper focuses on a shop that has only dealt in Japanese anise (shikimi, also known as shikibi in the study area) and cleyera (sakaki) for about 60 years over two generations at the street market in Kochi, whose history dates back to the feudal period. Both Japanese anise and cleyera are familiar plants used for seasonal events and celebrations, and they are in demand at all times of the year in Kochi. People used to gather branches from trees growing wild in the mountains for sale. Since the 1970s, however, as Japanese anise cultivation was promoted as one of ways for earnings in the hilly and mountainous areas, people have sold high-quality branches supplied by tree farms. Expert loggers called kiriko have been involved in this process through management and lumbering of Japanese anise and cleyera under contract with landholders. In Kochi, in general, branches with small, shiny leaves called koba are very popular. These commercially valuable branches can be produced by landholders' careful sterilization and loggers' high techniques.On the other hand, street market vendors make use of their various skills and keep prices low to sell as many products as possible. The store in this study is most highly evaluated for its good quality and trustworthiness, so it has a large patronage. It has collaborated with landholders and loggers by combining respective skills so that the distribution system can provide customers with best products, in spite of its small scale. Continuing this cooperation is vital for vendors. In other words, the study reveals the potential orientation of street market business to a harmonious relationship.
著者
村上 雅彦 清水 喜徳 普光江 嘉広 李 雨元 李 雅弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.334-336, 1993

上部消化管内視鏡検査後に発症した急性胃粘膜病変の1例を経験したので報告する.症例は37歳男性.検診にて上部消化管内視鏡検査施行したが, 4日後突然に激しい上腹部痛出現し当院来院.再度内視鏡検査施行し, 前庭部を中心に出血性, 多発性の浅い小潰瘍が観察された.絶食, 補液, 抗潰瘍剤投与により1週間後には症状消失し, 1カ月後にはわずかな瘢痕を残すのみで, ほぼ完全に治癒した.近年, 上部消化管内視鏡検査の普及により, 本症は増加の傾向にあり, その発症に関してH.P.感染が有力視されており, 今後内視鏡機器の洗浄, 消毒に対し十分な注意が必要と思われた.

1 0 0 0 OA 耳鼻と気圧

著者
仙石 潜
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.709-715, 1986-12-15 (Released:2011-08-10)
著者
仙石 潜
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.727-743, 1983-12-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
25

When the air in an inverted bell (A) falling into a water tank is discharged through a tube of least resistance, the pressure at the outlet is constant without reference to the changes of following objective resistances ®. In fact, however, the internal resistance of the apparatus is inevitable in greater flow. Then a cock (C) is placed midway on the tube and a pitot tube (B) is set closely to a nozzle attached to the naris, to read the total pressure at this point with a water manometer. While the air passes into the nose and nasopharynx and then out through the mouth, the cock is adjusted so as to fix the water column at 1 cm. in height. As the pressure drop (P1-P2) from inside the bell to the nozzle is constant, the closing angle of the cock is a function of the flow rate. The angle is also a direct index of the nasal resistance or time in seconds necessary for a liter of air to be forced out with the driving pressure of a 1 cm. water column (Fig.1).By means of this method, it was proved that resistance of the nasal cavity was between 3 to 5 seconds for sides, in 94 per cent of 100 normal nasal passages tested.
著者
上倉 洋人 横地 さち 福田 友美 橋本 八洋 四家 卓也 澤原 卓 鈴木 邦彦 武藤 久司 田中 繁 野田 友和 川崎 仁史 岸田 知子 渡辺 聡美 石井 伸尚 久下沼 元晶
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1080, 2006

【はじめに】<BR> 理学療法士がアプローチすべき運動として、特に歩行が重要視されるのは言うまでも無いが、疾患・加齢・障害などによってそのアプローチ方法は様々である。近年では免荷式歩行練習の成果が報告されつつあるが、それらのほとんどはトレッドミル上での練習である。しかし、医学的リハビリテーションにおける歩行練習は単なる機能練習としてのみでなく、実際のADLの中でも行われる必要があると考える。立位という抗重力姿勢での移動とADLが組み合わさることで、種々の運動機構が使われ、動作の学習や習熟などによる神経学的・生理学的な効果が期待されると考えるからである。<BR> 我々はこれまで上記のような効果を期待し、移動手段としても利用可能な形態を持つ歩行器型免荷式歩行練習装置を開発し、それによる自主歩行練習の可能性について調べてきた。この発表においては、装置の開発経緯についてと、実際に利用し練習の効果や生活場面での実用性などについて検討してきたので報告する。<BR>【装置、対象、調査方法】<BR> 装置は、メーカー、演者の所属する施設、および大学研究室が協同で開発してきたもので、体重の30%~40%までの免荷が可能である。一号機を利用して頂いた対象は60歳男性の脊髄損傷不全対麻痺者(L3残存)で、使用した時の感想を聞くと共に、演者らが主観的に問題点を明らかにした。<BR>【結果】<BR> 一号機の問題点として抽出された事柄を以下にあげる。1.総重量77.8kgであり介助が無い状態での推進が困難であり実用的ではなかった。2.トゥーオフで踵部が後方のフレームに当ってしまい不快感を訴えた。3.練習用としては良いが、実生活で使用した際は形態に違和感があった。4.免荷を行うための機構操作時の音が大きく不快であった。5.スリング装着時の手順が複雑、かつフィット感が十分でなかった。6.装置に着くまでが困難であり、立位が可能でないと難しかった。<BR> 二号機はこれらの点に改良を加え以下のような装置となった。1.総重量61.8kgと軽量化を図った。2.通常の歩行器と同様に前方にフレームがあり後方には無い形態とし踵部が当たらないようにした。3.またこれによりベッドからあるいは車いすから直接装置に着くことが可能となった。4.免荷機構を改善し操作音は無音に近くなった。5.スリングの全面的な見直しを図りベッド上臥位の姿勢でもスリングが装着できようになった。6.前腕支持部分を取り除くことによりADLでの上肢参加が可能となった。<BR>【考察】<BR> 二号機での改良を施したことにより、装置を用いた歩行練習の適応者が増加したと判断している。ベッドからのアプローチが可能なので立位保持不可能な対象でも練習が実施可能であり、また軽量化により介助なしの自主練習も可能なレベルとなったと考えている。<BR> 今後は、再度モニタリングして問題点を抽出し、三号機で実用化を、そして四号機での商品化を目指していく。
著者
池上 惇
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.1-14, 2001-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
125
著者
大越 隆文 野一色 泰晴 冨澤 康子 森島 正恵 小柳 仁
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.1194-1197, 1990

我々は新しい抗血栓性心臓壁補填材料(CUFP)を開発し, 長期動物実験により, その安全性を検討した。成犬に, 右室流出路再建術の要領で, CUFP(超極細ポリエステル繊維をコラーゲンで被覆し, 親水性エポキシ化合物で架橋した材料)を縫着した。CUFPの内腔面は植え込み後, 血栓付着は少なかった。また, 28日目で, 新生内膜が形成され, 中心部のわずかな部分を残して, 内皮細胞被覆がみられた。168日目で, 新生内膜内に平滑筋細胞を認めた。486日目では, 内皮細胞被覆を伴った薄くて, 均一な新生内膜が保持されていた。CUFPの材料壁内部では, 28日で, 線維芽細胞侵入, 血管新生がおこり, 168日, 486日で基質化された材料壁が認められた。CUFPは植え込み後, ポリエステル繊維によって補強された, 一種の自己器官として再構築され, 新陳代謝が行なわれる。そのため, CUFP植え込み後長期間, 変性及び劣化がおこらず, また, その表面に形成された新生内膜を保持すると考えられる。
著者
山地 啓司 横山 奉行
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.167-179, 1987-12-01 (Released:2017-09-27)

The purpose of the present short review was to evaluate the relationship between the percent increase in Vo_2max (% Vo_2max) and intensity, duration, frequency, period of training, the initial fitness level (Vo_2max) and age, as a reexamination of various studies on different populations with different protocols regarding endurance training. Close connection was recognized between the magnitude of improving Vo_2max and the duration and period of training in male and the frequency of training in female. More important factors found to improve Vo_2max were initial fitness levels of the individuals in male and female, i. e., one with lower initial scores showed a greater percent increase. Furthermore, the present study had shown that minimum training thresholds for improving Vo_2max were 40-50% Vo_2max for intensity, 20-30min/session for duration, 2-3 sessions/wk for frequency and several weeks for period of training.
著者
立部 紀夫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 45
巻号頁・発行日
pp.260-261, 1998-10-30 (Released:2017-11-08)

It was during the late Muromachi Era (1392-1573) that hairdresser's saloons first made their appearance on the streets of Kyoto. In the early hairdresser's saloons, hair on the upper front part of men's scalps (the area known as the "sakayaki") was plucked out with tweezers. Later during the Tensho eriod (1573-92), however, the new method of shaving the sakayaki with a razor was adopted. The tool that was used in hairdressing was shown on the signboard of hairdresser's saloons. Above change is remarkable with the fact that general objects illustrated on the signboards-tweezers in early times; replaced with razors at the next stage.
著者
座本 綾 辻 正義 川渕 貴子 魏 強 浅川 満彦 石原 智明
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.919-926, 2004-08-25
参考文献数
29
被引用文献数
4 29

日本にはこれまでに2つの新型のBabesia microti様原虫(穂別,神戸型)が見つかっていたが,北米およびユーラシア大陸の温帯地域に広く分布する北米型の原虫についての報告はなかった.本研究では北海道および東北地方を調査し北米型の探索を行った.調べた野生小型哺乳動物の総数は10種197匹で,このうち,アカネズミ,エゾヤチネズミ,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ,エゾトガリネズミから,血液塗沫検査およびBabesia属原虫の小サブユニットrRNA(rDNA)とβ-tubulinの両遺伝子を標的としたPCRの陽性例が見つかった.陽性個体の血液を実験動物へ接種することにより得られた23株(アカネズミ16,エゾヤチネズミ4,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ各1)をrDNAとβ-tubulin遺伝子の塩基配列に基づいて型別したところ,20株の穂別型に加え,3株の北米型が見つかった.しかし,日本で分離された北米型原虫のβ-tubulin遺伝子は米国分離株のそれと同一ではなく,ウエスタンブロットでの抗原性も明らかに異なっていた.以上の結果から,北米型のB. microtiはわが国にも存在するが,遺伝子性状や抗原性は米国のものとは異なること,また,野生齧歯類だけではなく食虫目の動物も,わが国のヒトバベシア症病原体のレゼルボアとなる可能性が示唆された.
著者
川越 敏和
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.148-154, 2017-09-30 (Released:2017-12-07)
参考文献数
47

Many reports have associated aging with deterioration in a number of cognitive functions. These reports have also demonstrated the beneficial effect of physical fitness on cognitive function, especially executive function. Here, studies related to cognitive-physical association in older adults are reviewed and I also report our recent studies for such association. In our study, we utilized task-based and resting-state functional magnetic resonance imaging techniques. The mechanism of the relationship between physical fitness and cognitive function could be further investigated by functional brain network.
著者
石賀 裕明
出版者
ペドロジスト編集部
雑誌
ペドロジスト (ISSN:00314064)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.81-83, 2014

松江は水の都と呼ばれ,松江城を中心として堀や水路(かつての運河)がある。これは松江が中海と宍道湖という湖の中間に位置するため,歴史的に水運を活用したことによる。しかし,一方では土地が低いために,たびたび洪水に見舞われることが多かった。宍道湖には斐伊川が流入しており,現在でも大雨時に市内でも浸水することもある。1972年(昭和47)年7月の水害は規模も被害も大きかったと言われる。最近では2006年(平成18年)7月にも市内で浸水が生じた。斐伊川は江戸時代の初めまでは西に流れ日本海に直接注いでいたが,出雲平野の発達とともに流路を東に変え宍道湖に注ぐようになった。この結果,宍道湖は汽水湖となるとともに,中海へも大橋川を通じて塩分濃度の低い水塊が流入するようになり,環境の変化が生じた(徳岡ほか,1990)。このような斐伊川の河道変遷に関連するのが上流域で活発に行われた「たたら製鉄」である。宍道湖・中海の環境は河川上流の地質や人間活動と深くかかわりを持っていると言える。松江周辺は地層や岩石の露出が非常によく,車で20分の距離のところで日本海の海岸に到着できる。また,大山や三瓶山が近くにあり,自然の観察の場としては恵まれている。三瓶山の麓の「石見銀山」は2007年に世界文化遺産に登録された。島根では山陰・島根ジオサイト地質100選が進められネット上で公開されるとともに,2013年には「島根の大地 見どころガイド」として出版された。また,隠岐の島は隠岐ジオパークとして日本ジオパークネットワーク加盟認定後,2013年9月に世界ジオパークネットワークへの加盟認定がなされた。ここでは島根県東部の地質と資源,人間活動の歴史について触れることとする。
著者
井内 陽三 能方 州二 藤本 和晃 木戸 直人 高倉 美樹 荒木 祐佳 加持 優一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0979, 2004

【はじめに】在宅生活者へのリハビリテーションを行う中で、環境整備などを目的に経験的に「滑り止めマット」(以下、マット)を使用する機会がある。しかし、その使用に関しては経験的なものが多い状態である。今回、安価に購入できる市販のマットを使用しての動作で、その変化をみる比較検討とアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【対象】対象は、在宅生活を送る方で、起立動作が可能で、かつ3分間以上の連続した運動が可能な方。デイサービス、もしくは訪問リハビリを利用している45名(男13人、女32人、平均年齢75.26±9.95歳)。診断名は脳血管障害18名、骨関節疾患18名、その他9名(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、廃用性症候群)である。<BR>【方法】素足で畳面の上での起立動作を3分間施行。初回は、「滑り止めマット」(塩化ビニル・アクリルの素材)非使用で起立動作施行。1週間後、マットを使用して起立動作を施行。開始肢位は膝関節90度屈曲位となる坐位姿勢。その際、運動施行前後での脈拍の測定(30秒×2)、時間内での施行回数の測定を行う。また、マット使用と非使用時の感想の聞き取り、足趾変形もしくは爪肥厚の有無の調査を行う。<BR>【結果】脈拍の平均増加率は、マット非使用21.1±13.17回、マット使用21.5±13.83回。起立回数は、マット非使用34.4±15.98回、マット使用35.4±16.94回となり、マット使用の前後では、脈拍の増加率、起立動作の回数には有意差は見られなかった。アンケート調査に関しては、滑り止めマット使用に関して全体の68%が「足元が滑らないので安心」「立ちやすい」など肯定的な意見。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がある群では、67%で肯定的な意見が聞かれた。特に、足趾変形もしくは爪の肥厚を有し、脳血管障害による片麻痺、骨関節疾患があるものに対しては、肯定的な反応が得られた。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がない群でも、69%の方が肯定的な意見となった。<BR>【考察】今回の条件設定では、運動前後での身体変化に有意差は認められなかった。これは、運動負荷の時間設定が長く、疲労の蓄積が大きく影響したためと考える。しかし、アンケート結果からマット使用に関しては、約7割に肯定的な意見が聞かれる事から、動作の質的な部分に影響があったと考えられる。また、足指変形もしくは爪の肥厚がある群では、マット使用に関し肯定的な反応の割合が高いため足底把持能力となんらかの関係があると推察される。今後、質的な面にも着目し、在宅生活での起居動作能力向上に結びつくように、マット使用効果の検証、効果的な使用方法、有用な使用者の調査を進めていく。
著者
陶山 大志 永石 憲道 坂越 浩一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.161-166, 2012
被引用文献数
1 1

簡易な材質診断法である横打撃共振法によって, 松江城山公園のクロマツ240本について樹幹内部の腐朽・空洞面積率を推定した。本法の診断指標は樹幹直径<I>D</I>と樹幹打撃音の共振周波数<I>F</I><sub>r</sub>の積 (<I>D・F</I><sub>r</sub>値) である。あらかじめ (1) クロマツ健全木30本について本法の測定と伐採調査を行い, 診断基準となる健全木の<I>D・F</I><sub>r</sub>値の平均値と範囲を明らかにした。 (2) 同健全木の円板を用いて空洞面積率と<I>D・F</I><sub>r</sub>値の減少率の関係を明らかにした。本公園の調査木について地上高1 mで本法の測定を行い, (1) (2) の情報に基づき推定腐朽・空洞面積率<I>R</I><sub>iv</sub>を求めた。この結果, <I>R</I><sub>iv</sub>が1&sim;30%は40本 (17%), 30&sim;59%は6本 (3%) であった。本法の精度を評価するため, 27本についてレジストグラフを使用した貫入抵抗法によって推定腐朽・空洞面積率<I>R</I><sub>rg</sub>を求め, 3本について伐採して地上高ごとに実測腐朽・空洞面積率<I>R</I><sub>am</sub>を計測した。<I>R</I><sub>iv</sub>は<I>R</I><sub>rg</sub> (<I>r</I>=0.88) と<I>R</I><sub>am</sub> (<I>r</I>=0.80) の両者との間に高い正の相関が認められたことから, 本法によってクロマツ樹幹内部の腐朽・空洞面積率を推定できることが示された。