著者
小田 光宏 堀川 照代 間部 豊 庭井 史絵 仲村 拓真
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

学校図書館職員(司書教諭,学校司書)に求められる技能(知識・技術)に対して,資格教育の内容が十分であるかどうか,また,資格教育で扱われる内容は,求められている技能と乖離していないどうかを解明する研究を実施した。具体的には,資格教育で使用されるテキストブックの分析,資格教育の担当者への聴取調査,司書教諭への聴取調査,学校司書への聴取調査行い,結果を統合的に分析した。結論として, 司書教諭に求められる技能は,資格教育で獲得できるものの一部に乖離が見られること,また,学校司書に求められる技能は,資格教育において不足するものがあり,乖離が大きいことを導き出し,得られた示唆についての意義を検討した。
著者
杉本 耕一
出版者
関西大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度の研究では、これまでの準備を踏まえて、鈴木大拙や田辺元、西谷啓治といった京都学派周辺の近代日本の哲学者・思想家の宗教思想について、それぞれの立場からの道元解釈を検討することによって明らかにする研究に集中的にとりくんだ。北陸宗教文化学会のシンポジウム「鈴木大拙『日本的霊性』の現代的意義」での提題をもとに執筆された論文「「霊性」再考」では、近代日本の代表的な禅思想家で京都学派との交流も深かった鈴木大拙と道元との関係を考察した。そこでは、鈴木大拙の禅思想と道元の禅思想とのずれを指摘することを通して、道元の立場から見た鈴木の思想の問題点と、現代においてそれを読み直す可能性とについて考察した。日本宗教学会における口頭発表「道元解釈から見た西谷啓治の禅哲学」では、西谷の講話『正法眼蔵講話』を、他の研究者による『正法眼蔵』解釈と対比しながら読み説き、西谷の解釈の独自性と問題性とを指摘した。そしてそこに、西谷の宗教哲学そのものの独自性と問題性とを探る道を開いた。『倫理学年報』に掲載予定の論文「道元の「行」と田辺元の「行為」」は、昨年度の口頭発表に手を入れて、論文の形に仕上げたものである。口頭発表「衛藤宗学と京都学派の哲学(二)」は、昨年に続く口頭発表であり、衛藤即応の曹洞宗学と京都学派の宗教哲学とに触れつつ、近代日本の仏教思想の多様性を描いた。これらの研究においては、各所で西田幾多郎の思想に言及されており、京都学派周辺の他の禅思想家との対比を通して、西田の思想的独自性が浮び上がらされている。その他、今年度の研究成果としては、以前執筆した英語論文"Tanabe Hajime's Logic of Species and the Philosophy of Nishida Kitaro"が、論文集に収録され、海外の読者に入手しやすい形で公刊されたことも特筆しておきたい。
著者
長澤 多代
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は,大学教育における教員と図書館員の連携という観点から,クイーンズ大学及びエッカード・カレッジのケース・スタディを完成させ,すでに明らかにしたケースのモデルも含めて比較分析をすることである。クイーンズ大学については,文献調査に加えて,2012年度から2014年度までに3度の訪問調査を行い,関係者への聴き取りや観察調査によって得たデータや内部資料をもとに,教員と図書館員の連携構築のモデルを構築している。エッカード・カレッジについては,訪問調査がかなわなかったために,文献調査に加えて,元図書館長への聞き取りを行った。以上の調査で得たデータをもとに,ケース間の比較分析を進めている。
著者
早川 尚男 川崎 猛史 齊藤 国靖 大槻 道夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017度は4回研究メンバー全員が集まった研究成果発表会を開き、そのうちの一回はアメリカのO'Hern教授を招いた国際会議形式を取り、本研究課題を推進した。出版論文は13(謝辞記載有りは11)であり、投稿中のプレプリントは4本である。これらの数は昨年並であるが、High Impact Factorへの発表論文が2つあり、そのうちの1本は日経新聞をはじめとした各種メディアに大いに取り上げられて注目された。国際会議の招待講演は5件(全て海外)、国内の招待講演は5件であった。主な研究成果として(1)シアシックニングの運動論をある程度濃いサスペンションへの適用の成功, (2) ジャミング点近傍でのサスペンションレオロジーの理論の発展、(3) シアジャム状態のプロトコル依存性の明示とシアシックニングとの関係の明示、(4)粘着性粉体のレオロジー;特に凝集不安定性、(5)粉体パイルの緩和 (6) パッキングへの摩擦のサイズ分布の影響、(7)剪断粉体系での異方的なエネルギースペクトルの緩和、 (8)摩擦のある粉体ジャム系でのシアモディラスの不連続な変化等を明らかにした事等が挙げられる。その他、非ガウスゆらぎの量子系への適用、幾何学的位相がある場合に非断熱的効果によってOnsager関係式が破れる事にも成果を挙げている。その他、現在研究が進展中でかつ論文執筆準備中の研究内容は非ガウスノイズの影響を受けた多体問題と2体有効相互作用に関する理論的研究、粉体環境中のトレーサー粒子間に働く有効相互作用、摩擦のある系のシアシックニングの理論等である。
著者
田中 善一郎
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

1947年から2009年までに実施された参議院選挙について、個々の選挙が実施された背景、各党の立候補者の数や選挙出場回数、当該選挙時の世論調査の状況と事前予測、選挙の投票率と都市部と農村部の投票率の違いについて分析を行った。さらに、選挙の結果については、各党の得票数、得票率、獲得議席数と議席率などについて、地方区(または選挙区)と全国区(比例区)とに分けて、特に前々回との比較や地域別傾向を分析した。参議院選挙は、衆議院選挙に比べて、第一党への集中度が大きくなく、その結果として、参議院は衆議院に対して、「抑制と均衡」の機能を果たしてきたことが明らかとなった。
著者
喜田 宏 伊藤 壽啓 高田 礼人 岡崎 克則 河岡 義裕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

シベリアの水禽営巣地ならびに北海道で採取した野鳥の糞便からインフルエンザウイルスを分離し、シベリアに営巣する水禽が様々なHA亜型のインフルエンザウイルスを保持していることを明らかにした。NPならびにH5HA遺伝子の系統進化解析の結果、1997年に香港のヒトとニワトリから分離された強毒H5N1インフルエンザウイルスの起源がこれらの水禽類にあることが判った。したがって、今後ヒトの間に侵入する新型ウイルスのHA亜型を予測するため、シベリア、アジアを含む広範な地域で鳥類インフルエンザの疫学調査を実施する必要がある。北海道のカモから分離した弱毒H5N4ウイルスを用いて強毒H5N1ウイルス感染に対するワクチンを試製し、これが有効であることを示した。そこで、疫学調査で分離されるウイルスは新型ウイルス出現に備え、ワクチン株として系統保存する計画を提案した(日米医学協力研究会2000、厚生省1999)。中国南部のブタにおける抗体調査の結果から、H5ウイルスの感染は少なくとも1977年から散発的に起こっていたことが判明した。一方、H9ウイルスは1983年以降に中国南部のブタに侵入し、その後ブタの間で流行を繰り返していることが判った。
著者
石崎 保明
出版者
名古屋産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、これまで扱われることの少なかった特に近代英語期以降の口語的資料における句動詞の使用の実態に焦点を当て、その文献学的・時代的背景を考慮しながら詳細に調査し、それらを認知言語学において標準的に採用されている用法基盤モデルの観点から説明することにより、歴史言語学における言語変化理論に対して貢献を図ることである。本研究最終年度となる今年度は、電子コーパス等に収められている口語体で書かれた初期および後期近代英語を中心に調査を進めながら、個々の事例に対して用法基盤モデルの観点から考察した。具体的には、英語表現のイディオム化には、少なくとも、語彙化に由来するものと文法化に由来するもの2種類があり、ともに用法基盤モデルの観点から自然な説明が可能であることを示すことができた。初期近代英語期から後期近代英語期にかけてのoutを含む句動詞の歴史的発達の傾向については、第50回名古屋大学英文学会のシンポジウムで公表し、outを含む句動詞における動詞と副詞の結合の仕方やその結合度のより詳細な歴史的発達については、3年に一度開催される英語の語彙の歴史的発達を射程においた国際会議(The Third International New Approachesin English Historical Lexis Symposium、於ヘルシンキ大学)で口頭発表した。特に後者については、同じく後期近代英語期に発達したoutを含む句動詞であっても、その発達の種類が個別事例により異なり、例えば'to start'を意味するset outは、一見したところ語彙化由来のイディオム化の事例にみえるものの、実際には文法化に導かれたイディオム化の事例であることを論証した。また、用法基盤モデルに基づく英語の歴史的発達に対する分析の妥当性については、語彙の歴史的意味変化を扱った研究書を書評した中でも触れた(2編の書評論文の内1編は、2012年6月に刊行予定である)。
著者
名取 一好
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の結果、「日本版デュアルシステム」の指定を受けた多くの地域・学校において、生徒のキャリア形成や職業・進路選択に本 事業の成果が認められた。しかし、やむなく縮小や休止・中止せざるを得ない状況も多くの地域・学校において認められた。事業を担当した特定の教員の多大な負担、生徒の保険費用や移動のための予算確保の難しさ、本事業を就職先確保の手段として考えている学校もあることから、実習先の事業所等の確保の難しさ、事業を担当した教員や校長の移動等に伴う校内体制の整備等の難しさなどがそれらの理由として明らかとなった。 一方、指定地域や学校の中には、本事業を縮小したものの、中核事業として高大連携、地域産業の担い手育成などを組み入れたカリキュラム改革を行い、単に生徒の専門技術の向上のみならず、高等教育機関への進路意識の醸成など伴った総合的な職業・キャリア教育を実施して大きな成果を上げている学校等もあることが認められた。また、本事業の推進は、地方自治体による単独事業としてのデュアルシステム導入を促すなど、一定の役割を果たしたと評価できるが、専門高校における職業・キャリア教育のさらなる発展を図る上で、「日本版デュアルシステム」を教育課程上に位置づけるなどの施策も今後の課題であろう。
著者
鈴木 光太郎
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、実験心理学における空間知覚の諸問題の歴史をたどり、西洋の近世哲学の問題意識が、近・現代の実験心理学にどのように引き継がれたのかを明らかにすることを目的とした。研究では、17・18世紀の哲学者が「モリヌー問題」や「倒立網膜像問題」などの問題をどのようにとらえていたかを明らかにした上で、そこで措定された問題に答える形で、実験心理学者が「先天盲の開眼手術」の研究、「逆さメガネ」や「顔面視」の実験を行なったという経緯を明らかにした。
著者
齋藤 智寛
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

後世の禅宗諸派で祖師と仰がれた六祖慧能の言行録『六祖壇経』と、その関連資料についての考察をおこなった。特に『壇経』に収録される詩歌に着目することで、本書の成立問題と、本書の「心」や「本性」に関する考え方を検討した。その結果、『壇経』の散文部分と詩歌の部分とがしばしば不整合であり編集の痕跡を残すこと、「鏡の臺」や「心地」などの比喩表現が同時代の禅僧とはややちがった『壇経』独自の心性論を反映していることが明らかになった。
著者
小曽根 淳
出版者
亜細亜大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

我が国では、17世紀半ば頃オランダから伝わった測量術を紅毛流と称してきた。主な特徴は、平板上の用紙に現実の距離関係の縮図を描き、相似比を用い実際の距離を求める。言い換えれば、三角法でなく作図を用いて二点間距離を求める訳である。その紅毛流測量術伝来に関する定説は、「1650年頃、オランダ人外科医カスパルが、長崎の樋口権右衛門に伝えた」というものである。しかし、調べてみると「1650年に砲術手ユリアンが、江戸の幕臣北条氏長達に伝えた」ことが明らかとなった。更に、オランダ商館長への商務員報告に驚くべき記述がある。1650年、幕臣達に伝えられたのは三角測量であった、というものである。ユリアンは幕臣達にsine,tangent,secantの表を写させ、「90ページの数字ばかりの小冊子」を用いて応用計算を教えた。その原本を求めオランダを訪れたが、それは三角関数表であった。すると三角関数表伝来の歴史が80年程早まり、和算史や測量術史が直接的な影響を受けることになる。今後、それを詳しく検討したい。オランダ人による三角関数表伝達は、その時点では受容されなかった可能性が高い。角度の概念を持たぬ幕臣達は、三角関数表を用いた応用計算を思うように理解できなかったからである。測量術史における平板測量と三角測量との違いは、原理的には相似法と三角法の違いにあるが、幕臣達だけでない多くの江戸人もその狭間で苦しんだ。この事例は三角法を苦手とする生徒達への対応に際して、示唆を与えてくれるように思われる。三角比導入の一つの方法は、任意の二つの相似な直角三角形での隣接二辺の比の不変性によるが、そう考える必然性を説得力ある豊かな内容で教える工夫が求められる。本研究では・紅毛流の起源について定説を覆す展開を得た。一方、それを含めると教育的、科学史的意義の解明には新たな展開の可能性があり、今後の課題としたい。
著者
草野 剛
出版者
垂井町立表佐小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

中1ギャップの解消のために、同じ中学校へ進学する小学生を対象としたスポーツ交流会を平成21年度より行ってきた。本研究では、こうした小学校区を越えたスポーツ交流が中1ギャップの解消に及ぼす効果について検証したい。スポーツ交流会(ドッチビー大会)の前後に参加者の児童を対象に質問紙調査を行い、スポーツ交流が中1ギャップの解消に及ぼす効果について検証をした。質問紙については、南ら(2011)の中学校生活予期不安尺度を使用した。期待尺度については、草野(2002)をもとに新たに作成した。ドッチビー大会参加児童全員に質問紙調査の趣旨と手続きについて了解を得て、調査に協力していただいた。有効回答数は112名(有効回答率84.3%)であった。期待得点、社会・文化不安得点、対人関係不安得点のそれぞれについて、対応のあるt検定を行った。期待得点については、t=-4.26, df=111, p<.01で、統計的に優位な差が見られた。スポーツ交流会は身体運動や情動反応を伴うので、不安や緊張を低減したことも影響していると考える。社会・文化不安得点についてもt=-2.79, df=111, p<.01で、統計的に優位な差が見られた。また、対人関係不安得点についても、t=-2.66, df=111, p<.01で統計的に優位な差が見られた。このスポーツ交流会は中学生が進行しており、情報的サポートを得ることで不安が低減されたとも考えられる。また、スポーツ交流会後の児童の感想(自由記述)では、「友だちができた」「どんな子が来るかがわかった」という友人関係の広がりについての記述が多く見られた。また、「中学校での生活について分かった」「中学校の勉強のことも聞けた」というように中学校生活についての情報的サポートを受け、不安が解消したという感想もあり、移行期不安の低減に効果があったと考えられる。
著者
井上 まどか
出版者
清泉女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ソ連崩壊後のロシア連邦において、宗教文化教育を公教育に導入するという試みが実現化した。ロシアの宗教文化教育を分析する本研究は、ソ連崩壊後のロシアにおいて「伝統宗教」とされる諸宗教が、いまなお、人々を結束させる機能を求められていること、つまり、統治と深く関わりがあることを明らかにした。また、今日のロシアにおいて、「ロシア人論」と宗教をめぐる言説とが深く結びついていることを明らかにした。
著者
東 正剛 三浦 徹 久保 拓弥 伊藤 文紀 辻 瑞樹 尾崎 まみこ 高田 壮則 長谷川 英祐
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究プロジェクトにより、スーパーコロニー(SC)を形成するエゾアカヤマアリの感覚子レベルにおける巣仲間認識と行動レベルでの攻撃性の関係が明らかとなった。このアリは、クロオオアリの角で発見されたものと同じ体表炭化水素識別感覚子を持ち、巣仲間であってもパルスを発しており、中枢神経系で識別していると考えられる。しかし、SC外の他コロニーの個体に対する反応よりは遥かに穏やかな反応であり、体表炭化水素を識別する機能は失われていないと考えられる。また、SC内ではこの感覚子の反応強度と巣間距離の間に緩やかな相関関係が見られることから、咬みつき行動が無い場合でも離れた巣間では個体問の緊張関係のあることが示唆された。敵対行動を、咬みつきの有無ではなくグルーミングやアンテネーションなどとの行動連鎖として解析した結果、やはり咬みつきがなくてもSC内の異巣間で緊張関係が検出された。さらに、マイクロサテライトDNAを用いて血縁度を測定したところ、SC内の巣間血縁度は異なるコロニー間の血縁度と同じ程度に低かった。巣内血縁度はやや高い値を示したが、標準偏差はかなり大きく、巣内には血縁者だけでなく非血縁者も多数含まれていることが示唆された。これらの結果から、SCの維持に血縁選択はほとんど無力であり、恐らく、結婚飛行期における陸風の影響(飛行する雌は海で溺死し、地上で交尾後、母巣や近隣巣に侵入する雌が生き残る)、砂地海岸における環境の均一性などが多女王化と敵対性の喪失に大きく関わっていると結論付けられる。
著者
佐藤 俊幸
出版者
東京農工大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

チクシトゲアリ(Polyrhachis moesta)は樹上性のアリで、秋に結婚飛行を行い、交尾して翅を落とした女王が枯れ枝中の空洞で越冬し、翌春産卵を開始する。その際、50%近くの巣が複数の女王で構成され、女王どうし口移しの栄養交換さえ行うが、それらに血縁はないことがDNA指紋法により確かめられている(Sakaki,Satoh and Obara,1996)。女王間には餌交換行動や共同育児といった協力行動がみられる。しかし、成熟した巣は多くの場合単女王であることから、多雌創設巣の女王は巣の成熟過程で一個体をのぞき除去されるか、あるいは別の場所へ分かれていくものと推定される。では、なぜ多雌創設が進化したのだろうか?女王の体サイズ、生体重には単雌、多雌創設に関わらず有意差はないことが分かった。創設女王数の頻度分布がポアソン分布の期待値と一致していたことと考え合わせると、創設女王は個体の体サイズやボディコンディションに関係なくランダムに出会ったものどうしで多雌巣を形成していることが示唆された。また、多雌創設巣の女王は、より早く産卵を開始し、より多くのワーカーを育て上げられることが分かった。コロニーの初期の成長速度を速めることは、種内・種間の資源を巡る競争や補食圧の回避を考えると大変重要である。おそらく、野外においても単雌創設より多雌創設の方が、女王あたり期待される繁殖成功率は高いか、悪くても下回らないのではないかと考えられる。ただし、複数いる女王の全てがそのコロニーの女王としては残れず、次第に数が減少していくので、全ての女王が積極的に多雌創設を行うわけではないと考えられる。この種の多雌創設は、出会ったらする、出会わなかったらしない、という日和見的なものではないか。
著者
高木 眞佐子
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

これまでキャクストン版『イングランド年代記』に書誌学上もっとも近い写本とされてきた、大英図書館所蔵のBL Additional 10099写本の大部分が、実際には印刷本からコピーされた写本と見られる有力な証左を得た。この研究は、カリフォルニア州サンマリノのハンティントン図書館所蔵のHM136写本が、キャクストン版の印刷用原稿である可能性を濃厚に示す証拠を写本上に示したDaniel Wakelinの発見に有力な理論的根拠を与えることになった。結論としてProse Brut研究において100年定説になっていたBL Additional 10099写本の重要性は根底から覆り、HM136の重要性に新しいスポットが当たるようになった。
著者
大石 時子 柳原 真知子 柳原 真知子 恵美須 文枝 山村 礎
出版者
天使大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ピアエジュケーションの中から中高大学生のセイファーセックスネゴシエートの実際の言葉を抽出し、これらの抽出された認識や行動のパターンと大学生への意識調査の結果等を基本に、大学生ピアカウンセラーを養成するための、8パターンのロールプレイ用演劇シナリオを完成した。また大学生への意識調査からセイファーセックスネゴシエートに関する大学生ピアカウンセラー養成前後の教育効果を計る自己効力感の尺度を作成した。
著者
滑川 亘希
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究では、災害時などライフラインが寸断された緊急時においても、透析患者の応急処置が可能な尿毒素除去フィルターの開発を目的として、尿毒素を吸着するゼオライトを導入したスマートナノファイバーコンポジットを作製した。ファイバーのベースとなる高分子には血液適合性に優れる高分子(EVOH)を用い、電界紡糸法で製膜した。作製したファイバー内には製膜時に配合したゼオライトの90%以上が導入できた。尿毒素の一つであるクレアチニンを馬血清から除去することに成功した。このようなコンポジット材料は、血液浄化材料のほか、配合する吸着粒子を変えることで様々な分子を吸着する不織布として応用できる。
著者
田村 栄子
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,ヴァイマル共和国とナチス時代に、医師および医療の活動がどのように行われたかを社会史的に考察することを目的として進められ、以下の研究成果をえた。1.ドイツ医学界においては、19世紀から医師資格をもたない、自然治癒医療が盛んであったが、ヴァイマル時代に国民の間で、専門教育を受けて国家試験に合格した医師(「学校医学」)への不信が強まり、自然治癒医療者に頼る傾向が強まった結果、「学校医学」の側に強い「医学の危機」意識が生じた。2.また医学生の増加や世界恐慌の影響により、医師の就職難も生じた。ドイツ医師協会は、危機への対応として、ユダヤ系医師・女性医師を排除する方向を強めて、自然治癒医療に接近してナチスへも接近していく。3.他方、自然治癒医療の側は、様々の医療的・文化的団体を作って、民族の全体性の視点からナチスに接近していく。4.医師のなかで10%に満たない女性医師は、1924年に「ドイツ女性医師同盟」を結成して、民衆の心によりそう活動を展開した。とりわけ女性医師は、労働者層の女性の個人の状況に共感して、妊娠中絶を禁止した刑法第218条廃止の闘いに取り組み、ナチスへの抵抗力にもなった。5.ナチス政権は、社会主義系・ユダヤ系医師の排除に乗り出し、病気の予防や健康指導に力を入れた。6.生活習慣と病気の関連が注目され、自然治癒医療が「新ドイツ治療学」として国家的政策に取り入れられた。7.「学校医学」の側の医師の45%はナチス党員であったことに示されるように、医師は、ナチスの断種法の実施、安楽死政策に関与した。第二次大戦下、自然治癒療法は背後に退き、「学校医学」が前面に出て、彼らは、強制収容所における人体実験、ホロコーストなどナチス犯罪の最前線を担った。
著者
花川 隆
出版者
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

タイミングの認知と生成は系列行動の最も重要な基本要素の一つである。タイミング認知・生成に関わる脳領域と領域間の機能連関を明らかにするため、健常成人14名においてfMRI研究を行った(Aso et al. in press)。被験者は、数百msの刺激間隔(ISI)で提示される視覚刺激のISI長短判定(タイミング認知)、提示された刺激のISIを二回のボタン押し運動として再生(タイミング再生)する課題を行った。対照条件として、視覚刺激のサイズの大小判定課題とボタンの即時押し課題をそれぞれ用いた。fMRIは3テスラ装置を用いたエコープラナーイメージ撮像により行った。タイミング認知と再生は、それぞれの対照条件との比較において、共通して前頭前野、島皮質、下頭頂葉から上側頭回、小脳の有意な活動増加を伴った。また小脳の活動はタイミング認知課題において右半球、タイミング再生課題において左半球でより著明であった。これら小脳のタイミング認知・再生における活動は、大脳皮質と小脳が形成する神経回路の機能を反映すると仮定し、小脳の活動部位をシード領域として用いるpsycho-physiological interaction解析を行った。その結果、小脳活動との相関が課題依存性に変化する部位としてSMAが同定され、このSMA領域はタイミング認知課題の際に右小脳と、タイミング再生課題の際に左小脳と大きな相関を示していた。タイミング認知と再生機能に、SMAと小脳の機能連関が重要であることが示された。この結果は、タイミングの認知と生成がともにSMAと小脳が構成する神経回路の機能に依存していることを示唆する。再生の場合、SMAが生成する運動計画指令に基づき、小脳が次に運動を生成すべきタイミングを予測していると考えられるが、タイミング認知の際にも同じ回路が使われていると解釈できる。