著者
河野 龍也
出版者
実践女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

佐藤春夫は近年、「アジア文学」研究の立場から注目を集めているが、基礎研究の不足から全体像のつかみにくい作家となっている。国際研究の場における情報共有のために、一次資料を整理することが急務である。そこで本研究では、未調査のままであった春夫の書簡やノートの翻刻を行うとともに、春夫のアジア紀行に関する詳註を作成することで、彼のアジア理解と、文学者としてのアイデンティティ形成の淵源について考察した。
著者
植月 惠一郎 松田 美作子 山本 真司 伊藤 博明 木村 三郎 出羽 尚
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近代初期英国文学とエンブレムの関係を明らかにした。シェイクスピア劇や十七世紀英詩を対象に、キリスト教的起源の聖なる図像、モットー、警句と多神教の異教や土着の習俗起源の世俗的な図像、モットー、警句の絶妙な絡み合いから文学の豊饒な表現が生まれた過程を研究した。一方で地理的にも視野を拡大し、ドイツ、フランス、オランダなどを中心とする当時の文化的先進国のエンブレムが、英国のエンブレムに与えた影響も研究し、時間的な視野も拡げ、図像と警句の関係は、十八~十九世紀の挿絵と物語の関係にも転じ、エンブレムの時間的変移も研究した。
著者
前川 修
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は、まず二〇世紀後半のヴァナキュラー写真資料調査をし、世界各地で関催されつつあるヴァナキュラー写真展を概観する作業を行った。またこれとともに、理論的枠組みとしてのヴァナキュラー写真論の起源をいくつかの言説において検討した。まず、ポストモダン以降の写真論(アラン・セクーラ)を手掛かりに、ヴァナキュラー写真を含めた写真の機能を論じるための理論的核(論文「セクーラの写真論」、)。また、ポストモダンの写真論が、モダニズム的議論の行き詰まり、そしてその遠因であるメディア相互(絵画、写真、ヴィデオ)の摩擦とも言える状況に由来すること、つまりヴァナキュラーなイメージの相互参照の次元から生じていることも明らかにした(発表「メディア論の憑依」)。第二に、ヴァナキュラー写真の身体とイメージ=物とのかかわりについて、先行する研究(ハンス・ベルティング)を参照しながら、イメージの力学が陥りがちなある種の形而上学を批判的に検討しながら、写真におり重ねられる記憶や身体の次元を詳細に検討した(論文「物としての写真/写真としての物」)。第三に、従来、モダニズム写真論(写真史)の権威とみなされている写真批評家ジョン・シャーカフスキーの言説を読解し、彼の理論の影響関係を掘り起こし、コーウェンホーヴェンやジョージ・キューブラーなどの「ヴァナキュラー文化論」や「物の歴史」がシャーカフスキーの論の根底に深くかかわっていることを明らかにした。
著者
土田 玲子 加藤 寿宏 日田 勝子 太田 篤志 岩永 隆一郎
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

4歳から10歳までの発達障害児(DSM-TRによる学習障害-LD-、運動能力障害-DCD-、コミュニケーション障害-CD-、広汎性発達障害-PDD-、注意欠陥-ADHD-のいずれかの診断に属する者)36名に対し、新しく開発された日本版感覚統合検査(JPAN)および南カルフォルニア感覚統合検査(SCSIT)等、関連する発達検査のデータを収集し、その関連性(妥当性)、識別性について検討した。その結果、SCSITとの関連については、発達障害児データの81%が障害カテゴリーに入ることが示され、その妥当性が確認された。さらに、発達障害児群をPDDと非PDD群に分けて分析すると、IQに関しては両群に差異が認められないにもかかわらず、PDD群に有意に姿勢、平衡機能、行為機能、視知覚、目と手の協調運動の問題が大きく認められた。ゆえに、JPANは従来の知能検査では捕らえることのできない発達障害児の感覚運動機能の障害を明らかにできる妥当性が高い検査であることが示唆された。今後の課題として、障害児データ数が目標数に達しなかったため、さらに時間をかけて本研究を継続する必要があることがあげられる。
著者
松下 慶太
出版者
実践女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

調査結果から勉強カフェにおける社会人たちの学習を支援しているものは、学習者を中心としたつながりが大きく機能していることが示された。また、そのつながりは毎日顔を合わせて学習を推進していくような「強い紐帯」というよりも緩やかな「弱い紐帯」であると言える。また、こうしたネットワークの構築には勉強カフェのスタッフが大きな役割を占めていることが示された。
著者
高橋 幸雄 三好 直人 山田 孝子 藤本 衡
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

混雑システムを構成するインテリジェントな客の例として,本研究では最終的にa)交差点の歩行者,b)電車内の客,c)インターネットの利用者をとりあげ,それぞれについて,全くといってよいほど異なったアプローチからのモデル化およびシミュレーションプログラムの作成を行った.現在,それぞれ論文にとりまとめる作業を行っている.a)交差点の歩行者については,自分の速度によって決まる情報空間(視野)の中に入る対向者の速度と向きから,その対向者との衝突可能性を予測し,衝突を避けられる範囲で最も効用の高い速度と向きで歩く,という基本コンセプトでモデル化した.シミュレーションにより歩行者密度と平均歩行速度の関係を求めたところ,実際の歩行流に対して観測した従来の研究結果とよく合致することが確認された.b)電車内の客については,他人との近さおよび他人の視線を主に,他人から受ける影響をポテンシャル関数の形でとらえ,これに降りるときと乗るときのインセンティブを加え,各客が自分のポテンシャルを最小にするように振る舞うものとして,モデル化をし,シミュレーションプログラムを作成した.ここではa)のような行動予測は全く入っていない.このモデルにしたがって客の乗降に必要な時間を計測したところ,電車の混雑率と乗降客数によって.その時間が興味深い動きをすることが確認された.c)インターネット利用者については,http通信データをもとに,個人行動を考慮に入れたモデルを構築した.結果から見ると,ここでは個人の動向よりも,クライアントやサーバ側の事情というのが,ネットワークの混雑状況により大きく関係していることが観察された.
著者
三好 重明 三松 佳彦 高倉 樹
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

葉層構造は可積分接平面場であるが,1 次元接平面場に,より強い可積分条件を課した完全積分可能なベクトル場に関し,閉葉の位置の問題に関する研究を行った.即ち,3 次元開多様体内に与えられた絡み目を平面への沈め込みの 1 点の逆像として実現する問題に関し,その為の必要十分条件を与え,さらに結び目の場合にその古典的な不変量による記述を与えた.完全積分可能なベクトル場に横断的な 2 次元葉層構造は Thurston の不等式を自然に満たし,開多様体上のそのような自然な族を与える.開多様体上で Thurston の不等式を満たす葉層構造を考察する為の一つの自然な雛形を与えると期待できる.
著者
投野 由紀夫 根岸 雅史 相川 真佐夫 寺内 一 中谷 安男 奥村 学 金子 恵美子 能登原 祥之 石井 康毅 内田 諭 和泉 絵美 大羽 良
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本科研の目的は日本人英語学習者の英語力に関する到達指標の提案およびそのレベル別言語材料の科学的な整備である。これを行うことで、シラバス開発、教科書・教材・タスク開発、テスト開発などに資する一貫した英語資料を提供できる。指標に関してはCEFR-JというCEFR準拠の英語汎用枠に基づいた。言語材料配当は、CEFR準拠教科書コーパス・学習者コーパスを独自に構築し、500以上の文法事項、テキスト特性、エラー特性に関してコーパス解析と機械学習の手法を用いて調査し、文法、テキスト、エラーの各プロファイルとして整備した。
著者
高井 正三 藤本 幸夫
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目標は,刻手及び印影画像と古文書の写真画像を現行データベースに組み込めるよう,DBシステムを再編成し,画像データを追加して,Ajaxによる画像データベース検索ツールを研究開発することである.この目標を達成するため,(1)入力した写真画像は4,561枚,フィルム画像は11,135枚で,この古文書・絵画等からの刻手・印影画像の切り出しとAjax用の画像の細分化を実施する予定であったが,刻手の版心部の画像は通常山折りになっている部分の記号であり,半分の画像しか得られていないこと,この画像と刻手の同定が不可能に近いこと.また,所蔵者の印影は原文画像との重なりが多く,入力した原文画像からの切り出しが困難であること.絵画に多く押印されている著者印の印影については,逆に日本現存朝鮮古書との関連付けが困難なことが判明し,今日まで藤本幸夫氏が蓄積してきた日本現存朝鮮古刊本刻手名データベースを作成し,これに今後刻手関連画像を連携させることとした.(2)Ajax技法によるUnicode入力支援ツールは完成したので現行の日本現存朝鮮古書データベース・システム(DOKB)に組み込み,実運用している.(3)Ajax技法による検索語類推表示システムは試作品が完成し,DOKBシステムの更新に合わせて組み込む準備ができている.(4)Ajax技法による画像検索ツールは試作版が完成し,画像データベースの本格稼働に向けてシステム開発を進めている段階である.研究成果は学術情報処理研究,電気関係学会北陸支部連合大会の他,「Ajax技法による日本現存朝鮮古書DB入力援と画像DBシステムの開発」という論文を富山大学総合情報基盤センター広報Vol.5に公表した.改訂版DOKBシステムにはAjax漢字入力支援システムが組み込んである.なお,Unicodeの拡張Cの進捗を見極め,Ajaxの有効性を探るため,第30,31回国際化Unicode会議に出席し,DOKBシステムに関するレビューと意見交換を行った.
著者
廣森 直子
出版者
青森県立保健大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

現在、高い専門性が求められつつも、十分な労働条件や社会的地位が得られていない「専門職」も多く、そのような傾向は女性が多くの割合を占めている専門職でより顕著である。本研究では、司書と栄養士を事例として取り上げ、専門職として女性がいかにキャリア形成しているのか、あるいはできないでいるのか、またそれを支える専門性とは何かについて、専門職として働く女性と、資格を取得しながらも専門職として働いていない女性(潜在専門職)を対象にインタビュー調査を行い、実証的に明らかにした。
著者
金田 千秋 加藤 哲弘 島本 浣 山田 俊幸 及川 智早 佐藤 守弘 石田 あゆう 岸 文和 前川 修 中谷 伸生 橋爪 節也 鈴木 廣之 太田 孝彦 石田 美紀
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、大正期に流通していた大衆的な視覚表象に関する2つの課題を、豊かな対話関係において、遂行するものである。すなわち、第1の課題は、大衆的な視覚表象が果たしていたメディア的な機能の多様性を、可能な限り広範な資料に基づいて、美術史学的に明らかにすることである。第2の課題は、「文化遺産」の概念を鍛え上げることによって、何らかの大衆的イメージが後世に継承される/るべきさいの条件・方法などを、美学的に考察することである。
著者
塩谷 圭吾 中川 貴雄 小谷 隆行
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本応募研究の目的は、系外惑星の直接観測による大気分光という重要課題にのぞむため、赤外線宇宙望遠鏡に搭載する極低温デフォーマブルミラーを開発実証することである。デフォーマブルミラーの駆動方式には、Micro-Electronic Mechanics System (MEMS)方式を採用した。そして冷却時の最大の問題である熱応力を考慮した設計を行い、極低温(5K)で動作する多素子(1000素子)のDMを制作、試験することができた。
著者
前田 稔
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

病院患者図書館の現状に関する調査活動について、全国の病院に対するアンケート調査を行った。この調査は約5年ごとに行ってきた調査であり、今回は5300病院を対象に行った。調査項目は下記である。①図書室や本棚の設置状況(a.患者用独立図書室あり b.患者図書室検討中 c.図書室的機能をもつ患者用図書コーナーあり d. 医療従事者用医学図書室あり e.医学図書室の患者開放 f.患者向け本棚なし)②患者向けの図書室や本棚の利用対象(g.入院患者 h.通院患者 i.家族や付添人 j.院外市民 k.職員)③患者向け図書提供と関わるかたはどなたですか(l.司書 m.医師 n.看護師 o.医師看護師以外の医療系職員 p.事務系職員 q.病院OB r.院内ボランティア s.院外団体からの支援 t.公立図書館 u.委員会等で合議 v.近隣病院と連携 w.図書担当者なし x.他)④患者向け図書の運営(y.院内貸出 z.院外貸出 a.病棟へ巡回配本 b.貸出手続きあり c.図書を分類整理 d.分類ラベルの貼付 e.担当者の常駐 f.蔵書目録(リスト)の作成 g.読み聞かせ h.小児看護のプレパレーションで利用 i.他)⑤患者向け院内提供資料(j.闘病記 k.医学専門書 l.健康関連書 m.一般書 n.絵本・児童書 o. 漫画 p.新聞 q. 雑誌 r.パンフ s.独自制作資料 t.映像音声資料 u.ネット端末 v.アプリ w.他)⑥通話外のスマートフォン・タブレットと患者(x.病床での使用可 y.待合室での使用可 z.利用区域で使用可 a.院内禁止 b.端末を貸出 c.患者用院内無線LANあり)アンケート結果に関しては現在集計中であるとともに、集計中に調整点が判明したため、現在調整中である。今後、集計結果について報告を行っていく予定である。
著者
溝上 慎一 本田 周二 森 朋子 三保 紀裕
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

反転授業のプレ・ポスト調査を通しての量的アプローチの結果からは、予習としての教室外学習と対面でのアクティブラーニングという反転授業の形式をとれば、教育効果が見られるのではなく、予習をふまえた上での対面のアクティブラーニングを、また学生を主体的にグループワークに関与させることが教育効果を上げって効果が見られることが明らかとなった。個別の授業を対象とした質的アプローチでは、事前の動画視聴により個々の学生が「わかったつもり」を構築し,対面授業のグループワークにおいて,その理解のバリエーションを「わかった」に、すなわち知識の定着と深い理解に繋げていることが明らかとなった。
著者
小林 猛久 淺間 正通 小林 稔 杉本 昌昭 西岡 久充 田中 美和
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

地元中小企業がその機動力を以て大学教育に積極的に関与し、同時に学生達もそれらの中小企業から定期的なフィードバックを得て商品の企画開発、ビジネスコミュニケーションの実用的具現など、欧米的なインターンシップの実質を担保しながら実効を得られるシステムを構築できた。そしてこの実践により、多くの学生が地元の中小企業への就職を考えるようになり、実際に複数の学生が就職を果たすという具体的成果が出た。
著者
前波 晴彦
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中小企業は相対的に人材・資金・情報源等のリソースに乏しく,産学官連携への参入に対して障壁を感じていることが明らかになっている.こうした障壁を解消し,中小企業の産学官連携を促進するためには,適切な支援制度の活用と支援機能の運用が求められる.本研究では中小企業を主な対象とした産学官連携支援制度を事例とした.制度の利活用状況に地域間で差があることに注目し,これを産学官連携に関わる地域内の諸要素の影響によると仮定し検証した.その結果,地域内の研究リソースの蓄積だけではなく,外部資金受け入れ体制の整備やファンディング機関による直接的なサポートが有用であることを示した.
著者
玄場 公規 矢野 正晴 ヤング 麻里子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は日本及び海外の研究大学のURA(大学のリサーチ・アドミニストレーター)の機能、モチベーション、役割の比較分析を行う。調査の結果、以下の点が明らかとなった。海外の研究大学のURA人材は法律、経理・財務、知的財産などの高い専門性を有しており、研究者に高度な研究支援サービスを提供していた。また、仕事に対するモチベーションも高く、職務への満足度も高い。さらにキャリアパスも多様であり、研究者としてのキャリアを有している人材も数多くいるが、一方で人材の流動性は決して高くないことが確認された。日本のURAも政策支援により採用されているが、専門性とモチベーションを高める努力が必要である。
著者
髙木 浩明
出版者
清風高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

○研究目的古活字版の研究は、川瀬一馬の『古活字版之研究』(初版 : 安田文庫、1937年。増補版 : A・B・A・J、1967年)において総合的かつ網羅的な調査がなされている。同書は古活字版の研究にとって必読の文献であるが、川瀬氏の研究以後、新たに見出された伝本や所蔵先が変わった伝本、分類自体を見直さなければならないものも多く存在する。古活字版の悉皆調査を通して川瀬氏の調査研究結果を再検討すること、さらには、古活字版がいかなる人的な環境、ネットワークのもとに生み出されたものかをより多くの資料調査を通して明らかにして行くこと、将来の古活字版データーベース構築へ向けての礎とすることを目的とする。○研究方法本研究では、宮内庁書陵部に所蔵される古活字版(予め目録から抽出した130点)を対象に、体裁・表紙・装釘・題簽・内題・尾題・本文・匡郭・版心・丁数・刊記・印記・備考(識語や書き入れの有無など)の13項目について原本に当たり、一点一点丁寧に調査した。○研究成果調査を予定していた古活字版のうち、修補の必要があって原本での閲覧ができなかったもの等があったものの、121点の古活字版の調査を行い、これまでの調査分と合わせて971点のデータの蓄積ができた。今回の調査での一番の収穫は、川瀬一馬の『古活字版之研究』に著録されていない以下の古活字版を発掘できたことである。医経小学(558-24)、活幼全書(558-58)、黄帝内経素問(403-110)小学集説(国-159)、素問入式運気論奥(403-86)、年代紀略(谷-10)は全くこれまで所在すら知られていなかったもので、元亨釈書(556-106)、左大将家六百番歌合(155-195)、北渓先生性理字義(国-195)は新たに異なる版種を見出すことができたものである。
著者
遠山 紗矢香
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

本研究の目的は、本学情報学部にて構築した学習ポートフォリオシステム「Joy-Port」運用から明らかになった有効性を、他大学に向けて提供することである。キャリアデザインの多様化が進む昨今、学生個人が自らの強みを見出すために、大学内外での学びを振り返り可能な形で記録する学習ポートフォリオの作成が重要視されている。しかし、学習ポートフォリオシステムの機能や運用方法は導入機関の事情に大きく影響を受けるため知見の一般化が困難である。そこで本研究では、Joy-Portの知見を他大学に提供する目的の下、本システムにおける目標設定(Todo)機能とその運用方法について、人の学習理論に基づいた一般化を試みた。大学生の、学習履歴の蓄積や進捗状況の管理に対する負担感を把握するため、14名に対してアンケート調査を行い、さらに詳細を尋ねるため半構造化インタビューを異なる3名に対して行った。その結果、達成可能な肌理のTodoを単独で作成できると考える学生と、Todoに書くべきことがわからないので友人と話し合ったり手本を参考にしたりしたいと考える学生の2パターンに分かれることがわかった。前者のタイプの別の学生2名に対して、学習履歴の蓄積方法を尋ねる半構造化インタビューをした結果、2名は自らのパソコンをポートフォリオとして活用していたことがわかった。つまり、2タイプの学生いずれにもJoy-Portが価値を持つには、個人の学習状況の管理だけでなく、他者の学習状況を参考に自らを振り返る機能の実現が有効である可能性が示唆された。また、Joy-Portの利用ログを分析した結果、ユーザのアクセスが集中するのは、キャリア形成に関する授業等でJoy-Portの利用が喚起された時であり、恒常的かつ自主的にJoy-Portを利用することは、学生の学年に依らず困難であることが示唆された。以上をまとめると、理想的な学習ポートフォリオシステムは、個人が目標設定し学習履歴を蓄積する機能だけでなく、学生が協調的に個人の過程を参照して議論し合うための機能の実現と、目標設定や振り返りを定期的に促すための授業やイベント等を企画することが重要だと考えられる。