著者
西山 伸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

より高い変換効率を持つセラミックス焼結体を作製することを目的としてCuOを添加したAgSbO_3をはじめとするナノ粒子の金属を分散させた半導体焼結体について調べた。まず、AgSbO_3系が高い熱電変換特性を示す理由を解明すべく、焼結体中の銀の粒径や分布の状態を調べるため、焼結時間の異なる試料を作製し、熱電特性とその中の銀の微粒子の関係について調べ、作製方法に関して、(a)か焼条件の影響と、(b)原料粉末作製法の影響について検討した。また、CuO以外に、ZnO, CoO, Fe_2O_3, PdO, WO_3を添加した系についても評価した。また、金属ナノ微粒子を半導体に分散させた系として、LaCoO_3中へのCa_3Co_4O_9についても実験を行った。以上の結果、次のような知見を得た。(1)AgSbO_3焼粘体作成の際の合成条件やか焼条件の検討より、この系の熱電変換効率が微細に析出している銀粒子のサイズや分布状態に影響を受けることを見出した。(2)AgSbO_3にZnO, CoO, Fe_2O_3あるいはPdOを添加すると電気伝導度が向上しゼーベック係数の絶対値が減少することを見出し、これらの酸化物の添加によりキャリアが増加したことを示した。(3)La_2NiO_4にFe_2O_3を添加することで、LaNiO_3を析出させることは成功したが、キャリア濃度が低下し、性能の向上を得られることは難しかった。(4)AgSbO_3の状態密度計算により、伝導を担っている軌道はアンチモンの5s軌道であり、この軌道の改良が、高い熱電変換効率をもたらすと考えられる。
著者
室崎 美紀 (石田 美紀)
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

前年度に引き続き、ファシスト政権下にアフリカ各地の植民地(リビア,エチオピア,ソマリア)において製作された映画を重点的に調査した。とりわけ、砂漠が占領地の大部分を占めるリビアにおいて製作された作品の分析に傾注した。その理由は以下の二点にある。まず、当該作品群がファシスト・イタリアの推進する、植民地支配の安定と国民的メディウムとしての映画産業の整備という「近代化」の達成を計るうえで、重要なテクストであること。次に、圧倒的な光量が所与の条件としてある砂漠にてロケーション撮影されたフィルム群の視覚的肌理が、視聴覚表現媒体である映画が当時達成し、洗練された、スタジオにおける三点証明が生み出す「白く輝く」視覚的肌理が担った文化的意義を考察するための理想的な参照項となること。以上の二点をテクスト分析の主軸とし、リビア砂漠で撮影された劇映画をニュース映画における砂漠表象と照合させ以下の結論を導きだした。砂漠のシーンにてはからずも溢れた白い光はファシスト・イタリアが求める植民地他者表象を大きく裏切り、植民地経営という近代化プロジェクトの限界を予言したものであること。さらに砂漠表象分析から導きだされたこの結論を多角的に掘り下げるために、1930年代半ばから建築の分野で盛んに討論れていた「地中海性」の動向とリンクさせ、「遅れていた」はずのリビアが、ファシスト・イタリアにとって未来をも先取っていた空間であったことを論じた。以上の結果は、「ファシスト政権期イタリア映画における「白」の視覚、「白い電話」と白い砂漠」(『美学』第56巻第二号(通号222号)41-54頁)に発表した。
著者
河合 千恵子 佐々木 正宏
出版者
(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

死別体験者が死別の悲嘆をいつ、どのように克服しているのかについて明らかにするために、配偶者と死別した男女276名を対象に2000年と2002年の2回にわたり縦断調査を実施してきた。それに加えて今回は3回目の調査を実施し、135名の対象者(男性55人、女性80人)から調査協力を得た。1.死別の悲しみから既に立ち直ったかどうかを対象者に尋ねた回答では、「すっかり立ち直った」と回答した者は調査を重ねるごとに増加し、第3回調査では6割を越えていた。対象者の意識の面では、回復には死別からの経過期間の要因が大きく影響していた。2.配偶者と死別後の心理的適応について、有配偶者をコントロール群として比較するため、2000年に調査を実施した1,893人のパネルに追跡調査を実施した。今回は1,169名に協力が得られ、そのうち配偶者と同居していた715名をコントロール群として用いた。より高齢の死別群は5年間に精神的健康度について得点の変化が認められず、また有配偶群より、精神的健康度が一貫して悪かった。有配偶群は2005年に精神的健康度にかなりの低下がみられたが、それでもなお死別群より得点は良好であった。死別群は5年を経て意識面では顕著な回復を示したが、精神的健康面では限界があることがうかがわれた。3.第3回調査で、現在の生活に困難を感じている傾向が伺われた男性21名に、死別から現在までの適応過程についてインタビューを行い、質的な検討を行った。立ち直りについては、多くは立ち直ったと考えていたが、立ち直れていないとはっきり自覚している人もいた。立ち直りがあきらめや現実の受容であると考える人が多かったが、それは死別後の生活の確立であると考える人もいた。立ち直りに役立ったことについては、強い精神を強調する人もいたが、泣くことの意味を述べる人もいた。配偶者を亡くした男性の心境は多様であり、立ち直りの過程も単一ではないと言える。
著者
岡田 博美 六浦 光一 榎原 博之 大月 一弘 棟安 実治 和田 友孝 堀井 康史
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、主に車両間/モバイル端末間情報通信に特化した未来型ネットワーク構築技術として、基地局や情報センタなどの情報通信インフラを用いず、数Km程度のエリア内で移動中の車両やモバイル端末間で、アドホックな通信ネットワークを瞬時に構築し、リアルタイム交通情報やホットな地域情報、事故・災害情報などを、不特定なユーザ間で必要に応じて自由に交換する、新たなネットワーク機能の実現である。これは移動中の未知で不特定なユーザ間で情報交換し各種の周辺情報を即時に獲得しようとするものであり、以下の解決すべき技術的課題が挙げられる。A)高速移動する車両問で瞬時にネットワーク構築。B)エリアが不特定で時々刻々変化するため、ポータルサイトやWebサイトを利用不可。C)問い合わせる相手が不明。URLやアドレス・車両番号が未知。D)文書や音楽・映像などタイトル・キーワード類で識別される情報とは異なり、必要とする発生事故情報や車両情報などを明確に定義不可。本研究者らは、この課題の解決を目的としてコンテンツ指向型通信という斬新な情報通信方式を提案し、方式動作アルゴリズムの考案・開発を行った。具体的には、1)周辺を走行する車両間で即時に位置情報を交換し、車両問の衝突回避を行う、2)車両一歩行者間で同様の情報交換を実現し歩行者交通事故を劇的に減少、3)近辺の道路トラピックを各走行車両がリアルタイムでモニタし、相互に告知、4)突発的な地震・火災やテロ・銃乱射などが発生した場合、現場近辺に居合わせた人々の行動を情報通信でモニタし、その発生や避難・救助などを即時に表示、を可能とするシステム開発を行った。アルゴリズム開発の多くはコンピュータ上でのシミュレーションで検証したが、車両間通信ならびに車両一歩行者間通信については複数の実車両を用いて実装化し、実証実験により動作確認とその有効性の検証を行った。
著者
廣瀬 慎美子
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

ヒドラの神経伝達にかかわるペプチド分子を得るため、ペプチドの組織的単離を行った。同時に、ヒドラの神経伝達はpeptidergicであるという、これまでの定説と合わない意外な発見をしたので、本研究計画に当初はなかったヒドラにおけるコリナージックシステムの可能性についての解析も行った。さらに,これまでヒドラで単離・同定された神経ペプチド3種類について,イソギンチャク(Nematostella vectensis)の成体および胚発生過程における発現を免疫抗体染色法により明らかにし,刺胞動物の神経系の発達について明らかにした.ヒドラペプチドの精製:既に第1段階のHPLCで得ているヒドラペプチド15画分中、第7画分の精製をHPLCを用いて進めた。3-5段の精製を経て、約60のペプチドを単離し、25種についてアミノ酸配列分析、質量分析を行った。これらの生物活性検定は進行中である。ヒドラコリナージックシステムの解析:ヒドラを含む腔腸動物では神経伝達はいわゆる古典的伝達物質ではなくペプチドが担っているというのが定説である。ところが私たちはヒドラにニコチン性アセチルコリン受容体遺伝子(nAChR)およびコリントラスポーター遺伝子(CHT)が存在することを見いだした。1種類のnAChRとCHT遺伝子の発現をホールマウントin situハイブリダイゼーション法で解析した結果,外胚葉上皮組織でシグナルが検出されたが,神経での発現は見られなかった.ヒドラのACh,およびAChの合成酵素の活性を測定した結果,ヒドラはAChを自身で合成し,保持していることが示された.ヒドラのnAChRの機能解析,AChの生体内での機能については現在解析を進めており不明な点があるが,これまでの結果は,ヒドラはAChを利用しているが神経系での利用ではなく,上皮組織において形態の形成・維持などのシグナルとして利用していることを示唆している.AChが神経系を持ち始めた最初の動物である腔腸動物で形態形成にかかわるとすると、神経伝達物質の進化に全く新しいパラダイムを導入することになる。イソギンチャクの神経ペプチド産生細胞の解析:ヒドラのシグナル活性ペプチド分子の網羅的解析により,数種類の神経ペプチドの解析が進んできたが,ヒドラの初期発生過程における神経系の発達については観察が困難なことから、ほとんど解明されていない.そこでイソギンチャクNematostella vectensisを用いて,腔腸動物の胚発生過程における神経ペプチドの発現パターンを抗体染色法により明らかにした.その結果,ヒドラとイソギンチャクではいくつかの共通の神経ペプチドを保持しているが,成体での神経ペプチド産生細胞の分布パターンが大きく異なること,受精3日目頃のプラヌラ幼生で初めて神経ペプチド産生細胞が現れ,発生過程においてそれぞれの産生細胞特異的な発現パターンを示すことが明らかになった.
著者
長濱 雅彦 中本 高道 大西 景太
出版者
東京芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

最終年度にあたる21年度は、匂い情報を持った次世代のレストランサインのデザイン研究を行った。嗅覚情報を利用することで、より実感のあるサインになり、食する物のイメージを高められるのではないかと考えた。今回完成した作品「香るレストランサイン」は、そば,パスタ、うなぎ、カレーの専門店という4つのお店が入っている施設を想定。より、被験者の感性を妨げないように、一方通行のインターフェイスではなく、行為と連動するインタラクティブな動画作品に仕上げた。体験の手順は下記の通りである。(1)被験者は4つの店が表示された看板(実験ではスクリーン)の前に立つ。(2)手に持っている端末(Wiiリモコン=将来の携帯電話を想定)を横に動かしながら振ることで店を選ぶ。(3)次に縦に振ると選んだ店の画面になる。(4)例えば、そば屋を選ぶ。するとそばの画面が全面に表れる。(5)被験者は落語家のそば食い表現のように、端末を下から上に手早く動かすと、そばのイメージ動画と効果音とともに、そばつゆの香りがする。といった流れである。ちなみに被験者の感想で上がったものは次の通りである。・とにかく面白い・不思議・普段使っていない感覚を使う・情報がより食べ物に近い印象・見るというより体験ゲームみたい・ディズニーランドにあるイメージがする・いつもの情報に匂いがないことをあらためて気づくこうした感想からも分かるように、匂い情報はマルチメディアの中では新鮮で、かつ新たな世界を開くきっかけに成りえる。実験前は匂いがすることに嫌悪感を抱く人もいるだろうと想像したが、情報として整理された今回のような匂いの場合、まったくそうした被験者がいないことに驚かされた(混ざり合った匂いがないことが嫌悪感につながらなかった理由か)。サイン看板類は構造上、匂い装置など器材を内側に仕舞いこめるため、この「香るレストランサイン」のようにコンテンツを限定したならば実現に大きな支障はないと考える。また、こうした匂い情報の活用は、誘導サインや危険サインとして有効で、高齢化社会の情報基盤に発展していくことも予想される。今後はなるべく具体的なテザイン研究によって様々な分野と連携し、可能性を多角的に分析していくことが肝要だろう。
著者
東海 正 塩出 大輔 内田 圭一
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

この研究ではヌタウナギ類が乱獲に陥るメカニズムを明らかにした。東京湾や相模湾で採集査したヌタウナギ標本について生殖腺を調べることで,雌雄ともに成熟全長を35cm以上と,産卵期は9月頃と推定した。体長組成の年齢群を判別して求めた全長35cmまでの成長曲線より,成熟全長35cmまでに4年以上要し,これに卵の発達に必要な1年を加えて初産年齢を5歳と推定した。さらに,一回産卵数20~50個と隔年産卵も含めて,こうした低い増殖能力が漁業による乱獲に陥りやすい理由である。
著者
高倉 弘喜
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

まず、研究対象のデータとして、数Gbpsクラスの巨大なトラフィックデータを不正アクセス検知装置(IDS)で観測した警報を対象とした。京都大学に設置されたIDSでは、毎分200件程度の警報が出ている。ただし、このうちの99%は誤検知、あるいは、被害を生じない過去の脆弱性を狙った攻撃である。残り1%は、既知ではあるが脆弱性対応が不完全で被害を生じる可能性の疑われる攻撃、もしくは、攻撃の存在を遮蔽するため意図的に過去の攻撃を模倣した未知の攻撃である。また、大量の誤検知に埋もれてしまっているが、(D)DoS攻撃に関する警報も散発的に発せられている。本研究では、この1%の攻撃、あるいは、(D)DoS攻撃を抽出する手法を開発した。まずは、IDSに関するマイニングアルゴリズムのベンチマークデータとして広く利用されているKDDCup99データについて調査を行い、当該データがIDSの性能評価には不向きであること、特に、41次元データ中8次元程度しか有為な情報を持たないため、巧妙化・複雑化した最近の攻撃を反映できていないことを示した。次に、京都大学のIDSデータに対するマイニングアルゴリズムの開発を行った。前日、1週間前、1ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前それぞれの警報データを全て正常データ、すなわち、誤検知として学習させクラスタリングを行なった。次に、生成されたそれぞれのクラスタを用いて、当日の警報データの判定を行った。さらに、異常データと判定された警報を、ハニーポットで検知された攻撃データと比較した。その結果、僅か十数件しかなかったが、マルウェアallapleのゼロディ攻撃が開始されたことによる警報であることが判明した。また、マイニング結果の可視化手法も開発し、上記allapleに起因する警報を強調表示したり、誤検知に埋もれていた(D)DoS攻撃を強調表示することで、攻撃を認識しやすい可視化を実現した。
著者
田中 博美
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

良質な界面を有する強磁性体/高温超伝導体の接合作製についての基礎技術開発を行った。具体的にはLa_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3/YBa_2Cu_3O_y接合をパルスレーザー堆積法により作製し、得られた接合の界面ナノ領域における化学結合・電子状態を明らかにする為、硬X線励起光電子分光を用いたdepthプロファイルを行った。その結果、YBa_2Cu_3O_yにおいて観測されるCu-2p内殻光電子スペクトルのサテライト強度が接合界面近傍において著しく減少していることが分かった。又、一方でLa_<0.良質な界面を有する強磁性体/高温超伝導体の接合作製についての基礎技術開発を行った。具体的にはLa_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3の構成元素であるMn及びBaの内殻光電子スペクトルも接合界面近傍においてケミカルシフトを起こし、それに伴いブロードニングが生じていることが分かった。これは接合界面近傍において異なる価数状態が混在し、キャリア状態が変化していることを示唆する。詳細な解析の結果、La_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3/YBa_2Cu_3O_yの接合界面にはCuの価数が大きく低下した非超伝導層、及びスピン偏極率が低下している強磁性体層が存在していることが明らかとなった。この結果から、非超伝導層や低スピン偏極率層が接合界面に存在しない良質な接合を作製する為には、成膜時の作製条件等を工夫する必要があることが分かった。
著者
中田 高 渡辺 満久 鈴木 康弘 後藤 秀昭 徳山 英一 佐竹 健治 隈元 崇
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

近い将来M8クラスの巨大地震が発生すると予測される南海トラフ沿いの海域を対象に、高い分解能の立体視画像を用いて地形解析を行ない、地震発生源となる活断層の位置・形状、連続性を詳細に解明した。これをもとに活断層と歴史地震との対応関係を検討し、これまで連動型・非連動型として概念的に把握されていたプレート境界型巨大地震像に対して、発生場所や地震規模の予測精度向上に資する基本的な資料を整備した。
著者
山下 龍一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、環境法政策を他の政策・組織との融合システムととらえ直し、新たな環境法理論、環境組織法体系を提言しようとするものである。まず、循環型社会法制や原子力法制を、環境政策と産業政策の融合という観点からとらえなおすことを通じて、政策の転換を市民や産業界が受容するためには複数の法政策の融合が必要であることが明らかになった。次に、環境法政策を組織の融合という観点からとらえなおすことを通じて、環境保護の主体として、中央省庁、地方自治体、産業界、市民のパートナーシップが強調されており、現行法制も各主体の役割分担の考え方を基本としているが、これに対し、市民や地方自治体の役割をより重視し、これらを真の主体とする新たな環境法政策を構築すべきではないかと考えるにいたっている。さらに、あらゆる政策が環境保護に配慮しなければならないという考えを発展させると、ドイツにおける環境国家論に結びつく可能性があることが明らかになった。環境法政策を重視しすぎると市民の自由を過度に制約してしまう環境独裁の危険があるし、他方、現行の統治構造では将来世代の環境利益を十分に配慮できないという問題も指摘されている。これに対し、環境法政策への市民の参加の拡大によって、現在の市民の権利・自由を守ると共に、将来世代の利益への考慮も強めていこうとする考えが一部で主張されていることが注目される。
著者
石田 正昭 徳田 博美 波夛野 豪 石井 敦
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本とドイツの農村地域社会は大いに異なっている。ドイツには市民がいるが、日本には住民がいる。行政への依存においても態度の違いがある。われわれはこうした違いを日常生活の中から解明しようと試みる。調査結果によれば、日本よりもドイツにおいて、市民活動における3つの原則(自己統治の原則、補完性の原則、共同経済の原則)がより徹底していることが観察される。
著者
降籏 徹馬
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は研究計画に基づき研究を進めた。本年度中に採択された代表論文の概要は以下の通りである。論文「階層的目的地選択と小売集積:シミュレーション」では、現実の小売集積形成のメカニズムの解明に接近するため、従来からの小売集積形成のシミュレーション方法を再検討し、階層的目的地選択モデルに基づくシミュレーションの方法を提示した上で、埼玉県を分析対象地域として設定し、実際の人口分布を用いてシミュレーションを行い検討した。その結果、消費者空間行動モデルによる記述と現実の人口分布を用いるだけでも相当な類似度で現実の小売集積量を再現できることを確認できた。得られた知見の中で、特に興味深い点の一つは、現実の小売集積は仮想都市空間上のシミュレーションにおいて形成された王冠型小売集積の形態に近い可能性を示したことである。現実の小売集積の分布形態は王冠型ではなく、極度に集中する小売集積と人口に応じて均一に拡散して集積する形態の中間を示していると考えられる。もう一つの興味深い点は、実際の消費者空間行動の距離パラメータ値を小売集積形成のシミュレーションにより推定できる可能性を示したことである。これはシミュレーション結果において得られた各地区の店舗数と実際の店舗数との誤差を評価した場合、実際の距離パラメータ値付近で誤差が最小になっていることから明らかである。もちろん、小売集積形成のシミュレーションは多大なコンピュータ処理を要するという実践性に欠ける面も含んでいる。しかし、他の地域においても同様の性質を確認できれば、消費者動向調査等のデータが存在しない場合の代替方法の一つとして活用していくことができると考えられる。
著者
樺島 博志
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度,ミュールハイム=ケアリッヒ事件の憲法判例を取り上げ,原発設置許可手続における市民の手続的参加権の保障が基本権保護義務の内容となりうることを明らかにした。本年度は,前年度の研究成果を公表し,さらに計画に従って考察を進めた。まず,憲法判例の前置手続として提起された行政裁判を検討した。この事件は,行政行為の執行差止の仮処分をもとめて争われたものであり,迅速手続であったからこそ,憲法訴願においては手続的参加権が主として争われ,実態的基本権侵害の存否について正面から判断は下されなかったものと考えられる。この行政裁判所の判決を検討したあとで,当憲法判例以降に係属したミュールハイム=ケアリッヒ原発関連の行政裁判に考察を進めた。同原発の設置に関する許可処分に対しては,複数の訴訟が提起され,下級審では,許可処分を適法と認めるものと,無効とするものとに,判断が分かれた。最終的には,連邦行政裁判所で無効が確定した。いずれの判断も,裁判所による原発設置の技術的評価にかかわっており,行政裁判において行政庁の判断を裁判所はどの程度尊重すべきか,逆に裁判所はどこまで技術的判断を下すことができるのか,という観点から判例を検討した。ドイツにおける実地調査は,本務との関係で当初の計画ほど十分に出来なかったが,年度末に近い二月に実施し,同事件に実際にたずさわったコブレンツ行政裁判所のルッツ判事にインタヴューを行うことが出来,ミュールハイム=ケアリッヒ原発問題について,事件の争点と全体状況に関して有益な知見を得ることができた。ドイツでの実地調査が遅れたこと,計画期間中に二度の転勤が重なったことから,最終的な研究報告をまとめるにはいたっていないが,判例の翻訳等,逐次Web上で公開する予定である(URL:http://www/law.tohoku.ac.jp/~kabashima/)。
著者
仲澤 眞
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

プロスポーツ観戦者のセグメントマーケティング戦略の策定に有効な情報を開発するために、日本プロサッカーリーグの公式戦(平成11年、平成12年)及び第3回FIFA女子ワールドカップ大会(平成11年)の観戦者を対象とした社会調査を実施した。観戦者のセグメントファクターとして、ジェンダー、観戦動機、観戦歴、観戦頻度、組織化の有無、競技会場の立地、競技会場の収容規模などの有効性が示唆された。各々のファクターについて、マーケティングレコメンデーションを含め、論文化を進めた。一方、それらレコメンデーションのフィジビリティースタディーとして、2つのプロサッカークラブのマーケティング担当者と共同で、いくつかの試験的な事業を行った(平成12年)。日本プロサッカーリーグの観戦者調査からは、Vicarious Achievement、Drama、Community Attachement、Player Interest、Team Interestの観戦行動に関係の深い6つの社会心理的特性が抽出された。それら社会心理的特性と観戦行動の関係についての分析は、北米スポーツマネジメント学会で報告した(平成11年)。国内では、日本体育学会及び日本スポーツ産業学会において、社会心理的特性と観戦者特性との関係について報告した(平成11年)。第3回FIFA女子ワールドカップ大会のデータからは、女性アスリートの観戦者の社会心理特性について、北米スポーツマネジメント学会で報告した(平成12年)。
著者
諸岡 晴美 北村 潔和 鳥海 清司 諸岡 英雄 眞鍋 郁代 中橋 美幸
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ストレス社会・高齢社会を迎え, 健康で快適な生活の遂行が希求され, "人にやさしい" 製品の開発が求められている. 本研究では, 脳波, 心電図, 筋電図, 連続血圧, 呼吸代謝, 体温, 皮膚性状, 発汗挙動などの生理生体情報を測定し, 繊維製品からの刺激と生体信号との対応関係を解析するとともに, 感性工学的手法を用いて, 諸機能(筋機能, 代謝機能, 体温調節機能, 皮膚組織の弾力など)の低下を伴う高齢者対応の繊維製品についての基礎的研究および具体的な設計指針の導出と製品開発を行った.
著者
鎌田 直人 安江 恒 角張 嘉孝 向井 讓 小谷 二郎 角張 嘉孝 向井 譲 小谷 二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ブナの結実に関係する要因として虫害としいなが重要である。しいなの原因として、近交弱 勢の影響が示唆されていたが、有効花粉親数(Nep) 値が低い母樹ほどしいなが多いという本研 究でも指示された。種子生産は年輪生長にはほとんど影響していなかった。しいなや虫害種子 の結実コストは、健全種子の約40%と推定された。しいなや虫害種子が多いと、結実コスト/ 開花コスト比が低くなり、開花数の年次変動が小さくなることによって、開花数の変動が小さ くなり、結果として虫害率が高くなるという悪循環に陥っている可能性が示唆された。
著者
松本 淳 多田 隆治 茅根 創 春山 成子 小口 高 横山 祐典 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では,アジアモンスーン地域における過去の気候資料と,日本のさまざまな緯度帯から取得される地質試料(サンゴ年輪やボーリングコア等)の解析によって,過去数10年〜数千年の時間スケールでアジアモンスーン域の降水量変動および各流域洪水の洪水史をまとめ,モンスーンにともなう降水量変動と洪水の歴史の関係を長期的に復元し,地表環境の変化との関係を考察することを目的として研究を行なった。千年規模での変動として,日本海南部隠岐堆の海底コア三重県雲出川流域のボーリングコアを解析した。後氷期には約1700,4200,6200年前に揚子江流域で夏季モンスーン性降雨が強まり,雲出川流域において約6000年前には堆積速度が大変に速く,この時代には広域的に洪水が頻発していた可能性が判明した。また,琉球列島南端の石垣島で採集されたサンゴ年輪コアの酸素同位体比と蛍光強度の分析によって,過去の塩分変動を定量的に復元できることがわかった。20世紀後半の変動としては,近年洪水が頻発するバングラデシュにおいて,GISとリモートセンシングデータによってブラマプトラ川の河道変遷と洪水との関係を検討し,河道が約10年周期で河川の平衡状態への接近と乖離とを繰り返したことがわかった。また大洪水が雨季には稲作に大きな被害をもたらすものの,引き続く乾季には大幅な収量増加がみられることを見出した。流入河川上流域のネパールでの降水特性を検討し,ネパールで豪雨が頻発した年とバングラデシュにおける洪水年とが対応していないことがわかった。さらに日本においては,冬の終了や梅雨入り・梅雨明けが近年遅くなっていることを明らかにした。気候変動研究に多用されているNCEP/NCARの長期再解析データには,中国大陸上で観測記録と一致しない変動がみられることを見出し,アジアモンスーンの長期変動解析にこのデータを使用するのは不適切であることを示した。
著者
吉本 直弘
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

大阪府の夏期高温日の午後に発生する強雨と熱的局地循環との関係について調べた。解析対象は大阪府内の7つのアメダス観測点で、解析期間は2005年7月18日(近畿地方の梅雨明け)から8月31日までの45日間である。日最高気温が30℃以上に達し、大規模な大気擾乱の通過に関連せずに日最大1時間雨量5mm以上の降雨が観測された事例は8日間あった。これらのうち、主に大阪平野に強雨がもたらされた3事例について、アメダス及び大阪府地域大気汚染常時監視測定データを用いて、地上の気温場と風系を詳しく解析した。いずれの事例も8時から10時にかけて大阪府南部沿岸地域で海風の進入が見られた。海風は時間と共に大阪平野の内部へと東進し、12時から14時には海風前線の進行方向前方の大阪平野北東部に高温域(最高気温38℃)が形成された。同時に、大阪平野上に形成された高温域に向かって京都府南部から北東寄りの風が吹いていた。この風と大阪湾から進入する海風とが衝突し、大阪平野上に大きな気流の収束が形成された。この収束域で雲頂高度が対流圏界面に達する発達した積乱雲が発生し、強雨がもたらされた。京都府南部から大阪平野上の高温域に向かって吹く北東寄りの風は、これら二つの地域の温度差によって生じた局地風であると考えられた。この風と海風循環によって夏期高温日の午後に大阪平野上に強雨がもたらされる。大阪平野上の高温域の形成には都市のヒートアイランド現象の影響が考えられた。大阪市周辺の都市型集中豪雨の予測には、大阪平野上の気温場と風系の詳細な把握と精確な予測が必要である。
著者
小峯 和明 渡辺 憲司 米井 力也 増尾 伸一郎
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1国内のキリシタン文学関連の資料調査と収集立教大学海老沢文庫の前近代及び明治期のキリシタン文学関連資料の悉皆調査を行い、書誌データをまとめた。また、上智大学キリシタン文庫の前近代及び中国を中心とする東アジアのキリシタン文学関連の資料調査を行い、書誌データをまとめた。沖縄のキリシタン文学関係の調査及び踏査を行った。2海外のキリシタン文学関連の資料調査と収集パリ国立図書館の中国を主とするキリシタン文学関連の資料調査を行い、目録を整備し、書誌データをまとめ、伝本研究を行った。また、韓国教会史研究所、ソウル大学の朝鮮時代のキリシタン文学関連の資料調査を行い、伝本研究を行った。3海外における国際シンポジウムの開催アルザス日本学研究所で「キリシタン文学と日欧交流」のテーマで国際シンポジウムを行った。また、韓国外国語大学で「東アジアの日本文学研究」のテーマで国際シンポジウムを行った。以上、日本と西洋との一対一対応にとどまらない東アジアにまたがる多面的な次元でのキリシタン文学・文化の様相が解明できた。キリシタン文学を軸にひろく東西交流文学を対象とする新しい領域が開拓でき、海外の研究者との共同研究の体制も確立し、今後の研究推進のおおきな足がかりを得られた。