著者
山下 哲郎 佐藤 豪
出版者
工学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、首都直下地震が発生した際に,被災者の医療を受け持つフロントライン医療サービス拠点の規模を検討するための、新宿駅周辺の非住宅の死傷者数の推定である。調査は新宿駅の東西口周辺の歩行者数を把握するものである。その結果,西口側には4-6,000人,東口側には2-10,000人の歩行者数が確認された。これを元に負傷者数を推計すると、西口側の負傷者数は一日のどの時間帯でも80人程度と安定しているが、東口の場合,午前中は35人、午後は85人,夕方は100人と変動が大きい。同様に,建物内の負傷者数も推計した。更に, 2011年3月11日東日本地震当日の行動について,アンケート調査を実施した。それらの結果から、新宿西口周辺に13箇所のフロントライン災害医療拠点を設ける場合,各所で67人程度の負傷者の治療を行うことが推定され,負傷者の分布に基づいて、東に8箇所,西に5箇所を配置することになる。
著者
伊藤 雅之
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

メタンの吸収源としてのみ評価されてきた森林土壌について、メタンを放出しうる湿潤な地点を含めてメタン吸収・放出能の評価を行った。その結果、比較的乾いた土壌では既往研究の報告と同様にメタン吸収が主だったが、斜面下部の湿潤な土壌では、特に夏期の高温時にはメタンの放出源として機能した。また、渓畔の湿地では夏期に非常に大きなメタン放出が観測され、メタンの生成過程が降雨条件等の水文条件に規定されることが示された。
著者
大久保 一郎 大日 康史
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

目的:individual based modelは、近年の感染症モデルとして最もパワフルなモデルであり、新型インフルエンザ対策では広く用いられている。しかしながらモデルはあくまでモデルあり、実際の人の所在、移動を表現したものではない。モデルをより現実的に近づける努力は重要であるが、それでもやはり現実性は乏しい。本研究では逆に、実際の人の所在、移動のデータからモデルを構築した。方法:1998年10-12月に実施された、首都圏在住の約88万人の1日の移動、所在が記録された抽出率約2.7%のデータを用いる。所在は、自宅、学校等の別、1648カ所のゾーンで表示され、鉄道の乗降駅、時間も記録されている。まず、このデータを用いてまず接触回数を求め、実際の社会での接触がscale freeであるかどうかを検討する。新型インフルエンザの自然史、感染性を有する期間、無症候比率、無症候の場合の感染性、受診率は先行研究によった。感染性は家庭および社会での感染性がR0=1.5になるように調整した。シミュレーションは、海外での感染者が、感染3日後に帰国、八王子の自宅に帰宅後感染性を有するとした。職場は丸の内としてJR中央線で通勤するとした。結果:無作為に抽出した638名で計測された社会,家庭,電車でのべき乗bはいずれの場合でも有意に正であった。感染者数は、最速で対応の意思決定がなされた場合の感染7日目で3032人と少ないものの、首都圏全域、特に鉄道沿線に拡散していることが明らかになった。考察:本研究で示された実際の移動データを用いての数理モデルは、現実的な対策立案に活用できるモデルを提示できたと言えよう。今後、新型インフルエンザ対策のガイドライン策定においては有用なツールになると期待される。
著者
倉光 正己
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、広い分野で注目される自己組織化の概念を、非線形現象の研究では蓄積のある電気回路網を具体的対象として解明することを目的とした。特に、従来、自己組織化の具体例とされてきた周期現象、同期現象などの秩序化の対極にあるカオス現象に注目し、その発生条件、物理的本質を解明することにより、非線形電気回路網に生じる諸現象を統一的に理解することを目指した。本研究の主な成果は以下の通りである。(1)非線形能動素子1個、線形で正のインダクタ及びキャパシタ合わせて3個、線形抵抗1個、以上計5個の素子で構成できる11個の3次元発振器群を考えた。パラメタ値の変化に伴う平衡点の安定性の変化とカオス発生との関係を明らかにし、これらの発振器群をカオスの発生に関して分類することに成功した。これにより、3次元発振器におけるカオス発生の必要条件を得ることができ、従来、試行錯誤的にしか求められなかったカオスを系統的に探索することができることになる。今後、同様の考え方を、他の非線形特性素子を用いた系、あるいは4次元以上の系に対して拡張し、一般的なカオス発生条件を明らかにすることが課題である。(2)以上の結果から、カオスとは、非線形性の強さに伴い、非発振から発振状態(交流)、さらに発振停止(直流へと変化する経過で、発振状態の一つの特殊な状況として生じ得るものであることが明かとなった。今後、筆者が先に提唱した「平均ポテンシャル」を拡張し、これら一連の現象を物理的、統一的に理解する必要がある。(3)非線形素子が2個の系として、同一特性の2個の弛張振動発振器の結合系を考察し、2つ存在する同期状態の一方が、非線形性が強くなるとき不安定化する現象を見いだした。多数の非線形素子を含む系の振舞いを理解する基本として、この現象を物理的に解明することが今後の課題の一つである。
著者
水谷 仁 早川 雅彦 藤村 彰夫
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本年度は昨年度に引き続き当初の研究計画どおり月深発地震とくにA1震源、A33震源からの地震波を利用して月の深部構造に関するデータを得ることを試みた。当初の予定通り、これらの震源からの地震波を多数スタッキングすることにより、これまで気づかれていなかった多くの後続波のフェーズを発見することが出来た。これらの中にはPKP、PKKPフェーズと思われるものがあり、これらが本当にそうであれば、月の中心部に約450kmの鉄のコアが存在することが推定される。この結論はきわめて重要な結論であるので、さらにこの後続波の一般性を確認する必要があると考えている。そのためにA1、A33震源以外の震源からの波についても同様な研究を開始したが、そのためにはアポロ地震波データの使いやすいデータベースを構築する事が効果的であると考えられるようになってきた。これはデータ処理を多数、迅速に行うためにどうしても必要になることであると同時に、将来の月探査計画、LUNAR-Aの準備的研究としても緊急を要する課題であると認識されたためである。このために本研究のかなりの時間を、この研究をさらに発展させるために必要なデータベース形態、仕様を決定するために使った。現在ではこのデータベースの仕様に基づきそれをimplementする作業に入っており、ほぼ80%の作業が終了した段階である。このデータベースは広く関連研究者に利用できるようにする予定であり、本研究が完成した暁には月地震学にとって大きな貢献をすることが出来るものと信じている。
著者
本庄 比佐子 内山 雅生 久保 亨 曽田 三郎 奥村 哲 弁納 才一 三谷 孝
出版者
(財)東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

第1次大戦時、ドイツの膠州湾租借地を攻略した日本は、青島守備軍を編成して占領地統治を行い、青島及び山東鉄道を中心に諸権益の拡張を図った。そのために青島守備軍などが行った山東地域の実態調査を通して日本の山東経営を検討すること、及びそれらの調査資料を利用しつつ山東地域を中心に当時の中国の政治・経済・社会について総合的な考察を行うことを目的とした。外務省外交史料館・防衛省防衛研究所図書館・山口大学東亜経済研究所を中心に10ヶ所の諸機関で資料調査を行い、青島守備軍民政部鉄道部の『調査資料』シリーズや『山東鉄道調査報告』シリーズなどを含め、約160点の資料を明らかにすることができた。その結果を「青島守備軍編刊書・報告書目録 附・解題」にまとめ、『研究成果報告書』に収録した。これらの資料は、従来あまり利用されていないが、山東地域を勢力範囲として中国大陸進出を狙った日本の企図を具体的に分析するうえで重要な資料であり、また中国の地方志や経済史の資料としても役立つものである。日本軍の占領体制、ドイツの青島経営、山東鉄道をめぐる諸問題、山東省農民の移民、山東の農産物・工鉱業など、個別のテーマを設けて研究を進めた。その成果をまとめて、第3年度に論文集『日本の青島占領と山東の社会経済 1914-22年』を刊行した。同時に山東社会科学院・青島市社会科学院との学術交流を進め、論文集には山東の研究者からの寄稿も収めることができた。第4年度には、上記の論文集を基礎に、山東の研究者と国内の日本史研究者を招いて国際シンポジウムを開催した。そこでは、実証的な研究の領域において日中の中国史研究者間、また山東地域に関する研究で日本経済史研究者と中国近代史研究者の交流を図ることができた。以上を通して、従来研究の手薄であった日本の青島占領の諸相と、それが1930年代の華北進出に意味をもった点を明らかにすることができた。
著者
春山 成子 WEICHSELGARTNER J. JUERGEN Wisergartner
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

今年度は、アジア太平洋地域で発生している自然災害の研究事例を統合化することを中心に研究を行った。また、2004年度では日本で異常な洪水・台風災害が発生していることもあり、自然災害のなかでも洪水事例を多く取り上げることにした。さらに、アジア太平洋地域で発生した自然災害についても、統計資料、及び、データなどを収集して、統計的な処理を行い、分析を行った。この際、ことに社会的な見地、人文科学的な研究視点に立脚して、自然災害の研究を行っている研究者に面会することにした。自然災害の研究概況を掌握するために、岐阜大学工学部の高木先生に面会して、工学部における日本人研究者の災害研究の蓄積と現在の研究動向を探るとともに、岐阜大学においてジョイント講義を行い、岐阜大学の研究者との研究連絡の輪を作り、今後の研究の展望を話しあうとともに、ヨーロッパにおける自然災害研究者との知識を共有するために数回の討議を行った。また、アジア各国からの研究者との面会を行い、欧米とアジアの自然環境認識の違いについて話し合った。さらに、つくばの防災科学研究所佐藤研究室を訪問し、日本で試みている「統合的な自然災害研究の将来的な方針」を聴取するとともに、ドイツの防災システムについてのユルゲンが報告し、意見交換を行った。さらに、神戸市で開催された「地震災害10年」の企画による国際会議(自然災害会議)に参加して、各国からの来日している研究者および行政、研究機関の事務官、国連の各機関の実務担当官との個別の会合を持ち、2004年度及び2005年度始めの災害研究のあり方、及び、実務としての自然災害・防災・警報システムに関わる手法、技術などの討議を行った。学内においては、水曜日午後にサイエンスコミュニケーショの講義を行い、日本人学生に向けた災害研究の知識の共有に関する自主ゼミの中で、科学知識の統合化に関わるゲーミング理論を構築するとともに実践した。また、これらの研究を通して、4月2日には弥生講堂において研究成果の一部を発表した。
著者
小林 久高
出版者
奈良女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

当初より、本研究は、第1に原発問題をとらえる枠組みの構成、第2に島根原発をめぐる地域問題の分析、という2つの課題を設定していた。研究ではまず第1の課題を達成するため、(1)関連の先行業績を検討するとともに、(2)全国紙における原発関連の記事を収集し、また(3)世論関係の資料を収集することによって、原発問題をとらえる基本的な枠組みを構成した。そこで明らかになったことは、原発問題をとらえる際には、社会学の各分野のうち、社会問題論、社会運動論、生活構造論という3つの分野からのアプローチが有用であり、それらを総合した視点が必要であるということである。同時にまた意思決定の過程についての考察が重要であり、政治社会学的な観点からの接近も欠くことはできないということも明らかになった。第2の研究課題である、島根原発の研究は、これら4つの研究分野(政治社会学、社会問題論、社会運動論、生活構造論)との関連で進められていった。具体的には、政治社会学の枠組みをもとに地域政治における意思決定のありようを探るため、地方政治家や議会議事についてのデータが収集された。社会問題論との関連では反原発団体の活動を、主として地方紙を中心に検討した。原発問題をどう考えるかということにかんしては、住民全体が決して一様な意見を保持しているわけではない。商工会と漁民の見解の相違などは顕著なものであるが、そこには当事者の生活のありようが反映している。そして、生活は地域の長い歴史と関連している。したがって、原発所在地である鹿島町の歴史について考察することも重要であると判断し、資料収集を試みた。以上の基礎的な資料をもとに、今後さらに分析を進めていく予定である。
著者
田村 雅紀
出版者
工学院大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は,建築ストックが,地震災害等により大量に発生した災害廃棄物を迅速かつ適正に処理可能とする方法・システムを具体的に提示した。続いて、震災廃棄物起源材料を分類し、再び建築材料に利活用した際の環境影響を評価した上で、実際に震災廃棄物起源材料を混和した各種建材を製造・性能評価を行なった。なお、研究開始直後に、東日本大震災が発生したため、実災害時に生じる課題を反映しながら研究を遂行した。
著者
横山 伊徳 小野 将 松本 良太
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

史料編纂所が所蔵する島津家本『琉球外国関係文書』をハイパーテキスト化する作業を、巻之十まで行なった。現在巻之二十四迄のハイパーテキスト化を進行中である。(1)『琉球外国関係文書』(全51冊)のうち、巻之三十三まで全文入力した。このうち、巻之三十二まで校正完了。(2)『琉球外国関係文書』の内、巻之二十四まで、ftp://shipsnw.hi.u-tokyo.ac.jp/ryukyu/でその校正済みプレーンテキストを公開した。(3)史料編纂所wwwサーバhttp://www.hi.u-tokyo.ac.jp/personal/yokoyama/index.htmによって、巻之十迄の冊別目録・編年目録による閲覧が実現している。この結果、琉球の領有に関して、江戸幕府が対外的に「琉球は外国」という態度から、対外的にも「琉球は属領」という態度へと変化するその変化が、幕府内部や幕府と薩摩藩の間のどのような認識・論議の変化に基づいたものかを研究するための、基礎的データをWWWによって提供できるようになった。すなわち、琉球に来航した外国船や、琉球をめぐる諸外国との交渉、あるいは幕府や薩摩藩の論議に関する史料を、ネットワーク上で分析できるようになったのである。これらは、漢文史料まで含めた、www上の本格的資料集として、注目を集めている。
著者
永田 茂
出版者
鹿島建設株式会社技術研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近年発生した地震災害及び大規模事故発生時の重要ライフライン・インフラに関して復旧過程の相互依存関係の実態調査を行い、分析に必要なデータの収集・整理分析を行った。また、実態調査結果に基づいて、メッシュでモデル化した複数ライフラインに関して相互依存性を考慮した機能復旧過程の定量的かつ実務的な解析手法を構築するとともに、首都直下地震などを対象とした事例解析を通じて提案手法の有効性に関する検討を行った。
著者
八村 広三郎 赤間 亮 吉村 ミツ 遠藤 保子 小島 一成 崔 雄 丸茂 美恵子 中村 美奈子 阪田 真己子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,舞踊における身体動作の計測と保存のためのアーカイブ技術,およびそのデータに対する数量的解析を行うことを目的としている.ここでは,デジタル画像処理技術で身体動作を精密に計測できる光学式モーションキャプチャ・システムを利用して,舞踊の身体動作データを取得する.キャプチャして得た各種の舞踊動作データを保存し,これを各種の解析や情報処理において活用する。さらに,動作データは解析や処理の研究に使うだけでなく,CGなどでコンテンツとして作成し,教育や広報活動の素材としても利用する.また,新しい芸術表現の可能性を探るものとして,これらのCGによる舞踊動作の表示を,仮想現実感(バーチャルリアリティ:VR)の環境下で活用することも視野に入れて研究活動を行ってきた.解析の結果や,CG・VRでの表現は,舞踊研究者,舞踊家,芸能研究者など,いわゆる文系の研究分担者へフィードバックし,さらに高度で,よい解析結果や,新しい表現の創出を心がけてきた.このように,このプロジェクトの研究は,単に理が文を支えるということだけではなく,文一理の間で情報を巡回させることにより,より深い成果を得るという形を重視してきた.期間内に対象とした舞踊は,日本舞踊と能楽が中心であったが,そのほかにも,アフリカの民族舞踊なども扱った.また,舞踊の種類には限定されないが,一般的に,舞踊という身体表現,あるいは日常動作をも含む身体動作に共通の動作解析手法,たとえば動作のセグメンテーション,動作や動作者の識別,身体動作の類似検索などの手法についても研究を行った.舞踊動作の質を評価する試みとして,舞踊の中の特徴的動作の抽出やラバン動作解析の手法による,動作の評価を行った.さらに,筋電図などの生体情報とモーションキャプチャによる動作データとの同時計測を可能にし,これらに基づいて熟練者と初心者の違いについて明らかにした.
著者
菅原 聰 白幡 洋三郎 赤坂 信 中堀 謙二
出版者
信州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度には、国内調査として、地域住民の森林観の調査・大学生の森林認識の調査・山村においての森林の利用状況の調査・日本人の自然観に関する予備調査・森林休養についての調査・森林風景についての調査・里山についての調査をおこない、海外調査として、ドイツ・フランス・オーストリー・北欧・イギリスならびにカナダで森林観と森林施業の調査をおこなった。そして、平成3年度と平成4年度の調査結果とを合わせて、「森林観の比較研究」として、次のようにまとめることにした。(1) 東西の森林観:東洋と西洋について、とくに宗教との関係をめぐって、森林観を比較した。(2) 呼吸する里山:信州においての農民と里山との変遷を、資料(古文書・古絵図など)を用いて探るとともに、山村においての農民と森林との交流についての調査に基づいて、里山をめぐる森林観の推移を明らかにした。(3) 森林風景の行方:森林は人間によって創られたものであるから、森林風景は森林観と密接に関係している。技術的視点で森林風景の創造について接近し、現代人の森林観と現代社会においての技術展開の方向から森林風景の行方を探った。(4) 大英帝国の森林の盛衰:イギリスで大英帝国時代に森林がどのように取り扱われたかについての考察を通じて、森林観と森林の盛衰との関係を明確にした。(5) 変貌する森林観:森林観は社会構造と密接な関係にある。古代社会では神秘のなかに森林をみていたが、農耕社会で有用な存在となり、工業社会では無用となり、情報社会では貴重なものとなってきた森林に対しての森林観の推移を明らかにした。
著者
江守 陽子 前原 澄子 工藤 美子 森 恵美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

母子相互作用において、近年もっとも注目されているのは母子の行動心理学的な作用であろう。見つめあい、タッチング、抱いて揺するなどは効率よく子供の注意を喚起する効果が認められている。こういった相互作用によって母と子がしっかりと結ばれ、また、それによって子供の成長が促進されるのであれば、看護者はできるだけ長く、かつ有効にその機会を持つような援助を考えるべきであろう。本研究では母親が子どもを抱いてあやすという行動に着目し、それが児にどのような影響を及ぼすのかを観察した。その結果は以下の5点に要約できた。1.抱くという刺激は児を泣きやます効果が認められる。2.たて抱きは、刺激直後の児の覚醒状態を急激に下げ、その後、穏やかに下降させる。すなわち、児を泣きやますには即効性があり、敏活な状態にする効果が認められる。3.横抱きは、刺激直後の児の覚醒状態は穏やかに下降し、その後(40〜80秒後)、さらに下降する。4.抱き上げずに布団を掛けるだけでは児の覚醒レベルの変化は認められなかった。5.啼泣の中止や敏活性を高める目的では運動感覚に対する刺激が有効である。
著者
片田 敏孝 及川 康 金井 昌信 結城 恵 渥美 公秀 淺田 純作 結城 恵 渥美 公秀 淺田 純作
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、「災害に強い地域社会の形成技術の開発」を最上位の目標に掲げ、地域社会が自然災害からの被害軽減に対して効率的に機能するよう形成されるための技術の一般化を図ることをもって我が国の防災科学に資することを目的としている。具体的には、災害文化を地域に再生させるためのコミュニケーション手法やコミュニティが希薄な地域におけるコミュニケーション手法などの開発や実践から得られた知見を一般化し、その体系化を図った。
著者
森田 哲夫 吉田 朗 杉田 浩 小島 浩 馬場 剛
出版者
群馬工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

交通、土地利用、民生等の分野における多様な施策が都市活動に与える影響を予測し、都市活動の変化が環境、生活の質、経済に与える効果を多面的に定量評価する統合型のモデルシステムを開発した。本研究では、全体モデルシステムの要素モデルである水環境評価モデルと生活の質評価モデルを改良し、全体システムに組み込むことにより、都市環境施策が水環境、生活の質に与える影響についてケーススタディを行った。
著者
今井 貴子
出版者
成蹊大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究は、福祉国家再編期の重要なキーワードとなった「ワークフェア」をめぐる政治過程の分析を通じて、政権交代を契機とする制度改革のダイナミズムを明らかにすることを目的とした。研究の中心的な意義は、政権交代後に政党が改革能力を発揮するためには、制度がもたらす制約のなかで裁量の余地の最大化する条件が備わっていることが必要であるとし、その条件として、院外組織との関係、党内支持基盤、首脳部の権力配置がきわめて重要であることを実証的に明らかにしたことにある。
著者
渡邊 嘉二郎 吉永 洋一 正嶋 博
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1.目的本研究は介護の現場で実用に供しえる無拘束健康モニタシステムの構築を基本目的とし、エアマットレス型センサセンサシステムを提案し、(1)フィールドテスト(試作回路の評価、モニタシステムのフィールドテスト、総合評価)、(2)任意のマットレスへの適用可能性の調査、(3)新たな可能性への展開について実施検討する。2.方法(1)フィールドテストの方法センサ信号処理のための回路をディスクリート部品で構築し、回路の最適運用条件を明らかにする。この回路のもとで、30夜(一晩の平均テスト時間は8時間)のフィールドテストを実施しモニタシステムを総合評価する。(2)任意のマットレスへの適用可能性の調査市販の汎用クッション、床ずれ防止用マットレス、病院用エアマットレス、試作の薄型マットレスなど8種類を越えるマットレスでの本方式の適応可能性を試験する。(3)新たな可能性への展開本在宅介護のための無拘束健康モニタシステムを用いて、睡眠段階の推定のための基本的なデータを収集する。具体的にはR-K法で得られるデータと本モニタシステムで得られるデータの関連をしらべる。3.結果(1)フィールドテスト結果30夜を越えるフィールド試験で本システム(センサ、信号処理回路、エアマットレス、コンピュータ)の物理的な耐久性、信頼性は十分に実用に耐えうる。残される問題はこれらの量産化の検討である。また、このシステムが心理的に受け入れられる条件を明らかにすることである。(2)任意のマットレスヘの適用可能性の調査結果本エアマットレス方式はマットレスの種類によらず安定に動作することが判明した。このことは被験者に違和感を与えず優れた無拘束性を可能にする。またマットレスを安価に実現できる。(3)新たな可能性への展開本システムで得られる生体情報から睡眠段階を推定できる可能性が明らかになった。
著者
鎌倉 昌樹
出版者
富山県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は次のような項目において研究を実施した。1,神経化学的解析による疲労の分子機構の解明ロイヤラクチンの抗疲労作用を総合的に評価するため疲労の新たな評価系の構築を目指し、脳内における疲労の分子機構の解明に着手した。疲労の発現に大きく関与する脳を中心に疲労前後のマウスにおいて発現が変動している遺伝子を解析した結果、流水遊泳装置を用いて疲労させた後の海馬において発現が上昇する因子として、興奮性のシナプス伝達に関与するAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)α1サブユニット(GluR1)と神経細胞においてアポトーシスのシグナル伝達に関与するB-cell receptor-associated protein 31(Bap31)を新たに見出した。一方拘束水浸ストレスを与えたマウスでは、GluR1とBap31の遺伝子発現に変化は見られなかった。従って、GluR1とBap31は精神ストレスではなく疲労の時にのみ発現が誘導される因子である可能性が考えられた。2,ローヤルゼリーの抗コレステロールの作用機構の解明ローヤルゼリー(RJ)は肝臓に対する様々な薬理活性を有す。しかし、その作用メカニズムやRJ中の有効成分は未だ明らかになっていない。そこで今年度は、RJの肝臓に対する薬理作用のメカニズムの解明にも着手した。その結果、RJの抗コレステロール作用は、コレステロール合成に関与するスクアレンエポキシダーゼの発現を転写レベルで抑制し、コレステロールの肝臓への取込みに関与するLow density lipoprotein receptor (LDLR)の発現を増強することに起因していることが明らかとなった。3,ロイヤラクチンが作用する肝細胞の受容体の同定昨年度、バインディングアッセイによる解析から57kDaローヤルゼリータンパク質(ロイヤラクチン)ははトランスフォーミング増殖因子(TGF)-αのアゴニストとして、肝細胞表面の上皮増殖因子(EGF)受容体に作用している可能性があることを報告した。さらに、ラット肝臓cDNAライブラリーを対象として酵母Two hybrid systemを用いた解析を行ったところ、ロイヤラクチンと相互作用するタンパク質としてRhomboidというタンパク質が新たに見出された。Rhomboidは、ショウジョウバエ(Drosophila)においてSpitzというTGF-α様のリガンドを切断し、EGF受容体を活性化している因子である。現在のところ、哺乳類細胞におけるRhomboidのホモログは見つかっているが、Spitzと相同性を示すタンパク質はいまだ見つかっていないことから、TGF-α様のロイヤラクチンが疑似的にRhomboidと結合したものと考えられた。しかし、ロイヤラクチンは蜜蜂においてRhomoboid-Spiz経路を活性化するという新たなシグナル経路を形成している可能性が示唆された。現在、Drosophilaを用いてロイヤラクチンが同経路の活性化しているか否かについての検討を行っている。
著者
大辻 永
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

自分史がブームになって久しい。「自分史」という言葉は,歴史家の色川大吉氏の造語である。色川は戦争直後の歴史研究にあって,それまでの青史ではなく,歴史に名前を残さない民の歴史,「民衆史」を開拓した。橋本義雄の「ふだん記運動」にも関係して,「自分史」と表現した。このフレームに理科・科学教育を照らし合わせれば,カリキュラムや学習指導要領,教科書を分析するのではなく,学習者に「残ったもの」に焦点を当てた理科・科学教育研究が姿を現す。これが本研究でいう,自分史を方法論とする科学教育研究である。(日本科学教育学会第27回年会において発表)。前年度から収集してきた,本学の自然科学系全女性教官を対象にした自分史を,本年はキャリア選択という観点ら分析した。すなわち,キャリア選択への影響の度合い,あるいは,種類という観点である。その結果,自然系女性研究者のキャリア選択に関わる要因は,素因,遠因,誘因に分けられた。素因には,個人では選択や変更のしようのない生育環境や女性という性別,時代や社会の認識といったもの,あるいは,個人による得意科目などの志向性が分類された。遠因には,現在の専門分野に導いた書籍や出来事などのきっかけが分類できる。誘因には,指導教官が公募情報を寄せてくれたといった,就職に関係する直接的な出来事などが含まれた。その他,被験者の職業選択には,プラスにせよマイナスにせよ,母親の影響が大きいという共通項を見出すことができた。プライバシーにも関わるため具体的なことは記述できないが,全体を通して,真剣に自己に向き合う被験者の姿が浮かび上がってきた(日本科学教育学会平成15年度第1回研究会において発表)。少年・少女時代に受けた教育について語らせることによってその教育のあり方を探る,あるいは,その人物の成長を丹念にたどり描きあげるといった研究は,今後さらに発展させる必要がある。