著者
清水 彰一 西尾 和晃 木村 誠 藤吉 弘亘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1909-1918, 2011-11-01

人の行動意図を認識しようとするFirst Person Visionでは,人の状態とその人が何を見ているのかという情報が必要となる.そこで我々は,人の眼球と人の視界映像を同時に取得するInside-Outカメラを提案し,そのカメラの構成を活かした注視点の推定法も提案する.Inside-Outカメラはハーフミラーを介して眼球を正面から,視界映像を眼球と同等の位置から撮影することができる.Inside-Outカメラでは,眼球を撮影した画像から得られる視線ベクトルと視界を撮影した画像から得られる注視点位置の関係を変換式で表すことが可能である.そのため,変換式のパラメータをあらかじめ推定することにより,視線ベクトルから注視点を推定する.評価実験では,指標を注視した際の両眼,両視界映像を撮影し,視界画像の指標位置を真値として視線ベクトルから推定された注視点との誤差を算出した.評価実験から視野角において約1.5度の平均誤差で注視点を推定可能であることを確認した.人間は1点を注視しているとき,注視箇所だけではなく視野角で約2度の範囲がはっきり見えていることが報告されていることから,この範囲を評価基準とすると,提案手法は,十分な精度をもつことが分かる.
著者
奥川 光治
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

多環芳香族炭化水素(PAHs)の環境中における動態を評価した.そのため,降水と乾性降下物,土壌,底質・上層水・生物に関する調査を実施した.降水と乾性降下物に関する詳細調査は1年半にわたり富山県中央部の都市近郊地域で実施した.降水は各月1〜4回採取し,PAHsの濃度,組成,懸濁態と溶存態への分配,降下負荷量について,また,降水の変異原性について解析した.乾性降下物は1〜2ヶ月に1回の頻度で採取し,乾性降下物によるPAHsの降下負荷量と組成について解析した.土壌に関する調査は3つの地域,すなわち,富山県新湊市,富山県上新川郡大沢野町,さらに,富山県と石川県の県境に位置する医王山系において実施した.土壌中のPAHs含量と組成が,市街地や幹線道路からの距離,有機物量などの要因に対応して,どのような分布特性を示すか解析した.底質,上層水,生物に関する調査は富山県中央部を流下する下条川とその源流域である射水丘陵に分布する貯水池,溜池で実施した底質および上層水,生物に含まれるPAHsの分布特性を解析した.水環境におけるPAHsの分布についてまとめると,降水の懸濁態ではPAHs含量は10^4ng/g,溶存態では10^<-2〜-1>ng/g,乾性降下物では10^<4〜5>ng/gの範囲を示した.土壌と底質では10^<2〜3>ng/gオーダーであった.貯水池・溜池上層水の懸濁態のPAHs含量は10^<3〜4>ng/g,植物プランクトンでは10^<3〜4>ng/gのオーダー,溶存態PAHsは10^<-3〜-2>ng/gであった.
著者
富樫 一巳
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-8, 1989-02-25
被引用文献数
4 30

マツノマダラカミキリは1年または2年かかって羽化する。その発育の相違を産卵時期の異なる個体群を用いて調査した。その結果,6, 7月に産卵された個体群では,11月までに多くの個体が4齢幼虫になって材内蛹室のなかにいた。翌春それらは再摂食せずに6月までに蛹化した。8月に産卵された個体群では,11月に3齢幼虫(60∼70%)または4齢幼虫(30∼40%)になるが,それらの30∼50%の個体しか材内蛹室を作らなかった。翌春,10∼40%の幼虫が再摂食した。そして,90%以上の個体が産卵の翌年に羽化した。9月に産卵された個体群は11月になっても1∼3齢幼虫であり,かなりの幼虫が靱皮部にいて摂食を続けていた。翌春幼虫は摂食を再開し,海岸林の場合60%の個体がその年に羽化したが,山地林の場合6%の個体しか羽化できなかった。発育に2年を要する個体は,産卵された年に1, 2齢幼虫で越冬し,翌年に3, 4齢幼虫まで発育して再び越冬し,その翌年に羽化した。最後に,本種の生活史の調節機構に関する仮説を提出した。
著者
斎藤 慎一
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.125, no.10, pp.771-784, 2005-10-01
被引用文献数
3

In this review we report our development and applications of the highly selective cycloaddition reactions of unsaturated hydrocarbons such as conjugated enynes, electron-deficient allenes, and electron-deficient methylenecyclopropanes in the presence of nickel and palladium catalysts. Homocoupling reactions as well as co-cyclization reactions proceed with high atom economy, which is an attractive feature of these reactions. The efficient synthesis of 4-7 membered carbocycles was achieved.
著者
永原 陽子 鈴木 茂 舩田クラーセン さやか 清水 正義 平野 千果子 中野 聡 浜 忠雄
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、「植民地責任」という従来の歴史学になかった概念を試論的に提示し、脱植民地化研究におけるその可能性を探った。「植民地責任」論は、かつて植民地支配を受けた地域の人々から近年になって出されている、植民地支配にかかわって生じた大規模暴力に対する謝罪や補償への要求等の動きを、歴史学の問題として受け止めたものである。そこでは、植民地体制下、あるいは植民地解放戦争などの中でおこった大量虐殺等の大規模暴力が、「戦争責任」論において深化・発展させられてきた「人道に対する罪」として扱われている。そのような趣旨の訴訟等を比較検討した結果、植民地支配の歴史をめぐって、主体に解消されない、「個人」や「民族」主体、その他様々なアクターが形勢してきた新たな歴史認識を見て取ることができた。植民地主義の歴史にかんするこうした新たな歴史認識は、植民地支配の直接の前史としての奴隷貿易・奴隷制にも及ぶものである。こうした歴史認識・歴史意識の変化は、政治的独立とは別の意味での「脱植民地化」現象ととらえることができる。このことから、本研究では、「植民地責任」論を「脱植民地化」研究を主体論的にとらえるための方法と位置づけた。植民地体制下の大規模暴力の少なくない部分は、「人道に対する罪」に代表される、「戦争責任」論の論理によってとらえることが可能である。しかし、そのような法的議論が対象とすることのできない歴史的現象、また「罪」の指標には該当しない、日常化した植民地体制の問題も、植民地支配を経験した人々の生にとってはきわめて重要なことであり、本研究は、「平時」と「戦時」の連続性の中において大規模暴力を理解し、それを通じて、脱植民地化を16世紀以降の長い世界史の中でとらえ直すための方法として「植民地責任」論を提示し、その有効性を確認した。
著者
村中 隆弘
出版者
電気通信大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、空間反転対称性の欠如した物質をキーワードとして、p電子系、f電子系化合物を対象とした新規超伝導物質開発を行った。今年度はこれらの中でp電子系化合物を中心として研究を行ってきた。・結晶構造中にCダイマー、Cトリマーという特徴的な共有結合性ネットワークを有するS3C4に対し、CサイトへのGe置換を行うことによって、Tc=7-8Kの超伝導が発現することを見出した。・擬AlB2型構造を有する新規三元素系化合物Ba(TM,Si)2 (TM=Cu, Ag, Au, Ni, Pd, Pt)の合成に成功し、これらがTc~3Kの新規超伝導体であることを発見した。また、TMの濃度の上昇に伴ってTcが減少する振る舞いを見出した。・Siによる八面体構造を有するZrFe4Si2型構造に着目したところ、YRe4Si2 (Tc=3.2K), LuRe4Si2 (Tc=3K)の発見に至った。この系では、希土類元素のイオン半径の大きさにTcが比例する振る舞いが示唆され、YサイトをLaに置換した系においてTcが上昇する振る舞いを観測した。・Sbによる四面体配位構造を有するCaBe2Ge2型構造に着目したところ、SrPt2Sb2(Tc=2.1K)の発見に至った。SrPt2Sb2は、正イオンのPtが中心に位置する(正構造の)PtSb層と、負イオンのSbが中心に位置する(逆構造の)PtSb層が交互に積層している。逆構造のPtSb層がドナー層、正構造のPtSb層がアクセプタ層となり、ドナー層からアクセプタ層への電荷移動が生じる可能背を示唆する結果を得た。また、電気抵抗の温度変化や構造解析の結果から、構造相転移の存在を明らかにした。
著者
林 壮一
出版者
立教新座中学校・高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は次の2点である。(1)安価な可搬型ノートパソコンであるNetBookとサーバー用ノートパソコンを無線LANで接続してネットワーク(モバイルラーニングシステムMobileLearningSystem)を構築し,(2)中学校・高等学校の理科の実験・授業の中でパソコンを活用した授業(実験群)とそうでない場合(統制群)とで学習効果を比較し,デジタル教材の有効性を検証することである。(1)については,サーバーパソコンの設定,アンテナの設定など,ネットワーク構築のために必要とされる基礎知識は少なくなく,サーバーの構築は容易ではなかった。しかし,外部に接続されていないネットワークは,授業管理/教場管理をする上では非常に有効であった。ただし,OSに標準搭載されるゲーム類などの削除も必要であり,その一方でパソコンに詳しい生徒(中学生)の悪戯防止についてはさらに一考が必要であった。今後,更にコンピュータを学校の授業に導入する場合には,OS標準のゲーム,画面の設定など生徒が容易に変更できないシステムが必要であると思われる。(2)については,中学生でも高校生でもデジタル教材を利用することによって,教科書に記述されていないより発展的な内容に気づかせたり,学習の質を向上させたりするのに有効であることが確認できた。しかしその一方で,デジタル教材を導入した授業が普及しにくい理由の一端も垣間見ることができた。特に,通常の教材を用いた授業展開とデジタル教材を用いた授業展開とが異なる場合には,授業で想定している展開の順番とデジタル教材の中での順番とが異なっていると,授業者はデジタル教材を利用することによって生徒が何をどのように理解したかを把握できなくなり,結果的にデジタルコンテンツが授業者の「授業に対する意図」を妨げてしまうからである,と考えられた。実際に行った授業では,統制群で授業の展開に沿って理解が進むのに対し,実験群では授業の展開に沿わない形で理解が進んでいくことが確認された。しかし,知識の定着を両群間で比較(大地のつくり,運動の法則,音の性質,静電気,等の4つの単元)したが,どの単元でも有意な差は見られなかった。以上のことから,教材が比較的小さな単元ごとにまとまっているデジタル教材が使いやすいことや,サーバーやパソコン内にコンテンツがあれば,インターネットとの接続は必須ではないことなどが確認できた。今後は,選択授業や探求学習などの発展的な学習で,どのようにデジタル教材を利活用することが学習者の意欲を高めることになるのか,また,どのようなICT機器を学習のどの場面でどのように活用することが学習者の意欲や知識の定着に有効なのか等,調べていく予定である。
著者
中嶋 敬彦
出版者
東京芸術大学
雑誌
東京藝術大学音楽学部紀要 (ISSN:09148787)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-53, 1988

Es sieht so aus, daβ das literarische Individuum Alfred Doblin an sich die systematische Entwicklung der Literaturgeschichte des 20. Jahrhunderts im ganzen wiederholt hat. Seine Entwicklung ging fast konform mit dem Fortschritt der zeitgenossischen Literatur: Futurismus, Expressionismus und Neue Sachlichkeit; sie nahm daruberhinaus die sich nach seimen Tod entfaltende Literatur vorweg, vom Neoavantgardismus an zum Neoromanesken hin. Doblin hat praktisch samtliche Stromungen der Gegenwartsliteratur personlich durchlaufen. Sowohl das Individuum Doblin als auch das ganze System der Gegenwarts-literatur waren doch erst den experimentellen Methoden verbunden, haben diese aber dann kurz danach satt bekommen, um schlieBlich zu einer quasi normalen Erzahlkunst zuruckzukehren. Die Literatur nach dem 2. Weltkrieg hat namlich einen ahnlichen Prozeβ vom Neoavantgardismus zum Neoromanesken vollzogen. Oder lieber konnte man sagen: Doblins Dichtung hatte auf jeder Entwicklungsstufe von An fang an fast alle methodischen Momente der Gegenwart zugleich in sich enthalten. Besonders in seinem Hauptwerk "Berlin Alexanderplatz", das vom dem reifen Schriftsteller etwa mit funfzig Jahren geschrieben wurde, ist es am besten gelungen, experimentelle Methoden mit Fabulierkunst zu vereinigen. Dieser Roman, der die schriftstellerischen Techniken der Moderne, montage, collage, simultaneisme und so weiter in groβer Fulle enthalt, verbirgt in sich eine richtige Handlung, nein, eher eine zwar so komplizierte, doch klar konsequente Fabel, die ehrlich den Namen der Neoromaneske verdient. Diese Fabel webt unter einer dicken Oberschicht von anscheinend divergierenden, gestuckelt-momentanen Vorstellungen als Substrat laufend eine raffinierte Romaneske, wie sie nie in der ganzen deutschsprachigen Literatur-geschichite erschienen ist. Doblin hat mitten in der Moderne, in der man das Erzahlen an sich fur uberwunden, ja unmoglich erachtet, eine fein komplizierte Erzahlung anfertigen konnen, auch wenn er dabei als Modernist zugleich mit den experimentellen Techniken sein Wesen getrieben hat. Die ganze Geschichte "Berlin Alexanderplatz" besteht aus mehrere Male wiederholten, recht ahnlichen Geschichtchen. Die Entwicklung dieser Geschichte hat namlich ein spiralformiges Gefuge: die Prozesse von Scheitern und erneutem Aufrappeln des Antihelden wiederholen sich mehrere Male in jeweils groβer werdendem Ausmaβe. In diesem Sinne konnten wir diesen Roman im Gegensatz zum sogenannten Entwicklungsroman einen "Wiederholungsroman" nennen.
著者
平野 篤 上村 圭右 内藤 正雄
出版者
日本信頼性学会
雑誌
信頼性シンポジウム発表報文集
巻号頁・発行日
vol.2010, no.18, pp.33-34, 2010-05-28

防衛省では、防衛装備品を取得するためのコストを量産単価だけでなく、構想、開発、量産、運用・維持、廃棄までの過程(ライフサイクル)に必要な総経費として、ライフサイクルコスト(以下、「LCC」という。)管理を行うことで、開発や量産への着手時の結節点において、費用(LCC)対効果の判断を踏まえた意思決定が可能になると考えている。防衛省では、平成20年3月に「総合取得改革推進プロジェクトチーム報告書」を作成し、現状の課題、体制整備、統一的なLCCの算定方法の確立、LCC管理の試行及び人材育成の検討結果が述べられた。その過程において、平成20年度より、防衛省の調達機関である装備施設本部においてLCC算定要領を作成し、航空機(戦闘機(図1)、哨戒機)を対象としたLCC年次報告書を提出した。その後、対象を航空機以外にも拡大して平成21年度の報告書にまとめている。さらに、平成21年度には、装備施設本部内にライフサイクルコスト管理室が9名体制で発足し、防衛省内におけるLCC管理業務を行なっている。本内容は、LCC管理室で作成した、LCC算定要領の概要及びLCC管理年次報告書について報告する。
著者
知花 弘吉
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学理工学部研究報告 (ISSN:03864928)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.91-100, 2005-09-30

The purpose of this study is to clarify the spatial abilities of university students. Their spatial abilities were measured with DAT. There were 25 questions, and the students had 20 minutes to answer. There were 428 university students that were subjects. The results are as follows; (1) the year of the student did not make a difference; (2) there was no difference between men and women's answers. However, men scored higher than women in different areas; (3) there was no difference in answers from students in the architectural design course and the architectural system course; (4) students that are good at mathematics tended to score higher.本文データの一部はCiNiiから複製したものである。
著者
麻殖生 健二
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.440-447, 1983-06-20

ディジタルオーディオ装置では高精度DAおよびAD変換器が必要である.このため従来, 技術的に実現困難であった16ビット程度の変換器が, 種々の新しい高精度化方式の開発によりモノリシックIC化され, 民生用ディジタルオーディオ用として, 性能的にほぼ問題のないレベルに達している.ここでは, 主としてこれらIC化AD, DA変換器について述べる.
著者
渡部 成哉 久住 庄一郎 揚原 祥子 久住 庄一郎 クスミ ショウイチロウ Kusumi Shoichiro 揚原 祥子 アゲハラ サチコ Agehara Sachiko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.151-160, 2009-03

教員養成大学音楽科の4年間では,何を,どう学ばせ,その結果どのような技術を持った学生を中学校の教員として送り出せばよいのか,本研究はそういう問いに発している。個別の研究や個々の実践例を除いて,そういう問いを正面から発した例を,浅学にして私(渡部)は知らない。知識に加え,即物的な意味での技術(したがって,ここで言う「技術」は,「効率的に授業を進める技術」というような意味でのそれでないことは断るまでもないだろう)を必要とする科目の教員養成では,合目的的な指導が何よりも重要であろうと思われる。目的はいかなるものであり,その目的に合致した指導はどうあるべきか,声楽および器楽のそうした指導について,シューベルト(Franz Peter Schubert 1797~1828)の作品を例に取り,論じる。
著者
田中 正司
出版者
神奈川大学
雑誌
商経論叢 (ISSN:02868342)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.1-51, 1991-03

論説