著者
川島 牧
出版者
大阪府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

潜水に伴い心・血管系に機能的な変化が起こる鯨類では、大量の血液が通過する肝循環に独自の進化があると考えられた。本研究では、特に類洞の微小循環調節に関わるとされる肝星細胞(HSC)に着目した組織学的研究を行い、以下の成績を得た。調べた動物はハクジラ亜目のコビレゴンドウ(Globicephala macrorhynchus)21頭とハンドウイルカ(Tursiops truncatus)7頭である。両鯨類のHSCは、筋細胞の中間径細糸であるDesminおよび筋細胞の収縮蛋白である平滑筋actin(SM-actin)を強発現した。またSM-actin陽性HSCは対の収縮蛋白である平滑筋myosinを共発現したことから、収縮能を持つ可能性が考えられた。特筆すべきは、これらのHSCが陸棲哺乳類の知見と相反し小葉中心帯に偏在していたことである。これは潜水応答により発生する徐脈と関連があると考えられ、HSCは収縮蛋白や細胞外基質産生を駆使し、過剰な類洞の拡張を押さえ肝細胞障害を防いでいると考えられた。HSCの収縮には神経性とホルモン性の両因子が関わるが、両鯨類ではアミン作動性交感神経の積極的な分布が肝小葉内に見られず、神経因子の関わる比重は少ないと考えられた。ホルモン性因子として類洞内皮細胞の産生するエンドセリン-1が上げられたが、抗体の交差性の問題からHSC上のエンドセリン受容体の検出は成功せず、今後の課題として残った。また、SM-actin陽性HSCは活性化型HSCであると考えられたため、HSCの活性化に関わるTGF-βの検出を行ったが成功に至らず、産生細胞であるKupffer細胞との関わりについても今後の課題として残った。また、ハンドウイルカではアミン作動性神経に支配された筋性終末門脈枝もまた肝小葉内へ流入する血液量が制限することで肝循環に関与すると考えられた。
著者
田中 圭
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

近年の少子化や過疎化の進行による小中学校の統廃合・廃校により、貴重な大型木造建築である木造校舎がまだ使用できる状態にもかかわらず、次々に取り壊されてきており、現在も多くの木造校舎がその危機に瀕している。その理由として、耐震性の不備と補強・補修の費用が高額であることなどを挙げる自治体が多い。そこで本研究では、昨年度に引き続き、大分市近郊の山間地域にあり、地域交流施設の一部としての利活用が検討されている木造校舎について、詳細な調査を実施し、その老朽度・耐震性などについて詳細な検討を行うとともに、補強方法についての提案を行った。また一方で、昨年度からの本研究で明らかとなった古い木造校舎特有の構造である「接合部が釘止めのみの大断面筋違を持つ耐力壁」と「大断面梁、束ね柱、方杖から構成される柱-梁接合部」について、実際に使用されている寸法、接合を再現した試験体を製作し、その耐震性能を確認する実験を行った。これにより「大断面筋違を持つ耐力壁」は、現在の建築基準法に定められている断面寸法による壁倍率に比べ極端に小さい壁倍率しか発揮できず、現状では危険である可能性が明らかとなった。しかし、その後行った同耐力壁の補強方法を検討する実験により、研究代表者らが開発した接合法を補強に応用することで、比較的簡単な施工で現在の基準と同等の耐震性能まで補強することができることが明らかとなった。また、「柱一梁接合部」の実験により、この接合部は最大耐力は比較的大きいものの、初期剛性が低く、これによりラーメン構造と考えた場合の水平耐力が低くなることが明らかとなった。このように本研究の調査により、現存する木造校舎の実態とその特徴が把握できたとともに、実験により、その性能も定量的に確認し、補強方法とその効果についても確認提案を行った。今後も研究を進め、補強の必要な木造校舎それぞれについて、現実的な補強方法などを提案していきたいと考えている。
著者
保利 一 則武 祐二 砂金 光記 東 敏昭
出版者
産業医科大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

有機溶剤蒸気の環境測定や個人曝露量の測定には活性炭管を使用する固体捕集方法が広く用いられている.しかし,活性炭管は蒸気が破過しても使用中にこれを検出することは不可能であるため,特に個人曝露量の測定のように長時間の捕集を行う場合,破過により正確な測定ができない可能性がある.そこで半導体ガスセンサーを利用し,使用中に破過を検出する装置を開発した.まず,センサーの特性とと破過曲線の関係について調べた.すなわち,有機溶剤蒸気を活性炭管およびセンサーを装着したカラムに通じた.センサーからの出力信号を定期的にICカードに記録するとともに,センサーの下流側に設置したサンプリングポートから空気を採取し,FID付ガスクロマトグラフ(GC)で濃度を経時的に測定し,破過曲線を求めた.測定終了後,ICカードに記録されたデータをパーソナルコンピュータに転送し,センサーの抵抗値の経時変化をGCによる破過曲線と比較検討した.溶剤蒸気にはアセトン,ジクロロメタン,クロロホルム,1,1,1-トリクロロエタン,メタノール,IPA,酢酸メチル,酢酸エチル,トルエン,1-ブタノール,メチルエチルケトンを用いた.GCで破過破過を検出する以前にセンサーは破過を検知し,抵抗値が変化することが認められた.ただし,ジクロロメタンとクロロホルムについては,センサーの抵抗値の変化は小さく,抵抗値と破過曲線の立ち上がりはほぼ同時であった.この傾向は,乾燥空気でも高湿度(80%)の条件でもほぼ同様であった。ただし,ジクロロメタンとクロロホルムに関しては,高湿度条件下ではセンサーは破過を検知できなかった.以上の結果に基づき,破過を検出すると警報で知らせるシステムを試作し,その実用性について検討した.
著者
桑野 園子 難波 精一郎 FLORENTINE M FASTL Hugo SCHICK Augus
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

公共空間において,突発的な危険を知らせる警告信号音が具備すべき条件として,(1)種々の騒音下において検知されやすいこと,(2)高齢者など広い年齢層を対象にしても検知されやすいこと,(3)音が検知された場合,それが何らかの警報であることが容易に認知されること,(4)この音の認知は文化の相違を超えた普遍性があること,すなわち警報としての機能がある特定の文化圏に限定されないこと,などが挙げられる。これらの諸条件を考え,SD法による危機感を与える音の検討,連続判断実験による種々の背景条件下で特に判断時点を定めない場合の検知実験,さらにSD法に関してはドイツ(オルデンブルグとミュンヘン),アメリカ(ボストン)で実験を行った。また,日本における実験には海外からの研究者の参加を得て相互比較の信頼性を高めるべく努めた。これらの実験の結果,早い速度で周波数変化を反復する音が検知の面でも危機感の面でも警告信号音として適当であるとの結論が得られた。またこの結論は海外の実験でも確認された。この反復する周波数変化音は広い周波数範囲を含む音なので,高齢者のように高音部の聴力が低下している場合でも,低音部の成分が検知の手掛かりを与える。今後,国際会議などでもこの結果を紹介し,ISO(国際標準化機構)における警告信号音の標準化の資料としても貢献できるように努めたい。
著者
山本 博美 若松 秀俊
出版者
足利工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本年度は、3年間にわたって開発した通信回線を含む電子保護システム全体について、実際に特別養護老人ホ-ムの施設で運用を繰り返し、その信頼性や経済性などについて研究を行った。まず、特別養護老人ホ-ムに設置した電子保護システムに、前年度までにシュミレ-ションを行って確認したパ-ソナルコンピュ-タ-とモデムを接続し、さらにNTTの電話回線を接続した。また実際に監視側コンピュ-タ-(研究室)から施設側コンピュ-タ-をアクセスし、徘徊デ-タの転送収集を平成3年3月から平成4年3月の期間にわたり、繰り返し行った。同時に市販の多機能ポケットベルが作動することを確認し、老人の外出時の救護が平均約10秒程度であることがわかった。これは介護者が、救護のために警戒する出入口に急行し、出入口に設置してある警報解除スイッチを操作した時間である。このことから電子保護システムは、介護者が目 を離した隙に徘徊性老人が外出しても、確実に警報を発し介護者も平均10秒以内に急行していることからいって、その有用性が確認できた。つぎに、電話回線を通じて施設側コンピュ-タ-から送られてくる警報デ-タは、収集プログラムの改良を行い、短時間で転送できるようデ-タ圧縮転送方式およびデ-タ処理のプログラムを開発した。なお、監視システムをパ-ソナルコンピュ-タ-で構成できたので、経済性の面で有利である。また今後は、一施設のみならず栃木県圏内の数ケ所の施設間で、ネットワ-クを構築し、電話回線を通じて送られてくる警報デ-タの処理および分析が必要である。また、デ-タの送信時のノイズ等による影響については、ソフトウエアの開発によりその影響を取り除き、確実にデ-タ送信できるシステムに改良した。
著者
西手 芳明
出版者
近畿大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

人工透析シミュレータシステムは、透析治療中に発生する警報の6パターンを再現することができた。動脈圧低下警報や動脈圧上昇警報では、脱血針をはじめダイアライザ入口までの動脈側のトラブルを再現することができた。静脈圧低下警報や静脈圧上昇警報では、ダイアライザ出口より送血針までの静脈側のトラブルを再現することができた。気泡警報では、血液回路にある複数のセンサに関連したトラブルを再現することができた。漏血警報では、ダイアライザに関連したトラブルを再現することができた。
著者
三橋 睦子
出版者
久留米大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1998年のN市における集団赤痢症例を中心に、精神健康調査および施設収容法調査により心理的問題および構成要素をコード化し、心理的援助法としての戦略を導き出した。1.集団赤痢発生の条件下での現象として、不安・緊張・不眠がみられた。条件の特性には、発生源の存在/腹痛・下痢・発熱/感染拡大・易感染/自宅待機/行動制限/収入源の途絶え/経済的負担/アンケートの協力、があり、赤痢発生から終息1〜2か月後まで持続し、周囲の人の視線により脅かしがみられた。管理戦略として、発生源の原因究明と早期管理・情報提供/行政各機関の早期協働/発生源関係者の謝罪と適切な対応/一般住民の感染に対する理解/病気・治療・感染防止に関連した情報提供/感染拡大防止への協力啓発/検便陰性・陽性に関わらない補償/生活環境の調整/アンケート調査の調整/マスコミの感染と関係者に対する理解と適切な情報提供、が必要であり、これにより、対象は集団赤痢を貴重な体験として受容し、回復の可能性が高まると考えられた。2.集団隔離・行動制限の条件下での現象として、無能力・抑うつ・社会機能障害・快感消失がみられた。条件の特性として、治療・検便/行動制限や感染に関連した説明と教育/手洗いの励行/生活の規制/持参品の制限/一般住民や周囲からの隔たり/情報源の減少/連絡手段の制限/面会の制限/排泄物の管理、があり、赤痢発生から終息1〜2か月後まで持続していた。管理戦略として、隔離に関連した情報の提供と協力の啓発/病気・治療・入院生活に関する情報提供/自由に使用できる電話の確保/同施設内一般患者への感染症の理解啓発/排泄後の後始末のディスポ手袋使用と指導/リラクゼーションの配慮/面会者への感染症の理解啓発/入浴などの規制緩和/カウンセリングなどの早期導入、が必要であり、これにより、上記同様の回復プロセスが考えられた。
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 青木 孝
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

新型インフルエンザ(H1N1)の発生・流行によって、「新型インフルエンザ」という名称は周知されたにも関わらずマスコミ報道等の影響で正しく理解されていない可能性が非常に高いと考えられたため、流行が収まるのを待って予備調査を実施した。その結果、リスク認知とリスク回避行動とが、リスクマネジメントの概念通りに正しくリンクしている勤労者(危機管理担当者)に対して、高齢者は自らの身体的リスクを認識した上で、新型インフルエンザ対策に関する情報収集等に強い関心を示し、マスコミや広報から得た知識を正しく認識できていない割合も他のグループより多いが、行動面で慎重でリスク回避の方向に進む傾向があることがわかった。その一方で、中学生他若者層は、知識吸収能力は高く対策についても正しく理解しているが、行動に関するリスクの認識が甘く、知識と行動とが合致せず危険性が高いことがわかった。H1N1型の国内発生・流行時の関西の高校生がカラオケ店に殺到した事件が裏付けとなる。中学生と、高校生・大学生を比較した場合、知識に関する設問でほとんど有意差がみられなかったため、調査モデル国の台湾では対象を中学生に絞った。台湾の中学生の行動は、日本の勤労者に近い行動をとること、講義や広報、マスコミ(一律の政府報道)に依存し、より慎重であることがわかった。また、全体的に、高病原性と低病原性のリスクを正しく理解していないことがわかった。以上から、リスク認知とリスク回避の関係は非常に密接であり、「感染症教育」の効果としての行動リスクの低減への期待値は非常に高いという結論を得た。
著者
大野 陽介 木村 辰幸 依田 育生 藤井 伸朗
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. CS, 通信方式
巻号頁・発行日
vol.95, no.200, pp.19-24, 1995-07-28
参考文献数
6

ATMトランスポートネットワークのオペレーションシステム(OpS)における新しい警報転送方式を提案する。本方式は、故障通知を通信警報ではなく操作状態の変化通知により行なうこと、VP警報をビットマップとしてまとめること、の2つの特徴をもつ。これによりOpSにおける高速な警報処理を可能にした。本方式を実際のATM網に適用し、性能を評価し、事象発生から操作端末に最初の表示を行なうまでの時間は故障発生時で4秒から7秒、故障回復時でm秒から11秒程度であることを確認した。
著者
川上 貴文 廣瀬 敏也 春日 伸予 澤田 東一 小口 泰平
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.581, pp.49-52, 2005-01-15
参考文献数
4

本研究は, 運転者の認知過程を考慮した追突防止システムの評価を検討したものである.システムは3種類を用意し, それぞれのシステムはブレーキランプに情報を提示するものである.その提示情報は(1)減速度, (2)制動力, (3)点滅による警報である.実験はドライビングシミュレータを用いて, システムを搭載した前走車の減速に伴い, 後続車の運転者が減速するものである.その結果, 制動力を提示したシステムは, 追突防止に効果が見られた.理由としては, システムが運転者の認知, 判断の時間を短縮していることが考えられる.
著者
高橋 和秀 昆 孝志 秋山 一宜 神宮司 誠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.1202-1212, 2005-07-01
参考文献数
26
被引用文献数
8

移動体通信ネットワークは, 地理的に散在する, 多種多様で非常に多くのネットワークエレメント(NE: Network Element), 及びこれらのNEからの警報を監視し, コマンドによりNEを制御するオペレーションサポートシステム(OSS: Operations Support System)から構成される.NEやOSSは, 高い処理能力を必要とするため, 通信キャリヤは, そのハードウェアとミドルウェアに非常に多くの投資を強いられるだけでなく, サーバ後継機種への更改やOSバージョンアップなどのようなベンダの戦略に追従せざるを得なかった(ベンダロックイン).本論文では, 小機能に分割されたNE/OSSアプリケーション処理を, 低価格の小規模IA (Intel Architecture)サーバに分散配置し, これらの小機能の間で, アプリケーションデータを, 高速で送受信して, 処理することにより, 高処理能力を得る分散データ駆動型アーキテクチャ(D3A: Distributed Data Driven Architecture)について説明する.本アーキテクチャに基づいて, NEやOSSを開発することにより, ベンダロックインに陥ることがなくなる.また, 本アーキテクチャの性能評価結果を示し, 試作したNEアプリケーションについても述べる.
著者
土山 明 中野 司
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は、火山爆発の原因であるマグマ発泡現象のアナログ実験として含水珪酸塩ガラスの加熱発泡実験をおこない、高分解能X線CT装置によるマイクロトモグラフィーを用いた3次元構造の時間発展(4次元構造)の観察法と解析法を確立し、さらにこれにより発泡過程とそのメカニズムを理解しようとするものである。平成17年度に含水流紋岩質ガラス(黒曜石)を用いて確立した観察法・解析法を、本年度は含水玄武岩質ガラスに適用した。天然物には実験に適したサンプルがないので、サンプルは内熱式高圧炉で合成した。これをステンレス製の字具に固定し、一定温度(675,700℃)で一定時間(5〜20分)加熱後冷却しCT撮影をおこなうというサイクルを繰り返した。CT撮影はSPring-8のBL20B2においておこなった(25keV、画素サイズ:3.14μm1344x1344マトリクス)。これにより、従来知られていない発泡様式を発見した。玄武岩質ガラスではサンプルの壁などから不均一核形成が始まり、数100ミクロンの泡へと成長していく。やがてサンプル壁のある場所より、多数の微細な泡(1ミクロン程度)が発生し、この泡に富む部分がシャープな境界を持ちながらサンプル内部に向かって一定速度で進行し、やがて発泡は停止する。流紋岩質ガラスでは均一核形成・成長によってのみ発泡を続けたのと対照的である。多数の微細な泡の生成によって、効率的に水を系外に逃がすことができるので、非爆発的な噴火が予想される。実際の高温での減圧発泡においても、この発泡様式がおこるとすれば、玄武岩質マグマの非爆発的な噴火を、今回新しく発見した発泡様式で説明することができる。今後、さらなる超高分解能でのCT撮影や、条件を変えた実験、また天然の玄武岩の組織観察などにより、これを検証することが必要である。
著者
三浦 要一
出版者
高知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

明治30年の古社寺保存法の制定後は、特別保護建造物の資格あるものが定められ、保存修理事業が開始された。明治以降に解体修理が竣工した古社寺建造物は、建立当初の建築形式を解明するために、文献資料から検討を加えることが必要になる。本研究は四国地方の4つの寺院を事例に、文化財修理の方針とその内容を明らかにした。本研究は古社寺建造物の修理に関する文献研究の有用性を提示し、今後の基礎資料になるものである。
著者
福間 良明
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、戦後沖縄の総合雑誌を可能な限り洗い出し、そこにおける戦争観の変容や位相差を検証することを目的として、進めてきた。戦後沖縄の雑誌メディアについては、これまでに系統的な整理すらなされていなかった。戦後の沖縄では、「うるま春秋」(うるま新報社・1949年発刊)や「月刊タイムス」(沖縄タイムス社・1949年発刊)、「世論週報」(沖縄出版社・1951年発刊)、「月刊沖縄」(月刊沖縄社・1961年発刊)など、多くの政治雑誌・総合雑誌が存在した。日本本土から週刊誌や総合雑誌が流入するなかで、これらの多くは淘汰され、その言説布置やメディア特性については、これまで顧みられることはなかった。本研究では、これらのメディア史を解き明かしながら、そこにおける戦争観の位相差や変容について、考察を進めた。
著者
中井 淳一
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

多くの動物は眠るが、睡眠の分子メカニズムはまだ良くわかっていない。この状況は、Hypocretin/Orexin(Hcrt)とその受容体が発見され大きく進展した。本研究は、ゼブラフィッシュを用いて動物の睡眠と覚醒の分子機構を明らかにすることを目的としている。そこで蛍光カルシウムプローブG-CaMPを神経細胞に発現させ神経細胞の機能とゼブラフィッシュの行動との関係を探ることを計画した。本研究において蛍光カルシウムプローブG-CaMP2を改良したG-CaMP-HSを新たに開発した。G-CaMP-HSはG-CaMP2と比較して高感度であるとともに、細胞内でのタンパク質の安定性が増しており、安静時の蛍光強度が高いという特徴を持つ。これに関連して、蛍光カルシウムプローブの性能向上に関する特許を申請した。次にG-CaMP-HSをGal4-UASの下流につないだコンストラクトを作成し、ゼブラフィッシュに導入することにより遺伝子改変ゼブラフィッシュを作成した。このゼブラフィッシュと運動ニューロン(Caudal primary neuron : CaPニューロン)にGal4を発現するゼブラフィッシュ(SAIGFF213A)とを掛け合わせることによりCaPニューロンにG-CaMP-HSを発現するゼブラフィッシュを作成した。CaPニューロンの活動をイメージングにより解析したところ、CaPニューロンのバースト発火に伴い、G-CaMP-HSの蛍光強度が変化することが観察された。この成果はProc Natl Acad Sci USAに報告した。ゼブラフィッシュの神経細胞からG-CaMP-HSを用いて神経活動をイメージングにて解析することが可能となったことにより、今後HcrtニューロンにG-CaMP-HSを発現させ解析することにより睡眠覚醒のメカニズムの解明が進むと考えられる。
著者
宮口 英夫
出版者
創価大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本年は、2008年に相模湾を直撃ならびに接近した台風13号(SINLAKU)について、台風接近時からの海洋環境と生物群集の動態を調査した。研究計画通りに試料採集を行うことができた台風13号(SINLAKU)について、台風接近時からの海洋環境と生物群集の動態を調査し、台風通過の生物生産に及ぼす影響を評価することを目的とした。台風最接近時には約100mm激しい豪雨が見られ、約10PSUの急激な塩分低下を引き起こした。栄養塩濃度は、台風通過直後に、本調査海域の同時期に見られる通常値に比べ、硝酸+亜硝酸は約3倍、燐酸は約3倍、珪酸は約7倍、増加した。台風に伴う豪雨-暴風によって、陸水の流入や海水の鉛直混合により栄養塩の供給が起こり、さらに、台風通過後5-7日後に、全栄養塩濃度の減少が見られ、植物プランクトン生産に栄養塩が使われたことが考えられた。クロロフィルα量は、台風通過直後は低い値を示していたが、3-5日後に、同時期の通常値に比べ約5倍の、最大値12mg m^<-3>を示した。クロロフィルα量の変動には10-180μmの大型植物プランクトンの分画が寄与していた。植物プランクトン群集構造に関しては、台風通過前は珪藻Skeletonema costatumが優占し、台風通過直後(8月19-20日)に珪藻S. costatum、Pseudo-nitzschia multistriata、Thalasionema nitzchioides、Leptocylindrus minimus、渦鞭毛藻Protoperidinium minutum、Prorocentrum gracileなど比較的多くの種で大部分を占めた。第1ピーク時にS. costatumが優占した後、S. costatumの減少に伴い、Chaetoceros tenuissimusが優占した。第2ピーク以降はLeptocylindrus danicusが優占した。以上のように、台風通過後の群集構造にはS. costatum、C. tenuissimus、L. danicusが大きく寄与しており、これら3種による優占種の変遷がみられた。MDSプロットによる解析の結果、A(8月16-18日;台風通過前、8月25-27日;最大細胞密度時)、B(8月19,20日;台風通過直後)、C(8月21日;低細胞密度1)、D(8月28日;低細胞密度2)、E(8月29-30日;細胞密度第2ピーク時)に分類された。台風通過に伴う植物プランクトン群集構造は、A→B→C→D→A→Eと変遷していったと考えられた。台風通過により、植物プランクトンの群集構造は、一時的に激変したが、約5日後には台風通過前の群集構造に戻った。過去観測した台風の結果と同様の傾向が見られた。