著者
山口 浩一
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.InAs/GaAs系およびGaSb/GaAs系量子ドットの高均一自己形成InAs量子ドットにおけるサイズの自己制限効果を見出し、単一の量子ドット層において発光エネルギー半値幅17meVを示す高均一化を達成した。GaSb量子ドットの自己形成においてもマイグレーションの促進条件の適用により、従来の約半分の発光スペクトル幅(49meV)を示す高均一化に成功した。2.InAs量子ドットの積層成長とGaAsナノホールの自己形成高均一InAs量子ドットの積層成長において、1層目の量子ドットからの格子歪による成長過程への影響について新たな知見を得、その結果、発光半値幅17meVを示す高均一なInAs量子ドットの2重積層構造の作製法を確立した。埋め込まれたInAs量子ドット直上の表面GaAs層部のみにナノサイズの孔(ナノホール)を自己形成する方法を開発した。二重結合型積層InAs量子ドットに結合したGaAsナノホールの自己形成について検討を加え、新しい量子ドットダイオード構造を試作し、量子ドットへの局所的な電子のトンネル注入を確認した。3.量子ドットのスピン物性についての検討GaSb層の導入によるInAs量子ドットの高密度化(1×10^<11>cm^<-2>)を開発し、その円偏向励起フォトルミネッセンス測定より、量子ドット密度が高くなるとスピン偏極率が低下する傾向を観測した。つぎに、InAs量子ドットへのスピン偏極電子の局所的なトンネル注入法として、磁性探針を用いたスピン偏極STMについて検討した。Ni探針とNi薄膜試料の実験においてスピンに依存したトンネル電流を検出した。また円偏光励起GaAs探針を用いたスピン偏極STM実験において、左右円偏光変調信号成分のスピンに依存したトンネル電流信号の検出精度を高め、円偏光変調信号のバイアス電圧依存性を比較的再現性高く測定することが可能となった。
著者
塚田 有紀子 中村 眞 中尾 正嗣 鈴木 孝秀 松尾 七重 山本 亮 濱口 明彦 花岡 一成 若林 良則 小倉 誠 横山 啓太郎 細谷 龍男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.871-875, 2007-10-28
被引用文献数
2

潰瘍性大腸炎 (ulcerative colitis : UC) は若年女性に好発し, 患者の妊孕性は健常人と差がない. また, 妊娠によってUC自体が増悪しやすいこともあり, 患者の妊娠時の治療が問題になる. 症例は24歳時にUCを発症した35歳経産婦. 30歳時には治療薬を中断中に妊娠8週で流産しており, 32歳時にはステロイド療法を継続しながら第1子を得ている. 2006年7月, Prednisolone (PSL) 5mg/日とmesalazineの内服中であり, UCの活動性は臨床重症度分類で中等症であったが, 妊娠のため自己判断で内服を中止した. 同年9月妊娠8週0日で排便回数10回以上, 腹痛, 顕血便が増悪し入院となった. PSL20mg/日を使用し, 絶食と中心静脈栄養により腸管安静をはかったが症状は改善せず, 腹部の反跳痛も出現して開腹手術の適応が検討された. 10週2日からPSL50mg/日の静注を行い, 加えて11週1日から顆粒球除去療法 (granulocytapheresis : GCAP) を週2回計10回施行した. GCAP3回施行後から諸徴候は好転し, GCAP5回施行時 (14週1日) には, CRP0.5mg/dLと陰性化し, 解熱して緩解に至った. PSLは漸減し, 16週1日にPSL20mg/日で退院した. 退院時点で胎児の大横径・大腿骨長はいずれも16週相当であった. 治療に難渋したUC合併妊娠症例に対してGCAPを併用したところ, 速やかに緩解し妊娠継続が可能となった. UC合併妊娠では, 通常の薬物療法に加えて, 胎児への影響が問題とならないGCAPを積極的に活用するべきである.
著者
安西 眞 ARTIMOVA J. ARTIMOVA Josefa
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

アルティモヴァ博士の研究目的は、全体として、新約聖書が成立した文化的背景と、現在、スロヴァキアで試みられている新約聖書のスロヴァキア語訳の背景となっている文化との差異をどのような方法で明らかにし、また、それを翻訳にどのように生かすかについての、研究である。文献学的であると同時に、文化接触研究でもあるという境界的な研究であるといえる。今回の外国人特別研究員としての北大文学研究科での研究は、すなわち、科学研究費の支援を受けてのものである研究は、近代日本がその聖書翻訳史の中でその問題をどのように取り組んで来たかを、理解することが主たる目的であったと言える。北大の学生たちと、聖書の日本語訳や、英語訳をつうじての勉強会を主催しつつ、日本語訳や、日本文化と古代地中海文化との差異の問題を理解し、日本語訳が抱えている問題を知り、かつ、そこで得た知識を自分の本来の研究の目的である、スロヴァキア語訳聖書の向上のために使おうとする、きわめて特異な試みであったと言える。日本語は欧州の言葉を基盤とする研究者にとって、それが言語の専門家であってもそれほど修得が容易な言語とは言えないので、成果はそれほど短時日で、直接の形で、現れることが期待はできないが、長い目で、かつ、彼女のスロヴァキア本国における研究成果の全体の中で、必ずや、この2年間の科学研究費補助金による研究が、間接的であろうとも、現れることを期待したい。
著者
西野 嘉章
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、1910-40年代のドイツで、まったく世に出ることなく構成主義的なコラージュを制作し続けた芸術家カール・ワルドマンについて、現在までにその存在が確認されている作品の物性解析・図像分析を行い、それらの編年作業を通じて、両大戦間ヨーロッパ前衛芸術運動史のなかに、この芸術家を位置づけることを目指して始められたものであり、次のような暫定的所見を得るに至った。1)コラージュに関する文献を渉猟しても「ワルドマン」の確かな存在証明は得られなかった。研究者のあいだで「ワルドマン」捏造説が唱えられる所以である。そのため、国内に将来されているミクストメディア・コラージュ作品2点(個人蔵)について、セルロースと有機系素材のサンプルを抽出し、東京大学のタンデム加速器を用いて、放射性炭素の残量の解析を行った。結果、作品に使われている素材は戦前のものであり、真作としての必要条件を満たしていることは判明したものの、材料の固定に使われた有機媒材を分離抽出することが出来ず、真贋判定について結論を得るには至らなかった。2)図像学的な研究では、1930年代の左翼社会主義運動のなかで生み出された同時代のコラージュ作品に較べて、ナチス・ドイツを標的とする政治諷刺、さらには人種、わけてもアジア系人種や、公衆衛生、スポーツ祭典のテーマに、コラージュ作家としての特徴が発揮されており、まさにその点で他の同時代の美術家たちと一線を画していることが判った。とはいえ、1910年代のロシア構成主義、第一次大戦直後のベルリン・ダダ、さらに1920年代後半以降のソヴェト・ロシア生産主義、ポーランドの構成主義の影響を受けた「ワルドマン」作品群と、『ドイツ労働新聞』、『国際赤旗』、『世界の鏡』、『グラフ新報』、『眺望』、『ソ連邦建設』など、独仏露のグラフ雑誌の誌面を飾ったジョン・ハートフィールド、ウンボ、エル・リシツキー、ハンナ・ヘッヒら、同時代のコラージュ作家・フォトモンタージュ作家との、総体における近縁性には否定しがたいものがある。以上のことから、本研究は真贋論争について結論を保留するが、かりに捏造であったとしても、真性の素材を用いた、高い技術、深い学識に基づく贋作であると見なさねばならないことは間違いない。
著者
土谷 茂久 河野 龍太郎
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

原子力発電のパブリックアクセプタンス問題を取り上げて,次のように所期の成果をあげることができた.1.コミュニケーションにおけるゲーミング・シミュレーションの有効性を検証(1)集団的意思決定支援システムの開発と有効性の検証原子力発電所運転クルーの中央制御室での行動を分析して,集団的意思決定支援システムと分析手法を開発.柏崎および福島の運転員訓練センターの教官に実施して有効性を確認した.(2)合意形成支援(開放性)システムの開発とその有効性の検証合意形成を阻害する大きな要因のひとつである「開放性」について学習に心を開かせるためのゲーミング・シミュレーションを開発した.有効性が確認されて2002年4月からT電力原子力発電所の運転員訓練に採用される.2.原子力発電所を取り巻く環境のシステム分析を行ってモデルを作成し問題の全容を解明T電力K発電所のインタビューやアンケート結果を分析した結果,電力会社側と地元住民との意識のずれが地域共生を妨げる大きな要因であることが明らかになった.これまでの会社側の「広報活動」が科学的根拠に基づく説得を中心にしているのに対して,地域住民は不信感や不満といった感性的側面を問題にしている.3.このモデルに基づき,ゲーミング・シミュレーションを用いた原子力発電に関する合意形成支援システムのプロトタイプを作成し,実施問題の大半は会社側にあり,社員およびその家族全員一人一人が地域住民と個人レベルで相互理解を深める以外に根本的な解決策がないところから,この点を社員とその家族に疑似体験を通じて学習させるシステムのプロトタイプを作成しT電力原子力研究所でテストランを行った.明年度,T電力およびN原子力発電でテストランを行う予定である.
著者
石田 浩 佐藤 博樹 苅谷 剛彦 本田 由紀 玄田 有史 永井 暁子 白波瀬 佐和子 佐藤 香 三輪 哲
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、若年者を対象としたパネル(追跡)調査を2007年から毎年実施した。同一の個人を何年にもわたり追跡して調査することにより、(1)学校から職場への移行、(2)初期のキャリア形成と転職、(3)離家と異性との交際・結婚、(4)意識・態度、価値観といった多様な側面から若年者のライフコースを総合的に捉え、その変化を跡付ける分析を行った。
著者
佐藤 和信
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

分子スピン量子コンピュータの実現を目指し、分子内の電子スピンを利用する量子情報制御をパルス電子-核多重共鳴技術を用いて行った。分子スピン系における量子絡み合い状態の実験的な検出と状態変換を行い、電子スピン(半整数スピン)が持つ固有の量子機能としてのスピノール性を顕な形で初めて実験的に成功した。これにより、電子-核スピン混在スピン系において、量子高密度符号化などの初等量子アルゴリズムを実行することが可能であることを実験的に検証することができた。
著者
芝山 敏満 新妻 弘崇 伊藤 実
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.534, pp.13-18, 2001-12-14
参考文献数
8

本研究では, サポートベクターマシンを使って二人ゼロ和複数期間ゲームの価値関数を学習する上で, 学習データ数が多い場合に従来よりもメモリ使用量の少ない学習法を提案する.我々は以前に, 強化学習における価値関数をカーネルトリックを使って近似的にバッチ学習する手法を提案した.この手法を使うと価値関数を, より少ないメモリーで表現することができた.しかし, この手法を学習データ数の多いタスクに適用すると, 計算の途中過程で, 非常に多くのメモリが必要になるため, 学習データ数の多いタスクに適用させることは困難であった.本研究では, 追加学習が可能であるインクリメンタルサポートベクターマシンを用いて価値関数を学習することでメモリ使用量を減らす手法を提案する.また, この手法によってオンライン学習が可能となる.本研究では, この手法をTic-Tac-Toeに適用し, その有用性を示す.
著者
上田 真也
出版者
高知工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:近年フィジカル・コンピューティング、パーソナルファブリケーションなど、ユーザー主導型のイノベーションが起こりはじめている。しかし、これらの実現にはあらゆる言語や環境に対するライブラリが提供されているわけではなく、相互に連携し日常生活のあらゆるモノや空間に遍く入り込みサービスを提供するユビキタス環境ではそれに適したハードウェア・ソフトウェア開発が必要である。早い段階で実際に動作するプロトタイプを素早く製作-評価するサイクルを繰り返して行うことは、高専学生においても、万能なモノづくりに効果的であり、本研究では次の時代を担う高専学生が自ら様々なセンサを有するコンピューティング演習を通じ、創造の自由度を向上させることで世界の広がりや楽しさにつなげることを目的としている。○研究方法:1.フィジカル・コンピューティング用教材の試作マイクロコントローラArduino+ライブラリと18種類のセンサ、3種類のLED、2種類のモータなどのモジュール群を使用し、ActionScript3/Processingを組み合わせ、ブレッドボード上での演習、また安価で簡単に扱える評価ボードの試作・マニュアルの準備、電子情報工学系以外の学生でも容易にデバイスのデザインを行える環境の整備を行った。2.オープンソースハードウェアのための手軽なミドルウェア開発マイクロソフトの.NET Micro Frameworkでプログラミング可能なマイクロコントローラNetduinoとWebブラウザープラグインSilverlightのOut-Of-Browser(OOB)で動作するサンプルアプリケーションを試作し、手軽に扱うことができるミドルウェアの開発・親和性を向上させる手法について評価検討を行った。○研究成果:高専学生が自ら様々なセンサ等に触れることで、実物があるコンピューティング演習に興味を持たせることができ、自由な発想で新たなモノづくりへの期待や楽しさを向上させることができた。IEEE802.15.4を用いたワイヤレス・データ通信は特に興味を引き、楽しく取り組めたようである。専攻科・高学年生用に応用例として総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進制度)で開発製作されたマイコンボードと連携させ、複数の計測モジュールとして教材を活用して開発に参加し、実用テストを開始することができた。
著者
三木 哲志 清水 雄哉 藤井 大輝 田中 秀典
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SSS, 安全性 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.557, pp.17-20, 2008-03-20
参考文献数
4

近年、電力系統は大規模化・複雑化してきているとともに、自由化が進んできており、大停電が発生する確率が増大してきている。このような状況下において、電力系統におけるハイリスク事象を確実かつ効率的に探索する手法を開発することが強く要請されている。リスクの定義として、電力系統の使命が電力の安定供給にあることを考慮し、それが損なわれる定量的指標である「供給支障量と発生頻度の積」を採用する。本論文では、自然災害に起因して過渡安定度を喪失しために生じた電力系統ハイリスク事象を的確かつ効率的に探索可能な新たに開発した手法について述べている.3台の発電機と9台の母線より構成されるモデル電力系統に本手法を適用したところ、その有効性を確認できた.
著者
Yoshinobu Jun Kawai Maki Imamura Issei Marumo Fumiyuki Suzuki Ryochi Ozaki Hiroyuki Aoki Masaru Masuda Shigeru Aida Misako
出版者
American Physical Society
雑誌
Physical Review Letters (ISSN:00319007)
巻号頁・発行日
vol.79, no.20, pp.3942-3945, 1997-11-17
被引用文献数
29

Evidence for a molecule-substrate hybridized state near the Fermi level EF is presented for Pd(110)- c(4x2)-benzene. Observed images of adsorbed benzene near EF by scanning tunneling microscopy consist of two elongated protrusions separated by a single nodal depression with C2 symmetry. The existence of a benzene derived state near EF is also observed by metastable atom electron spectroscopy, and it is assigned to the antibonding states between the 1e1g molecular orbital of benzene and the Pd 4d orbitals by ab initio molecular orbital calculations.
著者
小塚 裕介
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は電気抵抗を測定することで、酸化亜鉛における二次元電子の金属状態から絶縁体状態への転移を観測することである。極低温中において酸化亜鉛二次元電子に強磁場を印加することで、電気抵抗が急激に増大し、金属絶縁体転移が観測された。しかしながら、この抵抗増大の前後でキャリア濃度を反映するホール抵抗に異常は見られず、量子ホール絶縁体と呼ばれる、高移動度の低キャリア濃度系に特徴的な状態が実現されていることが明らかとなった
著者
小椋 好恵 馬場 聡史 後河内 大介 前田 忠彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.677, pp.191-196, 2005-02-25
参考文献数
16

移動端末において地上デジタル放送を受信する場合, その実用状態での人体手部, 胴体によるアンテナへの影響は無視できず, また指の位置に応じて放射特性が変化することが考えられる.そこで本論文では, 筐体上に設置した平衡給電型折り返しノーマルモードヘリカルアンテナにおける手部, 胴体の影響を計算, 実験により検討を行っている.手部のみの影響はインピーダンス特性に大きく現れ, 指の位置によっても変化が見られたが, 放射特性には手の影響はあるものの指の位置によって指向性利得への影響はあまり見られないことを示した.人体全身の放射特性への影響についても実験的に検討を行い, 胴体による影響を明らかにした.また, これらの筐体や人体の影響を考慮した上で所望の帯域に広げるため, バラクタダイオードを用いた整合についての基礎検討を行い, 保持状態における手の形状によって, 確保できる周波数帯に変化があることを示した.
著者
森本 淳平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は、生体の翻訳の機能で炭素-炭素結合を形成させることで、多様な構造を有するライブラリの構築およびスクリーニングをmRNAディスプレイ法によって可能とすることを目指した。初年度の前半でこの研究を追求したが達成には至らなかったため、側鎖に特殊な構造を有するアミノ酸が導入されたペプチドライブラリを構築・スクリーニングする、という研究へと方向転換し、初年度の後半および第2年度の研究を通してこれを達成した。本年度は、前年度の研究で得られたヒト脱アセチル化酵素SIRT2の阻害ペプチドをさらに深く評価する研究を行った。まず、SIRT2阻害ペプチドS2iL8およびS2iD7のいくつかの変異型を合成してSIRT2への結合能および阻害能を評価することで、これらペプチドの強力な結合能の構造的基盤を明らかとした。この結果は学術誌へ論文投稿し掲載された。また、本研究の基盤技術となるフレキシザイムというリボザイムについての総説も学術誌に掲載された。また、阻害ペプチドの分子構造の徹底的な改造を行なうことによって、IK^<Tac>TY(K^<Tac>=チオアセチルリシン)というペプチドを創出し、10μMで細胞内のSIRT1を阻害し、p53のアセチル化レベルを亢進させることに成功した。この成果は現在論文投稿準備中である。さらに、東京大学の濡木研究室との共同研究を通してSIRT2阻害ペプチS2iL5とSIRT2との共結晶構造の解明にも成功した。この結果から、in vitroでの活性評価の結果を裏付けるデータだけでなく、SIRT2の基質特異性に関わるような新たな知見も得られた。これら結晶構造解析の成果についても、現在論文投稿準備中である。このように、本年度の研究を通して、一報の論文掲載とさらに二報分の論文の研究成果をあげた。三年間の研究を通じて、当初の目的であった炭素-炭素結合を形成することはできなかったものの、特殊なペプチドライブラリの構築およびスクリーニング技術の発展に貢献し、興味深い構造を有する強力な阻害剤の獲得に成功した。
著者
小野 哲也 法村 俊之 島田 義也 上原 芳彦 上原 芳彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

実験動物ではカロリー制限が放射線による発癌効果を抑制することが分かっているが、そのメカニズムは未解明である。そこで本研究では突然変異、染色体異常、遺伝子発現変化などを指標として解析を行った。その結果、突然変異と染色体異常についてはカロリー制限による影響を見出すことはできなかったが、いくつかの遺伝子の発現の変化からは可能性のあるものがみつかり、今後の解析の手がかりが得られた。
著者
下川 功 森 亮一 千葉 卓哉
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

カロリー制限(CR)は、ミトコンドリア機能制御を通して抗老化効果を示すのかもしれない。我々は、CRがミトコンドリアタンパク質Cox6b1(cytochrome c oxidase (Cox)のサブユニット)を増加させることをすでに報告した。本研究は、Cox6b1の役割を明らかにするために、in vitro実験を行なった。結果は、Cox6b1がCoxを含むスーパーコンプレックスを形成することによって、ミトコンドリアの呼吸機能を増強すること、同時に発生する活性酸素は、Nrf2の活性化によって防御されることを示唆した。我々は、Cox6b1の発現にGSK-3βの抑制が関与することも示した。