著者
遠藤 恵子
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、内務省が所管していた行政の諸分野における、戦間期の女性政策の見取り図を作成することを目的とする。おもに、次の2点について、文献研究を行った。第一に、様々な政策についての政策形成過程や女性像を明らかにすることである。第二に、各政策における女性の状況を明らかにすることである。そして、多様な女性政策が形成されており、これらの政策の多くが、第一次世界大戦以降の欧米における女性政策の動向を反映していたことを理解した。
著者
根ケ山 光一 篠原 一之
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

思春期の親子関係と匂いの関係を直接的に調べるため,質問紙を用いて,小学生から大学生までの男女(1047名)と高校までの子の父母(162名)に対し,相互の体臭をどの程度快・不快に感じているか尋ねた。その結果,親の様々な身体部位の中で特に口・脇の下・足の裏・頭の臭いが嫌悪され,その傾向は男子に強く,かつ父親がより嫌悪された。しかしながら,子どもの年齢によって親の体臭への嫌悪が顕著に増減する傾向は認められなかった。一方,親から子の体臭に関しては,足の裏や口,頭,脇の下の匂いが嫌悪され,父親からの不快感情が母親よりも有意に強かったが,ここでもやはり予想に反して子の年齢と体臭への嫌悪の対応は明瞭ではなかった。このように子の年齢よりは親・子の性が体臭への嫌悪のより大きな要因であることがわかった。20代、30代、40〜50代の男性の匂いの思春期前・後の女性の情動に及ぼす影響を調べた。思春期前は時期を選ばず一回、思春期後は卵胞期と排卵期に,男性の匂い(腋下、乳首周囲、会陰部、背中)を嗅いでもらい、その匂いに対する印象をSexy、男性的、快、強い、Happyの項目について評価してもらった。その結果、排卵期思春期後女性は思春期前女性と卵胞期思春期後女性に比べ男性の匂いに対しよりSexyに感じることが分かった。そこで、年齢別にSexyさを調べたところ、思春期前女性と卵胞期思春期後女性ではどの年代の男性の匂いにもSexyさは感ぜず、排卵期思春期後女性は20代の男性の匂いにSexyさを感じることが分かった。以上のことから、女性は、生殖可能な年齢しかも生殖可能な時期でのみ、男性の匂いにSexyさを感じることが分かった。さらに、生殖可能な年齢・時期であっても、自分の父親に相当する年齢にはSexyさを感じないことから、匂いによる近親相姦回避の可能性も考えられた。
著者
南宮 湖
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2009年に出現した新型インフルエンザウイルス(A/H1N1/pdm)では、肥満患者における重症化の病態が新たに注目された。また、近年、肥満における慢性炎症とその免疫機構が注目されており、本研究では、肥満マウスウスモデルを用いて免疫学的検討を行い、インフルエンザウイルス感染において肥満が病態を重症化させる機序に迫ることを目的とした。肥満モデルマウスにインフルエンザウイルス(A/H1N1/PR8)を感染させると、通常マウスと比較して、有意に生存率が低下し、顕著な体重減少を認めた。感染後1日目、3日目、5日目でそれぞれ、気管支肺胞洗浄液中のウイルス量の増加が見られた。また気管支肺胞洗浄液の上清及び血清中の炎症性サイトカイン(TNFα,IFNγ)が、感染後1日目では、肥満モデルマウス群で低下していたのに対し、感染後5日目では、肥満モデルマウス群で顕著に上昇していた。また、肥満モデルマウスの病理組織を観察すると、インフルエンザウイルス感染前の定常状態で、気管支周囲に脂肪組織を認め、インフルエンザウイルス感染5日目には、気管支周囲に認めた脂肪組織の周辺に顕著な炎症細胞浸潤が見られた。以上より、肥満モデルマウスにおいて、感染初期では、免疫応答が惹起されず、インフルエンザウイルスが、より増殖していく一方で、感染後期においては炎症が遷延することで、病態の重症化に寄与していることが示唆された。今後、形質細胞様樹状細胞からのI型インターフェロン(IFNα.β)産生やマクロファージからの炎症性サイトカイン産生に注目して、肥満モデルマウス群で、インフルエンザウイルスの重症化機構に関して更なる解析を続けていく予定である。
著者
長田 洋和
出版者
専修大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

Callous Unemotional Traits(CU特性)は,素行障害との関連が報告されている.CU特性のスクリーニングは,わが国での非行の予防の一助となり得ると考えられる.全国の4088人の小中学生から日本版CU特性尺度(JICU)への回答を得た.JICUは十分な有用性が示され,80パーセンタイル得点をカットオフとしたところ,795人がCU特性を有する可能性が示された.わが国の小中学生と欧米の児童青年期でのCU特性には文化差がなく,今後わが国でも,CU特性を有する子どもに,すでに欧米で開発されているEBPを適用することで,生きづらさ,非行や反社会的行動を予防できる可能性が示唆された.
著者
吉岡 亮衛
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は、俳句データベースに蓄積されたデータと、エキスパート(選者)の評価基準を駆使して、新たな俳句が既存の俳句に類似している度合いを自動判定するシステムを開発することが最終目的である。そのため、(1)既存の俳句をデータベース化するためのデータベース構造を究明し、入手可能なできるだけ多くの俳句をデータベース化すること、(2)個々の俳句の特徴(たとえば季語)に照らしての分類や真贋判定する選者(エキスパート)の知識をルール化すること、及び(3)それらを一体化したシステムを開発することを目指している。本年度は次のように研究を進めた。1.季語データベースによる俳句の季語の特定季語データベースに登録された季語により適当に選んだ俳句の季語をどれくらいの割合で特定できるか、実際にマッチングテストを行った。マッチング方法の検討からはじめ、2つの歳時記に共通の季語1,542語で448句のサンプル俳句の訳65%の季語を特定できるという結果を得た。同時に、季語が特定できた時にどのような研究が可能となるか、一例として、俳句選者による季節及び事項の嗜好に関する分析結果を示した。2.季語データベースの増補次に、季語データベースを用いて俳句の季語を特定する場合の、特定率の向上について、季語を追加することによる特定率の変化を調べた。その結果、季語を増やせば、俳句の季語の特定率が上昇することを明らかにできた。ただし、約10,000語で90%の俳句を特定できた後、季語数の増加は特定率の向上にそれほど寄与しないであろうことを見いだした。つまり、特定率を90%で十分とするならば、1万語以上の季語データベースは必要ないという結論を得た。以上の一連の研究については、情報処理学会の人文科学とコンピュータ研究会において発表した。
著者
井上 創
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

学習指導要領改定により中学校理科で真空放電管(クルックス管)の高圧放電実験が扱われることとなった。クルックス管は通電時、低レベルX線を放出することが知られているが、このX線の測定はほとんど行われていない。このため、実験を取りやめたり、逆に、X線が低レベルであるという認識から防護の必要性が認識されていなかったりと、対応がまちまちである。本研究では、クルックス管の漏洩放射線量の測定方法を開発し、本中学校に設置されている装置の漏洩線量の測定と、安全な実施方法の開発(離隔距離、演示時間、遮蔽)を行った。さらに、生徒及び学生実験の放射線防護基準の確立のための基礎資料を提供することを目的として、近隣中学校に設置されるクルックス管の漏洩線量を測定し、測定方法と安全な実験方法についての一般化を試みた。まず、Ge半導体放射線検出器によって漏洩放射線のスペクトル分布を明らかにしようとしたが、電源及びクルックス管の特性が不安定であることと、低レベルであったことから望ましいデータは得られなかった。次に、イメージングプレート(IP)を用いて、クルックス管の漏えい放射線量と放射線の空間分布状況を測定し、傾向を捉えた。この上で、個人線量計をクルックス管表面と周辺空間に配置することで、漏洩線量の測定に成功し、簡易な測定方法を確立した。計測した5つの中学校で、全測点(推定発生源から2~12cm程度)の平均値は、0.04mSv/分 程度であったが、2つの中学校の装置至近(推定発生源から3~8cm程度)では強い放射線、約0.7mSv/分(5分間の演示実験では約3.5mSvとなる)を観測する点がそれぞれ1か所あった。この5分間値は、約70cmの離隔を取ったとして、胸部X線集団検診1回分(0.05mSv)程度となる可能性のある強度で、実験者には放射線の空間分布特性の理解と個別装置の漏洩線量の理解及び防護の対策が望まれる状況であるといえ、本研究成果の活用が望まれる。また、アクリル板による防護のある程度の効果を確認した。
著者
有馬 哲夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

従来原爆はアメリカが開発し、使用を決定したとされてきた。本研究では原爆はケベック協定ののもと英米加の3カ国が共同で開発し、資源開発もし、使用にあたっても、英米の合意と加の了承が必要だったことを明らかにした。しかしながら、原爆完成後はアメリカはケベック協定を一方的に破棄したため、イギリスとカナダは原発などを独自に開発しなければならなかった。また大戦終結後にソ連と共に核拡散および核兵器の国際管理の体制を築かなければならなかったが、イギリス、カナダの協力が得られなかったために、これもできなかった。
著者
市原 美恵 行竹 洋平 松本 聡 栗原 亮
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究が対象とする火山性微動は,夜間の静寂時に背景ノイズレベルとして検出できる微弱なものである.この微動をSeismic Background Level (SBL)微動と呼ぶ.SBL微動は噴火の前駆過程や終息を知る手掛かりを与えると期待している.本研究は主に霧島火山において,SBL微動の実態とメカニズムを明らかにするために,定常観測点のデータを利用したモニタリング,ターゲットを絞った機動観測による震源位置推定,そして気象・火山・地震に関連する多項目観測データとの相関関係の調査を行う.また,国内外の活動的火山においてSBL微動の解析を行い,その普遍性を探る.
著者
田辺 俊介 松谷 満 阪口 祐介 永吉 希久子 濱田 国佑
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年度は、2009年・2013年に実施した先行調査データの再分析を行うとともに、本研究の目的を果たすために必須となる全国調査を実施した。再分析の成果の一つとして、たとえば社会的問題として取り上げられる「嫌韓」という現象に関する分析結果として、以下のことが明らかとなった。まず2009年から2013年の4年間に韓国への好感度は低下し、韓国人への排外性も強まっていた。また2013年では、嫌韓感情に対する愛国主義の影響力が強まり、対韓国・韓国人への態度はより「ナショナリズム化」しているといえる状態になっていた。対中国・中国人感情の悪化も同様の傾向を示したことから、2010年代からの日本の排外主義の高まりの原因の一つとして、地政学的なコンフリクト(竹島・尖閣問題など)の影響が大きいと考えられるまた2017年度の全国調査については、日本全国の有権者(18歳以上80歳未満)を対象とし、70市区町の選挙人名簿から無作為に抽出した10,500名に調査票を送付した(郵送配布・回収)。また本年度調査では、沖縄と他地域との比較を重視したため、上記の70市区町村の内10市町は沖縄県に割り当て、合計1,500名の沖縄県民に調査票を送付した。その結果、全国調査については3822票(転居先不明の方など調査不能を除いた回収率は44.5%)、沖縄調査については504票(転居先不明の方など調査不能を除いた回収率は34.4%)を回収した。回収表の入力作業と基礎的なクリーニング作業は終了しており、対象者向けの速報版調査報告書を作成し、その内容はインターネットを通じて公開済みである。加えて2013年調査で取得したデータについては、日本最大のデータアーカイブであるSSJDAに寄託し、公開済みである。そのことから、本継続調査に類似した関心を持つ幅広い研究者と共有可能なデータを作成できた、と考えている。
著者
大和 浩 姜 英
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

2018年に成立した改正健康増進法、東京都受動喫煙防止条例では、飲食店等に加熱式タバコ専用室を設置すれば飲食しながらの使用が容認された。そのため、そのような飲食店で働く従業員への受動喫煙による健康影響が懸念される。本研究の目的は、①加熱式タバコによる室内空気の汚染(受動喫煙)の証明、②汚染物質の種類と濃度を明らかにすることである。その結果をもとに、室内での使用を禁止する社会規範の醸成と法・条例の整備に繋げ、加熱式タバコの受動喫煙による非喫煙者の健康影響を防止すること、加熱式を含むタバコ製品を使用できない場所を増やすことでタバコ離れを促進させることを最終的な目的としている。
著者
小林 仁 長谷川 祥子 森 達也 長江 惣吉
出版者
公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

南宋の都・杭州出土の曜変天目をはじめとした出土資料の考察を通して、天目茶碗の中国での位置づけを再検討するとともに、出土品や伝世品の科学分析調査や再現に取り組む陶芸家との学術交流を通して、天目研究に新たなアプローチを試みた。とりわけ、藤田美術館所蔵の国宝曜変天目に対して世界で初めて科学分析調査を行い、釉薬には基本的に鉄やマンガン以外の重金属類が用いられていない点などを科学的に明らかにし、曜変の斑文や虹彩(光彩)の発生メカニズムに関する新知見を得ることができた。なお、本研究はNHKのETV特集でも大きく紹介された。
著者
木口 学 (2012) 榎 敏明 (2010-2011) RAJEEV KUMAR Vattakattu Ramacrishnan RAJEEVKUMAR VattakattuRamacrishnan ラジーブ・クマール バッタカツ・ラマクリシュナン
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

酸化活性炭素繊維(ACFs)の磁化率、磁化を測定し、磁性の評価、NEXAFSの実験から磁性の起源となるFermi準位付近に存在する非結合電子状態の解析を行った。NEXAFSのスペクトルでは、ACFsを酸化して行くと次第にがバンドとエッジ状態の寄与は減少し、代わって、新たな非結合電子状態が発生し、この酸素誘起の状態は酸化の進行により強度を増して行く。π*バンドの酸化による減少は、酸化によりπ共役系がナノグラフェン内部まで破壊されて行くことを示唆しており、エッジ状態の減少もこのことによってもたらされている。代わって形成される酸素誘起の非結合電子状態は、グラフェン面の共役系が破壊され、酸素誘起の欠陥がグラフェン面に形成された結果、酸素誘起の欠陥領域に生じる非結合状態と理解される。未酸化ACFsでは、測定された磁化過程はS=1/2の挙動で基本的には記述され、スピン間相互作用は小さく、エッジ状態スピンは互いに独立に振舞う挙動を示している。酸化が進行すると磁化過程はS=1/2の挙動からずれだし、次第にS=3/2の挙動の近くなって行く。酸化ACFsにおいては前述のように磁性を担うスピンは酸素誘起の非結合状態に存在するスピンであり、S=3/2に近い磁化過程の挙動は酸素誘起の局在スピンが互いに強磁性相互作用により結合をしていること理解される。内部磁場がACFs試料中でGauss分布をするものと仮定してフィッティングを行った結果、最も酸化の進んだACFs(0/C=0.6)では、内部磁場は反強磁性(負領域)から強磁性(正領域)に渡って分布していることが見出された。また、内部磁場の平均値は強磁性α=2830 Oe.emu^<-1>.g.と見積もられた。
著者
前田 潤滋 友清 衣利子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ゆっくり立ち上がる突風を受ける構造物に比べて,短時間に立ち上がる突風を受ける構造物に,より大きな風力が発生する「風力のオーバーシュート現象」を特殊な装置を持つ風洞で再現し,いくつかの形状の試験体について,通常の風力との比較をオーバーシュート係数として整理した。風洞実験結果の数値流体解析シミュレーションで,オーバーシュート風力の発生メカニズムを追跡するとともに,強風観測記録の分析から,オーバーシュート風力が突風被害の拡大要因の一つになっていることを論証した
著者
高橋 大輔
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、発症初期の未治療の関節リウマチ患者の腸管内において、腸内細菌が食物繊維を資化して産生する短鎖脂肪酸の1つである酪酸が顕著に低いことを明らかにした。さらに、酪酸がマウスの自己免疫性関節リウマチモデルの発症を抑制することを見出した。酪酸は、濾胞制御性T細胞数を増加させ、関節炎の発症に必要な自己抗体の産生を抑制していた。さらに、新規に濾胞制御性T細胞培養系を開発し、酪酸による濾胞制御性T細胞の分化誘導メカニズムを検証した。その結果、酪酸はそのヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を介して、分化に重要な転写抑制因子Bcl-6の発現を誘導することでその分化を促進していることを明らかにした。
著者
羽山 伸一
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2011年3月に東日本大震災に伴って爆発した福島第一原発から放出された放射性物質に被ばくした野生ニホンザルを対象に、被ばくによる健康影響を明らかにした。筋肉中放射性セシウム濃度は、ほとんどの個体で数十~数百Bq/kgを示し、2011年当時から徐々に低減しつつあるが、1000Bq/kgを超す個体も未だにいるため、高濃度に汚染した食物を摂取している可能性が示唆された。また、原発災害前に妊娠した胎仔と災害後に妊娠した胎仔の相対成長を比較したところ、災害後の胎仔で体重と頭部のサイズのいずれも有意に低下していることが明らかとなった。
著者
山際 晶子
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の調査で明らかとなった18件の「義経蝦夷渡伝説図」を一覧に整理した。そのうえで、各図を絵の内容ごとに三つのグループに分類した。すなわち、蝦夷地に渡る義経一行を描いた図、義経一行と蝦夷人の合戦を描いた図、義経と彼に敬意をはらう様子のアイヌを描いた図、の三つである。この三つ目のグループに属する作例は、主に、北海道と関わりの深い作者の手によるもの、北海道の神社に所蔵されるものであり、この図は北海道で独自に発展し、定型化したとみられる。さらに画像の分析から、この図は、義経以外の伝説的な人物を描いた図を参考にして、生み出された可能性が高いことが明らかとなった。
著者
佐々木 丞平 淺湫 毅 降矢 哲男 末兼 俊彦 浅見 龍介 羽田 聡 上杉 智英 呉 孟晋 福士 雄也 降幡 順子 井並 林太郎 大原 嘉豊 伊藤 嘉章 池田 素子
出版者
独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

河内地域は大阪府の南部に位置し、古代より継続的に仏教文化が花開き、由緒ある古寺にもめぐまれている。四天王寺など、聖徳太子にゆかりの寺院も多く、本調査ではそれら聖徳太子ゆかりの寺院の中から、教興寺をえらび本尊弥勒菩薩像を中心に調査をおこなった。また、この地域は、南が和歌山県と境を接することから、高野山金剛峰寺とも近く、弘法大師空海およびその弟子たちによって開かれた真言寺院も多い。その中から、河内長野市の金剛寺と観心寺という二つの大きな寺に焦点をあて、悉皆調査をおこなった。その結果、金剛寺では重要文化財『遊仙屈』と一連のものとみられる未知の作がみつかるなど、多くの成果を上げることができた。
著者
横田 恵理子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

昆虫忌避剤 DEET や、ピレスロイド系の防虫・殺虫剤は家庭・地域において日常的に使用されている。これら化合物は化学物質過敏症や炎症性疾患発症への関与が考えられているが、その詳細な作用機序については不明である。DEET は、ラット好塩基球性白血病細胞株 RBL-2H3 細胞での抗原依存性脱顆粒に対し抑制作用を示す一方、持続性のERK 活性化を示した。ピレスロイド系化合物のアレスリンは、抗原非依存性に脱顆粒と ERK活性化を引き起こした。また、これら化合物は、ヒト肺胞上皮由来 A549 細胞においてサーファクタントタンパク質 SP-A の発現を増強し、 ERK 活性化も引き起こした。 DEET およびピレスロイド系化合物は、細胞のシグナル伝達系に影響し、免疫応答に関わる細胞機能を修飾することが示唆された。
著者
高村 昇 平良 文亨 折田 真紀子 高橋 純平
出版者
長崎大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本研究で明らかにすることは、1)チェルノブイリ周辺地域における甲状腺超音波所見の自然史と、2)甲状腺がんの自然史およびその長期的予後、である。研究代表者が20年以上にわたって共同研究を行ってきたジトーミル州立診断センターでは、2006年からは現在福島県民健康調査で使用されている超音波装置と同じ機器を使用して甲状腺超音波検査を実施し、全ての受診者の画像を経年的に保存している。本研究では、事故(1986年)前に生まれ、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくをうけた群(被ばく群)と事故後に生まれ、甲状腺の内部被ばくを受けていない群(非被ばく群)の両群における初診時の画像を、福島県民健康調査の甲状腺検査の診断基準に合わせて分類(A1、A2、B)し、それぞれの群の画像を前向きに解析していくことで、甲状腺超音波所見の自然史を明らかにしていくと同時に、被ばく群と非被ばく群における所見の違いの有無についても解析を行った。その結果、被ばく群と非被ばく群において、甲状腺超音波所見に差異があったが、年齢で調整することによって有意差は消失することを明らかにした。すでに結果を取りまとめて論文を執筆し、国際専門雑誌に投稿している。今後は、甲状腺がんと診断された症例については、診断される以前の画像を後ろ向きに解析することで、甲状腺がん超音波所見の自然史を明らかにしていく。放射線被ばく群と非被ばく群における所見の違いの有無についても明らかにすると同時に、甲状腺がん症例の手術後の経過について前向きに解析することで、甲状腺がんの長期的予後についても明らかにする。
著者
牧野 能士 河田 雅圭
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

生物が持つ適応力は種によって異なる。本研究は、重複遺伝子保持率から生物が持つ環境適応力を予測する手法の確立を目指し、動物ゲノムの重複遺伝子保持率と生態的特徴の関係を調査した。本研究で侵略的外来種アメリカザリガニの全ゲノム配列決定し、本種を加えたゲノム配列既知の動物を対象にした比較ゲノム解析により、侵略的外来種の重複遺伝子保持率が高いことを明らかにした。重複遺伝子保持率と環境適応力との関連を強く支持するものであり、ゲノム配列情報からの環境適応力評価への応用が期待される。