著者
曽野 裕夫 東山 寛 嶋 拓哉 児矢野 マリ 山下 竜一 中谷 朋昭 小林 国之 村上 裕一 清水池 義治 中山 一郎 伊藤 一頼
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

農業を中心とする食資源産業においては、とりわけ「メガFTA元年」とされる2019年以降、急速なグローバル化の進展が見込まれる。こうした食資源産業のグローバル化は、従前は国家の保護政策の下で、小規模経営を維持してきた農業経営に危機をもたらす反面で、新たな食資源供給体制の構築をはじめとして、新たな展開の端緒となる可能性を有している。かかる現状認識を踏まえた本研究は、法学・行政学・農業経済学の研究者が、多角的フィールド調査(利害が対立する関係者から広くヒアリングを行うことによる立体的な実態把握)による実証研究に挑戦し、食資源確保のための実践的な法戦略の構築をめざす異分野融合型研究である。
著者
御手洗 正文
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、農薬による線虫防除法の代替技術として、植物エッセンスによる線虫防除技術を確立することである。24年度は、ニッケイ、トウガラシ類(ジョロキア、黄金等)、25・26年度は木本類であるシキミ、アセビのエッセンスを水蒸気蒸留法、バーコレーション法、圧搾法、煮出し法,エタノール溶媒抽出法を用いて抽出した。また、試作した植物酢液抽出装置によりショウガ酢液、トウガラシ酢液、シキミ酢液、アセビ酢液の殺線虫効果を調査した。その結果、①ニッケイ、②トウガラシ、③ショウガ、④シキミ、⑤アセビのエッセンスには、強い殺線虫効果があることが明らかになった。
著者
田中 裕之
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

小麦粉中に約10%含まれる種子貯蔵タンパク質、特にグルテニンの構造と発現量は、生地強度に大きく影響する。本研究では、野生植物の染色体をもつ小麦から、パン用に求められる強い生地に関係する新たなグルテニンを探索した。その結果、リン酸化の影響を受けない複数の新規グルテニンを見いだした。さらに、1種類のタンパク質がもつ生地強度への効果を評価するため、人工的にタンパク質を作製する系を確立した
著者
曽良 一郎 沼地 陽太郎
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

コカイン報酬効果の検討では、いずれかのモノアミントランスポーターが欠損しても他のトランスポーターが補う可能性が示唆され、脳内微少透析法による検討では、ドーパミントランスポーター(DAT)欠損マウスにおいてコカイン投与により線条体の細胞外ドーパミン(DA)が上昇したが、DAT欠損マウスにセロトニントランスポーター(SERT)欠損が加わったDAT/SERTダブルKOマウスでは、その上昇が観察されなかったことから、SERTがDA再取り込みを補完したと考えられた。この対応しないモノアミントランスポーターによるモノアミンの取り込みをin vivoで確認するため、SERT欠損マウスを用いて、免疫組織化学染色法によりDAニューロンへのセロトニン(5-HT)取り込みがみられるか検討した結果、DAT,5-HTの二重染色により、特定の脳部位でDAニューロンに5-HTが取り込まれていることが確認された。モノアミントランスポーター欠損マウスを用いて、選択的5-HT取り込み阻害剤(SSRI)投与時の前頭前野皮質(PFc)、線条体(CPu)におけるモノアミン動態を脳内微小透析法により測定し、モノアミントランスポーターの代償機構を検討した。フルオキセチン投与時、DAT/SERTダブル欠損マウスにおいて、PFcの細胞外DA,ノルエピネフリン(NE)が上昇したことから、Fluoxetineがノルエピネフリントランスポーター(NET)に作用した可能性と、同部位でのDA制御へのNETの関与が示唆された。CPuではDA上昇は認められず、前頭前野皮質のモノアミン神経伝達は線条体とは異なったメカニズムにより情動機能を制御していると考えられた。以上、異種同属トランスポーターによるモノアミンの代償的取り込み機構の存在を支持する結果が得られた。
著者
櫻井 学 宮脇 卓也 一戸 達也
出版者
朝日大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

鎮静薬,麻酔薬の鎮静・催眠作用はGABA受容体を介したものと考えられているが,鎮静薬,麻酔薬には中枢でのアデノシンを増加させる作用もある.本研究では,アデノシンによる神経伝達物質調整作用の健忘効果に与える影響を評価した.鎮静深度が浅い状態にアデノシンの前駆物質であるアデノシン三リン酸を投与すると鎮静作用とともに健忘効果が増強された.また,深鎮静時にアデノシン受容体の拮抗薬であるアミノフィリンを投与すると,鎮静効果とともに健忘効果も拮抗された.このことから,アデノシン受容体の刺激は鎮静効果の増強とともに健忘効果を増強し,アデノシン受容体の拮抗は鎮静効果と健忘効果を拮抗することが示された.
著者
服部 志帆
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、屋久島の狩猟活動の変遷を具体的に明らかにし、今後の展望を開きたい。まず、狩猟活動の変遷を、島外からの政治経済的な需要や島内からの文化的な需要の影響をふまえながら分析する。次に、2010年ごろから猟師のあいだで深刻化しつつあるコンフリクトや、近年若い世代の猟師が開始したジビエ販売やお土産物の商品化、非営利のジビエレストランの運営、屋久犬の保存会といった新たな動きを明らかにする。そして、環境政策やジビエブームなどと併存しながら、屋久島の人々が世界遺産と狩猟文化を維持していけるような方策を検討する。
著者
上村 公一 吉田 謙一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

外来性あるいは内因性一酸化炭素(CO)は、NF-κBあるいはミトコンドリアのATP依存のK^+チャンネルにより、虚血またはリポ多糖類によって生起された障害から心筋と血管内皮を保護することが示されている。一方、ヘム酸素添加酵素(HO)-1は、COを生成し、細胞を保護する。私たちは、Ca^<2+>依存のプロテアーゼcalpainがα-fodrin蛋白質分解によって、低酸素下のラット心筋起源のH9c2細胞のネクローシスを促進することを示した。本研究において、私たちは、COがL-タイプCa^<2+>チャンネルを通るCa^<2+>流入を抑制することにより、H9c2細胞の虚血細胞死を抑制するという初めての証拠を示した。虚血はfluo-3蛍光によって検出される細胞内Ca^<2+>流入を増加させ、それは、L-タイプCa^<2+>チャンネル作動薬BAYK 8644によって増強された。また、色素排除法、LDH放出あるいはpropidium iodide浸透性の測定から、その細胞死はネクローシスであると確認した。Ca^<2+>流入、Western blottingで示されるα-fodrin分解、虚血細胞死は、すべてCOあるいはL-タイプCa^<2+>チャンネル抑制剤ベラパミルによって抑制された。また、蛍光色素JC-1の測定により、虚血はミトコンドリアの膜電位の低下を引き起こすが、COまたはベラパミルは抑制することも見出した。一方、虚血により、活性酸素種(ROS)生成は増加したが、COにより抑制されなかった。低酸素下ヘミン処理により、HO-1は誘導された。虚皿によるCa^<2+>流入および細胞死は、HO-1誘導により抑制された。したがって、外来性あるいは内因性COは、L-タイプCa^<2+>チャンネルよるCa^<2+>流入を抑制、および、それによるcalpain活性化を抑制することにより虚血細胞死を抑制することが明らかとなった。本研究において、私たちは、COがL-タイプCa^<2+>チャンネルを通るCa^<2+>流入を抑制することにより、H9c2細胞の虚血細胞死を抑制するという初めての証拠を示した。さらに、ミトコンドリアの関与についても研究を進める予定である。
著者
村井 祐一 PARK HYUNJIN 熊谷 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本課題ではオンラインレオメトリーを開発・実現するために,スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)との共同開発を行った.またETHとの連携をもつEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校),中国・天津大学とも間接的な共同研究を進めた.2020年度は以下の項目について成果を得た.[1]粒子画像流速測定法PIVにより非ニュートン流体の外部流を対象として速度ベクトル場の計測結果から圧力場と粘度場を同時に定量可視化するツールを開発した.カルマン配列渦がシアシニング性をもつ非ニュートン流体では渦核が高粘度,渦周囲が低粘土になり渦運動が下流に長時間持続し運動量散逸が相対的に低下することを発見した.この成果は流体計測の国際誌 Flow Measurement and Instrumentationに発表された.[2] 複数の振動周波数が混在するせん断ひずみ流れを超音波パルスドップラー法UVPによりの時空間速度分布を計測することによりレオロジー特性をマッピングするという新手法を開発した.これによりエマルジョンや気泡懸濁液における複素粘度特性を取得することに成功した.成果は日本機械学会論文集に掲載された.[3]熱移動を伴う食品の表面における冷却プロセスを3次元で計測するColor PIV技術を開発した.この結果,表面の凹凸や祖度に影響を受けた乱流境界層の内層構造を定量計測することに成功した.この成果は日本機械学会流体工学部門講演会にてETHの研究者と共著で発表された.[4]ゲルを媒体とする非ニュートン流体の運動機構について国際共著論文として英文誌 J. Non-Newtonian Fluid Mech.に掲載された.以上についてはコロナ禍における2国間の移動制限のためETHと北海道大学の間で2週に1回のペースでweb会議を実施し,最新の情報交換と研究推進会議を重ねた.
著者
堀田 千絵 加藤 久恵 多鹿 秀継 十一 元三 八田 武志
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、学習力を支える高次認知機能としてのメタ認知の早期育成が、定型発達児のみならず発達障害児の予後の適応に多大な影響を与えることに鑑み、発達障害児のメタ認知活性化を促すことのできる学習支援法を開発し、当該幼児の小学校入学後までを見据え、その適切性を吟味することであった。その中で、幼児期からのメタ認知育成を可能にする学習支援法の1つとして「検索学習」の有効性を明らかにし現場で活用できる学習支援システムの土台を構築した。特に、食物連鎖に基づく課題を考案する過程で幼児期からのメタ認知の活性化には検索学習の3規定因が重要であることを明らかにした。特に、3規定因としては、第1に初回学習の徹底、第2に検索スケジュールの時間的分散、第3にフィードバックが効果の要となる点を明確にし、これらを組み込んだ学習支援システムを構築した。その成果を堀田・多鹿・加藤・八田(2020)に要約した。加えて申請者らは、検索学習の導入の仕方によっては有効に機能しない一部の発達症児の存在することも特定し、自閉スペクトラム症等の発達症の障害の程度のみならず、それ以外の個人を特定する個人差が影響する可能性を突き止めた。
著者
椛 秀人 奥谷 文乃 佐藤 隆幸
出版者
高知医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

われわれは、数年に渡って、雌マウスに形成される交尾相手の雄の匂いに対する記憶のメカニズムを研究してきた。この匂いの記憶は妊娠の維持に不可欠である。この記憶の形成過程は、副嗅球へ投射する青斑核ノルアドレナリン神経の交尾刺激による活性化によって駆動される。われわれは、この記憶の神経・シナプス・分子のレベルのメカニズムを明らかにしてきた。この一連の記憶システムは、この系だけにとどまらず、母子の絆形成にも当てはまる性質のものであるとの考えで、検討を加えた。嗅球へ薬物の注入が可能なようにステンレス管を前もって植え込んでおいた妊娠21日目の雌ラットに、薬物の連続注入を開始し、これらのラットが分娩後に行う母性行動を観察した。行動の観察は主に母性行動の基本型である子運び動作、子なめ動作、授乳姿勢を計測した。興奮性アミノ酸受容体アンタゴニストであるD-AP5を注入しても、上記の母性行動に有意な変化は認められなかった。本結果は、妊娠の維持に不可欠な匂いの記憶の成立にNMDA受容体が関与しないことと一致していた。さらに、non-NMDA受容体アンタゴニストのCNQXの知果を目下、検討中である。ウレタン麻酔下の雌ラットを用いて、嗅球内情報伝達に対する青斑核の電気刺激の影響を検討した。青斑核の刺激は、顆粒細胞による僧帽細胞のフィードバック抑制を感じた。目下、この効果にかかわるアドレナリン作動性受容体のタイプを検討中である。さらに、青斑核と外側嗅索の連合刺激によって、このフィードバック抑制に可塑的変化が誘導されるか検討を加える予定である。
著者
小川 昭 佐々木 弾
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、(成績評価における)相対評価制度があるもとで、「成績を目的とした行動」がどのような形で現れるのかを分析するものである。本研究において注目するのは、(科目選択後の努力のあり方ではなく)「科目選択にどのように影響するのか」という点である。学生が、自らの関心や学習成果というよりはむしろ成績評価によって科目履修を行うという効果がどの程度、どのような形で出るのか、それが厚生(効用)をどれほど損なうのか、について、理論モデルを構築して分析する。分析に際してはゲーム理論の枠組みを利用し、ある学生の科目選択において、他の学生の行動(戦略)が影響を及ぼすことを組み込んだ分析を行う。
著者
中川 敦夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

わが国での実施に適した新規認知行動療法プログラムである反芻焦点化認知行動療法(rumination-focused CBT: RFCBT)の実践を目的に、本研究ではRFCBT治療者用ハンドブックを作成し、パイロットケース(5例)としてRFCBTを行い、そのfeasibilityを確認した。さらに、原著者のEdward Watkins教授らのもと、面接音声ファイルを用いたスーパービジョンを受け、この経験を踏まえRFCBT治療者用ハンドブックの改良を図った。そして、うつ病に対するRFBCTの前後比較研究プロトコール(UMIN000037191)を作成し、実施した。
著者
宇井 貴志
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

金融政策の研究には,さまざまなアプローチがある.本研究では,ゲーム理論の立場から,情報の側面に焦点をしぼり,基礎研究と応用研究を行った.本研究で取り扱う情報の側面とは,情報の非対称性と,情報のナイト的不確実性である.情報の非対称性とは,中央銀行の情報と,民間経済主体の情報とが異なることである.本研究では,情報の非対称性下で,中央銀行のアナウンスメントが実体経済に与える影響を分析するための,シンプルなフレームワークを提供した,情報の非対称性下の金融政策については,ルーカスの先駆的業績が有名だが,ルーカスのモデルでは,中央銀行のアナウンスメントは,予期された貨幣ショックなので,貨幣に対して中立的になってしまい,実体経済には何も影響を与えない.本研究では,より現実的な情報構造を設定することで,中央銀行のアナウンスメントは,貨幣に対して非中立的になることを示した.したがって,ルーカスのモデルの若干の拡張で,中央銀行のアナウンスメントが実体経済に与える影響について分析することが可能となった.また,本研究では,情報の非対称性下の合理的期待均衡の,金融政策への含意について考察した.すなわち,中央銀行が公表する情報には,価格と合理的期待を通じて既に公的情報になっているものと,なっていないものがあり,両者を区別することが重要であることを指摘した.また,本研究では,情報のナイト的不確実性についての基礎研究を行った.ナイト的不確実性とは,将来の事象に対する確率が分からないような不確実性である,将来のリターンが確定していない金融資産を取引する金融市場では,ナイト的不確実性が内在する可能性が高い.したがって,ナイト的不確実性を考慮して金融政策を議論することは重要なはずである.しかし,ナイト的不確実性の基礎理論自体がまだ発展途上であるため,金融政策などへの応用には至っていないのが現状である.本研究では,将来の応用を念頭に,ナイト的不確実性下の意思決定理論,とくにショケ積分期待効用理論について,新しい結果をいくつか得た.
著者
藤井 知昭 陳 興賢 高 立士 馬場 雄司 塚田 誠之 鈴木 道子 高橋 昭弘 樋口 昭 GAO Lishi LIANG Youshou 陣 興賢
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

1.当調査の目的と課題について文部省科学研究費補金によって行なわれた昭和61年度の「インド東北部・ブータン民族音楽学術調査」および平成2年度の「ブータン民族音楽学術調査」に続き,チベット・ビルマ語系諸族を中心とした,いわゆる照葉樹林文化圏を軸とする音楽文化に焦点をあてることを目的としている。この目的の為,当調査では,中国雲南省及びこの地域と民族分布を共通させるタイ北部をその対象とした。過去10年間にわたって,クロスカルチュラルな視点からパキスタン北部よりブータンに及ぶ大ヒマラヤ圏における音楽文化の調査を継続し,音楽人類学の方法論によって,諸民族の文化的アイデンティティー,文化変容,動態等についてのデータを蓄積してきた。今回の調査は,この従来の調査による蓄積との比較研究をも目的とし,諸民族に伝承される音楽文化に関する情報とデータの充実化によって,音楽の伝播と変容の課題に新たな展開をもたらそうとするものである。2.新たに集積されたデータについて北部タイにおいては,チェンマイ近郊のリス族の村落と,チェンライ県に分布するアカ族のいくつかの村落を中心に,調査を行った。特にアカ族については,メーサロン地区の数ヵ村について,それぞれ楽器,舞踊,歌の特徴を押さえると共に,チェンライ県メースアイ郡のアカ族のブランコ祭りの全容を,記録することができた。タイ国内のアカ族は,ウロ,ロミ,パミの3集団に分かれるが,これら集団の差異の概要を押さえると共に,今回は,中でもウロアカの持つ音楽文化の実態を明らかにすることができた。当初,北部タイ山地に分布する,チベット・ビルマ語系の民族のうち,カレン族,リス族,アカ族に焦点を定めていたが,アカ族特有のブランコ祭りの調査が中心となった為,得られたデータは,アス族のものが中心となった。しかし,従来の調査によって得られた中国雲南省に居住する同じ系統のハニ族の文化との共通性および,変容に関する比較を通して,アカ族の民族音楽研究上多くの成果をあげることができた。3.成果の意義と今後への展望研究分担者は,それぞれ専門をする分野が民族音楽,比較文学(フォークロア),歴史と儀礼および芸能文化というように学際的であるため,フィールドで集積されたデータも,多面的に分析され,それぞれの分野での解明に利することとなった。民族音楽の分野では主としてタイ北部のアカ族の二大年中行事に一つブランコ祭の詳細なデータとアカ族の歌謡の概念とかなりの量の歌詞の採集を行うことができた。また,中国に関しても引き続き,イ語系,チベット・ビルマ語系語族の口頭伝承の語り物,及び婚礼習俗に関わる歌謡のデータを蓄積した。今回の調査で中国雲南省から移動したタイ北部山地に居住するアカ族が故地の文化を伝えている点が明らかとなり,これによって今後雲南省の比較研究を進展させる上で具体的な足がかりを得たといえる。また,これらの成果は,現地研究者との協力のもとで進められ,平成4年度は,この協力体制に基づいて,現地研究者を日本に招き,調査結果を共同で研究することが実現し,本格的な共同研究が緒についた。次回の調査として当調査隊はタイ北部及び中国西南部の両地域に加えてラオスを調査対象とし,東アジアから東南アジアに分布する諸民族の音楽文化の動態に関する調査を計画している。中国西南部を再度調査するのは,更にデータを蓄積充実するためであり,また,今回の調査で確立した現地研究者との学関交流を更に発展定着させるためである。更にラオスを対象地域に加えることにより,アカ族等中国から移動した諸部族に関する比較研究が一層充実し,多彩な成果を期待でき,ひいては中国西南部と東南アジア地域とのかかわりをもクリアーにすることが可能と考えられる。これらの調査を通じ,当プロジェクトは主としてヒマラヤ方面で行ってきた,「照葉樹林文化圏」の諸民族の音楽文化に関するデータ蓄積を,中国・東南アジア方面から充実させ得るて考えられる。
著者
荒堀 みのり
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本研究課題の目的は、単独性でありながら特殊な家畜化を経てヒトの伴侶動物となったネコを対象とし、その行動や遺伝子から、ネコとヒトの関係およびネコとネコの関係がどのようなものであるかを検討することであった。本年度では、研究1として、ヒトが視覚的に示す問題解決法にネコが追従するかを、2つの課題を用いて検討した。両課題とも、ネコがヒトに追従するという結果は得られなかったが、ヒトの存在によってネコのモチベーションが上昇した可能性を示唆した。しかしながら、半透明の装置を用いたため、抑制制御の必要性がネコの追従を阻害した可能性が考えられた。研究2では、集団で暮らすネコを対象として、ネコカフェで飼育されている3集団のネコの社会的インタラクション(親和的行動・攻撃行動)を観察し、毛中コルチゾール濃度を測定した。ネコ同士では嗅覚を用いたインタラクションが多く観察され、本研究で対象としたネコカフェでは攻撃行動はほとんど見られなかった。また、個体ごとに親和的行動を行う回数や受ける回数は異なっていたが、この2つの値の合計と、毛中コルチゾール濃度(長期ストレスレベル)は正の相関を示した。野生動物の社会においてコルチゾールレベルは個体の優位性と関係があるとされており、ネコ集団でもこのような社会システムが成立しているか検討していく必要がある。以上の研究はそれぞれ国内学会で発表された。今後は、様々な指標を用いることや、ネコの祖先種との比較も視野に入れながら、ネコがなぜヒトのペットになるに至ったのかを解明する予定である。
著者
大河原 典子 宮廻 正明 高林 弘実
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

明治から昭和にかけて活躍した日本画家上村松園の技法と表現について、作品の科学的な分析と下絵および自叙伝の調査からその特徴を明らかにすることを目的とした。本画2作品を蛍光X線回折、赤外線撮影、顕微鏡撮影を通じて分析したところ、日本画で古くからある顔料と、明治以降新しく使われ出した顔料がともに検出された。また文献資料にある記述と異なり、絹の表からのみ彩色されていることが解った。表現においては同一画面のなかでも人体とそれ以外で技法に意図的な差異があった。作家の原点である縮図帖の分析では、色とモチーフの分類および電子書籍化を実施した。
著者
笹田 朋孝 Ch. アマルトゥブシン G. エレグゼン L. イシツェレン
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

モンゴル国内で初めてとなる製鉄遺跡の発見に成功し、ホスティン・ボラグ遺跡の発掘調査を実施した。遺跡から出土した土器や木炭の放射性炭素年代(紀元前2世紀~紀元後1世紀)からこの遺跡は匈奴のものである。スラグの分析結果などからこの製鉄技術は同時代の中国とは大きく異なっており、南シベリアなどと類似していることから、草原を西から伝わってきた製鉄技術である。これまで匈奴は製鉄技術を持たないとされてきたが、おそくとも紀元前1世紀のモンゴル草原では、匈奴が遊牧国家として独自の製鉄技術を保有し、システマティックに鉄器を生産していたことが明らかになった。
著者
近藤 玲介 竹村 貴人 宮入 陽介 坂本 竜彦
出版者
皇學館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本列島のリアス海岸周辺における海成段丘は,離水年代が不明な場合が多い.そこで本研究では,リアス海岸などの海成段丘を対象にpIRIR年代測定法を適用し,中期更新世以降に形成された海成段丘の高分解能な地形面編年をおこなうことを目的とする.本研究では,リアス海岸の周辺の海成段丘が発達する複数地域を研究対象地域とした.野外調査と年代測定の結果,調査対象地域においてはMIS 9からMIS 5aまでのpIRIR年代値が得られ,中期更新世以降の海成段丘の離水年代が明らかとなった.
著者
神長 伸幸
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は,日本語特有の表記特徴が文章理解時の周辺視野処理にどのように影響するのか,およびその発達的変化を心理学実験により検討した。成人および小学校5年生を対象に検討した結果,縦書きと横書きに分けて検討したところ,成人では,横書きの方がより広い有効視野だが,縦書きは注視点前の周辺視野がより広いことが示唆された。この知見は児童でも同様であり,注視点の前領域は縦書きで有効視野がより広いことが示唆された。このような結果は,成人と児童が普段使用するテキストの表記特徴を反映したものであると考えられる。