著者
行方 浩二 高森 繁 田中 岳史 丸山 俊郎 大橋 薫 児島 邦明 深澤 正樹 別府 倫兄 二川 俊二
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.808-812, 1997-10-25 (Released:2009-08-13)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

汎発性腹膜炎を契機として発見されたMeckel憩室原発平滑筋肉腫穿孔の1例を経験した。症例は48歳, 男性。嘔吐, 発熱, 右下腹部痛を主訴に来院し, 急性腹症, 汎発性腹膜炎の診断にて緊急開腹手術を施行した。回盲弁より100cm口側の回腸に憩室を認め, その先端に7.5×7×6.5cmの弾性軟・被膜を有する腫瘍が存在していた。腫瘍は破裂し膿瘍が付着, 一部は大網に覆われていた。術式は回腸部分切除+腹腔ドレナージ術を施行した。病理組織学的には, 腫瘍は核の大小不同を示す異型性の強い紡錘形細胞が増生し核分裂像もみられており, Meckel憩室原発平滑筋肉腫を伴った, Meckel憩室穿孔と診断した。Meckel憩室が平滑筋肉腫を伴った症例は, 本邦で7例しか報告されておらず若干の文献的考察を含めて報告する。
著者
田中 創 吉原 理美 伊藤 恵美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.655-662, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
15

【目的】ドライブレコーダーを用いて包括的に運転行動を評価し,対象者の運転再開を支援することを目的とした.【方法】脳損傷者1名を対象に実車運転評価を実施した.作業療法士は評価結果を書面にまとめて対象者へ郵送し,その内容について感想の返送を求めた.【結果】実車運転評価実施後のアンケートでは,自身の運転行動を客観的に振り返る機会を得たことに対する肯定的な感想が記載されていた.【結論】ドライブレコーダーを併用した運転評価を行い,その評価結果を書面にて呈示したことは,対象者本人が運転行動を振り返る機会となり,かつ,家族が対象者本人の運転能力を理解してもらう際に役立つ情報提供となった可能性が考えられた.
著者
佐藤 健斗 野口 普子 三富 菜々 嶋田 岳 昆 恵介
出版者
公益社団法人 日本義肢装具士協会
雑誌
POアカデミージャーナル (ISSN:09198776)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.118-123, 2019 (Released:2019-10-16)
参考文献数
11
被引用文献数
2

臨床の場面で、脳血管障害により身体に後遺症を負った装具使用者と、義肢装具士やその他の治療に関わる様々な職種の方々との間で装具を使用する上で重視する点の違いを感じる場面が少なくない。今回は、それぞれが短下肢装具選好に際して重視する要素を確認し、違いを明らかにすることを目的とし、コンジョイント分析を用いた調査研究を行った。結果として、義肢装具士群、理学療法士群が短下肢装具を使用する目的を「歩行・立位の安定」とみて、装具選好の際に重視している一方、装具使用者群とは有意にその影響度に差異があり、装具使用者群においては装具選好にあたり必ずしも重視される要素ではない可能性が示唆された。
著者
斎藤 嘉人 宮川 璃空 村井 匠 小畑 悠 板倉 健太 佐藤 翼
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.215-222, 2023 (Released:2023-11-14)
参考文献数
24

大豆の種子選別は時間と労力を要す作業であり,一農家が利用できる安価で簡便な選別機が求められている.本研究では,カラー画像および紫外励起蛍光画像の2種類の画像の入力による大豆の欠陥判別を目的とした.大豆種子のカラー画像と励起波長365 nmの蛍光画像をそれぞれ撮影し,目視にて正常粒・しわ粒・裂皮粒・病虫害粒の4カテゴリにラベル付けを行った.カラー画像,蛍光画像,カラー・蛍光画像同時入力の3パターンの入力によりResNet-50でモデルを構築した結果,テスト精度はそれぞれ91.7%,88.2%,88.3%であった.また,カラー・蛍光画像同時入力モデルでは正常粒の適合率が最も高く,判断根拠を可視化した結果,病斑のない健全箇所が重視されていた.以上より,従来のカラー画像に蛍光画像を組み合わせた判別手法が有効である可能性が示唆された.
著者
藤井 良平 天野 雄一朗 松田 健太郎 田島 昌樹 井上 貴之
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.88, no.808, pp.521-528, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Experiments and questionnaires were conducted at an elementary school to determine the effect of environment monitoring system on ventilation behavior. The LED lamp display according to the carbon dioxide concentration served as a criterion for decision-making on ventilation behavior, and the percentage of carbon dioxide concentrations exceeding the standard (1,000 ppm) decreased for many classrooms. Alternatively, in some classrooms, excessive ventilation was fixed, and the thermal environment was also improved. Moreover, the children’s involvement in opening windows for ventilation increased.
著者
山本 まゆみ
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

当研究は、1990年からつづく、あまりにも政治化した慰安婦言説に警鐘を鳴らし、慰安婦研究が脱政治化へと軌道修正をすることを目指し、1990年代前半の出版・研究言説から浮かび上がった「強制〔連行〕」をキータームとし、言説の政治化過程を検証した。当研究調査では、その言説を補助する史実として繰り返し登場するジャワ島中北部で1944年3月に起こった「スマラン慰安婦事件」に関する資料をオランダ公文書館で精査した。本事件は、慰安婦の女性たちが、敵性国人収容所から強制連行されたこと、日本軍上層部が状況を知りこれら慰安所を開設後2ヶ月あまりで閉鎖したこと、和蘭BC級戦犯裁判で2年余という異例の長さを費やし調査・審理したことから、日本軍のみならず当時の和蘭政府も「異常」な事件と認識していたことが明白となった。慰安婦言説の政治化を支える強制連行というキータームが、曖昧になりつつある近年、強制連行の代わりに単なる強制という言葉や権力という言葉に置き換え、言説に政治性を付帯させるという技法のほか、特殊例であったはずの「スマラン」が、慰安婦「強制連行」を支える一般例として登場し言説の政治性を精鋭していることが明確になった。本研究の意義及び重要性は、調査結果を踏まえ2009年3月にシカゴで開催された米国アジア学会年次学会で慰安婦言説の脱政治化を目指し発表した「慰安婦言説政治化への過程:スマラン慰安婦事件について」に対する歴史研究者の反応からも窺えた。当研究が警鐘を鳴らした歴史の過剰な政治化への懸念は、多くの歴史研究者から賛同を得ただけではなく、発表後、「近年慰安婦問題だけに拘わらず、単に語り出版することで「真実であった」かのように認識される現象を、研究者は真剣に考えなければならない時期に来ている」とし、世界史学会の一部の研究者たちが、「次期学会で慰安婦問題を取り上げよう」という意見を述べていただけでも大きな意義があったと考える。
著者
小林 三郎 石川 日出志 大塚 初重
出版者
明治大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1993年〜1994年の2ヵ年間に実施した大室古墳群第168号墳は、調査の結果、長径約14m、短径約13mの不整形な方形墳と推定しうる。墳丘は、人頭大の礫石を積み上げた、大室古墳群中の典型的な積石塚であることを確認できた。墳丘には、各所に埴輪片や土師器片、須恵器片が発見された。とくに、墳丘南側の墳裾には、土師器、須恵器がほぼ原位置を保って発見された。いずれも西暦5世紀代初期の土器群である。土器群とともに「土馬」が発見された。「土馬」は、土器群との伴出関係からみて西暦5世紀代初期のものと推定される。日本では古墳出土の「土馬」として最古のものである。また、墳丘南側には、埴輪円筒片が発見された。内部主体の合掌形石室は、墳丘中央部よりやや南側に位置する。長軸長1.8m、幅0.85m、高さ1.15m、主軸方位N-124°-Wを示す。石室天井石は4枚現存するが、もとは6枚の板石によって架けられていたと推定される。石室はすでに盗掘されていて、副葬品などは残存していない。わずかに、鉄剣片3個を発見したにすぎない。以上の結果からみると第168号墳は、大室古墳群の先駆的な役割をもって築造されたと考えられる。発見された須恵器は全国的な視野からも初期須恵器に属するもので、長野県地方では最古のものと考えられる。土師器も西暦5世紀初期のものであり、伴出した「土馬」は第168号墳の被葬者の性格をあらわしていると推定される。また、積石塚であることも日本の古墳の中では特異な存在である。すなわち、積石塚を中核とする大室古墳群の成立過程の中に、日本の古代官代牧との関連性が文献資料の他に考古学資料として提示されたものと考えている。
著者
島宗 亮平 中川 千鶴 大野 央人 白戸 宏明
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集C編 (ISSN:18848354)
巻号頁・発行日
vol.77, no.781, pp.3205-3210, 2011 (Released:2011-09-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

According to a speedup of the Shinkansen, it is increasing to feel the passage of the vertical curve. However, the actual situation is not clarified because it is hardly investigated the ride comfort about the vertical curve passage until now. Therefore, two kinds of subject experiments by the high-speed train were carried out to obtain the knowledge of the ride comfort in the vertical curve passage, and the following results were provided. It was suggested that not only the acceleration but also the jerk influenced the perception of the vertical curve. In the same condition as the passengers of the operating train, the perception ratios of the vertical curve were about 60 % at maximum speed 275 km/h, and about 70 % at that 320 km/h. In the vibration ride comfort of including the vertical curve, the railroad employees were strictly evaluated than general subjects, and young group subjects were strictly estimated than elder ones.
著者
野田 亨
出版者
学校法人藍野大学 びわこリハビリテーション専門職大学
雑誌
びわこ健康科学 (ISSN:27581780)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.18-28, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
91

古代の中国大陸や朝鮮半島の漢方医学が当時の日本に持たらされた時,漢字表記の身体名称も受容された.このような本来外来語であった漢字表記の身体各部の表現に対して,古代のどのような日本語を対応させていたのかという観点から,人体の「骨」に関する大和言葉を収集した.日本におけるもっとも古い文字資料は古事記,日本書紀,万葉集などであるが,それらに身体各部の骨の名称はほとんど見いだすことはできない.漢方医学の医学書においても,漢語による骨名を確認することはできるが,それがどのような古代日本語(大和言葉)の身体語と対応していたのかは不明な点が多い.やや時代は下るが,平安時代に編纂された倭名類聚抄には身体各部の漢字名称と対応する和訓が万葉仮名で記載されており,現在のところ,この書物が最も古い身体各部の大和言葉を系統的に伝えている資料である.そこで本稿では倭名類聚抄と同時期や鎌倉時代以降に編まれた新撰字鏡,字鏡集,類聚名義抄,身体和名集,さらに文字資料などに記された和訓を確認することにより,「骨」に関わる古い大和言葉による名称を合わせて100以上収集した.本稿では,これら収集した大和言葉による「骨」の名称をそれぞれの身体局所に分け,解剖学や方言学の視点からの検討も加え,古代日本人の言語世界や身体観を考察する.
著者
小宮 顕 岡本 百合子 仲村 和芳 岩田 幸恵 寺田 二郎 岡崎 純子 鳥海 裕子 市川 智彦 相馬 孝博
出版者
医療の質・安全学会
雑誌
医療の質・安全学会誌 (ISSN:18813658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.322-329, 2021 (Released:2022-09-07)
参考文献数
16

目的:尿道カテーテル留置に伴う尿道損傷は,報告件数が多いインシデントである.当院では同手技に伴うインシデントが多発したため,改善目的に院内教育を行った.本研究では,インシデント発生の背景要因と院内教育の効果について後ろ向きに検討した. 方法:2014年から2018年までの尿道カテーテル留置に伴うインシデントを集計し,その発生背景について検討した.2016年度中に教育訓練を行い,既存の手順書を周知した.2014年から2018年までのカテーテル使用本数と事例報告数を調査し,教育前後の事例発生率の推移を検討した. 結果:尿道カテーテル留置に伴うインシデントは39例で,そのうち尿道損傷が26例(66.7%)であった.尿道損傷の発生要因(重複有)は,確認不足20例,手技が未熟21例など,手順の遵守不足や教育訓練の不足が考えられた.またカテーテル留置目的別に見ると,侵襲的医療行為に伴うものが20/26例(76.9%)と多かった.尿道損傷の報告数(カテーテル使用本数当たりの割合)は,2014年が4例(0.064%),2015年が8例(0.089%),2016年が5例(0.056%),2017年が5例(0.054%),2018年が4例(0.041%)であった.院内教育を実施したのは2016年であり,減少傾向を認めた. 結論:尿道カテーテル留置に伴うインシデントは,手順書の遵守不足や教育訓練の不足が背景にあり,手術や検査の際に多く報告された.院内教育施行後のインシデント発生割合は減少傾向と考えられた.
著者
永野 隆夫 渡辺 与八郎 本間 達二 祐田 泰延 山本 丈夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
衛生化学 (ISSN:0013273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.182-186, 1978-08-31 (Released:2008-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

Effect of chlorella, which contained cadmium in its cells, designated as cadmium-containing chlorella, on rats was studied and the following facts were found : 1) When the cadmium-containing chlorella was administered to rats orally for 10 days, no significant difference in body weight from control rats was observed. However, in the case of repeated oral administration of cadmium chloride, the growth of rats was impeded significantly. 2) Cadmium concentration in organs of rats after administration of cadmium-containing chlorella for 10 days was significantly lower than that of rats administered cadmium chloride. 3) Cadmium concentration in blood after single oral administration of cadmium chloride (10 mg/kg) or cadmium-containing chlorella (10 mg/kg) was examined, and 119 ng/ml blood was found 3 hr after cadmium chloride was given but only little cadmium was detected in blood after cadmium-containing chlorella was given. 4) Urinary excretion of cadmium from cadmium-containing chlorella was significantly faster than that of rats administered cadmium chloride.
著者
山本 まゆみ Horton William.B
出版者
宮城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

過去30年の間行われてきた慰安婦研究は、新たな進展がないまま、政治言説をも根拠資料のように扱っている研究も多く、現在の価値観で77年前の社会を理解する状況に陥っている。本研究は、当時の社会の文脈で史料を分析し、慰安婦を総合的に理解することを目指す。研究対象地域のインドネシアは、日本軍政の史料が国内外で保存され、慰安婦研究史料も数多く保管されている。特に、オランダBC級戦犯臨時法廷の尋問調書等には当事者の「生の声」も散見できる。文化人類学の方法論に用い、時間軸に「声」を描き入れ、当時の医療体制と性病予防史料も分析し、日本占領期の法律も検証し、日本占領期インドネシアの慰安婦を理解する研究である。
著者
笛木 司 松岡 尚則 牧野 利明 並木 隆雄 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 萩原 圭祐 田中 耕一郎 長坂 和彦 須永 隆夫 李 宜融 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.38-45, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2

『傷寒論』成立時代の権衡の考証を目的に,近接した年代に著された『本草経集注』「序録」の権衡を検討した。同書の度量衡は,権衡の記述に混乱が見られ,また度・量についての検証がこれまで十分に行われていなかった。そこで敦煌本『本草経集注』の「1方寸匕に等しい容積の薬升」の記述に着目,同記述が『漢書』「律暦志」の度に従っていることを仮定して計算を行い,1方寸匕の容量として5.07cm3の値を得た。得られた値を生薬の実測数値を用いて検証し,仮定を肯定する結果を得た。得られた1方寸匕の容量から換算した1合の値は『漢書』「律暦志」のそれと一致しており,『本草経集注』「序録」の度量が『漢書』「律暦志」に従っていることが確認された。次いで同書中に記述された蜂蜜と豚脂の密度について実測と計算値の比較を行い,『本草経集注』「序録」中の薬物の記述の権衡は『漢書』「律暦志」に従っていることが明らかになった。
著者
菱田 啓介 中島 里菜 松井 治幸 植 優衣 田村 友香 倉田 裕美 岡田 悠子
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-28, 2022 (Released:2022-04-09)
参考文献数
15

低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬は、慢性腎臓病の合併症である腎性貧血を治療する新しい選択肢であり、実臨床での使用が増加すると考えられるが、副作用についてのデータ集積は十分とはいえない。ロキサデュスタットでは甲状腺刺激ホルモン(TSH)減少が報告されているが、ダプロデュスタットでは甲状腺機能低下症が報告されており、HIF-PH阻害薬の使用による甲状腺機能への影響については明らかではない。そこで本研究では、ロキサデュスタット及びダプロデュスタットによるTSH減少作用について検討を行った。2021年2月から2021年7月に洛和会音羽記念病院でロキサデュスタットまたはダプロデュスタットを開始された維持血液透析患者のうち、開始前210日以内のTSH測定で基準値内かつ開始後もTSHが測定された者を対象として、後ろ向き解析を行った。ロキサデュスタット群9名のうち8名、ダプロデュスタット群12名のうち1名で基準値未満へのTSH減少が観察された。投与前後のTSH変化量はそれぞれ、-2.009 μIU/mL(95% CI = -3.181 to -0.837 μIU/mL; P = 0.004)及び+ 0.086 μIU/mL(95% CI = -0.560 to 0.732 μIU/mL; P = 0.775)であった。また、ロキサデュスタット群ではTSHが基準値下限の10分の1未満となるTSH著減も2名観察された。ロキサデュスタット投与により基準値未満へのTSH減少が認められた患者のうち2名がダプロデュスタットに変更となり、それぞれ13日後・15日後にTSHが基準値内へ改善した。HIF-PH阻害薬であるロキサデュスタットでは高率にTSH減少が発現することが明らかとなり、基準値下限10分の1未満まで著減する患者も観察されたため定期的な甲状腺関連の検査値モニタリングが必要と考えられた。TSH減少は薬剤固有の作用であることが示唆され、HIF-PH阻害薬間での変更によって腎性貧血治療の継続が可能であると考えられた。
著者
藤本 宏明 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.724-729, 2018-09-18 (Released:2018-10-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

ヒトの二足歩行では,大脳皮質や基底核,脳幹,小脳,脊髄などの複数の中枢神経領域が階層的に制御している.障害物などの外部環境への応対を要する随意的な歩行運動には大脳皮質や基底核などの上位中枢の関与が大きく,繰り返すリズミカルで自動的な歩行運動の生成には,脳幹や脊髄などの下位中枢が重要と考えられている.中枢神経損傷後の歩行やバランス機能の回復に伴って神経活動の変化がみられるが,逆に標的とする神経活動を調整すること(neuromodulation)によって機能回復が促進される可能性が検証されている.双方向での検証の蓄積が,歩行や姿勢制御障害の回復と神経活動変化との因果関係の解明へとつながることが期待される.
著者
佐藤 郁哉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.20-29, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
32

研究論文の質という問題について英国の研究評価事業を「反面教師」的な事例として検討していく.研究の質を論文の掲載誌の格付けと同一視するような風潮は,世界大学ランキングへの関心の高まりや研究業績に基づく各種補助金の傾斜配分政策などにともなって,日本でも近年傾向としてあらわれている.本稿ではこのような「論文掲載至上主義」的な傾向が,学術研究の劣化をもたらすだけでなく次代の研究者を育成するシステムの基盤をも掘り崩してしまう可能性について指摘する.
著者
松島 又十郎 松原 壮六郎 阿井 敬雄 井上 進一
出版者
The Japanese Society of Fish Pathology
雑誌
魚病研究 (ISSN:0388788X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.112-115, 1971-03-31 (Released:2010-06-17)
参考文献数
4
被引用文献数
1

最近魚病治療剤として数種類のサルファ剤が多用されているが,その作用の中で魚に対する毒性については水産薬として製造許可された2,3のサルファ剤を除いてはほとんど明らかにされていない状態と言える。特にハマチに関しては治療効果はともかく毒性については検討されないまま使用され,昭和44年の静岡県および三重県におけるスルフイソミジンによる骨折事故の発生などをみるに至ったと言える。このハマチでの骨折をともなう副作用については窪田らが本誌にスルフイソミジンについて報告しているが,著者らは今回スルフイソミジンおよびスルファモノメトキシン大量投与時の骨折発生の有無と,その時の組織内濃度について検討したので報告する。