著者
倉橋 節也 寺野 隆雄 吉田 健一 津田 和彦 高橋 大志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は,開発してきた逆シミュレーション学習によるエージェントモデルのパラメータ推定手法の手法を,実際の社会システムを対象に適用事例を作っていくことを主に行った.1)感染症モデル:新型コロナウイルスの広がりに対して,効果的な感染予防策の組み合わせを調べることを目的に,COVID-19感染モデルを構築した.感染プロセスをエージェントベースモデルに実装し,一般の市民や企業,学校などにおいて対策が可能な予防策の有効性についての比較検討を行った.2)都市動態モデル:スプロール化した都市の,コンパクトな都市構造への改善を目的とした都市政策の効果を検証した.都市居住者の自律的な行動に基づく都市動態のエージェントベースシミュレーションを実行し,その成立メカニズムを明らかにした.都市のスプロールは堅固で不可逆的であり,多中心型コンパクトシティを維持可能であった政策もってしてもくつがえすことは困難であること,トラムの導入は,トラム利用前後の歩行を誘導するような施策と組み合わされることで初めて 大きな効果を発揮することなどを見出した.3)組織多様性モデル:少子高齢化が進む日本では,労働力を確保するために働き方,働く人が多様化している.多様性を定量化するフォールトラインの考え方に基づき,日本の組織を対象にした実態調査の結果を用いて,組織の多様性と成果の関係をエージェント・ベースモデルによって明らかにした.多様性はフォールトラインの強さとサブグループ数によって成果への影響が異なることがが明らかになった.4)変数選択モデル:近年、大量かつ複雑なデータの獲得と蓄積が進み,重要な変数を選択する手法の重要性が高まっている.そこで,実数値遺伝的アルゴリズムを用いて,同一世代内の遺伝子の分散を活用した変数選択手法を提案し,パラメータ推定と変数選択の両方に対応できることに成功した,
著者
小野塚 大介 萩原 明人
出版者
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、日本全国47都道府県のインフルエンザ患者1,851万人、感染性胃腸炎患者1,598万人、救急搬送患者3,552万人、病院外心肺停止患者約118万人を対象とし、気候変動による脆弱性が、地域や個人の効果修飾因子によってどのように異なるかについて、環境疫学的手法と社会疫学的手法を融合して解明することを目的とする。本研究により、効果修飾因子による気候変動への脆弱性の違いを全国規模で定量的に推定することが可能となり、地域や個人の特性に応じた気候変動-疾患発症予測モデルの構築、早期警報システムへの応用、疾病予防管理プログラムの改善、医療機関における医療従事者の確保や設備整備等、日本における気候変動適応策を進める上で重要な意義があると考えられる。研究2年目である令和元年度については、(1)文献レビューによる先行知見の整理、(2)データの取得、データクリーニング、データセットの突合、データベースの構築、(3)統計解析及び論文化、を行った。文献レビューによる先行知見の整理については、気候変動による健康影響(感染症、救急搬送、病院外心肺停止)について、国際誌を中心とした文献レビューを行い、先行知見について整理した。また、気候変動の指標として、地域の気象変化(気温、相対湿度、降水量等)のデータを、アウトカムの指標として、感染症発生動向調査に基づく患者情報、全国救急業務実施状況調査に基づく救急搬送データ、ウツタイン調査に基づく病院外心肺停止データをそれぞれ入手し、データベースを構築した。さらに、文献レビューの結果をもとに、研究デザイン、研究対象、データ収集、解析方法について検討し、統計解析及び論文化を進めているところである。
著者
福士 謙介 渡部 徹 渡辺 幸三 浦 剣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

気候変動下では、都市気象の変化により感染症や暑熱障害等の健康リスクが高まることが想定されており、特に途上国都市ではその脆弱性が懸念される。本研究は、東南アジアの都市を対象として、(1)熱中症や睡眠障害等の暑熱に関連する健康障害、(2)下痢症・皮膚病・眼病等の水系感染症、(3)デング熱やジカ熱等の蚊媒介感染症の3つの健康リスクをそれぞれ予測する機械学習モデルを開発する。そして、気候変動モデルとのカップリングにより、想定する気候変動適応オプション下における3つの健康リスクのDALY(障害調整損失年)をそれぞれ算定し、合計して経済的損失に換算することで、3つのリスクを統合的に評価する手法を構築する。
著者
内田 満夫
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は,人工知能の技術のひとつである再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の技術を用いて,県レベルの地方の感染症流行の予測をおこなうことを目的とした。群馬県の衛生環境研究所と連携して過去の感染症データを用いて流行予測モデルを作成し,研究開始後に実際報告される感染症の発生データを入力し,実際に精度の高い予測を行うことが可能かどうか検討する。
著者
和泉 透
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒト肝癌由来Hep3B細胞は低酸素やコバルト刺激でエリスロポエチン(Epo)を産生する。この系において、いわゆる炎症性サイトカインのうちIL-1α、IL-1β、TNFαは濃度依存性に産生低下、IL-6は産生亢進の方向に働くことを以前見いだした。そこでIL-6によるEpo遺伝子産生調節について解析を進めた。ゲルシフト法によりHep3B細胞にはNFIL-6結合配列(TTGCGGAAC)に特異的に結合する転写因子の存在を確認したが、この発現は対照・低酸素刺激・IL-6添加時において明らかな変化を認めなかった。またfura-2を用いて測定した[Ca^<2+>]iはIL-6添加後も上昇を認めなかった。低酸素刺激によるEpo蛋白産生及びmRNA発現は12時間後にpeakとなるが、IL-6刺激では24時間後まで時間依存性に増加した。Hep3B細胞におけるIL-6で誘導されるEpo産生系のシグナル伝達機構は酸素センサーを介さない可能性があり、今後MAP kinase、JAK-STAT系の関与などについて検討する予定である。二次性貧血におけるIL-6の役割は現時点では明らかでないが、Epo産生抑制以外の機序で関与している可能性がある。最近我々は悪性リンパ腫の患者で血中TGFβ_1の高値を認め、化学療法後の貧血に対して投与したEpoが無効であった例を経験し、近く報告予定である。二次性貧血の発症機序について、IL-6以外にTGFβ_1など他の炎症性サイトカインとの相互作用も含めた検討が今後必要である。悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、骨髄移植後ではEpo産生調節異常が存在することが推定される。現在これら疾患の臨床例について、患者血清を用いて解析を進めている。
著者
中井 浩三
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

表皮のフィラグリン発現低下による皮膚バリア機能障害はアトピー性皮膚炎の原因である。我々はフィラグリン発現が低下したアトピー性皮膚炎モデルマウスでは皮膚バリア機能に重要なEGFR、E-cadherin、Occludinの発現が低下していることを発見した。抗酸化剤であるNアセチルシステインを同マウスに投与したところ、一部改善された。さらに、Nアセチルシステインをヒトアトピー性皮膚炎患者に外用したところ皮膚バリア機能は改善した。以上のことから酸化ストレスが角化と皮膚のバリア機能を低下させていることが示唆された。
著者
谷山 牧 山下 留理子 保母 恵 藤田 千春
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

比較的若い世代の生活保護受給者の就労意欲に影響を与える健康特性を検討した。当事者インタビューの結果、健康特性として【他者から理解されがたい持続的な苦痛】【精神的防御力の低さ】【社会的適応力の低さ】【自己流の健康管理】があり、これらはトラウマティックストレスにより引き起こされている可能性が考えられた。このうち、【精神的防御力の低さ】【社会的適応力の低さ】の改善を目指し、トラウマ・インフォームド・アプローチを基盤とした「ストレス対処講座」を作成し、評価を行った。参加後、自覚的健康度や自尊感情には有意な変化はなかったものの、不安・不確実感の有意な軽減が認められ、ストレス反応の改善傾向が示された。
著者
杉原 百合子 武地 一 山本 晃輔 岩崎 陽子 横光 健吾
出版者
同志社女子大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

健常な高齢者あるいはMCIの段階からの、効果的・実用的な認知症予防プログラム開発が、わが国のみならず世界的にも喫緊の課題である。本研究では、①日本・スウェーデン共同で「嗅覚感応デジタルデバイスゲームを応用した認知症予防プログラム」を開発すること、②開発した認知症予防プログラムの高齢者に対する効果を縦断的に測定すること、を目的とする。そのために、スウェーデンで構築されている「嗅覚ゲーム」の研究チームに、日本から認知症診療・ケアを専門とする医学・看護学の研究者および「嗅覚」を専門とする研究者グループが参画し、認知症の人の特性等を考慮した予防プログラムの開発及び効果測定に主導的な役割を果たす。
著者
平原 達也
出版者
富山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、外耳道入り口に置いた小型スピーカから放射した計測信号を、頭部の周囲に置いた複数のマイクロホンで受けることにより、多点の頭部伝達関数(HRTF: head-related transfer function)を同時計測するシステムを構築した。この高速HRTF計測システムを用いると、多数位置のHRTFを15秒以下で計測できた。そして、このシステムを用いて、頭部を回旋させた状態のHRTF、頭部の近くから離れた位置までのHRTF、頭部近傍のメッシュ状の空間位置のHRTFを計測し、接近・遠離音像や文字軌跡の移動音像を再生するバイノーラル信号を合成できた。
著者
李 恩瑛
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

食物からの脂肪の過剰摂取は糖尿病を惹起するが、そのメカニズムは多くが不明である。我々はインスリン抵抗性だが耐糖能は正常であるインスリン受容体変異マウスに、高脂肪食を負荷すると顕性の糖尿病を発症することを見いだし、そのメカニズムを解析した。解析の結果、このマウスでは脂肪組織での脂肪分解が亢進し、産生されたグリセロールが肝臓で糖新生に利用され、高血糖が誘発されることが明らかになった。
著者
年縄 巧 浜岡 秀勝
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

交通量や走行速度,車種を簡便に測定するために,高感度の地震計を利用した計測システムの開発を試みた.道路脇2ヶ所に地震計を設置し,車両が通過する際に生じる地盤振動を計測した.また,ビデオ撮影によって車両の通過の有無や車種を記録した.いくつかの予備調査の結果,車両が時速20km程度以上で通過する場合には,地盤の上下動の応答変位波形に特徴的な波形が生じることがわかり,これにより車両が検知できること,またこの波を5〜15m程度離した2点において計測することにより車両の通行速度を計測することが可能であることがわかった.また,速度が増加するにつれ応答波形のパルス幅が短くなり,両者の値には高い相関があることから,一点で得られた尾応答波形のみからでも,走行速度が推定できることがわかった.車両が時速10km程度以下の低速の場合には,地盤の応答変位波形に特徴的な波形は見られないが,車線に高さ1cm程度のゴム製の段差を設置し,応答速度を計測した場合,車両が段差上を通過する際に顕著な速度応答が生じることがわかり,これによって車両の通過が検知できることがわかった.また,片側1車線の一般道路において,モデル道路と同様の計測を行い,車種の違いによる地盤振動の変化を検討した.小型車量通過による地盤振動と異なり,大型車両通過による地盤振動は複数のパルスから構成されており,地盤振動の形状の違いによって車種の判別が可能であることがわかった.この手法は,片側2車線道路の計測には不向きであることなどの欠点は残すものの,測定機器の運搬・設置が容易であるため,十分実用的な手法であることがわかった.
著者
小澤 博
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、16・17世紀の英国演劇に書き込まれた地中海、および地中海諸国に関連するトピックを比較検討する事により、当代の詩的想像力と地中海世界との交渉の中に形成された初期近代英国演劇の特性を、社会文化史的側面から捉え直すことにあった。この研究では、ムーア人やユダヤ人の表象を中心に、北アフリカやイベリア半島のスペインをも視野に入れつつ、新世界へと拡張する西洋が、旧世界の演劇的想像力の中に創造した文化史の解明を試みた。バレンシアで開かれた第7回シェイクスピア学会世界大会においては、こうした視点から「スペインと初期近代劇と題するセミナーのリーダーを務めた。また、『シェイクスピアを学ぶ人のために』に所収の論文「異人を印す-シャイロック考-」では、地中海貿易の要衝ヴェニスとロンドンとユダヤ人を中心とする異人の問題を取り上げ、キリスト教対異教文化の対立について論じつつ、そこに内在する問題が、広くムーア人を含む異人種・異教徒の問題に発展する可能性を指摘した。『シェイクスピアを読み直す』に所収の論文「モンストラスな、余りにモンストラスな-『オセロー』と隠蔽-」は上記論文の延長上に位置し、地中海の要衝ヴェニスの白人キリスト教文化とムーア人の関係を検証し、劇中に隠蔽された異文化排除の実相を読み解いたものである。以上のような研究から、イスラム・ムーア人・ユダヤ人・イタリア諸都市(ヴェニスやヴェローナなど)等々の表象と演劇的意味を検証することで、地中海的視座から見た今ひとつの英国ルネサンス演劇文化論を提示することができた。
著者
小峯 敦
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の最大の成果は、ケンブリッジ大学中央図書館およびLSE文書館などにおいて、ケインズおよびベヴァリッジの原典(手紙・メモ・草稿を含む一次資料)を精査することを通じ、次の認識に至ったことである。すなわち、戦間期の巨大な知としての両人は、効率と公平を両立させる構想を推進しており、特にケインズにおけるその内実は、次のような複合的な組織を実現することであった。つまり、公共心を持った大規模経営者、真性な長期期待に基づく投資家、公平無私な政策担当者、専門的知を持った経済助言官、適切な経済情報を流す公共メディアという複合体である。この複合体こそ、彼らの言葉に即した「投資の社会化」の実態である。
著者
水野 紀子
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

日本固有の家族法を体現する存在である戸籍制度と、西欧法を継受した民法との間には根本的な矛盾が存在する。戸籍制度と民法が前提とする身分登録制度である自分証書制度との間にある相違は、単に個人別登録か家族ごとの登録かというものにとどまらず、戸籍は、国民登録兼親族登録兼住民登録である点で、出生・婚姻・死亡の単なる証拠書類にすぎない身分証書と基本的に異なっている。この相違がわが国の家族法に及ぼした影響は大きく、しかしその相違について無自覚であったため解釈は混乱している。平成4年度は、この矛盾があらわれている典型的なテーマのうち、実親子関係法について「比較婚外子法」、婚姻法について「重婚に関する一考察」、相続について「相続回復請求権に関する一考察」を著して、それぞれの問題を明らかにしたほか、日本の戸籍制度全体にわたってその特徴と将来像を描いた論文「戸籍制度」を執筆した。実親子関係法では、戸籍制度の特殊性故に虚偽出生届による戸籍を訂正する必要から生じた諸実務が、嫡出否認や認知など民法の設けている要件規定を事実上空洞化する傾向にある。その構造を明らかにした上で、現状の日本法の実務がどのような特殊性と難点をもっているかを描いた。婚姻法では、戸籍の届出制に基礎をおく協議離婚制度とそれが意思確認機能を持たないが故に必要となった協議離婚無効確認訴訟という日本法独特の訴訟類型、その結果生ずる重婚という日本にしかない特異な重婚類型に、構造上重婚が可能な身分証書制度下の民法がもつ重婚規定が適用されることから生じる問題を明らかにした。また、相続法においては、相続人がどこにどれだけいるかということが戸籍によってわかるという条件は、西欧法にはない。それがわからない身分証書制度を前提として形成されてきた相続回復請求権などの制度が、日本法に導入されたときどのような特異な機能を果たすことになったかを研究した。
著者
村田 哲人
出版者
福井医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

曹洞宗の僧侶20人(修行歴10〜40年の10人と修行歴5年未満の10人;それぞれM、D群)と坐禅の経験のない医師10人(C群)を対象に、坐禅中の脳波およびP300の変化を検討した。視察脳波では、坐禅を開始すると開眼のままでalpha波が出現し、さらに瞑想が深まるにつれ、より遅いalpha波あるいは前頭部に優勢なtheta波が観察された。alpha波の変化が、修行歴に関係なくすべての群の大部分に認められたのに対し、theta波の出現はC群にはみられず、M群の6人とD群の4人に観察された。脳波定量分析では、坐禅開始前の開眼安静状態、坐禅開始5分後、25分後の各記録時期の脳波を解析した。修行歴とstateについて、2元配置ANOVAを行い、相互作用がtheta2(FP1,F3,T5)、theta3(FP1,F3,T6)、theta2(FP1)に認められた。さらに下位検定より、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅が深まるにつれ、theta2、theta3が著しく増加し、alpha2の増加の程度が抑制されることが示された。theta波は傾眠・睡眠期以外にも、暗算・想起など課題遂行時の精神作業中に起こりやすく、無課題でも考え事に没頭した時や問題解決の時などに出現すると報告されている。坐禅は静坐して雑念を追わず、注意を内部へ集中させる努力を続け、無我の境地に自然に達するような修行である。本研究で観察されたtheta波は、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅の時間的系かにつれて多く出現し、修行によってもたらされた坐禅の本質、すなわちリラックスしながらも過度な緊張の保たれ、かつ意識の集中の高まった精神状態を反映していることが示唆された。さらに、坐禅中の認知機能・注意力の高さなどについて、認知機能の客観的指標として注目されているP300を用いて検討した。瞑想を妨げずに坐禅中にも適用が可能と考えられる受動的課題(sequence課題)を用いた。P300の潜時と振幅は、3群とも坐禅前と坐禅中で差がなかった。以上により、P300の結果は、theta波が有意に増加した坐禅中にも認知機能は低下することなく、坐禅前と同じ一定のattentionが保たれることを反映していると考えられた。
著者
村上 恭通 大村 幸弘 安間 拓巳 槙林 啓介 新田 栄治 笹田 朋孝
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

この研究は、製鉄の起源地である中近東から東方へ伝わる技術の足跡と変化の画期を考古学的に明らかにすることを目的としました。ヒッタイトに代表される青銅器時代の鉄は、紀元前12世紀頃にコーカサス地方を経て、中央アジアに伝わることを発掘により明らかにしました。これを技術伝播の第1波とすれば、黒海・カスピ海北岸地域のスキタイで育まれた技術の東方伝播が第2波といえます。東アジアは第1波の技術を基礎に発展させ、第2波を受容していないことも判明しました。ユーラシア北部における製鉄技術の伝播が鉱山を求めて移動する遊牧民族の生活様式に起因することが想定できるようになりました。
著者
米本 直裕 川島 義高 遠藤 香
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

自殺予防介入の普及と適応に関する研究ガイダンスを作成した。事例として、ゲートキーパー(GKT)研修について検討した。1つ目として、GKTの有用性について系統的レビューを行い、介入効果の限界と今後の研究の必要性を明らかにした。2つ目として、系統的レビューを行い、日本の自殺予防政策の発信とGKTの普及の関連と、ゲートキーパーの知見の統合や評価といった課題を明らかにした。
著者
鈴木 庸夫 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

兎で、右大腿上部を乳児用駆血帯で8時間緊縛した後、解除することによって外傷性ショックのモデルを作成した。緊縛解除後、兎は早いもので半日後、最も遅いものでも3日後に呼吸速迫、乏尿、体温降下などの典型的なショック症状を呈して死亡した。これらの例について、死亡後、各臓器の肉眼的並びに組織学的所見を検索した。肉眼的所見では、緊縛解除後死亡までの時間が長い例では肺水腫や胃粘膜下出血がみられるようになったが、しずれにもショック腎の所見や心内膜下出血は認められなかった。組織学的所見では、肺の骨髄細胞塞栓は死亡まで半日のものから見られ、死亡までの時間の長いもので著明になった。肝細胞壊死は死亡まで1日以上のもの、肺脂肪塞栓および腎臓の糸球体のボ-マン氏嚢の膨化や尿管の拡張は死亡まで30時間以上のもの、心筋の帯状変性は最も遅く緊縛解除後2日以上のもので初めて認められた。以上のことから、外傷性ショックの原因が作用した後、死亡までの時間が組織所見から類型化されることが判明した。これらの結果を外傷性ショック死の剖検例と比較すると、肉眼所見、組織学的所見共ほぼ共通して認められ、また、緊縛解除後の死亡時間によって見られる所見もほぼ共通していた。ただ兎での外傷性ショックモデルでは、ショック腎と心内膜下出血のみられたのがなかったのは緊縛解除後死亡までの時間が12時間以内に死亡するものがなかったためと考えられる。また、肝細胞壊死などの修復過程が見られなかったのは緊縛解除死亡までの時間が最高でも3日にすぎなかったためと思われる。以上のことから、外傷性ショック死の法医病理学的所見は類型化され、これをもとにすれば外傷性ショック死の診断はもとより、外傷から死亡までの時間も推定されると考えられる。
著者
太刀川 弘和 高橋 あすみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年各大学で自殺予防対策が始まっている。しかしこれまでに、大学生向けの標準化された自殺予防教育手法は開発されていない。そこで本研究では、欧米の自殺予防プログラムを参照して講義形式とeラーニング形式の二つの自殺予防のメンタルヘルス・リテラシー教材を開発し、有用性を検証した。講義と演習からなる自殺予防教育プログラムCAMPUSは、医学部生に実施した。実施後に自殺予防の理解度は向上し、3か月後に自殺念慮も低下した。E-learningの危機介入リテラシープログラムは、実施後のウェブ調査で被験者の知識が向上し、抑うつ気分も低下した。二つの自殺予防教育プログラムは、大学生の自殺予防に有効と思われた。
著者
野島 博 藪田 紀一 奥崎 大介 内藤 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

癌細胞が悪性化するとは「癌細胞が細胞分裂ごとに娘細胞への染色体不均等分配を高頻度に起こす」即ち「染色体不安定性」という特徴を獲得することにある。その細胞・分子レベルでの主要な原因として「中心体の過剰増幅とM期チェックポイントの制御異常」が知られている。本研究ではM期で中心体から染色体へ移行する「中心体キナーゼ」であるLats1/2がALB経路とCLP経路を、GAKがGBC経路を形成することで染色体不安定性を統御するという我々の独自な発見を展開した。そのために、Lats1/2、GAK、Cyclin G1/G2欠損マウスやTALEN/Crispr系を用いたLats2欠損癌細胞株を作製して活用した。