著者
岩原 昭彦
出版者
樟蔭東女子短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

電子メール上での相談や議論は、送信者の意図がうまく伝達されにくいために、受信者に誤解を与え、結果的にケンカ別れに終わるなど禍根を残しやすいことが報告されている。誤解が生じやすいのは、対面式のコミュニケーション事態では、表情や韻律という非言語的情報が発話内容と同時に伝達され、送信者が抱く感情的意味情報は、表情や韻律を通して相手に伝達されるために、円滑なコミュニケーションが可能となる一方で、電子メールなどの文字言語に依存したコミュニケーション事態では、単語や文法による意味情報しか伝達されず、感情的意味情報がうまく伝達されないことに原因の一端があると考えられる。本研究は、通信内容と通信媒体で使われるべき活字体の相互作用の特徴を明らかにすることで、感情を内包した文字言語コミュニケーションのあり方について検討し、携帯メールや電子メールなどの文字情報に依存したコミュニケーション事態で、誤解を低減させる情報の表示形態のあり方についての基礎資料を提示することを目的としていた。研究の成果は以下の3点に集約される。(1)表記形態や書体を選択的に使用することで、文字言語コミュニケーション事態においても感情的意味情報を伝達することは可能である。(2)文字言語コミュニケーション事態で生じる誤解には一定のパターンが存在する。(3)情報の送信者は、表記形態を工夫することで送信者の感情的意味情報を伝達することが可能であり、誤解を低減することができると考えている。これらの成果をもとに,文字言語における感情的意味情報の伝達メカニズムの解明とそのモデルが構築された。文字言語においてどのように感情的意味を認識しているのかについて理解を深めるとともに、どうすれば文字言語において正確なニュアンスを伝達することが可能かを示唆している。
著者
原田 二朗 山本 健 溝口 正 佐藤 秀明
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

酸化ストレスを原因とする肥満から発展するメタボリックシンドロームは、脳梗塞や心筋梗塞のリスクファクターとなることから、予防法の開発が急務である。本研究では未だ動物実験では使われたことがない光合成細菌がもつケト型カロテノイドを調べることで、メタボリックシンドロームの予防効果について検討する。具体的には、糸状性酸素非発生型光合成細菌Chloroflexus aurantiacusがもつ、ケト型カロテノイドに着目し、カロテノイド分子種の同定と機能を調べた。ケト型カロテノイドの疾病に対する優れた予防剤としての開発が期待される。
著者
田岡 和城 荒井 俊也 吉見 昭秀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

iPS細胞からCD34陽性CD38陰性CD43陽性の造血幹細胞様血球を作成、および多系統の血液細胞への分化誘導させることが可能とした。具体的なプロトコールは、iPS細胞を10T1/2細胞と共培養し、day1からday4にBMP4、day4からday9までIL3、day9からSCF、FLT3、TPO、IL3で順次サイトカインで刺激すると、造血幹細胞に認められるCD34陽性CD38陰性CD90陽性分画を認めた。誘導したCD34陽性造血前駆細胞をそれぞれ顆粒球、単球、赤芽球、巨核球への分化誘導が可能であり、多系統への分化能が保持されていることを示した。
著者
海野 肇 けい 新会
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

上下水の最終処理に広く用いられている塩素消毒は残留微量有機物質との反応によってトリハロメタン等の発ガン性物質を生成する可能性が大きく,その代替法として紫外線処理法が注目されている.一方,紫外線殺菌により一旦不活性化された細菌は近紫外線によって再び活性化するという現像がある.本研究では,最近水環境汚染の一つとして指摘されている腸管系ウイルスについて,紫外線処理による不活化過程を検討した上で,その不活化したウイルスの近紫外線照射下での挙動を調べた.実験には,ポリオウイルス1型のワクチン用弱毒株(LSc.2ab株)を用いた.紫外線によるウイルスの不活化実験は低圧水銀ランプ(波長253.7nm)の真下に一定濃度のウイルスを添加したPBS溶液を置き,異なる紫外線強度の条件下で連続攪拌して行った.また,紫外線処理したウイルスに波長300〜400nmの近紫外線を照射しウイルス活性の変化を調べた.ウイルス活性はプラーク形成法により評価した.紫外線照射によるウイルスの不活化過程は,いずれの紫外線強度においても紫外線量(強度と時間の積)増加と共に一次的に減少した.しかし,大腸菌の不活化に比べて同程度の不活化率を得るにはかなり大きい線量の照射が必要であった.また,異なった紫外線線量下で不活化したウイルスは近紫外線照射と未照射とでは同様な挙動をし,光による活性回復(光回復)現象を示さなかった.これは紫外線照射したウイルスと細菌への近紫外線の影響が異なったことを示した.本研究の結果から,上下水の紫外線処理法では,細菌の光回復による活性化を問題視する必要があるが,ウイルスはそのような問題がないことがわかった.
著者
清水 弘之 HO John H.C. KOO Linda C. 藤木 博太 松木 秀明 渡辺 邦友
出版者
岐阜大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

ホンコンでは、わが国と比べ鼻咽頭がんの罹患率が高く、EBウィルスと関係、あるいは塩魚との関係が注目されてきた。しかし、一般集団のEBウィルスへの感染率は日本、ホンコンとも極めて高く、EBウィルスのみでは、日本とホンコンとの差、あるいは発病すめ者としない者の差を説明しきれない。つまり、別の因子の介在している可能性が充分に考えられる。今回、気道内の細菌のプロモ-ション活性に注目して、研究を実施した。ホンコン・バプティスト病院へ通院中の鼻咽頭がん患者5名(男子4名、女子1名、年齢40ー68歳)の鼻咽頭部から粘液を採取、直ちにGAM寒天培地を用い、好気・嫌気両方の条件で37℃、48時間培養を行った。また、コントロ-ルとして、同病院で働く職員を5名(男子3名、女子2名、年齢36ー64歳)選び、鼻咽頭部粘液を同様に培養した。それぞれの培養菌体を一旦凍結乾燥したのち、その溶解物を用い、プロテインキナ-ゼC、^<32>PーATP、Ca、フォスファチジルセリンの存在下で、ヒストンに取り込まれる^<32>Pの量を測定することにより、プロテインキナ-ゼCの活性を観察した。プロテインキナ-ゼCの活性(mU/10μg)は次の通りであった(平均値と標準偏差):鼻咽頭がん患者からの検体の好気培養…20.0 ±11.0鼻咽頭がん患者からの検体の嫌気培養…13.2 ±11.0対照者からの好気培養………5.18 ±6.16対照者からの嫌気培養………10.4 ±17.16つまり、好気培養・嫌気培養の結果とも、鼻咽頭がん患者からの菌体の方で高い活性値が認められ、特に好気培養でその傾向が顕著であった。また、ホンコンにおいては、女性の喫煙率が低いにもかかわらず、女性肺がんが高率であり、一般集団での慢性の咳・痰も日本の約10倍と推定されている。そこで慢性痰を有する女性3名の喀痰を37℃、好気および嫌気条件下で48時間培養後、一旦凍結乾燥し、以下の燥作を行い、nonーTPAタイププロモ-タ-であるオカダ酸クラスが示す、プロテインキナ-ゼの活性作用を検討した。すなわち、凍結乾燥菌体を酵素で消化、凍結乾燥後、メタノ-ルで抽出し、その抽出液をジクロロメタン/イソプロパノ-ルに溶解する分画Iと、その沈渣である分画II、さらにメタノ-ル抽出の沈渣をジクロロメタン/イソプロパノ-ルに溶解した分画IIIに分け、酵素活性への影響を観察した。好気培養で発育した菌は、どの分画においてもプロテインキナ-ゼの活性作用であるオカダ酸様作用を示さなかった。しかし、2名から得た嫌気培養発育菌は比較的強い活性(特に分画Iにおいて)を示した。分離同定の結果、その菌は Streptococcus sanguis であることが判明した。以上、鼻咽頭患者の腫瘍部あるいはその近辺から採取した細菌の菌体(あるいはその分泌物)に何らかのプロモ-ション活性を示すものが存在する可能性を示唆する結果を得た。しかし、診断後時間経過の短い患者を選んだが、既にがんが発生した後の鼻咽頭部からの菌の分折であり、がん発生以前の状況は不明のままである。また、ホンコンの肺がん患者10例から喀痰を採取し、凍結乾燥を終えているので、慢性の咳・痰を有する患者の成績と比較すべく、分折を継続中である。
著者
李 建志 島村 恭則 上水流 久彦 齋藤 由紀
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究代表者は、先住民に対する行政の問題と、日本陸海軍の将校たちの思想が、支配者の立場と支配される立場というかたちで交差することに気づき、朝鮮半島出身の陸軍幹部であった李垠などを中心に、この時代について分析することへと傾斜していった。その際、島村氏、上水流氏、齋藤氏との意見交換や研究会などでの密接な問題意識の共有と、その成果発表としての論文発表などが、相互にとってきわめて有効に働いたことはいうまでもない。研究代表者の成果に限っていうと近い将来に単行本として刊行される原稿を書きためていた。その分量は400字詰め原稿用紙にして1000枚にのぼっている。これは必ず出版する。
著者
田中 敏郎 嶋 良仁 仲 哲治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アレルギー疾患の有病率が増加している現状において、その増加要因の解明と、発症を予防する手段の開発は急務の課題である。本研究においては、遺伝子多型がどのように喘息発症に関与するのか、また抗アレルギー作用を有するフラボノイドの適切な摂取によるアレルギー疾患に対する補完代替療法や予防法の確立を目指して、新たなフラボノイドの作用、作用機序に関して検討を加えた。IL-18の遺伝子多型IL-18-105A/Cは、アトピー型、非アトピー型喘息の発症に関与する多型であることが示された。IL-18-105A/Cは、IL-18遺伝子発現に関与するプロモーター領域のIL-18- -137G/C多型と連鎖不均衡にあり、これらの多型が末梢血単核球からのIL-18産生能に影響するのか検討したところ、遺伝子型がIL-18-105A/AやIL-18- -137G/Gである場合、それぞれ、IL-18-105A/C、IL-18- -137G/Cに比較して、単核球からのIL-18産生が上昇していた。このことは、IL-18が過剰産生されやすい遺伝子背景が、喘息発症のリスクとなることを示唆する。フィセチン、ルテオリン、アピゲニンなどのフラボノイドは、好塩基球からのIL-4やIL-13の産生を抑制するのみならず、CD40リガンドの発現も抑制する。したがって、好塩基球において、B細胞のIgE産生細胞への分化に必須なサイトカイン(IL-4、IL-13)とCD40リガンドの発現を抑制することより、フラボノイドは間接的なIgE産生抑制物質であることが示された。その作用機序として、転写因子のAP-1の活性化を抑制することが明らかとなった。また、フラボノイドのin vitroでのIL-4産生抑制活性と経口投与における体内への吸収性を考慮して、高活性、高吸収性のフラボノイドを合成した。
著者
有馬 雅史 坂本 明美 幡野 雅彦 徳久 剛史 岡田 誠治
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

転写抑制因子であるBCL6はTh2サイトカインの産生に対して負の制御を行っている可能性が示唆されている。我々は、Th2型気道炎症を呈する気管支喘息の病態の解明や新たな治療の開発のための基盤研究として、BCL6のTh2サイトカイン産生および喘息性気道炎症における作用メカニズムについて解析した。本研究では、以下の点について明らかにすることができた。1.BCL6はT細胞によるTh2サイトカインの産生を抑制し、少なくともIL-5遺伝子はBCL6の標的遺伝子であり、その機序としてIL-5遺伝子の第4エクソンの3'末端の非翻訳領域にBCL6が直接結合して転写活性を抑制することを示した。2.BCL6はTh1細胞や休止期のTh2細胞に対してIL-5遺伝子のstabilityに関与する。3.マウスの喘息モデルでBCL6の強発現によってのTh2サイトカイン産生を抑制し、好酸球を中心とする気管支喘息の気道炎症を減弱することによって気道過敏性の亢進を抑制した。3.BCL6は樹状細胞(DC)の分化や機能を介してTh2細胞の分化を制御する。したがって、BCL6はリンパ球以外に抗原提示細胞の機能も制御してTh2型反応を総合的に制御すると考えられた。以上よりBCL6はリンパ球とDCの両方に対してTh2細胞の分化や機能を制御してTh2喘息性気道炎症の病態に関与する可能性があることを示した.このような研究成果は単に気管支喘息の治療法の開発につたがるばかりか、アレルギー性疾患の発症メカニズムの解明にもつながることが期待できる点において大変重要である.
著者
鈴木 智也
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

自然現象を生み出す背景ダイナミクスをできるだけ破壊しないように時系列データを観測し,このデータよりダイナミクス(法則性)を学習することで予測力の高い時系列予測モデルの構築を目指した.しかし予測誤差を完全には排除できないため,これを予測リスクとみなし,事前の推定方法や緩和方法を検討した.このように将来予測およびリスク管理を両輪とするアプローチは金融工学に応用できるため,決定論的予測モデルに基づく新しい非線形金融工学を提案した.
著者
上田 敬太
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

外傷性脳損傷の内、局所脳損傷特に前頭葉眼窩面損傷では、社会認知に影響を与える他者の情動表情認知に障害があることが明らかになった。また、びまん性軸索損傷においては、白質・灰白質ともに体積の減少を生じやすい脳部位が明らかとなった。白質では主に脳梁の膨大部、灰白質では前部帯状回や視床などの中心構造に加え、島皮質の体積減少が認められた。一方で、認知機能障害の特徴としては、びまん性軸索損傷では、局所脳損傷群と比較して、トレイル・メイキング・テストやウェクスラー成人知能検査における処理速度で有意な低下を認めた。アパシーなどの精神症状で両群に有意差は認めなかった。
著者
本間 浩
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ラット精巣から、体内でテストステロン(Tes)合成を主に担うLeydig細胞を精製し、D-アスパラギン識(D-Asp)がTes合成を亢進するかどうかを検討した。D-Asp存在下でLeydig細胞を予め3時間以上培養すると、その後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)で誘導されるTes合成が、有意に促進されることが明らかになった。また、この促進効果は、D-Aspを細胞内に取り込むことが知られているグルタミン酸トランスポーターの阻害剤によって抑制され、D-Aspは細胞内に取り込まれて促進作用を示すことが示唆された。hCGは、その受容体に結合した後、細胞内のcAMP濃度を増加させてTes合成を促進するが、hCGの代わりにdibutyryl cAMPで刺激しても、D-Aspの促進効果が認められた。このことは、D-AspがcAMPの濃度上昇以降のステップに作用することを示している。Leydig細胞内では、Tesの前駆体であるコレステロール(Chol)が、まずミトコンドリアの内膜へ運ばれ、P450SCCによる側鎖切断反応を受けたあと数種の代謝を受けてTesに変換される。この内膜へ運ばれる段階がTes合成全体の律速段階であると言われている。細胞外から水溶性が高い水酸化Cholを与えると、この律速段階をスキップしてすばやく内膜へ運ばれ、側鎖切断反応を受けてTesに変換される。水酸化Cholを与えてTes合成を亢進させた場合には、D-Aspはもはや促進効果を示さないことが明らかになった。このことは、D-Aspが、ミトコンドリア内膜におけるP450SCCによる側鎖切断反応よりも前のステップに作用することを示している。D-Aspの作用点として可能性のあるステップを種々検討した結果、D-AspはSteroidogenic Acute Regulatory protein(StAR)と呼ばれるタンパク質の合成促進を介して、Tes合成を促進していることが明らかになった。StARは、前駆体であるCholがミトコンドリアの外膜から、側鎖切断酵素(P450SCC)が存在する内膜へ運ばれる、Tes合成の律速段階を亢進する働きのあるタンパク質である。D-Asp処理を行ったLeydig細胞では、このStARのタンパク質量か増加していることが、Immuno blot法により明らかになった。また、D-Asp処理を行うと、StARのmRNAレベルも上昇することがNorthern blot法により明らかになった。すなわち、Leydig細胞において、D-AspはStARの遺伝子発現を促進することによって、Tesの合成を促進していることが明らかになった。
著者
三羽 邦久
出版者
ミワ内科クリニック
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

慢性疲労症候群の原因として筋痛性脳脊髄炎に伴う中枢神経系の機能調節障害が2011年に国際委員会より提唱された。診断基準には、心血管系症状として起立不耐症が含まれた。患者の大半は低血圧でSmall heart例が多い。心胸郭比は小さく、心エコー検査でも、左室拡張末期径が小さく、1回拍出量、心拍出量は低値である。左室収縮性の指標の低下はない。低心拍出量症候群として多くの病態が理解できる。強度の疲労、めまい、ふらつき、動悸、悪心などの症状により立位維持困難を訴える起立不耐症は、本症患者の生活機能障害を規定する最重要因子となっている。起立不耐症の病態生理は、立位時の脳血流不足であり、交感神経系の高度緊張も関わる。体位性起立頻拍、起立性低血圧や神経調節性低血圧をしばしば認める。前負荷の低下による低心拍出量状態にも拘らず、血漿renin活性の上昇はなく、血漿aldosteroneおよび抗利尿ホルモン(ADH)濃度は、患者で健常人より低値であり、Renin-Aldosterone系およびADH系の活性化不全があることが判明した。抗利尿ホルモン製剤、デスモプレシンの経口投与は、低尿浸透圧例において、起立不耐症状を緩和し、日常生活活動度を向上させるのに有効であった。
著者
坂東 俊治
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

亜鉛をドープした酸化鉄ナノチューブを作製し,温度に対する構造安定性と光学的バンドギャップの評価を行った.その結果,亜鉛ドープ酸化鉄ナノチューブはマグネタイト構造を有し約300℃まで安定であり,バンドギャップを2.0eVまで狭くすることができた.亜鉛ドープをしない酸化鉄ナノチューブとCH3NH3PbI3,P3HTを用いて光電変換セルを作り,波長400nm における分光感度を40%まで高め,かつ,600nmにおいても10%に迫る値を得ることに成功した.しかし,グラフェンを電極として特性を調べるまでには至らず,同じ炭素系材料のカーボンナノチューブ薄膜の作製に関する基礎データを得るにとどまった.
著者
畑中 研一
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

動物細胞を糖鎖生産工場と見立てて糖脂質の類似体を合成するバイオコンビナトリアル合成法を用いた糖脂質GM3(NeuAca2-3Galβ1-4Glcβ1-Cer)類似体の生産における最適条件を詳細に検討した。アルキル鎖の根元にアジド基を導入した糖鎖プライマーは他のプライマーと比べて約2倍糖鎖伸長を受けやすいことが明らかとなったが、プライマーの界面活性能を測定することによりこの理由も明らかにした。また、播種細胞数依存性、プライマー濃度依存性、培養時間依存性についても明確な依存性を確認し、最適条件を決定した。さらに、検討した最適条件を用いてのGM3類似体の大量合成と、生成物の分離精製方法も検討した。次に、GM3とepidermal growth factor receptor(EGFR)の相互作用や細胞における外因性/内在性GM3について検証した。GM3とEGFRの相互作用の機序を、共焦点レーザー顕微鏡による画像解析など様々な手法により明らかにした。さらに、GM3の代謝中間体であるlyso-GM3のオリゴマー化、合成された化合物のキナーゼ活性への阻害効果や細胞毒性を評価した。EGFRを高発現しているA431細胞に各化合物を様々な濃度で添加したところ、lyso-GM3 dimerに高いチロシンキナーゼ活性阻害能が見出された。大量合成の可能性が示されたGM3類似体(lyso-GM3 mimetic)を応用して同様な機能性糖鎖含有分子の合成を行い、それらがEGFRの関係する生理現象に及ぼす作用を検証した。A431細胞にこれらの各々の化合物を投与し、糖鎖伸長したプライマーを応用した新規化合物であるmimetic dimerに天然型であるlyso-GM3 dimerと同様のEGFRのチロシンリン酸化阻害能があることを示した。さらに、EGFRシグナリングの下流にあたるAktや細胞増殖も抑制することを明らかにした。EGFRとGM3の直接的相互作用を、SPR法を用いて詳細に解析した。結合定数やkinetics parameterの解析により、EGFRと糖脂質の相互作用が特異的であることを発見した。
著者
細田 耕 荻原 直道 今西 宣晶 名倉 武雄 清水 正宏 池本 周平 菅本 一臣 成岡 健一 MACEDO ROSENDO Andre Luis 伊藤 幸太
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究課題では,脳やせき髄からの投射がない場合の,歩行状態における人間の足部の機械的特性を計測するために,歩行状態を再現するための歩行シミュレータを作成し,これに屍体の足部を取り付け,二方向エックス線透視撮影装置の中で歩行させることによって,足部内部の骨の動きを観察するためのプラットフォームを開発した.これに関連して,歩行状態を再現するための歩行シミュレータの制御や,透過画像から各骨の三次元運動を精密に再構成するための画像処理技術などを開発した.足部に存在する機械的特性のうち,中足骨関節に着目し,同等の機能の足部をもつ二足歩行ロボットを開発,実験によって中足骨関節の歩行安定性への寄与を調べた.
著者
小谷 幸
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

1990 年代以降のグローバリゼーションの急速な進展,そして特に2008年のリーマンショック以降,労働法や社会保障制度及び労働組合の保護や規制から排除された「不安定な仕事」(precarious work)が世界的に急増し,格差の拡大,貧困層の増大を招いている。こうした状況に対し,米国では当事者組織であるワーカーセンターや労働組合,労働NGO,大学が連携組織(コアリッション)を構築し,市・州単位での最低賃金引き上げキャンペーンを成功させている。しかしながら,日本ではこうした連携組織は存在していない。そこで本研究の目的を,既存の労使関係システムから排除されたprecarious workに従事する労働者の直接的な処遇改善を目指す連携組織の,日本における構築可能性を検証することとした。調書に記載した研究計画に基づき,初年度である平成29年度は,①米国における連携組織の実態調査,②米国の参加型労働教育手法収集に基づく教育プログラムの整備,③日本における参加型教育プログラムの実践・評価,を実施した。①では,2013年度日本大学海外派遣研究員(長期)制度の支援を受けた研究活動を基盤とし,米国カリフォルニア州サンフランシスコ市,オークランド市における最低賃金引上げ運動に連携組織が果たした役割に関するフィールドリサーチを継続している。また,研究協力者の支援によりロサンゼルス市においてもフィールドリサーチを実施し,成果は研究会で発表した。②③では,米国の女性アクティビスト向けサマースクール(Summer Institute on Union Women)に参加し収集したプログラムに基づき,大阪で参加型労働教育ワークショップを実践した。
著者
斎藤 一郎 坪田 一男
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

シェーグレン症候群(Sjogren's synrome,SS)は唾液腺、涙腺の組織破壊を主徴とする臓器特異的自己免疫疾患である。本症の病体系性の機序は未だに明かではないが最近,SS組織特異的自己抗原が120-kDのα-fodrinであると言う報告がなされ、自己免疫疾患であるSSの発症、病理に深く関与している可能性が考えられている。しかしながら、120-kD α-fodrin自体が生成される機構については殆ど明らかにされていない。一方、従来より本疾患においてEpsten-Barrウイルス(EBV)の著しい活性化が認められることが知られている。本研究は、これらの現象に着目して、EBV感染が120-kD α-fodrin産生を誘導するかについて検討を行った。その結果、本研究に用いたSS患者血清中には、EBVの再活性化の際に検出されるZEBRA抗原に対する抗体およびα-fodrinに対する抗体が存在することがイムノブロット法により確認された。また、EBVの活性化を誘導すると、細胞アポトーシスが惹起され、それに伴って120-kD α-fodrinの発現が認められた。加えて、120-kD α-fodrinの発現は、アポトーシス関連プロテアーゼであるカスパーゼのインヒビターを添加することにより抑制された。これらのことから、自己抗原である120-kD α-fodrinの形成機序の一つにEBVの活性化が示唆された。
著者
大浜 剛 大松 勉
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、停滞感のある抗がん剤開発の分野に対して、旧来の分子標的薬開発とは逆転の発想である「ホスファターゼを活性化する創薬」を提案するための基盤になることである。具体的には、最近申請者が発見した、重要ながん抑制因子であるホスファターゼPP2A、PP2A阻害タンパク質であるSET、および転写因子E2F1から構成されるシグナル伝達「SET/PP2A/E2F1軸」が、がんの悪性化を引き起こす分子機構と、イヌおよびヒトの腫瘍における役割の比較検証を行う。また、申請者が樹立した「発光反応によるタンパク質結合解析系」を用いて、PP2Aを活性化してSET/PP2A/E2F1軸を動かす刺激を同定し、抗がん効果を解析する。本年度は、ヒトおよびイヌの骨肉腫細胞株について、SET発現を抑制した細胞ET発現の低下が、がん細胞の表現型に与える影響について解析を行った。その結果、ヒトとイヌの骨肉腫細胞株では、SET発現抑制に対する反応性が大きく異なり、イヌ細胞ではSET発現抑制による抗がん効果が弱いことが明らかとなった。この点は、比較生物学的な観点から興味深く、より詳細な検討を行う予定である。ヒト骨肉腫細胞株に対するSET発現抑制の効果については、詳細な分子機構を解明するため、次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を行った。今後は、得られたデータをもとに、着目したシグナル伝達機構について、より詳細な検討を行う予定である。また、「発光反応によるタンパク質結合解析系」を用いた検討について、PP2AとSETの結合(PPI)を制御するシグナル伝達機構を明らかにするため、各種阻害剤ライブラリーを用いたスクリーニングを行った。これにより、PPIに影響を与える阻害剤が幾つか同定された。今後は、ヒット化合物についての詳細な検討を行うと同時に、新規化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを追加する予定である。
著者
白柳 弘幸 岡部 芳広 佐藤 由美 藤森 智子 林 初梅 槻木 瑞生
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

戦前の日本国は、台湾・朝鮮・樺太・関東州・満洲国・南洋群島・南方占領地に、地域によって初等教育機関のみの所もあるが、台湾と朝鮮には帝国大学も設置した。今回、それらの学校所在を明らかにした。また、校舎施設や一部教科の指導内容が戦後に引き継がれたことを台湾に於いて確認した。当地からの日本人引き揚げ後も、戦後復興のために残った日本人の大学教員や技術者がいた。その子弟たちが通った日僑学校や日籍学校と呼ばれた日本人学校が台湾・北朝鮮・満洲の主要都市にあり、教育内容等について明らかにした。
著者
幸田 正典
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

共同繁殖魚プルチャーは、個体変異のある顔の模様でお互いに個体識別をしている。本課題研究では本種を対象に顔認識について、さらにいくつかの研究を進めることができた。まず、本種が複数の個体を個別に識別することができるのかどうかを検証し、「True Individual Recognition (TIR)」ができることが実証できた。TIRはヒトの他多くの霊長類や社会性ほ乳類で確認されている能力で、複雑な社会関係を維持して行く上で不可欠な能力といえる。しかしこれまで魚類での報告はなかった。我々は縄張りの「紳士協定」と呼ばれる現象を利用し、これを解明した。紳士協定はほとんどの動物で知られており、本成果はほとんどの動物でもTIRができることを示唆しているし、実際にそうだと我々は考えている。また、プルチャーの顔認知で「顔の倒立効果」が起こることがほぼ検証できた。顔の倒立効果はヒトで最初に発見され、その後霊長類現在では多くの社会性ほ乳類でも確認されている。これは、顔の認知に特化した顔神経の存在を意味しており、今回の発見は、魚類でも顔神経が存在することが示唆された。ほ乳類では顔認神経の存在が確認されており、今回の発見は魚類での顔神経の研究を促すものと言える。また同時に、顔の個体特異的な模様でTIRをしているなら、まず相手個体の顔を見るだろうとの仮説を考えそれを検証した。相手個体の顔や特に目を見ることは、ヒトや霊長類で確認されている。我々は独自に計測装置を考案し、それを用いて実験を行った。その結果、本種もまず同種他種個体の顔を見ることが検証できた。このような魚類の顔認知が一般的かどうかも検討課題である。これまでスズキ目魚類を対象に顔認識を検証してきたが、今回は、コイ目のゼブラフィッシュ、ダツ目のメダカ、カラシン目のグッピーを対象に顔認識に基づく個体認識が、ほぼ明らかにすることができた。