著者
西田 一豊
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究事業では福永武彦を文化史中で捉え直す作業を行った。結果として、福永武彦と戦後の雑誌を中心とするメディア史、または文化史との関連として以下のことが判明した。福永武彦は1956年に加田伶太郎として探偵小説を発表するが、そこには当時の探偵小ブームを背景とし、新たな週刊雑誌の創刊など活字メディアの隆盛の中で、新しい書き手として要望されたものであった。また小説の精読を通じて、福永武彦のロマン主義的要素を解明し、論文にまとめた。さらに未発表の資料調査や書簡の調査を通じて、小説が作り上げられる過程が明らかとなった。
著者
加藤 有希子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

芸術と生活の融合に関する戦後史研究ということで、平成29年度は海外の芸術祭の調査を行った。具体的には夏にドイツのミュンスター彫刻プロジェクト、カッセルのドクメンタ14、イタリアのヴェネツィア・ビエンナーレへの現地調査をした。そしてその結果は、論文「芸術祭の時代――政治か経済か、変わる芸術の役割」にまとめた。これを慶應義塾大学美学美術史専攻の三田芸術学会の学会誌『芸術学』に平成29年10月に投稿した。翌3月に査読が通り、現在入稿済みで、出版を待っている段階である。この論文では、経済的なモチベーションを基軸にする日本の芸術祭と、政治的なモチベーションを基軸にするヨーロッパの芸術祭との比較を行った。日本の芸術祭は越後妻有や瀬戸内国際芸術祭のように地方創生型のものが最も個性を発揮しており、それゆえ開催地の経済活性化が最大の課題となる。一方、移民を多く受け入れているヨーロッパは、政治的アイデンティティが個人の在り方を決定づけるため、政治的関心を引く作品が多い。とりわけ今回のドクメンタはその最たる例であった。しかし経済、政治、いずれにしても、それはカント以来の近代的な芸術観を覆すものである。カントは「無関心性」の美学で名高いが、経済や政治に終始する昨今の芸術祭は、生活関心に直結し、さながら昨今の自己啓発ブームすら思わせる「勇気づけ」の行為にあふれている。例えば、一般人がアーティストの活動に参加したり、アーティストが一般人が自信をもてるようななぐさめの言葉を送ったりする。VUCAと呼ばれる先の見えない不安定な世の中で、昨今の芸術は生活関心に直結し、私たちの生きる道筋を照らすともしびとなっている。それはブルデューがディスタンクシオンとよぶ差異化や、ダントーがアートワールドと規定した分離も瓦解させる動きである。本論ではそのことを指摘した。
著者
滝沢 直宏 山下 淳子
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

多様な学術英語におけるレキシカル・バンドルについて検討した。まずその概念を検討すると共に、巨大なコーパスからレキシカル・バンドルを抽出する方法を考察し、学術英語からの「レキシカル・バンドルの抽出を実際に行った。また、実際の授業においてレキシカル・バンドルの概念を導入することにより、学生の表現能力の向上が如何に図られるかを検討した。更に、レキシカル・バンドルに重点を置いた記事を、Asahi Weekly紙上において連載した。巨大な電子資料から高速に情報を抽出するシステムの開発を行った。
著者
菅 聡子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

明治期から戦時下にわたり、女性作家の国民化の様相を抽出し、国家との共闘/対抗のさまを明らかにした。具体的には、樋口一葉の和歌・日記、柳原白蓮の昭和における表現活動、吉屋信子のベストセラー小説をとりあげ、女性表現と国民国家の関係について論じた。
著者
京樂 真帆子 千本 英史 岩間 香 今 正秀 山田 邦和
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

平安貴族文化を象徴するものの一つに、牛車がある。また、牛車に乗るということは、ミヤコという都市文化を表すものでもあった。そこで、古代・中世貴族社会における「乗り物文化」研究のために、古記録、文学作品、絵画資料、考古資料などの整理・分析を行った。その結果、牛車や輿は、乗る人の身分、財力、人脈などを可視化するものであり、また、人々に見られることを意識した都市文化を創り出したことを明らかにした。
著者
小松 史生子 坪井 秀人 古川 裕佳 山口 俊雄 一柳 廣孝 小泉 晋一 光石 亜由美
出版者
金城学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

1920~30年代の日本の言説状況において、<異常>という概念の知識が、好奇心と探求心をもって一般大衆に広まっていった経緯を、多様な一次資料の収集と復刻作業で確認することができた。論文の単行本化、通俗心理学雑誌の掘り起し、異常心理を扱った探偵小説同人誌の復刻などといった成果が得られた。また、学際的なシンポジウムも三回開催することができた。
著者
香川 知晶 大谷 いづみ 竹田 扇 川端 美季
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

生命倫理学では「モンスター」という語が、医学的な「奇形」という意味を離れて、新たな医療技術のもたらす「怪物」といった意味に拡張されて使用されている。ここでは、この疾病概念のメタファー使用の典型例について、その歴史的起源を検討した。その結果、「モンスター」概念は、16世紀以来、何よりも神の意図を蔵している「驚異」の典型として論じられており、医学的な「奇形」概念と比べれば、もともとメタファーとして理解されていたことが明らかとなった。生命倫理学におけるメタファーとしての用法は「驚異」概念の現代における復活として解釈されるのである。
著者
川添 剛
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

近年、特殊な担体を用いることにより、従来経口投与が不可能だった高分子物質の経口投与による吸収、さらにその高分子物質の作用の発現が確認され注目されてきている。しかしながら、高分子物質の特殊な担体を用いた経皮吸収に関してはほとんど明らかにされていない。本研究にて、古くから知られるアセチルサリチル酸(アスピリン)とポリペプチドである線維芽細胞増殖因子(FGF)の経皮吸収について検討した。アスピリンはシクロオキシゲナーゼ活性を阻害することにより解熱、鎮痛、血小板凝集抑制などの作用を示す。また近年肺癌、大腸癌のリスクを軽減する可能性が高い事も報告されてきている。しかしながら生物学的半減期が短く、局所での有効濃度を保つ事が難しいので、アスビリンを経皮吸収により徐放させることを試みてその作用を検討した。また、創部でのFGFを徐放する事も試みた。まず、ワセリンを基材として0〜4%アスピリン軟膏を作製した。そして糖尿病マウス、健常ラットの背部にアスピリン軟膏を塗布した。アスピリンは経皮吸収が可能であることが分かった。また、背部に熱傷創などの創を作製しそこに塗布した場合には、除痛効果が認められるとともに、創が早く上皮化することがわかった。また、上皮化後の創部の拘縮がアスピリンの濃度依存性に予防可能であることが分かった。さらに、正常もしくはケロイド由来線維芽細胞のゲル培養においても、アスピリンがゲルの収縮を抑制することがわかった。このように、皮膚から吸収させたアスピリンの効果は、従来のアスピリンの効果はもちろん、拘縮予防効果、上皮化促進効果なども認められた。またbFGFにおいても等電点9の酸性ゼラチンを担体としてもちいる事により、効率よい吸収と、徐放化に成功した。bFGF徐放性ゼラチンの創部への貼付により、創部の早期の上皮化と厚い肉芽組織が認められた。これも従来、bFGFにて認められる作用であるが、徐放化することにより単回投与よりもすぐれた効果が認められた。
著者
原 克
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

20世紀は科学の時代ではなく「科学神話」の時代である。本研究ではこうした科学情報の神話構造を暴きだすことを目指した。身体と科学の関係については身体表象三部作(各単著『美女と機械』『気分はサイボーグ』『身体補完計画』)によって、情報処理機械と人間精神の関係については単著『サラリーマン誕生物語』によって、家電品とモダンライフの関係については単著『白物家電の神話』によって、科学技術と大衆の総覧的関係については単著『20世紀テクノロジーと大衆文化2』によって、それぞれ科学神話の構造を分析した。
著者
原田 仁 宮尾 祐介 金治 新悟 掛地 吉弘
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,手術動画を自動で文章化するプログラムの開発,および映像データと言語データが相互に検索可能な新しい手術記録データベースの構築である。手術動画内の解剖,器具,動作,事象を言語で意味付けし,機械学習によりパターン化させることで,手術動画から手術記録を自動作成するプログラムを開発する。また,映像と言語が互いに関連付けられた手術記録データベースを構築することで,膨大な手術データが客観性の高い均質化された手術記録として保存管理し,データベースから必要な映像データを言語で検索することを可能とする。具体的には,手術映像から選別した特定の場面を用いて,解剖,手術器具,動作,事象を認識しテキスト化する手術認識アルゴリズムを作成し,手術認識アルゴリズムを基に手術動画を自動で文章化するプログラムを開発するとともに,映像とテキストをリンクさせ相互に検索可能な新しい手術記録データベースの構築を目指す。手術認識アルゴリズムの作成においては,解析用コンピューターにインストールした専用ツールを用いて,手術動画内に登場する臓器・血管などの解剖,鉗子類などの手術器具,把持・切離などの手術操作,出血・血管の拍動などの体腔内の事象などに対し,名称や動作の属性を付与する。これにより言語で意味付けされた動画を保存,蓄積し,映像からテキストデータへの変換を,機械学習によりパターン化させる。機械学習のデータとしては,手術手技として規則性があることが望ましいと考えられる。そのため,手技が定型化された約100症例の腹腔鏡下胃切除の動画をサンプルデータとして使用する。
著者
秋山 伸一 PIRKER Rober MIYAZONO Koh HELDIN Carlー 原口 みさ子 住澤 知之 吉村 昭彦 HELDIN Carl-henrich CARL Heldin
出版者
鹿児島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.チミジンホスホリラーゼが血管新生因子であるPD-ECGFと同一分子であることを明らかにし、さらにチミジンホスホリラーゼ阻害剤である6-アミノ-5-クロロウラシルがチミジンホスホリラーゼによる血管新生を阻害することをゼラチンスポンジアッセイにより明らかにした。この実験結果は非常に大きな意味を持つため、大腸菌のチミジンホスホリラーゼ酵素活性中心部位と相同性を有するPD-ECGFの部位にsite directed mutagenesisにより突然変異を入れ、チミジンホスホリラーゼ活性のない3種類のPD-ECGF分子を作製した(K115E,Lys115→Glu;L148R,Leu148→Arg;R202S,Arg202→Ser)。突然変異を有するPD-ECGFcDNAをCOS細胞にトランスフェクトして、発現レベルを調べると、wild typeのPD-ECGFと同程度発現がみられたが、チミジンホスホリラーゼ活性はほとんど認められなかった。ゼラチンスポンジ法により、これらのPD-ECGFの血管新生を調べたところ、突然変異PD-ECGFはいずれも血管新生活性を有していなかった。チミジンホスホリラーゼ阻害剤がチミジンホスホリラーゼの血管新生活性を阻害することと考えあわせると、チミジンホスホリラーゼの酵素活性が同酵素による血管新生に必須であることが明らかとなった。そこで、同酵素によるチミジンの分解産物が血管新生活性を有しているのではないかと考え調べたところ、デオキシリボースが血管新生活性を持つことが鶏卵漿尿膜法で判明した。また、デオキシリボースは血管内皮細胞の遊走性を亢進した。チミジンホスホリラーゼには、内皮細胞の増殖を促進する作用はなかったが、チミジンを分解してチミジンの組織内濃度を低下させ、血管内皮細胞の増殖のために有利な条件を作り出している可能性がある。このように、チミジンホスホリラーゼの酵素活性が血管新生に必要であることが明らかになると、その酵素活性の強力な阻害剤はチミジンホスホリラーゼによる血管新生を阻害し、その結果として腫瘍の増殖を抑制するのではないかと考えられる。我々は、6-アミノ-5-クロロウラシルよりもさらに強力なチミジンホスホリラーゼ阻害剤を見出し、この阻害剤が腫瘍の増殖や転移にどのような影響を与えるのか検討中である。2.ヒトの固型腫瘍では、チミジンホスホリラーゼ活性がしばしば上昇している。固型腫瘍におけるチミジンホスホリラーゼ活性と血管新生の関連性を調べるため、ヒト大腸癌21症例、アデノーマ13例について、チミジンホスホリラーゼ活性と血管内皮細胞のマーカー蛋白質であるトロンボモジュリンの発現レベルを調べ相関性を検討した。その結果、大腸癌でのチミジンホスホリラーゼ活性とトロンボモジュリンの発現レベルの間には相関性のあることが判明した。このことは、大腸癌においてチミジンホスホリラーゼが血管新生に関与している可能性を示唆している。我々はさらに大腸癌におけるチミジンホスホリラーゼの発現と予後との関係を調べた。チミジンホスホリラーゼを発現している大腸癌の症例は、発現していない症例に比べ予後が悪いことが明らかとなった。またチミジンホスホリラーゼ陽性の大腸癌では、リンパ節へ転移する頻度が高いことがわかった。チミジンホスホリラーゼの単クローン抗体を用いた免疫組織化学染色法にり、大腸癌やその他の固型腫瘍内では癌細胞のみならず浸潤したリンパ球もチミジンホスホリラーゼによる血管新生に関与している可能性が示された。血管新生因子はチミジンホスホリラーゼ以外にもVEGF,bFGFなどがあり、個々の腫瘍でどの血管新生因子が腫瘍血管の新生に関与しているかを調べる必要がある。我々はVEGF、bFGFなどについてもそれらの発現レベルを各々の腫瘍で調べ、血管新生との関連性について解析を進めている。
著者
三浦 さおり
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

これまでに我々は、雄性先熟魚クマノミにおいて、全ての個体で未分化生殖腺が卵巣へ分化すること、その後しばらくしてから卵巣内に精巣が分化することにより両性生殖腺を形成するという特異的な性分化を経ることを明らかにした。しかしながら、クマノミの性分化過程において、どのように性ホルモンが関与しているのか不明である。雌性ホルモンの精巣分化の役割を明らかにするために、外因性の雌性ホルモンの精巣分化前の生殖腺と両性生殖腺への影響を調べた。その結果、雌性ホルモンは、卵巣内への精巣組織の分化を抑制し、両性生殖腺形成を阻害した。さらに、両性生殖腺の精巣組織の消失を引き起こした。このことから、雌性ホルモンは、精巣分化および両性生殖腺の形成、発達を抑制する可能性が高いことが示された。雄性ホルモンの性分化における役割を明らかにするために、外因性の雄性ホルモンの性分化および両性生殖腺の発達に及ぼす影響を調べた。その結果、雄性ホルモンは、卵巣分化の前後の生殖腺に雄化を誘導しなかった。さらに、両性生殖腺の卵巣への精巣分化、発達においても影響を与えなかった。しかしながら、卵巣腔の形成の遅延や輸精管様構造の分化を引き起こした。このことから、雄性ホルモンは、生殖細胞の分化よりはむしろ体細胞の分化に関与している可能性が高いことが示された。従って、これらの結果から、雄性先熟魚クマノミの性分化過程の卵巣分化には、雌性ホルモンおよび雄性ホルモンのどちらも直接関与している可能性が低いことが明らかになった。一方、精巣分化に伴う両性生殖腺の形成には、雌性ホルモンが低下し、雄性ホルモンが上昇することが重要であるものと考えられる。
著者
山崎 伸二 朝倉 昌博 アワスチ シャルダ
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

コレラ菌の細胞致死活性を有する3種類のコリックストキシン(ChxA)を型別しながら1度に検出できるPCR-RFLP法を構築し、敗血症患者由来株から新たなchxA遺伝子、chxAIVを見出した。ChxAを定量出来るELISA法を構築し、菌株間で毒素産生量にかなりばらつきがあることを明らかとした。ChxA高産生株と低産生株をマウスに投与したところ、高産生株の方が低産生株より強い致死活性を示した。以上の結果より、ChxAには少なくとも3つのバリアントが存在し、ChxAは下痢原性というよりもむしろ腸管外感染症の病原因子として関わっている可能性を示した。
著者
甚野 尚志 大稔 哲也 平山 篤子 踊 共二 三浦 清美 青柳 かおり 太田 敬子 根占 献一 関 哲行 網野 徹哉 大月 康弘 疇谷 憲洋 皆川 卓 印出 忠夫 堀越 宏一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々のプロジェクトは、中近世のキリスト教に関わる諸問題をさまざまな視角から分析することを目指した。それも地域的には、ヨーロッパ世界に広がったキリスト教の問題だけでなく、布教活動とともにキリスト教化した他の世界の諸地域も対象とした。これまでの研究は主として、中近世キリスト教の非妥協的態度、迫害社会の形成、異教徒との対決の視点から研究がなされてきたが、我々は最近の研究動向に従い、中近世キリスト教世界の多様性やことなる宗教の共存に光があてつつ研究活動を行ってきた。この間の多くのワークショップなどの成果に基づき、各分担者が論文などで中近世のキリスト教史の新しいイメージを提示できた。
著者
若山 照彦
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

我々はクローン動物および体細胞由来ntES細胞を効率よく作出する方法の開発および初期化のメカニズムの解明を試みている。昨年我々はntES細胞と受精卵由来のES細胞には違いが見られないことを証明したが、19年度はさらに詳しい比較と倫理問題の解決を試みた。我々は核移植の影響を調べるために、単為発生ES細胞を用いた遺伝子発現解析法を確立し、これによってついに我々は特定の遺伝子におけるメチル化状態について、ntES細胞とES細胞の間に違いがあることを発見した。現在このntES細胞特異的なDNAメチル化状態の違いが、その後の細胞分化や応用にどのような影響を与えるのか解析中である(Hikichi, et. al., 2007,2008)。一方倫理問題の解決については2つのアプローチを試みた。体外受精に失敗した卵子は、加齢により質が低下することから廃棄されている。この廃棄卵子を用いれば健康な女性から卵子を提供してもらうという倫理問題は解決する。そこでマウスを用いたモデル実験を行った結果、体外受精に失敗した卵子でも核移植およびntES細胞の作成には問題ないことを明らかにした(Wakayama, et. al., 2007a)。この成果は多数の全国紙やテレビで紹介された。また、胚を殺さずに1割球(細胞)を取り出し、そこからES細胞を樹立する手法を開発し、生命の萌芽である胚を壊すという問題についても回避できることを明らかにした(Wakayama, et. al., 2007b)。他に核移植技術をより簡素化した手法についての研究も報告した(Kishigami, et. al., 2007;Wakayama, et. al., 2008)。
著者
水谷 英二 長友 啓明 若山 照彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

核移植技術では核そのものを操作するが、それよりも小さな単位、すなわち染色体を操作するための技術開発を試みた。特定の染色体をラベルするためsuntag systemを使用し、ES細胞中のY染色体をラベルすることに成功し任意の染色体をラベルできる可能性を示した。また胚の染色体を分散させることで、生きた胚間での染色体移植が可能であることを示した。しかしながら、胚において特定染色体をラベルして操作するには至らなかった。加えて、染色体操作の使用が想定される絶滅危惧種において、個体を傷つけずに採取可能な尿中に含まれる極わずかな細胞から、クローン個体およびntES細胞株が樹立可能であることを示した。
著者
岸上 哲士 若山 照彦 佐伯 和弘
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

世界初のクローンヒツジ「ドリー」の報告以来、クローン動物の作出効率は動物種によらずわずか数%と低率であった。本研究代表者は、クローン胚をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)、トリコスタチンA(trichostatin A, TSA)で処理することでクローンマウスの作出効率が大幅に改善されることを発見した。本課題ではその作出効率改善の機構解明として発生におけるHDAC酵素やタンパク質アセチル化の重要性を明らかにし、さらにこれまで不可能であったマウス系統からのクローンマウスの作出に世界で初めて成功した。
著者
伊勢崎 賢治 岩崎 稔 宮城 徹 Mohamed Abdin 福田 彩 池田 満
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-07-10

現在「過激化」は、安全保障、国際政治、教育、心理学の重大な学術的焦点である。「過激化」は対称性において分析される。インドではカシミールにおいてムスリム若年層の過激化の一方、ヒンドゥー至上主義を支持層とする政権による同若年層の凶暴化が建国の理想である多元民主主義を脅かす。スリランカでは反イスラムの教義化が多数派仏教徒を暴徒化させる。宗教を国家の求心力の要としてきたパキスタンではテロ化に収束の兆しはない。バングラディッシュでもISISの浸透が国家権力への脅威になる。本事業は「過激化」の歴史的分析、アクター、それらが発する言説の分析、そして「脱過激化」への処方箋における当該国の最新の叡智を結集した。
著者
市川 貴之
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

リチウムを多量に吸蔵可能な合金に着目し,水素化・脱水素化反応を利用して,合金からのリチウム脱離及び合金へのリチウム挿入反応による新しい水素貯蔵材料のシステムを創製した。特に,リチウムイオン電池の負極材料として注目される,シリコン系合金において,水素吸蔵放出反応における熱力学特性と,二次電池反応における電気化学特性の相関性を明らかにした。また,シリコン系合金とのアナロジーから,ゲルマニウムへも同様の考察を適用し,新たな水素貯蔵材料系を確立した
著者
植田 紘貴
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

胃食道逆流症は胃内容物が食道内に逆流する疾患であり、食道内への刺激により胸痛や吐き気を生じる。その治療法は、胃酸分泌抑制剤を用いた対処療法が中心である。本研究は、内臓感覚を中枢に伝達する経路である迷走神経に着目し、迷走神経の実験的刺激が唾液分泌や顎口腔機能に与える影響と胃酸分泌抑制剤が唾液分泌に与える影響を検討した。その結果、迷走神経刺激は唾液分泌を誘発することが示された。また、胃酸分泌抑制剤は、迷走神経刺激により誘発された唾液分泌をさらに増大することが示唆された。以上から、迷走神経刺激による内臓感覚の賦活化が口腔生理機能の制御に関与する可能性が示唆された。