著者
的場 優 川口 俊郎 魚住 祐介 若林 源一郎
出版者
九州産業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.大気中のラドン濃度と環境ガンマ線の相関を調べるために電離体積8lの磁気浮上電極電離箱及び同じ電離体積の電離箱を2台連結した差動型放射線自動計測システムを開発した。このシステムを用いて長期間の連続測定を行い、ラドン濃度とγ線線量率にはっきりとした相関を見出した。電離箱によって相関を確認したのは世界的に始めてである。2.環境γ線、ラドン濃度及び黄砂の間の相関に関しては、2月、3月が黄砂の飛来時期であり、現在このシステムを用いて計測中であり、この結果は学会あるいは関係雑誌に発表予定である。3.磁気浮上電極電離箱はコンデンサ電離箱の一種であり、放射線によって電離された気体のイオンを積分的に収集する。瞬間的な放射線量の変動を計測(パルス測定)するためには、電荷収集時間(計測時間間隔)を短く取らなければならないが、収集時間が短いと機械的ドリフトが相対的に大きくなり、計測感度が悪くなるという欠点がある。つまり磁気浮上電極電離箱は放射線量の微分的計測には不向きであった。この次点を克服するために、電離体積が14lの計測システムを開発した。このシステムは計測時間間隔が5分間の場合でも検出限界が0.01μSv/hレベルの計測が可能である。通常の10lクラスの電離箱でも検出限界は0.1μSv/hであり、積分的な電荷収集型の磁気浮上電極電離箱で瞬間的なγ線線量の変動を計測することが可能となった。4.地震と環境ガンマ線の相関に関しては、現在蓄積データにもとづいて福岡西方沖地震前後のγ線強度の解析を行っている。5.現在、佐賀県鳥栖市のシンクロトロン光施設で、シンクロトロン光放射における放射線の放出に関して、本システムで施設内の環境を計測することが施設関係者との間で合意されている。シンクロトロン光と放射線の相関研究は世界で始めての研究であり本システムの運用が期待できる。
著者
奥田 謙造
出版者
トヨタ自動車株式会社
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

米国のトルーマン政権は、対ソ連心理戦に関し、1951年に心理戦略委員会を設立し、政治・経済・軍事に関与する「明白」・「機密」の宣伝を推進したのに対し、アイゼンハワー政権は、それまでの心理戦は問題があるとし、1953年6月に「明白」な宣伝を行う作戦調整委員会を設立し、この下に8月に米国文化情報局を設置して、国際情報・文化・教育交流のための博覧会・映画上映・VOA等事業、さらに、12月の「平和のための原子」演説後に、日本への原子力平和利用も進めた。一方、英国も1948年、対ソ連政治戦(米国の心理戦に相当)に関し、外務省内に「明白」・「機密」の宣伝を行う情報研究部を設立し、米国のソ連への直接攻撃に対し、自由主義諸国内の共産主義の影響を阻む調整を図った。米国占領下の日本においては、米国政策の制約を受けながら、戦時中に青春期を犠牲にした若者を対象に政治戦を進めた。しかし、日本の独立後は自由な戦略が可能となった。英国は戦後、経済力は低下し、原子力戦略にも焦りが広がり、米国とは相入れない面もあったが、両国の心理的協調は堅固で有効に作用した。ところで、科学分野で英国は、終戦直後から、軍と学者により原子力の研究開発を進めた。1950年3月に、コッククロフトは「原子力の見通し」論文の中で、原子力と非原子力の区分を行い、原子力平和利用として、第1に原子力発電所建設、第2に増殖炉開発を提唱した。さらに、遡って戦時中の“チューブアロイズ”プロジェクトにおける1943年のケベック協定では、「核開発成果は戦後に英国の民間での利用を認める」、ことも示されていた。以上のような、戦中・戦後の米英の連携から、1955年以後の日本への原子力導入において、米国から先に「原子力平和使節団」が招聘されたにも関わらず、英国は米国の開発遅れを察すると、直ちにコールダーホール型原子炉の導入の態勢を整えられたと考えられる。
著者
菅原 利夫 三島 克章 植野 高章 南 克浩 森 悦秀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

身体各部の関節は加齢や種々の疾患により形態と機能が低下するため、人工関節による置換術によってその回復が行われている。しかしながら日本のおいては現在まで人工関節が開発されておらず、顎関節の構造的喪失による種々の障害に対しては有効な治療法がなかった。私達研究グループはヒト顎関節の形態計測、咀嚼時に顎関節に負荷すると考えられる力学的要件や運動性を基礎的に検討し日本で初めての臨床応用できる菅原式人工顎関節を試作し、臨床応用を行ってきた。私達研究グループは人工顎関節を開発する目的で、解剖実習用屍体、ヒト乾燥頭蓋骨の顎関節を三次元精密計測装置を用いた実例計測やCT三次元再構築画像からの立体計測を行った。またこれら形態計測から得られた関節頭と下顎窩の表面形状から咀嚼時に負荷すると考えられる荷重をHetzの理論式や三次元有限要素法を用いて解析して、人工顎関節の生体材料を選択し、形状をデザインして菅原式人工顎関節を試作した。臨床応用は主として慢性関節リウマチ(RA)の変形性顎関節炎により、下顎骨が後退し、咬合の異常による咀嚼障害と気道の狭窄あるいは閉塞による睡眠時無呼吸症候群をおこした患者であり、菅原式人工顎関節全置換術を行い、咀嚼機能については食物粉砕実験、顎関節の動きについては超音波画像、X線シネマグラフ、および顎運動の計測を行った。その結果、個々の患者間に相違が見られるものの吸収の起きた下顎頭を中心とした蝶番運動が主体をなし、滑走運動および側方運動はほとんど観察されず、健常人とは異なる顎運動が観察された。節電図での計測では、健常者に比べ術前の咬筋、側頭筋の筋活動は弱く、術直後は更に弱まり、術後の咬合位に開閉口筋が適応するためには数ヶ月の開口訓練の必要性が認められた。また、下顎骨の前方移動に伴い、気道腔が確保され、呼吸障害が解消され、発生機能も向上する傾向がみられた。これらの結果を基にし、更に機能性が高く安全な人工顎関節を開発するため人工顎関節のデザインを改良し、人工顎関節を開発してきた。また、この人工顎関節を作る過程で私達が開発したCT三次元再構築画像計測・評価システム、接触型および非接触型高精度三次元計測・評価システム、重ね合わせ評価法、曲面および球面定量評価法などの新しい研究法は口腔、顎、顔面、口蓋等の微細な発育様式や発育方向などが定量的に測定評価できるようになり、他の領域の研究にも貢献し、1997年第8回国際口蓋裂学会(Iutennational Congress on cleft Palate and Related,Craniofacial Anomalies)のOwen Cole記念賞の受賞に連った。
著者
松尾 雅博
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「眠気」は主観的に表現されるが、その実態は十分に解明されていない。実際、「眠気が強い」状態ですぐに眠られず、「自覚的な眠気がない」状態ですぐに寝てしまうことがある。本研究では、「眠気」の本質について生理学的な手法・心理学的な手法を統合的に用いて解析した。生理学的な手法としては、実際に眠てしまうまでの時間だけでなく、脳波、心電図なども用い、心理学的な手法としては「注意機能タスク」のほか、各種質問紙を用いている。この結果、「主観的な眠気」が実際の睡眠と十分に関連しないが、「注意機能」と関連する事が明らかとなった。眠気が「睡眠」だけでなく他の認知機能の評価になる可能性を示す、重要な研究となった。
著者
南雲 千香子
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

本研究の目標である「明治期の法律用語の成立パターンの解明」のため、本年度は次のことを行った。1、箕作麟祥『仏蘭西法律書 民法』で使用されている法律用語が、明治23年に公布された日本民法(旧民法)、明治29年に施行された日本民法の中でも同様に使用されているか、あるは別の用語に置き換わっているかどうかを調査し、「3つの資料で同じ用語が使われているもの」、「『仏蘭西法律書 民法』のみ用語が異なるもの」、「3つの資料でそれぞれ用語が異なるもの」の3カテゴリーに分類した。2、上記のカテゴリーのうち、「3つの資料で同じ用語が使われているもの」について、さらに詳細な用語の変遷の調査を行った。その結果、①『仏蘭西法律書 民法』、「旧民法」、「明治民法」で共通して使用されている用語の数そのものは少ない(13語)。②『仏蘭西法律書 民法』、「旧民法」で共通して使用されている用語は、民法草案でも用語の変遷がほとんどなく、『仏蘭西法律書 民法』刊行後すぐに用語が固定されていた。③『仏蘭西法律書 民法』、「旧民法」で共通して使用されている用語について詳しく見てみると、一般語として過去に日本で使用のあった語が多いという傾向がある、ということが明らかになった。これらのことから『仏蘭西法律書 民法』、「旧民法」、「明治民法」で共通して使用された用語は少なかったが、これらが『仏蘭西法律書 民法』刊行以後に編纂された民法草案では同じ用語がほぼ一貫して使われていたこと、「不動産」という新漢語の定着が、他の法学資料に比べ、民法草案では早かったことなどから、『仏蘭西法律書』の影響力や日本民法編纂事業における箕作の活躍が大きかったことが窺える。(なお、この調査結果については2017年度第1回近代語学会において口頭発表を行った。)3、自身の作業効率化及び、明治法律用語研究の進展のため、法制史資料のテキスト化を行った。
著者
佐藤 周友 朝倉 政典 木村 俊一 斎藤 秀司 山崎 隆雄
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

代数的な多様体(代数方程式で定義された図形)の上のベクトル束を調べる道具としてチャーン類というものがある。これはベクトル束がどれくらい(あるいは、どのように)ねじれているかをコホモロジーとよばれる線形空間の中で測る「物差し」である。本研究では、「そもそもチャーン類はどのようなコホモロジーの中で定義され得るのか?」という素朴な疑問から出発し、最小の条件(公理)を定式化した。さらにそのようなコホモロジーにおいてリーマン・ロッホの定理が実際に成り立つことも証明した。
著者
北川 米喜 三間 圀興 西原 功修 高部 英明 田中 和夫 疇地 宏 藤田 尚徳
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

1.CO_2レーザーのビート波でプラズマ波を励起するため, 高出力CO_2レーザー烈光VIII号システムの発振段キャビティに, 9.6μm発振の連続CO_2レーザー光を注入した. その結果, 10.6μm, 9.6μm光をそれぞれパルス巾1ns(立上り300ps)出力100Jで安定にとり出すことに成功した.2.口径30cmの上記レーザー光を焦点距離3mのNaClレンズで, 真空チェンバー中心に集光した.3.ベンディングコイルを製作し, ブルームラインパルスマレンからの600RVREBを導き, レーザーと同一軸に真空チェンバー中心に伝播することに成功した.4.ビート波加速に必要な共鳴度プラズマ生成のため, 超高速電磁ガスパフ装置を製作し, 立上り30μsという超高速パフを実現した. これより, REB-レーザー相互作用域で10^<18>〜10^<16>/ccの密度のプラズマを任意に生成することが出来た. プラズマ密度は, He-Neレーザー干渉計で常時モニターする.5.パイロットU超高速シンチレーターと光電子倍像管を組合せ, 20MeVまでの加速電子が検出できる8チャンネルスペクトロメーターを開発, 完成レカマック処理系でon-line検出システムを完成した. 現在, 6MeVの信号が得られている.6.流体粒子コードを開発し, 実験パラメータでの加速電子の到達エネルギーの予測を行なった. また, 非線型効果(トリプルソリトン, 振巾飽和, カスケーディング)の解明に成功した.CO_2レーザを光ウィグラーとする自由電子レーザー軸射の観測に始め(成功し, また, 原子共鳴にらる軸射光の励起現象をも見出した.
著者
古賀 崇
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は研究課題についての海外調査を実施すると同時に、研究課題に関連するテーマで成果発表を行った。調査としては平成29年7月に、米国オレゴン州ポートランドにて開催された「米国アーキビスト協会(SAA)」年次大会に参加し、あわせて翌月にかけてカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC バンクーバー)にて研究者らへの聞き取りを行った。これらに共通する主要なテーマのひとつは「デジタル・フォレンジック」(デジタル上の情報・データの復元)であり、アーカイブズの実務への導入状況や、産・官・学の連携がそれを後押ししている現状などを確認することができた。また前年度の研究・調査に引き続き、「一次資料を用いた教育(Teaching with Primary Sources: TPS)」をSAAが力を入れて推進していることを認識した。これらの両面とも、政府情報が前面に出る活動とは限らないが、公文書ほか政府情報の取り扱いが問題視されている日本の現状に鑑みても、「政府情報リテラシー」を考える上での重要な要素と捉えることができる。なお、UBCではデジタル・フォレンジックの詳しい教育内容(シラバス、文献リストなど)を確認することもできたが、その分析については次年度に持ち越している。一方、成果発表としても「デジタル・フォレンジック」が中心であり、上記のような米国・カナダでの調査結果も踏まえ、国際比較をレビューとしてまとめた成果を「研究ノート」(査読あり)として上梓した。また「日本におけるデジタルアーカイブに対する批判的検討(特に政策面を中心に)」も、政府情報と関連づけつつ成果発表を行い、上記の調査を踏まえた国際比較という観点も踏まえ、複数の口頭発表を行った。さらに、「政府情報リテラシー教育」を日本で実践した試みについても、口頭発表を行った。
著者
新井 良一 赤井 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、日本産タナゴ類の分岐分類によって提唱された3属について、分析形質セットの特徴から、3属の仮説が中国や朝鮮半島のタナゴ類にも適用されるか否かを検証することを目的とする。結論として、3属の仮説は中国や朝鮮半島のタナゴ類にも適用されることが、形態形質およびミトコンドリアの遺伝子による系統解析によっても反証されなかった。以下に具体的な研究成果を年度ごとに報告する。1.平成7年度は中国の採集標本および海外の博物館から借用した標本を基にして分類学的に混乱している種の整理をした。すなわち、Rhodcus sinensisの地理的変異、体色斑紋を研究、また、中国から初めてTanakia lanccolataを発見した(Arai et al,1995)。2.平成8年度は中国、浙江省で染色体数2n=46の種を発見した(Ueda et al.,1996)。また、アジア大陸および日本のタナゴ亜科魚類の系統解析のため、日本産15種-亜種、中国産9種-亜種、朝鮮半島産1種、ヨーロッパ産1種の頭部感覚管の比較解剖を行った。3.平成9年度はアジア産および日本産のタナゴ類のミトコンドリアの12S rRNA遺伝子の塩基配列を研究し、分子系統樹を構築した。その結果、形態および分子による系統樹に矛盾は見られず、Acheilognathus属の単系統性が確認された。また、中国産タナゴ2種の核型を明らかにする(Ucda et al.,1997)とともに、Rhodeus sinensisの種の整理を終えた(Akai and Arai,1998)。
著者
新井 良一 鍾 俊生 楊 君興 劉 煥章 伍 漢霖 解 玉浩 陳 宜ゆー 赤井 裕 鈴木 伸洋 大嶋 雄治 館田 英典 上田 高嘉 YANG Junxing LIU Huanzhang WU Hanling XIE Yuhao CHEN Yiyu ZHON Junsheng 陳 宣瑜 鐘 俊生 植田 徹
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

中国大陸におけるコイ目タナゴ亜科魚類の系統分類と生物地理学的研究(平成7年度〜平成8年度)のため、平成7年度は、新井、赤井および研究協力者の石鍋は平成7年6月7日から7月12日まで、また大嶋は平成7年6月8日から6月27日まで、研究協力者の木村は平成7年6月8日から7月13日まで訪中し、上海市、浙江省奉化市、湖北省武漢市、雲南省昆明市で、それぞれタナゴ類の採集を行い、形態学的研究、核型およびDNA実験の一部を行った。また、武漢市の中国科学院水生生物研究所および昆明市の中国科学院動物研究所で中国各地のタナゴ類の保存標本を観察した。平成8年度は、新井、赤井および研究協力者の石鍋は平成8年9月3日から10月11日まで、また上田および研究協力者の滝沢は平成8年10月1日から10月11日まで、研究協力者の松井は平成8年9月3日から9月25日まで訪中し、山東省済南市、遼寧省遼陽市、湖北省武漢市、上海市、浙江省金華市で、それぞれタナゴ類の採集を行い、形態学的研究、核型およびDNA実験の一部をおこなった。また、天津市の自然史博物館および武漢市の中国科学院水生生物研究所で中国各地のタナゴ類の保存標本を観察した。平成7〜8年度の主な成果を以下に示す。1.浙江省で採集され、形態的特徴からRhodeus atremiusと同定された標本の染色体がn=23であることが判明した。n=23のタナゴ類は中国では初記録であり、核型からも、従来、九州特産とみなされていたカゼトゲタナゴが中国にも分布することが支持された(Ueda et al.,in press)。2.n=23と考えられるタナゴ類が山東省、遼寧省、湖北省でも採集された。3.Rhodeus lightiおよびTanakia himantegusの核型が詳しく調べられた(Ueda et al.,in press)。4.従来、中国の固有種と考えられていたRhodeus lightiおよび朝鮮半島の固有種と考えられていたR.uyekiiが中国産のR.sinensisと同一種であり、命名の古さから、R.sinensisが本種の有効名であることが判明した(Akai and Arai,in press)。5.Acheilo-gnathus meridianusのシノニムが整理された。A.meridianusの総基準標本は2種からなるので、後基準標本を指定し、急いで発表する必要がある。6.中国で無視され、これまで日本と朝鮮半島にのみ分布すると考えられていたヤリタナゴが遼寧省から再発見された(Arai and Akai,1995)。7.上海市から初めてアブラボテ属のタナゴ類が採集された。8.中国産のAcheilognathus tabiro(=A.tabira)を日本産のA.tabiraと比較研究した結果、中国産のA.tabiroは未記載種であることが判明した。9.中国で初めて秋に産卵するタナゴ類が発見された。10.中国産9種・亜種、日本産15種・亜種、朝鮮半島1種、ヨーロッパ産1種の成魚の頭部感覚管及び眼下骨の比較解剖を行い、頭部感覚管で9分析形質、眼下骨で6分析形質を識別することができた。バラタナゴ属では、幼魚の特徴を維持している種がみられることから、幼形成熟と種分化の関係が示唆された。11.頭部感覚管について、日本産より特殊化の進んだ種が中国産にみられた。なお、今回採集したタナゴ類のDNAおよび核型の分析を続行中である。
著者
菅沼 克昭 長尾 至成 菅原 徹 酒 金テイ Lin Shih-kang
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

低温・低圧・無加圧下のAg焼結接合技術の革新を進め、その基本メカニズムを高分解能TEM観察とシミュレーションから明らかにした。Ag粒界へ酸素の吸収、粒界液相形成、粒界液相が噴火し表面堆積する。この一連の反応で粒子間低温焼結や接合界面形成が実現しており、これを”Nano Volcanic Eruption”と名付けた。新技術により、250℃を超える耐熱性が達成されている。また、雰囲気との反応をCu粒子へ展開し、その可能性を見出している。以上のように、極限環境に対応する新接合技術の開発、そのメカニズム解明、さらに、Cuへの展開など、学術的に新たな現象解明から実用レベルの技術開発まで繋げている。
著者
古沢 常雄 池田 賢市 板倉 裕治 岩崎 久美子 岩橋 恵子 上原 秀一 小林 純子 園山 大祐 高津 芳則 高橋 洋行 夏目 達也 藤井 穂高 堀内 達夫 小野田 正利 藤井 佐知子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、学業失敗や無資格離学、失業など我が国と共通の様々な教育問題を抱えるフランスにおいて、社会統合と公教育の再構築に向けたキャリア教育の取り組みがどのように行われているかを、全教育段階を対象に総合的に明らかにした。フランスでは、我が国のキャリア教育(英語のCareerEducation)に相当する概念はほとんど用いられていないが、先進諸国においてキャリア教育が必要とされる社会的背景を共有しており、フランスにおいてキャリア教育と呼びうる様々な教育活動が義務教育、後期中等教育及び社会教育・継続教育の分野でどのように実際に展開されているのかを総合的に明らかにした。
著者
足立 明 平松 幸三 安藤 和雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、アクター・ネットワーク論(以下、ANT)を地域研究に援用し、地域における出来事や事象を、人、モノ、言葉(記号)のネットワークとしてとらえ、それらを動態として記述・分析することを目指した。ここでは、研究代表者と研究分担者がこれまで個別に関わってきた開発、在地の技術、基地の事例研究を、ANT的に再構成することで、地域研究におけるANT的な展開の可能性を具体的に議論した。本研究を通して理論的・方法論的に明確になってきた点は、以下の通りである。1.ANTは、科学技術研究を目的として発展してきたもので、上記のような対象には、十分な分析概念を必ずしも備えておらず、新たなボキャブラリーを付け加える必要がある。2.そのために、ANTと親和的な存在論と分析枠組みを持っている生態心理学とメディオロジーを検討した。生態心理学は、活動というものを人と文化的道具(言語、技術、改変された自然物など)の媒介過程ととらえている。また、メディオロジーでは、イデオロギーが歴史的に制度とモノによって媒介されて力を持つ過程を分析している。そして、これらの理論の検討の結果、これらのボキャブラリーが、今後のANTの理論的、方法論的な検討に有効であることを認識した。例えば、多様なアクタントが巻き込まれる過程の分析には、ANTにおけるネットワーク概念よりも生態心理学やメディオロジーにおける媒介概念の方がよりその動態を考えやすいと思われる。3.上記の検討から、新たなANTの分析枠組みを、人と文化的道具(制度、イデオロギーを含む)の歴史的な媒介過程の分析と言いかえることができるであろう。この意味で、本研究によって、このような媒介過程をより詳細に分析し、記述するという理論的・方法論的展望が開かれたといえる。
著者
石藏 友紀子
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

哺乳類の生殖細胞系譜は、受精卵に始まり雌雄分化能を持つPGCsを経て、配偶子へと分化する。その過程で、エピゲノムリプログラミング、性分化、減数分裂などの重要な制御が行われる。近年、マウス多能性幹細胞を起点とし、PGC様細胞(PGC-likecells; PGCLCs)を経て、卵母細胞様細胞および精原幹細胞様細胞を誘導する体外培養系が報告された。一方で、これら体外培養系により誘導された細胞は、エピゲノム異常などに起因する様々な異常を呈していた。本研究では再構成精巣法をより生体の条件に則したものに改善することで、多能性幹細胞から高い精子形成効率を有するGSCLCsを誘導する方法論を開発する。
著者
石川 直樹
出版者
広島市立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

大規模アンテナアレイシステムにおいて、高い送信レートを維持したまま非同期検出を可能とする差動符号化方式について研究した。平成29年度の成果は計5本の論文として国際論文誌に投稿した。現在3本が採録判定となっており、すべて国際共著論文である。採録された3本の成果について概要を以下に記す。[成果1] 差動符号化方式一般の制限付き通信路容量を導出[成果2] 拡大体に基づく非直交差動空間変調を提案[成果3] 関連研究すべてを網羅するチュートリアル論文を発表[成果1]ではこれまで明らかにされてこなかった差動符号化方式の制限付き通信路容量を導出した。送信信号の位相に制限を加え、送信機の簡易化および検出器の高速化を実現した。[成果2]では申請者らが提案してきた差動空間変調を拡張し、複数系列の独立処理が可能となる軽量検出器を提案した。直前の受信信号を蓄えて送信シンボル検出に活用する点が特徴的である。[成果3]では同分野の研究者が申請者らの提案方式を理解し、シミュレーション結果を容易に再現可能とするチュートリアル論文を発表した。これは申請者の博士論文に基づくものであるが、本研究課題の現時点での成果を全て含めて紹介している。関連して、国内において招待講演の機会を賜われたので、空間変調の変遷と応用例について計2件の発表を行った。また、関連研究の査読を積極的に引き受け、IEEE Transactions on Communicationsの模範的査読者(exemplary reviewer)として認定された。
著者
勝俣 昌也
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、筋肉内脂肪がある程度含まれた高品質豚肉の需要が高まりをみせ、国内でも、育種改良や栄養制御による取り組みがなされている。このような時代の要請を受け、ブタの筋肉内脂肪含量を栄養によって制御する研究に、我々は取り組んだ。そして、リジン含量の低い飼料を肥育後期豚に給与すると、胸最長筋の脂肪含量が最大10%程度まで高くなり、脂肪交雑を形成できることを見出した(Katsumata、 et. al.2005)。一方、ブタにおいて筋肉内脂肪が高くなるメカニズムについては、ほとんど情報がなかった。このような背景から、リジン含量の低い飼料を豚に給与したときに筋肉で脂肪交雑が形成されるメカニズムを、分子生物学的・組織化学的手法を用いて解明しようとしたのが、本研究である。本研究は、以下の2つの実験から成り立っている。(1)リジン含量の低い飼料(以下、低リジン飼料)をブタに給与し、筋肉におけるadipogenesis関連遺伝子発現に及ぼす影響を検討する実験、(2)培養脂肪細胞を用い、培地中のリジン濃度の違いが、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化に及ぼす影響を検討する実験、である。これらの実験を通し、「1あるいは3週間という短期間低リジン飼料を子豚に給与すると、筋肉におけるPPARγやSREBP1cなどのadipogenesis関連遺伝子発現量が高くなり、菱形筋では低リジン飼料に反応して脂肪蓄積が促進された」、「低リジン飼料給与により筋肉内に脂肪を蓄積する反応は、筋肉によって差があり、I型(あるいは酸化型)筋線維の割合が高い筋肉のほうが、反応が大きい」、「培地中のリジン濃度を下げると、培養脂肪細胞の分化は抑制され、脂肪細胞分化を調節する転写因子の発現も低くなった」という結果が得られた。これらのことから、低リジン飼料給与による筋肉内脂肪蓄積には、筋肉におけるadipogenesis関連遺伝子の発現が関与しているが、脂肪細胞へ供給されるリジンの量の低下が、直接の原因となって筋肉内脂肪蓄積が促進される可能性は低いと結論した。
著者
Hanley Sharon 松岡 悦子 櫻木 範明 伊藤 善也 玉腰 暁子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年度は、日本における子宮頸がん検診受診率向上を目的として、諸外国で行われている自己採取HPV検査の必要性やその普及状況を一般市民や専門家に認識していただくために国際シンポジウムを4つ開催し、学会発表を7回行った。国際シンポジウムのひとつとして、昨年と同様に8月25日に北海道大学において第2回国際シンポジウム 「子宮頸がん予防の戦略: 検診とワクチンー-教育と啓発による女性の認識向上を目指して」を開催した。講師として招いたのはロンドン大学のルーイズ・カドマン氏(Research Nurse Consultant、Wolfson Institute of Preventative Medicine)である。彼女はロンドン在住のアジア系女性を対象に、本研究でも使用するHPV検査用自己採取器具、Evalyn Brushの受け入れに関する比較研究を担当した。また、カナダでコルポー外来を受診した1000人以上を対象に、本研究でも使用する自己採取用のHerSwabを用いたときと医師採取のときのHPV検査の検査結果一致率を検討した臨床試験の研究代表者であるエドアルド・フランコ教授(マーギル大学)を招待した。道内外の一般市民、留学生や専門家がおよそ90名参加した。さらに、2017年から自己採取HPV検査を正式に国家検診プログラムを導入するオーストラリアのケートシムズ博士を招き、オーストラリアの自己採取検査におけるHPV検査の基準や方法について情報収集を行った。その結果、PCR法を用いた検査や偽陰性を最小化するために内部コントロールを用いる検査を利用できることや本研究で使用する予定であったHybrid Capture 2はオーストラリアでは認可されなかったことが明らかになった。そこで、本研究でもHybrid Capture 2の代わりに別のHPV検査を使用することを検討した。
著者
岡部 篤行 山田 育穂
出版者
青山学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、空間自己相関を検定する統計量として頻繁に使用されているモランのI指標の正確な使用方法を提案したものである。多くの既存研究では、研究対象地域を構成するゾーン数がせいぜい100程度であれば、モランのI指標に正規性が仮定できるとして、空間自己相関がないという帰無仮説の統計的検定が行われている。本研究は、そのような多くのゾーン数であっても正規性は仮定できないことを示し、通常の利用方法は間違いを起こしやすいことを指摘した。この欠点を克服すべく、本研究では膨大な数のモンテカルロシミュレーションを行い、帰無仮説の元での限界値の数表を作成した。この数表を使うことで正確な統計的検定が可能となった。