著者
竹内 洋人 宮本 英昭 丸山 智志
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.23-27, 2010-03-25

小惑星は,一般には衝突と再集積を繰り返すなど様々な進化過程を経ていると考えられるが,こうした過程に関する時間スケールを知ることは容易ではない.小惑星に関連した年代の測定法としては,クレーター数密度に基づく表面年代,同位体分析に基づく放射年代,そして衝突確率と天体サイズで推定される衝突寿命,といったいろいろな年代推定法が存在する.しかしながら,こうして与えられる年代が小惑星の形成年代であるかというと,必ずしもそうではない.そこで,小惑星イトカワの高解像度画像で岩塊表面に発見された高輝度スポットに着目した.高輝度スポットはマイクロクレーターと解釈できる.その数密度から岩塊の暴露年代を求められる可能性があり,小惑星進化を考察する新しい年代の尺度として利用できると考えられる.
著者
庄司 隆行
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-169, 2009-08

魚たちは、我々が体験することはもちろん想像することも難しい"味物質を鼻で嗅ぐ"という感覚機能を持っている。すなわち、魚類の嗅覚系は水中に溶けた味物質、なかでもアミノ酸を高感度で受容することができる。言うまでもなくアミノ酸類は味覚系でも受容されるから、アミノ酸は魚類にとって味でもあり匂いでもあることになる。しかし、味覚と嗅覚とでは受容器はもちろん中枢への投射経路も全く異なるから、その機能も別々のものであると考えられる。本稿では、嗅覚系のアミノ酸受容が魚たちにとってどのような役割を持つのかを具体例をあげて解説する。
著者
宮野 尚哉 辰巳 憲一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.1226-1235, 2004-09-01

日経平均株価及び日経ジャスダック平均の日終値からなる日次株価指数について,土日休祭日の欠測値を線形補間法により合成し,日次リターン時系列を作成した.リターン変動の複雑さを,埋込空間における近接軌道群の平行性及びKolmogorov-Sinaiエントロピーによって評価した.リターンが月曜日に特有の変動を示す現象,すなわち,月曜日効果は存在する可能性が高い.
著者
上野 加代子
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.22-37, 2006

リスク社会の統治論で知られるロベール・カステルらのポスト規律秩序の議論は,ひとりひとりの逸脱者の矯正や正常化を目的とする規律型統治から,人口を対象とした保険数理的なリスク統治への移行を説いている.しかし,現実にはリスク社会には,保険数理的なリスク統治だけでなく,規律型統治も認められるという指摘がなされている.本稿では,この両タイプがリスク社会の統治モデルとしてどのように関連しあっているのかを,日本の児童虐待問題からみていく.具体的には,1990年代から児童虐待問題への危機意識が形成されてきたなかで,個人の内面に焦点をあてた,規律型のテクノロジーの現代的形態である心理療法的なアプローチと,保険数理的なリスクアセスメントによる虐待防止の両方が,児童虐待対策のなかで不可欠なものとして位置づけられてきた過程を概観していく.児童虐待防止対策が,心理化と同時に保険数理化していることを,ケリー・ハナ-モファットの「ハイブリッド道徳・保険数理刑罰」から示唆をえて,「心理と保険数理のハイブリッド統治」として考察したい.
著者
大井 祥照
出版者
東京工芸大学
雑誌
飯山論叢 (ISSN:02893762)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.15-28, 2003-01-25
著者
加藤 幹郎 田代 真
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

今日のテレビゲーム(以下VG)の構造上の最大の特徴は、それが枠をもっているということである。すなわちゲーム・プレイヤー(以下GP)は一定の空間的枠内の外に出ることをプログラミング上禁じられている。GPはゲーム空間内のキャラクター(以下C)を操作するとき、Cがそれ以上向こう側へは行けない可視、不可視を問わない一種の柵に囲まれていることに気づかされる。これは自然の稜線であったり、人工的な文字通りの鉄柵だったり、たんにVGの所与のフレームであったりするのだが、製作者サイドに立てば、無限の空間設定でヴイジュアル世界を構築することに、物語論的、ゲーム理論的意味を見出せないことを意味している。しかしGPサイドに立てば、一定の世界の枠内でゲーム世界が構築され、そこでしか冒険とファンタジーとヴァーチュアル・リアリティ(以下VR)の世界が成立しないというのは、意識的、無意識的とを問わずに、GPに、閉じられた世界でゲームをすることを文字通り馴致するシステムとして働くことになる。GPがどんなにダイナミックなゲーム空間で遊戯していても、それがつねに不可視的ないし可視的に閉じられた世界であることは、そのダイナミックな外見に閉域としての内実をあたえ、GPが基本的に閉じられた世のなかでしか行動を起こせないということをGPに教育するものであろう。今日のVGの以上のような看過しがたい特徴は、VRとインターネットの展開によって、いながらにして世界のどこへでも行ける、触れる、感じられる、見られる、聞けるという擬似世界の増加によって、ますます強化されているように思われる。そしてこの狭隘化は親密な伝統的共同体の構築を意味せずに、ただ空疎な狭隘化しか意味しない。このようなVGで遊び育った子供が大人になったときに、どのような共同体を現実社会のなかに築くことになるのかは今後の社会学的リサーチの成果に委ねたい。
著者
西別府 元日
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、申請者がこれまでの研究で明らかにしてきた、古代社会の転換期としての「承和期」について、当該期の根本史料である『続日本後紀』の史料学的研究の基盤を確立するとともに、当該期にかかわる後世の史料や出土文字資料などにみえる史料の収集をとおして、古代社会の転換期としての「承和期」の実像を、より豊かにしていくことをめざしたのものである。このような課題を追究するため、(1)『続日本後紀』の諸写本の収集、諸写本間の検討による写本系統の確立と、善本を核にした本文校訂、(2)後世の記録・編纂物・儀式書などにみえる当該期に関係した史料の収集、(3)出土文字資料など9世紀の支配や社会生活にかかわる関係史料の収集をおこなうとともに、(4)『続日本後紀』の記事自体についてもその内容の吟味や事実関係の考察の深化などにつとめた。(1)に関しては、国立公文書館・国会図書館・尊経閣文庫・静嘉堂文庫・京都大学付属図書館・国文学資料館館などで『続日本後紀』写本の調査・複写などを実施し、今後の校合作業や書写系統に関する研究の基盤を確立することにつとめたが、一部機関で写真複写がみとめられず、今後の研究遂行のうえで若干の懸念となっている。(2)と(3)に関しては、収集史資料を整理・作成し研究成果報告書に「『承和期』編年史料集成(稿)」として掲載した。紙数の関係で一部割愛せざるをえない資料群もあったが、基本的な目的は達成できたと考える。今後は、さらに収集範囲を拡大して内容の充実をはかりたい。(4)の「承和期」の実像をより豊かなものにするという点では、後世とりわけ10世紀前半代における承和期を聖代とみる思潮の確認や、承和期における瀬戸内海での海賊問題、駅制・駅路の改編問題、対外関係などの諸事象について内容的な深化をはかることができた。このほか、国分寺と国司執行法会の関係、大宰府における官制の改編や、氏族の自己認識の変化などを現在検討中である。
著者
横山 孝男 梅宮 弘道 寺岡 達夫 渡部 英男 桂木 公平 笠原 敬介
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.46, no.402, pp.322-330, 1980-02-25
被引用文献数
7

日本のような温帯性気候では夏は猛暑に冬は豪雪に悩むところが多いが,本研究では夏野猛暑(冬の酷寒)を地下水に託し井戸より人工かん養し大地の断熱性と帯水層の大熱溶量性により季節的に畜熱し冬季暖房・消雪(夏季冷房)に結びつけるものである.本論では野外実験と数値解析により夏季かん養温度の40%を冬季まで蓄積可能なことを明らかにし熱汚染を防止し,効果的な季節的畜熱を行うための適正井戸間隔を提示するものである.
著者
國藤 進 三浦 元喜 羽山 徹彩
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では個人とグループのスムーズな創造的思考活動の移行を可能にするための知識創造支援環境を研究開発した.そのために,まず発散的思考支援機能と収束的思考支援機能を備えた知識創造支援環境を調査した.発散的思考および収束的思考の主要な技術としてはブレインストーミング支援ツール"Brain Writer"および手書きKJ法支援ツール"GKJ"がある.それらは創造的思考プロセスの個人とグループの両モードに対し,適用することができる.
著者
佐藤 寛
出版者
関西大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究では,日本の大学生においてうつ病と自殺のリスクを高める心理学的要因として自動思考,社会的スキル,快活動といった認知行動的な要因の関与を検討した。これらの研究に基づき,リスクの高い大学生を対象とした心理学的予防プログラムを開発した。本研究において開発されたプログラムは日本の大学生のうつ病と自殺のリスク低減に有効であることが示唆された。
著者
寺脇 拓
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は,大きく分けて二つの実証分析を行った.第一に,昨年度検討した,里山保全に取り組むボランティアがその里山から受ける純便益を計測するための基礎理論をもとにして,そこから実際にその純便益額を計測することに取り組んだ.この分析では,まず兵庫県中町の「観音の森」におけるボランティア活動データを用いてボランティア労働供給関数を推定し,その曲線が旅行費用については右下がりとなるが,賃金率については右上がりの形状をもつことを明らかにした.そして,その旅行費用の係数推定値を用いてボランティア活動一回当たりの純便益を計算した結果,それは747円となった.さらに年間の延べ参加者数153人を乗じることにより,ボランティア活動者が里山から受ける便益は,年間11万4248円と推定された.第二に,昨年度の現地調査の結果を踏まえて,大津市仰木地区の里山を事例としたCV調査を行い,里山が周辺住民に及ぼす便益を計測することに取り組んだ.本調査の一つの特徴的な点は,圃場整備されていない棚田をもつ里山に対する支払意志額(WTP)と圃場整備された棚田をもつ里山に対するWTPをそれぞれ質問したところである.圃場整備による生物相への影響はないものとして質問しているため,そのWTPの差は,単純に景観に対するWTPの差ということになる.二段階二肢選択CVMによる分析により,圃場整備されていない昔ながらの棚田に対するWTPは6719円,圃場整備された棚田に対するWTPは1735円となり,前者が後者をはるかに上回る結果となった.この結果は,今後の里山保全のあり方を考える場合に,生態系への影響だけでなく,景観への影響も考慮に入れなければならないことを示唆している.またこの分析では,里山保全に対する価値を構成するものとしては,遺贈価値が最も大きく,ついで存在価値が大きいことが明らかとなった.これは,非利用価値を考慮した資源配分の必要性を示すものである.
著者
藤崎 健一郎 津久井 敦士 勝野 武彦
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.679-682, 2000-03-30
被引用文献数
3 8

街路樹の樹種や大きさなどがほぼ同じで剪定方法が異なる2地域を対象とし,周辺住民の街路樹に対する意識についてアンケートを行って比較した。強剪定が行われている街路樹の周辺住民に比べて,自然成長仕立ての街路樹の周辺住民の方が街路樹の各効果に対する評価が高かった。さらに,街路樹による落ち葉や歩行の妨げなどの問題に対して「許容できる」との回答比率も,自然成長仕立ての地域での方が多いという結果が得られた。これらのことから、過剰な剪定はかえって苦情を増幅し,むしろ適切に枝を伸ばして良好な姿にする方が街路樹の評価を高め,多少のマイナス面は許容されるようになると考察された。
著者
伊藤 賢一
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.193-210, 2005-03-31

本論文はウルリッヒ・ペックのリスク社会論(1986)の可能性を探るものである。最初に、導入として、2001年に日本で起こった「BSEパニック」について描写し、Beckが15年前に提案したリスク社会のあらゆる特徴をこの「パニック」が示していることを指摘している。次に、リスク社会論の土台となっている近代化論のロジックと射程を検討している。本論文はこのことを通じて彼の理論がもつ可能性を提示するものである。リスク社会においては、欠乏ではなくて不安こそが人々の間に連帯を生むというアイディアが基本になっている。