著者
鵜子 修司 成瀬 翔
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.17-44, 2021 (Released:2022-03-31)

ユーモアについては、古来より多くの理論が提唱されてきた。しかし現代に至っても、ユーモアに関わる諸現象を統一的に説明する理論は完成していない。しかし近年、ユーモアの統一理論とみなしうる候補が提唱され始めている。無害な逸脱理論(benign violation theory: BVT)も、そうした候補の一つである。BVTは提唱者らによる精力的な研究により、国外では注目を集めているが、本邦での知名度は未だ高くない。またBVTの批判的検討は国内外を問わず現時点では行われていないと思われる。本稿では、主にMcGraw & Warren(2010)およびWarren & McGraw(2016)の論文に基づき、BVTの想定、および関連する実験の概要を紹介した上で、BVTの長所と問題点について検討した。結論として、BVTには多くの長所がある一方で、無視できない問題点もある。従って、BVTは現時点では支持できない理論だとみなされた。
著者
近藤 有希子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.058-077, 2019 (Released:2019-09-04)
参考文献数
47

本論では、虐殺後のルワンダにおいて、和解し統合されたシティズンシップを創り出す装置として、虐殺記念週間におこなわれる集会や虐殺生存者基金に着目して、そのなかで方向づけられる人びとの倫理的な応答のあり方を検討する。それらの装置は、凄惨な紛争によって分断された人びとを等しく「ルワンダ人」として包摂する試みのもとに適用されてきた。他方で、そのとき形成される「国家の歴史」においては、トゥチだけを「生存者」、つまり「真のシティズン」として認定し、フトゥを一様に「加害者」、つまり「二級のシティズン」として位置づける効果を孕んでいる。そこでは愛する者の死を悼み、自身の壮絶な体験を嘆くことができるか否かという点で、格差をともなう承認の配置がおこなわれており、人びとの感情が規律化される事態が生じていた。 このような状況下にあって、村のなかには「トゥチの生存者」というカテゴリーに依拠して、その生存を確保させる者もいる。彼女たちの哀悼は、公的な場においてしばしば「国家の歴史」に一致した、およそ流暢な語りのなかに見出される。他方で、村に暮らす大半の人びとが虐殺時にはなんらかの脅威に曝されており、善悪に二分できない「灰色の領域」にあった。このような「国家の歴史」にはあてはまらない経験を生きる者たちの、決して語り慣れることのない発話は、かれらが代替不可能な個別の記憶とともに生き延びようとするときに現出している。 このとき地域社会のモラリティは、多くの者がみずからの経験に対して「言葉をもたない」ことにおいて開示されていた。なぜなら、統制されえない身体化された記憶、「語りえなさ」の発露としての情動こそが、体験の一般化を拒否する沈黙の作用とも重なりながら、個々人のかけがえのない経験を感知して、それに付随する痛みへの想像力の回路を開くからである。ここに、避けがたくともに生きる人びとの倫理的な応答性が導かれていた。
著者
金井 嘉宏 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.159-170, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、脅威刺激に対する注意バイアスに対処スタイルが及ぼす影響について検討することであった。大学生50名を実験参加者とし、ドットプローブ課題を行った。単語の呈示条件は500ms,1500msの2条件であった。上下に対呈示された単語が消えるとすぐに、どちらかの単語と同じ位置にドットが呈示された。参加者はドットの位置の判断をボタン押しで求められた。注意バイアス得点を従属変数とする分散分析の結果、対処スタイルの主効果が有意傾向であった。対処スタイルによって注意の向け方は異なるが、注意の方向は明らかにされなかった。また、500ms条件では、脅威語に対する注意の向け方に対処スタイルによる違いはみられないが、1500ms条件ではsensitizersの注意の向け方は明らかにされなかったが、repressorsは脅威語に注意を向けることがわかった。本研究の結果は、不安の情報処理モデル理論から考察された。
著者
湯谷 賢太郎 小森 瑞樹 浅枝 隆
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.I_1429-I_1434, 2013 (Released:2014-03-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

To evaluate the physical bioturbation on tidal flat by the burrowing activity of Ilyoplax pusilla and Scopimera globosa, collapsed and renewed rates of the burrows, population densities and carapace widths, and correlationship between burrow physical parameters and crab carapace widths were investigated on the Banzu tidal flat. Burrowing activity of the crabs developed new ground surface on the inside face of borrows. Therefore, a ground surface area of tidal flat was increased 31.9 % by I.pusilla and 16.5 % by S.globosa, respectively. Soil-turnover rates induced by burrowing activities were found to be 7331 cm3/m2/month in I.pusilla and 9119 cm3/m2/month in S.globosa, respectively. This indicates that 11 % and 13 % of the soils from surface to a depth of burrow bottom were turned over by I.pusilla and S.globosa respectively for a month.
著者
田辺 行雄 柴草 英彦 平島 崇男
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
岩鉱 (ISSN:09149783)
巻号頁・発行日
vol.88, no.10, pp.463-468, 1993-10-05 (Released:2008-03-18)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

A BASIC program to calculate the Schreinemakers' bundle is designed for NEC 9800 series computer. Algorithms for determining stable univariant lines and combing stable invariant points are newly devised following the graphic theory. The computer program can solve all possible sets of invariant points in model systems with up to (C+5) phases. For model (C+3) phases systems, the program automatically displays all possible nets on a video screen.

2 0 0 0 OA 愚問賢答

著者
吉田 眞日出
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.1958, no.14, pp.1-3, 1958-02-20 (Released:2017-08-19)
著者
田中 葵 ボンジェ ペイター 橋本 美芽
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.80-88, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
23

作業療法士へのインタビュー調査から,彼らが高齢者に対する住宅改修の中で何を考え,どのように専門性を捉えているのかについて,明らかにした.現象学を用いて分析した結果,彼らはADL・移動に加え,IADL・余暇活動・社会参加の支援をOTの専門性と捉えていることが明らかとなった.またその一方で,住宅改修においてOTが捉えている専門性を発揮しづらいさまざまな制約や課題が存在すること,その状況下でOTは実現可能な方法を模索していることが明らかとなった.以上の結果から,OTの専門性やその専門性の発揮の仕方について明確にし,OTの専門性と健康の関連性を具体的に示す必要性が示唆された.
著者
相良 順一郎
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.133-134, 1952-09-25 (Released:2008-02-29)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
山本 祐輝
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.103-121, 2022-02-25 (Released:2022-03-31)
参考文献数
21

これまで多くの研究が視点ショットやヴォイス・オーヴァー、フラッシュバックといった映画における主観的技法のメカニズムや歴史を論じてきた。だが一方で登場人物の聴覚を再現する「聴取点サウンド」については、今もなお理論的基盤が確立されているとは言えない状況にある。本稿の目的は、この技法が抱える独特な「扱いにくさ」の要因となっている理論的問題を整理し、従来ほとんど議論されてこなかった新たなタイプの聴取点サウンドの存在を指摘することにある。それは、フランシス・フォード・コッポラの共同作業者として知られる音響技師ウォルター・マーチが用いた「隠喩的サウンド」——登場人物の精神状態の隠喩となりうるような、極端に強調された物語世界内の音——と密接に関連している。第一節で聴取点の複数の定義を確認した後、第二節では聴取点サウンドが成立する条件を定めること、つまり何をもって登場人物が音を聞いていると判断できるのか、その基準を設定することの困難について検討する。第三節では聴取点サウンドを次の三種類に分類することを提案する。(1)登場人物がその外側から発せられた音を聴く〈知覚的聴取点〉、(2)内面において想像した音を聴く〈心的聴取点〉、(3)両者が二重に作用する〈複合的聴取点〉である。そして具体的な作品を参照しつつ、これまでマーチが実践してきた隠喩的サウンドを〈複合的聴取点〉の音として理論的に位置づけることを試みる。
著者
一柳 保 田邉 晴山 喜熨斗 智也 北小屋 裕 大迫 幹生 加百 正人 大木 哲郎 岡本 征仁 津田 雅庸 野口 宏
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.613-620, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
13

近年,大小さまざまなマラソン・ロードレースが毎週のように行われ,大会規模相応の救護・医療体制の確保が求められるが,主催者が参考にすべき指針がなかった。このため主催者が参考とすることができ,救護・医療体制を網羅し得る指針を医師・消防機関と協調し作成することとした。方法は,国内外のマニュアルなどを参考にしながら,これまでに救護・医療体制構築に加わった経験者への意見聴取,複数のマラソン・ロードレース大会の視察で得られた知見,文献検索の結果などを取りまとめ,救護スタッフの人数,資器材と救護所の数や規格を具体的に記述した指針案を作成した。マラソン・ロードレースにおける救護・医療体制の適切な確保には,主催者のみならず,消防や医療機関に対しても対応可能な指針の認知が欠かせない。さらに,救護・医療体制をスコア化する評価指標なども含め,統一した指針を使用することで,全国の大会を一定の物差しで横断的に評価することが可能になる。
著者
荻原 桂子
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.45-52, 2000-09

一葉の作品は、明治の女性たちの生きざまとその魂のうめきを、雅俗折衷体という文体を用いて描いたものである。それは、明治という時代のはざまで、近世的な価値観と近代化がもたらした自我の覚醒のせめぎ合いのなかで、どのように自己実現を果たすかという一葉自身の自己実現化という問題と相克しつつ展開されるのである。その文体は、まさしくその時代的境界にたたされた危機的な均衡のなかで、多くの評家によって絶賛されることになる。男性の気持ちが絶対視される社会にあって、男性の気持ちの受け皿としてしか認識されていなかった女性にも、精神はあるのだという主張である。虚に漂うこうした女性の声を集めて、その声に呼応する形で、語る主体である一葉の自己実現が「誠にわれは女成けるものを、何事のおもひありとてそはなすべき事かは」(「ミづの上」) という感慨とともになされる。それは、近代日本という時代の変遷の荒波を、男性社会のなかで女戸主として生き抜くという厳しい現実感のなかでなされるのである。こうした確かな現実認識にささえられた一葉の視線は、この時代を生き抜くさまざまな階層の女性の声を、生の声として聞くことを可能とした。作家としての時代を視る目、人間を視る目を一葉は日々の生活のなかで獲得したのである。この厳しい現実認識が、時代の裂け目に鋭く突き刺さり、その時代に翻弄されない独自の文体を編み出した。それは、雅文体という伝統的和文の体をとりながらも、その美文的修辞を拒絶した鋭い現実認識に根差した俗文体を取り入れている。一葉の文体には、時代の波に翻弄されることのない毅然とした態度と、その時代の制度に拮抗する自由な精神が両立していることを示している。
著者
花熊 克友 山本 順三 中西 英二
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.686-688, 1998-07-10 (Released:2009-11-12)
参考文献数
4

プロセス制御では, 雑音が重畳した信号のリアルタイム平滑化処理に移動平均法や指数平滑フィルタが使用される.しかし, 応答遅れが大きいプロセスの信号に適用した場合, 大きな位相時間遅れが生じ, 制御を難しくする.本論文では, 移動平均法を改良した, 位相時間遅れの少ない簡易設計法を提案する.本法を実プロセスの組成データに適用した結果, 有効であることがわかった.
著者
朝野 和典
出版者
COSMIC
雑誌
呼吸臨床 (ISSN:24333778)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.e00007, 2018 (Released:2019-09-07)
参考文献数
3

日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2017では,最初に患者を「市中肺炎」と「医療・介護関連肺炎+院内肺炎」の2つに分けて診療を開始する。医療・介護関連肺炎と院内肺炎を一緒にしたのは,この2つの肺炎の患者には人生の最終段階(終末期)の患者が含まれ,個人の意思の尊重を最優先するべきと考えられたからである。人生の最終段階以外の患者に対しては,薬剤耐性菌のリスクの有無と重症度をもとにescalation治療とde-escalation治療の方法を用いて抗菌薬の推奨を示している。