著者
野坂 和則
出版者
横浜市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

慣れていない運動や久しぶりの運動を行った後には筋肉痛が生じ,その痛みはしばらくの間持続する。筋肉痛が安静を促す危険信号だとすれば,筋肉痛が消失するまでは,痛みのある筋肉を動かすような運動は控えるべきであると考えられる。しかし,痛みがあっても運動することはあり,痛みをこらえて運動するうちに痛みが軽減されるといった経験的な事実もある。本研究では,筋肉痛がある状態でさらに運動を負荷した場合の筋肉痛の程度や,筋機能の変化について検討した。実験モデルには,最大等尺性筋力の50%に相当するダンベルを,負荷に抵抗しながら肘の屈曲位から伸展位にゆっくり降ろす上腕屈筋群のエクセントリック運動を用いた。この運動を一方の腕では10回3セットのみ行い,他方の腕では10回3セットを1日おきに3回実施した。運動に伴う,筋肉痛,筋力,関節可動域,血漿CK活性値,Bモード超音波画像の変化について両腕間での比較を行った。その結果,エクセントリック運動を1日おきに3回行った腕における各指標の変化と,1回のみ運動を行った腕での変化との間には有意な差が認められなかった。筋肉痛がある状態で運動を負荷しても新たな筋肉痛が生じないばかりか,運動後には筋肉痛の程度が顕著に軽減した。また,2回目,3回目の運動直後に筋力は1回目の運動直後と同様に低下するが,その翌日までには,2回目,3回目の運動負荷がなかった腕と同様に回復を示し,関節可動域については,運動前に比べ運動後に有意に大きくなった。また,超音波画像や血漿CK活性値においても回復過程が遅延したり,新たな損傷が生じたと考えられるような所見は見られなかった。これらのことは,筋肉痛がある状態で,その筋に対してさらに筋損傷を誘発するような運動を負荷しても,筋の回復過程には影響がないということになる。しかし,筋肉痛がある部位の運動はしてもよいということにはならず,運動の有効性や効果の側面からは,その部位の運動を敢えて行う必要性はないものと考えられた。今後,組織学的な検討を加え,なぜ,筋損傷が生じている筋にさらなる損傷誘発刺激を負荷しても損傷が生じないのか,また回復過程に影響がないのかについて明らかにしていきたい。
著者
真鍋 義孝
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

南西諸島における集団史を探るため、地域的変異の調査を続けている。本年度は、南西諸島の南端近くに位置している石垣島に居住する若年者(男64名・女86名)の歯冠に出現する非計測的形質の頻度を調査した。17形質のうち日本の在来系集団と渡来系集団で特に明瞭な差を示す12形質の出現頻度について、日本列島における各時代の12集団と比較した。その結果、石垣島現代人において在来系的特徴を示す形質はわずかに屈曲隆線(LM1)だけであるが、シャベル型(UI1)、斜切痕(UI2)、第5咬頭(UM1)、4咬頭性(LM2)、プロトスタイリッド(LM1)の比較的多くの形質では渡来系的であった。また、ダブルシャベル型(UI1)、舌側面近心辺縁隆線(UC)、舌側面遠心副隆線(UC)、カラベリ形質群(UM1)、Y型咬合面溝(LM2)、第6咬頭(LM1)の多くの形質では在来系と渡来系の中間的特徴を示していた。さらに多変量解析を適用すると、石垣島現代人は沖縄本島と種子島の現代人に最も近く、南西諸島内の地域的変異はかなり小さいことが明らかになった。これらの南西諸島の3集団は1つのクラスターを形成し、東アジアの中では東北アジア型と東南アジア型の境界領域に位置していたが、日本列島の集団の中では在来系よりも渡来系集団に圧倒的に近く位置していた。また、南西諸島の中で厳密に比較すると、種子島が石垣島や沖縄本島よりもやや東北アジア型に近く位置していた。これらの結果は、現代人に限定した場合の「アイヌ・琉球同系説」を否定する。ところが、種子島における時代的変化を考慮に入れた場合、沖縄本島の先史時代にも在来系集団が存在していたと想定され、その後に渡来系遺伝子の流入が起こった可能性を示唆するものである。南西諸島内の地域的変異は小さなものであったが、厳密な比較で認められた南西諸島内における南北のクラインは、渡来系遺伝子の流入が北から起こった可能性を示唆している。
著者
大澤 映二 保柳 康一 千々和 一豊 田中 一義 小澤 理樹
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

天然フラーレンC_<60>の存否は未だに定かでない。KT層、PT層など燃焼煤を含むとされる黒色古地層あるいは隕石クレーター中の岩石から抽出される炭素質中に存在するとされるC_<60>濃度は概ね0.1ppm以下で、技術的に確証を取るのは困難である。唯一高濃度に存在し、複数の分析手段を併用して確実な結果が得られたのは中国雲南省一平浪炭鉱産出の石炭であるが、情報が不正確で炭層が特定できず、追加試料は全てネガティブであったために、現地採取を行って確認を行うのが本研究費の目的であった。研究費支給期間中に地質学者を帯同して中国を3回訪問し、一平浪炭鉱のみならず中国各地から石炭サンプルを採取した。一平浪近くの隕石クレーターにも足を伸ばした。また南アフリカに存在するマグマ貫入炭層、世界最大最古の隕石クレーターにも赴いて試料を採集した。その結果以下の結果が得られた。(1)一平浪炭鉱石炭試料のみが0.3%のC_<60>/C_<70>を含み、同試料は共存異常成分として煤と酷似した構造をもつ黒鉛型ナノ炭素粒子、鉄銅硫酸塩ほか一点の未記載鉱物(おそらく高温高圧変態)を含む。またフラーレンは石炭表面に存在する、(2)他の石炭試料に関するフラーレン分析結果は悉くネガティブ。この結果から自然界で発生する衝撃波によるフラーレン生成説が浮上した。しかし、中国の炭鉱に立ち入ることが出来ず、また坑内地図も閲覧が自由にならないので、採取場所の特定は依然として不可能であった。研究期間終了後も粘り強く交渉を続け、漸く最近に至って中国煤炭勘査局が全山から系統的サンプリングを行い、採取した試料を入手することに成功した。時間飛行型質量分光器による予備分析の結果C_<60>が検出され、現在高速液体クロマトグラフによる定量分析中であり、間もなくC_<60>産出場所の正確な位置が特定できる見込みである。
著者
下平 英寿
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大規模なネットワークデータが近年容易に入手できるようになり,ネットワークに潜む構造を理解することが応用上も重要になっている.ネットワークは多くの場合スパース性をもち,ノードとリンクからなるグラフと考えると各ノードが他のノードに接続するリンク数(次数)はノード数に比べてとても小さい.このような複雑ネットワークの研究が注目されているが,ネットワークデータを統計解析するツールの研究は不十分で,今後さらに重要になると考える.そこで本研究では,ネットワークデータの統計解析を通して創造的に多様なスパースモデリングを探求する.とくに,ネットワーク成長モデルの優先的選択関数やスパース正則化の正則化関数の関数形に着目したモデリングを探求する.(1)既知のネットワークの生成メカニズムに興味がある場合,成長ネットワークモデルをネットワークデータに適用して,生成モデルを推定する.ノード接続の優先的選択関数のノンパラメトリック推定法を考案して分析ツールのソフトウエアPAFitとしてCRANに公開していたが,さらにノード適応度も同時にベイズ推定する手法を提案してソフトウエアを公開した.youtubeやfacebook等のソーシャルネットワークの実データに適応してその有効性を検証した.(2)未知のネットワーク構造をグラフィカルモデルによって推定する場合,正則化項を加えたスパース推定を行う.この正則化項のモデリングを工夫して,ランダムグラフとスケールフリーネットワークの両者を含む一般的な正則化項を提案し検証を行った.
著者
勝部 眞人 頼 祺一 相良 英輔 濱田 敏彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまでほとんど明らかにされてこなかった幕末・維新期における島根県大社地域の歴史的特質を、同地域の藤間家文書を中心にしながら、同家の海運業のあり方、町支配の状況、産業・経済基盤、名望家間のネットワークの観点から解明していこうとするものである。基礎作業としてまず文書目録の作成を行ったが、数千点におよぶ文書一点々々に番号の付箋を挟み込み、収納場所と目録とが対応できるようにしていった。ただし、別場所に保管されていて後から出てきた文書や一枚物の文書を中心に、作業を完遂させられなかったものも少なからずあり、今後の課題として残ってしまった。藤間家は慶長期には廻船業を開始していたという伝承を持つ出雲地方の名家であるが、幕末期にも7艘の船を操って東北日本海側各地から九州・瀬戸内各地域におよぶ広い範囲を交易圏として活発な活動を行っていた。また大社地域は、出雲大社の年2回の祭礼時に行う富くじ目当てに遠く江戸・畿内や四国・九州から数十万人が集まってきたことから、それらの人々を相手に諸商売・宿屋を営むことで生計を成り立たせていたという。しかし維新政府の富くじ禁止策によって、地域経済は大きな打撃を受けることになる。「養米」と称された救恤米の払底を機に明治2年に起こった騒動など、地域秩序の維持・再構築が模索されていた。こうしたなかで縁戚筋にあたる宍道町木幡家との書簡をとおして、「文明の魁」として断髪に踏み切る姿が明らかになった。地域のリーダーとして、維新政府・県令の指導と地域秩序維持とのはざまで自らを律していく名望家の姿の一端を解明することができた。
著者
横矢 直和 山澤 一誠 岩佐 英彦 竹村 治雄 荒木 昭一 栄藤 稔 栄籐 稔
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

1.全方位ステレオ画像センサの設計・試作まず最初に、2つの異る回転2葉双曲面を接合した複合双曲面ミラーとビデオカメラからなる全方位ステレオ画像センサStereo HyperOmni Visionの設計・試作を行なった。本センサは、現状のビデオカメラを用いる限り、画像の解像度に問題があり、実用化には超高解像度ビデオカメラの出現が待たれる。次に、この解像度の問題を解決するために、ピラミッド型六角錐ミラーと6台のカメラにより側方360度を撮像し、同じ構造を上下対称に配置することによってステレオ撮像を可能にする全方位ステレオ画像センサPYMSを開発した。2.全方位画像からのパノラマ画像及び任意視線画像の実時間生成試作したセンサは単一視点制約を満たすため、任意形状の投影面への1点中心投影像を計算によって求めることができる。本課題では、この画像変換の実時間処理を実現するために、離散的な点での座標変換とハードウェアによる画像変形を組み合わせた手法を開発した。また、画像提示デバイスとして頭部搭載型画像表示装置(HMD)と全周型景観提示システムを用いたテレプレゼンスシステムのプロトタイプを開発し、提案手法の有効性を実証した。3.時系列全方位画像及びパノラマ画像の高能率符号化時系列全方位画像及びパノラマ画像の特性を活かしたビデオストリームからの動き推定法と高能率圧縮符号化方式を開発するとともに、多地点全方位画像から任意視点画像を生成する手法を開発した。4.全方位ステレオ画像からの3次元情報の抽出本研究で設計・試作した全方位ステレオ画像センサは縦方向の視差を有するため、人間への画像提示の観点からは、横視差をもつステレオ画像への変換が必要である。このため、相関法によるステレオマッチングによりシーンの奥行き情報を抽出する全方位ステレオ視のアルゴリズムを開発した。
著者
大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

戦時下における台湾民衆の戦争の記憶と体験を、聞き取り調査によってその生の声を記録化し、当時の新聞、雑誌、公文書、手紙、手記などとの照合検討をとおして、これを社会史的観点から多角的かつ具体的に解明した。その成果は、「国際交流研究集会65年目の証言」(2010年)を関西大学で開催して広く社会に発信し、2011年には『看護婦たちの南方戦線帝国の落日を背負って』(大谷渡、東方出版、1-241頁)として出版した。
著者
杉崎 範英
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、発達度が疾走パフォーマンスにおける個人差に関与する下肢筋を特定すること、およびその筋のトレーニング法を検討することを目的とした。下肢各筋群の筋体積を測定し、疾走タイムとの関係を検討したところ、相対的に大殿筋およびハムストリングが大きい選手ほど疾走タイムに優れることが明らかとなった。またスクワットトレーニングを行う場合、バーベルを用いた低速度で行う場合よりも、自体重のみによる全力での跳躍を行う方が、大殿筋の大きな活動を引き出すことができることが示された。
著者
大木 新造 松村 敏
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

近年ようやく国内における近代都市比較研究が行なわれるようになったが, その成果はとぼしい. よって本研究は, 近代都市比較研究の基盤整備を目的として, 東京・大阪・京都の三都比較に関する文献の収集と検討を行なった. 本年度研究の実施計画:近代都市研究及び都市に関する新聞記事・雑誌記事を中心に渉猟し, 三都に関するものを収集し, その内容にしたがって分類した.本年度研究の内容:収集した文献は, 東京・大阪・京都の三都を比較したものを中心に, 東京・大阪・京都, 京都・東京の二都を比較したものにおよび, 全部で約350件に及んだ. これらについて分類し, 内容の分析を行なった. それによれば, 近代に入ってからの三都比較は, 大正期前・中半にピークを迎え, 以後, 京都が比較の対象となることは少なくなり, もっぱら東京・大阪の二都比較が行なわれることとなる. 近世においては, 江戸・京都の二都比較が中心で, それも京都に対する江戸からの批判がもっぱらであったが, 近代, それも大正期をすぎたあたりから, 大阪から東京への批判が多くなる. 戦後は, 東京に対する批判は次第に高まる傾向をみせ, 高度成長期をすぎたころには, 東京を「敵視」するものまで登場するようになっている. この背景には, 近世, 近代, 現代(戦後)へと三都の, 国内での位置・関係の変化があったことを指摘できる. つまり, 近世における江戸の成長, 戦後における東京の突出という現象が, それを端的に示していよう.また, 三都の比較は, 政治, 経済, 風俗, 生活等の各分野におよび, 日本分化・社会の多様性を示すものとなっている.本年度の研究は新聞・雑誌・週刊誌の記事までも視野に入れ, 厳密な意味で比較とは言えないものまで広く収集した.
著者
岡田 莊司 並木 和子 小松 馨 佐藤 眞人
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

摂関・院政期の公的祭祀の性格・構造・社会的意義を明らかにし、この時期の国家体制の特質を解明することを目的に、朝延の祭祀、貴族社会の氏神祭祀について、それぞれの成立、相互関係、奉斎の主体、およびその主体と国家中枢との関係、諸祭祀への朝延の関与の実態までを解明して、総合的視野に立った平安時代祭祀制度と信仰形態について構築することを目指した。1、摂関・院政期の主要古記録(日記)に記載されている神祇祭祀関係記事の検討では、十世紀に展開する祭祀儀礼の記事を全てカード化することを完了させコンピュータに収録して検索が可能になった。史料の翻刻については、神祇官関係記録として重要な『顕広王記』の日記の翻刻作業を進めた。日記に記載されている人名の特定に困難を極めているが、今後も完成に向けて継続してゆく予定。2、寺社文書の検討については、上記1の古記録を中心にすることで、時間的余裕がなかったことから大系的な検討・研究には至らなかった.3、写本の撮影収集は、『西宮記』などの儀式書、『顕広王記』の原本・写本・神宮祭主藤波家関係文書の収集を行った。4、祭礼調査は、祭祀の本義を理解する上で貴重な経験であり、各自の研究に反映している。以上の基礎調査については、ほぼ所期の目的を達成することができた。この転換期は天皇個人の意志にかかわる性格を有して始まるが、院政期の国家と祭祀の関係は、さらに多様性をもつようになってゆく。これは国制機能そのものの変化と院個人の祭りに対する意志が明確に表され、後白河院と祭祀の関わりに濃く反映されてくる。上の基礎的作業を進める中で、国家祭祀・神祇祭祀の性格(公祭の概念)・貴族社会の神祇祭祀と信仰への関与の在り方・神仏関係などの方面に、摂関期と院政期の間に大きな意識的変革のあることが明確になり、相互の研究から確認しあうことができ、個々の研究成果に盛り込むことが可能となった。
著者
長尾 健太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

24年度は非可換Donaldson-Thomas理論において主に重要なコホモロジー的Hall代数の具体的構造の研究を行った.コホモロジー的Hall代数は$3$次元Calabi-Yau圏の対称性を記述する代数であり,非可換Donaldson-Thomas不変量の理解において重要な役割を果たすと期待される.残念ながらコホモロジー的Hall代数の具体的計算はまだほとんど行われていない.申請者は23年度以前に行っていたモチーフ的非可換Donaldson-Thomas不変量の研究における技術を応用し,コホモロジー的Hall代数の具体的計算において重要な「ポテンシャルの切断によるコホモロジー的Hall代数のリダクション」という概念を発見した.これは4次元のゲージ理論と6次元の弦理論の関係を記述するものであり,今後さまざまな発展を導くと期待している.現在はこの概念の基礎理論の構成中であり,25年度以降は応用を深めていく予定である.
著者
湊 耕一 小倉 直美
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近年、高齢者医療に対する関心が高まり、老化に伴う生理的変化や老化機構の研究が進展している。一方、マクロファージは、免疫系において重要な細胞であると共に、collagenase等も産生することから細胞外基質代謝にも重要な働きをしている。歯科領域でも高齢者の炎症の慢性化や免疫能の低下、創傷治癒遅延が問題となっており、老化に伴うマクロファージの機能的変化の解明が求められている。本研究では、老化促進マウス(SAM)を実験モデルに、腹腔マクロファージ(Mφ)にPorphyromonas gingivalis(P. g. )LPSを作用させて炎症性因子の産生を測定した。〈方法〉腹腔に誘導物質を接種後、腹腔浸出細胞を回収してplate中に蒔き、2時間培養後付着した細胞をMφとした。このMφにP. g. LPSを作用させて24時間後、培養液中のPGE_2をRIA kitにて、IL-1β及びIL-6をELISA法にて測定した。〈結果及び考察〉Mφの回収率は誘導物質投与後4日目が最も高く、誘導物質にスターチ、グリコーゲン、プロテオースペプトンを用いたところ、Mφ回収率はプロテオースペプトンが高値を示した。SAMP1(老化促進)及びSAMR1(control)の3ヶ月齢、6ヶ月齢間でMφ回収率に顕著な差はみられなかった。次に、Mφ培養液中のPGE2、IL-1β及びIL-6を測定したとこと、LPSを作用した系、作用しない系とも、SAMP1とR1間で、また各月齢群間で有意な差は認められなかった。これは、老化モデルには6ヶ月齢では十分でないこと、各因子産生量の個体差が大きく各群の例数が少ないことなどが考えられる。今後、各群の例数を増やすこと、12ヶ月齢までの動物群について実験する必要がある。また、Mφのcytokine産生には細胞外基質に接着することが重要であるとが報告されたことから、collagenやfibronectinなど細胞外基質をcoatingしたplateにMφを蒔き、各炎症性因子の産生量を測定することも必要であろう。
著者
小原 雄治 菅野 純夫 小笠原 直毅 高木 利久 五條堀 孝 吉川 寛 笹月 健彦
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

4領域全体の調整・推進、わが国のゲノム研究の機動的・有機的な研究推進のシステム作り、ピーク研究を支えるための基盤研究事業の支援、すそ野を広げるための研究支援事業、社会との接点などの活動をおこなった。主なものとして以下をあげる。研究支援委員会:シーケンシングセンター委員会では、4領域のゲノム/cDNAシーケンシングについて全面的に請け負った。原始紅藻、ホヤ、ゼニゴケY染色体、メダカゲノムについてホールゲノムショットガン法をベースにプラスミド、フォスミド、BAC配列を加えて決定した。また、日本産由来のマウス亜種MSM系統についてB6標準系統との比較のためにホールゲノムショットガンを1Xまで進め、1%程度のSNPsを見出した。cDNAについては、ミジンコ、線虫C.elegans、近縁線虫、ホヤ3種(カタユウレイボヤ、ユウレイボヤ、マボヤ、ヌタウナギ、メダカ、シクリッド、ドジョウ、アフリカツメガエル原始紅藻、細胞性粘菌、ヒメツリガネゴケ、ゼニゴケ、コムギ、オオムギ、アサガオをおこなった。リソース委員会では、本特定領域研究で作成された遺伝子クローンの維持・配布支援をおこなった。対外委員会:広報委員会では、ホームページ、メールニュース、シンポジウムなどの活動をおこない、対社会、対研究コミュニティへの情報公開・発信をおこなった。社会との接点委員会では、ゲノム科学と社会との双方向のやりとりの場として「ゲノムひろば」を3年にわたり計8回(東京、京都、福岡)開催し、高校生、一般市民との交流の実をあげた。また、医科学倫理問題の検討を進めた。
著者
菅野 純夫 羽田 明 三木 哲郎 徳永 勝士 新川 詔夫 前田 忠計 成富 研二 三輪 史朗 福嶋 義光 林 健志 濱口 秀夫 五條堀 孝 笹月 健彦 矢崎 義雄
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

日本学術振興会未来開拓研究事業(平成16年度終了)、文部科学省特定領域研究「応用ゲノム」(平成16度-平成21年度)と合同で、国際シンポジウム「ゲノム科学による疾患の解明-ゲノム科学の明日の医学へのインパクト」及び市民講座「ゲノム科学と社会」を平成18年1月17日-1月21日に行なった。国際シンポジウムの発表者は未来開拓5人、本特定領域6人、応用ゲノム3人、海外招待講演者9人であった。市民講座は、科学者側6名に対し、国際基督教大学の村上陽一郎氏に一般講演をお願いし、最後にパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ550人であった。また、文部科学省特定領域「ゲノム」4領域(統合、医科学、生物学、情報科学、平成16年度終了)合同の一般向け研究成果公開シンポジウム「ゲノムは何をどのように決めているのか?-生命システムの理解へ向けて-」を平成18年1月28,29日に行なった。本シンポジウムの構成は、セッション1:ゲノムから細胞システム(司会:高木利久)講演4題、セッション2:ゲノムから高次機能(司会:菅野純夫)講演6題、セッション3:ゲノムから人間、ヒトへの道(司会:小笠原直毅)講演7題を行い、さらに、小原雄治統合ゲノム代表の司会の下、門脇孝、小笠原直毅、漆原秀子、藤山秋佐夫、高木利久、加藤和人の各班員、各代表をパネリストとしてパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ700人であった。また、本領域の最終的な報告書を作製した。
著者
久利 美和 村上 祐子
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

初年度初年度は,研究機関およびその助成金を活用しての直接的または間接的に科学普及活動に従事する人材の意識調査、就業形態、また実施される企画の有償かの可能性について聞き取り調査を行い、キャリアパスとして必要な視点が、報酬体系の確立と評価手法についてであることが明らかとなった。次年度は、研究管理の観点で関連業務者の報酬体系の実態に焦点を当てるとともに、報酬体系の根底にある概念についても意見抽出を行った。また、海外の事例を含めた検討会を国際会議の場で行った。
著者
長谷川 修司 松田 巌
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

1. 極低温4探針型STM(グルーン関数STM)装置システムの開発・建設これは次のような性能を持つ:(a)超高真空中で稼動し、走査電子顕微鏡と結合して4探針の配置をナノメータスケールで観察できる。(b)試料および探針を7Kまで冷却でき、その温度を20時間維持できる。(c)それぞれの探針で原子分解能のSTM像観察が可能。(d)統合型コントローラによって1台のPCで4本の探針を有機的に駆動・制御できる。(e)多機能プリアンプによって、3つの測定モード(それぞれの探針による通常のSTM/STS測定モード、4探針法による電気伝導測定モード、および2探針によるトランスコンダクタンス(グリーン関数)測定モード)を切り替えできる。このような装置は世界的にみても類例が無い。2. カーボンナノチューブ探針の開発直径10nm程度の多層カーボンナノチューブを金属探針の先端に接続して、それ全体をPtIr被覆した導電性探針を開発することに成功した。これによって、探針間隔を最小で20nm程度まで小さくすることが可能となった。PtIrの代わりにパーマロイ(NiFe)の薄膜で被覆すると、強磁性体探針となることもわかった。3. 応用計測建設した装置を用いて、さまざまな計測に応用した。直径40nm程度のCoSi_2ナノワイヤの電気抵抗は、室温において、探針間隔が20nmで測定しても拡散伝導であることがわかった。Si(111)-4×1-In表面超構造の電気抵抗の温度依存性を測定した結果、In原子鎖の沿う方向とそれに垂直方向で伝導のメカニズムが異なることがわかった。
著者
松永 達雄 藤波 義明 務台 英樹 神谷 和作
出版者
独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、難聴をきたすミトコンドリア遺伝子変異が多数報告されているが、現在のところ日本人の難聴者において本遺伝子変異が全体としてどの程度関与するかは不明である。そこで本研究では、日本人の原因不明の非症候群性難聴者(先天性/小児の難聴者53人、後天性の難聴者76人)および健聴者144人のDNA検体を用いて、ミトコンドリアDNAの難聴遺伝子を解析した。多コピーのミトコンドリアDNAには、変異が生じた場合にミトコンドリア遺伝子が均一な状態であるhomoplasmyと異なった配列が混在するheteroplasmyの2種類の状態がある。まずhomoplasmy変異に関しての解析の結果、難聴遺伝子として報告されている5遺伝子において先天性/小児の難聴53人中のべ8人、後天性の難聴76人中のべ4人で国際的データベースに難聴遺伝子変異と報告されている変異が検出された。heteroplasmy変異に関しては、先天性/小児の難聴53人中のべ7人、後天性の難聴76人中のべ7人で変異が検出された。一方、健聴者においての検討では、難聴遺伝子の一つである12SrRNA遺伝子において144人中11人で難聴遺伝子変異と報告されている変異が検出され、これらは日本人において難聴の発症に環境因子が関与する可能性と難聴の発症に関与していない可能性が考えられた。それ以外の4遺伝子には健聴者では変異を認めなかった。これまでの結果から、日本人の難聴の原因に関与するミトコンドリアDNAの難聴遺伝子変異は、国際的データベースに報告されているものとは異なると考えられ、本研究で明らかになった日本人特異的なミトコンドリア遺伝子変異の特徴が、今後日本人の難聴の遺伝的原因の解明と診断に活用できると考えられる。
著者
渚 勝 伊藤 隆 小高 一則 松井 宏樹 杉山 健一 吉田 英信 久我 健一 石村 隆一 宮本 育子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

多様体の非可換化として作用素環論の研究をすすめるという目標で、(1)無理数回転環をモデルとする帰納極限の環の構造解析、(2)幾何学的データとしてKー理論、次元の果たす役割、(3)より非可換な対象として作用素空間の構造を調べる、という3つの視点からのアプローチを試みた。まだまだ多くの問題を抱え、今後の研究課題として残ることは多いが、それぞれの視点から一応の成果を得ることができた。帰納極限の環の構造解析として、松井によるカントール集合上の力学系からできる環の解析が進展し、既にK-理論を用いて力学系の状態を把握する結果が得られていたが、その結果の不備と、更なるK-群の情報が必要であることなど緻密な関係がわかってきている。直接的に帰納極限の環ではないが、それに関連して核型でない環の中でも対象を絞ることによりK-群が環の同型を与えるクラスを方波見ー渚によって構成ができた。次元については、渚ー大坂ーPhillipsによって一応の結果を得ているが、K-群、次元の期待した直接的な成果は今後になる。より非可換な量子化としてハーゲラップテンソル積、環の自由積への実現などの作用素空間の話題がある。この方面は最近、成書の発行が多く、形が出来上がりつつ理論に見えるが、伊藤ー渚の研究によるハーゲラップテンソル積の拡張、シュアー写像との関連によって新しい視点が与えられたと自負している。今後の展開として自由群環のノルムの話題もこれに関係してくるが、これらの計算(自由確率論を用いる)の中で可逆元での近似が大きな意味を持つ事実があり、安定次元1などの次元概念との関係が見える。
著者
八重樫 陵
出版者
学校法人立正大学学園 立正大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

【研究目的】大学入学者選抜において、アドミッション・オフィサーの活用が可能か検証する。【研究方法】【1】大学の教職員を対象として、質問紙調査を行った。(回答数 : 教員120事務職員276)質問項目として、書類選考、面接試験、合否判定をアドミッション・オフィサー(事務職員)が行うことに対して賛成か反対か、無記名で行った。【2】過去に書類選考、合否判定等に関わった経験のある事務職員に取材を行った。また、アドミッション・オフィサーの活用及び大学入学者選抜について、文部科学省の職員へ取材を行った。【研究成果】質問紙調査の結果として、合否判定をアドミッション・オフィサー(事務職員)が行うことに対して、「アドミッション・オフィサー(事務職員)のみで行うことに賛成+教員と一緒に行うことに賛成」の割合が約66-69%と、反対(どちらかというと反対を含む)の割合(約25-31%)を上回ったことが明らかとなった。しかし、アドミッション・オフィサー(事務職員)のみで行うことに賛成の割合は、約9-18%と低かった。アドミッション・オフィサー(事務職員)が合否判定を行うことに「反対+どちらかという反対」の割合は、教員が約28-31%、事務職員が約25-26%と教員がやや高く、反対も一定数の割合を占めた。(割合の数値は小数点第1位を四捨五入・試験制度によって異なる)【今後の課題】質問紙調査の結果、アドミッション・オフィサー(事務職員)の活用については、反対よりも賛成(アドミッション・オフィサーのみ+教員と一緒に行うこと)の割合が高かったが、育成は日本では殆ど進んでいないのが実情である。また、アドミッション・オフィサーの活用が進んでいるアメリカと違い、日本では、多くの大学で最終的な合否判定の権限は大学教員にある。今後、合否判定にアドミッション・オフィサーを活用するためには、教員の同意を得ることが大きな課題として挙げられる。
著者
長谷川 紀幸
出版者
国立大学法人 横浜国立大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

2012年中教審答申では「生涯学び続け主体的に考える力を育成する」ために「学修時間の増加・確保する」ことが重要であると強調されている。一方、大学教員が、担当する授業科目を対象にした教育活動を記録する「コース・ポートフォリオ(以下CPf)」は授業実施のリフレクションを促し、授業改善に有効なツールである。(Cerbin W. 1994、酒井ら2012)CFfは授業デザイン、教授プロセスと共に学生の「書く・話す・発表する等の活動」も記録・蓄積することから、「書く・話す・発表する等」の学習活動を促進・深化するアクティブラーニング(以下AL)の支援に応用することも考えられる。本研究ではCPfが教員の授業改善だけでなく、ALへの援用によって「学修時間の増加・確保する」こともできることを明らかにすることを目的とする。本研究では、(1)当該補助金で出張した「大学教育学会」「金沢大・大学教育開発・支援センター」「東北大・大学教育支援センター」「大学プロフェッショナルセンター」での調査によりALおよびCPfの事例について情報収集を行った。(2)当該補助金で購入した物品を以下のように使用してCPf作成用の授業記録データの収集、映像取得・編集・蓄積し、教材を作成した。またUSBメモリ等に講義の音声・映像を記録し、「音声認識SW」により講義録を作成した。とれらの授業記録データから作成した簡易的なCPfを参照し、HDDに保存した高精細画質の講義録画データを「映像編集SW」等によりALに活用できる教材を作成した。(3)既存の学習支援システム上で作成した教材をAL型の授業に援用し、昨年度の比較によって効果を検証した。その結果、CPfから作成した教材を援用した授業では昨年、一昨年よりも学生の出席率および授業時間外学習の時間が向上した。これは学生の授業への参加の動機づけと学習意欲の向上に対し、CPfから作成した教材が授業内容を以前よりもより反映したものとなったことで影響を与えたためである。このようにCPfは教員の授業改善に有効であるだけでなく「学修時間の増加・確保する」(中教審)など学生の学習への動機づけと学習意欲の向上にも有効であることが言える。