著者
赤羽根 良和 宿南 高則 篠田 光俊 中宿 伸哉 林 典雄
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.527-533, 2010-06-15

要旨:外固定後早期より体幹伸筋群の維持,強化を目的とした運動療法の実施が,脊椎圧迫骨折後の椎体の圧潰変形進行の抑止効果として有効であるか否かについて検討した.対象は骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折53例とし,外固定と運動療法を行った運動療法群26例と,外固定のみを行った非運動療法群27例に分類した.年齢,性別,骨密度慈恵医大分類,骨折形態は両群間に差はなかった.椎体の圧潰率は,受傷後3か月,6か月において運動療法群で有意に低い値であった.Th12,L1の胸腰椎移行部での椎体の圧潰率は,受傷後6か月において運動療法群で有意に低い値であった.脊椎圧迫骨折後の治療の原則は,早期診断,早期外固定により,椎体の圧潰変形の進行をできる限りくいとどめることである.体幹伸筋群の筋力低下は,その後の脊柱後彎変形を加速化させる要因となるため,外固定後早期から体幹伸筋群を維持,強化し,脊柱姿勢を維持しておくことが重要である.今回実施した体幹伸筋群の強化方法は,椎体の圧潰変形の進行を抑止する,有効な保存療法の手段と考えられた.
著者
川又 基人 土井 浩一郎 澤柿 教伸 菅沼 悠介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.1-16, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
48
被引用文献数
1

日本南極地域観測隊の測地定常観測による有人航空機で撮影されたアーカイブ空中写真に対し,Structure from Motion多視点ステレオ写真測量(Structure from Motion with Multi-View Stereo Photogrammetry: SfM–MVS)処理を行うことで,精密な数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)の作成を試みた.その結果,東南極宗谷海岸のスカルブスネスにおいて,氷食微地形や基盤岩の節理といった微起伏をも判読可能なDSMを作成できた.作成したDSMには,SfM-MVS処理特有の歪みが確認されたが,歪みの3次元曲面トレンドを推定し補正することによって,歪みを軽減することができた.また,今回作成したDSM(画像取得年1993年)と国土地理院作成のDSM(画像取得年2009年)の比較から,露岩上の氷河湖において各DSMの平均二乗誤差を大きく上回る20 m以上の水位変動が起きたことが明らかとなった.本手法で作成したDSMは,地形研究はもちろん氷床質量収支や氷床縁監視などの地球環境変動研究の基礎データとして応用が期待できる.
著者
土樋 祐希
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.610-613, 2020-05-15

ETロボコンは組込みエンジニア育成を目的としたソフトウェアコンテストである.使用するロボット(走行体)を同一とし,設計を評価するモデル審査を行う点が大きな特徴である.競技とモデル審査を合わせた総合成績を競うことにより,実践的なソフトウェア開発のスキル向上が狙いである.時代により必要とされる技術も変化しており,ETロボコンも課題を変えている.2019年はAI/IoTが普及する現在に対応するため,画像処理/AIなどを活用する課題とした.約8割の参加者がモデリングに関する学びを得たと回答しており,AIや画像処理に初めて取り組んだという参加者の声も多くあった.このようにETロボコンはスキル向上の場を提供していると言える.
著者
川名 好裕
出版者
立正大学心理学研究所
雑誌
立正大学心理学研究所紀要 (ISSN:13482777)
巻号頁・発行日
no.9, pp.89-101, 2011-03-21

Three hundred forty-four young female students rated the interpersonal attraction of 40 different various male pictures. They also rated the degree of desires to be the friend, the lover, the sex partner and the marriage partner. Factor analysis extracted 4 different kind of attraction, which are the beauty attraction, the healthy attraction, the interpersonal attraction, and the social attraction. Making these 4 different attraction factors as independent variables, and the degrees of desired relationships with the male picture stimuli as the dependent variables, the stepwise multiple regression analysis were conducted.The standardized multiple regression coefficients showed the importance of the kind of attraction determining the degree of desired relationships (Friend, lover, sexual partner, marriage partner). The beauty attraction is most valued in love and sexual relationships. The social attraction is most valued in the marriage relationship. The interpersonal attraction is valued most in the friend relationship. The kinds of attraction are valued differentlyaccording to the kind of desired relationships.
著者
岩佐 一 石井 佳世子 吉田 祐子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-047, (Released:2022-10-28)
参考文献数
53

目的 「健やか親子21(第2次)」では,父親の育児参加の促進が目標のひとつにあげられており,積極的な促進が望ましい。父親の育児参加の関連要因を明らかにすることによって,父親の育児参加を促進するための施策に資する知見を提出できることが考えられる。本研究では,子育て期の父親を対象として調査を実施し,性別役割分業観ならびに母親からのソーシャルサポートと父親の育児参加の関連について検討することを目的とした。方法 インターネット調査会社に委託し,3か月~6歳の子どもを養育する父親360人(25~50歳,全て常勤職員)を対象としてインターネット調査を実施した。目的変数として,「父親の育児・家事参加尺度」(11項目,4件法,例「子どもの世話」,「料理」)における「育児」得点,「家事」得点を,説明変数として,性別役割分業観(「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」,4件法)ならびに母親(父親の配偶者・パートナー)からのソーシャルサポート(評価的サポート,情緒的サポート,手段的サポート)を,統制変数として,父親の年齢,母親の就労状況,子どもの人数,末子の年齢,保育園・幼稚園の利用,育児支援サービスの利用,低い経済状態自己評価,平日の労働時間,夫婦関係満足度を測定した。従属変数として「育児」得点,「家事」得点を,独立変数として性別役割分業観とソーシャルサポート,性別役割分業観とソーシャルサポートの交互作用項,上述した統制変数を一斉投入した重回帰分析を行った。結果 分析対象者は360人であった(平均年齢36.8歳,標準偏差5.6)。重回帰分析の結果を以下に記す。性別役割分業観は,「育児」得点(β=−0.103),「家事」得点(β=−0.125)と有意に関連した。評価的サポートは,「育児」得点(β=0.142),「家事」得点(β=0.199)と有意に関連した。性別役割分業観・手段的サポートの交互作用と「育児」得点との関連が有意であったため(β=0.176),単純傾斜解析を行ったところ,性別役割分業観が高い者では,手段的サポートと「育児」得点との関連が有意であった(β=0.242)。結論 平等的な性別役割分業観を持つ父親,評価的サポートを受ける父親は育児参加する傾向にある可能性が示唆される。また,伝統的な性別役割分業観を持つ父親において,手段的サポートを受ける者ほど育児参加する傾向にある可能性が示唆される。

2 0 0 0 OA 褐色細胞腫

著者
竹原 浩介 酒井 英樹
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.175-179, 2014 (Released:2014-10-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

褐色細胞腫はカテコールアミンを産生する神経内分泌腫瘍であり,高血圧を中心とした様々な臨床症状を呈する。手術にて治癒可能な疾患であるが,約10%が悪性であり,また病理組織学的な良悪性の鑑別が困難なため,良性と判断されても,術後に再発する症例もある。厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究班により褐色細胞腫および悪性褐色細胞腫の診断基準および診療アルゴニズムが作成され,指針に準じた診療が一般的となっている。褐色細胞腫の術前には十分量のα遮断薬の投与が必要であり,術後24時間は低血圧や低血糖に注意する必要がある。また悪性の可能性を念頭においた長期の経過観察が必要である。悪性褐色細胞腫に関しては確立された有効な治療方法がなく,手術,CVD療法やMIBG照射を組み合わせた治療が施行されている。
著者
京田 亜由美 神田 清子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20180413019, (Released:2018-09-06)
参考文献数
36

【目的】在宅緩和ケアを受ける終末期がん患者の“生と死”に関する体験を明らかにすることである。【方法】予後半年以内で,在宅緩和ケアを受けている患者5名を対象に,半構造的面接法と参加観察法を用いてデータを収集し,Giorgiの現象学的心理学アプローチの方法を用いて分析した。【結果】在宅終末期患者は【残された時間は長くはないと自覚しながらも抱き続ける生への希求】と【逃れられないのならせめて“自然な死”を望む】気持ちから,【生への希求とせめて穏やかな死への望みの間の揺らぎ】となっていた。また在宅療養を支える周囲への感謝と負担感という【生にも死にもつながりうる家族や周囲の人への思い】を抱きながら,【自己を超越した存在】を意識していた。【結論】看護師が患者にそれまでの人生を振り返る問いかけを行うことの有効性と,家族とともに過去の看取り体験への語りを促すことの重要性が示唆された。
著者
石原 智彦 石原 彩子 小澤 鉄太郎 三瓶 一弘 下畑 享良 西澤 正豊
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.238-242, 2015 (Released:2015-04-22)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3

症例は60歳男性で,進行性の認知機能低下と痙攣発作を呈した.頭部MRIにて右前頭側頭葉を中心に広範なT2強調画像の高信号域をみとめた.脳血管造影検査で主要血管は正常であった.Mass effectを呈する画像所見から神経膠腫を鑑別に挙げたが血清,髄液梅毒検査が陽性であり,神経梅毒と診断した.ペニシリン静注にて治療を開始したが,肝障害のため,エリスロマイシンに変更した.2ヵ月間の治療後も認知機能は改善しなかった.経過中に施行した4回の頭部MRIにて,右側優位の進行性高度大脳萎縮を呈した.これらの所見よりLissauer型進行麻痺と診断した.経時的な脳萎縮の進行を確認しえた貴重な症例と考え報告する.
著者
杉中 佑輔 石綿 しげ子 鈴木 正章 堀 伸三郎 中山 俊雄 遠藤 邦彦
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

武蔵野台地の地形については,貝塚(1964)をはじめ多くの研究があり,淀橋台に代表される下末吉面(S面),M1面,M2面,中台面に代表されるM3面に大きく区分されてきた.最近,遠藤ほか(2018)はこの区分を再検討し,もともとの扇状地面を小平面(M1a;植木・酒井,2007)とし,さらにM2面として仙川面,石神井面等を分け,さらにM3面として中台面以外に十条面等を設定した.この武蔵野台地は多摩川の作った扇状地であることが知られているが,武蔵野台地北東端に位置する赤羽台及び本郷台の一部は扇状地の先端部にしては極めて平坦で特異である.貝塚(1964)はこの特異性について,赤羽台及び本郷台は入間川か荒川のような南東に流れた河川の氾濫原ないし三角州ではないかと述べている.杉原ほか(1972)では赤羽台北西端崖周辺での露頭調査及びボーリング柱状図により,東京層の上面に起伏を持ち,関東ローム層と東京層の間に認められる礫を含む砂よりなる赤羽砂層の層厚に変化があることが報告されている.赤羽台及び本郷台を含む武蔵野台地北東部はM2面とされてきたが,国土地理院の5mDEMに基づき作成したRCMap(杉中ほか,本大会),さらに陰影起伏図等を用いた地形解析を行ったところ,従来の考え方とは異なる地形発達が想定されることが分かった.明らかになった地形面としては,本郷台の中にとり残された淀橋台相当の残丘(S面),神田川沿いに西から東に延びる扇状地面を発達させるM1面,石神井川沿いに西から東に延びるM2面(a,bに細分),赤羽台から上野につながるM2面,本郷台と赤羽~上野の狭い台地に挟まれたM3面,石神井川が谷田川に沿って流れていた時代の沖積面などである.平坦な地形で特徴づけられてきた赤羽台をRCMap等で微地形判読を行ったところ,蛇行する流路と微高地に分けられる(流路の面を十条面と呼ぶ).また,王子から不忍池の間では谷田川の低地の両岸に十条面を追跡することができ,根津や東大病院の建つ面と対比することができる.東大構内については阪口(1990)で検討がなされており,病院面はM2面とされていた本郷台よりも低い面で,M3面に相当するものと示唆されている.この十条面を横断するように赤羽台の地質断面図を多数作成し、検討を行ったところ,十条面を挟む微高地を成すM2面構成層とは不連続な谷地形であることがわかった.この十条面は比較的薄いローム層で覆われ,礫層・礫混じり砂層を主体に構成される.さらに王子から不忍池にかけても同様に検討を行ったところ,同様に谷地形が確認された.このように赤羽~王子~根津を結ぶ谷はMIS4と考えられてきたM3面の化石谷であるといえる.この谷を秋葉原方面へ沖積低地地下に追うと,総武線付近で-5m前後に谷地形と礫層が確認される.この谷地形は東京層を穿つもので薄い礫層を伴い,その上部は縄文海進時の波食の効果で削られている.この化石谷は幅300m程度と狭く,荒川が流下したというより入間川規模の河川の流下が考えやすい.しかしながら、上流部は縄文海進時などにおいて侵食されてしまっている.参考文献遠藤邦彦・石綿しげ子・堀伸三郎・中山俊雄・須貝俊彦・鈴木毅彦・上杉陽・ 杉中佑輔・大里重人・野口真利江・近藤玲介・竹村貴人(2018本大会)東京台地部の東京層と,関連する地形:ボーリング資料に基づく再検討.貝塚爽平(1964)東京の自然史.紀伊国屋書店阪口豊(1990)東京大学の土台―本郷キャンパスの地形と地質.東京大学史紀要,第8号,1-34杉原重夫・高原勇夫・細野衛(1972)武蔵野台地における関東ローム層と地形面区分についての諸問 題.第四紀研究,11,29-39杉中佑輔・堀伸三郎・野口真利江・石綿しげ子・遠藤邦彦(2018本大会)レインボーコンターマップ (RCMap)による地形解析とその応用.植木岳雪・酒井 彰(2007)青梅地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),産総研地質調 査総合センター
著者
申 雪寒 長谷川 寿夫 吉野 利幸
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.9, no.18, pp.21-24, 2003-12-20 (Released:2017-04-14)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

The life span of external insulation building which is related to the speed of concrete's neutralization has connection with the air permeability of external insulation method. This study generally measures the air permeability of external insulation method, and examines the restraint effect of neutralization in external insulation method from the accelerating test of concrete's neutralization. In addition, it described the relations between the air permeability of external insulation method and the restraint effect of neutralization.
著者
花輪 知幸
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
大学の物理教育 (ISSN:1340993X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.42-46, 2020-07-15 (Released:2020-08-15)
参考文献数
3

1.はじめに千葉大学では,出張講義やサマースクール,研究室見学,スーパーサイエンスハイスクールへの協力などの他に,本稿に掲げるような,特色ある高大連携活動を行っている.そしてその多くが,
著者
浦上 大輔 浦田 清 布上 恭子 渡会 雅明 浜野 貢 須田 力 中川 功哉
出版者
Japan Society of Human Growth and Development
雑誌
発育発達研究 (ISSN:13408682)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.25, pp.20-28, 1997-07-31 (Released:2010-03-16)
参考文献数
11

The purpose of this study was to investigate the life styles and physical activities of senior high school and technical college students in a snowy region both in snowfall and non-snowfall season. Questionnaires on the life style and physical activity were sent to 1675 students in Hokkaido.The following results were obtained.1) The students went to bed and got up earlier during snowfall season than during non-snowfall season. However, the hours of sleep were almost the same in both seasons.2) More than a half of the students attend to school in snowfall season by different way from non-snowfall season. The commuting time in snowfall season was much longer than that in non-snowfall season.3) More than one-third of the students answered that the amount of their physical activities decreased during the snowfall season. This trend was more noticeable among students who exercised 3 or more times a week than among students who exercised less than 3 times a week.4) For students who did not participate in sports club activities, the shoveling snow in winter was found to be effective to compensate for hypokinetic sensation exercise.5) In snowfall season, students tend to exercise for prolonged time with low frequency and low intensity, however in non-snowfall season they tend to exercise for shorter time with high frequency and high intensity.
著者
當摩 哲也 SHAHIDUZZAMAN MD 宮寺 哲彦 大平 圭介
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

太陽電池のさらなる世界的普及を考えると、高性能化と低コスト化に並び重要なのは長寿命化である。本研究では、エネルギー変換効率20%以上を発現するペロブスカイト太陽電池において、大気下での長寿命化技術の構築に取り組む。本研究では、①長寿命ペロブスカイト材料の探索とその劣化メカニズムの解明、②ペロブスカイト層にダメージを与えないCat-CVDによるドープしたSi層のETLとHTL層の開発を推進する。さらに、①と②を組み合わせた③劣化因子をすべて排除した極長寿命ペロブスカイト太陽電池の実現(Si太陽電池同等レベル目標)を本研究で達成する。

2 0 0 0 OA 酒母 (2)

著者
黒須 猛行
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.414-424, 1998-06-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
13
著者
野口 啓示
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.107-118, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

平成13年度の全国の児童相談所における児童虐待相談は、10年前と比べると21倍の23,274件となった。虐待は社会問題であり、被虐待児およびその親に対するケアやサポートは大きな関心事である。本稿においては、家族の再統合を目指し、虐待をした親のケアとして行ったペアレント・トレーニングの実践について論究したい。ここで用いたのは行動療法を基礎としてペアレント・トレーニングとしてアメリカで開発されたCommon Sense Parentingである。 Coercion theoryやsocial learning theoryを基礎として6セッションからなっている。虐待により施設入所となった親に対して行った実践報告を行いながら、虐待の防止・再発防止という取り組みへの本プログラムの有効性やプログラムの特徴について論究する。
著者
高階 絵里加
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.100, pp.13-32, 2011

現在,自然科学の分野においては,可視的な身体的特徴にもとづく人間の分類に大きな疑問が投げかけられている。いっぽうで,一般社会においては,とりわけ肌の色の違いをもとにした「白色・黄色・黒色」の三分類がひとつの典型的な人種カテゴライズの方法として根強く定着している。本小論では,視覚的伝統における人種の三区分の一つの例として,<東方三博士の礼拝〉の図像をとりあげる。〈東方三博士の礼拝〉は,西洋美術の中で最も数多く絵画や彫刻に制作され,親しまれている図像のひとつであるが,造形美術において「肌の色による人間の三分類」が典型的にあらわれる例でもある。その背景には「異邦人を含む全人類を包括する普遍的宗教としてのユダヤ=キリスト教」の思想が存在し,とくに肌の色の描き分けによって三人の博土が人類の三つの民族を表すという美術上の表現は十四世紀から十五世紀にかけてまず北ヨーロッパにおいて,ついでイタリアや他の国々で定着する。とくに十五世紀には三人の中の一人が黒人主として描かれる例が増えはじめ,西洋社会において一般にネガティブな価値を与えられてきた「黒い肌」が<東方三博士>においては<高貴な異邦人>の象徴となっている点は興味深い。ここから近代的「人種」概念以前の時代の異邦人表現としての<東方三博士の礼拝>図像の特徴を考える。The categorization of race by visible distinctions is approached with skepticism by scholars in the field of natural sciences, However, society generally and stereotypically categorizes race into three different skin colours- white, yellow and black- and this view is still quite widespread, This paper describes and analyzes the Adoration of The Three Magi, a subject very frequently represented in Western paintings and sculptures, as typical examples of such visual representation that clearly emphasize the different skin colours of the three subjects, According to the Judeo- Christian universalist tradition, the three magi represent all people- races- on earth, including the Gentiles, During the fourteenth and fifteenth centuries, the three magi were a common expression used to symbolize all mankind, first in northern Europe, then later in Italy and other countries, In the fifteenth century, one of the magi was represented as a black prince. Although the colour black and black skin have been given negative connotations in the European tradition, the black prince in the Adoration of The Three Magi is symbolized as a noble Gentile, If the race conception is seen as essentially modern, the Adoration of The Three Magi then represents the expression of the various world races in the pre- modern era.