著者
吉田 章
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

昭和61年度の調査では, 自然教室推進事業を中心とした各地での野外教育活動の実態について, 各教育委員会を対象とした質問紙による調査を行ない, その結果, 期間・指導者・内容・費用を初めとした多くの問題点が明らかとなった.本年度においては, これらの野外教育活動が実際に展開されている場として, 全国の少年自然の家および青年の家を対象とした野外教育活動の実態についての調査を質問紙によって行うと共に, それらの中でも代表的な施設数ヶ所において実踏調査を実施し, 実際にどのような活動が展開されているのかについて観察調査を行った. また, 社会教育事業として先鞭的な影響を与えている「無人島生活体験キャンプ」(10泊11日間)に研究調査のために同行し, 現在多くの組織で問題となっている期間・指導者・内容そして成果についての観点から調査を行った.それらの調査の結果, 施設を対象とした調査においては, 利用形態として3泊4日の日程で, 野外観察・登山・オリエンテーリング・飯盒炊飯・キャンプファイアーのプログラムを行うといったパターンに典型化することができ, また問題点としては, 利用団体におけるねらいや目的意識,またそれらに伴なう活動内容といった点における主体性に欠けていることが明らかとなった.一方, 無人島生活体験キャンプにおける調査では, 10泊11日間という期間が子供達の生活適応および活動を通しての成果といった観点から有意に効果的な働らきをもたらしていることを明らかにすることができた.今日まで野外教育は, 総合的な教育活動として全ての人格形成に資するものとしてとらえられてきたが, 今後は野外教育活動の普及に伴ない, ねらいを絞る必要性を明らかにできた.
著者
松下 まりも 田原 秀晃
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

樹状細胞の分泌するサイトカインであり、申請者らがその抗腫瘍効果と機序について報告したinterlukin-23(IL-23)を中心に検討を進めた。IL-23-in vivo electroporation(IL-23-IVE:IL-23 plasmid vectorの全身投与)は、担癌マウスにおいて、有意な抑制効果が認められたものの完全治癒には至らないマウスもいる。そこで、本研究課題では、IL-23-IVEの抗腫瘍効果を増強させ、担癌マウスを完全治癒させる治療法の開発を目的とした。本研究課題では、近年明らかにされてきているがんに対する免疫応答を抑制する経路に着目し、IL-23-IVEの抗腫瘍効果を増強するために、がんに対する免疫応答を抑制する経路に対する活性化抗体あるいは阻害抗体を用いて(CTLA-4、PD-1、TIM-3)、IL-23-IVEのがんに対する免疫療法の抗腫瘍免疫応答が増強されるか否かについて検討した。手法としては、ワイルドタイプのマウスを用いて、皮下腫瘍モデル(腫瘍径:12~14mm(長径))を作製し、IL-23-IVE(コントロール群は、EGFP-IVE、plasmid vector: 100mg)を行い、CTLA-4、PD-1、TIM-3を、それぞれ単独もしくはコンビネーションで併用投与し、その抗腫瘍効果について検討した。本年度は、生存率の検討のみ行った。その結果、IL-23-IVEにPD-1を単独で併用した群、IL-23-IVEにPD-1とTIM-3をコンビネーションで投与した群で、累計生存率が上昇した。
著者
金川 弘司
出版者
北海道大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1983

生物材料や受精卵の凍結用に冷却曲線を自動的にプログラムできる装置は数種類開発されているが、これらの装置は植氷時の制御が不十分であり、試料を入れてある冷凍室を開放して、外部から冷媒や冷体で刺激を加えたり、氷晶片を投入したりして植氷を行っているために、冷凍室の温度が変動する欠点がある。また、植氷に伴う著しい温度の上昇がみられるのが普通である。これらの温度変動が凍結しようとする受精卵に何らかの悪影響を与えるものと考えられる。今回の研究で開発した凍結装置は、恒温槽、温度制御盤および加圧式液体窒素容器からなっている。恒温槽は、断熱槽、液体窒素槽、ヘリウムスペースおよびフレオン槽からできている。フレオン槽は気相部および液相部(フレオン11)の2つに分かれ、両部の冷却は液体窒素の冷熱によって行われる。液体窒素槽からの冷熱はヘリウムスペースに密封されている熱交換用ヘリウムガスによって、一定速度でフレオン槽内に伝達される。この冷却とフレオン槽内ヒーターの作動は槽内の温度を測定するモニター用温度センサーからの読み取りを通じてヒーター電流をPID制御(比例積分微分動作制御)する温度制御盤のマイクロコンピューターによって制御され、設定した任意の温度と冷却速度が保持される。この温度と速度は数段階に分けてキー入力できるようにプログラミングされている。気相部には凝固点温度(植氷)を予め検知できるように温度測定センサーが付属されており、液相部は温度勾配がほとんどないように撹拌機によって常に撹拌されている。本凍結装置は、植氷時に工夫を加えて、冷凍室を開放したり、外部から操作することなしに植氷を行い、植氷に引続いて起る温度上昇を1.0°C以内に抑えることができた。また、下降時の温度も変動範囲が0.1°C以内に制御できた。本装置を使用して、耐凍剤としての各種糖類および急速凍結法の検討を行った。
著者
中馬 真里亜
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1、研究目的国立美術館の現状分析と美術館との連携による企画展覧会を想定した教育カリキュラムを開発・実践する。2、研究方法(1)国立美術館との連携国立美術館(今年度は2館を抜粋)の設立経緯と教育普及活動の情報収集を行った。今年は京都国立近代美術館の学習支援担当者より、研究に対して多大な理解を得られ、積極的に情報交換ができた。その結果、生徒がテキストに迫る鑑賞教育を美術館で体験することによって、美術作品やその作者、学芸員からの学びを授業に還元できないか検討するに至った。そして、美術館との協同を基盤として、授業で子どもが作品について語る活動に効果が期待できるプロジェクトの計画を立てた。(2)学校・美術館・アーティストの協同京都国立近代美術館(1F講堂、3F企画展示会場、4Fコレクション・ギャラリー)を会場にして、子ども達が学芸員や作家の作品についての語り方の多様性に触れ、語り手の見方や作品への理解がどのようなテキストとなって現れるのかを知ることを目的としたギャラリートーク(館長と、5人の学芸員による10分間の作品解説)を展開する活動を実施した。実施期間美術館では企画展が開催されることになっており、その出品参加であるやなぎみわ氏が参加の意向を示した。会場に展示されてある作品の作者による45分間のアーティストトークが実現した。(3)アーティストのワークショップの授業導入美術館担当者から、授業の目的に近いと判断されるアーティストの活動の紹介を受けて、生徒活動に効果が期待できるアーティストのワークショップを授業の導入で行った。生徒が美術館の作品や実際に会ったアーティストの活動に触れながら、そのよさを、生徒自身が学校の授業に還元していくカリキュラムを実践した。3、研究成果美術館教育活動との具体的な連携を実践し、授業とのリンクの仕方を検討する上で必要な記録を得られた。今後、美術館のコーディネート力が学校教育に様々な働きかけとなる活動の具体的な方法を立案できる。
著者
出川 哲朗
出版者
公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

17世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパには多数の中国の工芸品が流入して、宮殿や貴族の館に収められている。そして、これらの影響を受けた中国風の絵画や工芸品がヨーロッパで制作された。これらはシノワズリーと呼ばれる流行となっていった。ヨーロッパ各地に残されている輸出用の中国陶磁コレクションは膨大な数量であり、そのなかに、日本陶磁も含まれている。ドレスデンのアウグスト強王が収集した伊万里磁器コレクション,中国陶磁コレクション、マイセン磁器コレクションは、収蔵品台帳に記されていr。宮殿に残されている伊万里磁器が中国の輸出陶磁の流れの中で、どのような様相であったのかを知ることができる。
著者
鈴木 一人
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本年度は中国における宇宙開発を中心に研究を進める予定であったが、昨年度に引き続き、本年度の前半はアメリカ・プリンストン大学の国際地域研究所への長期出張が継続しており、現地で最新の国際政治学の研究に触れながら、グローバル・コモンズとしての宇宙空間のガバナンスについての研究を行った。しかし、本年度の途中で国際連合安全保障理事会の下にある1737委員会(通称イラン制裁委員会)の専門家パネルの専門家として任命されることとなり、やむなく本研究に対する補助金の廃止を申請することとなった。とはいえ、本年度も多くの研究成果が残すことが出来た。宇宙関連の政官学の主要人物が世界中から集まるアメリカのNational Space Symposiumで本研究の報告をすることが出来たほか、ヨーロッパ研究の世界最高峰と言われるEuropean Union Studies Associationで宇宙のグローバルガバナンスにおけるEUの役割について報告したほか、日本EU学会においても、共通論題の報告者として本研究の成果を発表した。また、インドのマニパル大学において、日印戦略対話の一環として、インドとの宇宙協力の問題について議論し、新興国であるインドと日本の関係について論じた。著作としては『国際安全保障』に「宇宙空間の軍事的重要性の高まりと宇宙安全保障」として、宇宙空間のガバナンス問題を取り上げ、途上国・新興国の台頭に伴うルール作りの必要性を論じた。また、外務省の外郭団体である国際問題研究所のグローバル・コモンズと日米同盟プロジェクトに参加し、その報告書の原稿(近刊予定)を執筆し、ミネルヴァ書房から出された『国際関係・安全保障用語辞典』の宇宙関連の項目を合計11項目担当した。
著者
馬場 敏幸 苑 志佳 相澤 龍彦 河村 哲二 近藤 章夫 兼村 智也 折橋 伸哉 佐藤 隆広 田中 美和
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

今年度はブラジルサンパウロ、ジョインビレ、カシアスドスルを訪問した。ジョインビレとカシアスドスルはこれまでの調査で判明したブラジルの金型クラスターである。ジョインビレはドイツ系移民による工業都市であり、ブラジル第一の金型集積地である。ブラジル金型工業会もジョインビレに位置する。ジョインビレの金型技術は大手配管メーカーと大手家電メーカーの部品成形およびそれらの成形のための金型作成を核として形成されていった。やがて蓄積された技術をもとにして自動車など他産業向けの金型作成も盛んに行われるようになった。ジョインビレでは金型メーカーおよび中核企業である家電メーカーの金型部門を訪問した。金型はドイツ・マイスター風の金型製作手法がとられ、製作される金型品質はグローバルレベルであった。カシアスドスルはプラスチック射出成形が盛んなイタリア系の移民都市である。金型製作はイタリアカロッチェリア風の金型手法がとられ、製作される金型品質は高かった。今年度の訪問により、これまでの企業のグローバル化および企業の成立・調達・技術系製などの経営学的・工学的知見に加え、ブラジル金型産業クラスターの成立という経済地理的観点からも大きな知見が得られた。特に興味深かった点は、金型クラスターごとに異なる形成経緯である。すなわち、コスモポリタン的な形成がなされたサンパウロABC地域は1950年代以降の自動車産業振興に伴って金型クラスターはコスモポリタン的に形成されたが、ジョインビレ地域はドイツ系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成され、カシアスドスル地域はイタリア系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成された。ブラジルの金型産業の形成・発展に「移民」のキーワードが重要であるとの点が明らかになった。これはアジア地域の地場民族による金型産業・クラスター形成とは異なるタイプの金型産業・クラスター形成であり、大きな発見であった。
著者
金 誠
出版者
札幌大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は植民地朝鮮における朝鮮人知識人層ならびにスポーツ選手らのスポーツ活動が総力戦体制期の対日協力行為に如何に結びついていったかについて明らかにするものであった。本研究ではとりわけ植民地朝鮮において英雄となったマラソン選手の孫基禎に着目し、民族の英雄となった孫基禎の対日協力行為を当該期の朝鮮人知識人の近代的志向性と複雑に絡まり合うなかで生起してきた行為であったと結論づけ、植民地下の朝鮮半島におけるスポーツと対日協力の問題について考察を行った。
著者
中尾 麻伊香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は研究目的のなかでも原爆投下以前から以後にかけて言説がどのように引き継がれ変容していったかという点を考察し、原爆投下以降を扱った先行研究との議論の接続を試みた。具体的には以下のように検討をすすめた。(1)原爆投下以降の原爆/原子力に関する言説を検討した。新聞や雑誌から、原爆/原子力に関する記述を調査し、その変遷を捉えた。この内容を2011年12月に東工大の火曜ゼミで「核をめぐる言説と日本の科学者:戦時中から戦後にかけて」というタイトルで報告した。(2)原爆調査に関する先行研究を整理し、原爆調査の歴史研究における課題を検討した。この内容を2011年9月に生物学史研究会夏の学校で「放射線をめぐる言説:原爆調査からビキニ事件まで」というタイトルで報告し、『生物学史研究』に投稿した。また、長崎原爆資料館、永井隆記念館、長崎大学医学部などで資料調査を行った。(3)1940年代後半の全国紙と地方紙にあらわれた原爆症に関する言説を検討した。原爆被害をめぐる言説が全国紙と地方紙で異なることを確認し、その背景にある力学を分析した。この内容を2012年3月にAssociation for Asian Studiesの年会で"Radiation Sickness, Popular Medical Discourse, and Social Discrimination in Early Postwar Japan"というタイトルで報告した。(4)研究目的の一つに挙げていたアーカイブへの貢献については、故・西脇安(放射線防護)の資料整理を行い、資料のアーカイブ化に尽力した。国際シンポジウム「核時代の記憶と記録-原爆アーカイブズの保存と活用-」に参加し、日米のアーキビストとの交流をはじめた。以上の研究と平行して、これまでに得られた成果をまとめ博士論文の執筆を開始した。
著者
藤森 智子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

台湾は1895年からの50年間、朝鮮は1910年からの35年間、日本の統治下に置かれた。学校教育に依拠した日本語普及は低い就学率のため低迷し、それを打破するために社会教育が推進された。台湾では1930年に国語講習所が、朝鮮では1934年に簡易学校が開設された。これらは同様の施設ではないが、学校教育を補完する点で共通している。1910年代以降の教育令をはじめ、政策上の共通項のある両植民地であるが、社会教育においては独自性もみられる。統治末期の日本語普及率の差異は大きく、その要因は政策のみならず日本統治以前のそれぞれの社会における書き言葉や共通語の有無など、政策以外のところにも求められる。
著者
中島 正愛 BECKER Tracy BECKER Tracy
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

今世紀中盤までにはその襲来が確実視される南海トラフの巨大地震や首都直下地震に対する備えとして、地震動のスペクトル特性に寄らずに地震動入力を低減する効果が期待される、3次元凹型曲面摩擦機構を有する多段階剛性免震装置の免震建物への適用が提案されている。多段階剛性免震装置による共振応答低減効果を評価すること、通常の免震建物と新型免震装置を有する免震建物それぞれに対して極限挙動を定量的に評価した設計方法を提案すること、を本研究の目的とする。研究2年目である本年度は、多段階剛性免震装置の設計法、具体的にはそれぞれの剛性領域での最適挙動を確保するために付与すべき各段階(中小地震時、大地震時、極大地震時)の剛性の決定方法を、関連する実験や数値解析による知見を参照して考案した。とりわけこの免震装置を特に高層建物に適用する場合を考え、高層免震における懸念材料である、転倒モーメントによって生じる免震装置への高圧縮軸力に対する性能、同じく免震装置への引張力に対する性能、極大地震下における免震層変形に対する性能、同じく上部構造の損傷に対する性能を検討した。この結果、多段階剛性免震装置の特徴である引張・圧縮力に対する安定した挙動を踏まえれば、極大地震時に対応する剛性はできるだけ大きいほど全体としての性能(安全性)が向上することを突き止めた。また、高層建物に免震を適用することをためらう米国にその得失を提示するために、典型的な高層免震建物に対する詳細設計・解析を実行した。その結果、変位応答としてみれば免震化による効果は極めて限られているが(せいぜい20%)、加速度応答としてみたときには50%~70%の応答低減が可能になることを明かにし、とりわけ安全性ではなく機能性の向上という視点に立てば、高層構造物であっても免震効果は決して低くない、という所見を得た。
著者
木股 文昭 伊藤 武男 田部井 隆雄 小川 康雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

2007年から頻繁に、インドネシアのスマトラ北部のアチェ州において、GPS観測とMT観測を実施し、2004年スマトラ超巨大地震の地震時の地殻変動と地震後の地殻変動、およびスマトラ断層周辺における地殻変動と比抵抗構造を検出・推定した。地震時の変動としてインド洋沿岸部で3mの南西方向への水平変動を、地震後の変動として同様に南西方向へ最大80cmに及ぶ水平変動と50cmに達する隆起を観測した。これらの変動から、2004年スマトラ地震の滑り分布を推定すると、主たる滑りが浅部ではプレート境界から上部に分岐した上部スラスト断層で発生していると推定された。これはニアス島において観測された1mに達する大きな隆起運動とよく一致する。また、地震後に観測された余効変動、とりわけアチェ州のインド洋沿岸で観測される隆起から、沿岸近くのプレート境界深部でafter slipが地震後に進行していると推定される。年間10cmを超える地殻変動のなかに、スマトラ断層の滑りに起因すると考える変動が見つかった。余効変動を簡単にモデル化で除去し断層での滑りを推定すると、アチェ州北部で深さ13kmあたりが固着し、浅部でクリープ運動が推定された。また断層周辺では低非抵抗域がMT観測から推定され、断層周辺で破壊が進行していることが明らかになった。
著者
黒岩 厚
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

1.予定肢芽領域におけるFgf10発現開始過程でのHox遺伝子の関与を、ニワトリ胚への電気穿孔法による遺伝子導入を用いて解析した。R212abエンハンサーに対してHoxb-6はWnt依存性の転写促進活性を示し、Hoxa-9は逆に抑制作用を示した。Hox6発現領域においてR2依存性Fgf10発現惹起され、後方にあるHoxa-9発現領域で抑制されるため、予定肢芽領域のみでFgf10発現が拘束され肢芽が形成されることが明らかとなった。肢芽の位置指定過程でHoxがFgf10発現制御を介して重要な役割を果たすことが初めて示された。2.軟骨魚類、肉鰭魚類のシーラカンスや羊膜類にはFgf10遺伝子中にR3が存在するが、鰭にわずかの骨要素しか持たない真骨条鰭魚類のFgf10には存在しない。条鰭魚類の中でも鰭に比較的大きな骨要素を持つ分岐鰭亜綱のポリプテルスのゲノム中にR3配列があり、これがFgf10遺伝子中に軟骨魚類や羊膜類同様の位置に存在した。これらから肢芽間充織エンハンサーR3の存在が鰭原基間充織の成長期間と大きく関連することが示唆され、この仮説の実験的検証の必要性が示された。3.染色体上のエンハンサーの機能を探るために、R2の387bp(ΔR212L2)、R3の531bp(ΔR31C2)を欠失したマウスを作成した。これらについてFgf10KOとのトランスへテロ胚におけるFgf10発現に与える影響を解析した。Fgf10KO/Δ212L2胚では耳胞発現は変化しないが、肢芽前方間充織の発現が特異的に低下し、肢芽が一過的に低形成となった。これからR212L2は肢芽初期エンハンサーとして機能することが示された。Fgf10KO/Δ31C2胚では肢芽間充織発現が特異的に低下していたことから、R31C2は肢芽間充織エンハンサーとして機能し、他にも類似の機能を担う配列が存在することが明らかになった。
著者
垣本 直人
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、超高圧電力系統の事故時復旧操作を、エキスパートシステムにより自動化する研究を行っている。復旧操作は、初期電源の確保、送電系統の充電、発電機の起動・並列、負荷への電力供給などの各段階から成っている。本年度は、負荷への供給が進むにつれ、送電設備に発生する過負荷について検討を行った。以下に研究結果をまとめる。まず、検討の対象としている超高圧系統について、送電線および変圧器の具体的な送電容量を調ベ、オブジェクト形式で記述した系統データに追加した。そして潮流計算により送電線および変圧器に流れる電力量を算出し、これを該当設備の容量と比較することにより過負荷の有無を検出できるよう機能拡張を行った。つぎに文献調査により、過負荷の解消法について調ベた。解消法には系統切替、発電調整、負荷切替、負荷制限などがあり、これらをメソッドとしてシステムに組み込んだ。また、設備過負荷時に適用する具体的な方法は設備ごとに異なるので、設備ごとにルールを設けて個別に対応するものとした。例えば、ある送電線の過負荷を負荷切替えにより解消するには、下立系統の変電所負荷をどのように切替えるかの知識が必要であり、これは送電線によって異なる。最後に対象系統が全停電となった状態からの復旧操作をシミュレーションにより検討した。その結果、送電線1回線や変圧器1台が使用できないような状況下では、過負荷が発生することは稀であることが判明した。また、仮に過負荷が発生したとしても、本エキスパートシステムに組み込んだ機能により解消することができ、さらに負荷制限にまで追い込まれることは検討の範囲内では起こらなかった。以上により過負荷の解消については所期の目的を果たしたと考えている。今後は、潮流計算だけでなく、安定度計算プログラムなどもシステムに組み込み、平常時操作についても検討を行っていく計画である。
著者
彼末 一之
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

野球の投手が投じるボールの回転は投球のパフォーマンスに大きく影響すると考えられるが,これを決定する身体動作は明らかになっていない.そこで申請者は高速度ビデオカメラを用いて手,指の動作とボール回転を同時に測定するシステムを開発し,手,指の動きとボール回転との関係,ボールの"ノビ"を表す物理的性質について検討した.その結果,リリース直前に指の動作は,直球の回転速度に強く影響することが分かった.また“ノビ"が良いとされる投手の投じる直球は回転速度が高く,回転軸角度が純粋なバックスピンに近いものであった.
著者
里村 雄彦 林 泰一 安成 哲三 松本 淳 寺尾 徹 上野 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2004年7月および2005年3月の2回にわたりカトマンズ(ネパール)のネパール水文気象局本局を訪問し,既存の気象・気候データの所在,保存方法・形態,デジタル化の手順や収集の可能性について調査を行った。また,2004年10月7日には,第1回の現地調査の結果をふまえてアクロス福岡にて国内打合せ会議を開き,第2回現地調査項目および将来の国際共同研究計画への戦略について議論を行った。これらの内容は以下の通り:1)国内会議・南アジア(特にネパール・バングラとインド北部)における雨とそれに関わる大気状態の観測に取り組む必要がある。世界的に見て顕著な降水がある領域であるが、観測・データの制約、研究の少なさのために、まだ基本的な事実自体が十分に解明されていない状況にある。改めて降水の実態把握にこだわる意味は大きい。また,降水量予測もターゲットにするべきであろう。・新しい測器・データの利用と、特別観測、更た新しい研究ツールとしての数値モデルを有効に活用することを通じて、南アジアの降水メカニズムに関する知見を深めていくことを重視すべきである。2)現地調査・地上観測点は多いが,高層観測は全く行っていない。24時間観測をしているのはカトマンズ空港1地点のみであり,他は夜間の観測を行っていない。多くの観測点は日平均値,最大・最小のみの報告を行っている。・最新の自動気象観測装置が数点入っているが、試験導入という位置づけであり,機器の維持・整備の状況に差が大きい。カトマンズ市内の機器を調査した結果,カトマンズ空港以外のデータは研究に利用できない可能性が高い。・高層観測を今後の共同研究で実施する重要度は大きいが,技術的な困難も大きい。・DHMのShrestha長官と面談し、低緯度モンスーン地帯の急峻山脈南山麓という世界的に特殊な環境に起因する気象擾乱や災害について情報交換を行った。また、今後の国際共同研究に向けて具体的な観測項目、そのための事務的な準備などについても打ち合わせた。なお,これらの結果をふまえて実際の国際共同研究を行うため,平成17年度科学研究費基盤Aの申請を行った。
著者
藤本 登
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、学校教育の教科学習の中でエネルギー環境教育を行う方法を示し、温暖化防止の観点から技術評価力や実践力を調べた。その結果、中学校におけるロボット教材を用いた技術科の授業として登坂型省エネルギーロボットの製作が提案された。また照明製作の授業で生徒の地球温暖化防止活動を活発化させるためには、照明比較実験などの体験活動のみならず、ふりかえり活動が有効であることが示された。さらに公立学校の光熱水量を調査し、使用量の多い項目を地球温暖化の授業テーマとする方法を提案した。また水がテーマとして選ばれた学校に対して、節水と省エネルギーの関係を理解させるために開発された水処理実験装置を用いた授業実践を行った結果、最大40%の節水効果が得られた。これに対し、高校生や大学生を対象とした原子力ワークショップから、専門家との対話や関連知識の提供のみではエネルギーや原子力の概念化は困難であることが示され、教師は専門的な知識より、ファシリテーター能力や解説能力が必要であることが連想法によって示された。また電源やエアコンを例として技術評価の能力を育成するための支援教材が、一対比較法を利用して開発された。この中で中学校技術科の授業実践では、2次元動作解析システムを利用した教材が、工具操作(鋸挽き)技能の向上と授業時数の短縮化に寄与したことから、教科に温暖化防止活動を入れることが可能になった。
著者
杉浦 藤虎 伊藤 和晃
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ロボカップへの参加は問題解決能力の育成や,高度な技術力の習得に効果が高いことが知られている。一方,世界大会はコミュニケーション力やプレゼンテーション力を高められる貴重な機会でもある。ロボカップで好成績を残すようになると,出前授業としてロボットのデモンストレーション依頼が増えてきた。しかし,ロボカップに参加する学生は社交的で派手な学生は少ない。そこで,校外において学生自ら開発したロボットを積極的にアピールする機会を提供し,リーダーシップの取れる人材育成の試みを行った。アンケート調査の結果,ロボカップ世界大会出場および出前授業の経験が学生自身の積極性に関する意識改革に大きく寄与したことが示された。
著者
安達 香織
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

縄紋土器型式の設定と編年には、土器の形態や装飾だけでなく、技法の分析も有効である。本研究では、東北地方北部中期後半の土器型式編年の再構築を目的に、基礎資料の技法に着目した分析を行ない、以下の成果を得た。最花貝塚遺跡A地点出土土器のうち主体を占める、胴部に屈曲のない深鉢形土器(I類土器)は、形態・装飾だけでなく、技法に明確な特徴がある。I類土器には、平縁深鉢形の器体を成形後、「胴部(器面)縄紋」、「口縁部段」、「胴部沈線文」の全てあるいは一部が加えられている。各装飾の組み合わせ及び加飾の順序により、I類土器は、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」、3「胴部沈線文」の工程となるI A類、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」の工程となるIB類、1「器面縄紋」の工程となるI C類にわけられる。器体のサイズや縄紋原体の種類は、I A、I B、I C類の順でまとまりがある。つまり、最花貝塚遺跡A地点出土土器は、胴部に屈曲のある深鉢形土器(II類土器)とあわせて四とおりの土器を作りわける特徴的な製作システムで作られたと考えられる。一方、従来「最花式」と同一の型式とされることの多かった東津軽郡外ヶ浜町中の平遺跡出土第III群土器についても形態・装飾、技法の分析を行なった。その結果、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは区別できる形態・装飾、技法の特徴をもっていることが明らかになった。この一群は、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは異なる製作システムで作られている。前者を基準とする型式を最花A式、後者を基準とする型式を中の平III式と仮に呼ぶことにした。製作工程を含めた技法、形態・装飾の特徴が異なるだけでなく、文様の系譜も異なり、分布にも違いが認められることから、最花A式と中の平III式とは、従来のように同一系統に連続するものとしてではなく、概ね並行期の、それぞれ下北半島と津軽半島とを中心に分布する二つの型式として理解するほうが妥当である。
著者
粟田 主一 鈴木 一正 島袋 仁
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.日本語版WHO-5の有用性を地域在住高齢者の自殺念慮検出という文脈で評価した.70歳以上高齢者696人に一連のアンケート調査を実施Chronbach α係数は0.87,Loevinger係数は0.64.WHO-5合計点は,同居家族数,身体疾患数,身体機能,手段的ADL,抑うつ症状と有意に相関.自殺念慮をもつ高齢者ではWHO-5合計点が有意に低い.ROC曲線分析は自殺念慮のある高齢者を有意に識別.主観的ソーシャルサポート(PSS)欠如と組み合わせ,WHO-5合計点12点以下またはいずれかの項目で0点または1点であることをカットオフにすると,より適切に自殺念慮を識別できた(感度87%,特異度75%,陰性的中度99%,陽性的中度10%).日本語版WHO-5はPSSとの組み合わせで地域在住高齢者の自殺念慮を効果的に検出できる.2.高齢者のうつ病早期治療と自殺予防を日的とする都市型地域介入プログラムを開発するために、ポピュレーション戦略とハイリスク戦略を組み合わせた総合的地域介入プログラムの効果を,自殺念慮と精神的健康度を転帰の指標として調査した.普及啓発,保健相談,地域活動強化,スクリーニング型介入は地域住民のソーシャルサポートを高め,保健専門職による訪問・ケースマネジメント型介入がうつ病高齢者の精神的健康度を高め,自殺念慮を軽減した.また、2002年にスタートした本研究および2004以降に仙台市でモデル事業化されている総合的地域介入事業が高齢者の自殺率に及ぼす効果を検証するために、仙台市における高齢者の自殺死亡数の推移を調査したところ、1990年〜2001年までは80歳以降の後期高齢期に自殺率のピークが認められていたが,2002-2005年の4年間で後期高齢期の自殺率ピークが消失した.後期高齢期の自殺率ピークの消失は,男女いずれの群にも認められた.高齢者の自殺率減少が最も目立つ区は,モデル事業として介入事業をスタートさせた宮城野区であった.うつ病高齢者を対象とする総合的地域介入事業は,高齢者の自殺予防に有効である可能性が高い.