著者
上久保 恵美子 比企 静雄 福田 友美子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.11-18, 1997-01-31
被引用文献数
1

聴覚障害者の社会活動のための言語媒体の有効性について分析する研究の一環として、各種の言語使用の場面に応じた言語媒体の使い分けと手話通訳者の有効性を検討した。この研究で使った調査資料は、東京と近県の重度聴覚障害者に1991年に質問紙を郵送して、20歳〜70歳の男女約1,700人から回答を得たものである。そのうちの、口話・手話・筆談などの使用についての諸項目の応答を、種々な場面での有効性に注目して分析した。その結果、旅行、市役所・警察・病院、子供の入学式・卒業式、子供のPTAの集まり、駅やバス・電車の放送などの日常生活での対照的な言語使用の場面に応じて、言語媒体の使用の割合や有効な程度が著しく異なること、手話通訳者や介助者の助けが場面によっては有効に役立っていることが明らかになった。
著者
久保田 真功
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.49-61, 2011

本研究の目的は,暴走族マンガの分析をもとに,マンガに見られる暴走族の下位文化を明らかにし,青少年が暴走族マンガに惹かれる理由について検討することにある。分析を行った結果,①主要登場人物は,アイディンティティ獲得のツールとしてバイクを消費していること,②暴走族内には確固たる上下関係と,構成員が従うべき掟が存在すること,③主要登場人物の多くは暴走族引退後に社会復帰を果たしているとともに,現役の暴走族に教育的な働きかけをしていること,などが明らかとなった。これらの結果を踏まえ,マンガに見られる暴走族が,ドリフト理論で知られる Matzaの主張する非行少年像に類似していることを指摘した。そして,青少年は,暴走族の姿に Matzaが言うところの「隠れた価値」(subterranean values)を見出すことによって,登場人物の姿に共感し,暴走族マンガを好んで読んでいるものと考察した。
著者
川畑 貴裕 久保野 茂
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.27-32, 2018-01-05 (Released:2018-09-05)
参考文献数
14

今から約138億年前,誕生直後のわれわれの宇宙は「ビッグバン」と呼ばれる高温・高密度の状態にあった.ビッグバン理論によると,宇宙開闢の約10秒後から20分後にかけて「ビッグバン元素合成」(Big Bang Nucleosynthesis: BBN)が起こり,陽子と中性子を起点とする原子核反応によって水素,ヘリウム,リチウムなどの軽元素が生成された.このとき生成された元素の組成について,観測による推定値と理論計算による予測値を比較することは,宇宙創生のシナリオを明らかにするうえで,重要な知見を与えてくれる.BBNにおける4Heと重陽子の生成量は,観測による推定値と理論予測値が非常によく一致する一方で,7Liについては,生成量の観測推定値が理論予測値の約1/ 3でしかないという重大な不一致が知られている.この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ,ビッグバン理論に残された深刻な問題として大きな関心を集めている.宇宙リチウム問題を巡っては,いくつかの解決策が提案されており,それらは三つに大別される.一つ目は,観測から7Liの原始存在量を推定する方法に問題があるという説であり,二つ目は,宇宙リチウム問題の原因を標準理論を超える新物理に求める説である.そして,三つ目は,BBN計算に用いられている原子核反応率に誤りがあるという説である.しかし,現時点でこれらの説を決定づける実験的・観測的な証拠は見つかっておらず,宇宙リチウム問題は,宇宙物理学だけでなく,天文学,原子核物理学,素粒子物理学までも巻き込んだ物理学における重要な問題となっている.原子核物理学の観点からこの問題を考察すると,7Liは主に7Beが電子捕獲崩壊することで生成される.しかし,7Beを生成する反応については,すでに複数のグループによる測定がなされており,BBN計算の結果を大きく変化させる余地はない.近年,7Beの生成率ではなく,7Beを他の原子核に転換する反応に注目すべきとの指摘がなされている.もし,BBNの過程で,7Beが7Liへ崩壊する前に他の原子核へ転換する反応の寄与が増大すれば,BBN計算における7Liの生成量が減少し,宇宙リチウム問題を解決できる可能性がある.7Beを転換する反応として有力視されていたのが,n+7Be→4He+4He反応である.しかし,7Beと中性子はどちらも短寿命の不安定核であるため,この反応を直接に測定することは容易でなく,これまで,BBNに関係するエネルギー領域における断面積は測定されていなかった.このような状況のなか,我々は大阪大学核物理研究センターにおいて,逆反応である4He+4He→n+7Be反応を測定し,詳細釣り合いの原理に基づいてE=0.20–0.81 MeVのエネルギー領域におけるn+7Be→4He+4He反応の断面積を初めて決定することに成功した.その結果,n+7Be→4He+4He反応の断面積は,BBN計算にこれまで用いられてきた推定値より約10倍も小さく,宇宙初期において中性子が7Beと衝突し二つの4Heに分解する反応の寄与は小さいことが明らかになった.残念ながら,宇宙リチウム問題の謎はさらに深まる結果となったが,今回の成果は標準模型を超える新しい物理の探索や,原子核反応率の見直しなど,さらなる研究を動機づけるに違いない.
著者
久保田 裕之
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.113-123, 2011-06-01

本稿では,「家族の個人化」と呼ばれる状況のもと,家族福祉論をその正当化根拠から批判的に検討することによって,家族か/個人かという政策単位に関する議論を一歩進めることを目的とする。具体的には,政策単位をめぐるこれまでの議論を概観することで,家族のニーズを個人の選択に還元する個人単位化論も,家族自体をある種のニーズとして扱い続ける家族福祉論も,「家族の個人化」と家族福祉の間の緊張関係を克服できないことを示す。次に,家族福祉とニーズ論との関係を整理することで,ニーズ概念の限定性と優先性から,ニーズに対する福祉の<過小>と<過剰>という二つの危険を抽出し,家族自体をニーズと捉えることのパターナリズムを批判する。その上で,フェミニスト法学・倫理学における<依存批判>の議論を援用することで,従来の家族に期待されてきたニーズの束を分節化し,家族を超えて福祉の対象とする新たなアプローチを提唱する。
著者
小山 貴士 大久保 街亜
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.92.20011, (Released:2021-10-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Gaze cueing effects (faster responses for cued compared to uncued targets) has been attributed to an automatic shift of attention. However, gaze cueing effects can be explained by spatial conflicts between the gaze direction and the target location. In the present study, we used the gaze cueing paradigm to compare the validity of the two accounts (i.e., reflexive attentional shifts versus spatial conflicts). The cueing effects were largest at 100-ms SOA, irrespective of temporal overlap of the gaze cue and the target, the prerequisite for spatial conflicts (Experiment 1). Eye-region cues, which were used in the study supporting the spatial conflict account, reversed the gaze cueing effects when the cues were counterpredictive while typical face cues did not (Experiment 2). These results do not support the spatial conflict account and suggest the importance of the “faceness” of the cue stimuli.
著者
宮崎 大 久保田 哲史 林下 浩士 鍜冶 有登 小林 大祐 吉村 昭毅 和田 啓爾
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.956-960, 2010-12-15 (Released:2011-02-09)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

症例は41歳,女性。既往歴特記事項なし。銀杏60個を摂食し,4時間後から嘔気,嘔吐,下痢,めまい,両上肢の振戦,悪寒が出現した。6時間後救急要請,当院に搬送となった。来院時呼吸数30/min,脈拍94/min(整),血圧152/90mmHg,SpO2 99%(室内気)と安定しており,意識も清明であった。血液検査では白血球増多,呼吸性アシドーシス,軽度の乳酸値の上昇が認められた。頭部CTでは明らかな異常所見はみられなかった。銀杏中毒と診断し,pyridoxal phosphate(PLP)400mg(8mg/kg)を経口投与し,症状は改善した。入院,経過観察としたが,症状の悪化はなく,第2病日に退院となった。後日,来院時の血清4-O-methylpyridoxine(MPN)濃度は339ng/mlと高値であることが判明した。銀杏中毒は栄養状態の不良な前後に頻発していたが,最近では減少している。原因物質としてMPNが証明されており,中枢神経でビタミンB6(Vit B6)と拮抗して作用し,痙攣を起こすことが推測されている。本症例では痙攣は発症していないが,PLP投与により症状は軽快した。銀杏中毒に対してはPLPを速やかに投与すべきである。
著者
鹿児島 崇 山﨑 善隆 坂口 幸治 久保 惠嗣 杉山 広 齊藤 博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.975-977, 2014-04-10 (Released:2015-04-10)
参考文献数
6

ウェステルマン肺吸虫はモクズガニやサワガニを生食することでヒトに感染する.今回,姉妹の感染例を経験した.両名ともプラジカンテルの投与で軽快した.国内で販売されている淡水産のカニの肺吸虫感染率は決して低くなく,加熱なしで淡水産カニを喫食する際には十分な注意が必要と考えられる.また本例はいずれも外国人であり外国人診療においては食習慣の違いによる感染症にも留意する必要があると考えられた.
著者
坂本 義光 多田 幸恵 福森 信隆 田山 邦昭 安藤 弘 高橋 博 久保 喜一 長澤 明道 矢野 範男 湯澤 勝廣 小縣 昭夫
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.272-282, 2008-08-30 (Released:2008-09-11)
参考文献数
27
被引用文献数
12 18

除草剤グリホサート耐性の性質を有する遺伝子組換え大豆(GM大豆)の安全性を確かめる目的で,ラットを用い,GM大豆および非遺伝子組換え大豆(Non-GM大豆)を30%の割合で添加した飼料による104週間摂取試験を行った.また大豆に特異的な作用を観察する目的で,一般飼料(CE-2)を大豆と同様の期間摂取させた.GMおよびNon-GM大豆群とCE-2群間には,検査項目の一部に差が見られたが,GM大豆群の体重,摂餌量,血液学的および血清生化学検査結果,臓器重量には,いずれもNon-GM大豆群と比べて顕著な差は認められなかった.組織学的にもGM大豆に特徴的な非腫瘍性病変や腫瘍性病変の発現や自然発生病変の発現率の増加は認められなかった.GM大豆の性状はNon-GM大豆と顕著な差はなく,飼料に30%まで添加し,104週間摂取させても障害作用はないものと考えられた.
著者
中嶋 智史 請園 正敏 須藤 竜之介 布井 雅人 北神 慎司 大久保 街亜 鳥山 理恵 森本 裕子 高野 裕治
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.603-613, 2020 (Released:2020-02-25)
参考文献数
29
被引用文献数
5

The 20-item prosopagnosia index (PI20) was developed for assessing congenital prosopagnosia, which is characterized by severe facial recognition deficits in the absence of any obvious neurological deficit. We aimed to develop a Japanese version of the PI20 (PI20-J) scale and evaluate its validity and reliability. In study 1, we confirmed the internal consistency, test-retest reliability, and concurrent validity of the scale. In study 2, we examined the relationships between PI20-J score and facial recognition performance and found a moderate correlation between them. In study 3, we examined whether the PI20-J score is related specifically with facial recognition performance, or with general object recognition performance. We found that participants with a high PI20-J score showed weaker facial recognition performance than those with a low PI20-J score. In contrast, the object recognition performance did not depend on the score. Our results suggest that the PI20-J score is related specifically with facial recognition performance. We conclude that PI20-J is highly reliable and valid as a self-reported measure for congenital prosopagnosic traits.
著者
稲井 卓真 久保 雅義 江玉 睦明 高林 知也 小熊 雄二郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11204, (Released:2016-08-25)
参考文献数
56

【目的】本研究の目的は,3 次元上の股関節の動きが大腰筋の伸張率に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】先行研究によって報告されたパラメータから,筋骨格モデルを作成した。数理モデルを用いて,股関節の角度を変化させたときの大腰筋の伸張率を検討した。解剖学的肢位での大腰筋の筋線維長を100% とした。【結果】大腰筋の伸張率は,股関節の伸展20 度のみ(104.8%)より,股関節の伸展20 度に外転20 度・内旋30 度を加えることでより高くなった(106.5%)。【結論】股関節の伸展のみと比較して,股関節の伸展に外転と内旋を加えたとき,大腰筋はより伸張される可能性がある。
著者
飯塚 和也 相蘇 春菜 大久保 達弘 逢澤 峰昭 平田 慶 石栗 太 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

福島原発事故により広範囲わたり飛散・拡散した人工放射性核種の中で重要な放射性セシウム(Cs)は,同族のアルカル金属であるカリウム(K)と化学的性質が類似しているため,植物体において,Kの輸送系により吸収されていると考えられている。Kの同位体である天然放射性核種であるK40の一部は,γ崩壊をする。そこで,樹体中に取込まれた放射性セシウムの挙動を調査するに当たり,K40に着目して,放射性核種ごとにCs134,Cs137とK40の比放射能(Bq/kgDW)の測定を行なった。材料は宇都宮大学演習林(空間線量率0.2~0.3μSv/h)のスギ,ナラ類,コシアブラである。供試材料の比放射能は,U8容器を用い,Ge検出器(SEIKO EG&G)で測定した。測定時間は,木材で6000S,葉で2000Sまたは4000Sとした。若齢木において,コシアブラの葉はナラ類のそれと比べ,非常に高い比放射性を示した。また,コシアブラの核種ごとの比放射能の季節変動では,晩秋は夏に比べ,Csは1.8倍の増加を示したが,K40では1.5倍の増加であった。
著者
徐 勝 大久保 史郎 中島 茂樹 市川 正人 松宮 孝明 生田 勝義 水島 朝穂 豊下 楢彦
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

各年度の研究成果については、すでに報告済みである。2002年度、科研の第1回日韓共同研究(10月、ソウル法科大学)では「21世紀東アジア平和・安全保障情勢の変化と日韓の安全保障・治安法制の構造」の主題で、韓国の軍事主義と人権(韓寅燮・ソウル法科大)など、6本の報告がなされ、38度線一帯などの視察、韓国国防大学校で「韓国の安全保障」懇談会も行った。2003年2月の第2回日韓共同研究(立命館大学)として『有事法制と国家緊急権に関する新考察』の主題で、「韓国の現代憲政史における国家緊急権」宋石允(梨花女子大学)など5本の報告がなされた。また、続いて行われた立命館大学国際シンポジウム「21世紀北東アジア平和構築と地域協力--新たな情勢と日本の役割-」の第3セッションを担当し、張達重(ソウル大政治学科)「朝鮮半島安保と日本の役割」など4本が報告された。科研と関連して学内研究会を10回にわたって行った。2003年度、第3回日韓共同研究(沖縄、6月20日〜23日)では「米軍と日韓の安全保障・人権」をテーマに、「韓米相互防衛条約-同盟か?隷属か?」(崔哲榮・大邱大学)など8本の報告が行われた。第4回日韓共同研究(ソウル大学校、10月24日〜26日)は「現代韓国の治安法-警察・情報機関」をテーマに、韓国の大法院と大検察庁を訪問し、研究会では、「議会による秘密情報機関統制:ドイツ、米国、韓国における現実を中心に」(李桂洙・蔚山大学校)など6本の報告が行われた。その他、科研と関連して3回の学内研究会が行われた。2004度には、第5回の日韓共同研究(7月・早稲田大学)そこで、鄭〓基「韓国における民族国家の形成と慰霊空間-国立墓地を中心に-」など11本の報告が行われた。その成果としては、主要論文から『法学セミナー』や「『立命館法学』に掲載された他、3年間にわたる科研基盤研究(A)『現代韓国の安全保障と治安法制の実証的研究』総計36本の論文・分析のうちから14本を『現代韓国の安全保障と治安法制』(法律文化社、2006年3月)として刊行した。