著者
木村 宏 佐藤 優子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.555-563, 2017-11-01 (Released:2017-11-01)
参考文献数
15

生物の遺伝情報はゲノムDNAに刻まれている。ゲノムDNAからいかにして必要な情報を必要に応じて取り出すことができるのか,という問題を解明できれば,生命現象の理解に大きく近づくことができる。遺伝子の発現制御には,DNAに直接結合する転写因子が必須であるが,ヒストンの翻訳後修飾を介したエピジェネティクス制御や細胞核内でのゲノム高次構造なども重要な役割を果たすことがわかってきた。そこで,最近,細胞核を包括的かつ時空間的に理解する「ヌクレオーム(Nucleome)」研究が注目を集めている。ヌクレオーム研究という視点に立ち,顕微鏡解析,ゲノム解析,情報・数理解析を融合させることで,ゲノムの発現制御機構を理解できると考えられている。ヌクレオーム研究は米国ですでに予算措置されている他,ヨーロッパでの動きや国際コンソーシアム発足に向けた活動も進んでいる。わが国でもヌクレオーム研究を推進することが生命科学の発展に重要であると考えられる。
著者
工藤 真生 佐藤 光輝
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.102, pp.49-55, 2009-10

日本桜100選に選定されている弘前公園において、毎年4月下旬から5月上旬まで開催される弘前さくらまつりでの花見を見ると、桜の木の下一点で行われる宴会スタイルが主であり、広い園内にある約50種2600本の桜を楽しむものとはなっていない。本研究では、この要因を従来の日本酒のボトルデザインにあると考え、若い女性の趣向を取り入れたラベルデザインと飲酒スタイルをファッション化するボトルデザイン制作を試みた。ボトルデザインでは、口につけたまま傾けるラッパ飲みをしないようにボトルを立ててストローでの飲酒スタイルを用い、ラベルデザインでは桜の風景がボトルの中に映り込むことによって、歩きながらの飲酒を楽しめるものにした。その結果、若い女性に好まれるように日本酒のボトルをファッション化することにより、従来のグループ宴会スタイルから個人やカップルが歩きながら花見を楽しめる、新しい飲酒スタイルの提案に成功した。
著者
佐藤 淳 Wolsan Mieczyslaw
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.23-40, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
98
被引用文献数
1

レッサーパンダAilurus fulgensはジャイアントパンダと共に食肉目Carnivoraの中で高度な草食適応を果たした種である.1825年の分類学的記載以来,約190年もの間,他の食肉類との進化的類縁関係は謎であった.本総説ではレッサーパンダの進化的由来に関するこれまでの分子系統学的研究を振り返り最新の知見を提供する.近年の主に核遺伝子を利用した分子系統学的研究においては,レッサーパンダはイタチ上科Musteloideaの主要な系統であり,イタチ科Mustelidaeとアライグマ科Procyonidaeから構成される系統に近縁であることが強く支持されている.また,分岐年代推定によりレッサーパンダの系統の起源は約3,000万年前にあると推定された.さらに生物地理学的解析により,その起源はアジアにあることが示唆された.レッサーパンダの系統分化は始新世から漸新世にかけての大規模な地球環境変動の影響を受けたと考えられる.
著者
佐藤 和紀 小田 晴菜 三井 一希 久川 慶貴 森下 孟 谷塚 光典
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45061, (Released:2021-11-02)
参考文献数
6

小学校高学年児童がクラウドサービスの相互参照を用いて,他者の文章を参照して意見文を作成する実践を行った.意見文の評価と意識調査の結果,他者の意見文を参照したグループ児童の意見文の評価は有意に高く,他者の意見文を参照していないグループの児童よりも読み手にどう伝わるか気をつけて書く,自分の考え以外の視点でも書く,主語と述語のつながりを注意して書く,形式的なミスを少なくする,ことを意識していた.
著者
樋口 美雄 佐藤 一磨
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.15-36, 2015-04

論文挿図表本稿の目的は, 国際比較可能な雇用統計・賃金統計を使って, 日米英独仏における労働市場の動きについて検討することである。この分析の結果, 次の14点が明らかになった。(1)2000年以降, 5か国における経済成長率は, 大きく低下し, それに呼応して, いずれの国においても雇用者数の伸びが低下した。どの国においても, 製造業では雇用は減少したが, 医療・福祉分野において雇用は増えた。(2)各国の雇用調整の速度を計測すると, ドイツを除く, いずれの国においても, 近年, 調整速度は早まっている。(3)平均労働時間の動きを見ると, 日本・イギリス・ドイツ・フランスでは過去20年間で労働時間は大きく低下したし, アメリカでも若干短縮した。(4)有期契約労働者比率の上昇は日本, ドイツ, フランスで見られる。(5)アメリカ, イギリス, ドイツ, フランスでは名目賃金, 実質賃金ともに以前に比べれば, 上昇の幅は小さいものの, 上昇を続けている。これに対し, 日本では名目賃金において大きな低下を示しており, 実質賃金でも若干の低下が長期間にわたり続いている。(6)賃金と労働生産性の伸びを比較してみると, アメリカ, 欧州諸国では労働生産性の伸びを賃金の伸びが上回っているのに対し, 日本では逆に生産性の伸びを賃金の伸びが下回っている。(7)わが国における平均賃金の低下は, 一般労働者の賃金の若干の低下とともに, パート労働者の増加によって生じている。(8)雇用の伸び率の低下と賃金の抑制は, イギリスを除く4か国で労働分配率の低下をもたらした。(9)日本やドイツでは生産年齢人口が減少した一方, アメリカでは, リーマンショック後女性や若年層において, 就業意欲喪失効果により非労働力化が進展し, 労働力率が低下した。また5 か国いずれの国においても, 高齢者の就業率は上昇しており, アメリカを除く4か国で, 女性の労働力率は上昇しているが, 若年層の労働力率は低下した。(10)5か国いずれの国においても, 大きさに差があるものの, 所得格差の拡大傾向が観察される。(11)所得階層トップ1%の人が1国全体の所得に占める比率は, とくにアメリカとイギリスにおいて大きく上昇している。(12)平均賃金格差を属性間で比較すると, 学歴間賃金格差は日本を含むいずれの国においても拡大する傾向にある。(13)男女間の賃金格差は, いずれの国においても縮小する傾向にある。(14)日本における, 同じ年齢, 学歴についての個人間の賃金格差を見ると, 近年, 拡大傾向が観察される。
著者
佐藤 真衣
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.4, pp.55-66, 2011-12-10

本論の一章では川端の少女小説の傾向を探り、二章で「小公女」を中心として川端の描く「少女像」に着目し、三章において中里恒子との関係から川端の代作についてその真相をみると共に、川端が少女小説界に伝えようとしたメッセージを本論で探っていくことにする。
著者
村田 智 葛谷 明紀 藤原 慶 平 順一 川又 生吹 佐藤 佑介 瀧ノ上 正浩 野村M. 慎一郎 角五 彰 堀 豊 安部 桂太
出版者
公益社団法人 日本工学教育協会
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_31-4_39, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
3

In this paper, we describe our activities on student competitions conducted by connecting multiple universities online. By combining online lectures, tutorials, and various types of groupwork, undergraduate student participants from 11 universities worked together to propose their original ideas in a short period of time. The results were evaluated by faculty members from 16 universities and institutes based on objective criteria. Mixing the students and instructors of various backgrounds promoted open communication and formation of human network among them. Quantitative analysis of various indices elucidated the educational effect of the competition.
著者
佐藤 元
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.63-78, 2005

公衆衛生政策は私的権利の制限(私権制限)を伴うことが多い。私権に関わる例としては,公衆衛生情報と個人のプライバシー,コミュニケーション政策と表現の自由,検疫・隔離や強制的入院と個人の自律や自由,安全衛生基準と経済活動の自由などの間に見られる対立が挙げられる。国家・自治体は公共の福祉のために私権を正当に制限し得るとされるが,公衆衛生領域における政府の責務と権限が拡大する中,人権保護に関する議論を整理し制度を整えることは重要な課題である。本稿は,現代の米国における議論を総括紹介し,今後の議論に資すことを目的とした。公衆衛生政策を人権保護の観点から検討する際には,正当性,合理性,経済的負担と効率,私権制限の程度,公平性,政策相互の整合性が系統的に評価されることが望ましい。また,こうした評価を制度化し実効性のあるものとするためには,正当な法的手続きと政治過程の透明性確保が重要と考えられる。前者は,実質的正当性と形式的正当性の両者からなる。
著者
佐藤 暁
出版者
日本科学哲学会
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-16, 2012-07-30 (Released:2013-06-05)
参考文献数
6

Dummett argued that practical ability is knowledge if and only if having an ability is described as knowing some propositions. He asserts that the ability to speak a language is knowledge itself, because we cannot attempt to speak a language unless we can speak the language. However, it is not clear why such an ability is knowledge itself. In this study, we reinforce his argument by defining knowledge of how to do things as knowledge based on learning experience. We cannot speak a language without learning experience. Moreover, if one gains an ability through learning experience, this means that he at least knows some propositions.
著者
福井 敬一 佐藤 英一 新堀 敏基
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2015年7月7日より,正式運用を開始した静止気象衛星ひまわり8号は先代のひまわり7号(MTSAT-2)に対し,大幅な機能強化が図られた.搭載された可視赤外放射計(Advanced Himawari Imager, AHI)は観測波長帯数が5バンド(可視1,赤外4)から16バンド(可視3,近赤外3,赤外10)へと,空間分解能もほぼ倍に高解像度化した.さらに,全球の観測頻度も60分ごとから10分ごとに向上するとともに,日本域を観測する領域観測1,2(東西2000 km,南北1000 km)や火山観測や台風観測などに利用される東西南北1000km四方の可動領域(領域観測3.機動観測)では常時2.5分ごとの観測も可能となっている.機動観測では台風観測時以外はカムチャッカの火山を対象に観測している時間が多い(2018年1月末現在はマヨン火山を含む領域を観測している).また,東西1000km,南北500kmの領域2か所(領域観測4,5.ランドマーク観測)を常時約30秒ごとに観測している.領域観測4,5の主目的は,位置合わせや月・深宇宙を利用した感度校正(Bessho et al., 2016)であるが,軌道が安定していることもあり,火山噴火を主対象とした領域を観測することも多く,2018年1月末現在,領域4,5は各々,インドネシアのアグン火山,桜島を含む領域を観測している.ひまわり8号の高解像度・高頻度観測によってMTSATに比べ小さな噴火も観測可能となるとともに,多バンド化によって,火山灰雲の高度推定精度が向上し,火山灰雲の光学的厚さや粒径などの情報を含む火山灰プロダクトの開発が進められている(Hayashi et al., 2016).さらに,火山ガス(SO2)の検出も可能となってきている(例えば,Ishii et al., 2018).桜島を含む領域では,ひまわり30秒データとともに,全球観測,日本域観測のデータも利用できるため,10分毎に4回,1分間で4枚の画像を取得できる時間帯がある.さらに,同じ領域を領域観測3,4,5で観測することも可能であり,このような運用を行えば,さらに高頻度の観測も可能になる.噴火直前の火口の温度状況や噴火直後の噴煙柱の成長の様子を捉えるため,ひまわり8号の30秒ごとの超高頻度観測(Super-Rapid Scan)データを利用した研究を開始した.Fukui et al. (2017) では桜島爆発直後の噴煙柱についてバンド3(波長0.64μm,空間分解能500m)の30秒毎データと桜島周辺で実施している高密度気象レーダーデータ(Sato et al., 2017),監視カメラ映像データとを比較検討した.今回はバンド3データと赤外データから求めた桜島爆発時の噴煙柱の上昇過程と噴煙上端の温度の時間推移から見た噴煙柱の成長過程について報告する.参考文献Bessho, K. et al. (2016) An Introduction to Himawari-8/9 —Japan’s New-Generation Geostationary Meteorological Satellites. J. Meteor. Soc. Japan, 94, 151-183, DOI:10.2151/jmsj.2016-009.Fukui, K. et al. (2017) Observations of volcanic eruption columns using Himawari-8 Super-Rapid Scan 30-sec imagery. JpGU-AGU Joint Meeting 2017, MIS02-P03Hayashi, Y. et al. (2016) Observation of volcanic ash clouds by Himawari-8. JpGU 2016, MIS26-06.Sato, E. et al. (2017) Volcanic ash plume observation by weather radars. JpGU-AGU Joint Meeting 2017, MIS02-P01.Ishii, K. et al. (2018) Using Himawari-8, estimation of SO2 cloud altitude at Aso volcano eruption, on October 8, 2016. Earth, Planets and Space, 70:19, DOI:10.1186/s40623-018-0793-9.
著者
大沼 克彦 久米 正吾 濱田 英作 岡田 保良 宮田 佳樹 川又 正智 佐藤 宏之 早川 裕弌
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

4年にわたるキルギス現地調査と国内関連研究は、キルギスにおける紀元前12000年から1500年(中石器時代から後期青銅器時代)にかけた遊牧社会形成の実体の解明に向けて大きく前進した。発掘をおこなったすべての遺跡において、中石器層から青銅器時代層のあいだには1万年ほどの空白があり、連続性がないことは、中央アジアの遊牧社会の形成に関する、西方からの遊牧民移住、在地農牧民の専従遊牧民化という2つのシナリオのうちの前者がより妥当であることを提起する重要な成果である。今後は調査・研究をキルギス周辺地域に拡大し、中央アジア全体という巨視的観点で遊牧社会形成の経緯と地理的多様性を探求していく。
著者
山下 千尋 杉村 鮎美 佐藤 一樹 安藤 詳子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.197-207, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
36

苦痛緩和のための鎮静はがん患者の治療抵抗性の苦痛を緩和する有効な手段だが,倫理的な問題を生じやすい.鎮静は一般病棟でも施行されており,一般病棟看護師の鎮静に関するケアの実態把握と質向上は急務である.本研究はがん診療連携拠点病院の呼吸器内科病棟に勤務する看護師を対象に,鎮静が施行される終末期肺がん患者に対する看護師の行為・判断・思いについて半構造化面接し,Krippendorffの内容分析により看護師の行為・判断16カテゴリー,積極的感情8カテゴリー,消極的感情5カテゴリーを抽出した.看護師は患者・家族の苦痛緩和のために常に最善策を模索し,その心情に寄り添う努力をしていたが,多職種協働と鎮静に関する話し合いに対する自信と積極性に差がみられた.看護師が自信を持って鎮静に積極的に働きかけることで,患者・家族の意思決定を支援し,苦痛緩和とQOL維持に最適な鎮静手法を検討できる可能性が示唆された.
著者
松本 剛 佐藤 澄仁 櫻井 文隆
出版者
東京都農業試験場
巻号頁・発行日
no.32, pp.79-92, 2004 (Released:2011-03-05)