著者
辰野 竜平 梅枝 真人 宮田 祐実 出口 梨々子 福田 翼 古下 学 井野 靖子 吉川 廣幸 髙橋 洋 長島 裕二
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-32, 2021-02-25 (Released:2021-03-04)
参考文献数
16
被引用文献数
2

トラフグ属魚類の小型種であるムシフグは,毒性に関する情報が乏しく食用として認められていない.そこでムシフグの毒性を明らかにするため,熊野灘で漁獲した10個体(雄9個体,雌1個体)を試料とし,各個体の皮,筋肉,肝臓,生殖腺(卵巣もしくは精巣)をマウス試験とHPLC蛍光検出法に供した.各部位から試験液を調製し,前述の2つの方法により毒力とテトロドトキシン(TTX)濃度を算出した.マウス試験の結果,皮,肝臓,および卵巣で毒性が認められたが,精巣と筋肉は無毒(<10 MU/g)であった.一方,HPLC蛍光検出法で10個体中2個体の筋肉から1.4~1.5 MU/gのTTXが検出されたことから,ムシフグの食用可否を検討するため,引き続き毒性の調査を行う必要があると考えられた.
著者
古川 直美
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.99-110, 2019-03

本研究の目的は、看護基礎教育における職種間連携・協働に関する教育内容の示唆を得るために、職種間連携・協働の実践事例から、看護の専門性に立脚した職種間連携・協働を推進する要素を明確化することである。 対象は、病院(病棟、退院調整部門、外来部門)、福祉施設(特別養護老人ホーム)、市町村保健センター、訪問看護ステーションにおいて、中心的役割を果たしている看護職6 名である。職種間連携・協働が円滑に展開できた事例、円滑に展開できなかった事例について、聞き取り調査を実施した。逐語録から、職種間連携・協働に関わる部分を抽出・解釈し、職種間連携・協働を推進する要素として分類した。 職種間連携・協働を推進する要素は、【原動力となる信念・動機がある】、【利用者に提供される医療・介護サービスの中や、他職種との関係の中で、看護の業務・責務を位置づける】、【必要なケアの判断及びケアの実施に向けてネットワークを拡げる】、【医療チーム・ケアチームでの活動が成立するよう働きかける】、【他職種の方針・判断を把握し、看護の判断・見解を踏まえて調整を図る】、【他職種・他部門・他機関で助け合い、補い合う】、【主体である利用者の参加を支援する】、【取り組みの結果を確認し、学びを得る】、【利用者・他職種・他部門・他機関に看護の役割・機能の理解を促す】、【他部門・他機関と繋がるための基盤を作る】、【ケアの充実に取り組む職場の風土がある】の11 に分類された。 先行研究における職種間連携・協働で重視されていること等の検討から、見いだされた11 の要素は、職種間連携・協働の推進に必要な要素と捉えられた。教育内容としては、原動力となる信念・動機をもつことやチーム活動の展開等に関わる内容が考えられたが、実践現場における継続教育が適することもあるため、看護基礎教育で何をどう教育するか検討が必要である。
著者
山田 光彦 斎藤 顕宜 古家 宏樹 山田 美佐
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

これまでに我々は、グルタミン酸神経伝達を抑制するリルゾールがラットの恐怖記憶の消去学習を促進することを報告した。本研究では、リルゾールの恐怖記憶の再固定化への影響を再曝露時間を区別した文脈的恐怖条件付け試験により検討した。その結果リルゾールは、消去学習促進作用と再固定化阻害作用を併せ持つことが明らかとなった。また、リルゾールの再固定化阻害作用には、背側海馬が関与することが明らかとなった。
著者
古賀 郁乃 渡 裕一 中園 聡子 野添 清香 井黒 誠子 松下 兼一
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.172, 2005

【はじめに】回復期リハ病棟では、ADLの改善を目指し様々な取り組みを行っているが、歯磨きは片手動作ということもあり「出来るだろう」と思われがちで、他のADLに隠れ後回しになっている。介助に関してもさほど手間もかからないためか、過介助になっている。しかし、歯磨きは移動、姿勢保持、巧緻動作を含み、専門的知識による訓練、介入が必要だと言える。高齢者の生命・健康、QOLの維持・回復における口腔ケアの重要性が見直されてきた今、当院での歯磨きについても考える必要があるのではないか。そこで、患者の歯磨きの現状を把握し、アプローチを行うため「歯磨きチェック」を行ったところ、いくつかの問題点が抽出されたため、検討を行った。<BR>【対象】回復期リハ病棟の脳血管障害患者から無作為に抽出した男性10名、女性10名。平均年齢75.1±11.2歳。<BR>【方法】1.移動2.姿勢3.棚への出し入れ4.歯磨き粉をつける5.歯を磨く6.うがいをする7.口をふく8.道具を洗うの8項目についてそれぞれ4つの基準を設け、セラピストが実際の動作場面を観察し、いずれに該当するかチェックする。チェックは3週間ごとに3回実施。その他のADL、高次脳機能障害などの調査も行う。チェックの結果をもとに、アプローチ方法を検討し、カードへ記入。それを車椅子にかけ、歯磨きを行う際の参考とした。必要に応じて、アプローチの更新を行った。<BR>【結果】「歯を磨く」「口を拭く」「うがいをする」に比べ、「歯磨き粉をつける」「道具を洗う」は動作が複雑になるため介助量が増えている。業務円滑化のための介助量増加がみられる。環境設定と患者の主体的・自主的行動の優先化により、特に「歯を磨く」項目は他項目より改善が見られた。セラピストによる歯ブラシ操作に対するアプローチが的確に行えなかった。カードの活用が少なく、統一見解が不十分ではあったが、患者の現状の能力を把握することは可能であった。<BR>【考察・まとめ】病棟ADL訓練として歯磨きに直接的にアプローチしていることが少ないという現状から、今回のチェックを行った。セラピスト、病棟スタッフともに歯磨きに対する意識の低さ、知識の無さが浮き彫りになった。その理由として、動作労力としての歯磨きと医学、社会的側面から考えた歯磨きとのギャップが存在することが挙げられる。<BR>今後引き続き調査し、セラピストの視点での正確な動作分析・高次脳機能障害の分析、それらに対する介入方法の指標を示す必要があると考える。また業務整理を行い、リンクさせた形で効率的に関わっていくために、アプローチすべき患者の抽出方法の導入や外部委託の歯科医・歯科衛生士とも協力し知識の向上を図る必要がある。そして何より、ADLの定義を明確にし患者を生活者と捉え、QOL拡大を視野に入れ関わりをもつことの大切さを全スタッフ共通認識として捉えていかなければならない。
著者
古積 博・長谷川 和俊 駒宮 功額
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.115-121, 1997-04-15 (Released:2017-05-31)

1995年3月,朝霞市の廃棄物処理施設で爆発火災が起こり,施設に大きな被害を与えた.現場の詳細な調査,および裏付実験を行い,事故の発生プロセスを明らかにした,その結果,施設に搬入された微細な紙の粉が原因物質であり,焼却炉からの逆火によって粉じん爆発が発生したことがわかった.
著者
古見 嘉之 清水 聰一郎 小川 裕介 廣瀬 大輔 高田 祐輔 金高 秀和 櫻井 博文 前 彰 羽生 春夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.204-208, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
2 7

一般的にN-methyl- tetrazolethiol(NMTT)基を持つ抗菌薬による凝固能異常や腸内細菌叢の菌交代に伴うVitamin K(VK)欠乏による凝固能異常がよく知られている.今回我々は,NMTT基を有さない抗菌薬で,絶食下で凝固能異常をきたした症例を経験したので,報告する.症例は91歳,男性.体動困難を主訴とし,気管支炎による慢性心不全急性増悪の診断にて入院.禁食,補液,抗菌薬に加え利尿剤にて加療.第3病日,左前頭葉出血を発症し,保存的加療,末梢静脈栄養を10日間投与後,中心静脈栄養を投与した.抗菌薬の投与は14日間の後,終了となった.経過中28病日,カテーテル関連血流感染を発症した為,中心静脈栄養から末梢静脈栄養に変更し,バンコマイシン(VCM),セファゾリン(CEZ)が投与された.投与初日のプロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)は1.2だったが,徐々に上昇し第35病日目に7.4と延長.対症療法としてメナテトレノン10 mg,新鮮凍結血漿(FFP)を投与した.血液培養にてメチシリン感受性コアグラーゼ非産生ブドウ球菌が検出され,VCMは中止とした.中止後第36病日目でPT-INRが1.1まで改善するも第42病日目では1.9まで上昇したため,CEZによるVK欠乏と考え,再度VK,FFPの投与を行い改善した.CEZが終了後,PT-INRは正常範囲内に改善した.Methyl-thiadiazole thiol(MTDT)基を持つCEZは稀ではあるが凝固因子の活性化を阻害すること,長期間の禁食下での抗菌薬投与は腸内細菌による内因性のVKの産生抑制により凝固能異常を招く可能性があり,この双方が本症例では関与する可能性が考えられた.凝固能の定期的検査によるモニタリングが必要である可能性が示唆された.
著者
阿部 克也 古川 和弥 小野 擴邦
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.423-430, 2010 (Released:2011-09-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

クラゲ由来混合タンパク質を用いた気生微細藻類による壁面緑化の基礎的研究を行った。まず,本学八王子キャンパス内において乾燥したコンクリート壁面,樹皮( スギ製棒杭),石像,スチール製看板塗装面などの表面から気生微細藻類の緑色コロニーを採集した結果,緑藻綱に属するElliptochloris reniformis(E. reniformis)を単離することができた。また,東京湾の夢の島付近から採取したミズクラゲからコラーゲンやムチンなどを含むタンパク質を抽出することができた。E. reniformis は,ミズクラゲ由来混合タンパク質(ムチンなど)を有機窒素源として取り込むことで増殖することが分かった。さらに,そのタンパク質が藻細胞による壁面緑化の初期段階において栄養の供給源の一つになったものと考えられる。したがって,クラゲの有効利用方法および抽出されたタンパク質が気生微細藻類による壁面緑化の助長材料として初期段階において利用可能であること,気生微細藻類の持つ基物着生能力に着目した壁面緑化が可能であることが分かった。
著者
崔 星 大西 和彦 藤森 亮 平川 博一 山田 滋 古澤 佳也 岡安 隆一
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.177, 2010

食生活の欧米化に伴い、日本を含むアジア諸国では大腸癌が急増している。本研究は、大腸癌細胞株HCT116、 SW480を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いはX 線照射前後のコロニー形成能、spheroid形成能、DNA損傷の違いを調べ、またSCIDマウスに移植し、腫瘍形成能、移植腫瘍に対する増殖抑制や治癒率の違いについて比較検討した。HCT116、 SW480細胞においてCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形成数が多くやDNA損傷マーカーgammaH2AX fociは少ないが、 spheroid形成はCD133+、CD44+/ESA+細胞のみに認められた。CD133+、CD44+/ESA+細胞は、X 線或いは炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い細胞殺傷能力が認められた。またCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意な腫瘍形成能を示し、炭素線はX線照射に比べより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。以上より、大腸癌細胞において、CD133+、CD44+、ESA+細胞は明らかに自己複製や放射線抵抗性を示しており、炭素線はX線照射に比べより強く癌幹細胞を殺傷することが示唆された。
著者
儀利古 幹雄
出版者
国立国語研究
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-19, 2011-05
被引用文献数
1

国立国語研究所 理論・構造研究系 プロジェクト研究員本研究では,現在の東京方言における外来語複合名詞のアクセントを記述し,そこに観察されるアクセントの平板化現象に関わる言語内的要因を考察する。本研究で実施した,2世代の東京方言話者に対するアクセント調査の結果,(i)従来の記述と異なり,若年グループにおいて平板型複合名詞アクセントが観察されること,(ii)話者が若年グループであっても,アクセントの平板化は,後部要素が重音節(1音節2モーラ)であり語末特殊拍が撥音である場合においてのみ観察されること,以上の2点が主に明らかになった。
著者
菊池 司 工藤 芳彰 岡崎 章 木嶋 彰 古屋 繁
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.35-44, 2004
被引用文献数
1

デザインの対象が「モノ」から「コト」への移行がいわれて久しい昨今,ユーザが製品や提供される環境を利用していくなかでの全体的な経験までを視野に入れた「Experience Design」,つまり経験を提供するデザイン,あるいは経験そのものをデザインの対象とするという視点に立ったデザインの必要性が言われている.しかしながら,「Experience Design」の意味する本質は見えにくく,経験をデザインできるのかという疑問があるのも事実である.そこで本論文では,「Experience Design」という言葉が意味するものは何かを研究事例などを通して探り,新しい領域へと広がっていくデザイン研究,および実践のあり方を検討するものである.
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51, 2018

<p>2016 年7月に開催された中国国内最大の中国人バイヤー向け石の博覧会「中国昆明泛亜石博覧会」に招待され出展し、雲南省昆明近郊から産出する宝石・鉱物及び石材に触れる機会を得た。雲南省ではルビー・サファイア・エメラルドをはじめとし、多数の宝石や鉱物が産出されており、大理石等の石材も数多く産出されている。</p><p>会場では日本ではあまりなじみのない中国産の宝石・鉱物・石材が多数出展され、その中に石林彩玉や黄龍玉と呼ばれていた宝石があった。石林彩玉は産地を訪れる機会も得られ、調査を行った。</p><p>石林彩玉と呼ばれる宝石は、中国雲南省昆明市石林県イ族自治県から産出する赤、橙、黄色、暗緑色で不透明のアゲートである。特徴的なのはその名前の通り、色鮮やかなスポットが複雑に入り組んだ外観をしていることである。(図1)その天然の模様を活かしたカットが施され、流通している。その色の原因となっているのはニッケル、コバルト、クロム、マンガン、銅、鉄などの微量元素で、赤色や黄色が強い部位では鉄が微量元素として検出され、また、暗緑色の部位ではクロムが検出され、それらが色の原因となっていることが考えられる。</p><p>黄龍玉と呼ばれる宝石も、めのうであるがこちらは半透明黄色のカルセドニーである。雲南省保山市龍陵県小黒山を代表的な産地とするこの宝石は、石林彩玉のようなカラフルなものとは違い、黄色の濃淡の模様がたまに見られるだけである。こちらは彫刻に用いられたり、半透明の風合いや模様を生かしてカットされる(図 2)。微量元素としては鉄が検出されるのみでそれが黄色の原因となっていることが推測される。</p><p>黄龍玉は黄色を貴ぶ中国の玉文化の中で、現在翡翠に次ぐ石とされ、黄龍玉専門のオークションも開催され、多数のコレクターを有する。</p><p>また石林彩玉は、雲南省が積極的なプロモーションを行っており、全国で展開されている。</p><p>そのため、これらについて知識を持っておくことも必要と考えられる。</p>
著者
古谷 利夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.383, 2014

創薬は難しい.私は,物理化学あるいは構造生物学の立場から少しでも創薬に貢献しようと悪戦苦闘してきた.いまではSBDD<sup>※1</sup>やFBDD<sup>※2</sup>はHTS<sup>※3</sup>などと同様,創薬手法としてよく知られた方法だが,私の挑戦は1987年に遡る.NMRで決定したBPTI<sup>※4</sup>の構造を,X線で決めた構造と比較した論文を読んだとき,タンパク質の立体構造を利用する創薬が早晩必須となることを予感した.ちなみに1987年のPDB<sup>※5</sup>に登録された立体構造は年間25個,累積で238個であった.2012年の年間登録が8,936個,累積で86,975個であることと比べると隔世の感がある.<br>標的タンパク質の立体構造に基づく創薬をラショナルドラッグデザインと呼び,X線構造解析法とNMR法という実験的な手法に,コンピュータを使ったシミュレーションを加えたSBDDが登場した.私は所属していた山之内製薬(現アステラス製薬)の研究所が1989年につくばに移転した際に,大変な苦労の末にX線回折装置と600MHzNMRに加えて,コンピュータグラフィックスを揃えた分子設計研究室の設立を推進した.当時は日本国内のX線結晶学の研究者を集めても,海外の大手製薬会社1社のX線結晶学の研究者程度しかいないと言われた時代であった.SBDDは1990年のHIVプロテアーゼとリガンドとの複合体解析に始まり,その後,ノイラミニダーゼを標的にしてタミフルがデザインされた例は有名である.また,1994年にはSAR by NMRが発表され,FBDDの源流となった.FBDDを武器とした創薬ベンチャーが幾つも登場し,その中の1つ,Plexxikon社が2005年に見いだしたゼルボラフはBrafタンパク質の変異型を標的とした皮膚がん治療薬として,FBDDによる最初のFDA承認薬となっている.<br>SBDDやFBDDを支える中心的な技術は,タンパク質の構造解析である.タンパク質の基本構造は10,000種類と見積もられ,網羅的に構造を決める世界的な構造ゲノミクスが計画された.日本では2002年からタンパク3000プロジェクトがスタートし,2007年度までの5年間で3,000を大きく超える構造決定に成功した.評価は様々あるようだが,日本の構造生物学研究を支える多くの研究者を育て,製薬企業の創薬研究に質的変化をもたらした功績は大きいと考えている.その後も技術は進展し,重要な創薬標的であるGPCR<sup>※6</sup>の構造決定が進んでいる.また最近,19F-NMRを使ったスクリーニング法も注目されている.これは,フッ素原子を含む承認薬が全体の約1/3を占めている点に着目し,フッ素原子を好むタンパク質側の結合部位を探索する手法であり,単にFBDDの一手段に留まらず新たなドラッグデザインにつながる可能性をはらんでいる.<br>創薬は難しい.しかし,活性や選択性を上げるためには標的タンパク質がリガンド分子を認識する描像を手にすることが必要で,これが創薬に大きく貢献することに異論を挟む人はいないであろう.海外の製薬会社が極めてルーティン的にSBDDやFBDDを創薬に取り入れているのに比べ,日本ではまだまだという感は否めない.構造生物学の重要性をより一層認識して欲しいものである.<br><br>※1 SBDD:structure based drug design(標的タンパク質の構造に基づく分子デザイン),※2 FBDD:fragment based drug design(フラグメント分子を利用した分子デザイン),※3 HTS:high throughput screening(ハイスループットスクリーニング),※4 BPTI:bovine pancreatic trypsin inhibitor(ウシトリプシン阻害剤),※5 PDB:Protein Date Bank(タンパク質構造データバンク),※6 GPCR:G-protein coupled receptor(Gタンパク質共役受容体).
著者
古閑 博美 牛山 佳菜代 高橋 保雄 池之上 美奈緒
雑誌
嘉悦大学研究論集 = KAETSU UNIVERSITY RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.37-51, 2016-03-17

我が国にインターンシップが導入されて以来、インターンシップは教育的関与を主たる目的とするもので採用とはかかわらないものとされてきた。しかしながら、経済を取り巻く環境が深刻化し、インターンシップの定義や捉え方は変化しつつ今日に至っている。 特に、人材確保に苦慮する小規模事業者や中小企業は、採用にかかわるコストや時間を削減する上で、インターンシップに注目するようになってきた。経済同友会は、青田買い等を避けるためインターンシップは採用と無関係と強調してきたが、近年その捉え方に変化が現れている。 本稿は、「中小企業のインターンシップを考える会」(代表 古閑博美。2014年11月17日~現在)が取り組んできた中小企業のインターンシップの実態をインタビュー調査と質問紙調査から分析した。その結果、インターンシップの活用に採用との関連が無視できない傾向が強まっていることがわかった。インターンシップは、中小企業の人材採用と定着に少しでも光が見える方策として期待される。そのためにはインターンシッププログラムの構築が課題である。
著者
古川 真衣 立石 一希 勝又 英之 山口 翔瑚 金子 聡
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.25-29, 2020 (Released:2020-06-30)

本研究では、特別な分析機器を使用せずに銅イオンを測定する目的で、検出領域としてウェル状スポットを有する紙製分析デバイス(PAD)を開発した。PADは、トリクロロシランの化学気相成長(CVD)でクロマトグラフィー紙に疎水性障壁を形成させることで作製した。検出・定量領域には、銅との反応で茶色を呈する錯化剤として、ジエチルジチオカルバミン酸(DDTC)を固定した。水試料中の銅の検出に適用した後、作製したPADは、画像として取り込まれ、RGB値へ変換することで定量に適用された。
著者
瀬古 千佳子 松井 大輔 松川 泰子 小山 晃英 渡邉 功 尾崎 悦子 栗山 長門 水野 成人 渡邊 能行
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.30-41, 2016 (Released:2016-02-01)
参考文献数
23

ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染は胃がんの確実な発がん因子である。H. pylori感染から慢性萎縮性胃炎への進展過程における摂取食品との関連については多くの先行研究が行われているが, 栄養素摂取量との関連についての報告は少ない。そこで, 本研究はH. pylori感染者における慢性萎縮性胃炎陽性者と陰性者の栄養素摂取量の差異を検討した。対象者は京都在住の35歳から69歳までの健診参加者4,330人のうちH. pylori感染陽性者1,251人とした。解析対象者はこの内の栄養素摂取量算出を完了した女性296人とした。年齢, 喫煙, ビタミン剤服用, エネルギーによる補正を行い, 各栄養素摂取量を三分位に分けてロジスティック回帰分析を行った結果, カルシウムの中等量摂取, 多量摂取, 及び多価不飽和脂肪酸の中等量摂取は有意に慢性萎縮性胃炎のリスクを低めていた。これにより, これらの栄養素が慢性萎縮性胃炎進展の抑制と関連している可能性が示唆された。
著者
兼子 純 山元 貴継 橋本 暁子 李 虎相 山下 亜紀郎 駒木 伸比古 全 志英
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

日韓両国とも,地方都市における中心商業地の衰退が社会問題化している。しかしながら,韓国の地方都市の中心商業地は,人口減少や住民高齢化のわりに空き店舗が目立たず,日本でいう「シャッター商店街」がみられにくい(山元,2018)。そこで本発表では,2016年と2018年に発表者らが行った土地利用実態調査の結果をデータベース化し,韓国地方都市の中心商業地における店舗構成の変化を明らかにすることを目的とする。<br><br>調査対象地域として,韓国南部の慶尚南道梁山(ヤンサン)市の中心商業地(新旧市街地)を選定した(図1)。梁山市は同道の東南部に位置し,釜山広域市の北側,蔚山広域市の南西側に接している。高速道路で周辺都市と連結されており,さらに,釜山都市鉄道2号線によって,釜山市の中心部とも直接結ばれている新興都市である(2017年人口:324,204)。旧市街地は梁山川の左岸に位置し,南部市場が立地している。新市街地は旧市街地の南西約1km,2008年に開通した地下鉄梁山駅前に位置している。近年では,両市街地と梁山川を挟んで対岸に位置する甑山(チュンサン)駅前で,新たな商業開発が進行している。<br><br> 韓国では短期間で店舗が入れ替わることもあって,日本の住宅地図に相当するような,大縮尺かつ店舗名などが記載された地図が作成されることはまずない(橋本ほか,2018)。そのため発表者らは,韓国における中心商業地の構造変化を明らかにするための基礎資料の作成を念頭に置き,2016年3月に梁山市の新市街地と旧市街地において土地利用調査を実施し,そのGISデータベースを構築した。この時の結果をもとに,2018年3月に同じ範囲かつ同様の調査手法で再度土地利用調査を実施し,2年間で店舗が変化している箇所の業種を抽出した。今回の発表では,1階で店舗が変化している部分を分析対象とする。<br><br> 2016年の調査では,新旧市街地での商業機能の分担,つまり旧市街地では伝統的な商品や生鮮食料品店の集積,新市街地では若年層向けの物販サービス機能が卓越し,チェーン店(それらが展開する業種)の立地が確認された。そうした両市街地における2016年から2018年の2年間で店舗構成が変化した箇所を確認すると,旧市街地では530区画中129区画(24.3%),新市街地では485区画中132区画(27.2%)で店舗が入れ替わっていた。<br> 旧市街地において,在来市場を中心とする中心部よりも周辺部で空き店舗が目立つようになり,市街地の範囲が縮小している。新市街地では,店舗の入れ替わりが激しいことに加えて,店舗区画の分割や統合なども顕著である。現地での聞き取り調査によると,賃貸契約は2年が一般的であるが,契約更新時の賃料上昇や韓国特有の権利金の存在もあって,現在では新市街地から,新規に建設が進む甑山駅周辺に移転する店舗が増加しつつあるという。当日の発表では,変化箇所の業種や地域,区割りの特徴などから,梁山市全体の商業地の構造変化について報告する。