著者
澤登 洋輔 高塩 理 橋本 龍一郎 林 若穂 小島 睦 小野 英里子 西尾 崇志 青栁 啓介 太田 晴久 板橋 貴史 岩波 明
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.229-241, 2021 (Released:2021-08-24)
参考文献数
30

社交不安は自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, 以下ASD)の主要な併存症状の一つであるが,その神経解剖学的基盤は未だに十分に研究されていない.本研究では,成人ASDの社交不安の神経解剖学的相関を神経学的定型群(Neurotypical Control,以下NC)と比較して検討した.対象は,昭和大学附属烏山病院の外来患者の内,精神障害者の診断と統計マニュアル第4版改訂版でASDと診断された40名の男性と,健常者43名のNC男性であった.社会統計学的および臨床的特徴を収集し,リーボヴィッツ社交不安尺度日本語版(Liebowitz Social Anxiety Scale,以下LSAS-J),自閉症スペクトラム指数,ウェクスラー知能検査第3版(Wechsler Adult Intelligence Scale, Third Edition,以下WAIS-Ⅲ)を用いて,それぞれ社交不安の重症度,ASD症状,知的プロフィールを評価した.全脳1.5T磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging,以下MRI)スキャンを実施した.LSAS-Jスコアの神経解剖学的相関を調べるために,Voxel-based morphometry(以下VBM)解析を行った.ASD群ではLSAS-Jスコアが左上側頭回および右感覚運動野の灰白質密度(Gray Matter Density,以下GMD)とそれぞれ正と負の相関を示した.一方,NC群ではLSAS-Jスコアが両側前頭極および左被殻のGMDとそれぞれ正と負の相関を示した.関心領域解析を行った結果,上記4領域のうち,左上側頭回以外の右感覚運動野,左前頭極および左被殻における平均GMDはLSAS-Jと群要因の交互作用を認めた.ASD群は,NC群と比較して,社交不安の神経解剖学的相関に特徴があり,おそらく社交不安の高まりに対する代償メカニズムが異なるためであろうと考えられる.このことは,ASDにおける社交不安の特徴を示唆している.
著者
小島 千佳
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.119-141, 2023 (Released:2023-08-22)
参考文献数
60

本稿は,文学作品の分析を通じて,ジェントリフィケーションにおける立ち退きをめぐる問題について,定性的な考察を試みるものである。英語圏のジェントリフィケーション研究では,聞き取り調査に依拠する定性的研究により,居住者の場所喪失という犠牲の経験が論じられつつある。本稿では,文学作品の表象分析を通じて,立ち退きに伴う登場人物の場所喪失を関係論的な場所論の視座から検討した。具体的にはジェントリフィケーションを描いた,ヤン・ブラントによる小説『街の中のとある住まい』を研究対象とし,主人公をはじめとした登場人物の場所喪失の描かれ方を分析した。その結果,主人公の場所喪失は一時的なものではなく,長期にわたる精神的苦痛を伴う過程として描かれていたことが明らかとなった。他方で,旧東ベルリン居住者やトルコ系住民の場所喪失との関係において,主人公は他者の場所喪失による痛みに無自覚であるばかりか,それをロマンチックな経験へと読み替える加害者としても描かれていた。本小説は,ジェントリフィケーションにより住まいが奪われる痛みを私小説形式で伝えるとともに,個人の経験に含まれる犠牲と加害との両義性を示している。しかし,本小説における主人公と他者の痛みの描写のように,場所喪失の経験を序列化する物語は,現実に起きているジェントリフィケーションに対する想像力を方向付け,立ち退かされる人々のあいだに分断をもたらし得るという問題を内包している。
著者
愛場 庸雅 森 淳子 小島 道子 梶本 康幸
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.43-49, 2022-01-20 (Released:2022-02-01)
参考文献数
14

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) では, 嗅覚障害, 味覚障害がよく見られる. その現状と病態を探るために, 2020年3月~2021年2月末までに大阪市立十三市民病院に入院した COVID-19 の中等症・軽症患者を対象として, 嗅覚味覚障害の頻度と転帰, およびその性別, 年齢による差について診療録に基づいて調査した. 嗅覚味覚障害の有無の評価が可能であった患者750名のうち, 嗅覚障害は208名 (27.7%), 味覚障害は216名 (28.8%) に見られ, うち181名 (24.1%) は嗅覚味覚両方の障害が見られた. 有症率に男女差はなかったが, 若年者では高く, 加齢とともに低くなっていた. 嗅覚障害患者の83%, 味覚障害患者の86%は, 退院までに治癒または軽快していた. 治癒に至るまでの平均日数は嗅覚障害9.4日, 味覚障害9.2日であった. 女性の改善率は男性よりやや低かった. COVID-19 の嗅覚障害は, 感冒後嗅覚障害と比較して, 年齢性別の頻度や改善までの期間が明らかに異なっているので, 両者の病態には違いがあることが推測された.
著者
小島 妙子
出版者
日本法社会学会
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.80, pp.170-193, 2014 (Released:2021-05-04)

“The right to self-determination” about the abortion has been discussed as a part of the (disposal rights) ownership of the female body, but with the development of life science and improved technology of prenatal diagnosis, the opinion that women have no freedoms to choose the “quality” of children and do not allow the selective abortion have become to be supported. “The guideline for new prenatal diagnosis using maternal blood” which was published in March 2013, has the response inhibition about the “prenatal diagnosis,” saying that “a doctor need not inform actively to a pregnant woman about the new prenatal diagnosis,” and it has limited the pregnant women subject to inspection it, carrying out only in the accredited institution. Can the woman decide whether or not to give birth to a child, on the basis of prenatal diagnosis, and making the abortion on the grounds of failure of the fetus? This paper would reveal that the decision on abortion is related to the basis of self-definition, being guaranteed under the legal structure of “the freedom of the body” by Article 13 of the Constitution, and discussing the problems of the guideline for prenatal diagnosis and the possibility of the selective abortion.
著者
小島 千絵 平石 光俊 石塚 洋一
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.185-190, 2003-02-28 (Released:2010-06-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1

私共は当科初診時に難治性で, かつ咽頭以外にも口内炎や潰瘍が認められた症例で, その後に突然の下血を起こし, クローン病と診断しえた2症例を経験した.今回の症例は, 2症例ともに口内炎ならびに喉頭の白苔と咽頭潰瘍が消化器症状に先行して出現していた.これらの事より, 耳鼻咽喉科に受診するアフタ性口内炎や咽頭潰瘍に関して, 喉頭の所見や消化器症状などにも留意し, 便秘や軟便, 下血などの有無を確認し, クローン病の可能性も念頭におきながら経過観察が必要と考えられた.
著者
藤本 将志 伊藤 陸 小島 佑太 池田 幸司 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.19-26, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
6

The authors use top-down evaluation to determine impairments and perform physical therapy regardless of musculoskeletal or central nervous system disorders. One of the abnormal postures in patients with musculoskeletal disorders is a hunched posture with trunk flexion. In addition to the influence of the trunk, hunched posture tends to become more prominent with the influence of the lower limbs, lifestyle, and aging,. In this paper, we explain how to weigh the relevance of the problems considering the effects of not only the trunk but also the lower limbs, when considering the problems of trunk flexion posture in musculoskeletal disorders. In addition, we also explain the main points for performing examinations and physical therapy for problems of the trunk, while presenting posture and motion analysis of cases and electromyogram data of healthy subjects.
著者
田中 大貴 森 恵莉 関根 瑠美 鄭 雅誠 鴻 信義 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.119-122, 2020-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
13

塩化亜鉛液を浸した綿棒で上咽頭を擦過する上咽頭擦過療法 (Epipharyngeal Abrasive Therapy: EAT) は, 組織の収斂・抗炎症作用を利用した上咽頭炎など初期の感冒症状に対して一部の施設にて行われている。 上咽頭擦過療法で稀に嗅覚障害を来すことがあるとされるが, 詳細な報告はない。 国外ではグルコン酸亜鉛液が初期の感冒に効果があるとされ市販されており, このグルコン酸亜鉛液による点鼻治療で嗅覚障害を来したという報告が散見する。 また硫化亜鉛や酸化亜鉛も動物実験で嗅覚障害を起こしたという報告がある。 今回, 塩化亜鉛液が原因と考えられる嗅覚障害の例を経験し, 塩化亜鉛も他の亜鉛化合物と同様に嗅覚障害を呈する可能性が考慮されたため, 文献的考察を加えて報告する。
著者
野村 恭代 米田 亜希 小島 一哉 生田 英輔
出版者
大阪市立大学都市防災教育研究センター
雑誌
都市防災研究論文集 (ISSN:24354910)
巻号頁・発行日
no.8, pp.19-24, 2021-11

本研究では, 新型コロナウイルスなど今後も発生するであろう新たな脅威との共存に向けた社会の創造に向けて, 特に災害発生時の包摂を妨げる主要因となるコンフリクトに焦点をあて, 福祉避難所の役割を担う社会福祉施設への平時におけるコンフリクトに関する全国調査を実施し, 分析を行った.
著者
田中 絵理 小林 義治 小島 美里 大野 恵梨 松岡 久美子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.157-163, 2015 (Released:2016-03-19)
参考文献数
18

【目的】光干渉断層計(optical coherence tomography以下OCT)を用いた上方視神経低形成(Superior segmental optic hypoplasia 以下 SSOH)の視野欠損部位に対応する網膜層構造の検討をすること。【対象と方法】SSOH4例6眼、正常10例20眼[それぞれ平均年齢20.3±1.2歳(平均値±標準偏差)、21.5±3.0歳、平均屈折(等価球面)-3.58±2.3D、-3.46±2.3D]を対象とした。spectral-domain OCTを用いて下方視野欠損部位に対応する上方網膜および上下対称である下方網膜を、中心窩を基点とし30度刻みで7.5mmのラインスキャンを施行した。検討項目は①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較、②SSOH群と正常群のその他網膜層厚(神経節細胞層+内網状層厚および内顆粒層~網膜色素上皮層厚)の比較とした。【結果】①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較では、上方においてSSOH群が正常群に対して有意に菲薄化していた。下方では有意差はみられなかったがSSOH群で薄い傾向にあった。②SSOH群の神経節細胞層+内網状層厚は正常群と比較し薄い傾向にあった。内顆粒層~網膜色素上皮層厚の比較では有意差はみられなかった。【結論】SSOH群の神経線維層の菲薄化は上方および下方に生じていた。神経線維層欠損部の外層の網膜厚に変化はみられなかった。また本測定法で強度近視に影響されず神経線維層欠損を確認することが可能であった。
著者
横尾 真 神取 道宏 田村 明久 船木 由喜彦 関口 格 坂井 豊貴 平山 勝敏 尾山 大輔 安田 洋祐 岡本 吉央 岩崎 敦 川崎 雄二郎 小野 廣隆 櫻井 祐子 東藤 大樹 上田 俊 伊藤 孝行 小島 武仁 小原 一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

本研究プロジェクトでは、我が国の持続可能な発展のために、計算機科学とミクロ経済学の技術を統合/発展させ、経済的、社会的、環境的な観点からの要求をバランスした、希少な資源の望ましい配分を実現するメカニズムの設計理論を構築することを目的としている。具体的には、資源配分メカニズムの設計、解析、表現技術に関して研究を推進し、特に、制約付き両方向マッチングにおけるメカニズム設計、ノイズのある繰り返しゲームの均衡解析、協力ゲームに関する表現技術に関して顕著な成果が得られている(査読付き国際会議87件、国際論文誌74件、国内論文誌11件、著書8件、教科書の執筆4件、招待講演40件)。
著者
仲西 知憲 小島 哲夫 小川 光 石河 利之 村田 大
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.147-150, 2018-03-25 (Released:2018-05-21)
参考文献数
11

比較的稀な10代の肘部管症候群3例について報告した.2013年4月から2017年1月まで肘部管症候群の診断で尺骨神経前方移行術を施行した72例のうち,10代の症例で術後6か月以上のフォローが可能だった3例を対象とした.平均18.7(18-19)才,全例男性で投球時の内上顆の痛み,尺骨神経症状などを有した.筋萎縮はなく赤堀の分類第1期であった.臨床所見,神経伝導速度検査,手術所見,Mayo Elbow Performance Score(以下,MEPS),JOA-JES scoreを評価した.全例,内上顆周辺の圧痛,Tinel徴候のみで神経伝導速度に特記すべき所見は認めなかった.手術では内上顆付近の軽度の神経絞扼を認めた.全例機能スコアの改善を認めた.野球の投球に関連する肘部管症候群においてスポーツのパフォーマンス改善のために,尺骨神経前方移行術を施行することが重要であると考えられた.
著者
江川 香奈 小島 督弘 坪田 祐 江 文菁 安藤 繁 山下 哲郎
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.87, no.797, pp.1124-1129, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
15

Based on a simulation of casualties potentially affected by a Northern Tokyo Bay Earthquake, we examined the limits and possibilities of medical relief activities and building space at disaster base hospitals. Considering casualty numbers over time, we determined details about the overall space required to deal with affected patients based on degree of urgency and ascertained the needs of each area. We found that the yellow area (for high-risk patients) was relatively large; however, it was also found that affected patients remained and continued to accumulate in the red (critical) area for some time after the disaster.
著者
村田 晃嗣 阿川 尚之 小島 誠二 中谷 直司 山口 航
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

グローバル化を背景として、国際政治における都市をめぐる外交の重要性が増している。本研究は、「都市からの外交」と「都市への外交」の2つの方向を軸として、①自律的プレイヤーとしての都市による外交の実態を把握し、②都市外交研究の基盤となる分析枠組を構築し、③国家を始めとする他のアクターとの相互作用を分析し、「都市」が世界政治で果たしつつある役割を明らかにしていくことを目指した。都市をめぐる外交を2つの方向から事例を研究し、都市の経済活動の結果ではなく、世界政治の構成要素としての「都市外交」研究を目標にした。本年度は、これまでの成果を踏まえた上で、「世界政治における都市外交」(潜在的役割の評価と政策提言)について研究を進めた。都市が今後「世界政治」のなかで発揮すべき役割について、検討をしていった。とくに①新しい「国際規範」の発信者としての都市と、②国連や地域機構と協力して紛争後地域の「平和構築」に貢献する都市の姿に着目をした。①については、国家主権の制限に必ずしもしばられない都市が、規範(新たな理念)の意識的な発信者として行動を活発化させれば、すでに実績があるNGOや多国籍企業を上回る影響力を発揮することが可能ではないかと予測した。②については、停戦監視や武装解除の初期段階ではなく、その後の自治機構の整備や地域コミュニティーの安定化に、都市が組織的に関与できる「国際制度」の構築を想定した。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による国内外の情勢に影響を受けたため、国内外での資料の収集や、研究メンバーによる機動的な行動が困難となり、研究に遅れが生じた。
著者
米澤 和 森 恵莉 鄭 雅誠 関根 瑠美 永井 萌南美 弦本 結香 小島 博己 鴻 信義
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.317-322, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)
参考文献数
20

近年,喫煙と嗅覚障害の関連について様々な研究がされており,喫煙が嗅覚を悪化させる原因の一つであるとの報告も多くされている。今回,当院で2009年4月から2016年3月までにT&Tオルファクトメーター(T&T olfactometer; T&T)を用いて基準嗅力検査を行い,1年以上経過が追え,かつ2回以上嗅力検査が施行できた208名の患者を対象に,嗅覚障害の程度と嗅覚の改善度について,喫煙患者と非喫煙患者に分類して比較検討を行ったので報告する。208名のうち,喫煙者と非喫煙者の内訳は,喫煙者が51名,非喫煙者が157名であった。疾患の内訳は,感冒後が32.7%,慢性副鼻腔炎が28.4%,特発性が19.2%,外傷性が11.1%であった。喫煙頻度は,全疾患で24.5%であり,感冒後が17.6%,慢性副鼻腔炎が28.8%,外傷性が30.4%であった。重症度は,喫煙者で高度・脱失群が84.3%であり,有意に低下していた(p < 0.05)。また,感冒後における改善度は,喫煙者で不変・悪化群が66.7%(12名中8名)であり,有意に改善しない患者が多かった(p < 0.05)。嗅覚障害は喫煙により,重症化する可能性が示唆された。さらに,喫煙者において感冒後嗅覚障害の改善が乏しい結果となった。喫煙は嗅覚障害のみならず,人体に様々な影響を与えるため,禁煙指導は積極的に行うことが望ましい。
著者
土井 佳代 小島 尚 原田 昌興 堀口 佳哉
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.15-22, 1994-02-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

1%コレステロール添加飼料 (Ch) に乾燥桑葉 (ML) およびその熱水抽出物 (ME) をさらに配合した飼料 (ML・Ch, ME・Ch) をウサギに12~16週間与え, 血清脂質に及ぼす影響について検討した。実験期間中2週間ごとに採血し, 総コレステロール (TC) 等の血清脂質成分を測定し, 実験終了時には剖検および病理組織学的検討を行った。1) Ch食による血清TCの増加は, 10週間で2, 500mg/dlに及んだのに対して, ML・Ch食によるTCの増加は抑制された。とくに2.5%添加したML・Ch群では最大値1, 500mg/dlを示したに過ぎず, 有意に増加が抑制された。FC, PL, TGなどの血清脂質成分も同様の傾向を示した。2) 16週間の摂食後の剖検において, 肝臓の肥大・脂肪沈着はML・Ch群で軽減することが認められた。10%MLのみを添加した飼料を与えた動物は, 通常飼料群との間に差を認めなかった。3) 4週間Ch食で飼育し, 各群のTCが約1, 300mg/dlに増加したのをみてML・Chに切り換えて飼育すると, TCをはじめとする血清脂質成分の増加は抑制された。また, ME・Ch群においても, 増加は抑制された。4) 3) の肝臓病理組織学所見において, 肝細胞の腫大・脂肪沈着等はCh群で顕著であったのに対して, ML・Ch食群とME・Ch食群では微弱傾向を示した。胸部大動脈の病理組織学所見において, Ch群で顕著にみられた血管内膜の肥厚は, ML・Ch群では抑制された。以上の結果より, 桑葉には高コレステロール食により高脂肪血症を呈したウサギの血清脂質増加を抑制し, 脂肪肝を軽減する効果を有することを認めた。また, この効果は桑葉の熱水抽出物でも認めたが, 有効成分は非抽出画分にも存在すると思われる。