著者
林 祐一 西田 承平 竹腰 顕 村上 宗玄 山田 恵 木村 暁夫 鈴木 昭夫 犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.244-249, 2016-07-25 (Released:2016-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1 4

症例は65歳女性.40年前,双極I型障害と診断され,リチウム製剤で治療を開始された.途中,数年の中断を経て,10年以上前から炭酸リチウム600 mg/日を内服していた.精神症状のコントロールは比較的良好であった.X年12月,高血圧の診断のもと,アジルサルタン20 mg/日の内服が開始されたところ,内服3週間後から動作時の両手指のふるえが生じるようになった.症状は進行性で,手指のふるえが強まり,内服4カ月後ごろからたびたび下痢,便秘を繰り返すようになった.経過観察されていたが,翌年10月下旬ごろから食欲の低下,認知機能の低下が生じ,2週間程度で進行するため当科に入院した.神経学的には,軽度の意識障害,四肢のミオクローヌス,体幹失調を認め,立位が困難であった.リチウムの血中濃度は3.28 mEq/lと高値を認めた.リチウム中毒と診断し,炭酸リチウムを含む全ての経口薬を中止し,補液を中心とした全身管理を行ったところ神経症状の改善を認めた.炭酸リチウムは長期間,適正な投与量でコントロールされていたが,降圧薬のアジルサルタンの投与を契機として,慢性的な神経症状が出現し,次第に増悪,下痢,脱水を契機にさらに中毒となったものと推定した.リチウム製剤はさまざまな薬剤との相互作用がある薬剤で,治療域が狭いという特徴がある.双極性障害は比較的若年期に発症し,リチウム製剤を長期内服している患者も多い.このような患者が高齢となり高血圧を合併することも十分考えられる.リチウム製剤投与者に対して,降圧薬を新たに開始する場合には,相互作用の観点から薬剤の選択ならびに投与後の厳重なリチウム濃度の管理が必要となる.現行の高血圧治療ガイドラインでは特にリチウム製剤投与者への注意喚起がなされておらず,このような高齢者が今後も出現する可能性がある.また,リチウム製剤投与高齢者の高血圧の管理において重要な症例と考え報告する.
著者
山田 俊治
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-13, 1991

『書生気質』では様々な戯作の趣向が再生させられている。小町田の来歴を語る第二回や、兄妹再会が言祝がれる大団円などで、会話中に示されるべきストーリーが地の文に転換されて語られる趣向もその一つで、『梅児誉美』に見出せるのである。しかし、その手法に対する認識には、彼我に異質な方法意識を読み取ることができる。両者の差異を、テクスト外の言表行為の主体である<作者>の問題として捉え、具体的に考察しようと思う。
著者
坂野 翔子 岡本 隆二 鈴木 康夫 山本 彩人 中谷 仁 村田 智博 洪 英在 藤井 英太郎 山田 典一 伊藤 正明
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.564-570, 2018-03-10 (Released:2019-03-10)
参考文献数
10

68歳,男性.1カ月以上続く不明熱の原因検索目的で当院に紹介された.各種検査で異常を認めず,詳細な問診で発汗の自覚がないことが判明したため,発汗テストを行った.広範囲で発汗を認めず,特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と診断した.炎症反応上昇を伴わず,発汗障害を認める患者には,本疾患を鑑別疾患に挙げる必要がある.
著者
中川 尚史 中道 正之 山田 一憲
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.111-125, 2011 (Released:2012-01-19)
参考文献数
29
被引用文献数
6 7

Questionnaire on infrequently-observed behaviors (IOBs) in Japanese macaques (Macaca fuscata) were given to primatologists. This survey aimed to provide basic information on the degree of rarity of each behavior. The questionnaire consisted of questions for respondents themselves, (e.g., name, research carrier, daily observation time), focal group (name of group and local population, captive, provisioned free-ranging, crop-raiding or purely wild), and IOBs. Experience of direct observation of 36 candidates of IOBs was also requested to answer by yes, no, or impossible to answer because of ambiguous memory or unawareness of its behavior. In total, 39 answer sheets were obtained from 32 respondents. The top 10 IOBs and the number of those answering "yes" in parenthesis are as follows: mating interruption by juveniles (1), simultaneously nursing different-aged offspring (1), tool-use (1), single mount ejaculation (2), transporting the older offspring (2), nursing the older offspring (2), simultaneously transporting different-aged offspring (3), pulling the hair of female chin as a courtship behavior by male (4), twin birth (4), and (diurnal) birth (6). Some of IOBs, such as mating interruption by juveniles, seem to be due to ambiguous memory or unawareness of its behavior. Apparent inter-population differences in the percentage of respondents answering "yes" to the all the respondents giving definite answers were found in some behaviors, such as embrace-rocking behaviors, mating behaviors in birth season, stone-handling, and feeding on vertebrates. Some of them, like the latter two, seem to have something to do with provisioning. With the modification of three categories by Nakamichi et al. (2009), we proposed the following five categories of IOBs: I) behaviors which are difficult to be observed despite its common occurrence; II) behaviors which rarely occur in every population: III) behaviors which rarely occur in some populations, but frequently occur in the others; IV) behaviors which are difficult to identify and memorize despite its common occurrence; V) behaviors which rarely occur during the most of the time but temporally occur.
著者
坪野 由美 飯山 志保 浦島 理恵 山田 孝子 小杉 久子 中川 真由美 澁谷 直美 大浦 栄次
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.57, pp.240, 2008

〈はじめに〉平成17年の国民健康・栄養調査によると我が国の喫煙率は男性で39.3%で減少傾向、女性は11.3%で横ばいとなっている。しかし依然禁煙を実行しえない喫煙者が多く存在している。今回禁煙のきっかけ作りのために、身近な人の禁煙エピソードを収集し、その特徴をまとめたので報告する。<BR>〈方法・対象〉対象者は平成19年8月から平成20年1月までの6ヶ月間に、厚生連高岡健康管理センターで日帰りドックを受診し、禁煙アンケート調査に同意を得られた禁煙成功者(以下成功者とする)および禁煙失敗者(以下失敗者とする)(男100名・女10名)の110名である。アンケートは独自に作成したもので喫煙歴、禁煙のきっかけ、禁煙成功・失敗理由等の項目についての自記式調査用紙である。ケースによっては追加聞き取りも行った。<BR>(結果及び考察)対象の内訳は禁煙成功者92名、禁煙失敗者18名である。成功者92名中、男性85名女性7名であった。成功者の禁煙のきっかけ、成功理由を人間関係、健康上の理由、仕事、イベント、趣味・生きがい、金銭的理由、環境、その他の8つに分類した。一番多い禁煙のきっかけ、成功理由は表3に示すとおり健康上の理由が50例と多かった。人間関係では子供の誕生、友人と約束、仕事上ではお客様のため等、イベントでは結婚を機に、エイプリルフールに、ハワイ旅行で等があった。趣味・生きがいではサーフィンを続けるためが1例、金銭的理由ではタバコ税に頭がきて等、環境では職場が禁煙になり等があった。<BR>今回の成功者の禁煙成功の鍵は、健康上の理由が最も多いことがわかった。しかし、健康上の理由で禁煙が必要であっても、その気が全くない喫煙者も存在していることから、禁煙成功には各個人の健康に対する考えが大きく左右しているのではないかと考える。また色々な禁煙エピソードを読むことで喫煙者に共感や驚きが生まれ、禁煙の試みにつながると思われる。今までのように煙の害を啓蒙する、禁煙外来をすすめる等の禁煙支援の方法もあるが、今回の成功者には禁煙教室参加でやめたケースは1例にとどまり、禁煙外来で成功したケースもなかった。しかし、主治医のすすめで成功のケースは5例あり、医師のアプローチの重みは強い。今後保健、医療の両現場においての禁煙支援のひとつの手段に禁煙エピソードを取り入れ、喫煙者の禁煙への興味、関心を引き出し禁煙のきっかけ作りに利用していきたいと考える。
著者
山田 厳子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.205-224, 2011-03

「障害」をもつ子どもが、家に福をもたらすという、いわゆる「福子」「宝子」の「伝承」は、大野智也・芝正夫によって、民俗学の議論の俎上に載せられた。この「伝承」は、この著作以前には、ほとんど記述されていない「伝承」であった。そのため、一九八一年の国際障害者年を契機として、新たに「語り直された」「民俗」であるという批判があった。筆者は、さきに「民俗と世相―『烏滸なるもの』をめぐって―」と題する小稿の中で、このことばの「読み替え」は、「障害」を持つとされる「子ども」の保護者の間で、一九七〇年頃には既に起こっていたこと、問われるべきは、このようなことばが「伝承」として可視化され、語るに足るものとして捉えられるという、認識上の変化・変質の方ではないか、と論じた。本稿では、この問題の残された課題について検討した。まず、この本の作者の一人、芝正夫という人の研究の背景について示した。東洋大学で民俗学研究会に属し、卒業後、障害者福祉関係の仕事に就いていた芝は、「障害」を持つ子の親の手記から「福子」「宝子」ということばを知り、このことばのマイナスの語義を知りつつも、「障害」を持つ人々が地域に当たり前に暮らすことを可能にすることばとして、再生させようとした。その結果、このことばを「昔の人の知恵」「伝承」として、人々に提示してみせた。次に「障害者」としてラベリングされる以前に、「福子」や「宝子」ということばが、どのような文脈に置かれたことばだったのかを考察した。「障害者」という概念のもとに、集まってきたことばが、「愚か者」「役に立たない者」「家から独立できない者」という語義を持つことばであったことを示し、「障害者」とは別種のカテゴリーであったことを示した。これらのことを明らかにすることで、①「伝承」や「民俗」という枠組みを、目的のために戦略的に使う人物(芝 正夫)が民俗学的「知識」の形成に関与したこと、②「障害者」をめぐる認識のかわりめにあって、過去の別種のカテゴリーにあったことばが、かつての文脈を失って再文脈化したこと、を示した。The tradition of fukugo and takarago a child with disability brings the family a fortune was brought into folkloric discussion by Tomoya Ono and Masao Shiba. This "tradition" has hardly been described before their work. Therefore, on the occasion of the International Year of Disabled Persons in 1981, it was criticized as a "reinterpreted folklore."In the paper entitled "Folklore and Social Conditions : Over the word oko," this paper argues that such "reinterpretation" of the word had already taken for granted parents of "children with disabilities" in 1970. Thus, we should rather discuss the change of recognition by which such a word became visible as a "tradition" and regarded as something worth mentioning.This paper presents the background of the studies of Masao Shiba, who is one of the authors of the book. Shiba was a student member of the folklore society at Toyo University and took a job in the welfare of handicapped persons after graduation. He learned about the words fukugo and takarago from the notes of the parents of children with disabilities. While knowing the negative meaning of those words, he tried to resuscitate them as words that enable people with disabilities to live normally in local communities. As a result, he presented those words to people as "wisdom of people in the past" and "tradition."Next, this paper studies the context in which the words fukugo and takarago were placed before they were labeled as a person with disability. It shows that the words that gathered under the concept of a "person with disability" had the meaning of a "fool," a "useless person," and a "person who cannot be independent from parents," and that they belonged to a different category from a "person with disability."By clarifying the above, this paper shows the following: [1] A figure (Masao Shiba) who used the framework of "tradition" and "folklore" strategically to attain his purpose became involved in the formation of the folkloric "knowledge"; [2] By the change of recognition over the "person with disability," the words that belonged to a different category in the past lost their former context and were placed in a new context.
著者
山田 宏
出版者
日本産業教育学会
雑誌
産業教育学研究 (ISSN:13405926)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-18, 2019

<p>1960年代の高校政策は多様化政策と捉えられ、「小学科の多様化」はその象徴とされてきた。高校への技能教育の導入を求める議論に対し、文部省は小学科の多様化に政策課題を焦点化し、審議会は新設すべき小学科を答申するが、方針は短期日のうちに事実上撤回され、教育課程編成の弾力化にとって代えられた。小学科の多様化が政策課題の中心に置かれたのは67年前後の短期間に過ぎなかった。また、これまでデータがなかった65年以前の小学科の種類を推計したところ、60年代半ば以降に小学科の多様化が加速した事実は見られない。</p>
著者
山田 高弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.606, pp.606_191-606_209, 2009-09-30 (Released:2011-11-26)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

保険制度は善意の保険契約者を前提として成立している。そのため,不正請求者を放置することは,単に保険会社が保険金を取られることだけでは済まず,保険制度自体を崩壊させかねないものである。現在,損害保険業界は一連の不払問題等の影響によって,厳しい状況におかれている。しかし,社会情勢がどうであれ,不正請求事案に厳正に対処していくことは保険会社に課せられた責務である。むしろ,このような状況であるからこそ,保険金詐欺防止への取組みが大切でありその対策が重要となるのである。本稿では,わが国の保険金詐欺の実態を偽装自動車盗難による不正請求を中心に分析し,今後業界が取り組むべき不正請求対策について論じる。
著者
山田 壮志郎 Soshiro Yamada
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal of social welfare, Nihon Fukushi University
巻号頁・発行日
vol.128, pp.51-65, 2013-03-31

ホームレス問題が社会的排除の一つの典型であるならば, ホームレス対策は社会的包摂を志向するものであるべきである. 本稿の目的は, ホームレス状態の解消が社会的排除の克服に結びついているかどうかを検討することにある. そのために, 筆者がホームレス状態からアパート生活に移行した人々を対象として 2009 年に実施した調査の結果を用いて, ホームレス状態解消後の被排除状況を, 先行研究の分析枠組みに依拠しながら分析した. その結果, 第 1 に, 回答者の多くはホームレス状態を解消してもなお社会的に排除された状態に置かれていることが明らかになった. 第 2 に, 被排除状況には年齢階層による相違がみられ, 若年層では生活保護受給後の孤立化が, 高齢層では居住環境の低位性が課題となっていることがうかがえた. 第 3 に, 生活保護受給者の多くが, 社会的必需項目を剥奪されていることが明らかになった.
著者
山田 大輔
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.347, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
3

恐怖と食欲はともに生存に必須な本能である.動物が餌を探すなか天敵に遭遇した場合,恐怖を感じて危機回避行動が生じなければ捕食されてしまう.そして,この恐怖は記憶しておく必要がある(恐怖記憶).しかし,恐怖が強すぎて餌にありつけなければ餓死してしまう.つまり,動物の生存には恐怖と食欲のバランスを保つことが必要であり,それを実現するような神経機構が存在する可能性が考えられていた.この点についてVermaらは,空腹感が恐怖を司る神経回路をシナプス伝達レベルで修飾し,恐怖記憶を変化させること,その変化に摂食制御ペプチド受容体が関与することを報告したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Verma D. et al., Neuropsychopharmacology, 41, 431-439 (2016).2) Holzer P. et al., Neuropeptides, 46, 261-274 (2012).3) Pape H. C., Pare D., Physiol. Rev., 90, 419-463 (2010).