著者
陳 明石 清水 忠男 佐藤 公信 一海 有里
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.13-18, 1999-07-31

調査対象となった岐阜県高山市の商店街路は, 私有地と公有地とを取り込み, 同じ舗装を施し, 一体感や広がり感を作り出している屋根付きの歩行者空間である。ここには, 平日, 週末を問わず, 店舗の営業時間に呼応して, 様々な仮設的要素が路上に置かれているのが観察された。それら仮設的要素の置かれ方は商店街の協定に基づいているため, 広い通行空間がほぼ確保され, 歩行者は歩きながら商品を楽しみ, 店内の様子をうかがうことが可能である。この点はアンケート調査においても肯定的に受けとめられていた。この空間は, 行政と商店側が双方の所有地を共同で計画, より幅広い歩行者空間としてデザインし作り上げた公私融合型歩行者空間ということができる。このようななりたちの歩行者空間は, 立場の異る様々な人々の多様な活動を支援し, コミュニケーションを促進する場となり, 商店街を活性化させる一つの有効なあり方を示している。
著者
清水 裕文 山本 淳一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声
巻号頁・発行日
vol.98, no.639, pp.55-62, 1999-03-05
被引用文献数
2

「わ」と「ば」、「だ」と「ら」の音声弁別に困難を示す発達障害児を対象に、見本合わせ法に基づいた刺激シェイピング手続きが、それぞれの音声弁別の成立に有効であるかを検討した。弁別性を高めるために、コンピュータを使用して音声刺激を加工し、徐々に目標とする刺激へと変化させてゆく訓練を実施した。その結果、試行ブロック化手続きとの併用によって、誤反応を最小限にしながら音声弁別が獲得された。このことは、聴覚刺激を用いた場合にも刺激シェイピングが有効であることを示し、発達障害児の音声弁別を 改善するための指導法として利用可能であることを示した。
著者
須賀 晃一 吉原 直毅 薮下 史郎 若田部 昌澄 若松 良樹 船木 由喜彦 須賀 晃一 藪下 史郎 飯島 昇藏 船木 由喜彦 若松 良樹 梅森 直之 川岸 令和 清水 和巳 若田部 昌澄 谷澤 正嗣
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

社会的正義の基本概念は、今日の社会的問題、公共的問題に解決策を示唆しうるもの、また社会の歴史的・民主的発展に適合的な内実を備えたものであるべき点が明らかにされた。さらに、社会的正義の諸要素間の論理的整合性を追及する一方で、政策理論の基礎を与える組合せを、対象となる財・サービスごとに検討すべきことで合意が得られ、公共財・準公共財・価値財などに関していくつかの試みがなされた。公開性、公正性、接近可能性が重視される一方で、匿名性の処遇については意見が分かれた。
著者
市場 みすず 金沢 一 清水 昶幸 幸保 美枝子 千賀 慶太郎 田村 善藏
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.157-160, 1986-03-05

調剤室における落下及び浮遊粉じん中の薬物を光学,蛍光及び偏光顕微鏡を用いて非破壊的に同定することを試みた.粉じん捕集は1985年2月5日(火曜日)午前9時から午後5時まで行った.落下粉じんは,床上120cmに設置したメンブランフィルター上に捕集し,浮遊粉じんは,床上150cmにメンブランフィルターを装着したホルダーを設置して,550mmHgで吸引捕集した.捕集した粉じん(落下粉じん:0.36mg,浮遊粉じん:1.34mg)は,それぞれ光学,蛍光及び偏光顕微鏡の順に観察し,粒子の形状や色調などを別途に作成した標準標本と比較対照した.その結果粉じんから,中枢神経系用薬3種(アレビアチン,ネオフィリン,フェノバール),消化器官用薬3種(M.M.,S.M散,ペクシー),ビタミン剤2種(ハイボン,メチコバール)及び賦形剤3種(CMC,トウモロコシデンプン,バレイショデンプン)の計11種の薬物を同定することができた.賦形剤を除くすべての薬物は,化学イオン化質量分析において,標準標本に合致する分子イオン又はフラグメントピークが観測された.
著者
清水 宏祐 堀 直 小松 久男 林 佳世子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

過去の海外調査で収録した100本以上のビデオ映像をデジタル化し、HDDに収納して、プログラム名を付け、見たい箇所をすぐに検索して提示できるシステムを構築した。プログラムは200以上に及び、バザールでの商取引の比較映像(新彊、トルコ、エジプト)では、手を握って交渉し、合意に達すると離すという、イスラーム世界特有のバイアという手続きを即座に、、見比べることができるようになった。また、バザールの商店構成が年とともに変化する情況を比較したり、市壁が新たに改修される様子を、新旧の比較対象が行えるようにプログラムした。12月9日の九州史学会は、各研究者から趣旨説明、個別報告が行われた。各種の映像資料の提示は、大きな反響を呼び、「今日、ここから新しい映像歴史学が誕生した」との印象を与えるものであった。この成果を生かし、さらに映像の集積と分析を行い、映像資料を歴史史料として定着させる努力を続ける所存である。成果の全容は、報告書『現地調査で収録したビデオ映像のデジタル化と情報共有ネットワークの構築』として刊行した。
著者
礒田 正美 小川 義和 小原 豊 田中 二郎 佐々木 建昭 長崎 栄三 清水 静海 宮川 健
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の高次目標は、世界で有効に活用しえる算数・数学教材・教具を開発することである。具的には、数学を学ぶ意欲を喚起し、さらに深く知る契機を提供する機関として科学系博物館の展示・教育システムを活用し、科学系博物館向け数学展示、実験教材を開発し、数学における具体的で体験的な教育プログラムを提供することを目的とする。国立科学博物館、牛久市教育委員会、つくば市教育委員会、埼玉県立春日部高等学校、埼玉県立大宮高等学校の協力を得て、3年間を通して、科学博物館等で活用しえる数学展示、実験教材の事例開発を行った。蓄積した事例を領域でまとめれば、次の6領域になる:(1)透視の数理、(2)変換の数理、(3)機構の数理、(4)音階の数理、(5)測量の数理、(6)それ以外。開発教材の特徴は、学年、学校段階によらず、様々な学習が可能である点である。報告書は事例を示した。開発教材は、内外で注目を浴びた。国内では、小中接続・連携、中高接続・連携、高大接続・連携の立場から注目され、飛び込み授業のための事例集の出版を依頼された。変換の数理ではソフトウエア開発も行い、WEB上で閲覧可能である。国外では、国際会議で招待講演を2回(韓国、香港)、全体講演を1回(台湾)、研究発表を1回(ローマ)、海外での講習を2回(フィリピン、ホンジュラス)行った。特に数学教育国際委員会100周年記念国際会議では、ヨーロッパにおける教具の歴史的発展からの系譜をたどった。また、効果的な発表の方法についての調査もあわせて行った。既にフィリピン、ホンジュラスで開発したソフトウエアが利用される見込みとなった。成果をWEB公開することで、当初の予定通り様々な場で役立つ数学展示教材の開発が実現した。SHH, SPPなどでも成果を利用したい旨、依頼を得ている。博物館に展示することは将来的な課題であるが、成果は教育の場で活用しえる状況にある。
著者
清水 健
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は主に(100)面と(110)面極薄SOI MOFETにおける移動度をより詳細に調べるための試作活動、および方向依存性を理論的に検討するための数値計算の両面における活動を開始したところであった。より具体的には、極薄SOIにおける移動度の方向依存性を調べるために共通チャネルを有する(110)面極薄SOI MOSFETを実際に試作し、評価を開始したところである。実験結果について今のところ大きな進展はないが、少なくとも当初の机上予測どおり、厚膜を有するSOI MOSFETにおいては定量的に移動度の方向依存性を比較することが可能であることを確認した。今後の課題については、SOIが10nmを切るような極薄膜において移動度を比較することが可能であるかを、実験および測定の両面から検討する必要がある。他方、数値計算においては若干の進展があり、SOI膜厚に依存して伝導方向の有効質量に変化が生じることを理論的に確認することができた。以上の結果については、実験結果とあわせて何らかの形で学会や論文誌へ投稿する予定である。これまで移動度、ひいては電流の方向依存性について十二分な議論がなされている状態からは程遠く、以上の結果を広く公開することは、学術活動としての評価のみならず、産業界へもメッセージを発信することが可能であると考えている。また、前年度に学会へ投稿していた論文が無事に採択されたので、6月にハワイで開催されたIEEE Silicon Nanoelectronics Workshopにおいて口頭発表を行った。本結果については今年度に明らかになったものではないので詳細は省くが、特別研究員の科研費で出張を行ったので報告しておく。自身の発表に際しては質疑も行い、また発表後の休憩時間にも複数の異なる研究グループから詳細について質問を受けたので、一定の評価はなされたものと考えている。
著者
堀田 龍也 清水 康敬 中山 実
出版者
独立行政法人メディア教育開発センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,教員それぞれのICT活用指導力に応じた研修を実現するために,学校現場の教員のICT活用指導力の現実性に着目し,特にICT活用初心者に対するコンサルテーションを開発し検証することを目的とした.いくつかの調査結果をもとに,ICT活用実践に対するコンサルテーションシステムを検討した.学校現場へのICT活用の普及の現状から考え,Web上のシステムとして公開することよりも,出版物として世にアピールする方が所与の目的に寄与すると判断し,研究成果を出版物にまとめた.また,研究の経緯や成果については,国内外の学会で積極的に報告した.
著者
示村 悦二郎 青木 宗也 矢野 眞和 中西 又三 舘 昭 清水 一彦 今野 雅裕
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

平成3年6月に改正された大学設置基準は、各大学がそれぞれの教育理念・目的に基づいて個性豊かな教育を自由に展開していくことを可能にするとともに、その教育研究活動を自らの手で点検・評価することを求めている。本研究は、大学設置基準の改正以降の各大学のカリキュラム改革や自己点検・評価の状況など大学改革の実施状況を把握し、これについて調査研究するものである。平成5年度は、既存の関連調査等の資料やデータの収集・分析をもとに、改正された大学設置基準及び大学審議会答申等の趣旨がどの程度実現されているか、各大学・学部の理念・目的が十分反映された改革が行われているか、という視点に立って、改革の具体的な内容や方法も引き出せるような設問と選択肢の作成を行った。平成6年度は、前年度から準備を進めてきた、わが国の全大学・学部を対称としたアンケート調査を実施した。回収率は約95%という高率であった。解答には自由記述が多く、定量的な調査ではくみ取れぬような改革状況をかなり正確に把握できるものであったので、可能な限り原票に忠実に調査結果の集計作業を進めた。平成7年度は、前年度実施したアンケート調査の集計結果をもとに分析・検討作業を進めた。その際、(1)学生の受け入れに関する改革、(2)教育課程の改革、(3)教育方法の改善、(4)教員組織の改革、(5)研究条件の改革、(6)生涯学習、(7)学生生活への配慮、(8)自己点検・評価といった項目ごとに分析・検討を行った。その結果、改革は各方面にわたっているが、とりわけ一般教養的教育をはじめとする教育課程の改革が進んでいること、また、自己点検・評価については、その組織体性が整い、実施に積極的な姿勢を見せてはいるものの、その結果の公表についてはどちらかといえば消極的であること、などが明らかになった。
著者
永田 知里 清水 弘之 服部 淳彦
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、各種アミノ酸やDNAメチル化に関与するメチオニン、葉酸、ビタミンB6、B12の食事からの摂取推定を可能とし、がん罹患との関連性を一般住民における前向き研究のデザインで評価することを目的としている。前年度では、岐阜県のがん登録および高山市医師会の飛騨がん登録より、高山市に1992年に開始されたコホート(高山コホート)内におけるがん罹患データを得たが、コホート内における死亡者、転居者の情報が把握出来ず、本年度、高山市での住民票閲覧、除票情報の提供、法務局への戸籍閲覧などを依頼した。未だ一部の情報が入手できておらず、また国の食品成分委員会による各食品中アミノ酸含有量改訂発表が遅れているが、まず、葉酸、ビタミンB6、B12摂取と大腸がんと乳がん罹患についての関連性を評価した。対象者は1992年9月前向き研究開始時にがん既往があると回答した者あるいはがん登録情報からこの時点でがんに罹患していたことが判明した者を除き、男性14,185名、女性16,560名であった。2005年末までの期間に新しく大腸がんと診断された者は男性277名、女性233名、乳がん罹患(女性のみ)は134名であった。年齢、喫煙歴、BMI、アルコール摂取量で補正後、男性におけるビタミンB12の上位1/3の高摂取群は下位1/3の低摂取群に比べ大腸がんハザード比が1.39と統計的に有意に高く(p=0.03)、またビタミンB6摂取も高摂取群はハザード比が1.37 (p=0.056)と高かった。しかし、これらの関連性は肉・肉加工品類摂取の補正により低下した。大腸がんリスクと葉酸摂取との関連性は認められなかった。女性では大腸がん、乳がんともこれらの栄養因子との関連は有意でなかった。多重共線性の問題に配慮しつつ、アミノ酸を含み、各栄養素、食品群の交絡の影響もさらに考慮する必要があると考えられる
著者
清水 浩
出版者
日本ばね学会
雑誌
ばね論文集 (ISSN:03856917)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.53, pp.81-86, 2008-05-07 (Released:2008-11-01)
著者
相澤 一美 山崎 朝子 野呂 忠司 望月 正道 細川 博文 河内山 晶子 杉森 直樹 飯野 厚 清水 真紀 藤井 哲郎 磯 達夫
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

テキストのカバー率を95%にするための語彙レベルと,読解テストで十分な得点を取るための語彙サイズの間にはギャップがあることが明らかになった。例えば,大学入試センター試験の読解問題で,約3000語を学習することになっており,テキストも3000語の語彙知識があれば,95%をほぼカバーできるが,実際に理解度を試す問題に正答するには,5000語の語彙知識が必要であった。同様に,アカデミックテキストは,約5000語でほぼ95%をカバーできるが,十分な得点を取るためには,6500語が必要なことがわかった。
著者
兼松 満造 木部 久衛 関川 堅 野村 晋一 沢崎 坦 清水 吉平 大神田 昭雄 瀬野尾 有司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.56-75, 1968-04-20

山岳の多いわが国では,新たな草地開発はこれらの山岳地帯にその多くを求めなければならない。古くからの慣習の牧野でも標高2,000mぐらいまでは利用されてきている。長野・山梨県下では近年標高1,000〜2,000mの高海抜山岳地帯に近代的な草地の開発・改良が,国の奨励助長策の下に逐次進められつつある。米国ではコロラド州など7,000feet前後の高地もひろく家畜が放牧され,南米アンデスの高地帯やスイスの山岳放牧はより一層の高海抜地で行なわれている。とくに夏季に集中する降雨と急傾斜地の多いことなど外国とそれとは異なった自然条件下にあるわが国の山岳地帯でも,古くからの経験の上に森林の撫育とも併せて,土壌と水の保全に十分留意すれば,標高2,000mぐらいまでの草地の開発と利用は,積極的に推進すべきであろう。わが国の高海抜地帯とみられるこれらの山岳地帯は,冬期間の長さと凛烈な寒気を除けば,むしろ寒さによく耐えるわが国の乳牛,肉牛,緬羊にとって,夏季の高温の強い感作から免れることと,その多くが北方系に属する既導入牧草類の春から秋へかけての生育の季節変動が低暖地に比べて小さいことからも有利な点が多く,このような背景から高層草地は高く評価されるべきであると考える。そこでこれらの高海抜山岳地帯の草地とそこでの放牧家畜について,野外の生態学的ならびに生理学的調査を行なうこととし,草地と放牧家畜との対応関係についての基礎的知見を求め,この種地帯における草地の利用と放牧家畜の管理技術の改善に役立つことを目的としてこの研究を行なった。調査研究の対象草地の概要は表1のとおりである。これら3草地のほか,心拍数の計測と気象要因と泌乳量の変動に関する調査のため信州大学附属農場(標高770m)および東京大学附属牧場繋養のホルスタイン種の泌乳牛,心拍数の計測と行動調査のため扉牧場の牛群が夏季放牧される鉢伏牧場(標高1,800〜1,900m)も調査の対象とした。1.上記3草地は豪雪地帯を除くわが国の中部山岳地帯の気象を代表するhomo-climatic zoneにあるということができよう。すなわち調査の結果では年平均気温6〜8℃,年降雨量1,400〜1,600mm,気圧823〜890mbで,夏季最高気温が28℃を越えることは稀であり,一方冬期の最低気温は往々-15℃以下となる。気温較差が年間を通じて大きく,相対湿度は年間を通じて高く65%以上で,降雨量は5,6,7および9月に多く,11〜4月の間に少ない。8月はやや乾燥気味で草の生長がやや停滞する。冬期の寒気はきびしいが,積雪量が1mを越えることは稀であった。なお年間を通じて晴天の日は紫外線量が大きく,6,7および8月に濃霧や驟雨が多い。2.このような気象環境のもとで,草地植生の質と量の季節的変動は,低暖地にみられるような夏季の高温障害の度合は著しく軽減され,適切な放牧管理のもとでは,放牧期間を通じてとくに質的に高い水準を維持している。このことは牧草草地で一層顕著であるが,自然草地でも秋の後半の急激な質的低下を除けば同じような傾向であった。冬期における扉牧場の笹葉は夏季に比べてやや劣るが,なお比較的高い質的水準(C.P.10%以上)を示した。3.霧ケ峯牧場野草と扉牧場の笹葉刈取り試料の分析の結果,微量元素はいずれも低い値(Co-0.16,Cu-1.4〜7.6,Zn-18.1〜30.8ppm)を示した。しかし霧ケ峯牧場で隣接した同じ土壌で石灰および燐酸を多投し,かつN,PおよびK肥料を施用して造成した牧草地の刈取り試料は前者の約倍量(Co-0.33〜0.39,Cu-11.9〜14.0,Zn-47.8〜68.8ppm)の微量元素を含むことが明らかとなった。なおこの傾向はMoについても同様であった。4.標示物質法による扉牧場およびキープ農場での7回の放牧採食量の調査で,前者の昼間放牧では充分採食されていないこと,一方優良な牧草草地であるキープ農場の全放牧では満足すべき採食量を示した。5.なお放牧採食量と草の質と行動形の調査から算出したrt/gt値の間には,草生密度がとくに低くない限り,明らかに相関関係のあることが認められた。6.放牧行動形の連続調査の結果,乳牛群のそれぞれ異なる行動形の遷移は,それぞれの草地ごとにおおむね一定のパターンを示し,個体調査の成績もこれと同調した。いずれの場合でも,盛夏の候ですら放牧採食形は昼間に強く反覆していること,夜間に強い反芻形が集中することが観察された。なお放牧乳牛群の日間の遷移は律動的であったが,気候条件の急変とくに降雨,降雪が,このリズムを撹乱する要因であることが明らかとなった。7.上に述べた採食量と放牧行動形の調査成績から,放牧用諸施設のうち牧柵,門扉および牧道の整備が,管理労力の節減とも関連し,放牧草地のより効率的な利用のための制御を容易かつ確実ならしめるため極めて重要であることが示唆された。8.放牧草地の植生の質と量ならびに草地土壌の性質に対応する放牧牛の血液性状の季節的調査の結果,とくに自然草地である霧ケ峯牧場と扉牧場では,主として冬期の良質粗飼料の不足に基因すると考えられる血糖値の低下(平均値霧ケ峯-5頭-26.5mg/dl,扉牧場-12頭-28.0mg/dl)が認められ,さらに前者では血中βカロチン含量の著しい低下(平均207μg/dl,最低値60μg/dl)が冬の末期にみられたことは,両牧場の冬期間の良質粗飼料確保の重要性を示すものであろう。なお笹の純植生地たる扉牧場の放牧牛群は蛋白質,カロリー源の摂取不足は霧ケ峯牧場の場合と同様であるが,冬期にも積雪下でなお緑色を保つ笹葉の摂取が,血中のβカロチン含量のかなり高い水準(14頭の平均413μg/dl)を示していることから,わが国に多い笹の冬期飼料としての価値は高く評価されるべきであろう。9.放牧飼育牛の心機能についての一部の基礎知見を得るため,野村が創案したビート・メーターを牛体に装着して,放牧行動形別のできるだけ多くの個体について数多くの計測を行なったが,その結果,心拍数の個体差が大きいこと,しかし行動形別の心拍数は,個体ごとに休息形から放牧採食形へと(より大きい運動量の行動形へと)規則正しい増加を示すこと,各放牧行動形間の心拍数の変動の幅がジヤージー種牛がホルスタイン種牛に比べて狭かったことが認められた。これらの知見は牛の放牧飼育(育成-とくに高海抜草地)の意義と,放牧のため余分に必要とするカロリー推計への道を招くものであろう。10.低地から上記の高海抜草地に移動した乳牛は,ジャージー種牛,ホルスタイン種牛ともに高地到達時から数か月の間,赤血球数の明らかな増加を示したが,おおむね8〜12か月後には正常値となることが認められた。このことはこの程度の高地には乳牛は生理的によく適応し得ることを示唆するものと考えられる。11.同じく心機能に関して,高層草地に馴化したとみられるキープ農場のジャージー種泌乳牛32頭および信州大学附属農場のホルスタイン種泌乳牛12頭について行なった心電図検査の結果,注目すべき所見として,より高層のキープ農場の牛が信州大学附属農場の牛に比べ一般に高電位であり,とくに心電図のT波の電位がより高くQ-T間隔が長いことである。このような心電図所見の解釈についてはなお,今後の研究に待たなければならない。
著者
野澤 桂子 清水 千佳子 沢崎 達夫
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、がん患者のQOLを向上させて治療意欲を高め、社会復帰を促進するための、「エビデンスに基づく外見関連の患者サポートプログラムの構築」を目的とする。具体的には、外見変化の実態と患者ニーズに関する数量的研究を通して基礎的なデータを収集するほか、外見のケアに関する先進国フランスの調査などを実施した。その結果をふまえて、段階的患者サポートプログラムの試案(成人患者版・思春期患児版)を作成した。最終年度には、プログラムをさらに改良し発展させるために必要な有用性の検証と普及に向けた研究にも着手した。
著者
水江 一弘 清水 誠 松宮 義晴 竹村 暘 井田 斉 村松 毅
出版者
長崎大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

遠洋性のクロトガリザメを南西太平洋で練習船鶴洋丸の旋網実習で本年も多数漁獲し、雌雄の性的成熟体長・生殖分娩の時期・妊娠尾数などを明らかにし,年齢成長を知るため、現在、脊椎骨研摩標本作製中(水江)。サメ類乳酸脱水素酵素の遺伝的特性を知る目的でラブカの3つのアイソザイムを単離し、速度論的解析をした。ネズミザメ・アオザメ・ヨシキリザメ等の同酵素のアイソザイム分布を調べ、単離を試みた(村松)。本年度はウシエイ・カラスエイ・ナヌカザメ・トラザメ・などの6種類について、それらの核型を明らかにすることが出来た。これらの結果は87年発行の魚類学雑誌に投稿準備中である(井田)。ガンギエイ類の食性はその遊泳力に影響され、小型魚のときは、かなり雑食性を示すが、大型になるにつれ魚食性が顕著になる。胃内容量は体重の平均1〜2%,最大3-4%であった(竹村)。最適化技法により、板鰓類の適応戦略を模索した。卵数とサイズの進化,性比の包括適応度,成長と死亡の戦略,棲み場所と採餌の適応単位を題材として、仮説と知見を比較検討した(松宮)。エドアブラザメ,ラブカなど6種のサメについて、筋肉・肝臓の重金属(Hg,Zn,Fe,Cu)濃度を検討した。何れも従来のサメ類の分析値の範囲にあった(清水)。生態を異にする各種板鰓類の網膜および松果体の微細構造と感光色素などを調べ、いづれの結果も環境水中の光分布と大きな相関が得られた(丹羽)。板鰓類の歯の形態と組織構造について、食性および系統との関係を検討した。また、日本のペルム紀から第四紀の板鰓類の歯と皮歯の化石を、現生種との比較により研究した(後藤)。銚子沖および松生場,小笠原諸島周辺ならびにハンコック海山から採集した板鰓類の標本を比較検討したところ、それらの形態に地理的変異が存在することが明らかとなった(谷内)。プランクトン食性のウバザメの脳はミツクリザメおよびラブカと同様に深海性であることを示唆する形態を示し,ウバザメと食性が同じであるジンベエザメの脳には、強大な遊泳力の反映がみられる(佐藤)。