著者
小葉竹 重機 清水 義彦
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

森林の気候緩和効果に関して、観測とその結果に基づくシミュレーションモデルの構築という2本の柱を中心に研究を進めた。観測は大学から北約1. 5kmの山林のふもとにおける気温と湿度、大学構内に設置した簡易型総合気象観測装置による気温、日射、風速、風向、雨量について行い、この他に桐生市のアメダスの記録も収集した。さらに、異なった地被のもとでの夏期における気温、放射収支の計測も行った。得られた結果を要約すると以下のようである。1.地被の異なる場での気温、放射収支の観測から、夏期にはアスファルトと土の面上の気温差は2℃程度となり、アスファルトでは夜9時を過ぎても地面からの放射が50W/m^2程度残っている。2.夏期の日中の表面温度を熱収支式から検討したところ、アスファルトでは約60℃程度になることがわかった。これは浅枝等によって得られている値と同じである。3.森林の近傍にある孤立樹木の木陰で観測した気温と、大学に設置している簡易型総合気象観測装置による気温、および桐生市アメダスの観測結果を比較したところ、夏期には約2℃〜3℃程度森林の方が気温が低いことがわかった。また、日射の強かった日の夕方の数時間は、アスファルト等で舗装された地被の場合と比較すると5℃程度森林の気温が低くなる。これらが夏期の気候緩和の効果である。4.また、冬期には風が強い日の日中に森林の方が気温が高くなる場合がある。これは森林以外の観測地が風の通り易い場合であることと、それらが川沿いであることに一因がある。5.森林と大学の観測塔の気温差あるいは森林とアメダスの気温差の変化の様子は季節によって異なり、日射の効き方も季節によって異なる。正確な再現には厳密なシミュレーションモデルが必要である。6. LESモデルを用いた3次元モデルの構築を目指したが、熱収支式を取り込むところまで進めなかった。
著者
San Gabriel Maria Concepcion S. 遠矢 幸伸 杉村 崇明 清水 孜 石黒 信良 望月 雅美
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.97-101, 1997-02-25
被引用文献数
1 11

日本で分離されたイヌカリシウイルス(CaCV)No.48株をMDCK細胞で大量培養し, 塩化セシウム平衡密度勾配超遠心により精製した. 精製ウイルスをSDS-PAGE解析したところ, 約60キロダルトンの1種類の主要ウイルス蛋白のみの存在がクマシー染色により示された. カプシド蛋白と考えられる同一のバンドはマウス高度免疫血清を用いたウェスタンブロッテイングにより検出され, 本カプシド蛋白はMDCK細胞において感染後少なくとも2時間で合成されていた. 実験感染犬における抗CaCv抗体の産生がマイクロ中和試験とウェスタンブロッテイングにより示された. 同様に, 血清調査においても中和抗体の存在が示されるとともに, 精製ウイルスのカプシド蛋白に野外血清が反応することが明らかとなった. これらの結果はCaCV No.48株のカプシド蛋白が免疫原性を有し, 本蛋白に対する抗体をウェスタンブロッテイングにより検出しうることを示している.
著者
ポダルコ ピョートル エルマコワ リュドミラ 太田 丈太郎 サヴェリエフ イゴリ ミハイロワ ユリア 清水 俊行 中村 善和 安井 亮平 長縄 光男 清水 俊行 澤田 和彦 長縄 光夫 中村 喜和 中嶋 毅 安井 亮平
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年4月より22年3月までの4年間に例会を20回、研究会合宿を2回(神戸市立大学、東北大学)行い、この間、研究会のニューズレター『異郷』(年3回発行)をno.21-32計12号を刊行し、論文集『ロシアと日本』を2冊(vol.7,8,2008年3月、2010年3月)を刊行した。
著者
清水 かおり 高良剛 ロベルト 金城 俊昭 安慶 名洋克
出版者
沖縄県立看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

離島住民参加型の災害医療対策啓蒙活動として「命どぅ宝・ユイマールプロジェクト」に参加し、離島講習会の開催による離島住民への知識・技術提供を行った。3年間の沖縄県遠隔離島における講習会受講実績は約1,160名(19カ所28回)である。講習会の都度、指導者である保健医療従事者への学習会を実施し、各離島の特徴・対象者を考慮した指導内容、指導方法についての討議、およびフィードバックを行った。内容はプロジェクトのメーリングリスト上でも公開し共有した。平成19年9月には、この講習会を受講した離島住民3人によって、目の前で心肺停止に陥った同僚に対しAEDを用いた心肺蘇生法を実施して救命し、後遺症無く社会復帰を果たした。
著者
本村 徹太郎 清水 敏之 吉川 正俊
雑誌
研究報告データベースシステム(DBS)
巻号頁・発行日
vol.2010-DBS-151, no.29, pp.1-8, 2010-11-05

近年,多くの XML データが蓄積されるにつれ,XML キーワード検索が重要になっている.有用な結果を得るためには,効果的な検索結果を効率的に求めることだけでなく,検索結果を理解できるような情報を付加することが望ましい.我々は,検索結果の理解支援のために,検索結果と同じ結果を返す代替問合せを取得する方法を提案する.代替問合せは検索結果の異なる側面を表しているため,利用者は検索結果の隠れた関係を推測することで検索結果を深く理解する,あるいは利用者自身の問合せを洗練することなどが可能となる.
著者
小川 泰浩 清水 晃 久保寺 秀夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.329-336, 2006-10-01
被引用文献数
2

1995年に雲仙普賢岳噴火活動が終息し数年が経過した時点において,降下火山灰が堆積した林地と火砕流堆積地における火山噴出物表層の透水性変化過程を明らかにするため,表層の飽和透水試験と土壌薄片による表層の土壌微細形態を解析した。リターが地表に堆積したヒノキ林地と広葉樹林地の火山灰層では粗孔隙が分布し,透水性はリターの堆積によって向上していた。ヒノキ林地の中でもリターが地表にみられない場所の火山灰層には薄層がみられ,孔隙率と飽和透水係数はヒノキリターが堆積した火山灰層に比べ低い値を示した。この薄層は,表面流で移動した火山灰が堆積して形成された堆積クラストであると考えられた。火砕流堆積地では細粒火山灰が流出した結果,孔隙特性が良好となって表層の透水性が上昇したと推察された。噴火活動終息後数年が経過することにより,林地と火砕流堆積地における表層の透水性には違いがみられ,土壌微細形態解析によってこの違いはリターの堆積や細粒火山灰の流出に伴う表層の堆積構造の変化により引き起こされていると推察された。
著者
吉浦 一紀 筑井 徹 徳森 謙二 清水 真弓 後藤 多津子 河津 俊幸 岡村 和俊
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

良悪性の鑑別にMRIの造影パターンを判断材料にする事が多いが、信号強度自体は撮像法により異なり、各施設で共通した指標とはなりにくい。そのため信号強度自体を解析するのではなく、信号強度から造影剤濃度を算出し、薬物動態解析(コンパートモデル解析の一種であるTofts-Kermode model (TK model)を適応)することによって、組織固有のパラメーターを算出を試みた。その為には、造影剤投与後の造影剤濃度の把握が必要であり、算出方法の確立を行った。
著者
清水 龍瑩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.110-162, 1992-10-25

今回のサーベイでは,個性的な問題把握・対処策・経営管理を遂行している企業が高業績をあげていることが解った。他社にまねられない強み,それをベースにした競争優位の戦略をたて遂行しているからである。若い人は自分の興味のある問題には驚異的なエネルギーを出すからこれを組織化する(ピア),人間の尊厳と企業の価値観との共通部分を大きくするためにpeace of mind事業に特化する(セコム),テナントを入れると,同時にing情報を入手して不安定なファッション性と財務の安定性を統合する(パルコ),コンピュータに回線をつなげるのではなく,回線にコンピュータをぶらさげるのだという,不連続的飛躍が必要である(インテック),social communication gift businessという友情ビジネスを原点にし他社にまねられない著作権の強みを発揮する(サンリオ),若いクラフトマンの養成と年とったクラフトマンの技能のデジタル技術化とによって競争力を強化する(佐々木硝子),日本で急増した鉄屑を原料にして大型電気炉による薄板生産に注力し,NIESにまけない価格で薄板を供給する(東京製鉄),社長が調理場をまわり,管理職のファイルをつくって顔を憶えファミリー感覚を浸透させる(帝国ホテル)。以上の企業は巨大企業ではない。社長の個性が企業文化の中に深く浸透し,企業に強い個性ができ,これが他社にまねられない強みになっている。一方規模の大きい歴史の旧い装置産業は生産技術の改善に力を入れ競争力をつけようとする。従来のノウハウを生かしたセンサーを用いて光ファイバーの自動連続生産に力を入れる(古河電工),同じ生産設備を効率よく稼働させるために新しい触媒の開発に力を入れる(三井東圧)。さらに人事評価に独自性を見出す企業もふえてきた。業績考課と能力考課に分け,前者では上司と部下との意見をフィードバックさせるが後者ではフィードバックさせない(栗田工業),成果,役割行動,能力の3つで絶対評価するが,役割評価はグループ内で一生懸命やって成果が上らない場合の補償措置とする(横浜ゴム)。さらに素材産業はいわゆる盛田論文に反論し,旧来からの経営の常識を強調する。短納期,低価格,高性能が競争力の源泉である(三井ハイテック),よい製品を安く社会提供するのが製造業の使命(住友軽金属)という。
著者
佐藤 馨一 清水 浩志郎 為国 孝敏 竹内 伝史 小林 一郎 馬場 俊介 古屋 秀樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

平成16年度の研究は個別の大規模社会資本の整備事例をもとに、これらの総合的な評価を行い、今後の課題を整理した。平成15年度は道路公団の民営化論議が集中的に行われたこともあり、その是非や問題点について活発な意見交換がなされ、研究分担者間の共通認識が確立した。以下に平成16年度の研究成果を取りまとめる。(1)「公共事業方式と政府企業方式の混同の危険性」が指摘された。最近の民営化論議は大規模社会資本の将来展望を持つこともなく、財務分析のみが突出している、との批判がなされた。また、中部国際空港の整備事例を研究した結果、大規模社会資本が公共事業方式でなくとも実施可能なことを検証した。(2)大規模社会資本の更新投資の問題が取り上げられた。新幹線も高速道路も減価償却という発想がなく整備されてきた。このことにより更新のための投資財源がまったく存在しない事態を招いている。その結果、「荒廃する日本」と言われる日も間近にせまり、民営化論議はそれに拍車をかけている。(3)受益者負担による社会資本の整備方式は社会的便益を無視しており、公的な財源を用いて大規模社会資本を整備し、その利用価格を安くすることによって社会的便益を増大するという基本的な考え方に立ち戻るべきである。(4)大規模社会資本は土地依存型であり、ITのように技術依存型とは整備の仕方や活用はまったく異なる。地形も気象条件も多様な国土において経済効率を追い求めると、地域格差が増大し、過疎地域の切り捨てにつながる。竹島という小さな島の領有をめぐって日本と韓国が深刻な諍いをしているとき、国内の過疎地域を無視する国土政策は根本的に間違っている。「均衡ある国土の発展」という目標は、極めて重要な国家政策となる。
著者
清水 睦美
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.457-469, 2006-12-29

本稿では、筆者が1997年以降継続している神奈川県内のある公営団地に住むニューカマーの子どもを対象としたフィールドワークをもとに、ニューカマーの青年期の問題のうち、次の2点について問題提起を行う。第1に、学校から就労へという日本人には自明視されるキャリアトラックからの外国人の排除である。それは、外国人が制度的に日本の学校教育にアクセスしにくいことと、就学後の学校における外国人児童生徒の周辺化によって、外国人のフリーターや無業者は必然として生み出されていくことを明らかにする。第2に、学校から就労へのキャリアトラックからの排除から逃れた場合に直面する問題として、就職した職場に浸透している「固定化された外国人像」による問題と、大学進学の場合、「国際」といった名のもとで、外国人であることが、かれらの必要を越えて注目される「『外国人』というラベルの消費」の問題を明らかにする。
著者
清水 秀夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.414, pp.29-35, 1999-11-08
被引用文献数
6

笠原-村上暗号は積和型の公開鍵暗号である。本稿では笠原-村上暗号の平文空間のもつ構造を解析し、公開鍵と暗号文から低密度攻撃を使って平文の部分情報を暴く方法を提案する。また数値実験により有効性を確認した。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 江川 緑 小澤 温 中山 和弘 坂野 純子 伊藤 美樹子 清水 準一 江川 緑 小澤 温 中川 薫 中山 和弘 坂野 純子 清水 由香 楠永 敏恵 伊藤 美樹子 清水 準一 石川 ひろの
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

病・障害・ストレスと生きる人々において、様々な苦痛や困難がもたらされている現実とともに、よりよく生きようと苦痛・困難に日々対処し、生活・人生の再構築に努める懸命な営みがあることに着眼し、様々な病気・障害・ストレスと生きることを余儀なくされた人々を対象に実証研究と理論研究を行い、その成果は、英文原著17 件を含む研究論文26 件、国内外での学会発表60 件、書籍2 件に纏めて発表してきた。
著者
三上 正男 長田 和雄 石塚 正秀 清水 厚 田中 泰宙 関山 剛 山田 豊 原 由香里 眞木 貴史
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ダストの気候インパクトの定量的評価を高精度に行うことが出来るダストモデルの開発を、(1)発生過程の観測解析、(2)ダスト輸送途上の解析、(3)ダスト沈着量の観測解析と(4)ダストモデルの高度化のための技術開発により行った。(1)では、粒径別鉛直ダスト輸送量の評価法を確立し、ダスト発生モデルの検証を行い、スキームの最適化を行った。また(2)衛星及び地上ライダーの解析から、アジア域ダストがサハラ等に較べて高高度・長距離にわたって輸送される実態や、輸送中のダストでは粒径分布変化よりも内部混合の進行による形状変化が重要であることを明らかにした。さらに(3)乾性・湿性沈着観測ネットワークによる沈着フラックスの観測データを用いて、全球ダストモデルMASINGARの粒径分布とモデルのダスト発生過程の改良を行うと共に(4)高精度データ同化システムと衛星ライダー観測値を組み合わせ、全球ダスト分布の客観解析値を作成し、東アジアのダスト発生量のモデル誤差推定を行なった。また同同化システムにより、モデルの再現性を大幅に向上することが可能となった。これらにより、発生・輸送・沈着各過程を寄り現実的に再現できるモデルを開発することが出来た。
著者
河瀬 斌 山口 則之 清水 克悦 三谷 慎二 堀口 崇 荻野 雅宏
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

【目的】低温による脳保護作用のメカニズムを検討し、脳のみの局所低体温法を確立する。【方法】(1)スナネズミ一過性前脳虚血モデルを用い海馬における遅発性神経細胞死を算出する一方で、オートラジオグラフィー法により蛋白合成能を、また免疫組織化学により各種蛋白の生成を、常体温と低体温とでそれぞれ比較した。(2)ラット一過性前脳虚血モデルを用い、線条体におけるdopamine・ adenosineとその代謝産物の生成を、虚血中低体温と虚血後低体温とで比較した。(3)成猫に低温人工髄液を脳室脳槽灌流し、脳冷却の程度と脳内温度較差を測定した。また、臨床使用目的にて脳温測定用センサーを組み込んだ脳室脳槽灌流用ドレナージチューブを作成した。【結果】(1)低体温により海馬CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制されるが、これに先立ち(i)同部の蛋白合成能の回復が促進される。(ii)ストレス蛋白発現が抑制される一方で、即初期遺伝子c-Junが正常より強く発現する。c-Fosの発現は変化しない。以上より、低体温は虚血ストレスそれ自体を減弱する一方で、蛋白代謝を早期に回復させ、細胞の生存に影響を及ぼす即初期遺伝子の発現を促す。(2)(i)虚血中低体温はdopamineの放出を抑制する一方、adenosineの放出には影響しないが再灌流時のadenosineの減少は抑制する。(ii)虚血後低体温はadenosineの代謝を抑制して細胞外液中の濃度を高く保つが、dopamine代謝には影響しない。(3)低温人工髄液灌流により成猫において脳深部に2〜3℃の冷却効果が見られたが、皮質ではその冷却効果は少ない。脳血流量は一過性に減少するがその後回復し、血圧や血液ガスには影響はない。脳温測定用センサーを組み込み、かつ従来のものと材質・外径に差がない脳室脳槽灌流用ドレナージチューブが完成した。【総括】以上より(3)の脳虚血に対する局所低体温療法は(1)(2)の補助治療法を組み合わせることで臨床応用が更に期待できる。
著者
背山 洋右 SALEN GERALD SHEFER SARAH BJOERKHEM IN 笠間 健嗣 久保田 俊一郎 穂下 剛彦 米本 恭三 BIOERKHEM Ingemar KASAMA Takeshi EGGERTSEN Go BJORKHEM Ing TINT Stephen SHEFER Sarah SALEN Gerald 永田 和哉 清水 孝雄 BUCHMAN Mari
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性脂質代謝異常症で,コレステロールから胆汁酸に至る経路の酵素が障害されて,小脳やアキレス腱における黄色腫,小脳症状,白内障などの症状があらわれる。1937年にvan Bogaert等により報告されたのに始まるが,我が国では1969年の柴崎の報告が第1例である。この疾患の成因と遺伝子における異常を明らかにすることを目的として,1)患者から得られた線維芽細胞について欠損酵素である27位水酵化酵素をコードする遺伝子の解析と,2)疾患モデル動物の作製実験を行った。1.CTXにおける遺伝子異常の解析:スウエーデンのカロリンスカ研究所のBjoerkhemとの共同研究で,日本側からは米本恭三(慈恵医大),穂下剛彦(広島大・医)と久田俊一郎(東大・医)が関わった。CTX患者の線維芽細胞を培養して,RNAを精製し,ステロール27位水酸化酵素の活性に関与するアドレノドキシン結合部位とヘム補酵素結合領域を対象に,RT-PCR法により増幅した。得られた産物をシークエンスして,Russellにより報告されたcDNAの塩基配列と比較した。鹿児島大学で見つかった5人の患者について塩基配列の解析を行ったところ,何れもヘム補酵素結合領域である441番目のアルギニンをコードするコドンに異常があることが明らかになった。1人の患者では更に445番目のアミノ酸をコードする部位に1塩基の欠失が認められた。このうち,アルギニンがグリタミンに置換されている患者では制限酵素Stu Iによる切断部位が新たに生ずるので,RT-PCR産物について切断パターンから診断が可能になった。また,アルギニンがトリプトファンに置換された患者ではHpa IIによる切断部位が無くなるので,遺伝子診断が可能であることがわかった。家系によって遺伝子異常が異なっていたことは,それぞれの家系について予備実験が必要なことを意味しており,今後のスクリーニングの実施に当たってはこの点の配慮が必要となった。2.CTX疾患モデル動物の作製:アメリカのニュージャージ医科歯科大学教授のSalenおよびSheferとの共同研究であり,日本側では笠間健嗣(東京医科歯科大・医)が携わってきた。CTX患者では血清中のコレスタノール(ジヒドロコレステロール)濃度が上昇する高コレスタノール血症が見られる。マウスに高コレスタノール食を投与すると,CTX患者に準じた高コレスタノール血症がもたらされ,それに伴って角膜変性症などが引き起こされることを既に観察してきた。今年度は胆石形成が見られる現象に着目し,生化学的検討を行った。1%コレスタノール食をBalb/cマウスに14か月にわたって投与したところ,20%の頻度で胆石形成が見られ,同時に胆嚢の壁の肥厚,血管拡張などの炎症症状を呈していた。この胆石を分析したところ,コレスタノールが55%,コレスタノールが45%であり,この組成は胆嚢胆汁中の両者の組成と一致していた。一方,コレスタノール食を投与したマウスの胆汁から結晶が析出し,この結晶を走査電顕を用いて観察したところ,その形はコレステロールの結晶とは異なる正方形の滑らかな表面をもっていることがわかった。肝臓のHMG-CoAレダクターゼおよび7α-ヒドロキシラーゼを測定したところ,前者は51%上昇した反面,後者は59%低下していた。また,1%コレスタノール食を13か月間与えた後,1か月間標準食に戻したところ,上昇した血清と肝臓のコレスタノール値は低下し,この両酵素活性は正常値に戻った。これらの結果は,コレスタノールの増加によりHMG-CoAレダクターゼが誘導され,7α-ヒドロキシラーゼが抑制されたことを示唆している。この両酵素はコレステロール生合成と胆汁酸生合成系の律速度酵素であるが,コレスタノールの両酵素に及ぼす影響が相まって胆石形成を引き起こしたものと考えられる。今回のモデル動物の作製はコレスタノールと胆石の関係を明らかにするうえで意義のあるものであり,本疾患の病態解明に役立つものと期待される。日本,スウエーデン,アメリカの3国間で実施した,本研究はそれぞれの研究チームの特色を生かして,CTXという疾患の病態解明を行い遺伝子レベルにおける診断の可能性を示した点で大きく貢献したといえよう。
著者
脊山 洋石 笠間 健嗣 清水 孝雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性の脂質代謝異常症である。胆汁酸の代謝異常ではないかと考えられているが、本態は依然として不明である。疾患モデル動物が得られれば、発症の機序はもとより治療法の検討にも有効な実験系を提供することになる。マウスに高コレスタノ-ル食を投与して、血清、肝、小脳のコレスタノ-ルの濃度変化をHPLCを用いた分析法でモニタ-した。コレスタノ-ルを投与したマウスでは肝臓および血清のコレステロ-ル濃度は短期間でピ-クに達して後に減少して対照群の約50倍で安定する。これに対して小脳ではこのようなフィ-ドバック調節が存在せずに、時間と共に蓄積し続けることがわかった。また、ロ-リングマウスと呼ばれる状態を呈するマウスが出現したことはCTXのモデルと有益である。また、角膜にヒトにおける帯状角膜変性症に似た症状を発現した。この病変部位にはコレスタノ-ルと共にカルシウムとリンが沈着していることが判明した。さらに、マウスへのコレスタノ-ル投与は胆汁酸代謝に影響を及ぼし、4ヶ月間に20%の頻度で胆石を形成することが判明した。胆嚢粘膜の炎症と血管拡張を伴っていた。肝のHMGーCoAレダクタ-ゼ活性が上昇しており、一方、7αーヒドロキシラ-ゼ活性は低下していた。マウスに高コレスタノ-ル食を投与することによって、小脳症状、帯状角膜変性症、胆石症をもたらすことに成功した。後2者については病態の生化学的機構の一端を明らかにすることができた。帯状角膜変性症の発症の機構は小脳症状の現われをも説明するものであり、今後このマウスにおける小脳の生化学的分析が小脳症状発現の病態を明らかにするものと期待される。我々が現在進めているCTXの遺伝子診断のプロジェクトの分析対象となっている家系では、胆石症と肝胆道系腫瘍が多発しており、上記の第3の知見もCTXとの関連を説明するうえで重要な意味を有するものと思われる。