著者
豊岡 公徳 若崎 眞由美 宮 彩子 佐藤 繭子
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.7-12, 2020-04-30 (Released:2020-05-09)
参考文献数
14

植物研究分野において走査電子顕微鏡(SEM)は,葉や根など器官の表面の微細構造観察によく用いられてきた.近年,SEMの電子銃や検出器などの技術革新により,生物試料を包埋した樹脂切片をスライドガラスなどの平板上に載せ,反射電子検出器を用いてSEMで観察することで,透過電子顕微鏡法(TEM)と遜色ない切片電顕像を撮影できるようになった.これにより,TEMよりも厚い樹脂切片を用いて,広域に渡り容易に撮像することができる.本稿では,厚い切片でも高感度で帯電せずに撮像できるYAG(Yttrium Aluminum Garnet)-反射電子検出器を搭載した電界放出型SEMによる撮像条件の検討と,その応用として,植物試料の広域にわたる微細構造解析,連続切片を用いた3次元再構築解析,光-電子相関顕微鏡解析により得られた結果について報告する.
著者
佐治 文隆 中室 嘉郎 小川 誠 若尾 豊一 根来 孝夫 都竹 理
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.p227-235, 1976-03

胎児ならびに胎盤には父親由来の移植抗原(paternal histocompatibility antigen)が存在することからこれらは母体にとつては同種移植片ということが出来る.それにもかかわらず胎児は拒絶されることなく妊娠が維持されるように思われる.この問題について我々はマウスを用いて実験的に解明することを試みた.すなわちC3H/Heマウスに発生したmyelomaはC3H/Heの移植抗原を多量に含んでいることに着目し,このmyelomaをC57BL/6Jメスマウスに移植することによつて強力かつ効果的に免疫した後C3H/Heオスマウスと交尾させた.そして妊娠,分娩,流早産率を調べると共に妊娠の進行状態を観察し,流早産発症の時期を検討した.更に妊娠によつて母体の免疫能がどの程度変化するか測定を行ない,以下の結果を得た. (1) paternal histocompatibility antigenで前以つて強力に免疫されたメスマウスでは胎仔の一部が流早産を起したが残りの胎仔はまつたく正常の妊娠経過をとつた. (2) 流早産は着床以後の段階で起つた. (3) paternal histocompatibility antigenに対する母体の免疫能は妊娠中多少の低下を示した. (4) 妊娠中の母体免疫能の低下の原因について母体血清が大きく関与しており,母体血清の影響を中心とする母体免疫能の低下が妊娠維持に重要であることが判明した. (5) しかしpaternal antigenに対して強力に免疫された同一母体において流早産を起した胎仔もあれば,まつたく正常の妊娠経過をたどつた胎仔もあることから母体免疫能の低下のみならず個々の胎盤のimmunologic barrierとしての働きが妊娠維持に大きく貢献しているものと思われる.
著者
齊藤 明 岡田 恭司 髙橋 裕介 柴田 和幸 大沢 真志郎 佐藤 大道 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>成長期野球肘の発症には投球時の肘関節外反が関与し,その制動には前腕回内・屈筋群が作用することが知られている。成長期野球肘おいては投球側の円回内筋が硬くなることが報告されており,特に野球肘の内側障害ではこれらの硬い筋による牽引ストレスもその発症に関連すると考えられている。しかしこれらの筋が硬くなる要因は明らかにされていない。そこで本研究の目的は,成長期の野球選手における前腕屈筋群の硬さと肘関節可動域や下肢の柔軟性などの身体機能および練習時間との関係を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>A県野球少年団に所属し,メディカルチェックに参加した小学生25名(平均年齢10.7±0.7歳)を対象に,超音波エラストグラフィ(日立アロカメディカル社製)を用いて投球側の浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,硬さの解析には各筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど筋が硬いことを意味する。身体機能は投球側の肘関節屈曲・伸展可動域,前腕回内・回外可動域,両側のSLR角度,股関節内旋可動域,踵殿距離を計測し,事前に野球歴と1週間の練習時間を質問紙にて聴取した。また整形外科医が超音波診断装置を用いて肘関節内外側の骨不整像をチェックした。統計学的解析にはSPSS22.0を使用し,骨不整像の有無による各筋のSRの差異を比較するため対応のないt検定を用いた。次いで各筋のSRと各身体機能,野球歴や練習時間との関係をPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。有意水準はいずれも5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>参加者のうち肘関節内側に骨不整像を認めた者は4名(野球肘群),認められなかった者は21名(対照群)であった。浅指屈筋のSRは2群間で有意差を認めなかった(1.01±0.29 vs. 0.93±0.23;p=0.378)が,尺側手根屈筋のSRでは野球肘群が対照群に比べ有意に高値を示した(1.58±0.43 vs. 0.90±0.28;p<0.001)。浅指屈筋のSRと各測定値との相関では,各身体機能や野球歴,練習時間のいずれも有意な相関関係は認められなかった。尺側手根屈筋のSRも同様に各身体機能や野球歴との間には有意な相関関係を認めなかったが,1週間の練習時間との間にのみ有意な正の相関を認めた(r=0.555,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>成長期の野球選手において浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さは,肘・股関節可動域や野球歴とは関連がないことが明らかとなった。一方,1週間の練習時間の増大は尺側手根屈筋を硬くし,このことが成長期野球肘の発症へとつながる可能性が示唆された。</p>
著者
谷本 昌太 松本 英之 藤井 一嘉 大土井 律之 山根 雄一 若林 三郎
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.312-319, 2009 (Released:2016-01-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

1. カプロン酸高生成酵母と発酵力の高い酵母の混合醸造を行い,もろみにおける両酵母菌数および諸成分の経日変化を比較した。2. 広島吟醸酵母は,KA-4と比べてもろみ中での酵母菌数が少なかった。全酵母菌数に対する広島吟醸酵母の菌数の比率は,もろみ初期から減少し,もろみ中期に約10-60%に減少した。3. 広島吟醸酵母の添加比率が増すにつれてもろみ中のアルコール濃度および酸度が低くなり,ボーメの切れは緩慢となった。4. もろみ中の香気成分については,広島吟醸酵母の添加比率が増すことにより,もろみ期間を通じてカプロン酸エチルおよびカプロン酸は高く,酢酸エチル,酢酸イソアミルは低くなった。一方,有機酸については,リンゴ酸およびコハク酸が低下した。5. 広島吟醸酵母とKA-4を混合醸造することで,もろみの発酵力を改善するとともに,酒質を変化させることが可能であった。また,もろみ中のカプロン酸エチル濃度の違いは,広島吟醸酵母の酵母菌数に応じて生成されたカプロン酸が広島吟醸酵母およびKA-4によりエステル化を受けているためと推察された。尚,本研究の一部は,平成16年度日本醸造学会大会において発表した。
著者
松岡 昌志 若松 加寿江 藤本 一雄 翠川 三郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.794, pp.794_239-794_251, 2005 (Released:2006-05-19)
参考文献数
29
被引用文献数
28 9

日本全国の任意の地点での地盤特性を評価するために, 全国的にS波速度に関する調査資料が得られている約2000地点について, 深さ30mまでの地盤の平均S波速度 (AVS30) と微地形区分との関係を検討した. 微地形の判読は, 全国の微地形を統一基準で分類した「日本全国地形・地盤分類メッシュマップ」の分類に従い, 大縮尺の地形分類図を用いて目視判読により正確に行った. その結果, 微地形ごとのAVS30には地盤の形成過程や堆積環境に起因する違いが認められ, 標高, 傾斜, 古い時代に形成された山地・丘陵からの距離を説明変量とした回帰式によって, AVS30が比較的精度よく推定できることを示した. さらに, 日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用して, 広域でのAVS30分布図を作成した.
著者
小堀 宅郎 仲田 博貴 榎本 恭子 沖津 孝幸 今井 康平 八木 誠次 荻野 勇人 若林 修
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.106-114, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
16

To clarify the knowledge and awareness of hemorrhoids per se and the therapeutic behavior in consumers, we conducted a survey with 60,000 consumers in Japan. The survey items included demographic characteristics (age and sex), knowledge and awareness of hemorrhoids per se and the therapeutic behavior, such as ambulant treatment and over-the-counter (OTC) medicine usage.The survey result showed that the proportion of consumers having subjective hemorrhoidal symptoms is 10.0%, which consists of anal fissure (41.2%), external hemorrhoids (33.1%), internal hemorrhoids (26.8%), anal fistula (4.0%), and don't-know (18.8%) and that 25.5% has prior experience with hemorrhoids. Importantly, 19.8% possessing hemorrhoid-related symptoms in the population had no awareness of hemorrhoids. Of note, 72.6% of consumers with subjective hemorrhoidal symptoms utilized neither the ambulant treatment nor OTC medicine, because many of them had shame, anxiety, and inadequate knowledge of hemorrhoids and the applicable therapy. In fact, there were few consumers who understood the existence and characteristic symptoms of three types of hemorrhoids. These findings indicate the need to engage in educational activities on hemorrhoids and applicable therapeutic drugs by offering accurate information from the perspective of pharmaceutical companies.
著者
若林 秀隆
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-49, 2016

&emsp;リハビリテーション栄養とは,栄養状態も含めて国際生活機能分類で評価を行ったうえで,障害者や高齢者の機能,活動,参加を最大限発揮できるような栄養管理を行うことである.サルコペニアは,加齢のみが原因の原発性サルコペニアと,活動,栄養,疾患が原因の二次性サルコペニアに分類される.サルコペニアの治療はその原因によって異なり,リハビリテーション栄養の考え方が有用である.特に活動と栄養による医原性サルコペニアの予防が重要である.<br>&emsp;老嚥とは健常高齢者における嚥下機能低下であり,嚥下のフレイルといえる.老嚥の原因の1 つが嚥下関連筋のサルコペニアである.サルコペニアの摂食嚥下障害とは,全身および嚥下に関連する筋肉の筋肉量減少と筋力低下による摂食嚥下障害である.特に誤嚥性肺炎後に認めやすい.サルコペニアの摂食嚥下障害への対応は全身のサルコペニアと同様で,特に早期リハビリテーションと早期経口摂取が大切である.
著者
若林 宏輔 渕野 貴生 サトウ タツヤ
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.87-97, 2014 (Released:2017-06-02)

日本には、表現の自由を守る観点から刑事事件報道に対する規制はない。渕野(2007)は、日本の公判前報道(Pre-trial Publicity)の幾つかの内容が被告人に対する予断・偏見を作り、刑事裁判の公正性を阻害している可能性を指摘している。一方で、法務省(2009)は、報道規制の代わりに、裁判官の説示(Judicial Instruction: JI)によって市民は証拠能力のない情報を無視することができるとしている。本研究は、問題が指摘されている刑事事件報道と、それを無視するように促す裁判官の説示の効果の関係について調べた。本研究では、比較のために2つのタイプのJIが準備された。一つ目の説示は、証拠能力のない情報を無視する上での証拠法に関する説明が含まれていた(理論的根拠を含む説示)。そして、二つ目の説示ではこれらの説明を含まずに、これらの情報を無視することだけが指示された(公判のみ参照説示)。実験1では、渕野(2007)が問題ある報道と指摘している2種類-自白・前科情報を含む報道を用いて検討した。結果、いずれの裁判官の説示にも、報道によって得られた証拠能力のない自白の情報を無視させる効果はなかった。さらに実験2では、新聞報道に特有な表現方法の効果と説示の種類の効果について調べた。この時、理論的根拠を含む説示は裁判員を無罪の判断に導いた。これらの結果を踏まえ、刑事事件報道の在り方について議論した。
著者
木村 俊哉 高橋 政浩 若松 義男 長谷川 恵一 山西 伸宏 長田 敦
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-22, 2004-10

ロケットエンジン動的シミュレータ(Rocket Engine Dynamic Simulator : REDS)とは、ロケットエンジンの始動、停止、不具合発生時等のエンジンシステム全体の過渡特性を、コンピュータを使って模擬し評価する能力を持った計算ツールである。REDS では、ロケットエンジンの配管系を有限個の配管要素の連結(管路系)としてモデル化し、この管路系に対しボリューム・ジャンクション法と呼ばれる手法を用いて質量、運動量、エネルギーの保存方程式を時間発展的に解くことによって管路内(エンジン内)における、燃料、酸化剤、燃焼ガスの流動を計算する。ターボポンプ、バルブ、オリフィス等の流体機器はボリューム要素やジャンクション要素にそれらの対応する作動特性を持たせることで動作を模擬する。燃料や酸化剤の物性については、ロケットエンジンの特殊な作動範囲に適応するよう別途外部で開発された物性計算コード(GASP 等)を利用するが、そのためのインターフェースを備える。燃焼ガスの物性計算については、熱・化学平衡を仮定した物性計算を行い、未燃混合ガスから燃焼状態、燃焼状態から未燃混合状態への移行計算も行う。ターボポンプの運動は、ポンプやタービンの特性を考慮したポンプ動力項、タービン動力項を加速項とする運動方程式を流れの方程式と連立して時間発展的に解くことによって求める。未予冷区間においては、配管要素と流体との間の熱交換を、熱伝導方程式を解くことによって求め、再生冷却ジャケットにおいては、燃焼ガスから壁、壁から冷却剤への熱伝達を考慮する。燃焼室、ノズル内においては、燃焼ガス流れの分布から熱流束の分布を考慮する。今回のバージョンでは、2 段燃焼サイクルを採用した我が国の主力ロケットLE-7A 及びLE-7 の始動、停止過程時における動特性を模擬することを目的にエンジンモデルを構築し、実機エンジン燃焼試験の結果と比較することでシミュレータの検証を行った。但し、ボリューム要素の組み合わせは任意であり、エキスパンダーサイクルなどの新しいエンジンシステムに対しても適用が容易に出来る。計算の高速化のために2CPU 以上用いた並列処理への対応を行い、ネットワークで接続した複数のPC(PC クラスタ)を用いた並列計算も可能である。
著者
菅原 哲也 若山 正隆 服部 愛衣
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.24-34, 2020-01-15 (Released:2020-01-27)
参考文献数
29

山形県庄内地域で温室栽培もしくは露地栽培されたメロン果実の主要な栽培品種(アンデス,グレース,クインシー)について,部位(果芯,果肉,果皮)ごとにメタボローム解析を実施した(104種の代謝物を定量分析した).その結果,果芯部位において,総じて代謝物濃度が高く,GABAやAla等のアミノ酸,Trigonelline,Choline,Pyroglutamateといった生理活性成分も他部位と比較して顕著に高い値を示した.生食時の可食部位である果肉部位において,代謝物の品種間差異は,グレースにおいて,Citrullineの含有量,クインシーにおいて,Glu含有量が他品種と比較して有意に高い値を示した.メロン果実加工時に多量に排出され,廃棄されているメロン果芯部位を活用し,メロン果芯エキスを調製した.メロン果芯エキスは,GABAを摂取する上で有望な食品素材と推察された.
著者
若松 司 泉谷 洋平
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.269-282, 2006-10-28 (Released:2017-04-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
森 文秋 丹治 邦和 若林 孝一 三木 康生
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ストレス顆粒は、ストレス状況下で、RNAとRNA結合タンパク質によって細胞質に形成される。神経変性疾患においてRNAからタンパク質への翻訳過程を制御することで、異常たんぱくの産生ならびにタンパク質の異常凝集を防ぐとされる。本研究では、多系統萎縮症患者ならびに正常対照の剖検脳組織、αシヌクレイノパチーの細胞モデル、さらに、シヌクレイントランスジエニックマウスを用いて、ストレス顆粒ならびに細胞内分解系に関連するタンパク質の動態を検討した。多系統萎縮症のαシヌクレイン封入体の形成過程、神経細胞死との関連を明らかにすることで、多系統萎縮症の予防治療戦略の可能性を示した。
著者
若有 治美 才藤 栄一 保坂 隆 神内 拡行 田中 博 寺川 ゆかり
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.91-94, 1989-03-10 (Released:2018-10-25)

心因性歩行障害の一症例を通して,心因性運動障害に対するリハビリテーションアプローチと理学療法士の役割,その訓練法について検討した。心因性運動障害の患者は,種々の心理的問題を有す為,治療場面において問題患者として位置付けられることが多い。そこで我々は,精神科医のコンサルテーションに基づいた,リハビリチーム全体の治療方針の統一により,問題の理解を試みた。症例の示す様々な「背理現象」に対しては,バイオフィードバック療法・行動療法的アプローチ等を用いた。又,家庭復帰に際しては二次的疾病利得を考慮し,現実検討を進め,患者は生活の自立に至った。
著者
田中 隼人 小鳥居 英 横澤 賢 若林 楓芽 木本 和代 佐野 恵子
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.26-41, 2015-02-28 (Released:2018-03-30)
被引用文献数
1

Diverse aquatic organisms are living in the immediate freshwater environments such as the rice field, pond and ditch. This study reports a freshwater ostracod fauna of rice field and spring from Fuji and Fujinomiya, Japan. We found 14 species (13 genera), and Pseudocandona pratensis (Hartwig, 1901) is newly recorded from Japan. The morphological characters, distribution in Japan, and taxonomic remarks are provided for these species. And also five species were given the new Japanese name. We discussed on the distribution of Dolerocypris ikeyai Smith and Kamiya, 2006 and Stenocypris hirutai Smith and Kamiya, 2006 found from rice field. Both species has been reported from runoff of spring, seeps, interstitial environment. We regarded their reduced swimming setae on antenna as an adaptive character to shallow and gently water flow. Population of rice field of this two species could be originated from the source of an irrigation channel, and they might be incidentally stayed in the rice field.
著者
宮本 真吾 石川 秀樹 若林 敬二 酒井 敏行 武藤 倫弘
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-33, 2016 (Released:2016-02-26)
参考文献数
25

要約:症例対照研究やコホート研究ではアスピリンの常用者は大腸がんの発生頻度が低いことが多数報告されている.ランダム化比較試験においても,アスピリンは大腸がんの前がん病変である腺腫の発生を予防することがメタ解析レベルで示されている.大腸がんに関しては,これまで明らかではなかったが,アスピリン介入試験の終了後,長期間追跡すると大腸がんの発生を抑制することが示された.以上は欧米のデータであるが,日本でもアスピリンを用いた大腸がん予防を目的とした2 つの二重盲検無作為割付試験が報告されており,現在ではアスピリンの実用化に向け,最適化に関する大規模試験が行われている.本稿では,アスピリンの大腸がん予防介入試験の現状を紹介するとともに,アスピリンの標的として可能性のある血小板と大腸がんとの関連性について考察する.
著者
新岡 大和 成尾 豊 山口 大輔 若井 陽香 上野 貴大 荻野 雅史 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101399-48101399, 2013

【はじめに、目的】ボツリヌス療法(botulinum toxin therapy;以下、BTX)は筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を痙縮筋へ直接注射することにより筋緊張の緩和を図る治療法である。脳卒中治療ガイドライン2009では痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており、標的筋への直接投与による局限的効果とその手技の簡易さ、副作用の少なさから現在広く普及し始めている。しかしながら効果は可逆性で、個人差はあるものの薬剤効果は3ヶ月程度とされていることから、痙縮抑制効果の持続のためには反復投与が必要といった側面がある。木村らはBTXのみによる痙縮改善効果を報告しているが、一方でイギリスの内科医師ガイドラインではBTXはリハビリテーションプログラムの一部であるとされ、中馬はBTXと併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし、海外においてはBrinらがBTX後の適切なリハビリテーションの実施による薬剤効果の長期化を報告しているものの、国内では継続したリハビリテーションによる効果報告が少ない状況である。当院では維持期脳卒中患者へBTXを実施した後、薬剤効果の消失期限とされている3ヶ月間にかけて、理学療法を継続して併用介入しながら効果判定を行っている。今回、その効果判定結果より若干の知見が得られたので報告する。【方法】対象は2012年6月より2012年11月の間に、当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTXを実施した43名のうち9名(男性7名、女性2名、平均年齢60.4±9.4歳)であった。対象者の下肢痙縮筋(腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋)にGlaxo Smithkline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヶ月間、週1~2回、各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法、温熱療法)、関節可動域練習、筋力強化、歩行練習などを実施した。また、対象者に対してBTX施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(以下、MAS)、足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(以下、ROM)、歩行能力検査として10m歩行時間とした。統計学的手法にはSPSS for Windows10.0を用い、Friedman検定、wilcoxon検定を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】対象者の疾患内訳は脳出血7名、脳梗塞2名であり、発症からBTXまでの経過年数は8.3±4.0年であった。MAS、ROMに関しては、施行前と比較して、1週間後に有意な改善を認め、以後1ヶ月後、3か月後では有意な差を認めなかった。歩行時間に関しては、施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後の順に有意に改善が認められた。【考察】BTX施行1週間後では、施行前と比べて全ての評価結果の向上を認めた。BTXによる効果は1週間程度で最大となるといわれており、この改善は主にBTXによる効果と考えられた。その後、1ヵ月後、3ヶ月後の評価においては、筋緊張、関節可動域はBTX施行1週後の状態が維持されており、歩行能力に関してはこの間も経時的に改善を認めていた。これはBTXの後療法としての理学療法の併用と継続介入の有用性を示唆していると考える。理学療法介入効果について検討すると、筋緊張に関しては、姿勢や動作の改善、拮抗筋の活動性向上といった筋緊張亢進を抑制する因子に介入できたことが推察された。関節可動域に関しては、筋緊張が改善された状態を維持したことに加え、継続した介入により筋の柔軟性向上が促されたことが推察された。歩行能力に関しては、筋緊張と関節可動域が改善している状況下での動作練習により、運動学習が促され、ADL上の動作能力改善に繋がったことで3ヶ月間改善し続けたものと考えられた。これらの効果が維持期脳卒中患者において得られたことは有意義といえる。今回の研究では理学療法の継続介入が効果的であることは示唆できたが、理学療法の介入手段までは詳細に規定できていない。よって、今後はどのような理学療法の介入手段が有用なのか、また歩行動作がどのように変化するのか検証していくことが必要だと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は我が国ではまだ報告の少ない維持期脳卒中患者の下肢痙縮に対するBTXの後療法としての理学療法の併用、及びその継続介入の有用性を示唆できたことに意義があると考える。
著者
長田 謙一 楠見 清 山口 祥平 後小路 雅弘 加藤 薫 三宅 晶子 吉見 俊哉 小林 真理 山本 和弘 鴻野 わか菜 木田 拓也 神野 真吾 藤川 哲 赤塚 若樹 久木元 拓
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来プロパガンダと芸術は、全体主義下のキッチュ対自律的芸術としてのモダニズムの対比図式のもとに考えられがちであった。しかし本研究は、両者の関係について以下の様な新たな認識を多面的に開いた:プロパガンダは、「ホワイト・プロパガンダ」をも視野に入れるならば、冷戦期以降の文化システムの中に東西問わず深く位置付いていき、芸術そのもののありようをも変容させる一要因となるに至った;より具体的に言えば、一方における世界各地の大型国際美術展に示されるグローバルなアートワールドと他方におけるクリエイティブ産業としてのコンテンツ産業振興に見られるように、現代社会の中で芸術/アートはプロパガンダ的要因と分かち難い形で展開している;それに対する対抗性格をも帯びた対抗プロパガンダ、アートプロジェクト、参加型アートなどをも含め、芸術・アートは、プロパガンダとの関係において深部からする変容を遂げつつあるのである。