著者
鬼頭 秀一 丸山 康司 佐藤 哲 井上 有一 池田 啓 桑子 敏雄 丸山 徳次 白水 士郎 森岡 正博 松田 裕之 森岡 正博 蔵田 伸雄 松田 裕之 瀬戸口 明久 立澤 史郎 福永 真弓 吉永 明弘 富田 涼都 安田 章人 二宮 咲子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

生物多様性保全と自然再生の理念は、地域社会の文化や社会のあり方と密接に結びついており、そのようなものを統合した「地域再生」の理念と深い関係がある。そのため、自然と社会や文化の入れ子状態の中で、「サステイナビリティ」などの自然にかかわる理念も社会や文化の理念から再定義されなければならない。そのようなことを実践的に可能にするための人材育成のあり方を実践的に提示するとともに、生物多様性保全や自然再生が、治水や災害などの問題も含めた包括的な環境や社会のあり方、さらには、エネルギーや脱炭素化社会の構築にも展開できる社会的な論理を提示した。『環境倫理学』(東京大学出版会)を出版してその成果の内容を提示した。
著者
張 浦華 原田 昭 柿山 浩一郎
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

形態に対しての感性的総合評価は、"形態"からの"感性的連想"に大きく影響されている。本研究は、第一印象である"情緒的連想"、他の形態への連想を想起させる"比喩的連想"、働きを連想する"機能的連想"に注目し、(1)総合評価とイメージ連想の関係。(2)総合評価と脳波(前頭葉α波)の関係。(3)総合評価とアイトラッカーを用いた視線遷移、の3つの計測システムの連動により、形態に対する快・不快についての感性的総合評価との関連を探るシステムを構築することができた。
著者
中川 淳司 福永 有夏 ORTINO Federico LENG Lim Chin LALLAS Peter FELICIANO Florentino MAGRAW Daniel PLAGAKIS Sofia
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、近年利用件数が急増しているWTO(世界貿易機関)の紛争解決手続および投資紛争の仲裁による解決手続における透明性の確保をめぐる理論的問題点を整理するとともに、実務上の課題となっている透明性確保・向上のための諸方策の導入可能性について、内外の国際経済法研究者・市民団体の代表者が共同で検討し、これらの紛争解決手続における透明性の確保に関する将来の方向性を明らかにすることを目指すものである。平成20年度と平成21年度には、2度の国際研究集会(Society of International Economic Law設立大会(平成20年7月、ジュネーブ大学)、アジア国際法学会第2回研究大会(平成21年8月、東京大学))において「国際貿易紛争・国際投資紛争の解決における透明性」をテーマとするパネル・セッションを開催し、本研究のメンバー全員が各々の担当する研究テーマについて報告を行った。平成22年度は前年度および前々年度の研究成果を踏まえ、メンバー間でさらに意見交換を行ったうえで各メンバーが研究の最終成果を英文の論文として取りまとめる作業を行った。本報告書執筆時点でFlorentino Feliciano氏を除くすべてのメンバーおよびDaniel Magraw氏が主催する国際環境法センター(ワシントンDC)の研究員であるSofia Pragakis 氏から論文の原稿が提出されている。Feliciano氏の原稿提出を待って研究代表者とDaniel Magraw氏が共著でIntroductionを執筆し、Transparency in International Trade and Investment Dispute Settlementという表題の英文の編著として刊行する予定であり、現在ケンブリッジ大学出版会との間で刊行に関する交渉を進めている。研究成果の詳細は上記近著に盛り込まれたとおりであるが、以下で簡単にその概要を述べる。(1)WTO紛争解決手続および投資紛争仲裁手続における透明性とは、(i)紛争解決手続の公開、(ii)紛争解決に関連する文書(当事者の提出書面および解決結果(WTO小委員会報告及び上級委員会報告、投資紛争仲裁判断)の公開、の2点によって判断される。(2) これらの紛争解決手続における透明性は、国内裁判所や他の国際裁判(例えば国際司法裁判所)に比べると低いが、いわゆる国際商事仲裁よりは高い。この点は、(i)紛争の当事者の性格(前者はWTO加盟国同士、後者は投資受入国政府と外国投資家)、(ii)扱われる争点の性質(ともに貿易・投資に関する国家の規制の合法性が争われる一方、紛争の真の争点は私企業の利害に直接関連する事項であること)、(iii)紛争の最終解決に至る過程で紛争当事者の妥協による法廷外解決の可能性が排除されていないこと、などの特性にその根拠が求められる。(3)他方で、いずれの紛争においても国家の規制の合法性が争われ、その結果は当該国の経済社会生活に大きな影響を及ぼすことから、紛争当事国国民や市民団体の紛争に対する関心が高く、この点からこれらの紛争解決手続きの透明性を一層高めるよう求める要求が出てくる。(4)(2)で挙げた諸特性と(3)で指摘した要求を勘案し、両者の均衡点を求めることが必要であり、WTO紛争解決手続、投資紛争仲裁の各々について、扱われる争点の性質や当事者の特性の考慮(特に、投資紛争仲裁における外国投資家の営業秘密保持への配慮)を行いながら、透明性の一層の向上策を提案する。ただし、研究メンバーの中には、WTO紛争解決手続について、争点によってはむしろ輸入国の国内裁判所による解決(そこでは高度の透明性が保証されている)を優先させるべきであり、WTO紛争解決手続の透明性を高めることには消極的な見解を述べた者もいる。
著者
多田 學 天野 宏紀 神田 秀幸 金 博哲
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

近年、本態性(老人性)痴呆症の発症や病態のメカニズムが明らかにされるにつれ、脳機能低下を予防させるために、より早期に精神機能の低下の兆候を特定することに注目が集まってきている。従来我が国において実施されてきた痴呆症対策は、痴呆がある程度のレベル以上に進行してしまっているため、改善が極めて困難な状態の痴呆症に対する医療・リハビリテーションによるケアであった。そこで、我々は島根県H町在住の初老期以降(50歳以上)の地域住民について、二段階方式診断法を用いた軽症痴呆症の評価法及び脳活性化対策の有効性を検討し、次のような結果が得られた。1)性・年代別かなひろいテスト得点では、女性において加齢による得点の低下が見られた。2)本研究では二段階方式診断法を用いて参加者58名のうち前痴呆8名、軽症痴呆4名であった。3)かなひろいテストの得点とMMSの得点との相関係数は0.6868で、正の相関が認められた。4)脳活性化対策実施後で60歳代男性を除いて全ての性・年代別で教室前のかなひろいテスト得点を上回った。5)脳活性化対策の継続実施は教室前の状態に比べ痴呆状態を改善しうることが明らかになった。特に、対策開始後2年間継続によって、かなひろいテスト平均得点の上昇がピークに達することが分かった。6)ライフスタイル調査では、重点対策前と対策開始1年後で参加者の日常生活に、ADLや対外的な行動に大きな割合の変化は無かった。7)参加者の痴呆に関する意識では、対策開始後1年でアンケートに14名全てが「自分は痴呆にならないと思う」と回答した。
著者
川村 邦光 荻野 美穂 杉原 達 冨山 一郎 真鍋 昌賢 落合 恵美子 荻野 美穂 落合 恵美子 才津 祐美子 重信 幸彦 杉原 達
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の家族写真は、当初西洋の影響を受けていたが、独自の展開をしてきたことを明らかにした。家族写真が人生儀礼や年中行事において撮影され続け、民俗的慣行として確立され、民俗資料として有効であることも明らかにした。現在では、特に年賀状に家族写真が載せられて、友人・知人に向けて発信され、家族の共同性を確認する機能を果たしている。本研究は家族写真に関する初めてのまとまった本格的な研究であると考える。
著者
倉田 良樹 西野 史子 宣 元錫 津崎 克彦
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

グローバル経済化による市場の不確実性に直面している現代の日本企業は、業務請負型間接雇用の導入によって雇用関係の市場化を実現しようとしている。業務請負型間接雇用は、いまや日本の労働市場において一定のセグメントとして定着している。業務請負型間接雇用で働く労働者に対しては、企業内労働組織において他のタイプの労働者と比べて特別に異なる人的管理の手法が適用されているわけではない。その生活環境は正社員に比べて顕著に劣位にあり、貧困の罠に陥るリスクに直面している。
著者
藤原 眞砂 久場 嬉子 矢野 眞和 平田 道憲 貴志 倫子
出版者
島根県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

子育てや看護をはじめとする家庭生活の多様な環境に配慮した企業および行政のワーク・ライフ・バランス(WLB)施策は、勤労者の生活に安心とゆとりをもたらし、ひいては企業、社会の活性化(少子化の克服も含む)に資する。本研究は総務省社会生活基本調査ミクロデータの独自の再集計値をもとに家庭内の男女、成員の役割関係の実態を解明し、WLBを実現する政策的含意の抽出を試みた。あわせて理論的研究も行った。
著者
橘川 武郎 長谷川 信 平沢 照雄 松村 敏弘 橋野 知子 高岡 美佳 平本 厚 中村 尚史
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

課題番号17330077基盤研究(B)「規制の経済史的研究-産業発展をめぐる企業と政府-」(平成17〜19年度)の研究成果は、2008(平成20)年3月に刊行した研究成果報告書(xii+270頁、総論+全12章)に集約されている。この研究成果報告書の各章は、19世紀後半の生糸貿易(1章、中林真幸執筆、以下同様)、明治期の鉄道業(2章、中村尚史)、第1次世界大戦期の染料工業(3章、橋野知子)、1920〜30年代のラジオ受信機工業(4章、平本厚)、戦前から戦後にかけての港湾運送業(5章、大島久幸)、1950〜60年代のクリスマス電球工業(6章、平沢照雄)、1960年前後の損害保険業(7章、齋藤直)、1960〜70年代の自動車排ガス規制(8章、板垣暁)、戦後復興期〜1980年代の重電機工業(9章、長谷川信)、1950年代後半から今日にかけての原子力発電(10章、橘川武郎)、1980年代後半から今日にかけてのネットワーク型公益事業をめぐる規制改革(11章、松村敏弘)、経済規制に関する理論研究の動向(12章、佐々木弾)を、検討対象としている。本研究は、(1)検討対象期間を長期(明治期から今日まで)にわたって設定する、(2)第2次産業および第3次産業に展開する幅広い業種を取り上げる、(3)大企業と政府との関係だけでなく、中小企業と政府との関係も視野に入れる、(4)歴史分析にもとづく実証研究と経済学に基盤をおく理論研究を結合する、という四つの特徴をもっているが、この点は、上記の報告書にも色濃く反映されている。(1)(2)の点は、1章〜11章の構成から明らかである。(3)に関しては、4〜6章が、中小企業と政府との関係を掘り下げている。(4)に関しては、1、11、12章が理論研究の成果を積極的にとり入れている。
著者
國藤 進 三浦 元喜 羽山 徹彩
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では個人とグループのスムーズな創造的思考活動の移行を可能にするための知識創造支援環境を研究開発した.そのために,まず発散的思考支援機能と収束的思考支援機能を備えた知識創造支援環境を調査した.発散的思考および収束的思考の主要な技術としてはブレインストーミング支援ツール"Brain Writer"および手書きKJ法支援ツール"GKJ"がある.それらは創造的思考プロセスの個人とグループの両モードに対し,適用することができる.
著者
川島 真 茂木 敏夫 岡本 隆司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本科研は、所期の計画に従って、主に以下のような事例研究を提示した。第一に、冊封や朝貢に代表される中国の諸王朝と周辺諸国との関係は19世紀末に終焉するが、その過程で、清と周縁諸国との冊封・朝貢関係が言わば近代的国家関係を利用しつつ再編されたことに関する事例研究を示すことができた。第二に、20世紀に入り、中国が19世紀以前の周辺諸国との関係を、ナショナリズムの動向や日本との戦争、その時々の外交政策などとも関連させながら、伝統的な周辺との関係として記憶化してきたことが事例研究で示された。
著者
石田 憲治 嶺田 拓也 粟生田 忠雄 田村 孝浩 日鷹 一雅 谷本 岳 小出水 規行 若杉 晃介 栗田 英治 芦田 敏文
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

水田における魚類や水生昆虫などの生物の行動特性と水田及び周辺の植生や土壌、水利条件などの環境特性、さらには水田の水環境にかかわる社会条件から生物多様性向上要因を分析した。その結果、(1)生物多様性向上に有効な湿地環境復元に水田冬期湛水が有効であること、(2)初期湛水深、湛水田の配置、湛水期間の工夫で現行の利水条件下でも湛水可能面積の拡大が可能であること、(3)一部の水生昆虫では冬期湛水より通年湛水場所を確保する水管理が重要であること、などを明らかにした。
著者
砂岡 和子 保坂 敏子 砂岡 和子 敬松
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本語と中国語による対面異文化交流時に発生する障害の解決支援を目的に、ミス・コミュニケーション・コーパスを構築し、会議参加者が相互にコメントを付加できる異文化交流ビデオ教学プラットホームを開発した。話者の各種属性による言語・非言語要素、および対話における協調・非協調などの要因から討論シーンが検索可能となる。
著者
横山 美江
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,多胎児の身体発育・発達過程を縦断的に調査し,単胎児との比較から身体発育・発達過程の特徴を明らかにすることを目的とした。その結果,三つ子と単胎児における体重の発育差は,出生時が最も大きく(40%以上の発育差),最初の 1 年で急激に減少するものの,学齢期においても三つ子は単胎児よりも体重が軽いことが明らかとなった。さらに,身長に関しても,出生時に最も差が認められ,最初の 1 年でその差は急激に減少するものの,学齢期においても身長が低いことが判明した。
著者
長谷川 正 松川 正樹 鎌田 正裕 新田 英雄 犀川 政稔 真山 茂樹 長谷川 秀夫 原田 和雄 中西 史 松川 正樹 長谷川 秀夫 新田 英雄 鴨川 仁 小川 治雄 前田 優 犀川 政稔 吉野 正巳 真山 茂樹 原田 和雄 中西 史 土橋 一仁 西浦 慎吾 鎌田 正裕
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

理科の実験・観察を児童・生徒に印象づけるための動的実験・観察教材として,室内用を29件,野外用を3 件開発した.そして,それらを授業実施するため,教師,児童・生徒,保護者,地域のボランティアと大学教員や学芸員,学生としての院生と学部生からなる室内型と野外型の支援システムを構築した.さらに,学生・院生の科学コミュニケーターとしての意識を高めための,支援システムを活用した科学コミュニケーター育成プログラムの開発を試みた.
著者
小巻 泰之 地主 敏樹 竹田 陽介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,2つのデータベースを新規に作成し,以下のような分析結果を得た.1)ドル円為替レートの予測に関するサーベイ・データ(世界経済情報サービスによる「為替レート予測レポート」(以下,WEISサーベイ))2)1980年代後半の外国為替市場の相場状況に関する新聞報道(日本経済新聞,日経金融新聞)を基に,為替介入(以下,観測介入)と通貨当局者の発言(以下,口先介入)1)為替相場の市場参加者の期待形成について日本での従来の先行研究の多くが利用してきた「国際金融情報センター(JCIF)」のサーベイ・データではなく,世界経済情報サービス(ワイス)によるサーベイ)を用いると,必ずしもJCIFサーベイから得られる結果が追認される訳ではない.2つのサーベイの結果の違いは,その作成方法が電話などによるアンケート調査なのか,各人の予測形成の段階で他者の情報に影響されることにあると考えられるが,市場への影響を考慮する場合,利用するデータ属性の違いも考慮すべきであることが示される.2)為替介入の効果為替介入の市場への影響については,データが開示された1991年7月以降については分析が可能であるものの,それ以前の介入動向の影響について十分な分析は難しい.そこで,外国為替相場の場況に関する新聞報道(日本経済新聞,日経金融新聞)ベースの情報を収集し,加えて当時の市場コンセンサスについても,日次ベースにて,1980年から2000年まで21年(約7700日分)のデータ(全133系列)の収集を行い,データベースを作成した.これにより,1980年代後半の為替介入の影響をみると,東京市場で伝えられた介入情報は多いにも関わらず,その効果は当局の意図とは異なり,一方向の大きな変動を引き起こすことが示される.この中で,為替市場へ影響を与えたとみられるのは,為替介入,経済指標及び経済指標に関する市場の予測(コンセンサスともいうべきもの)などの定量的な情報だけでなく,通貨当局者の発言,市場での噂など質的な情報も大きな影響を与えていると考えられる.
著者
西澤 隆 元村 佳恵 村山 秀樹 平 智
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

メロンの「うるみ果(水浸状果)」発生要因とその防止技術について,以下の諸点について明らかにした.1.メロンの「水浸状果」は,果実肥大期の後期に株が一時的に遮光条件下に置かれることによって誘発される生理障害であることを明らかにした.2.「水浸状果」の発生には品種固有性が存在し,供試した品種中では‘アンデス'には「水浸状果」が認められたものの,‘ラスター'では認められなかった.3.遮光処理は果実内におけるスクロースの蓄積を阻害したものの,ヘキソースの蓄積はほとんど阻害されなかったことから,遮光処理は果実内における糖代謝関連酵素の活性を変化させる可能性が示唆された.4.遮光処理は果実内におけるアセトアルデヒド,エタノール生成量を増加させたことから,「水浸状果」は‘プリンスメロン'等で発生が報告されている「発酵果」の一種であり,遮光処理によって果実はより嫌気的な状態に置かれるものと推察された.5.遮光処理はエチレン生成量を増加させ,同時に果肉硬度を低下させたことから,遮光区における急激な果肉硬度の低下には,エチレン生成が関与しているものと推察された.6.摘葉処理および着果過多処理により株のソース・シンクバランスを変えても,果実に水浸症状は認められなかったことから,「水浸状果」は遮光処理によって果実内への光合成産物の供給が制限されることが主要因で起こる生理障害ではないと推察された.7.ABA処理は葉の光合成速度を低下させると同時に果実からのエチレン生成量を増加させ,果実の軟化を促進させた.8.メロンの「水浸状果」の防止には,フィルムの張り替え等による受光態勢の改善,品種の選択,窒素肥料の適正化等が重要であると考えられた.
著者
高橋 宏知 磯村 拓哉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では,①物理リザバー推論を実現できる閉ループ実験系を構築し,②実験データに基づき,脳組織の自由エネルギーの計算方法を確立したうえで,③脳組織の推論能力を増強する方法論を探求する.独創的な実験研究と理論研究を両論とし,リザバー計算と自由エネルギー原理を有機的に連携すれば,脳のエンパワーメント技術,ニューロモルフィック計算,次世代AIの開発などの波及効果を期待できる.
著者
石井 克明 細井 佳久 谷口 亨
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

無花粉スギより胚性万能細胞等を誘導する手法を開発し、各個体に共 通する誘導特性を検索し、個体再生、発根、順化の効率化をはかることにより、各クローンに 普遍的な増殖技術の開発を目指した。無花粉スギからの培養条件の検索では、多くの無花粉ス ギ個体を用いて、針葉の無菌化を行い、培養に適した培地や、培養環境を検索して、雄性不稔 スギ福島不稔2 号、5 号、田原1 号、青森1 号等で最適条件を確立した。そして、発根や順化 での適切な処理手法を開発することで、効率的増殖条件を明らかにした。
著者
小川 由英 外間 実裕 諸角 誠人 秦野 直
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

尿路結石の約80%はシュウ酸カルシウムが成分であり、その傾向は沖縄でも同様であった。シュウ酸カルシウム結石の原因は特発性がほとんどで、過シュウ酸尿症は約1/3、過カルシウム尿症が1/3に認められた。尿中シュウ酸排泄が増加する原因は、食事性が多いとされ、シュウ酸含有食物摂取、脂肪の過剰摂取、シュウ酸分解菌の減少などでシュウ酸自体の吸収が増加する。ヒト腸管内のシュウ酸分解菌は、偏性嫌気性菌であり、Oxalobacter formigenesが結石形成の主たる阻害因子とされている。文献上で報告されているシュウ酸分解菌は、すべて偏性嫌気性菌であった。我々はヒトの腸内からシュウ酸分解菌、すなわちEnteococcus fecalis、Providencia rettgeriiを同定し報告した。これらの菌は、酸素の存在下でも発育できる通性嫌気性菌であり、ヒトの腸に常在させた場合、シュウ酸吸収を減らし、尿中シュウ酸排泄を減少させ、シュウ酸カルシウム結石形成予防効果が期待される。しかし、実際にこれらの菌をヒトに感染させるのは困難である。わが国で用いられている生菌製剤の25製剤のシュウ酸分解能について検討したが、現在のところシュウ酸分解能は確認できていない。また、シュウ酸吸収のラットでのモデルを考案し、上部消化管と結腸が重要な吸収部位であることを証明し、消化管内にカルシウムとマグネシウムがシュウ酸と同時に存在すると、その吸収を阻止することを示した。消化管内のシュウ酸吸収機構に関しては、脂肪酸と胆汁酸などの影響に関しは検討中である。さらに、ヒトの腎不全の際にシュウ酸は尿毒症物質であり、高シュウ酸血症が長期持続すると組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。その腎不全の際のシュウ酸代謝では、アスコルビン酸が重要な役割を果たすことを発見したが、その機序が消化管内でシュウ酸に分解され、シュウ酸が吸収されるのであれば、シュウ酸分解菌が応用できる可能性も考えられ、これからの検討課題である。
著者
西口 順子 岡 佳子 牧野 宏子
出版者
相愛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

現在、関西に12ヶ寺の尼門跡とよばれる尼寺が存在する。尼門跡の称号が正式に許可されたのは昭和16年以後のことで、これらは中・近世には比丘尼御所と称された。近年、中世史の分野において、比丘尼御所研究は著しく進展している。しかし、近世の比丘尼御所研究はほとんどなされてこなかった。それは尼門跡寺院の文書調査が全く手つかずの状態であったからである。本研究では、尼門跡寺院のうち京都の宝鏡寺・養林庵・光照院・霊鑑寺・慈受院、奈良の中宮寺が所蔵する近世・近代文書の調査を実施し、研究の基礎となる文書目録を作成するとともに、比丘尼御所の歴史的変遷と生活文化の多様性を明らかにすることを試みた。各寺院には江戸時代中期以後の多量の文書が存在する。近世の比丘尼御所には皇女・公家の女性が入寺し、彼女ら自身の手による多くの文書が残された。そこから、尼僧たちは自らが寺院経営を行い、寺格の高めるために政治的に動き、積極的に帰依層を拡げていった状況が明らかになった。従来の研究では比丘尼御所は高貴の女性が幼少より入寺する閉鎖的な空間と考えられてきたが、実際は女性達が尼僧として積極的に社会と関わりをもったことが明確になったのである。この側面は文書調査によってしか明確にしえない点であった。さらに尼僧が行った仏事法会や儀式の次第書、和歌や典籍などの国文学資料、美術工芸資料など、宮廷と寺院が一体となった独特の比丘尼御所の生活文化を明らかにした。また、予想以上多量の近代文書が残り、明治政府の宗教政策のもとでの皇室系寺院の歴史的変遷をあつづけることもできた。もっとも各寺院の所蔵する文書は厖大な量であったために、予備調査のみや、調査継続中の寺院などが残り、それらが今後の課題として残っている。