著者
小川 正 相原 茂夫 森山 達哉 佐藤 文彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1,食物アレルギー患者が血清中に保有するIgE抗体の認識する食品素材中のタンパク質成分を、網羅的にイムノブロット法を用いて検出、特定すると共に、Nー末端アミノ酸配列の分析を行って得られた情報を基に、コンピューターデータベースに基づく解析を行い、既知タンパク質成分に帰属し、同定した。これらの情報を基に、植物に特有の感染特異的タンパク質(PR-P)ファミリーに属するものを選択した。(1)患者血清の認識するタンパク質成分として、ニンジンより20kDaアレルゲンとして、cyclophilin(cyclospolin A binding protein)を同定した。(2)ジャガイモより、18kDaアレルゲンとして、シラカバ花粉症の主要アレルゲンBet v 1 homologueを同定した。患者血清は、ピーマンやリンゴ由来の18kDaと交差する。(3)トマトより45kDaアレルゲンとして、コルク質形成関連酸性ペルオキシダーゼを同定した。(4)二十日大根より、37kDaアレルゲンとしてGlutathione S-transferase,25kDaアレルゲンとして,feredoxine/NADH oxidoreductaseを同定した。(5)リコンビナントPR-5dを用いて患者血清をスクリニングしたが、認識抗体を保有する患者は確認することが出来なかった。この事実は、PR-5ファミリーに関しては感作能が低い(アレルゲン性が低い)と考えられる。以上のアレルゲンタンパク質にはPR-Pに分類される物が多いことが判明した。その他の帰属不明なタンパク質も,PR-Pである可能性は高い。これらの事実は、PR-Pがヒトの食物アレルギーの罹患、発症に関わる感作、即ちIgE抗体の産生を特異的に誘導していることを強く示唆するものである。また、これらのアレルゲンは植物界に広く分布し、互いに相同性が70-80%以上あることからパンアレルゲンとして交差反応性が問題となることが示唆された。一方、これらは素材をストレス下で栽培することにより、その含量が変化する事実を確認に下。従って、生産条件の管理が植物性食品のアレルゲン性を大きく左右することを立証した。2,植物性食品素材毎に抽出調製したタンパク質画分を二次元電気泳動を行って、一次元目の情報、等電点、二次元目の情報、分子量をセットとする画タンパク質の戸籍簿を作成する。更に、二次元のイムノブロットにより患者血清の認識するタンパク質成分をマッチングさせ、アレルゲンのとなるタンパク質成分を特定する。この特定成分上に、各種属性を三次元の情報として蓄積し、一食品素材一データベースシートを構築する。日本標準食品成分表と対比出来るようにする。更に、情報として、PR-Pの特徴であるストレス負荷によるアレルゲン性の増減をデータベース上に搭載し、食物アレルギー患者の治療、栄養指導における有効かつ緻密な情報源として提供することが可能である。又、低アレルゲン化の程度、加工食品における混合素材アレルゲンの網羅的解析が可能となるであろう。
著者
日比谷 孟俊 内田 保廣 佐藤 悟 嶋津 恵子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

浮世絵の開板時期を特定することは困難な場合が多い. 描き込まれた様々な描画対象ならびに文字などの属性情報をコンピュータに取り込み,『吉原細見』にある遊女の在任期間と比較することにより,江戸後期に溪斎英泉が画いた花魁を主題とする 21シリーズ,218 枚の美人画について開板時期を特定することに成功した.同じ図柄で妓楼と遊女の名前を変えただけの異板が存在する場合があるが,遊女の紋に注目することにより,初版と後版との関係を明確にできる.
著者
松原 孝俊 キャンベル ロバート 今西 裕一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

1.ボストン美術館所蔵和本調査:2012年5月、8月、10月調査実施。 ボストン美術館が提供する資料に対して、中野三敏、ロバート・キャンベルらの日本チームと、Yukio Lippit らハーバード大学チームが共同で、ボストン美術館との協議を経て、書名・著者・刊写年など書誌データなどを集積しつつ、ボストン美術館から世界に向けて発信される WEB 掲載和本書誌データの最大化を推進した。その結果、MFA 所蔵和本のほぼ全点約 7000 点以上、3万冊以上におよぶ調査が幸いにも終了した。本プロジェクト着手する前には、約 3000 点程度だと推定されていたが、William Sturgis Bigelow、Edward・Sylvester Morse、Ernest・Francisco Fenollosa ・岡倉覚三(天心)などの先人等が情熱を傾けて蒐集した和本数はその 2 倍以上であり、MFA 所蔵の絵本・画譜数は世界一であると判明した。 この研究会を契機として、韓国・台湾・中国・ヨーロッパ 8 ヶ国、アメリカ・カナダなどの専門家との情報ネットワークが構築できた。今後ともに、このネットワークを活用して、九州大学が当該情報の研究拠点となり、各国の和本所在情報を蒐集し、同時に関連する研究発信を続けたい。 また優秀な次世代日本学研究者および和本書誌スペシャリスト養成のために、ボストン美術館調査期間中に和本リテラシー・セミナーなどを実施し、今後現地の研究者によるボストン美術館書誌調査が可能となるように調査に共同で従事しつつ、その育成に努めた。その結果、国内11 機関と海外11機関の計22機関間の在外和本所在情報ネットワークが形成された。このネットワークを活用して、九州大学が当該情報の研究拠点となり、各国の和本所在情報を収集し、同時に関連する研究発信を続けたい。
著者
山本 太郎 飯島 渉 小堀 栄子 橋爪 真弘 蔡 国喜 夏 品蒼
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

中国における効果的エイズ対策を行うことを目的として研究を行ってきた。研究の過程で、多くのHIV感染者に治療の遅れが見られることが明らかになった。その主たる原因は、受診の遅れであり、早期の受診が、治療効果の向上につながることを報告した。早期の受診には、感染者のHIV感染に対する正確な知識が欠かせないこともわかった。早期治療は、感染予防にもつながるものであり、さらなる啓発が求められる。一方健康教育においてピア教育が健康に対する行動変容に重要な役割を演じることもわかった。したがって、ピアの役割を組み込んだ対策が求められる。
著者
山本 政儀 白石 久二雄 星 正治 ZHMADILOV Z.
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

旧ソ連の核実験場セミパラチンスク周辺の住民被曝の特徴は、外部被曝(30-250cSv:1949-1992年間の民住民の総被爆線量)に加えてかなりの内部被曝(40-300cSv)を受けていることである。この内部被曝線量は、数学的モデルで推定されたもので検証が必須である。現在唯一、検証が可能と思われるのは、人体組織の骨中^<90>Sr測定以外ないのではないかと考えている。2001年から、内部被曝線量評価の一環として、核実験場周辺で亡くなられた方々の骨試料を提供していただき骨中のU, Pu,^<90>Srの測定を開始してきた。核実験場近傍の集落で被曝し亡くなられた方の人体試料について出来るだけ多くの試料を収集しデーターの蓄積を計ることが最重要である。本研究において、クルチャトフ研究所及びセミパラチンスク市内の大学病院との連携で、人骨試料(主に脊椎)約100試料を収集し分析した。Nこれまでに採取した試料を用いてPu, Uの逐次分析法を開発し、これまでに約50試料の分析を実施した。Pu-239,240及びU-238濃度は、灰化試料1g当たり0.005-0.23Bq/g,0.09-0.49mBq/gの範囲であった。分析した試料の大部分は、セミパラチンスク市内が多く、これらの値はこれまでに報告されているデーターとくらべて同レベルであった。しかし、核実験場近傍の試料で高い値を持つケースもいくつか見いだされた。Sr-90については0.05-0.13mBq/g-ashの値が検出された。↑標準人(70kg)、平均Pu-239,240濃度0.03mBq/g-ashを用いて50年間に受ける実効線量当量を試算すると、全て吸入摂取の場合には、12.3(難溶性Pu)〜42.7(可溶性Pu)μSv,全て経口摂取の場合に13.5-28.6μSvとなる。→現在、核実験場近傍の集落、モスチーク、ドロン、ズナーメンカ、サルジャールで長年住んでいて亡くなられた方の人体組織を分析しており、さらにデータの蓄積を積み重ねている。↓最終的に、実際のSr-90データとモデルから予想されるデータとの比較を行い、モデルの妥当性を検討する。モデルとの合致が得られない時には、その原因を解析し、新たなモデルを提示する。
著者
木村 昭郎 兵頭 英出夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

セミパラチンスクの被曝者様式は、慢性の外部及び内部被曝であり、広島の被爆様式とはまったく異なっていることから、MDS、白血病など血液腫瘍の発生様式も異なっている可能性がある。我々は、原爆被爆者ではMDS発症のリスクが高いことを明らかにしている。さらに遺伝子レベルでは、造血幹細胞の増殖分化に重要な役割を果たしている転写因子AML1遺伝子の点突然変異をハイリスクMDSに高率に見出し、かつ変異は放射線誘発及び化学療法による二次性MDSでは、本遺伝子内のラントドメインに集中していた。またAML1変異に協調的に作用すると考えられる受容体チロシンキナーゼ-RASシグナル伝達経路の遺伝子変異を約40%の症例で同定した。そこで、MDSと白血病の遺伝子レベルにおける原爆被爆者との比較を行い、被爆様式の違いによる異同を明らかにしようと試みた。最近5年間に収集したMDS・白血病36症例のうち、大気圏核実験が実施された1949〜1963年に被曝を受けたと考えられる例は8例であった。次にAML1遺伝子変異を検索した36例のうち、2例に変異を見出した。1例目は被曝時年令14〜28才、診断時年令68才、Semipalatinsk在住のロシア人女性のMDS/AMLで、変異をラントドメイン(R177Q)に認めた。2例目は被曝時年令0才、診断時年令36才、Abay在住のカザフ人男性の好酸球増多を伴うMDS/AMLで、変異をラントドメイン(P176R)に認めた。これらの例では、造血幹細胞にAML1変異による血球分化の異常と、RAS経路などの変異による増殖シグナルの異常(亢進)が付与されることにより、MDS/AMLが発症したものと考えられる。2例と少数例ではあるが、AML1ラントドメインに変異を見出したことから、セミパラチンスクの被曝においても原爆被爆と同様な遺伝子変異を誘発し、MDS/AMLの発症をもたらすことが推測された。
著者
佐々 浩司 林 泰一 村田 文絵 益子 渉 橋口 浩之
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

竜巻発生環境を再現する実験装置を確立し、メソサイクロン高度に依存して竜巻発生状況が異なることや竜巻の詳細構造を示した。この知見は竜巻予測精度向上に寄与すると期待される。また、レーダー観測により竜巻発生件数の多い高知県において積乱雲中の渦の8割が土佐湾海上で発生することと、福岡竜巻の事例についてメソサイクロンと竜巻渦との関係を示した。モデル解析においては非スーパーセル竜巻事例の発達過程を示した。
著者
佐藤 孝和 黒川 信重 川内 毅 田口 雄一郎 黒川 信重 川内 毅 田口 雄一郎
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ペアリングに基づく楕円暗号に特有の解読法としてペアリング反転を解く方法が知られている。本研究ではヴェイユペアリングの反転写像の明示公式を与えた。この式は密な有理式であり、このペアリング反転公式をそのまま計算してしまう方法に対してはペアリングに基づく楕円暗号は安全であることが示された。また、ペアリングに基づく暗号に適する超楕円暗号をペアリングに基づく暗号に適さないある種の楕円暗号から構成する方法を開発した。
著者
高井 正成 西村 剛 米田 穣 鈴木 淳 江木 直子 近藤 信太郎 内藤 宗孝 名取 真人 姉崎 智子 三枝 春生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ミャンマー中新世末~前期更新世の地層から、複数のオナガザル科化石を発見し、さらに共産する動物相の解析を進めてミャンマーの新生代後半の哺乳動物相の変遷を明らかにした。また東ユーラシア各地(中国南部の広西壮族自治区、台湾南部の左鎮、シベリア南部のトランスバイカル地域、中央アジアのタジキスタンなど)の新生代後半の地層から見つかっていた霊長類化石の再検討を行い、その系統的位置に関する議論を行った。
著者
岡田 知子 後藤 隆太郎 重村 力 石丸 紀興 河野 泰治
出版者
西日本工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

復興計画策定にあたり、以下の3点に配慮するべきであることが明らかになった。(1)被災者の自立(自力での住宅再建と生業再建。そのための支援が必要である。)(2)地域社会の持続(地域コミュニティを大切にした復興を図ると共に、コミュニティ形成に深くかかわってきた生活空間構造を反映した計画)(3)伝統文化の継承(時間をかけて築いてきた街並みや景観、風景、信仰、祭り、暮らしのあり方などの価値を再認識し評価し継承する。)
著者
齋藤 努 藤尾 慎一郎 土生田 純之 亀田 修一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題の目的は、古代の朝鮮半島と日本の青銅器を対象とし、鉛同位体比分析と元素組成分析によって原料産地を系統的に調べて、中国~朝鮮半島~日本における技術とモノの動き、製錬開始時期について考察を行うことである。日本側は古墳時代後期-古代初め頃までの古墳や遺跡の出土資料が、韓国側は国立中央博物館と釜山大學校博物館の所蔵資料が主な対象である。朝鮮半島出土資料は、韓国での発掘成果報告書刊行にあわせて分析を行い、データの蓄積を図った。
著者
芳井 研一 井村 哲郎 広川 佐保 児嶋 俊郎 塚瀬 進 小林 元弘
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、日中戦争期とアジア太平洋戦争期の南満州鉄道沿線の社会変容に関する資料調査研究を行うことであった。そのため交付期間中を通して遼寧省档案館や吉林省社会科学院満鉄資料館、社会科学院近代史研究所図書室、北京市档案館などでの調査を実施し、資料の収集を実施し得たことは計画通りの成果であった。収集したいくつかの重要史料については、不二出版社から5冊の史料集として刊行し得たことは、本研究をめぐる成果の一環である。他方、一連の資料の収集を踏まえて研究をとりまとめ、研究期間中の毎年度に国際ワークショップを共催して成果を発表したことは主な実績である。
著者
名和 範人 鈴木 貴 小川 知之 石毛 和弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

名和と石毛が運営メンバーに名を連ねる『語ろう「数理解析」』(http://www.gifu-u.ac.jp/~tisiwata/seminar/ma_seminar.html)を通して,様々な分野の研究者との議論の場を設ける事ができた。この活動などを通して、研究分担者各員は、各々の研究分野で成果をあげ、様々な研究集会など、複数の講演機会や海外への渡航機会も得て、情報交換がより密になされるようになった。名和は、擬共型不変な非線形シュレディンガー方程式の爆発解に対して、その爆発速度と漸近挙動との間の関係性について、ひとつの結果を得る事ができた。これにより、次のステップとして、本格的にネルソン過程と呼ばれる解の背後にある確率過程と爆発速度との関係の追求に移る事ができる。また、微分型非線形シュレディンガー方程式の爆発解に対しても、漸近形に対しては、部分的に同様の結果を得た。さらに、これまでに開発した技術が、超伝導の理論に現れるような、非線形シュレディンガー方程式系の解析にも有効である事を見抜き、古典場ではあるが、クーパー対の生成とも言うべき性質を解が持ち得る事を示した。石毛は、拡散係数が大きな半線形熱方程式の爆発解の爆発集合や漸近形に関する結果や、球の外部領域における線形熱方程式の解の最大点挙動および解の微分の無限遠方での減衰評価を得た。鈴木は、自己双対ゲージ模型におけるある種の自己組織化現象や,走化性方程式系の爆発問題に関して興味深い結果を得た。小川は、自発的パターン形成のモデルである、スイフト=ホッヘンバーグ方程式や,ある電気化学系のモデル方程式などの解に現れる時空パターンについて,力学系や分岐理論を用いた解析を行った。これらの解析の一部は、すでにシュレディンガー方程式の解の解析と精神を同じくしている部分もあり、今後のさらなる共振的な発展が期待される。
著者
井上 さつき 渡辺 裕 寺内 直子
出版者
愛知県立芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、19世紀末から20世紀初頭にかけての日本と西洋の文化接触の実態を分析することにより、異文化接触のメカニズムを解明することを目的として行なわれた。井上は、川上一座のヨーロッパ公演における実態を、パリ万博時の日本音楽に関する論文等から明らかにし、さらに、彼らを招聘した舞踊家ロイ・フラーと川上一座との芸術面での関連性についても考察した。コンパクトにまとめられた川上一座の演目が米国出身のロイ・フラーの前衛的な舞踊と組み合わされて上演されたことにより、ヨーロッパ人にとっては二重の異文化接触が起こり、一座の演目が単なる「珍奇な見世物」の次元を超えた衝撃を観客に与えたことが明らかになった。寺内は、川上一座のヨーロッパ公演における音楽的な実態を、近年復刻されたCDおよび20世紀初頭の日本音楽に関する論文から明らかにした。それによると、音二郎らが演じたと思われる音楽や劇は、既成の邦楽曲や歌舞伎のストーリーを換骨奪胎し、ヨーロッパ人に分かりやすく演出が工夫されたものであった。また、彼らの公演は、会場に足を運んだ観客に日本の音楽や劇を紹介する以上に、ヨーロッパにおける音楽研究者に多大な材料を提供した、という意味において、20世紀のヨーロッパにおける日本音楽研究の進展に大きく貢献した、と言える。渡辺は、日欧の音楽面での文化交流史を物語る貴重なドキュメントであるベルリンのPhonogamm-Archiv所蔵の初期日本録音音源の中に1910年代前半に録音された一連の《追分》関連の音源が含まれていることに着目し、それを題材とする研究を行った。日本の民謡が西洋との文化接触の中で近代化・再編成されてくるプロセスの中に位置づけてみるとき、これらの録音は、その直後の時代に急速に進行した近代化・再編成過程にいたる以前の民謡をめぐる状況の一端を示しているとともに、レコードというメディアの登場、とりわけ西洋人による録音・採集という活動の展開が、その近代化・再編成プロセスの大きな動因になったことをも示していることが明らかになった。
著者
長沢 伸也
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、日本の地場産業・伝統産業で全国的に高い名声を得ていたり「ジャパンブランド」として世界的に高い評価を受けている企業、ならびにヨーロッパのラグジュアリーブランドを取り上げ、これらの感性価値実現のための経営学的方法論として「経験価値」と「技術経営」の理論を導入し、競争優位やブランド力の源泉である伝統と革新に結びついていることを明らかにした。さらに、衰退しつつある多くの日本の地場産業や伝統産業が復活・再生するだけでなくプレミアムブランド化する条件が、デザインなど顧客の感性に訴えるだけでなく、職人技を活かした「ものづくり」、歴史、物語、夢を打ち出す「ラグジュアリー戦略」であることを示唆した。
著者
野嶋 栄一郎 浅田 匡 齋藤 美穂 向後 千春 魚崎 祐子 岸 俊行 西村 昭治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

授業中に発現する能動的学習行動が学習促進に及ぼす効果に関する実証的研究をテーマとして、本研究は進められた。この研究は、1)教室授業場面における児童の挙手行動と2)ノートテイキィング、3)テキストへのアンダーライニングおよび4)eラーニングを併用した講義型授業におけるeラーニングの利用の様態についての研究がまとめられている。それらの結果は、以下のようにまとめることができる。1)実際の教室授業場面の観察を通し、児童の挙手行動のメカニズムの検討を行った。その結果、挙手は児童個人の信念だけではなく、児童の授業認知などの学級環境要因によって規定されていることが示された。2)講義におけるノートテイキング行動と事後テスト得点との関連について検討した。講義の情報をキーセンテンスごとに分類し、ノートテイキングされた項目とその量について調べ、授業ごと2週間後に課したテストの得点との関係について分析した。その結果、直後テスト、2週間後のテスト、どちらにおいてもノートテイキング量とテスト得点の間に強い相関が認められた。3)テキストを読みながら学習者が自発的に下線をひく行為が、文章理解に及ぼす影響について章の難易度と読解時間という2要因に着目し、テキストにあらかじめつけておいた下線強調の比較という観点から、実践的に検討した。その結果、テキストの下線強調は、文章の難易度や読解時間の長さにかかわらず、強調部分の再生を高める効果をもつことが示された。4)講義型授業をアーカイブ化したeラーニング教材を、講義型授業に付加する形で用意した。講義型授業を受講した後、アーカイブ化したeラーニング教材がどのように利用されるか検討した。その結果、学習者は学習中の自己評価から授業を再受講する必要性を感じた場合に、授業をeラーニングで再受講することが確認された。
著者
小熊 誠 田名 真之 上原 靜 周 星 藩 宏立 何 彬 萩原 左人 周 星 何 彬 潘 宏立 蔡 文高 萩原 左人
出版者
沖縄国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

沖縄と福建の民俗文化の諸相について、多角的な比較研究が行われた。両地域の民俗文化は、その歴史的背景と地理的状況を考慮すると、沖縄における中国あるいは福建文化の受容と変容が一つの重要な視点となる。文化移動の歴史的背景を明確にしつつ、両地域の社会構造や信仰体系と対比して、家譜と族譜、門中と宗族、洗骨改葬、祖先祭祀儀礼、建築儀礼と風水、樹木信仰、琉球瓦と中国瓦などについて比較研究が行われた。
著者
北川 慶子 新井 康平 韓 昌完 高山 忠雄 永家 忠司
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

災害時要援護者を災害の被害からどのように守るかということは、減災の基本的命題である。本件急は、これを重視しつつ、災害時要援護者の生活が、心身、社会的な健康型もたれなければ、災害からの復帰・復興葉が困難であるということを解明するために、避難所・仮設住宅で、被災者に対する調査を行い、生活実態をとらえるた。被災後の生活は、適度な運動(リハビリ、パワーリハビリ)と定期的な健康診査、人間関係の健康が3要素となり基本である。人との対話や交際をするための医療・保健・福祉サービスをつなぐツールとして、防災かるたとマナーかるたを作った。これにより体と心と人との交流を行う生活リハビリプログラムが出来上がった。
著者
飯塚 正人 黒木 英充 近藤 信彰 中田 考 山岸 智子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1998年2月に「ユダヤ人と十字軍に対するジハードのための国際イスラーム戦線」が結成されて以来、いわゆる「イスラム原理主義過激派」のジハード(聖戦)は新たな段階に入った。そこでは、これまでイスラーム諸国の政府を最大の敵と見て、これに対する武装闘争を展開してきたこれら過激派が、反政府武装闘争を否定するウサーマ・ビンラーディンのもとに結集し、彼の指揮するアルカーイダとともに、反イスラエル・反米武装闘争を優先する組織へと移行する現象が見られたのである。本研究の主な目的は、結果として「9,11」米国同時多発テロを引き起こすことになるこうした変化がなぜ起こったのか、また対外武装闘争を実践しようとする諸組織の実態はいかなるものか、を地域横断的に分析することにあった。このため、各年度の重点地域を中央アジア、中東、東南アジア、南アジアに設定し、それぞれの地域におけるジハード理論の変容と実践を現地調査するとともに、必要に応じて毎年各地で継続的な定点観測も行っている。その結果、当初設定した課題には、(1)諸国政府による苛酷な弾圧の結果、「イスラム原理主義過激派」にとって反政府武装闘争の継続が著しく困難になったこと、(2)パレスチナやイラクに代表されるムスリム同胞へのイスラエルや米国の攻撃・殺戮が看過できないレベルに達したと判断されたこと、という回答が得られた。またこの調査では、特に「9.11」以降欧米や中東のムスリムの間で論じられ、強く意識もされてきた"ISLAMOPHOBIA"(地球規模でのムスリムに対する差別・迫害)現象がアフガニスタン戦争、イラク戦争を経て東南アジアや南アジアのムスリムにもまた深刻な問題として意識されるようになっており、こうした差別・迫害に対する抵抗手段として、ウサーマ・ビンラーディン型のジハードを支持、参入する傾向がますます強くなりつつある事実も明らかになっている。
著者
石井 昇 松田 均 中山 伸一 鎌江 伊三夫 中村 雅彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

【研究目的】日常診療、研究等に多忙な医療従事者や医学生等に対して、その職種やレベル別に応じた適切な教育効果が期待されるコンピューターシミュレーションを用いた災害医学、災害医療の教育システムの開発を目指したもので、特に自己学習が可能なゲーム感覚で学習が継続できるプログラムを作成する。【研究実施計画】平成12年度は地震時の災害医療における国内外の関連資料の収集・分析と、コンピューターへのデータ収録、さらに地震災害の初動期災害医療対応のシナリオ作成に必要な画像の収録・編集等を行った。平成13年度は、災害発生初期における医療対応での問題点等の抽出を行い、災害医療の実際等に基づいたシナリオ作成と災害発生後の状況を疑似体験できる災害現場を仮想空間にてシミュレーションできる3次元モデルプログラムの開発をコンピューターシミュレーションソフト開発会社等との協力のもとに着手した。平成14年度は、コンピューターソフト関連の技術者等の協力を得てコンピューターグラフィック化を含めたシナリオ作成と災害発生現場を擬似体験できる災害現場の3次元仮想空間でのシミュレーションモデル作成を行った。【本研究によって得られた新たな研究等の成果】地震災害想定モデル作成の複雑さと困難さに直面し、本研究期間内において地震災害想定シミュレーションシナリオ作成の完成に到達することは出来なかったが、コンピューターシミュレーションソフト開発会社の協力が得て、災害想定モデルのシナリオ作成の第一段階として、工場爆発想定の3次元の災害現場の仮想空間モデルを作成し、この仮想空間モデルを活用した災害現場でのトリアージ訓練シミュレーション教育システムのプロトタイプを作成中で、本年4月に完成した。今後地震災害想定モデルの作成に向けての研究を継続する予定である。