著者
倉本 宣 芦澤 和也 岡田 久子 知花 武佳
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

河川生態系において出水によるかく乱とそこからの再生は生態系の動的な維持に重要な役割を持っている。多摩川では2007年に大規模な出水が発生したので,出水による生育地の変化と河川敷に生育している植物の生育のかかわりを検討した。調査の対象とした植物は,上流域で岩場に生育するユキヤナギ,中流域の礫河原に生育するカワラノギク,下流域に生育し,かく乱による裸地に依存して生育するウラギク,中流域の水域に生育し,出水によって流下するカワシオグサであり,それぞれ特徴的であった。
著者
堤 裕昭 門谷 茂 高橋 徹 小森田 智大
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

有明海奥部では、近年、中央部および東側の海域で海底堆積物表層の泥分の増加および赤潮プランクトン由来の有機物の堆積による有機物含量の増加が起きていた。これらの事実は、同海域における潮流の減・および海水の鉛直混合力の減少を示し、梅雨期や秋雨期に河川水の一時的な流入量の増加に対して、形成される塩分成層の強度が強まることを示唆している。海域への栄養塩流入量が増加しなくても、成層強度の強化による赤潮の頻発、海底における汚泥堆積、夏季における貧酸素水発生が起きるメカニズムが解明された。
著者
上野 陽里 青木 達 栗原 紀夫 山本 啓一
出版者
京都大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

核融合研究が発展し試験炉が運転を始めると大量のトリチウムが環境に放出される恐れがある. 環境中のトリチウムが増加すると種々の経路を通じて体内に侵入したトリチウムにより放射線被爆の可能性が増加する. したがって現在の日本人体内のトリチウム量を測定し, 基準値となるバックグラウンド値を明らかにしておくことは今後の増加を知り, 環境のリスク評価を行う上で重要である. 日本人の体内自由水トリチウムについては現在まで今年度の9例を加えて29例の測定を行っており, 組織結合型トリチウムについても測定を始め数例の結果を得た. 材料は法医解剖をうけた生前は健康と思われた遺体から得た. 各組織は真空凍結乾燥法により72時間かけて捕集した. 捕集して得た自由水は従来からのアロカ製低バックグラウンド液体シンチレーション計数値LSCーLB1と, 今回本科学研究費で入手したパッカード製液体シニチレーションアナライザTRIーCARB1550を用いて測定を行った. 組織結合水については, 燃焼後の水を捕集して測定した. 全試料数は86個でその平均は105pCi/lであった. 個体間のばらつきは52pCi/lから210pCi/lの間にあった. 各組織の平均は脳で71pCi/l, 肺で88pCi/l, 肝で87pCi/l, 腎で162pCi/l, 筋で69pCi/l, 脾で102pCi/lであった. 組織結合水では肝で750pCi/l, 筋で600pCi/l, 蒸溜水で320pCi/lと大きい値を示した. この理由は不明であるが, 恐らくスペクトルがトリチウムに類似した有機物質の疑計数であろうと思われる. 今後この分析を行うと共に例数も増加させていく予定である. 試料は目下蓄積中である.
著者
河口 てる子 安酸 史子 林 優子 大池 美也子 近藤 ふさえ 小林 貴子 岡 美智代 小長谷 百絵 小平 京子 下村 裕子 横山 悦子
出版者
日本赤十字北海道看護大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

「看護の教育的関わりモデル」を用いたアクション・リサーチとモデルの療養支援を介入内容とした無作為化比較試験を行った。アクションリサーチでは、東京(A病院)・名古屋(B病院)・福岡(C病院)の3施設で実施した。アクション・リサーチの結果では、参加者の教育に対する認識が「知識を伝えることが教育」から「日常の会話から教育につながることが大切であり、患者教育は患者の言動や関わりから生まれる反応に合わせて進めるもの」へと変化した。「看護の教育的関わりモデル」を介入内容とする無作為化比較臨床研究に関しては、介入群45名と対照群43名が完了した。「食事療法のつらさ」「食事・運動等の療養行動」「糖尿病コントロール状況:HbA1c」への介入効果に関して分析した結果、「食事・運動等の療養行動」の一部に関して介入群と対照群に有意な差がみられ、介入群の行動の方がよかったが、「食事療法のつらさ」「糖尿病コントロール状況:HbA1c」に関しては、有意差は認められなかった。
著者
横山 一己
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究で、日本列島の新第三紀以前の砂岩中のモナザイトがほぼすべて年代測定された。博物館に収集されている砂岩で砕屑性モナザイトの年代が決められた試料は、美濃帯、四万十帯、秩父帯、足尾帯、北部および南部北上帯、北海道東部及ぶ北部の白亜紀、舞鶴帯、超丹波帯等で約千点に達している。本年度は、沖縄の資料に含め、分析されていなかった砂岩を採集するとともに、その中のモナザイトの年代を測定した。砂岩のモナザイト年代から、供給源が主に3つに分類できることが判明した。最も一般的なものは、19億年と2億年前後のピークをもつ砂岩である。このタイプが日本列島のほとんどの砂岩を占める。代表的なものとしては、ジュラ紀の美濃帯、足尾帯、秩父帯、白亜紀の四万十帯などである。これらは付加帯を代表するものであるが、浅い海で形成された南部北上帯や手取層群などもこのタイプに属する。これ以外に、4から5億年に大きなピークをもつ砂岩、およびこれらに加え7億年や25億年前後のピークをもつ砂岩がある。前者には、北海道の浅い海の白亜紀層や舞鶴帯の砂岩がある。後者は、四万十帯の第三紀層である。砂岩の砕屑性粒子の起源は、日本海ができる前であり、すべてが大陸に起源がある。これまでに採集した大陸の砂岩との比較を行うと、19億年と2億年前後のピークをもつ砂岩は、韓半島から山東半島の南側に分布する物で、長期にわたり韓半島から供給されたものと考えられる。一方、4から5億年に大きなピークをもつ砂岩は、アムール川からの起源を示すもので、サハリンを含め北海道の白亜紀の地層は現在の分布から考えても問題ないものと思われる。舞鶴に関しては、古い時代のものであり、当時は、韓半島との別離して北方からもたらされたものと理解される。四万十帯の多くが7億年や25億年の年代を持つものがあり、これらは、揚子江との対比が可能である。
著者
品川 森一 平井 克也 本多 英一 見上 彪 小沼 操 堀内 基広 石黒 直隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

1.PrP遺伝子に関連する制限酵素切断断片の多様性:日本で飼育されている羊のスクレイピ-の感受性に関わる遺伝的な背景は知られていない。潜伏期及び感受性に関係するPrPの遺伝子に関連した染色体DNAの制限酵素切断断片に多様性(RFLP)が認められ、このRFLPのパターンと潜伏期あるいは感受性の間に関連があることが明らかにされている。日本の羊におけるRFLP型の調査と特定の型とスクレイピ-の関連の有無を検討した。日本各地から集めた羊の組織から染色体DNAを分離し、EcoRIあるいはHindIIIで消化したDNA断片を羊のPrPコード領域をプローベとしてSouthern Hybridizationを行なった。日本の羊はI〜VIの6型に分けられた。またI〜III型は英国で報告された型と一致していた。スクレイピ-の羊18頭の型はI型に8頭と集中しており、一方II型とVI型は、正常な羊128頭で見られる頻度に比べて低く、抵抗性であることが示された。さらにスクレイピ-感受性にかかわる遺伝学的な背景を明らかにするために、地方別のRFLP型の分布を161頭の羊で調べたところ、ある程度の地域差が認められた。2.PrP^<Sc>検出によるスクレイピ-汚染状況の調査:1988年から1993年までに北海道、東北、関東および中部地方から集めた主にサフォーク種の羊197頭の脳、脾臓およびリンパ節からPrP^<Sc>の検出を行った。そのうち北海道の16頭および他地域の2頭からPrP^<Sc>が検出されたが、後者も北海道から導入された個体であった。このことから、日本では現在なおスクレイピ-の汚染は北海道に限局していることが示唆された。しかし北海道外で発生を見た地域では、その地域での伝播が起きていないことが確かめられるまで、中枢神経症状を示した羊があれば詳細に検索する必要があろう。また北海道からの羊の移動および有病地(国)からの導入は慎重を期す必要がある。
著者
井田 齊 朝日田 卓 林崎 健一
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

絶滅種・希少種の系統を解析する目的で,ホルマリン固定後長期保存された魚類標本からのDNA抽出法および多型の解析手法に関して検討を行った。DNA抽出に関しては(1)組織の物理的粉砕,(2)組織溶解に先立つホルムアルデヒドの不活化処理,(3)プロティナーゼKによる組織溶解の条件の最適化,(4)組織溶解液からのDNAの回収条件の最適化の4点に関して手法の改良を行った。その結果(1)物理的な組織の粉砕は組織溶解を容易にするが,DNAをも切断する可能性があり避ける方が良く,(2)トリス・グリシンバッファーの処理法を工夫して短時間で効率的にホルムアルデヒドの除去が可能となるようプロトコルを改変した。(3)DTT添加した4M尿素を含むバッファーを用いて高温でプロティナーゼKの連続添加が最適であった。(4)回収されたDNAの収量とその精製度がPCR反応の可否に大きく影響した。エタノール沈殿等の回収法では精製度は低く,シリカマトリックス等を用いた精製では収量が極めて少なかった。しかしハイドロキシアパタイトを用いたDNA回収ではシリカマトリックスを用いた場合に匹敵する精製度が得られ,かつDNA収量も多く好成績であった。mtDNAのチトクロームb領域の一部のPCR増幅を行ったところ,20年前までのシロザケ標本に関しては約500塩基対の増幅が可能であった。PCR反応によるDNA増幅の長さには回収されたDNAの状態により限度が異なり,リュキュウアユ,クニマス等の特に古い標本ではmtDNAの約500塩基対の増幅も可能ではなかった。核DNAのマイクロサテライト領域では,解析にせいぜい500塩基対までといった短い断片が解析に用いられることから,ホルマリン標本を用いた系統解析,特に近縁種間の系統解析にはマイクロサテライト解析を行うことが有効であると考えられ,現在解析中である。
著者
君付 隆 松本 希 賀数 康弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

音を認知するためには、空気の音圧振動から鼓膜、耳小骨の固体振動への変換、内リンパ液への液体振動への変換、さらに内耳の音受容器(有毛細胞)から聴神経への電気信号への変換へとその伝達様式が変化していく。それぞれの過程で振動刺激の物理的減衰があるため、内因性の音増幅のメカニズムが存在するが、その中でも内耳蝸牛の音増幅メカニズムが最も重要である。従来蝸牛の有毛細胞の中で外有毛細胞がその役割を担うとされてきたが、本研究は内有毛細胞も音増幅に貢献するメカニズムを有することを示した。
著者
花岡 一雄 井手 康雄 角田 俊信 田上 惠 北村 亨之 関山 裕詩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.カルシウムチャネル拮抗集ジルチアセムやα2アドレナリン作動薬クロニジンがネコの脊髄後角Rexed第V層型単一細胞に対する作用を研究した。約3kgの成ネコを用いて、両側中脳網様体の除脳を行い、脊髄を露出し、L1-L2で脊髄を横断した。Rexed第V層単一細胞活動を細胞外微少電極誘導法にて記録した。実験は自発発射及ピンチ法による誘発発射の発射数の対照値を測定した後、微少電極刺入付近の脊髄表面にジルチアゼム10mg/ml(D10mg群)20mg/ml(D20mg群)を1ml投与し、自発発射及誘発発射を測定した。クロニジンについても同様の実験を行った。5マイクロg(1ml)(C5群)50マイクロg(1ml)(C50群)を投与した。その結果、いずれの群も単一細胞の自発発射及ぴ携先見射が減少した。ジルチアゼム実験では用量依存的な反応が見られたが、クロニジン実験では見られなかった。この結果、カルシウムイオンチャネルとα2アドレナリン受容体が疼痛制御機構に関与しており、慢性難治性疼痛患者への疼痛治療に応用され得る可飽性を示した。2.クロニジン軟膏を帯状痘疹後神経痛の患者に適応して、痛みの程度への影響を検討した。クロニジン軟膏(60mlcrogrom,150microgram,300microgram/軟膏1gramの3種類)を作成し、疼痛部位に塗布を行い、検索した。その結果、有効率は90%であった。濃度的には、150microgramが最も多く使われた。いずれも副作用は、認められなかった。クロニジンの作用は脊髄レベルのみならず、神経終末レベルにおいても疼痛効果が期待された。これらの一連の研究からも血管作動薬が疼痛制御に大きく関わっていることが明確となった。またこれらの一連の薬物の臨床への応用が期待された。
著者
中山 桂
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度に引き続き、2頭のサルが棒をひいて餌をとる課題をおこなった。この装置では、手の届かない場所にあるテーブルに餌がおかれており、サルは棒をひいてテーブルをひきよせて餌をとることができる。1頭が片側から棒をひくと力の方向にテーブルが回転、2頭が同時に両側の棒をひくとテーブル全体が力の方向にスライドするよう装置が工夫されている。このしくみにより、協力しないか(単独でひくか)・協力するか(2頭で一緒にひくか)をサルに判断させることが可能になる。単独でひくと少量の餌がすぐに手に入るが、協力するとより多くの餌を手に入れることができるときに、サルがどのような意志決定をおこなうかを調べた。今年度は、協力関係の成立したペアを対象に、協力がどのような条件でおこるのか、またどういった要因が協力関係の維持に影響するのかを検討した。まず、(1)高い成功率で協力したのは、餌に対する社会的寛容が高く、協力における役割分担がパターン化しているペアであることがわかった。そして、(2)いったん協力関係が成立した後でも、ペアのうち片方もしく双方が、少量でもすぐに手に入る餌を好む傾向が強い場合には、協力関係がこわれやすいことが確認された。興味深いのは、(3)少量でもすぐに手に入る餌を好む傾向と、働かずして相手の餌を横取りする傾向の間に相関がみられたことである。
著者
田辺 秀之
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、(1)霊長類細胞の収集、細胞培養、(2)染色体標本の調整、(3)2D-FISH法によるメタフェイズ解析、(4)3D-FISH法による染色体3次元核内配置解析、(5)比較解析と全体の統括という流れで進められた。霊長類各種末梢血を京都大学霊長類研究所の共同利用研究により供与していただいた;類人猿2種(チンパンジー、アジルテナガザル)、旧世界ザル6種(ニホンザル、カニクイザル、アカゲザル、タイワンザル、ミドリザル、マントヒヒ)、新世界ザル5種(コモンリスザル、ワタボウシタマリン、フサオマキザル、ケナガクモザル、ヨザル)。これらの霊長類リンパ球細胞核標本に対し、1)放射状核内配置の進化的保存性、2)相対核内配置と転座染色体生成との関係について考察した。1)では、ヒト18番および19番染色体ペイントプローブ、ヒトPeriphery vs InteriorミックスDNAプローブを使用した。その結果、類人猿、旧世界ザル、新世界ザルに至るまで、18番ホモログは核周辺部に、19番ホモログは核中心付近に配置されることが確認できた。また、ヒトP vs IミックスDNAプローブを用いた3D-FISH解析により、P、I両領域のトポロジーは、進化的染色体転座が高頻度に生じているテナガザルにおいても、高度な保存性を持つことが確認できた。2)については、ヒト2p、2qホモログDNAプローブを作成し、チンパンジーと旧世界ザル6種の細胞核に対して核内配置解析を実施した。その結果、ヒト2p、2qホモログの相対核内配置は、旧世界ザル各種では空間的に離れた距離を保っていたが、チンパンジーでは1組の2p、2qホモログが高頻度に隣接して配置されることが示唆された。このことにより、進化的な染色体再編成が生じている近縁種間での染色体ホモログ領域は、互いに相対核内配置が近接している傾向を示す可能性を持つものと考えられた。
著者
神崎 繁 樋口 克己 丹治 信春 岡田 紀子 伊吹 雄 関口 浩喜
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成7年度は、本研究課題に基づく研究の最終年度にあたるので、その研究成果を纏める意味でも、古代から現代までの道徳的価値をめぐる様々な立場の歴史的再検討と、現代的視角からの原理的研究の双方にわたって、研究分担者の各自の領域に関して研究を行い、その成果を発表してきた。古代に関して神崎は、特にアリストテレスにおける生命の原理としての「魂」概念の関係において、しばしばその生物学的・自然主義的価値理解が問題とされる点を整理し、価値認知がむしろ習慣的な「第二の自然」としての性格を持つ点を確認した。伊吹は、新約聖書における「アガペ-(愛)」の概念を分析して、その価値の志向的性格を明確にした。また樋口は、ニーチェにおける「テンペラメント(気質)」の概念に注目して、ヨーロッパの既成の価値概念の転倒を主張するニーチェの真意を明らかにする作業を行った。岡田は、ハイデガ-における価値哲学批判の意義を、以上の歴史的考察の背景において位置付ける考察を行った。そして丹治は、最近公刊された著書において、言語の共有ということの意義を検討することを通して、全体主義的言語観における価値の問題の位置付けに関する原理的考察の端緒を開いた。また、神崎は研究総括者として、そのような原理的研究において、所謂自然主義的立場の可能性に関して、丹治の立場を批判的に検討することによって、議論を深めることができた。また、以上の研究成果の一部を、報告書として公表すべく、その準備作業を行った。
著者
箱崎 和久
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

室生寺灌頂堂の建築史的評価 昨年の検討から、室生寺灌頂堂(現本堂)は、後宇多法皇の帰依により、北京律僧である空智房忍空の建立となることが判明した。これにより、灌頂堂は鎌倉後期における天皇家の第1級の建築に近い形態とみられ、遺構が残らない当時の天皇家・公家の建築を具体的に知ることのできる資料になると考えられる。一方で造営主体が北京律僧であることは、これも具体的な建築遺構が明確でない北京律僧による建築を知る好資料となるであろう、灌頂堂の建築意匠・技術は、このような背景を反映したとみれば理解しやすい。灌頂堂には、奈良地方に希薄な禅宗様建築の細部様式が認められ、泉涌寺に禅宗様が採用されていた可能性が大きいことを勘案すれば、北京律僧が禅宗様を導入したと考えられる。また、内部の住宅的要素については、京都風の意匠というより、むしろ天皇家・公家の影響と理解できるだろう。派生する問題 室生寺御影堂に用いられた木製礎盤は禅宗様の影響が及んだものであり、これも北京律僧が関与したためと推定される。このように、少なくとも南都における禅宗様系の細部形式の伝播には、北京律僧の影響を考慮しなければならなくなった。当時、北京律僧は東寺・東大寺の大勧進をつとめたほか、高野山・四天王寺・鎌倉などでも活躍しており、これらの寺院や地域における建築の様相を、禅宗様の伝播という観点も含めて、北京律僧の活動からとらえ直してみる必要がある。また、本例は遺構として残る建築の帰依者を特定できる好例であり、建築意匠・空間を考えるうえで、工匠や本寺-末寺の関係のほかに、帰依者について再考する必要性を再認識させた。北京律僧の特質をとらえるには、西大寺系律宗には明確でない、有力帰依者との関係をとらえることが重要である。
著者
土井 健司
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究を通してカッパドキア三教父の救貧に関わる思想と実践について総合的に明らかにすることができた。大バシレイオスは369年の食糧危機に際して富裕者に食糧の供出を求めて実現し、さらに72年には世界最古の病院の一つ「バシレイアス」を建て、主にレプラの病貧者のケアを実践する。ナジアンゾスのグレゴリオスはこれをサポートする説教を行い、ニュッサのグレゴリオスも同様の説教ならびに他の救貧説教を残している。彼らの思想では、貧者はキリストであり、貧者へのケアはキリストへの奉仕になる。これを支えるのが受肉論である。逆に言えば、受肉論によってはじめて、社会のなかで人間扱いされない貧者(特にレプラの病貧者)が「人間」としてクローズアップされるのである。
著者
伊藤 好孝 増田 公明 さこ 隆志 毛受 弘彰 三塚 学
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

2009-2010年の0.9TeV及び7TeVでのLHC陽子陽子衝突に於いて、超前方領域における中性粒子の測定LHCf実験を行い、超高エネルギー宇宙線の空気シャワー形成に重要な0度ガンマ線スペクトルを測定した。7TeV衝突での0度でのガンマ線エネルギー分布の解析を進め、ハドロン相互作用モデルとの比較を行った最初の成果を公開した。その結果、データは従来のハドロン相互作用モデルの予測とは完全には一致せず、空気シャワー実験の解釈に一定の影響を及ぼすと示唆される。
著者
結城 英雄
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の末尾には、「トリエステ-チューリヒ-パリ1914-1921」と記されている。『ユリシーズ』はダブリンを舞台としながらも、トリエステで着想され、チューリヒで結実し、そしてパリで完成されたということだ。これらの都市の文化的・時代的背景が創作に影響を与え、作品の世界に反映していることは間違いない。にもかかわらず、作品に即したその具体的な考察は少ない。本研究はそのような状況を鑑み、ダブリンの描写に着目しながら、大陸の都市が創作に及ぼした影響を明らかにした。
著者
藤本 和貴夫 華 立
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日ソ国交樹立(1925)から満州事変の始まる1930年代の初めまでの日ソ関係は、安定していたと評価されているが、実態の研究はほとんど進んでいなかった。1920年代後半もウラジオストクには日本居留民会が存続し、日本人の経済・文化活動が活発に行われていたという事実に注目すべきである。他方、日ソ両政府は、さまざまな点で対立しつつも、東北アジアにおける両国の利害関係を調整しようと努力した。1930年代に確立される「社会主義国家」対「資本主義国家」といったステレオタイプとは異なる日ソ関係が1920年代後半には成立していた。1931年9月の満州事変の勃発に対して、ソ連は中立の立場をとったが、日ソ関係は悪化し、1936年の日独防共協定の締結により、日ソ関係は事実上断絶した。
著者
風間 北斗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

シナプスの形成には、神経細胞(プレ)とその標的細胞(ポスト)間の綿密な相互作用が重要であると示唆されているが、その内、ポストがプレに働きかける機構に関しては未知な部分が多い。私は、ショウジョウバエ幼虫の神経-筋結合系を用いて、ポスト内の酵素CaMKIIがプレの機能と形態を逆行的に調節することを報告してきた。本年度は、シナプス形成期における標的細胞の挙動を調べるもう一つのアプローチとして、筋肉細胞内で自発的に発生する自家蛍光のイメージングを行った。青色励起光照射の下で筋肉細胞を観察すると、一過的に緑色蛍光が上昇する現象が検出された。一部の蛍光信号は鋭いピークとして出現したが、残りの信号は、立ち上がると数十秒の間安定した水準を保ち続け、その後鋭く減衰するという、細胞に起因するシグナルとしては類のないキネティクスを示した。自家蛍光シグナルは、細胞外のカルシウムイオン依存的に発生した。薬理学的実験により、自家蛍光はミトコンドリア内に存在するフラビンタンパク質に起因することが分かった。また、蛍光シグナルは自発的に出現するものの、その発生頻度が神経の投射に大きく依存した。蛍光強度が、筋肉細胞の中でも特にシナプス部で大きく上昇する事実と合わせて、自家蛍光変動がシナプス形成過程に関わる生理的現象を反映している可能性が提起された。本研究は、シナプス形成期に、標的細胞内で自発的に発生する自家蛍光シグナルを、生体において報告した最初の例である。自家蛍光イメージングは、シナプス形成の理解に大いに貢献する可能性がある。また、もし、先行研究から予想されるように自家蛍光強度とカルシウムイオン濃度との間に相関があることが判明すれば、自家蛍光イメージングは、ミトコンドリアの活性化状態を調べる手法としてだけでなく、新しい非侵襲的なカルシウムイメージング法としても適用できる可能性がある。
著者
櫻井 清一 霜浦 森平 新開 章司 大浦 裕二 藤田 武弘 市田 知子 横山 繁樹 久保 雄生 佐藤 和憲 高橋 克也
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

農村経済多角化に資する経済活動の運営方式と、地域レベルの経済活動を下支えする社会的成立基盤との関係性を分析し、以下の諸点を明らかにした。(1)農産物直売所が開設されている農村社会では、高齢出荷者の社会活動レベルの低下および出荷活動の停滞がみられる一方、後発参入者が広域的な社会ネットワークを広げ、出荷活動にも積極的である。(2)多角化活動の実践は地域社会における経済循環を形成している。(3)政府による農商工等連携事業において、農業部門の自主的な参画・連携がみられない。(4)アイルランドで活発な地域支援組織LAGはプロジェクト方式で自主的に運営され、地域の利害関係者間に新たな協働をもたらしている。(5)アメリカの消費者直売型農業にかつてみられたオールタナティブ性が変化し、対面型コミュニケーションが希薄化している。
著者
佐藤 正明 大橋 俊朗 神崎 展 出口 真次 坂元 尚哉 安達 泰治 安達 泰治 小椋 利彦 大橋 一正
出版者
東北大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008

我々の身体には多くの力を感じる細胞があり、組織や器官が力に応じて機能を発揮するよう制御されているが、その機構は不明であった。本研究では、血管壁、骨、骨格筋の細胞を主たる対象にした。その結果、細胞が接着している部位や細胞の形を決める役目をしている細胞骨格などがセンサの働きをして、シグナルの機能を果たしているタンパク質も分かった。また、生体の発生過程の器官形成において力が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。