著者
大場 正昭
出版者
東京工芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

2年間にわたる科学研究費助成を受けて、カメラの較正、風洞実験による通風模型の換気回数測定、及び実物建屋での換気回数測定を実施し,ビデオ画像を用いた画像輝度値減衰法による新しい室内換気回数の測定法を開発した。実験、実測を通じて得られた主な結果は次のとおりである。(1)放送用ビデオカメラでは、ペデスタルを調整することにより画像信号と視感反射率の間に良い線形性を形成できた。また、画像信号値は対象面照度に比例し、レンズの絞りに反比例した。ガンマー係数は0.57〜0.74であった。8mmビデオカメラはペデスタル機能を有しなかったので、低い視感反射率で画像信号値と視感反射率との線形性が低下した。ガンマー係数は0.69〜1.25であった。(2)実験使用したトレーサーの粒径は、スモークミスト、発煙筒煙、オンジナミストの順に大きくなり、発煙筒煙の粉塵平均粒径は0.5μm〜0.6μmで、平均粒径の経時変化は小さかった。(3)風洞実験の照明用レーザシート光は、レーザビーム光に比べて多重散乱による光量の再生寄与が大きく、画像信号の光路減衰は小さかった。2次元通風模型では、光の散乱減衰が換気回数の測定精度に及ぼす影響は小さかった。トレーサとしてオンジナミストを用いた場合、画像信号最大値はレーザ光出力のべき乗に比例し、0.5Watt以上のレーザ光出力が得られれば、換気回数の測定精度に及ぼすレーザ光出力の影響は小さかった。軒高風速2.5m/s以下の範囲内で、画像輝度値減衰法の測定精度をガス濃度減衰法と比較した。その結果、画像輝度値減衰法はガス濃度減衰法と比べて誤差9%の測定精度で換気回数を測定できた。(4)実物建屋での測定では、多換気時において放送用ビデオカメラのペデスタルレベルを調整し、可視化トレーサーとして白色発煙筒を用いた場合、デジタル粉塵計の換気回数値と比べて、ビデオ画像計測は測定誤差12%の精度を得た。少換気時においては、カメラの絞りを調整して多重散乱の影響を制御した。その結果、照度6001x、ペデスタルレベル5.75、絞り2.4において、ビデオ画像計測は測定誤差7%の精度を得た。可視化トレーサーとしてスモークミストを用いた場合、信号レベルは白色発煙筒における画像信号値に比べてやや小さくなったが、SF6のガス濃度減衰法と比較して誤差6%で換気回数を測定できた。8mビデオカメラは、多換気時において、絞り2.4、照度6001x、焦点距離3.3mの条件で、粉塵濃度減衰法とほぼ同じ精度で換気回数を測定できた。以上のことから提案した画像輝度値減衰法の有効性を確認できた。
著者
下村 郁夫 福井 秀夫 久米 良昭 丸山 亜希子
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

建築基準法における建物の形態・容積・用途に関する規制は、一定の仕様に適合することを求める仕様規定である。仕様規程を、住環境影響やインフラなど建物性能に関する指標で直接制御する性能規程に置き換えることにより、より効率的な規制を実現できる。建物の形態に関する規制は、天空遮蔽率を用いた性能規定に代替できる。建物容積による影響のうち、建物形態がもたらす影響も、天空遮蔽率を用いた性能規定に代替できる。道路に対する負荷の影響は、自動車への混雑課金に代替できる。住居系地域における工場用途の仕様規定も、工場の騒音、臭気等の性能規定に代替できる。
著者
田北 啓洋 藤井 雄作 太田 直哉 上田 浩 丸 浩一 吉浦 紀晃
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

防犯カメラの最大の欠点である「プライバシ侵害の可能性」を解消した,新たな防犯カメラシステム「e自警カメラ」の普及を目的とし,e自警カメラの開発・改良,社会実験を通した運用方法の開発を行ってきた.その過程で,屋外機の前を常時撮影し暗号化保存するドアホン「e自警ドアホン」の開発も行った.また,社会実験に参加した市民の意識の中で,e自警カメラを用いることで,プライバシ侵害に対する不快感・危惧が減少し,逆に,見守られない場合の不安感が増大する意識変化が生じてくることが確認できた.「事件の際,目撃情報が無いことが有り得ない社会」の実現に向け,前進することができた.
著者
三川 潮
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

生体の機能維持に重要である細胞間、細胞内の信号伝達系に作用する天然物のスクリーニング・活性物質の単離同定、活性化合物類縁体の合成と構造活性の解明を試みている。5-S-GAD_L(5-S-glutathionyl-β-alanyl-L-dopa)は大腸菌を感染させた昆虫から分離された抗菌性ペプチドとして単離されたが、その後vSrcの自己リン酸化に対し阻害作用が認められ、また破骨細胞の骨吸収に対する阻害作用を持っている。5-S-GADの合成はdopa誘導体とSHを持つペプチドから、チロシナーゼの作用により生ずるorthoquinoneを経由して簡単に合成出来ることから、様々な構造の展開が可能である。現在までにβ-alanyl-L-dopa部分をb-alanyl-D-dopa,β-alanyl-L-methyldopaに変換し、またβ-alanyldopamine,dopamineに変換した化合物を合成した。glutathione部分はcysteine,glycyl-cysteine,glutamyl-cysteineに変換した5-S-GADを合成しそれぞれの活性を検討した。この実験で問題になるのは、vSrc(NIH3T3cell transformatnt)とバキュロバイラスで発現させたhumancSrcでの実験結果の解釈が複雑なことで、とくにvSrcでの自己リン酸化と人工基質に対するリン酸化に対する阻害に有意の差が見られることである。シグナル伝達に関するcSrcの役割を考えると人工基質に対する影響を見た結果の方がシグナル伝達に対する作用を見ているのに近いと考えられる。現在はチロシンキナーゼ阻害作用に加えて、interleukin-2および-6産生細胞に対する阻害、促進作用、Herpes Simplex Virusに対する阻害作用を持つ化合物の検索を行っている。生薬エキス、微生物代謝産物を2,000以上スクリーニングした。HSVの細胞感染阻害作用が認めれたものは10種以上あり、現在までいずれも既知化合物であるがvalinomycineとconcanamycinが活性物質として同定された。IL-2産生抑制作用を示したのは毒性が強いホミカアルカロイド類あり、またIL-6の産生を阻害する活性は微生物の培養産物に検出され、現在分離を検討中である。
著者
山本 哲生 墻内 千尋 荒川 政彦 渡邊 誠一郎 渡部 直樹
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

惑星系円盤におけるダストの衝突進化と熱進化の素過程,観測結果を読み解くうえで重要な光学に関する研究,ダスト生成とその後続解析実験,ダスト衝突実験,氷表面における分子反応等,物質進化の総合的研究を展開した.加えて,この分野の研究基盤形成にも貢献した.研究グループの交流を促進し,国内の関連研究グループの組織化を図り,研究コミュニティー形成を積極的に推進した
著者
藤田 正治 AWAL R. AWAL Ripendra
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

氷河湖の決壊で一旦洪水/土石流が発生すると下流域に多大な被害をもたらす。このような洪水の発生原因の80%は、末端氷河が氷河湖に崩落する際に発生する津波の越波により堤体が侵食破壊することによって生じる。これ以外にも,浸透,パイピング,すべり崩壊といった様々な原因で決壊する。この中でパイピングによる決壊のメカニズムについてはほとんど分かっていない。多くの天然ダムの形成事例を調査した結果,決壊には至らない場合でも浸透流が堤体内に形成され,裏法面から浸透水が湧出しているケースが比較的多く見つかった。これは,比較的水分を含まず流動化しない形で天然ダムが形成される場合においては,堤体は十分締め固まって堆積するのではなく,緩く堆積するために堤体内に水みちが形成され,いわゆるパイプとなってここから水が流出し,場合によってはパイプ内の水の掃流力によってパイプの侵食が生じ,パイプの拡大からパイピングへと進行すると考えられる。ただし,パイプの形成過程から現象を再現するのは困難なため,本研究では予め氷河湖の堤体内にパイプが形成されている場合を想定し,パイプの形成位置,河道勾配,初期湛水位,初期パイプの大きさ等とパイピングによって形成される洪水/土石流ハイドログラフとの関係等について水理模型実験を行い,これらを考究した。その結果,初期水位が高いほど,氷河湖の長さが長いほど,洪水のピーク流量が大きいことが分かった。また,初期パイプの大きさの違いによって,洪水ピークの発生時刻が異なる(小さいほうが遅い)が,ピーク流量はほぼ同様であった。堤体は1)パイプの拡大,2)パイプの拡大とヘッドカット侵食,3)パイプ位置の違いによるヘッドカット侵食により決壊し,種々の条件によってハイドログラフが敏感に変化する。パイプの拡大による管路流れから開水路流れへの遷移も,ハイドログラフに大きく影響する要因であることが判明した。
著者
戸田 正憲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、ニセヒメショウジョウバエ属を中心としてショウジョウバエ科の系統関係を形態形質により解析することをめざして、1)ニセヒメショウジョウバエ属の単系統性を検討する。2)ニセヒメショウジョウバエ属の各種群間及び本属とショウジョウバエ亜科の主な分類群間の系統関係を明らかにすることを目的とした。ショウジョウバエ科10属41種を66形質について分岐分析した結果、次の結論が得られた。1,ニセヒメショウジョウバエ属は多系統群である:fenestrarum種群、nigricolor種群、miki種群、denticeps種群は一つ単系統群にまとめられるが、tenuicauda種群はトゲオショウジョウバエ属と一緒に別の単系統群を形成する。2,ニセヒメショウジョウバエ属の5つの群群のうち、fenestrarum種群、denticeps種群は単系統群であるが、nigricolor種群は2つの別々の単系統群に分割され、tenuicauda種群は側系統群である可能性がある。また、miki種群の単系統性は今のところ結論できない。3,fenestrarum種群、nigricolor種群、miki種群は単系統群を形成し、denticeps種群と姉妹群の関係にある。4,この4種類から成る単系統群はシマショウジョウバエ亜属と姉妹群の関係にある。5,フサショウジョウバエ属とヒメショウジョウバエ属はそれぞれ単系統群である。6,ショウジョウバエ亜科の中では,まず最初にマメショウジョウバエ属が分岐した。しかし、その後の単系統群(ニセヒメショウジョウバエ属+シマショウジョウバエ亜属、トゲショウジョウバエ属+tenuicauda種群、ハシリショウジョウバエ属、フサショウジョウバエ属、ヒメショウジョウバエ属、ヒョウモンショウジョウバエ亜属、ショウジョウバエ亜属)の分岐関係については、まだ結論できない。
著者
小林 光一
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は「ジカチオン性二鎖型LB膜の作製とその吸着特性」を中心に系統的に行われたものである。以上研究費補助期間中に得られた結果を以下に要約する。モノジカチオン性アルキルアンモニウム塩(SAC,DAC,DSACとTSAC),ジカチオン性アルキルアンモニウム塩(XSAC)および第1級アルキルアミン(ODA)の膜形成能について検討した。これらの物質のうちで、二つあるいは三つアルキル基を持つDSAC,TSACおよびXSACは安定な単分子膜を形成することが明らかにされた。また、ODAはpH10以上で安定な単分子膜を形成することが分った。一方、MOやNO水溶液上でのπ-A等温線の測定から、TSAC,XSACおよびODAの単分子膜は下層水中のNOやMOイオンと強く相互作用することがわかった。作製されたTSAC,XSACおよびODAのLB膜はカチオン性の性質を保持しており、NOやMOなどの色素イオンに対して高い吸着特性を示した。これらの吸着挙動はLB膜中の炭化水素鎖の充填状態やpHによって影響することが分かった。また、これらの色素の吸着は静電的な相互作用によって化学量論的に起ることもわかった。さらに、カチオン性LB膜中のNOやMOの吸着状態には差異があることが明らかになった。すなわち、MO分子は膜表面に対してほぼ垂直な配置を取り、一方NO分子はLB膜表面に横たわった配置を取る。これはMOとNOの分子構造の違いに起因するものと考えられる。この研究で得られた分子配置についての情報はカチオン性LB膜へのいろいろな吸着質の吸着挙動を理解するのに役立つことが期待される。
著者
福田 宏
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ポリオミノまたはポリイアモンドを基本領域とするアイソヘドラルタイリングの研究をおこなった.アイソヘドラルタイリングの対称性17通りのうち,3,4,6回割の回転対称軸をもつ8通りの対称性 p3,p31m,p4,p4g,p6,p3m1,p4m,p6mについて,アイソヘドラルタイリングを全て列挙するアルゴリズムを研究し,コンピュータによってあまり大きくないポリオミノまたはポリイアモンドについて全て列挙した.
著者
河原 達也 GOMEZ Randy GOMEZ R.B.
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

音声は人間同士のコミュニケーションにおいて最も自然なメディアであり、計算機やロボットとのインタラクションにおいても音声対話は重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、実際の環境において、計算機やロボットから一定(数メートル)以上離れた状況で発話がなされると、残響等の影響が顕著となる。その結果、音声認識や発話の理解の性能が大きく低下し、円滑な対話も困難になる。従来この問題に対して、音声強調・残響抑圧の研究が行われてきたが、人間の聴感上の改善を主な目標としていたため、必ずしも音声認識やインタラクションの性能改善につながるとは限らないものであった。これに対して、音声認識やインタラクションの改善に直接的に貢献するように音声強調を行う方法について研究を行った。今年度は特に、複数の分解能からなるウエーブレット分析の手法を研究した。提案するウエーブレットパケット分解では、遅い残響成分と音声の成分を効果的に分離するように、各々の分解能を設定する。これにより、各々に適切なウエーブレット基底を用いることで、観測された残響のある信号から効果的なウイナーゲインを計算することができる。残響抑圧は、ウエーブレットパケットの係数をウイナーゲインでフィルタすることで行われる、大語彙連続音声認識(JNASタスク)の評価実験において、提案手法はウエーブレット分析に基づく従来法や他の残響抑圧手法と比べて、高い性能を示した。
著者
北川 源四郎 椿 広計 藤田 利治 津田 博史 西山 慶彦 川﨑 能典 佐藤 整尚 土屋 隆裕 久保田 貴文 藤田 晴啓 奥原 浩之 村上 政勝 片桐 英樹 宮本 道子 曽根原 登 冨田 誠 笛田 薫 蓮池 隆 宮原 孝夫 安藤 雅和
出版者
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では,科学的情報収集に基づく社会価値選択,価値を決定する構造モデル導出,価値のモデル上での最適化,最適化された価値の社会への還元からなる情報循環設計を科学的政策決定の統計数理科学的枠組みと位置づけ,政策の科学的決定に資する統計数理体系構築を目的とした.本研究を通じて,公的ミクロ情報分析統計基盤の確立,情報循環加速ツールの開発,時空間可視化ツールの開発を達成し,同成果を自殺予防対策研究,観光政策研究,産業環境政策研究に応用し,それぞれの政策立案に資する新たな知見を得るとともに,データに基づく政策を提言した.
著者
姉川 知史
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

医薬品研究開発効率の向上には,技術イノベーションだけではなく,社会的分業,需要要因,市場競争などの「制度イノベーション」が必要である。本研究は過去20年に世界で開発された医薬品800件の医薬品属性,研究開発,特許,論文,研究者,企業等のデータを収集整理したデータ・ベースを作成し,医薬品研究開発のプロジェクト・ヒストリー,研究開発の社会的分業と技術革新とを数量化し,医薬品研究開発の効率性低下の現状と原因に関する経済的分析を行った。
著者
吉田 力 粕渕 辰昭
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

山形県置賜平野の北東に位置する屋代郷低位泥炭地を実験地として本研究を進めた。この地区の積は約950haであり、泥炭層の深さは深いところで約9mであり、最深部に位置する所には積が約5.3haの残存湖(白竜湖)が存在する。この湖周辺の湿原は県の天然記念物として指されている。現在この地区はほとんど水田として利用されているが、近年、営農の合理化のため、場の大型化、大型機械の導入のための乾田化の要求が強い。しかし、湿原保全と湿田の基盤整備相矛盾するところが多い。そこで本研究は以下のことを中心に検討した。1)本地区の地盤沈下の実態調査。2)循環灌漑が低位泥炭地水田におよぼす影響。3)地盤沈下や水環境とも関連の深い白竜湖の面積の推移、4)道路荷重と泥炭の圧密について、5)土壌汚と水質、6)泥炭地内の構造物の耐酸性得られた結果を要約すると以下のようになる。1)本地区は40年間で平均70cmの地盤の変動が確認された。この変動の主たる原因は表層の消失によるものであった。2)この変動は北海道の場合と比較するときわめて少ないものであた。その理由は、この地区は閉鎖系であり、末端部に水門を設け水位を常に一定に保ってるからである。さらに、灌漑期には水門を閉じ循環灌漑を行っているためである。このような水理と対応して白竜湖の面積の縮小速度も著しく遅くなってきた。3)道路荷重により泥炭は圧密れるが、泥炭の透水係数は水田の1/10〜1/15に低下することがわかった。4)かつて指された重金属汚染、水質については現在は問題はない。地区内構造物の酸化の問題も水質調査の果から問題はないことが明らかとなった。この結果は、湿原の保全と周辺地区の開発との両立に示唆を与えるものである。
著者
千本 英史 小川 豊生 山口 眞琴 増尾 伸一郎 谷口 洋
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

サンスクリット仏典での「偽書」のあり方、中国漢文文献における「偽書」の取り扱い方について報告を受け、討議・調査した。それらが東アジアの漢字文化圏(朝鮮・韓国、ヴェトナム、日本)においてそれぞれどのように受け継がれて、「偽書」を生み出していったかについて、調査し、個々の事例に則してその実態を考究した。この三国にあっては、ことに中国との関係をめぐって、また近代植民地支配の中での「偽書」の性格に大きな違いが見られた。
著者
田口 明彦
出版者
公益財団法人先端医療振興財団
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

申請者は脳血管障害患者の末梢血中造血系幹細胞の減少・老化が、脳循環代謝の低下・脳梗塞の発症・認知機能の悪化と強く関連していることを明らかにしてきたが、本研究では老齢ラットに対する若齢造血系幹細胞移植を行い、老齢個体に若返り効果が得られるかの検討を行った。その結果、老齢個体の造血系幹細胞を若返らせることにより、老化とともに障害されている脳循環障害時の血管反応性が著明に向上することが明らかになった。
著者
高際 澄雄
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

18世紀前半イギリスの音楽と演劇の関係は、これまで詳しい研究がなされなかったが、17世紀末イギリスに歌劇が成立したのは、文学者と作曲家の緊密な協力の結果であり、その後も常に強い影響関係をもっていた。特にヘンデルのイタリア歌劇の作曲公演に当時の演劇が強い影響を与え、とりわけ1730年代にヘンデルの王立音楽アカデミーに対抗して貴族歌劇団が結成されたのも、演劇界の活性化が作用したことを、本研究は明らかにした。
著者
中島 聡美 金 吉晴 小西 聖子 白井 明美 伊藤 正哉
出版者
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

複雑性悲嘆の治療法の開発および有効性の検証のために2つの研究を行った。(1)Shearが開発した複雑性悲嘆療法を複雑性悲嘆を主訴とする成人(6例)を対象に、実施したところ、治療後に複雑性悲嘆症状、うつ症状、PTSD症状のいずれも有意な改善を示した。(2)Wagnerによるインターネットを媒介とした認知行動療法を参考に筆記課題を行う治療プログラムを開発した。重要な他者を喪失した一般成人遺族28名を対象に紙面べ一スにて実施したところ、筆記後において複雑性悲嘆での有意な減少が見られた。複雑性悲嘆に対して2つの認知行動療法の有効性が示唆された。
著者
岡田 羊祐 林 秀弥 大橋 弘 岡室 博之 松島 法明 武田 邦宣 中川 晶比兒
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、独禁法違反事件に係る審判決を素材として、日本の判例法的展開を、経済学の一分野である産業組織論の視点から分析・評価したものである。日本では、米国・EUと比較して、独禁法の判例研究が経済分析を刺激するプロセスが十分に機能してこなかった。そのため、経済合理性の視点からみて特異な判断が採用されてきたこともあった。この空隙を埋めるべく、経済学者と法学者が共同して独禁法の審判決の違法性判断基準を理論的・実証的に分析した。その結果、近年、日本の独禁法審判決は、一部の行為類型、特にカルテル・談合、企業合併などの分野において、徐々に経済学的にみて合理的な判断基準が採用されつつあることが明らかとなった。
著者
大網 功 蔵原 清人 西田 雅嗣 蔵原 清人 西田 雅嗣
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では私達は江戸時代、明治初期の古枡、古分銅、古尺を実測した。さらに、渡仏および渡欧してメートル法草創期のフランスの計量事情およびヨーロッパの長さの単位の変遷について文献調査を行った。古枡の実測結果によれば、江戸時代の公定枡である京枡、江戸枡では、枡は縦、横の内幅が4寸9分に作られたが、深さが容積を一定にするように調節されていた。古分銅では、最も良い組分銅で、実測値は称呼値の0.04~0.27%の誤差を持っていた。
著者
西山 昌秀 石田 武和 野口 悟 川又 修一 加藤 勝 町 敬人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は銅酸化物高温超伝導体においてスーパークリーンな系であるYBa_2Cu_4O_8(Y-1248)単結晶を用いて、超伝導における競合秩序や隠れた秩序変数の共存などの精密な物性を明らかにすることを大きな目標として行った。実験結果の解析、実験環境の構築を主として行い、単結晶Rb_2Cu_3SnF_<12>やCu_2OCl_2試料の測定を通して、小さな試料、小さな信号に対する信号雑音比の改善に成功した。試料回転機構の構築も行った。微少単結晶に対するNMR測定の環境は整えることができ、このスーパークリーンな系であるYBa_2Cu_4O_8(Y-1248)単結晶を用いたNMRに応用し、詳細な知見を得ることが可能となっている。