著者
高木 潤野 梶 正義
出版者
長野大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「場面緘黙」を対象とした大規模な実証的研究である。場面緘黙は話す力があるにも関わらず学校等で話せなくなってしまう状態である。適切な治療によって症状の改善が可能であるが、学校や医療現場において認知度が低く適切な対応が得られていないケースが多い。本研究では、縦断的調査によって場面緘黙の実態を解明し効果的な介入手法を確立することを目的とする。幼児期から中学生までの場面緘黙児200名を対象に、心理検査及び半構造化面接によって不安症や発達障害の併存、学校への適応状態、発症要因等を評価する。また5年間の縦断研究により心理療法等の介入の効果を比較することで、より効果的な介入方法を明らかにする。
著者
安酸 敏眞
出版者
聖学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、「万有在神論」(Panentheismus)について検討し、その思想的特質を剔抉することを目指した。当初の計画では、(1)セバスティアン・フランク、(2)レッシング、(3)フェヒナー、(4)トレルチ、(5)プロセス思想家、(6)西田幾多郎を取り上げる予定であったが、三年間で纏まった結論を得るには無理があることがわかったので、(1)、(2)、(4)を重点的に研究し、また新たにK.C.F.クラウゼを加えることにした。本研究によって明らかになったことは、(1)この用語がクラウゼによって1828年に造語されたものであること、(2)この概念は神の世界超越性と世界の神内在性を同時に主張しようとしており、したがって汎神論とは一線を画すものであること、(3)クラウゼ自身は"Panentheismus"以外に、"Allingottlehre"という用語も用いていること、(4)「万有在神論」は、ユダヤ・キリスト教的超越神論とストア主義的汎神論(あるいはスピノザ主義的内在論)を総合するような立場を目指していること、(5)しかし汎神論との区別はもとよりきわめて微妙であり、この立場は有神論の側からつねに汎神論の嫌疑をかけられてきたこと、などである。しかし「万有在神論」のモチーフは新約聖書の中にも見出され、また神秘主義やスピリチュアリスムスの系譜にもその方向性を示唆するものが少なくない。その一例をなすフランクの立場はしばしば汎神論と見なされているが、本研究によればむしろ「万有在神論」として捉えられるべきである。レッシシングの立場は"Panta-en-theismus"と名づけうるような独自の特質を備えている。トレルチの神概念は「万有在神論」の方向を示唆しているが、未だ概念的明晰さを欠いている。「万有在神論」の現代的妥当性を擁護するマッコーリーは、それに代えて「弁証法的有神論」(dialectical theism)という用語を提案している。今後の課題は、キリスト教的な「万有在神論」と東洋的なそれとの間の思想的相違を究明することである。
著者
細川 亮一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

20世紀の思想を形而上学の視点から解明することができる。ハイデガー、ウィトゲンシュタイン、アインシュタインを形而上学者として描いた。20世紀の形而上学は、「形而上学(ハイデガー)対反形而上学(ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン)」でなく、「20世紀の形而上学(ハイデガー、ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン)」という枠組みとして捉えなければならない。何故ならウィトゲンシュタインは「哲学は論理学と形而上学から成り立っている」と言い、アインシュタインは自らを「形而上学者アインシュタイン」と呼んでいるからである。
著者
安藤 寿康 戸田 達史 河合 泰代 藤澤 啓子 大野 裕 平石 界
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009

本研究は児童期と青年・成人期の2つの双生児コホートによる縦断調査により、社会性とメンタルヘルスの形成・変化の過程におよぼす遺伝と環境の影響の解明を目指した。認知能力の発達や問題行動の発現、メンタルヘルスの変化に遺伝要因のそのものの発現の変化、ならびに遺伝と成育環境や文化環境との間のさまざまな交互作用が関わっていることが見いだされた。また認知機能の個人差に関わる遺伝子とその発現、さらには脳の構造と機能との関係を明らかにするための研究基盤が確立された
著者
国田 賢治 藤原 勝夫 渡辺 一志
出版者
札幌国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、(1)自発性瞬目の出現数の頚部前屈保持に伴う変化の運動経験による差異、(2)頚部前屈保持を伴う眼球運動反応トレーニング後の、眼球運動反応時間および自発性瞬目数の頚部前屈保持による変化、および(3)自発性瞬目及び随意性瞬目時の運動関連脳電位への頚部前屈保持による影響について検討した。検討の結果、以下のような知見を得た。(1)頚部前屈保持を伴う自発性瞬目数の減少は、高速ボール追従群でのみみられた。(2)頚部前屈を伴う眼球運動反応トレーニングを行うと、反応時間短縮効果がみられるようになったが、自発性瞬目数の減少効果はみられなかった。(3)随意性瞬目時のみ運動関連脳電位がみられ、その電位の立ち上がり先行時間は頚部前屈を保持すると短くなり、その電位のピークは大きくなった。
著者
谷口 隆秀
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

宿主の免疫反応により病態が悪化する様々なウイルス感染症が報告されている。それらのウイルスの中には、マクロファージを標的とする様々なウイルスが存在する。ウイルスに感染したマクロファージは宿主体内を遊走してウイルスを全身に拡散するとともに、大量のサイトカイン・ケモカイン等の産生を引き起こし病態を悪化させる。ウイルス性脳炎発症におけるTNFαの役割を明らかにするために、マウスに致死的な急性脳炎をおこすMHV-JHM株を用いて、TNFα遺伝子欠損マウスに対して脳内接種経路での感染実験を行った。その結果、マウスの生存率、CNSにおけるウイルス力価、脳の病理組織学的変化にはマウスの系統による違いは見られず、TNF-αはJHM感染による急性脳脊髄炎の病態発生に重要な役割を果たしていないことが示唆された。また、JHM感染TNF-α遺伝子欠損マウスにおけるサイトカイン発現について検討したところ、各種サイトカインおよびこれらケモカインの発現には系統による差が見られず、TNF-αはJHMによる急性脳脊髄炎におけるサイトカイン動態に関与しないということが示唆された。また、劇症肝炎型株(MHV-3)、脳炎型株(JHM)および弱毒株(S)の3株のマクロファージでの増殖能およびサイトカイン等の遺伝子発現について検討した。MHV増殖能では、3株で有意な差は認められなかった。MHV-3感染マクロファージは、他の株と比べTNFα、MIP1-α等のmRNAが他の2株と比べ多く発現していることが明らかとなった。
著者
真木 太一 脇水 健次 礒田 博子 杜 明遠 八田 珠郎 安部 征雄 山田 パリーダ 川野 光子 吉越 恆 森尾 貴広
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

中国敦煌・奈曼の開墾農地のダスト量・濃度には人間活動が大きく影響する。リアルタイムPCR解析DNA鑑定法により沖縄・福岡・つくば採集黄砂から口蹄疫ウイルス付着の可能性を確認した。黄砂の構成鉱物は塩類と二次生成物が主で硫酸塩の含水鉱物があり、最表面には人為起源の窒素が偏在し、石膏付着から中性のpHと高湿度の輸送気象環境が推測できた。2010年3月の宮崎県内口蹄疫の初発生は、中国甘?省の豚口蹄疫の付着黄砂が伝播源と推測された。
著者
遠藤 理一 佐久眞 沙也加 富永 京子
出版者
西武文理大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究の目的は、ツーリズムが観光者や地域、政府組織や企業のいかなる政治性を浮き彫りにするのかを探るとともに、ツーリズム自体がポリティクスとしてのいかなる性格を持つのかを浮かび上がらせることにある。そのために観光学、地理学、社会学の視点より、1) 占領期・戦後期(1950-60年代)、2)沖縄返還以降(1970年代-)、3)東アジアにおけるツーリズム・モビリティ拡大期(2000年代-)における移動をめぐるポリティクスを検証・比較検討する。
著者
石原 明子 奥本 京子 松井 ケティ 浅川 和也 アーノルド ミンデル エイミー ミンデル カール スタファー ダリル メーサー 高橋 隆雄 広水 乃生 桐山 岳大 梁 ビキ 石田 聖 田辺 寿一郎 李 ジェヨン
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

第一に、紛争解決の理論・手法同士の関係性について「紛争を構成する要素」「要素に対応した解決理論」「解決を実践するための手法」という観点から整理し、多様な紛争事例に対応できる「戦略的紛争解決」という枠組みを創出した。第二に、欧米で発展した紛争解決の手法をアジアや日本で活用する場合の適用可能性に関して日中韓等の方に質問紙調査を行い、知見を得た。第三に、原発災害被災者の家族や地域内での人間関係の葛藤のケアと変容支援のためアクション・リサーチを行った。「福島の若手らの水俣訪問ツアー」等を実施し、環境災害からの人生と地域再生に向けた日本型の修復的正義プロジェクトの一つのモデルが形成された。
著者
藤井 一二
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

古代日本と渤海の交渉状況について王城の変遷段階ごとに把握し1、渤海早期の居城と王城(中京・東京城)の位置する延辺地区と日本を結ぶ交流が図們江・海蘭河・布尓哈通河の水路・沿道を主な回廊としたこと、2、中期・後期の上京龍泉府が牡丹江とその流域の交通路によって「日本海」に接する港(津)に連接していた様相・特性を、歴史的、考古学的に究明した。
著者
井上 勝生
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本軍の討伐大隊長文書と戦死兵の石碑碑文、討伐軍兵士個人の従軍日誌複数などを見出した。朝鮮農民ら東学農民軍の抗日蜂起は、従来は注目されなかった中央部山岳地帯で一斉に始まった。この時に、広島の大本営こそが、農民軍主力ほか全部を包囲殲滅する作戦を立案し、派兵した。作戦の後半では、日本軍指導部から殲滅命令が続発されており、朝鮮農民軍数万人以上の厖大な死者を出した。この事実関係を解明・実証した。
著者
遠藤 誠之 玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

妊娠中に母体から胎児へ細胞が移行する現象を母体胎児間マイクロキメリズムと言います。その機序により、ある割合で子供が母親由来の細胞に対して免疫学的な寛容を示すことが分かっています。その場合、その子供は母親由来の細胞移植や、母親に特異的なタンパク質に対して拒絶反応を起こしません。我々は今回、この免疫寛容誘導効率を上げるための研究を行いました。妊娠マウスに間葉系幹細胞動員因子HMGB1を投与することで、母体血中から胎児へより多くの間葉系幹細胞が移行することを期待しました。その結果、免疫寛容誘導効率を約4倍増加させることができました。
著者
廣瀬 通孝 鳴海 拓志 北川 智利 広田 光一 雨宮 智浩 谷川 智洋 青山 一真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

本研究の目的は,バーチャルリアリティ空間で複数人が一つの身体(融合身体)を使用して私(I)でも我々(We)でもある身体運動を遂行する環境での検証から,共同行為が自らの寄与によるという感覚(行為主体感)が生じるメカニズムと,身体動作遂行に必要な潜在的知識(身体図式)が変容する条件とそのメカニズムを明らかにすることである.さらに,この知見に基づいて,行為者間の無意識的な意図伝達や動作同期が起こる融合身体の構成法を確立し,融合身体を介して教師から学習者への身体スキルを効率的に転移させることが可能な新しい身体スキル伝達手法を実現することを目指す.
著者
松本 健一
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

関節可動亢進(III)型エーラス・ダンロス症候群(EDS)の診断法の確立のために、III型EDSの原因遺伝子の一つであるテネイシンX(TNX)の血清濃度の定量系の開発を、ESI-TSQ質量分析計を用いて行った。その結果、健常人の 血清型TNX 濃度は144 ng/mLであることが明らかとなった。また、III型EDS患者血清における病態バイオマーカーの同定のために、III型EDS患者の血清を用いて、健常人血清と比べて発現差異を示すタンパク質の解析をMALDI-TOF/TOF質量分析計を用いて行った。その結果、補体関連の6個のタンパク質が患者血清中において発現増加していることが明らかとなった。
著者
遠藤 芳信
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

陸軍の動員計画策定との関係で、補給・兵站体制構築の特質を3点にわたって解明した。第一に、1894年兵站勤務令に関して、1891年戦時編制草案及び1894年戦時大本営編制等との関係を中心にして解明した。第二に、補給・兵站体制の財政的基盤を分析し、特に日清戦争期の諸予算編成と会計経理の体制構築を解明した。第三に、日清戦争開始期の第五師団の動員と混成旅団の編成を解明し、さらに朝鮮国内における混成旅団の兵站体制構築開始の特質を解明した。
著者
竹内 俊郎
出版者
東京海洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

海水魚の閉鎖循環式陸上養殖は、従来の養殖法よりも使用する水量が少なくて済む養殖方法であるが、その代償として、飼育水中に栄養塩が蓄積されてしまい、いずれはその水を換水する必要がある。その栄養塩を植物に吸収してもらおうと考案されたのがアクアポニックスである。淡水と海水養殖におけるアクアポニックスがあり、海水養殖のアクアポニックスの研究事例は非常に少ない。そこで本研究では、クエ飼育排水を液肥として用いたアイスプラントの水耕栽培に関する研究を行った。その結果、クエの排水を8psuとした液肥中の窒素やリンをアイスプラントが吸収し成長できるが、鉄とマンガンが不足することを明らかにした。
著者
鈴木 康夫 COLMAN Peter WEBSTER Robe PETER M.Colm ROBERT G.Web COBMAN Peter
出版者
静岡県立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究は、インフルエンザウイルス膜抗原であるヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の分子進化にともなう宿主細胞側の受容体シアル酸含有糖鎖認識機構の解析を目的としたものである。本研究では特に、HAおよびNAの分子進化に伴う宿主細胞膜シアロ複合糖鎖認識の変化の機構を分子・遺伝子レベル、3次元的に解明することに焦点を当てた。また、本研究の成果からインフルエンザウイルスの変異に関係しない広域性ワクチン開発への実験的基盤を作るための応用研究も同時に行った。以下に過去3年間に得られた結果を述べる。1、先ず、全てのインフルエンザウイルス株であるインフルエンザA,BおよびC型ウイルスのヘマグルチニン(C型ウイルスはヘマグルチニン-エステラーゼ)が認識する受容体シアロ糖鎖構造の詳細を初めて明らかにした。これは、我々が天然から得たシアル酸含有糖鎖パネル(70種以上)および化学合成シアロ糖鎖を用いることにより達成された。また、同時に受容体破壊酵素であるNA(A,B型)および9-0-アセチルノイラミネートエステラーゼ(C型ウイルス)が認識する基質特異性についても明らかにした。2、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンの全ての亜型(H1-H13)の遺伝子における塩基配列およびそれらがコードするアミノ酸配列を初めて解明した。さらに、これらが認識する受容体シアロ糖鎖の構造を調べたところ全てのヘマグルチニン亜型は共通してラクト系IおよびII型糖鎖を強く認識すること、ヘマグルチニンの分子進化による認識の変異はシアル酸の結合様式(2-3,2-6)に現れることを発見した。3、インフルエンザウイルスNAの新しい拮抗阻害剤(Neu5Ac2-S-3Galβ1-4Glcβ1-Ceramide、チオグリコシド結合を持つガングリオシド)を見いだし、これがウイルスNAのシアル酸結合ポケットに入り、ポケット中の数種のアミノ酸(Asn294,Arg292,Arg371,Arg118,Glu119,Glu276)と水素結合や疎水結合により結合することをX線結晶解析により初めて明らかにした(共同研究者であるPeter Colman博士「CSRIO、オーストラリア」との共同研究で成し遂げた)。いままで、インフルエンザウイルスNAのシアル酸との結合研究は遊離のシアル酸との結合を3次元的に解析しており、本研究により
著者
鈴木 康夫 フォン・イツスタイン マ プラニー タワ ショートリッジ ケネディ 河岡 義裕 ウェブスター ロバート・ SHORTRIDGE Kenney F. THAWATSUPHA Pranee WEBSTER Robert G. ITZSTEIN Mark von ITZSTEIN Mar THAWATSUPHA プラニー SHORTRIDGE K WEBSTER Robe
出版者
静岡県立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は2年間でアジアにおける新変異インフルエンザウイルスの出現機構をあきらかにし、その制御についての可能性を探ることである。過去2年間において以下に述べる主要実績が得られ、本研究の目的は充分達成されたと考えられる。1)ヒト、トリ、ブタ、ウマなどインフルエンザウイルスのアジアにおける主たる宿主から分離されるすべてのインフルエンザウイルスに対する共通の受容体糖鎖構造を初めて明らかにした。2)インフルエンザウイルスは宿主に存在する受容体シアロ糖鎖のシアル酸分子種、結合様式による選択を受けつつ進化することを明らかにした。3)ヒトの気道上皮細胞が持つ受容体シアル酸の結合様式は、Neu5Ac2-6Galのみであり、2-3は存在しないこと、トリ腸管、ウマ気道上皮細胞には,Neu5Ac2-3Galのみが存在し、2-6は存在しないことを見いだした。さらに、ブタの上気道には、Neu5Ac2-3Gal,Neu5Ac2-6Galの両者が存在することを初めて見いだした。一方、ヒトから分離されるインフルエンザウイルスは、Neu5Ac2-6Galを受容体として認識し、2-3とは結合しないこと、トリA型インフルエンザウイルスはNeu5Ac2-3Galと結合すること、ブタから分離されるA型ウイルスはNeu5Ac2-6GalとNeu5Ac2-3Galの両者と結合できることを認めた。この結果から、インフルエンザAウイルスの宿主域は、宿主動物の受容体シアロ糖鎖のシアル酸結合様式(2-3,2-6)により制御され、受容体に結合できる変異ウイルスが選択され、宿主域の壁を越える可能性を明らかにした。4)ヒト、ブタ、トリが共生するアジアではブタがトリおよびヒトインフルエンザウイルスのミキサーとして働いていることを受容体分子のレベルで解明した。5)ウイルスヘマグルチニン遺伝子の解析から、宿主域変異(トリ型→←ヒト型)に関わるシアル酸の結合様式の変異(2-6→2-3)には、ヘマグルチニン分子内レセプター結合ポケットにあるただ1つのアミノ酸226(Leu→Gln)の変異により制御されていることを初めて解明した。上記の結果は、本研究の目的が概ね達成され、さらに付加的な研究結果も得られたことを示している。