著者
竹本 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、森林官であった齋藤音策の足跡を追うことで、明治から昭和初期にかけての近代林政が現場との対話により変化し、現在の緑化運動にも結びつく、植民地朝鮮における緑化の技術と思想が生まれたことを明らかにした。
著者
岸根 順一郎
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カイラル空間群に属する磁性単結晶において「スピンの位相」を外場や電流で制御するための種々の方法を理論物理学の立場から探った.その結果,結晶の構造カイラリティがスピン位相のマクロな秩序化を引き起こし,これを外場によって制御できることを明らかにした.とくに,カイラルスピンソリトン格子と呼ばれるスピンテクスチャが伝導電子と結合することにより,単結晶においてメモリ効果,磁気抵抗効果,起電力効果の共存する物質を作ることが可能であることを明らかにした.
著者
宮崎 香 東 昌市 小川 崇
出版者
横浜市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

がんの悪性進展においてがん周囲の微小環境因子が重要な役割を果たしている。本研究では基底膜の細胞接着分子ラミニン332(Lm332)がプロテアーゼの限定分解を受けて可溶型分子となり、がん細胞の移動を促進することが明らかになった。また、がん細胞が間質に浸潤するとLm332の構成鎖の一つであるγ2鎖が単独で過剰に発現し、この分子ががんの浸潤性増殖を促進することが示された。さらに本研究において、腫瘍血管では発現が抑制される、血管特異的新規ラミニン分子ラミニン3B11が発見された。一方、がんの悪性進展や転移に関与するマトリックス分解酵素MMP7はコレステロール硫酸を介して細胞膜に結合し、細胞膜タンパク質やLm332などを分解し、がん転移を促進すると考えられた。これらの因子は抗がん治療の有望な標的分子と考えることができる。
著者
田中 一男 大竹 博 大竹 博 WANG Hua
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近年,ロボットの多機能な複合動作実現のニーズが高まっている.本研究では,多機能複合動作を有するロボット系のための統一非線形制御アプローチの方法論を構築した.とくに,非線形ダイナミクスを多項式表現モデルに変換し, Sum of Squares手法を理論的核とした効果的に制御系を設計する方法の開発に成功した.さらに,飛行ロボットのホバリング制御,軌道安定化制御に適用し,本研究の有効性を明らかにした.
著者
湊 一 宮口 右二 豊田 淳 中村 豊
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

稲わらのNaOH処理は、乾物重量あたり最終含水量35%および最終NaOH濃度0〜4%となるように、稲わらにNaOH水溶液を散布し、0〜21日間貯蔵した。4%NaOHで21日間の処理を行った時に、稲わらのin situ消化率での改善は最大であった。稲わらのリグニンおよびヘミセルロース含量とin situ消化率との間には負の相関が認められた。NaOH処理および無処理の稲わらの細胞壁に含まれるリグニンの特性を明らかにするために、細胞壁のフェノール性化合物の分析を行った。NaOH処理により、稲わらから遊離されるフェノール性化合物の量は、バニリン、p-クマル酸、フェルラ酸、p-ヒドロキシベンズアルデヒドの順に多かった。また、NaOH処理によって、稲わら中のエステル結合型のp-クマル酸の約50%が消失していた。稲わら中のセルロースのin situでの消化率は4%NaOHでの処理により著しく改善された。稲わらの細胞壁ヘミセルロース構成成分中でキシロースのin situ消化率は他の単糖類に比べて劣っていた。しかし、稲わら中のキシロースのin situでの消化率はNaOH処理によって改善された。In situ消化の間に、無処理の稲わらからは等量のグアイアシル-およびシリンギル-リグニンが放出された。他方、NaOH処理稲わらからはグアイアシル-リグニンに比べてシリンギル-リグニンがより多く放出された。走査電子顕微鏡による観察では、稲わらは、NaOH処理によって繊維組織が膨潤し、無数の繊維状物質の突出が確認された。この研究で得られた成績は、セルロースミクロフィブリルを包囲しているヘミセルロース多糖体とリグニンから構築されている網状構造、さらにはこれらの多糖体やリグニンに結合しているフェノール酸類がin situでの稲わら中のセルロースの消化を阻害していることを示唆している。
著者
西城戸 誠
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究最終年度において、北海道浜頓別町、北海道石狩町、秋田県秋田市、潟上市、青森県鰺ケ沢町の市民風車立地点における市民活動、市民参加の調査と、2006年7月実施の石狩市民風車の出資者へのアンケート調査を踏まえて、現時点における市民風車事業・運動の成果と課題を考察した。その結果、市民風車事業・運動の社会的認知の上昇と、出資者が初期3風車の出資者に比べ、風車へのコミットメントを求める動機や経済的な点を重視する傾向が見いだせた。また市民風車事業・運動は、相対的に環境意識は高いが具体的な行動にまでは至らなかった人々に対して、具体的な貢献の窓口として機能している。また、それぞれの市民風車立地点の市民活動の実態は、風車の設立経緯や立地点での活動実績の違いによって異なったが、市民風車と出資者との関係性を構築する試みや、市民風車立地点における地域活動を活性化することの重要性とその困難さの一端が明らかになった。従来の研究のほとんどは市民風車事業・運動の出資者に対してのみ注目が当てられていたが、市民風車事業・運動が市民風車らしくなるためには、立地点を含んださまざまな市民活動、運動の存在が重要であることが明らかになった。一方、市民風車事業・運動のインキュベーター的な存在であった生活クラブ生協北海道に対する継続的な調査によって、生活クラブ生協の反・脱原発運動の展開と現状の課題について考察した。さらに、2006年に市民風車の出資を募集した大間・秋田・波崎・海上の4つの風車への出資者調査を実施し、現在、分析をしているところである。これらの調査研究を踏まえて、市民風車事業・運動の現段階と今後の可能性、課題を考察していく予定である。
著者
長谷川 公一 青木 聡子 上田 耕介 本郷 正武
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

温暖化防止活動推進員に対する郵送調査によって、推進員は、高学歴者の割合が高く、定年後あるいは定年を目前にした男性と活動的な専業主婦が主力であり、男性では、これまでの経験を活かし社会的に有意義な活動に貢献したいという意欲が高く、女性では婦人会役員などが行政の勧誘によって推進員になっている場合が多いことなど、男女別の相違点が明らかになった。3年間の各都道府県代表の全国大会応募申請書をもとにデータベース化を行い、関係主体間の連携と環境学習を重視し、地域資源を活用したすぐれた実践が多いことが明らかになった。
著者
井上 誠 山村 健介 山田 好秋
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、(1)咀嚼に関わる運動神経のプレモーターニューロンの神経生理学的特徴を調べる,(2)咀嚼運動に関わる中枢神経系の制御を受けている顎筋,舌筋,舌骨下筋に注目し,リズム性の顎運動が遂行される際に,これらの運動神経がどのような協調運動を行っているかを調べることであった.麻酔下の動物の大脳皮質咀嚼野を電気刺激してリズム性顎運動を誘発した後に上下歯根膜からの入力の変化が協調運動に与える影響を調べた.これらの結果は,閉口筋とともに,舌牽引筋である茎突舌筋は歯根膜からの入力を受けてその興奮性を高めることにより咀嚼時の顎舌協調運動を維持させて,食塊の形成・維持に関わることが明らかとなった.次に覚醒動物が食物を自由に咀嚼・嚥下するときの顎舌協調について,さまざまな物性をもつ食品を摂取したときの顎筋舌筋,舌骨上筋の筋電図を同時記録することにより評価した.その結果は歯根膜からの刺激が舌筋活動に大きな影響を与える可能性があることを示唆していた,しかし,試験食品のうち,最も硬い食品である生米を用いたときよりも飼料用のペレット咀嚼時のほうが茎突舌筋の活動は大きかった.このことは,顎筋のように歯根膜や閉口筋筋紡錘だけでなく,舌活動に大きな影響を与えている口腔粘膜や舌の受容器などのような他の末梢性入力の可能性が大いに考えられることを示唆している.咀嚼運動に関わると思われる顎口腔顔面領域の運動神経核に投射するプレモーターニューロンの神経生理学的性質を検索した結果では,末梢からの投射を受け,さらに複数の運動核に投射するプレモーターニューロンを見つけることができなかった.このことは,咀嚼運動に関わる制御機構は末梢の入力により変調は受けるものの,その制御は主にプレモーターよりも上の脳幹領域で行われ,それぞれの運動神経に出される指令は独立して行われていることを示唆するものである
著者
中沢 文子 高橋 淳子 盛田 明子
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.第一大臼歯が欠損している被験者に圧力素子を埋めた義歯を装着して、被験者を束縛することなく自然な状態で種々のテクスチャーの食物の咀嚼し,その過程を計測した.食物を摂取してから飲み込むまでの咀嚼中の第一大臼歯に生じる噛む力パルスと,その臼歯の上下,左右,前後の3次元的な動きを同時測定した.咀嚼1噛み目の力のパルスと,臼歯の上下の動きから,摂食した食物の口腔内における力-変位曲線を求めることが出来た.機器による力-変位曲線と比較すると,機器による80%までの圧縮で最大値は2500Nにも達したが,臼歯で噛むときの最大咀嚼力は自然に食べるときには最大でも200N以下であり大きな違いがあった.1噛み目の最大咀嚼力が小さい,すなわち噛み切る力が小さい食物類が老人に好まれる食物類と一致した.2.微生物多糖のジェランのゲルを食べたときの口蓋圧を測定した.舌と硬口蓋で押しつぶして食べる咀嚼から,歯で噛む咀嚼に移行するゲルの機器測定による硬さは30kPa程度であり,寒天,ゼラチン,カラギーナンの潰して食べる限界破断破断応力とほぼ一致した.個人差はあるが,人が自然に食べるとき,舌で潰して咀嚼する限界の応力ははゲルの種類によらず,30kPa程度であることが示された。ジェランは,0.5%以下の濃度で3桁に及ぶG',G"の変化があり,周波数依存性がなく,天然のゲル化剤としての有効な特性を持つことが示唆された.3.6MHzの超音波パルスドップラー法により水および濃度の異なるゲルを嚥下したときの喉頭蓋直前を通過する嚥下物の流動速度分布を測定した.平均流速の平均値はゲルの濃度によらず0.1m/s程度であり,他方,最大流速の平均値は,水では0.5m/sであり平均流速との差は大きく分布が広がり,早く流れる水の存在が示された.
著者
飯田 順一郎 藤森 修 井上 農夫男 佐藤 嘉晃 金子 知生
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1、機械的刺激に対する微小血管の即時的な応答性、特に血管内皮細胞と白血球との相互作用における加齢変化の解明。若齢、老齢のゴールデンハムスター頬袋の微小血管(毛細血管後細静脈)を生態顕微鏡下で上皮の上から加工した微小ガラス棒で刺激し観察した。すなわち持続的および間歇的(10分毎)な圧迫刺激を加え、生態顕微鏡下で白血球の血管外遊走の出現様相を経時的に評価すると同時に、組織定量学的に白血球の種類を同定した。その結果、若齢において持続的刺激において刺激部位直後の部位に多形核白血球、単球の血管内皮への接触・接着が有意に増加した。2、機械的刺激に対する微小血管の長期的な形態変化の加齢による変化の解明。マウス背部皮下の微小血管床を用いたdorsal skin chamber法を用い、若齢、老齢のハムスターの背部皮下組織に、持続的および間歇的(12時間毎)な圧迫刺激を加え、顕微鏡下で刺激開始から7日間、血管透過性亢進反応、毛細血管の太さの変化、および血管新生の様相を定量的に計測した。若齢においては持続的刺激において持続的に血管透過性が亢進した。間歇的刺激の5から7日後に血管新生が同一動物で観察され新たな血流が生じた。さらに毛細血管の直径は徐々に増加し7日目に2倍以上の太さに変化していることが観察された。3、口腔周囲組織の機能に関する加齢変化の基礎データの収集咬みしめることが全身の筋機能(握力)に与える影響をとりあげ基礎的なデータ収集を行った。その結果成人においては最大握力を発揮する場合に咬みしめる者(A)と歯を接触させないもの(B)の2群に分類できること、またAの方が筋力が高い傾向にあること、さらにAは咬みしめた時、Bは歯を接触させない時の方が高い筋力を発生することが明らかとなった。
著者
平賀 紘一 山本 雅之
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.グリシン開裂系構成酵素をコードする遺伝子の発現が協調的に調節されているかどうかを知る目的で研究した。このためには、本酵素系は4種の構成酵素から成るので、少なくともこの中の2種の蛋白をコードするcDNAをまずクローン化しなければならない。そこで、我々はまず、本酵素系が触媒する反応の最初の段階に必要なグリシン脱炭酸酵素とH蛋白のそれぞれをコードするcDNAをクローン化した。Hー蛋白cDNAは840塩基長であり翻訳開始メチオニンから164アミノ酸より成るHー蛋白前駆体をコードしており、これに続いて約300塩基の非翻訳領域をコードしていた。一方、グリシン脱炭酸酵素cDNAは3514塩基長であった。翻訳開始メチオニンコドンはcDNA中に含まれていなかったが、遺伝子をクローン化して解析すると、cDNAの5'末端から24塩基上流にそのメチオニンコドンが発見された。グリシン脱炭酸酵素前駆体は1004アミノ酸から成る分子量約12万の大きなサブユニットであった。3.この2種のcDNAをプローブとして、35:11:1の割合で本系活性を示す肝腎、脳での両遺伝子の転写、両mRNAの存在量を調べた。その結果、これらの臓器ではグリシン脱炭酸酵素遺伝子とHー蛋白遺伝子は1:2の比率で転写されるが、転写量は比酵素活性の違いを反映していた。また、両mRNA量はどの臓器でも等モルずつ存在していたが、それらの絶対量はやはり、比酵素活性の比率と等しい割合で各臓器に分布していた。これらの結果は、グリシン開裂系構成酵素遺伝子の発現は協調的に起こるよう調節されていることを示す。4.しかし、心筋、脾など本系活性を示さない臓器では、グリシン脱炭酸酵素遺伝子だけが発現しておらず、本系構成酵素遺伝子は臓器により、ある時は協調的に、或は非協調的に発現される。
著者
浅井 武 瀬尾 和哉 藤井 範久 高木 英樹 小池 関也 藤澤 延行
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,先端的スポーツ流体科学・工学の基盤創生と展開研究の一環として,実際にキックされたナックルボールに対して,高速度ビデオカメラと発煙物質を用いて可視化し,渦放出の動態について検討した.その結果,飛翔するボールに働く横力と揚力の周波数と,大規模渦構造における渦振動の周波数に高い相関がみられた(r=0.94,p<0.01).これらのことから,大規模渦構造における渦振動がナックルボールの不規則な変化を引き起こす大きな原因の一つになっていると考えられた.
著者
福林 徹 鳥居 俊 柳沢 修 倉持 梨恵子 井田 博史 奥脇 透 赤居 正美 赤居 正美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膝前十字靱帯損傷のメカニズム解明, およびその予防法の構築を行った. メカニズムの解明においては, Point Cluster法を用いた三次元動作解析法により着地動作や切り返し動作を計測し, こうした動作時の脛骨の内旋および膝外反の強制が,そのメカニズムに関連していると考えられた.予防法については,バスケットボール,サッカー,スキー,テニスの各競技において外傷予防プログラムを作成し,各団体において普及,推進を行った.また,その効果検証を行った.
著者
平川 澄子 中澤 眞
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、運営状況がきわめて対照的な、アメリカの女子プロサッカーリーグ(WUSA)と日本の女子サッカーリーグ(Lリーグ)の観戦者特性を明らかにすることによって、日本の女性スポーツリーグの発展に有効な知見を得ることを目的とした。調査は2001年6月から11月にかけて、WUSAとLリーグの各3会場において、観戦者を対象とした質問紙調査及びスタジアム内での観察調査を実施した。WUSA調査では、998票の有効回収票を得た。Lリーグ調査では、335票の有効回収票を得た。観戦者調査の比較分析から、(1)WUSAでは女性観戦者が62.1%を占めていたが、Lリーグでは男性観戦者が72.1%を占めていた、(2)WUSAでは94.2%が家族や友人と来場していたが、Lリーグでは40.2%が一人で来場していた、(3)WUSAではWWC99が女子サッカーファン増大の契機になり、女性観戦者の73.8%が女子サッカーを選好していた、ことなどが明らかになった。また、観戦行動に関わる杜会心理的要因として、「サッカーへの関心」「サッカー鑑賞」「ゲームのドラマ」「健全な環境」など、サッカーという種目に直接関わる要因の重要性では共通の傾向がみられた。しかし、WUSA観戦者では特に女性観戦者において「ロールモデル」「女性スポーツのサポート」が重要な要因となっていたのに対して、Lリーグ観戦者では「代理達成」「娯楽」「選手への関心」が重要な要因となっていた。以上の結果から、アメリカの女子サッカー人気の背景として、(1)WWC99の成功、(2)女性の機会均等を開拓するロールモデルとしてのスター選手の存在、(3)女性達による女性スポーツサポートの意識、(4)家族や友人と楽しむ健全な娯楽としてのスポーツ観戦、などが推察された。
著者
河野 一郎 秋本 崇之 赤間 高雄 河野 一郎 福林 徹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

簡易型SIgA測定キットの開発本年度はまず市販のSIgA特異的なモノクローナル抗体を用いて,比濁法による測定を行ったが,おそらく抗体自体の力価のあるいは抗体のエピトープの問題により良好な測定系を構築できなかった.そこで,比濁法に適応可能なモノクローナル抗体の作製を試みた.現在,クローンを選別しているところであり,本補助期間にはキットの開発までにはいたらなかった.しかし,キットの開発に必要となる基礎的なデータは得ることができ,今後の展開に利するところは大と考えられた.SIgAレベルと感染症の関係昨年度,2ヶ月に渡って30名の被験者から唾液を採取し,SIgAと上気道感染症の関係を調査し,SIgAの低下と,上気道感染症の発現に一定の関係があることを見出した.本研究成果は臨床スポーツ医学に掲載された.また,高強度トレーニング(試合期)のSIgAの変化と,心理的・肉体的ストレスに関する成果についてまとめ,論文としてアメリカスポーツ医学会の機関紙(Med Sci Sports Exerci)に掲載された.本研究の結果,SIgAと上気道感染症罹患リスクには一定の関係があることが明らかとなり,今後SIgAを上気道感染症リスク把握の手段として応用することが可能であることが本研究の結果により示されたと考える.また,SIgAの測定は非侵襲的であり,その応用範囲は大と考えられた.本研究の成果により論文発表5件(国内誌3件,国際誌2件),学会発表7件を公表することができ,基礎研究としては十分な研究成果が得られたと考える.
著者
内田 直 堀野 博幸 矢島 忠明 泰羅 雅登 渡邉 丈夫 宮崎 真
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

成果をまとめる。○スポーツに使われる脳機能を形態学的研究により行った。この研究は、機能的に発達した皮質の部位が肥大することを根拠に、皮質各部位の大きさを比較する研究である。この研究からは、バレーボール選手では両側楔部・楔前部の灰白質が大きいことが示された。これは視空間的注意・処理、運動技能を、長期間に渡って獲得・反復することに適応して生じた構造の変化を表していると考えられた。○手足の屈伸運動を運動習熟者、非習熟者にfMRI撮影中に行わせ、脳の賦活部位を調べた。その結果、補足運動野、運動前野などの皮質部位は非習熟者で、大脳基底核は習熟者でより賦活が見られ、日常的運動でも習熟者では運動学習が進んだ脳機能を用いていることが想像された。○Go/No-Go課題によるソフトボール選手と非アスリートの脳機能の比較では、ソフトボール選手でNo-Go課題の際に両側前頭前野の賦活が有意に強く見られた。これは、ソフトボール選手ではより強い運動の抑制があるということを示しており、実際のバッティングの場面でも、より強い抑制が選球に関連している可能性を示唆していた。○サッカーなどでは、しばしば2次元⇔3次元の認知的置き換えを行っている。このような置き換えに使われる脳機能について明らかにした。コンピュータグラフィックスを用い円筒の配置を2次元⇔3次元で置き換える課題を用いた。これにより、3D→2Dでは上頭頂小葉、下頭頂小葉、前頭前野、右海馬傍回、左小脳後葉の賦活が見られた。2D→3Dにおいて、上頭頂小葉、下頭頂小葉、前頭前野、右海馬傍回、左小脳後葉の賦活が見られた。以上、多くの成果を得たが、今後さらに競技スポーツだけでなく健康スポーツという視点からも、運動と脳機能の関連についての研究を発展させてゆきたいと考えている。
著者
宗像 恒次 橋本 佐由理 橋本 佐由理
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

がん生存者の効果的なストレスマネジメントのために、Webを用いた電子学習プログラムを開発することを目的とした。研究1で、DVDを用いた電子学習プログラムを開発し、実施前、後、1週間後において、ストレス対処力が有意に高まり、ストレス蓄積性の高い行動特性や抑うつが低下し、免疫力の向上が見られた。研究2では、筑波大学にサーバーを置き、Webで無料配信するeプログラムを構築し、効果を分析した結果、ストレス蓄積性の高い行動特性が有意な低下を示した。がん生存者が自らの感情を過度に抑えず、素直に自分を表現し、必要時に周りに救援を求められる行動特性への変容が考えられ、DVDと同じようなストレスマネジメント効果が確認できた。
著者
茂木 積雄 天木 秀一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

原発性胆汁性肝硬変(PBC)に特徴的な抗ミトコンドリア抗体(AMA)亜型である"M2"抗体はミトコンドリア内膜に存在する酵素である2-oxoacid dehydrogenase complex(2-OADC)ファミリーに属するpyruvate dehydrogenase(PDC),branched chainα-ketoacid dehydrogenase complex(BCOADC),2-oxoglutarate dehydrogenase complex(OGDC)を構成する5つのsubunit enzymes(PDC-E2,BCOADC-E2,OGDC-E2,protein X,PDC-E1α)を特異的に認識する。分子生物学的および遺伝子工学的手法を用いた研究により,M2抗体が認識する主要なミトコンドリア抗原であるPDC-E2,BCOADC-EおよびOGDC-E2上のlipoic acid binding resionであるリポイルドメイン上に主要な抗原エピトープが各々存在することが明らかになった。これらのエピトープマッピングの成績に基づき高感度AMA測定法の確立を試みた。すなわち,PDC-E2,BCOADC-E2およびOGDC-E2の各々のリポイルドメインをコードするcomplementary(c)DNAを同一のプラスミドベクターにサブクローニングすることによりHybrid cloneを確立した。Hybrid cloneおよび各々のE2 component cDNA cloneによって発現されたリコンビナント抗原をグルタチオンアガロースビーズを用いてアフィニティー精製した。イムノブロット法による検討で,これらの精製リコンビナントミトコンドリア抗原はPBC患者血清と特異的に反応し,自己免疫性肝炎やC型慢性肝炎などの対照疾患および健常人血清などとは反応しなかった。また,PBC 112例においてラット腎胃組織切片を抗原とした蛍光抗体法(IF)および市販の酵素抗体法(ELISA)によってAMAの検討を試みたところ9例はAMA陰性であったが,リコンビナントミトコンドリア抗原を用いた検討によってPDC-E2以外のM2抗原とのみ特異的に反応するPBC血清を明確に検出することが可能となった。
著者
塩川 徹也 佐藤 淳二 中地 義和 月村 辰雄 田村 毅 菅野 賢治 岩切 正一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

古典修辞学がヨーロッパの知的世界においてはたしてきた役割については、近年わが国においても理解が深まりつつあるが、各種教育機関におけるその実際の教育法や、また修辞学と文学との関わりについては、欧米の研究者間でも未だよく認識されてはいないのが現状である。本研究は、その対象がフランスに限定されてはいるものの、とりわけ実際の学校教育で用いられた修辞学教科書の収集とその分析を通じて、各時代の修辞学教育が提示したディスクールの規範型(パラダイム)の抽出に務め、一定の成果を挙げた。その結果、各時代の修辞的な規範型と実際の作品との対比的な検討によって、フランス文学における文学的創造のひとつのメカニスムを明らかにし得たのである。とりわけ中世ラテン語詩論書にみられるエロ-ジュ・パラドクサルの典拠の探求、および、俗語フランス文学中に見られる各種の風刺的類似例との関係性についての考察、19世紀における中等教育機関での修辞学的教育の数次にわたる改革と複数の文芸思潮との関係を歴史的に考察することに成功するという業績を得ることができた。この結果については、最終報告書の刊行により広く共有できるものとして公開されている。修辞学という広い視点からも、プル-ストと絵画との関係を視覚の修辞学的観点から研究した吉川一義(研究補助者)の大部の論考が同報告書に公表されている。