著者
田窪 祐子
出版者
富士常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては、2000年に「脱原子力合意」を達成し、同時に再生可能エネルギー促進を中心とするエネルギー政策の転換を行いつつあるドイツと、依然として原子力を主要エネルギー源と位置づけている日本を比較し、政策転換を規定する要因は何であるのかに焦点を当てて調査と分析を行った。調査の方法は、関係者へのインタビューと資料の収集分析を中心とする質的調査である。ドイツ調査におけるインタビュー対象者は、政党・環境省、経済省などを中心とする政府(98年以降の社民党と緑の党の政権)関係者・環境運動団体・電力業界関係者、等の諸主体のうち、脱原子力合意のプロセスに関わった担当者らを中心に選択した。研究成果として、以下のことが明らかになった。1)ドイツの「脱原子力合意」は、原子力からの撤退を大前提とするならば、電力業界にとって有利な受け容れやすいものであった。2)合意の背景には、電力市場自由化をはじめとするエネルギーをめぐる社会経済的条件の変化に加え、州の権限が強い連邦制国家において原子力推進に批判的な政権の誕生、反対運動の激化による社会的コストの上昇等々の政治的状況も大きく影響している。3)合意に至るプロセスは、政府関係者と電力業界トップとの話し合いによるものであり、極めて閉鎖的なものであった。より持続可能性の高い環境政策を策定するにあたっての政策策定過程は、必ずしも「環境民主主義」の達成を伴うものではないことが推測される。4)日本におけるエネルギー政策は、基本的に大きく転換したとはいえない。自治体・市民有志らによる導入の試みが各地でなされてきているが、全体的な構造転換を促すには至っていない。
著者
寺部 慎太郎
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

我が国の社会基盤整備計画への市民参画が叫ばれて久しく,社会的合意形成を図るために様々な試みが適用されている.しかし,実際の事業段階で「計画を知らなかった」という声が上がることが未だに多い.効果的な情報伝達により,市民の計画に対する興味が励起され,効率的なPI活動がその後の展開できると考えられることから,社会基盤整備計画PIにおける情報伝達の効果測定は重要な課題である.そこで,本研究の目標を,1人でも多くの市民に計画の存在・内容を知らせ,市民の社会基盤整備事業に対する意識向上を促し,市民参画実現を目指す事とする.そして,継続性のある「意識モニタリングシステム」を構築し,その認知度・受容度指標の客観性と,実際の政策の実施過程における有効性を検討するために,調査内容の濃密な比較的小規模の意識調査を設計し,第一次調査を行った.昨年度の分析では,特に市民の特性を調査し,属性に分け,市民が住む対象地域のメディア別特性と影響力を調査し,市民に対し属性別にどのような情報を提供すべきかを明らかにすることに重点を置いた.今年度はその分析をさらに深度化させ,構造方程式モデルを用いてPI要求意思決定モデルを構築した.その結果、PIにおける情報伝達活動として,市報または回覧板による網羅的で定期的な情報発信,新聞地域面でのPR,大都市通勤者向けの鉄道広告を利用したプロジェクトの存在告知などを複合的に活用する事と,事業コスト意識やPIでの意見に対する位置づけの明確化といった点を強調する必要性を示唆することができた.
著者
向 智里
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

アレンの高い反応性を活用して、分子内に二つのアレン部位を有する鎖状化合物の環化反応やアレニルシクロプロパンとアルキンの分子内環化異性化反応等、ロジウム(I)触媒を用いる各種環化反応を開発した。また、2-アレニルアニリンのSN2'型閉環反応と続く[ 4+2]環化付加反応によるカルバゾール誘導体の簡便合成法を開発した。さらに、アレンを用いる環化反応を利用して3種の天然物の全合成を達成した。
著者
岩月 和彦 那須 裕 野坂 俊弥 岩崎 朗子 御子柴 裕子 本田 智子 楊箸 隆哉 奥野 茂代 田村 正枝 山田 幸宏
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

水中運動参加者の中で,生活習慣病を有する高齢者(高血圧症,高脂血症,糖尿病)と,生活習慣病を持たない高齢者の血圧,心拍数の3年間における変化を比較検討した.その結果,高血圧症を有する高齢者では,収縮期圧は140台、拡張期圧は80前後、心拍は73から76の間で保たれ、3年間安定しており服薬による血圧コントロールが適切に行われた場合,血圧及び心拍の上昇は見られなかった.「生活習慣病を持たない高齢者」の血圧、心拍数の平均値の3年間の推移です。高血圧症群と比べますと、収縮期圧が10ほど低く130台の値を示しています。拡張期圧は先ほどと同様で80前後でした。心拍は73から76の間で保たれていました。「高脂血症を有する高齢者」の血圧と心拍数は、生活習病を持たない高齢者と同様に、血圧、心拍とも正常値の範囲内で安定しています。「糖尿病を有する高齢者」は、こちらも同様に、3年問を通して、血圧、心拍とも正常値内で保たれていました。健脚度の「最大一歩幅」は、「高血圧症を有する高齢者」、「高脂血症を有する高齢者」、「高脂血症を有する高齢者」「生活習慣病を持たない高齢者」ともに、平成17年4月の時点で年齢相応の平均値より高く、移動能力のレベルが高いことが確認されますが、水中運動継続3年後には、両群ともに、さらに向上する傾向が認められました。「10m全力歩行」は、「高血圧症を有する高齢者」も、「生活習慣病を持たない高齢者」も、5秒前後の値であり、年齢相応の平均値よりも値が小さく、つまり早く歩けること、それも、3年間の年齢の増加に関わらず、3年後にはさらに値が小さく、「歩く」移動能力の向上が見られます。以上の結果、65歳以上を対象とした生活習慣病を有する高齢者の水中運動の継続による身体面への影響を検討した結果、生活習慣病を有する高齢者の血圧及び心拍に水中運動による悪影響は認められず、生活習慣病を持たない高齢者と同様に、下肢筋力や柔軟性が改善され、維持される傾向が認められました。
著者
鈴木 淳一
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

酸素が足りない状態に陥ると,生体ではHIF-1alphaというタンパク質が安定化し,酸素不足に適応するような変化が引き起こされる.本研究では,通常酸素下においてその適応反応を刺激する物質(prolyl hydroxylase抑制剤)を投与し,低酸素適応反応が生じるか否かを観察した.その結果,投与によって骨格筋における毛細血管新生や解糖系の酵素の活性が増加し,酸素不足を解消するような適応反応が観察された.
著者
千葉 由美 山田 律子 市村 久美子 戸原 玄 石田 瞭 平野 浩彦 植田 耕一郎 唐帆 健浩 徳永 友里 植松 宏 森田 定雄
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

摂食・嚥下障害は高齢者をはじめ脳血管疾患、変性疾患、がんなどの発症および治療に伴い発生する症状である。2次合併症の誤嚥性肺炎は、全肺炎の半数以上を占め、死因となる。本プロジェクトでは、評価法や管理システムにおける課題を見出し、改善点を示すことを目的に進めてきた。これまで複数病院における誤嚥性肺炎の発生率を見るとともに、病院管理の在り方について管理者と病棟で実態調査などを行った。現在、最終分析を進めている。
著者
門田 有希
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

<具体的な研究内容>イネは2004年に日本晴の全ゲノム塩基配列が解読され、遺伝子の同定および機能解析が盛んに進められている。近年は、次世代シークエンサーを用いた比較ゲノム解析により、コシヒカリおよび雄町と日本晴との間において、それぞれ約67,000箇所、約130,000箇所の一塩基多型(SNP)が同定された。しかし、短いリードをReference genomeにマッピングし、小さな変異を同定する手法では、欠失、挿入、逆位等、大きな構造変異を同定することはできない。そこで本研究では、銀坊主のゲノム配列を高い精度で解読、新規コンティグを用いた比較ゲノム解析により、多様なゲノム構造変異についても明らかにした。イネ品種銀坊主を用いて、二種類のライブラリー(500bpのPair endlibrary、3kbのMate pair library)を作成、Hiseq2000によりシークエンス解析を行った。得られた配列を、日本晴ゲノム配列にマッピングした後、123,299か所のSNP、43,480箇所の短い欠失および挿入を同定した。さらに、複数のソフトウェアを組み合わせ、数100bpから数100kb以上に及ぶ大きな構造変異を1500箇所以上同定した。その後、銀坊主の新規コンティグを作成し、マッピング解析により得られた構造変異の妥当性を検証した。確認された構造変異の70%は、転移因子配列の切り出しもしくは挿入によるものであり、転移因子を介して生じたと思われる逆位も複数存在した。<意義および重要性>今回の研究結果から、イネ近縁品種間において大規模なゲノム構造変異が多数存在していること、並びに、このような構造変異に転移因子が密接に関与することを明らかにした。これは、自殖性作物であり遺伝的均一性の高いイネにおいて、転移因子を介したダイナミックなゲノム進化が短期間に進行することを示す重要な成果である。
著者
坂井 淳一
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

中山間過疎地域の住民の高齢化に伴う作業の容易な転換作物、耕作放棄地への対策として大豆、ヒマワリ、エゴマ、ツバキ等の油料作物の栽培、搾油が試みられている。しかしながら地域住民などが少人数、小規模で活動している場合は、栽培はともかく搾油作業や採れた油の精製、品質管理に問題があり、製品油の成分分析などもほとんど行われていない。本研究は、このような村おこし活動としての小規模、萌芽的な植物油生産活動に関して、有機機器分析によるその製品油の分析を通して、それぞれの油種の特性を確認し、品種、栽培方法、搾油、精製条件等による差異について科学的なデータを提供する事を目的とした。分析は試料として、産地別にのエゴマ8種類(内、市販品1種類)、落花生油2種、ツバキ油(ヤブツバキ系8種類:内市販品4種類、ユキツバキ系:10種類)を用い、搾油法、精製法、保存期間の別に種々の分析を行った。その結果、構成脂肪酸分析(メチルエステル誘導体化法)では、県内産のエゴマ油は心疾患低減効果が謳われているω3脂肪酸であるα-リノレン酸が85%程度含まれ、中国産と思われる市販エゴマ油(80%)より高い価を示した。ツバキ油では本県特産のユキツバキから搾油した雪椿油にもヤブツバキ由来の市販椿油と同程度(80~85%)のオレイン酸(悪玉LDL低減作用)を含有することを確認し、地場産植物油の特性を科学的に確認することができた。この他に吸着剤による精製の有無によるビタミンE(トコフェロール類)の含有量の差異や、原料種子の保存期間、搾油後の保存期間による品質低下の有無について検討を続けている。
著者
酒井 寿郎 川村 猛 油谷 浩幸 眞貝 洋一 桜井 武
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

生活習慣病発症には遺伝的素因とともに、環境因子が大きく関与する。環境からの刺激はDNAメチル化やヒストン修飾などのエピゲノムとして記憶される。我々は、脂肪細胞における研究から、エピゲノム修飾酵素が形成する新規のクロマチン構造を発見し、これが前駆脂肪細胞の未分化性を維持すること、また、寒冷刺激を感知するエピゲノム酵素複合体の発見し、環境変化に対する初期応答にはエピゲノム修飾酵素の翻訳後修飾が鍵となることを明らかにした。
著者
杉山 文子 野島 武敏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年、算数・数学を敬遠する子供が増えている。この数学離れの問題を解決する手段として折紙を用いて、エデュテインメント性に富む教材の開発を行った。報告者らは数理に基づく工学用の折り紙モデルや動植物の形態を模擬した折り紙モデルを数多く開発してきたが、本研究ではこれらの研究で定式化した折りたたみの基礎理論とこれに基づき設計された膨大なモデルを基に、エデュテインメント性に富む折り紙教材を開発し、数学教材用のモデルを系統的に構築した。
著者
張 陽
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アンケート調査を行わず、中国政府の公表したデータに基づき、1992年〜2007年までの中国の全国的な失業率を算出することができ、結果は中国政府の公表したデータの5倍となっている。中国の失業率がすでに20%に近いという外界の風聞や推測に確証を提供した。さらにFDIと都市部失業率との関係を究明するため、修正したHarris-Todaroモデルを開発し、シミュレーション結果によってFDIが被投資国のGDPを増加させるが同時に被投資国の失業率をも増加させることを示した。
著者
振津 かつみ BERTELL Rosalie LAURENCE Glen BEIVERSTOCK Keith MOHR Manfred JAWAD Al-ali OMRAN Habib DOUG Weier RIA Verjauw GRETEL Munroe 佐藤 真紀 豊田 直己
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

「非人道的無差別殺傷兵器」のひとつである劣化ウラン兵器の国際規制について、国際社会が進むべき方向性を決めるための根拠となる、同兵器の環境・健康影響の科学的知見と社会学的論点について、調査研究を行った。以下がその成果である。(1)劣化ウラン兵器が使用されたイラク南部バスラの医師らによる癌登録の整備と疫学調査に協力した。また、現時点での同地域の癌の特徴と動向を確認した。(2)劣化ウラン兵器に関する「国連決議」の議論を調査し、国際規制における意義を確認した。(3)劣化ウランの健康影響に関する科学論文のレビューを行い、広く国際社会が共有できる資料としてまとめた。(4)予防原則の軍縮分野での適用について、文献調査を行い、劣化ウラン問題に即した予防原則のあり方について考察を行った。
著者
猪俣 孟
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究はフォークト・小柳・原田病の病因と発症機序について、臨床および実験病理学的に明らかにし、本症の予防および治療法の確立に寄与することを目的としたものである。1)平成3年度フォークト・小柳・原田病患者の眼球を病理学的に検討した。夕焼け状眼底になっている状態でも脈絡膜にはリンパ球の浸潤があり、炎症は持続していることを明らかにした。残っている脈絡膜のメラノサイトにはHLAクラスII抗原が発現し、メラノサイトが炎症の標的になっていた。フォークト・小柳・原田病患者では脳波に異常があることを明らかにした。視細胞間結合蛋白(IRBP)を構成するペプタイドの一部(R4)をラット足蹠に注射して、実験的自己免疫ぶどう膜炎モデルを作成した。2)平成4年度フォークト・小柳・原田病患者皮膚白斑を免疫病理学的に検討した。皮膚ではメラノサイトが減少し、血管の周囲にリンパ球が浸潤していた。その多くはTリンパ球で、CD4陽性細胞とCD8陽性細胞の比は約3:1であった。皮膚の白斑でも活性化Tリンパ球が病変の形成に重要な役割を演じていた。実験的自己免疫ぶどう膜炎では、角膜内皮細胞の表面に細胞接着分子(Intercellular Adhesion Molecule-1:ICAM-1)が発現していた。3)平成5年度実験的に眼内炎症を繰り返し起こさせることによって脈絡膜新生血管が発生した。そこで、臨床的および実験病学的に眼内血管新生の機序について検討した。ベーチェット病患者の23例25眼の摘出眼球を病理学的に検討し、眼内血管新生が鋸状縁から起こり易いことを明らかにした。フォークト・小柳・原田病の臨床所見および病理学的特徴を総説にまとめた。
著者
高橋 慎也
出版者
中央大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本年度は特に、80年代以降の日・米・独・墺のメッセージ・ソングのテキストに関して収集と分析を進めた。その結果、独・墺においてもこの時間のメッセージ・ソングは主としてロック系の歌手によって作成され、リーダー・マッハーと呼ばれるフォーク系の歌手の活動が著しく低下したことが明らかとなった。またメッセージの内容に関しては、環境保護・男女平等・社会的弱者の保護・反原発など、各国に共通する一般的なテーマが主流となり、その分、国毎の個別性が希薄化している傾向が見えてきた。いわゆるヒット曲とメッセージ・ソングを比較してみると、80年代のヒット曲の歌詞には物語性が乏しい点、またリズムやメロディーによって聴衆を快楽を与える点が傾向として見えてくる。つまり、ある特定のメッセージを一定の物語として表現し、聴衆の理性に訴えるというスタイルの歌が衰退し、リズムやメロディーによって聴衆の無意識に訴えて快楽を与えるというスタイルが人気を得るという傾向が、80年代には定着するのである。80年代にはメーッセージ・ソングというジャンルそのものがマイナー化し、社会的影響力を失っていったようである。こうした事実が明かになったことを踏まえて、その社会的背景を現在考察中である。断定できる段階ではないが、80年代に福祉国家が独・墺で一応の完成したことに伴う個人主義化や自己中心化の進行が、メッセージ・ソングの衰退に影響したものと考えられる。歴史的影響関係に関してみると、トゥホルスキーやケストナーおよびブレヒトに影響を受けた作品を発表してきたリーダー・マッハーの活動力が80年代には著しく低下したことが明確となった。また共時的影響関係にに関してみると、英米系のロック歌手がメッセージ・ソングのテーマを決定するという傾向が顕著となり、独・墺系のリーダー・マッハーの独自性は薄らいできていることが明かとなった。
著者
中村 研一 本田 宏 清水 敏行 佐々木 隆生 遠藤 乾 松浦 正孝 川島 真 宮脇 淳
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、地球市民社会に関する共同研究である。研究の実施過程で、ロンドン大、ケンブリッジ大、ダッカ大、韓国高麗大など各国研究者と研究打合せを実施し、地球市民社会に関する理論枠組をテーマとした研究会を行った。また、地球市民社会研究の基本資料として、市民社会、地球市民社会の二次文献を体系的に収集した。近代史を顧みると、政治的意志を持ち、それを表現する市民/個人、およびそのネットワークと運動体は、国家や地域、そしてそれらの境界を超えた国際的な舞台においても、政治的変革と規範形成の役割を果たしてきた。さらに民主主義が普遍化した今日、市民/個人は、国家や自治体においてのみならず、世界においても、決定的な重要性をもつものである。なぜなら、およそ人間行動に必要とされる統一的な決定や価値配分を正統化しうる主体は、市民あるいは個人の集合としての民衆以外にはないからである。ただし、一九七〇年代頃までは、世界政治は国家政府機構を主体とし、世界経済は営利企業が支配してきた。しかるにこうした趨勢は、二〇世紀末の世界において転換を示し、非国家組織(NGO)および市民運動・社会運動が、政府組織、営利企業に対比し、「第三の力」(アン・フロリーニ)と呼ばれている。さらには、世界政治において、国家アクターからNGOへの「パワーシフトが生じている」(ジェシカ・マシューズ)という大胆な議論まで、現れるにいたった。もはや地球市民社会が無視し得ないことは明瞭である。二一世紀初頭の世界において、市民とその地球的ネットワークが、現実政治のなかでどれほど政治的役割を果たしているのか。また、どれほどの政治的役割を担うことが可能であるのか。さらにどこまで、どのような役割を演じるのが適切なのであろうか。これらの問いに答えることが、本研究の課題となった。また本研究では、韓国、台湾、バングラデシュ、日本など、アジアにおける市民とNGOの考察が、重要な一本の柱となっている。市民という概念が生まれ、また地球市民社会が最初に興隆した西欧と対比して、アジアの政治経済風土においては、市民や個人、そしてNGOの果たす役割は、どこまで類似し、どのように異なっているのであろうか。このような課題に取り組んだ成果の一部である論文と収集資料のリストを報告書にまとめた。
著者
高橋 秀寿
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

三年度にわたって、時空間の変容の問題を歴史的に跡づけるために、ドイツにおける記念碑の変遷を追った。具体的には、ドイツにて記念碑に関する資料と文献を収集し、記念碑の撮影をおこなった。その成果として、有斐閣から出版された共著『ドイツ社会史』にて「ナショナリティ」の項目を執筆し、記念碑だけでなく、国民的祝祭、国民歌および国歌、国旗、国籍法、地理教科書などをテクストとして分析することによって、ナショナルな時空間の歴史的変遷の問題を論じた。また、『立命館言語文化研究』にて公表した「ホロコーストの記憶と新しい美学」では、80年代に試みられたホロコーストの記憶を新たな美学によって表象-記億しようとする新たな記念碑の取り組みを紹介した。さらに、2002年の4月に東京大学出版会より刊行された共著『マイノリティと社会構造』に「レイシズムとその社会的背景」と題して寄稿した論文にて、近年における極右勢力の動向を時空間の変容の問題から論じた。ほぼ同時期に柏書房より刊行された『ナチズムのなかの二〇世紀』における「ナチズムを、そして二〇世紀を記憶するということ」と題した寄稿論文においては、戦後におけるドイツ人の20世紀とナチズムの記憶の構造を分析し、その構造と変遷が記念碑においてどのように表現されているのかを論じた。そこではオイルショック以後の社会構造の変化がナチシムとホロコーストの記憶にとって重要な役割を果たしていることを明らかにした。立命館大学人文科学研究所編『現代社会とナショナル・アイデンティティ』に寄稿した「ナショナルな音楽・越境する音楽」では音楽と時空間の関連を近代化を問題としながら分析した。『ドイツ研究』35号に寄稿した「ドイツ人の脱ナショナル・アイデンティティ」では社会心理学的な分析を通して、ドイツ人のナショナル・アイデンティティの変容を分析した。また、2003年に刊行された『ナショナル・アイデンティティ論の現在』に寄せた論文では、ドイツ近代社会における記念碑の歴史的変遷とその美学的形象化の問題を、芸術表象論とかかわらせながら、時空間の変容の問題として分析してみた。
著者
脇田 健一 萩原 なつ子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、日本の環境問題や環境運動における女性の「不可視化」(invisibility)と「周辺化」(marginalization)の問題について検討をおこなった。1.「不可視化」と「周辺化」(marginalization)の概念の検討を行なった。2.この「不可視化」と「概念化」の概念を、近年の海外のエコフェミニズムの潮流、特に、マリア・ミース(Maria Mies)、C.V.ヴェールホフ(Claudia von Werlhof)、V.B=トムゼン(Veronika Bennholdt-Thomsen)らが世界システム論に影響を受けながらつくりあげたエコフェミニズムの思想との比較で検討した。そのさい、特に、彼女たちのサブシステンス概念(subsistence)に注目した。3.ミースらのサブシステンス概念をもとに、具体的な事例をもとに検討した。その事例とは、沖縄県石垣市において計画された新空港建設に対する反対運動である。この反対運動では、サンゴ礁の海を埋め立てて新空港をつくることが問題にされた。その分析では、女性の「不可視化」や「周辺化」が、この事例においても問題になっていたことを明らかにした。同じ事例をあつかったこれまでの男性研究者による環境社会学的研究においては、地元の「不可視化」や「周辺化」は明らかにされてきたが、この女性の「不可視化」や「周辺化」は問題にされてこなかった。ここには、ジェンダー・バイアスが存在していたと考えられる。4.エコフェミニズムと、日本の環境社会学におけるコモンズ論とを比較しながら理論的な比較検討をおこなった。特に、エコフェミニズムのサブシステンス概念を媒介して、コモンズ論との接点をみいだした。5.調査の過程で存在が明らかなった、土呂久鉱毒事件に関係する資料の整理をおこなった。
著者
川西 諭
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

投資家の情報戦略が証券価格変動に与える影響について、理論と実証の両面から研究の成果は以下のとおりである。理論面では2種類の投資情報が存在する資産市場モデルにおいて、3つの異なる情報戦略が均衡において共存すること、そして均衡外の戦略調整が循環する可能性をあきらかにした。実証面では、東京証券取引所の株式市場では時間帯によって投資収益率に違いがあることを確認し、投資主体別取引と関係がある可能性を明らかにした。また、情報戦略の理論モデルを為替市場モデルに応用し、金融当局の介入アナウンスメントが為替に与える効果を説明できることを示した。
著者
鎌原 勇太
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

最終年度である本年度は、新たな民主主義指標を作成するという研究課題に基づき、研究実施計画三年目に沿って、民主主義指標を作成した。1.昨年度に引き続き、民主主義の構成要素についてデータ収集を行った。本研究の民主主義指標を構成する要素の一つである予算審議日数は、これまで体系的に収集されてこなかった独自のものであり、資料的に非常に価値のあるものであると考えられる。また、収集したデータを合成した民主主義指標を作成し、国際比較を行った結果、既存の指標では区別できなかった民主主義国間の民主主義の程度の違いを明らかした。さらに、本指標を用いて、民主主義と経済成長との間の関係について暫定的な計量分析を行った結果、それらの間には負の関係があることが明らかとなった。2.研究発表:平成21年度に行った既存の民主主義指標のレビューに関して、「民主主義指標の現状と課題」と題した論文として刊行した。また、民主主義指標め利用に関して方法論的に考察した研究を日韓学術交流シンポジウムで報告した。そして、公共選択論をテーマとする研究誌『公共選択の研究』に、「民主主義指標と『プラグマティック・アプローチ』」として刊行した。さらに、本研究で作成した民主主義指標に関する研究成果の一部については、アメリカで行われたMidwest Political Science Associationの研究大会や日本政治学会の研究大会、そして国際シンポジウムで報告した。3.本研究の研究成果と意義:(1)従来の研究が見逃してきた民主主義の新たな構成要素の発見、(2)民主主義指標の方法論の発展、(3)新たな民主主義指標の作成、(4)民主主義の効果測定、が挙げられ、本研究分野に大きく寄与したと考えられる。