著者
安野 正明
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

西ドイツの建国は1949年だが、当初は権威主義的で反民主主義な1933年以前からの政治文化との連続性が強く、戦後民主主義の定着は自明だったのではなかった。政治文化の本質的変化を伴いつつ民主主義が根付いた「第二の建国期」と言うべきは1960年代で、そのテーゼを裏付ける様々な社会分野の変動と近代化プロセス、また1968年の抗議運動のインパクトを分析した。また、ドイツでの未刊行一次史料の発掘を行いつつ、1960年代ドイツ社会民主党史の実証研究を進め、「研究成果」に記すようにいくつかの不適切な定説を修正した。
著者
横井 正信 近藤 潤三
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近年の経済のグローバル化、経済成長率の低下、国民の高齢化といった先進諸国共通の構造変動がドイツの協調重視型の経済社会・福祉国家体制をどのように変容させつつあるかを、具体的な政策対応の面から調査分析した。その結果、福祉国家体制再編のための政策面での選択肢の幅の狭さが二大政党の政策面での実質的接近をもたらすと共に、両党間の差異を不鮮明化させ、従来のドイツの政党システムに大きな変化をもたらす可能性があることを明らかにした。
著者
木村 修三
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.平成4年度においてはとくに、冷戦の終結とソ連の解体及び湾岸戦争が中東紛争の構造に及ぼしたインパクトの分析に重点を置いた。とりわけ冷戦の終結とソ連の解体に関しては、(1)従来、対ソ戦略上の観点からイスラエルの戦略的価値に重きを置いていた米国の中東政策の転換と米イスラエル関係の変化、(2)従来、旧ソ連から政治的・軍事的支援を受けていたアラブ対決諸国及びPLOに及ぼした影響、(3)旧ソ連からの大量のユダヤ人移住者の流入がイスラエル社会に及ぼした影響、(4)それに伴う入植地建設の増大が西岸・ガザ地区のパレスチナ人社会に与えた影響などをイスラエル、米国、アラブ諸国及びパレスチナの文献によって把握に努めた。2.また湾岸戦争に関しては、(1)イラクからのスカッド・ミサイルの攻撃にさらされたイスラエル政府及び市民の安全保障観の変化、(2)イラクのサダム政権に支持を寄せた西岸・ガザ住民の挫折感とそれがインティファーダに及ぼした影響、(3)いわゆるリンケージ論がパレスチナ問題に与えた国際的影響、(4)湾岸産油諸国、とくにクウェートのパレスチナ問題に対する支持の低下及びパレスチナ人追放がインティファーダに与えた影響などの把握に努めた。3.さらに湾岸戦争後に開始された中東和平国際会議は、いわゆる占領地住民の自治による解決策を浮上させることになったが、(1)これがイスラエル社会に与えた影響、とくにリクード政権から労働党政権への交代の背景、(2)それが西岸・ガザ住民に与えた期待と幻滅感、(3)自治に期待を寄せるPLO支持勢力と占領地イスラム過激派勢力との分裂、(4)イスラム勢力ハマースの過激なテロ行為によるインティファーダの変質、(5)それに対するイスラエル政府の過剰な反応が中東和平交渉に及ぼしつつある影響などの分析に努めた。
著者
近藤 正基
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ここでは、平成19年度に掲載が決まった論文について、その概要と意義について論じ、研究実績の報告としたい。比較政治経済学、例えば資本主義の多様性論やコーポラテイズム論においては、ドイツは非自由主義経済の代表国と目されてきた。ドイツ経済と自由主義モデルとを分かつ点として、労使関係の特徴が挙げられる。つまり、労使団体による集権的な労働条件決定システムのない自由主義経済(アングロ・サクソン諸国)に対し、ドイツでは産業レベルを中心に労使交渉が実施され、そこで実質的労働条件や労働市場政策が決定されるのである。近年、ドイツ経済は「自由主義モデル化」の道を歩んでいるのか、またはその特徴は「持続」しているのかで、議論が対立している。第二論文「現代ドイツにおける労使関係の変容-統一以降の協約自治システムの展開に関する政治経済学的考察」(1)(2)(3)では、1990年から2006年までのドイツにおける労使関係と労働市場政策の変遷を分析し、この両者の仮説を検証した。それにより、強い拘束力を梃子にして、産業レベルの労使団体が広範な労働者の実質的労働条件について決定し、同時に産業平和を達成してきた労働条件決定システム、すなわち協約自治システムが、統一以降、空洞化や権限縮小といった変化を経験し、機能不全を呈していることを示した。その結果、「自由主義化」仮説が妥当であるとの結果を導出した。分析にあたっては、労使団体を中心的アクターとして位置づけるとともに、連邦政府、連邦雇用庁、連邦労働裁判所といったアクターも視野に入れた。
著者
野口 雅弘
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

「ウェーバー的な官僚制論」といわれるものは、マートンの逆機能など、多くの批判を受けてはきたが、それでも官僚制論の基本とされてきた。それは、大規模組織に、多くの構成員を包摂し、彼らをきびしく規律化することで成り立ち、そうして達成された効率性ゆえに拡大を続ける「鉄の檻」という官僚制理解である。しかしこれは、グローバル化と新自由主義化の傾向において「リキッド・モダニティ」(バウマン)がいわれるなかで、大きな修正を求められている。ところが、「官から民へ」、「小さな政府」、住民との〈協働〉(「新しい公共」論)などの、近年の官僚制をめぐる議論では、旧来の官僚制理解を前提にしつつ、「大きすぎ」で、「抑圧的」な官僚制を攻撃するという論法がしばしば使われている。本研究は、こうした状況に対して、政治理論の古典文献を再読解することを通じて応答しようとする試みであり、その成果は、以下の二つのテーゼにまとめることができる。ひとつは、「脱政治化された秩序」と官僚制の相関性であり、いまひとつは、官僚制とアソシエーションのジレンマである。前者の「脱政治化」とは、政治的な抗争関係が顕在化しないように作用する言説を問題化しようとするタームである。政治的な抗争が封印されると、現状において自明視されている「慣習」が批判的に検討され、熟慮され、そうして変容するという可能性が閉ざされてしまう。このような「脱政治化」は、ある意味での経済的「合理性」を一元的に貫徹しようとする新自由主義から調和的な秩序構想のなかで政治的コンフリクトの契機を根絶しようとする儒教システムにまで見いだすことができる。以上のような観点からすると、官僚制的な組織が「小さく」なったとしても、それで問題が解決するわけではなく、さまざまな政治的抗争が政治のシーンから見えにくくなることにともなう問題があることが見えてくる。本研究は、ウェーバーの『儒教と道教』を「脱政治化された秩序」の分析の書として受け止め、そこにおける官僚制支配の機制を検討した。後者の観点(官僚制とアソシエーションのジレンマ)からすると、(抑圧的で、画一的な)官僚制という「悪」に対して(自発的な)アソシエーションという「善」が対抗するという思考では、自由なアソシエーション、あるいは〈民〉の活動によって(何らかの形で保持されるべき)「普遍性」が底割れするという連関を見落としかねないということになる。たしかにマルクスのヘーゲル批判にあるように、官僚制による「普遍性」の僭称にともなう問題も大きいし、実際「日本官僚制」批判ではこの側面が強調される十分な理由があった。しかし、今日、〈官〉の縮小のなかで別の問題状況が出てきている。こうしたなか、ウェーバーのアメリカ論を、官僚制とアソシエーションのジレンマを引き受けながら思考しようとした議論として検討することは重要になってきている。
著者
高根沢 均
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

サンタニェーゼ・フォーリ・レ・ムーラ聖堂(ローマ、7世紀初頭創建)について、2003年10月から現地の建築調査を実施してきた。本年度も2006年10月に現地を訪れ、約2週間にわたって同聖堂の実測と細部写真記録を行った。実測調査では、トータルステーションによる精密測量を行い、図化を進めている。また並行して文献収集を行うとともに、ドイツ考古学研究所にて初期教会堂建築の碩学であるブランデンブルク教授を訪問し、貴重な意見と示唆をいただいた。実測データ等については、図化・整理を行い、考察を進めている。本年度は、サンタニェーゼ聖堂の建築的特徴と建築部材の配置計画について、学会誌に論文を2本投稿し採用受理されている。これらは、本研究の重要課題である階上廊の機能について検討したものであり、新しい知見を得ることができた。また、イタリアでの研究報告のため、イタリア語の報告書の作成を進めている。2006年11月には、日高健一郎教授(受入研究者)のハギア・ソフィア大聖堂(イスタンブール、537年創建)学術調査に参加し、ドームつきバシリカ式建築の代表例である同聖堂の建築細部の特徴を確認した。また、同じくユスティニアヌス帝建立のハギア・イレーネ聖堂(6世紀初頭創建)を訪れ、細部の写真記録を行った。2007年1月にはテッサロニキとローマで目視調査を行った。テッサロニキでは、古代末期のドーム建築であるハギオス・ゲオルギオス聖堂(4世紀初頭創建)と、初期キリスト教時代の階上廊付バシリカであるアヒエロポイエートス聖堂(5世紀創建)において、細部の写真記録を行った。今後、日高教授が2007年度に実施する方向で準備を進めている建築調査に、一員として参加する予定である。またローマでは、初期中世の教会堂の目視調査を実施し、再利用部材と建築空間の機能との関係について、サンタニェーゼ聖堂での考察の検証を行った。
著者
長嶋 俊介 野田 伸一 日高 哲志 河合 渓
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

前年度チューク環礁での予備調査に続き、本予算で2度の現地調査を行った。特に小島嶼における環境変動に絞った調査で、チューク環礁本島のウエノ島の他、ピス島、ロマヌム島、ファラパゲス島で、海岸部陸域、海域、環境衛生、社会変動、社会不安、生産基盤と文化・社会の持続可能性問題について調査を行った。社会面では、グローバリゼーションの与える変動は主島のみでなく、属島部でも顕著で、グアム・ハワイ・米国本土への出稼ぎ・送金、また金銭経済的消費習慣の村落経済への浸透が食生活面に及びつつある。今後の情報化・電化・耐久消費財浸透の始動以前の2006年段階の諸事実を、現地で補足しておけたことは意義深い。またかかる社会変動に関わる不安感も、文化・ライフスタイル面で観測されたが、島のアイデンティティ面にまでは及んでいない。生産面での、持続可能性に関わる危機意識は強く、人口過剰意識・自然環境危機意識もみられた。後者では、台風、海進、異常高温に関して強い経験に裏打ちされた危機意識であり、その近年における諸事実を確認した。海進でのタロパッチ被害(未回復)箇所、海岸部浸食箇所、磯焼け被害等について精査し、その現状捕捉も行った。例えば、温暖化に伴い珊瑚礁の白化した場所は各所に観察され、温暖域に棲息する貝類(シャコガイ類やカサガイ類)も多く分布しており、何らかの影響が起こっていると考えられる。エルニーニョ被害時の高温・磯焼け、ラニーニャ被害時の海進、異常台風時の塩害は、甚大且つ加速化しつつある。それら事実のさらなる、体系的・総合的・現地との協働による記録化体制の確立は急務である。現地での危機管理対応や、関係機関共同での研究体制の確立、センサゾーン確立に向けての話し合いを、グアム大学ミクロネシア地域研究センタースタッフなどとグアム大学で行うと共に、鹿児島大学で韓国海洋研究院(チューク環礁に調査研究所を保有する)、グアム大学上述スタッフ及び気候専門家、南太平洋大学漁村海岸域資源管理専門家と共に、今後の体制確立について話し合い、その上で国際シンポジウム、Climate Changes and Globalization-Environment and People's Life in the Pacific Islands-を、一般にも公開にして行った。その成果は、南太平洋海域調査研究報告No.48(総頁78)として英文で刊行し、現地関係者並びに関係機関に配布した。
著者
加藤 哲郎 田中 ひかる 丹野 清人 堀江 孝司 小野 一 岡本 和彦 井関 正久 大中 一彌 高橋 善隆 鳥山 淳 島田 顕 許 寿童
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、研究代表者が長年進めてきた現代国家論研究と近年取り組んでいる情報政治研究の結節点で、経済のグローバル化と共に進行する国内政治の国際政治化、国際政治の地球政治化を解析した。モノ・カネ・ヒトが国境を越える「帝国」型グローバル政治の形成と、そのもとで進行する民衆の移動・越境・脱国家化の動きに注目し、既存の概念の変容と新しい課題を実証的な国際比較と歴史的・思想的系譜から考察した。
著者
佐藤 真行
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は環境の価値の経済学的定式化とその測定手法の開発にとりくみ、それら環境評価手法に基いた環境政策に関する研究を行った。本年度は研究計画の最終年度にあたるため、これまでの研究蓄積を総括し、本研究課題の成果を論文にまとめ、学術雑誌等に投稿し掲載された。第一に、離散選択モデルを環境問題とりわけ建築廃棄物問題に応用した研究「建築廃棄物問題と住宅政策」が査読を経て『経済政策ジャーナル』に掲載された。これは昨年度の研究に基づくものであるが、今年度の改訂の際に住宅選択時の環境負荷にかんする消費者選好の多様性を分析するために、計量モデル(Random Parameter Logit Model)を選好パラメタの相関を含めるかたちに展開し、そうした選好の多様性をふまえて建築廃棄物問題と現状の住宅政策にかんする考察を行った。第二に、とりわけ情報の不完全性と繰り返される消費者行動と環境の認識を分析するための研究「環境・品質情報の信頼性と消費者行動」が査読を経て『国民経済雑誌』に掲載された。本研究では離散選択モデルと計数データモデルを併用することで、繰り返し選択と環境認識の関係を分析した。また、先の研究とあわせて、消費者選択の頻度によって情報の影響の差異があり、環境評価手法における注意点をあわせて整理した。第三に、情報の質と量が消費者行動に影響することが定量的に示した以上の研究を発展させ、情報の受け手側の性質に注目して情報過負荷現象の発生と抑制のメカニズムを分析する研究に着手した。本年度は、消費者への情報提供や教育・啓蒙活動の影響を分析する研究を行った。知識や関心が高くなければ環境情報は適切に処理されず選択における混乱(行動誤差)の原因になること、そして知識の提供や専門家とのコミュニケーションはそうした誤差を抑制する作用があることを示した。
著者
小野里 好邦 山本 潮 河西 憲一
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

多様な事象が生起しても情報の流れに対して大きな影響を及ぼさないためには、情報ネットワークの機能を損傷しない仕組みが大切である。想定外の事象が生じたとき情報ネットワークが生き延びる為の対処法として、情報ネットワーク構成に冗長性を持たせ高い結合度を確保する仕組みを内包しておき、多様な状況変化に迅速に対応し情報の流れを大域的及び局所的に制御する研究を行った。
著者
後藤 順久
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.対象地域での実証実験災害発生(地震)直後において、聴覚障害者が自宅(職場・学校)から避難所までの第一次避難を、安全かつ最適に実行するための支援ツール(避難支援情報システム)の有効性を確認することを目的とし、半田小学校を避難所と想定し、聴覚障害者及び見守りネットワークの役割を持つ被験者を割り当て、実験シナリオに基づき実証実験を実施した。2.システムの有効性評価実証実験を通じて、おおむね、以下の有効性が確認できた。(1)文字情報で伝わるため、情報の誤解が少ない。(2)Web連携機能によりメッセージの返信が可能であり、到着確認が確実に行える。(3)返信には、メッセージの候補が登録でき、聴覚障害者にも操作が容易である。(4)余裕のある聴覚障害者からは、災害情報も返信され、システムの危険エリアの追加等に利用できる。今後の課題として、以下のことが確認できた。 (1)災害時にはメール遅延等の影響が懸念される。 (2)メール送信時にGPSの位置検索のメッセージが表示されると、誤って位置検索をキャンセルするケースがあった。結果、その回の位置登録が行えないことが発生した。 (3)GPSについては、普段とは違う携帯機種を使ったため、メール確認等に手間取るケースがあった。 (4)今回の被験者である聴覚障害者は、携帯電話によるメールを普段使い慣れている点で、メールによる情報提供は有効な方式であることを確認した。ただし、障害タイプにより違いが発生するため、音声や手話テレビ電話等の併用を検討する必要がある。
著者
花渕 馨也
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

マルセイユのコモロ系移民のコミュニティでは、90年代から、同じ村出身者による同郷組合の組織が急激に増加した。同郷組合の活動の中心は、故郷村への援助活動であり、「援助文化」として新たに創造された、資金を集めるためのイベントを頻繁に開催している。本研究では、同郷組合活動の実態の分析を通じ、移民と故郷は村の伝統的社会構造を再編成するトランスナショナルなコミュニティを形成する一方で、援助をめぐる威信競争による新たな社会関係が生じることで位階的な社会構造に変化が起こりつつあることを明らかにした。
著者
小沢 慎治 斎藤 英雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究はインタラクティブな放送を実現するために、サッカー中継を例に取り上げ、視聴者の意図に適合した視点からの映像を自動的に生成するシステムを開発する事をめざしている。サッカーなど広域にて行われるスポーツにおいてはひとつのカメラですべての動きを撮影することはむずかしく、役割の異なる複数のカメラで撮影して、シーンに適切な映像に切り替えて放送されており、画像処理に基づく自動化が望まれている。視聴者の好みに基づいて視点を選択したいという要求に応える、インタラクティブな映像生成システムを実現することを目的としたもので以下に成果を述べる。多視点撮影環境の構築 複数の解析用の固定カメラはサッカーフィールド全体を取り囲むように設置し、放送用カメラは経験により適切な位置に固定して設置し、試合を撮影するシステムを構築した。サッカーの多視点画像列からの選手およびボールの検出と追跡 フレーム毎のボールの検出にはテンプレートマッチング、フィールド上の選手の検出には背景差分に基づいた抽出手法を用い、フレーム間の追跡を行って軌跡を求めるアルゴリズムを確立した。1台のカメラの画像からボールおよび選手の軌跡の抽出手法は充分な成果をあげている。オクルージョンによる誤りの回避アルゴリズムの開発 1台のカメラの画像処理でオクルージョンが発生した場合には複数のカメラからの画像情報および3次元情報を統合して協調的にボールおよび選手の位置を推測しロバストな追跡を行う手法を開発した。最適視点の決定 ボールおよび選手の追跡情報を評価対象としてそのシーンに最適な視点の放送用カメラを選択する手法を開発した。プレーの判別アルゴリズムの開発 ボールの近傍の選手を検出して、ボールの位置速度情報および選手の動きからパス、シュート、タックルなどのプレーを判別するシステムを構築した。
著者
河合 隆裕 竹井 義次 小池 達也 青木 貴史 神本 晋吾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1. 高階パンルヴェ方程式 (P_J)_m(J=I, II, IV; m = 1, 2, …) に対し、その 1 型変わり点の近くにおいて、そのインスタントン型解は 2 階 I 型パンルヴェ方程式の解に変換できることを示した。議論は高階パンルヴェ方程式の背後に在るシュレーディンガー方程式の WKB 解析的・半大域的変換論に基く。2. その WKB 解析的標準型がマシュー方程式となる一連の方程式の変換論を構築し、その WKB解の解析的構造を超局所解析的手法により明らかにした。
著者
本位田 真一 深澤 良彰 吉岡 信和 石川 冬樹 鄭 顕志
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

次世代のソフトウェアであるユビキタスサービスの基盤インフラとなる,オープン無線センサーネットワーク構築のためのミドルウェアを研究開発し,公開した.本ミドルウェアを利用することで,長期にわたって安定運用が可能な無線センサーネットワークを構築することが可能となる.
著者
小泉 圭吾 平田 研二
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本申請研究では電池駆動の無線通信器と小型センサとの組み合わせにより、地盤災害監視装置および都市環境モニタリングのためのセンサユニットのハードとソフトを開発することを目的とした。平成18年度の研究成果は下記の通りである。(1)防水機能を有するハウジングの開発を行った。また、車を利用した環境モニタリングのためのハウジングの開発を行った。(2)センサからの出力データを汎用ソフトで分析し、データベース化するシステムの検討を行った。(3)温度、湿度、照度、気圧、加速度が計測できるマイクロセンサを入手し、無線通信によってデータが出力されることを確かめた。温度センサ、湿度センサについては、精度検証を行った。また、無線通信システムについては、アドホックネットワークの確認、および屋外での通信距離の確認、遮蔽物による通信障害の影響についても実験を行った。(4)ヒートアイランドモニタリングに応用可能な、移動体による環境モニタリングシステムの基礎的研究を行った。平成19年度の研究成果は下記の通りである。(5)現場実証実験として、屋内の温湿度をリアルタイム監視できるシステムを構築した。その際、最適なセンサの配置形状の検討を行うとともに、防火扉などの無線通信が困難な環境下におけるシステムの安定性を実現した。(6)屋外の実証実験としては、高速道路沿いのり面において、センサネットワークの通信実験を行い、最適な通信距離およびセンサの配置形状について検討を行った。センサについては傾斜計、水位計、雨量計、サクション計、土壌水分計、カメラについて検討を行い、実証実験が行えるよう通信手法とセンサの設置手法に関する基本設計までを終了した。(7)道路沿いのり面監視および都市環境モニタリングに関する基礎データベースを作成した。
著者
藤崎 清孝
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

Ka帯を用いた大容量・高速な衛星通信を簡易なシステムで実現するための基礎研究として,昨年度に引き続き,今年度も以下の研究を行った.(1)伝搬路中の媒質を不均質乱流媒質とみなし,ランダム媒質中の多重散乱理論を適用して,ビーム波がスポットダンシング状態にある状況下で伝搬路媒質がビット誤り率に及ぼす影響の解析を行った.これまでに電離層媒質がKa帯に与える影響は少なく,主に大気乱流が影響を与えることが明らかになっているが,今回,より詳細に解析を行った結果,地上のアンテナの仰角が低くなるほどに,大気媒質中を伝搬する距離が長くなるため,乱流媒質の影響がより顕著となり,この大気乱流による損失を十分に考慮した回線設計が必要であることが示された.また,数値解析で用いる大気乱流の揺らぎ特性を評価する相関関数として,ガウス分布モデルとコロモゴルフ型乱流モデルの二つのモデルを用いて解析を行ったが,2つの結果は大きく異なっており,この伝搬問題の解析を行う場合には,大気乱流を表現しているコロモゴロフ型の乱流モデルを用いることが重要であることが明らかになった.実際の伝搬では,これ以外にも様々な要因が入り込んで来るため,今後,これらの影響を加えたより詳細な解析が必要となる.更に,(2)本研究室の所有する複数の衛星通信システムを用いて,様々な気象条件下のKu帯の伝搬データおよびひまわりやアメダスなどの気象情報を取得し,気象と電波伝搬状況との相関について評価を行った.実験で取得されたデータは膨大な量であり,現在も解析を進めている状況であるが,これまでに得られた結果より,気象データより伝搬状況を予測できる可能性があることが示された.これらのデータの解析は今後も引き続き行い,電波伝搬環境の気象予測の可能性について検討していく.
著者
和田 圭二
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

分散型電源の代表である太陽光発電が国内をはじめ欧米諸国において急速に普及している。そのため,配電系統にインバータが多数接続されるようになってきた。本研究課題では,太陽光発電用インバータが複数台接続された場合における,伝導ノイズの発生状況とノイズフィルタの設計手法について研究を行った。また,複数台インバータのスイッチング手法についても検討を行った。主となる研究対象は,50W〜100W程度の太陽電池モジュールの背面に接続するACモジュールと呼ばれる太陽光発電の方式とした。この方式の場合には,20〜30台の小容量(50W〜100W)のインバータが同時に動作するために,伝導ノイズの発生量がインバータの動作状態やフィルタの接続法によって大幅に変化する可能性がある。まず,2台のフライバックインバータ同時動作の場合について研究を行い,インバータのスイッチングのタイミングを180度ずらすことによって,ノイズ成分が等価的に2倍になることを実験により明らかにした。一方,複数台インバータを非同期でスイッチングさせることによって特別な制御を用いることなくノイズ発生量を低減できることを示した。また,ノイズフイルタの設計では,フィルタの寄生容量を考慮して設計を行い,各インバータにノイズフィルタを設置するよりも-括設置することによって伝導ノイズを効果的に低減可能であることを解析と実験により明らかにした。以上の結果は,今後予想されるインバータ複数台動作時におけるノイズ抑制手法に関するフィルタ設計法の指針を与えるものであり,分散電源装置のさらなる普及・促進のための重要な研究成果を得ることができた。
著者
田中 耕太郎
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

育児の領域では、児童手当が政党間の理念の対立と制度変更を経て税の体系に一元化され、育児期間の年金算入と年金分与も女性の老後保障をめぐる立場の違いを超えて社会に定着してきたが、そこでは連邦憲法裁判所判決が決定的な影響を与えた。これに対して、若い親世代に対する育児手当と育児休業、保育所等の整備については、大きな流れはできつつあるものの、なおそのあり方をめぐって意見の対立と政策の模索が続いている。
著者
川野 因 樫村 修生 田中 越郎
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度は大学男子陸上長距離選手41名を対象に選手の希望と5月期のヘモグロビン濃度をもとに鉄剤非摂取(N、13名)群と鉄剤摂取群に、さらに鉄剤摂取群はランダムにヘム鉄摂取(H、14名)群とクエン酸鉄摂取(C、14名)群に分けた。市販の鉄剤は5月期から7月期までの2ヶ月間に一日7mgの鉄量を摂取させ、調査期間は5月から9月までの4ヶ月間のうち、5月から7月が鉄剤摂取期、7月から9月期の2ヶ月間は鉄回復期とし、血液状態及び栄養素等摂取量を調査した。一日あたりの食事由来の鉄摂取量は5月期、7月期、9月期において、時期および鉄剤摂取の有無による有意な差は見られなかった。5月期の体内鉄状態は低ハプトグロビン濃度(hp)で示される「溶血」発現選手が41名中21名であり、すべての群で同様に出現していた。貧血発現者は5月期から7月期での期間中でそれぞれ4名、9月期に7名が観察された。H群とC群で9月期の増加が認められた。鉄飽和率はN群で5月期に比べ7月、9月に低下したものの、H群、C群では有意な変動が見られなかった。H群でhp濃度の増加が見られ、低hpを示す選手の割合も減少した。鉄補足なしのN群で貧血出現者が最も少なかったことから、体内鉄状態の良い選手は少ない鉄摂取を効果的に活用できる可能性が、一方、体内鉄状態が不足する者は鉄剤を使って摂取量を増やしても十分な赤血球合成ができない可能性が示唆された。平成17年度は食教育に力点を置き、パフォーマンス向上に向けた選手の日常食生活の気づきを促すことを目的として、半年間に渡る栄養教育を実施した。期間は5月から9月までの4ヶ月間であり、月2回の講義による食・栄養知識の提供、月1回の食物摂取状況調査、月1回の間食や日曜日の食事の取り方調査を実施するとともに、栄養教育の結果評価には食・栄養テスト、食事摂取実態調査を行った。その中でも、5月の調査時に最も摂取不足が見られた牛乳・乳製品と果物、野菜類摂取に焦点を当てて、教育・指導した。5月期に比べ6月期、7月期と選手の栄養・食品に関する知識は増加し、牛乳・乳製品の選択頻度も増加した。しかし、9月期の食品選択状況は5月期にまで低下した。意識や習慣の定着には3ヶ月間という教育期間・時間が短い可能性が考えられた。