著者
原口 弥生
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、2005年夏に米国で発生したカトリーナ災害に関する環境影響の総合的把握と、災害に由来する環境問題への政治的社会的対応について、特に人種関係に留意しつつ明らかにすることを目的として研究を行った。とくに、複合災害の事例として住宅地における石油流出事故、災害廃棄物をめぐる環境正義運動、生態系サービス機能に着目した湿地保全運動、復興過程における住民の居住する権利と都市の防災力向上とのジレンマなどについて実態を把握し、考察を進めた。
著者
池田 恵子
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本における災害被害の男女差の実態を解明し、防災サイクルをジェンダー分析の手法により検討し、防災サイクルのジェンダー課題に関する情報を整理して提示することである。本年度は、昨年度の調査結果に基づいて、女性のおかれた状況(ライフサイクル、家族構成、ケア従事状況、年齢など)と災害の段階(緊急救援、生話再建・住宅再建、地域復興)の両方を考慮した、災害におけるジェンダー課題に関する分析マトリックスを作成した。それぞれの災害フェーズにおいてとりわけ脆弱性の高い女性はどのような女性であるか、特に重視しなければいけないジェンダー課題は何かを明らかにした。移住女性(非日本語話者)やセクシャルマイノリティーに関しては、情報が少なく、今後の災害におけるジェンダー課題の検討において、見落としがちになる可能性があり、注意を要することが把握された。これらの情報を基に、災害サイクル全体の実際的・戦略的ジェンダー課題を抽出し、ジェンダー課題が改善されるための条件を抽出した。都市部(神戸市)と農村部(長岡市)におけるジェンダー課題(とりわけ戦略的ジェンダー課題)の違いを分析した。これらのジェンダー課題に対処するために、防災行政や防災の自主組織において、どのような対策が取られているかについて、先進事例(大分県、横浜市、富士市など)の取り組みについて、まずは行政や市民団体の法令や行政措置に関する出版物などを収集し、不明な点に関しては担当部署に電話・電子メールにて確認し、災害におけるジェンダー課題に対応するために必要でかつ実行可能性が高い方策について検討した。
著者
中牧 弘允 村上 興匡 石井 研士 安達 義弘 山田 慎也
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度は、入社式、新入社員研修と社葬に焦点を置いて調査をおこなった。入社式と新入社員研修については大阪のダスキンで、一燈園とのつながりを明らかにした。社葬については、ソニーの社葬を調査し、国際色豊かな演出の中にソニーの企業としての特色と盛田会長のカリスマ的創業者としての性格を明らかにした。また、大成祭典、一柳葬具総本店といった葬儀社においても調査をおこない、社葬と社員特約の歴史的変遷を跡づけた。平成12年度は、前年度に引き続いて入社式、新入社員研修、社葬を追跡調査したほか、社内結婚についての調査もおこない、公と私の場が入り交じった日本独特の会社文化を明かにした。社葬と会社特約については、大阪の大手葬儀社である公益社を新たに調査した。平成11・12年度を通じて、九州の酒造関係の地場産業における儀礼調査、京都の伏見稲荷神社における会社儀礼の調査をおこない、伝統産業と宗教の関わり、会社ならびにサラリーマンの強化儀礼について研究をおこなった。それぞれの調査を総合して、報告書として「サラリーマンの通過儀礼に関する宗教学的研究」を作成した。
著者
川田 順造 MAXIMIN SAMA BOUREHIMA KA 真家 和生 竹沢 尚一郎 嶋田 義仁 KASSIBO Bourehima SAMAKE Maximin
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1986

62年度は前年度に行った第1回の現地調査の総括にあてられた. 現地調査には, 交付申請書に記した日本側4名, マリ側2名のほか, 日本側2名(山口大学講師安渓遊地, 東京大学教務補佐員中村雄祐), マリ側1名(マリ高等師範学校教授サンバ・ディアロ)が部分的に現地参加し, 報告書作成にも加わった. 現地調査第1年度の研究実積の概要は下記の通りである.1.物質文化の観点からみたニジェール川大湾曲部地方の特質(研究分担/川田順造):この地方は, 古くから北アメリカのアラブ・イスラム文化とサハラ以南の黒人アフリカ文化の大接点の一つであり, 両文化の相互交渉から数々の独自の文化が形成された. それらのうち文化史上重要な(1)騎馬文化, (2)織物と衣服の文化, (3)楽器, 特に弦楽器の発達と専門化した世襲の楽師集団, (4)非焼成の練り土によるモスクなどの大建造物等について, 系譜の解明と型式分類を試みた.2.身体技法と技術(研究分担/川田順造, 真家和生):身体の形質的・生理学的特徴・自然条件, 文化的条件に従って, 地域・社会により異なる身体技法は, 伝統的技術や物質文化と深いかかわりをもっている. 本研究では, この地方に顕著に見いだされる身体技法のうち, (1)両足をのばしたままの深い前倒姿勢による作業の意義, (2)頭上運搬と歩容の関係, (3)作業台としての足の使用及び足の技巧的使用について分析した.3.牧畜民社会の生態学的基盤と階層分化(研究分担/嶋田義仁):この地域で有力な牛牧民フルベ族の社会は, 氾濫原の稲作民などとの間に共生関係を作ってきた. その共生関係と自然条件との関わり, フルベ社会の階層分化のあり方を検討した.4.漁民・狩猟民と農耕民の共生関係(研究分担/安渓遊地):ニジェール川の大湾曲部には, 漁労とともにカバなど水生動物の狩猟も行ってきたボゾ族という集団がいる. 彼らと農耕民をはじめとする他の近隣集団との関係は, この地方の社会・文化を理解する一つの鍵となる. 安渓がこれまで長期間の調査を行ったザイール東部の漁民社会の研究成果をふまえて, 基本的な問題設定と検討を行った.5.市街地における小家畜飼育(研究分担/サンバ・ディアロ):この地域の都市に定着した牧畜民の中には, ヤギ, ヒツジなどの有蹄類小家畜を飼育するものが多い. この研究では, かつてのバンバラ王国の王都だったセグーにおける「都市的牧畜」の様相を, 実態調査によって明らかにした.6.ニジェール川大湾曲部デルタにおける漁業の変遷(研究分担/ブーレイマ・カシーボ):この地域の漁業は, 19世紀末のフランスによる植民地以前から現在まで大きな変遷を経ている. かつての大規模な集団網漁から, 原動機付き小型船, 個別化した小型の漁具による漁法の個別化, 漁業権の国有化, 組合の形成, 流通の組織化などがもたらした変化について具体的事例に基づいて分析した.7.漁民の技術的・社会的変化と宗教的変化(研究分担/竹沢尚一郎):この地域の漁民社会には, 水の精霊の信仰と, その儀礼を司り, 漁業権も掌握している「水の主」の制度があった. 漁法の個別化と漁業水域の拡大, 漁業権の国有化等によって, 水の主の存在が無力化され, 水の精霊への信仰も変化した. イスラムの侵透はこうした変化と呼応して, 漁民ボゾ族の宗教・儀礼体系を変えつつある.8.バンバラ族における結社(研究分担/マキシマン・サマケ):ニジェール川大湾曲部西部地方の農耕民であるバンバラ族の社会には, 入社式を伴うさまざまな結社が存在する. この研究ではその一つである「コテ」結社について宗教的側面とともに, 社会の下部組織としての機能を, 現地調査に基づいて分析した.9.村落社会における楽師の社会的位置(研究分担/中村雄祐):ニジェール川大湾曲部地方の社会には, 専門化した世襲の楽師集団がある. この研究は, サン地方での調査に基づき, 彼らの社会的役割, 歌による賛美という職能と, 社会によって彼らに公認されている物乞いとの関係を分析した.以上, 今回の調査では, 多面的な共生社会でありながら, 従来その多面性が明らかにされていなかったニジェール川大湾曲部のとくに西部諸地方の社会について, いくつかの重要な側面を, まだその第一歩ながら解明することができ, 国際学界の視野でも新しい貢献をなしえたと思われる. 今後この方向での調査研究を深めるとともに, ニジェール川大湾曲部の中部・東部にも研究対象を拡大してゆく考えである.
著者
遠藤 珠紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題は、朝廷官司の構造およびその変遷を追い、朝廷全体の政務運営システムについてまとめることを志すものである。殊に中世朝廷の文書・人事行政の基幹を担った外記局、宮中の日常品の調達を担った宮内省管下の諸官司に注目し、その中世的体制の在り方・いわゆる「官司請負」の実態、成立時期などを明らかにした。またその基礎作業として各官司の補任状況の一覧化を進め、中世史研究の遂行に必須である史料類の収集・解読、紹介に努めた。
著者
裴 寛紋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度から取り組んでいた、宣長の朝鮮への視座という問題にかんしては、上代文学会の学術誌『上代文学』102号(2009年4月)に、「『古事記伝』が作った「皇大宮の始り」の物語-「韓国」は「空国」なり-」として掲載されたことに続いて、次に、韓国学会に向けての発信を試みた。2009年4月18日、韓国外国語大学(韓国ソウル市所在)で開かれた韓国日語日文学会春季学術大会における口頭発表は、そうした目論見の切り口であった。報告の題目は「「韓」の痕跡と否定-宣長を読む立場から-」とし、上記の投稿論文の前提になる問題意識、すなわち、「韓」をめぐる論争に焦点を絞ったものである。要は、宣長の時代の知識人にとって、「韓」そのものは主題や関心事ではなかったこと、彼らが意識していたカラとはあくまで「漢」であったことを、当代の一般認識(彼らの「常識」)の検討から明らかにした。そのカラに対する強い反発ないし克服が、宣長の「皇国(ミクニ)」という問題につながっていることは、いうまでもない。『古事記伝』が、「原典」としての『古事記』に求めた「皇国」の「古代」の意味を、そこに見出すことができる。以上の内容は、「本居宣長の「韓」-近世日本の古代論-」として、韓国日語日文学会の学術誌『日語日文学研究』第70輯2巻(2009年8月)に投稿し、掲載された次第である。
著者
鰐淵 秀一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度の研究成果としては、まず植民地時代フィラデルフィアにおける自発的結社の生成の中心的人物であるベンジャミン・フランクリンの『自伝』を史料として、都市社会における公共性について自発的結社と個人の関係という視点から論じた論文である「商業社会の倫理と社会関係資本主義の精神:『フランクリン自伝』における礼節と社交」と題して、『アメリカ研究』第45号(2011年3月発行)に発表した。ここでは、フランクリン個人の活動の分析を通じて、図書の貸借のような私的な個人の社交が公共性、すなわち都市における公共図書館の設立に至る過程が見出され、自発的結社とそれが体現する公共性が礼節と社交という商業的イデオロギーに基づくものであったことを明らかにすることが出来た。また、1750年の自発的結社の一つである教育機関フィラデルフィア・アカデミーの創設を当時の都市社会的コンテクストのなかで検討した研究報告を、2010年8月6日に北九州アメリカ史研究会(於福岡大学)で発表し、研究者たちとの活発な意見交換を行うことが出来た。この研究は論文の形式にまとめられ、現在『史学雑誌』に投稿中である。また、昨年度予定していたアメリカ合衆国への調査旅行を今年度三月に実現し、フィラデルフィアでの史料調査と共に初期アメリカ史の指導的歴史家との研究に関する情報交換を行い、研究課題の総括と共に今後の研究の方向性を得ることが出来た。フィラデルフィアではペンシルヴァニア歴史協会およびアメリカ学術協会での史料調査を遂行した。ここでは、研究課題の一つである植民地都市における自発的結社と植民地政府との関係を明らかにするための基本的な史料として、フィラデルフィア市会の議事録等の複写を入手した。これにより、これまでに収集したペンシルヴァニア植民地議会議事録や植民地参事会議事録等と共に、植民地都市の公的領域における政府と市民的組織の関係を考察することが出来た。
著者
大谷 雅夫 川合 康三 宇佐美 文理 大槻 信 伊藤 伸江 森 真理子 齋藤 茂 金光 桂子 緑川 英樹 森 真理子 齋藤 茂 大谷 俊太 深沢 眞二 楊 昆鵬 愛甲 弘志 乾 源俊 浅見 洋二 中本 大 神作 研一 長谷川 千尋 中島 貴奈 日下 幸男 原田 直枝 小山 順子 福井 辰彦 稲垣 裕史 伊崎 孝幸 竹島 一希 中村 健史 好川 聡 橋本 正俊 二宮 美那子 檜垣 泰代 川崎 佐知子 有松 遼一 畑中 さやか 山田 理恵 本多 潤子 大山 和哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

室町時代の和漢聯句作品を広く収集し、それらを研究分担者ほか研究会参加者が分担して翻字し、『室町前期和漢聯句資料集』(2008年3月)、『室町後期和漢聯句資料集』(2010年3月)の二冊の資料集を臨川書店より刊行した。また、その中の二つの和漢聯句百韻を研究会において会読した上で、詳細な注釈を作成してそれを『良基・絶海・義満等一座和漢聯句譯注』(臨川書店、2009年3月)および『看聞日記紙背和漢聯句譯注』(臨川書店、2011年2月)として出版した。
著者
田代 学 藤本 敏彦
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

健康な日本人若年男性を対象として、一過性の全身運動直後の急性効果および数日間の継続的運動による慢性効果が細胞性免疫機能(ナチュラルキラー細胞活性 : NKA)および局所脳活動にいかなる影響を与えうるかを本研究で調べた。NKAは一過性運動終了後に軽度上昇し、その後低下する傾向を示した。継続的運動後ではNKAが軽度上昇する傾向が観察された。全身運動に伴う局所脳活動とNKAの関係については、急性運動時および慢性運動時の影響に差異が観察された。一過性運動後にNKAの値と有意に正の相関を示した脳領域は、中心後回および前回、上側頭回、小脳半球であり、負の相関を示した領域は前および後帯状回、頭頂葉であった。継続的運動後の安静時測定では、NKAの値と有意に正の相関を示した領域は前頭葉、側頭葉、頭頂葉にわたる広い範囲であり、負の相関を示した領域は側頭葉、後頭葉、小脳虫部であった。また、全身運動前後に心臓、肝臓、筋肉などの各臓器におけるエネルギー消費の再分配がおこっていることも本研究で明らかになった。健常人においてNKAと局所脳活動との間に相関が示されたことは重要な所見と考えられた。前頭葉の活動とNKAの正の相関が継続的運動の実施後のみで観察されたことから、継続的運動後のNKA値の変化に高次脳活動が関係し、側頭極および下前頭回が情報伝達路として機能している可能性が示唆された。本研究において、全身運動による脳-免疫相互作用が明らかになっただけでなく、全身運動により多様な全身機能の調整が起こり、脳が調節機能を発現していることが示唆された。上記の成果により、PETの健康科学への応用がより現実的となった。
著者
三浦 國雄 山里 純一 宮崎 順子 益子 勝 大野 裕司
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、術数学の基礎研究として主要術数書の文献解題を行なうものである。すでに平成17・18 年度の第一期研究において研究報告『主要術数文献解題』を刊行したが、本研究はそれを承ける第二期研究であり、第一期で取り上げることが出来なかった文献(出土術数文献も含む)の解題を試み、すでに本年3 月、『主要術数文献解題 続編』として刊行ずみである。
著者
山浦 逸雄 矢島 征雄
出版者
信州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

ヒマワリとケナフを10数本以上育成し,その中から比較的生長の早い数本を選び一週間毎に測定を行った.4月に種を播き,発芽生長後,茎の太さが測定可能になった7〜8頃より測定を開始し,ほとんど枯れた11月まで測定を行った.この間の気象は,アメダス他の観測によったが,平年に比べ特に異常ということはなく,植物の生長は順調だったといえる.根の接地抵抗は植物の生長とともに変化するが,大地の水分量によっても変化する.この影響を除去するため,昨年度には根の接地抵抗を地表に接する円板電極の半径に置きなおす等価半径の概念を導入た.今年度は,新たに測定電流と電圧の位相差に着目して,根の抵抗を複素インピーダンスに拡張して,その変化を詳細に調べることとした.測定実験から植物の根の電気的等価回路は抵抗と容量の並列回路で評価でき,それら相互の量的変化が生長過程を知る上で重要であることがわかった.この変化を表現するために昨年度導入した等価半径を複素数化して,今年度は複素等価半径を新たに定義した.この実数部は等価回路の純抵抗によって支配され,虚数部は等価回路の容量によって支配される.純抵抗の大小は根の全体的な大きさや組織の抵抗に依存する.植物組織において細胞壁や膜の機能が低下したり,壊れると抵抗は低くなる.容量は根と土の接触界面における状況や組織細胞の壁や膜の活性度によって変化する.活性が落ちると容量は低下する.以上の考えのもとに実測した複素等価半径のベクトル軌跡をX-Y平面に描き,生長とともにどのように変化するかを調べた.その結果,ヒマワリ,ケナフとも開花するまでの生長期には,実数部虚数部ともに増加がみられ,それ以後は虚数部の減少が顕著であり,枯れて行く過程で組織が不活性化する様子がよくわかった.植物の生長とともに複素等価半径のベクトル軌跡は概ね時計方向の半円を描くことがわかったことは大きな成果である.
著者
福長 将仁 田淵 紀彦
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

動物ミトコンドリアゲノムは37 の遺伝子とひとつの制御領域から成っているものが多い。またこれらの遺伝子構成は比較的保存されていて大きな変化はない。しかしAcariformes に属するダニ類では遺伝子構成が再編されていることが我々の検索から明らかになったのでこの上目に属するダニ類を網羅的に検索、系統的関係を調べた。その結果この上目に分類されるダニ類においてミトコンドリアゲノムは独自の進化を遂げたことが推察された。
著者
藤井 俊勝 麦倉 俊司 奥田 次郎 森 悦朗 鈴木 麻希 森 悦朗 鈴木 麻希 麦倉 俊司 奥田 次郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの記憶については心理学的・神経科学的な研究が数多く行われてきていたが、記憶の間違い-つまり、記憶として想起はできるものの内容が正確ではない場合-のメカニズムについては不明な点が多い。本研究ではヒトの脳活動を間接的に測定することができる脳機能画像法と、脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究によって、ヒトの脳でどのように誤った記憶情報が表象されるのかを検討した。記憶を司る内側側頭葉に対して、記憶を制御する前頭前野が影響を与えていることや、内側側頭葉と感覚情報を処理する感覚皮質の関連が明らかとなった。
著者
阿部 修士
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではまず健常被験者を対象として、虚再認と嘘の神経基盤を機能的磁気共鳴画像法による実験で検討した。嘘は虚再認に比べ前頭前野の活動が高く、また虚再認は嘘に比べ内側側頭葉(右海馬前方)の活動が高いことを報告した。嘘の神経基盤についてはパーキンソン病患者群を対象とした神経心理学的研究を行い、前頭前野が重要な役割を果たすことを報告した。さらに、これまで行ってきた研究成果をまとめた総説を発表した。
著者
大薗 博記
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、顔情報が信頼関係の構築にどのように寄与するかについて検討することを目的としている。21年度は、主に下記の研究を行った。これまでの研究から、笑顔が真顔に比べて信頼を得ることが指摘されてきた(Scarleman et al., 2001)。本研究では、この笑顔の効果の文化差に着目した。実際に、Yuki et al.(2007)は、幸福の情動判断において、日本人は目が笑っているかどうかに注目しやすい一方、アメリカ人は、口が笑っているか否かに注目が行きやすいことを示している。同様の効果は、信頼性判断においても見られるかもしれないと、考えた。そこで、本実験では、顔の上半分(目周り)の笑顔強度、下半分(口周り)の笑顔強度、及び笑顔の左右対称性という、笑顔の3つの要素が信頼性判断に及ぼす影響の目米差を検討した。実験では、アメリカ人と日本人の参加者が、複数の日米の顔写真(これらの顔写真については、事前に上下の笑顔強度及び左右対称性が評定されていた)について、信頼性の判断を行った。重回帰分析の結果、顕著な文化差が認められた。日本人参加者は、左右対称的であるほどより信頼する一方、上下の笑顔強度は信頼性判断に影響しなかった。対照的に、アメリカ人参加者は、上下の笑顔強度が強いほどより信頼するが、左右対称性は影響しないという結果が得られた。この違いについては、日米の表示規則の違いや認知様式の文化差の観点から考察された。なお、この研究については、Letters on Evolutionary Behavioral Scienceにて、査読後受理され、現在印刷中である。
著者
吉岡 秀克 松尾 哲孝 住吉 秀明 調 恒明 浜中 良志 二宮 善文
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究において以下の結果を得た。1.マウスV型コラーゲンα3鎖遺伝子の転写調節及び機能解析オリゴキャップ法により遺伝子の転写開始点を決定した。主な転写開始点は翻訳開始点約100bp上流に存在した。次に、この転写開始点上流約L8 kbの遺伝子断片をクローニングし、この遺伝子の基本プロモーター活性を検討した。基本プロモーターは転写開始点上流約300bpの領域に存在した。さらにゲルシフトアッセイ法により、BS1(-130〜-110)、及びBS2(-190〜-170)の領域にDNA/タンパク複合体の存在が認められ、その中でBS2に結合する転写因子はCBF!NF-Yと考えられた。プロα3鎖のN末の23個のアミノ酸よりなる塩基性セグメントが存在する。この塩基性のセグメントに骨由来細胞に対する細胞接着活性がある。このペプチドへ細胞が接着するとアクチンファイバーが形成され、これはRhoキナーゼ阻害剤であるY27632で阻止された。2.III型コラーゲンα1鎖遺伝子の転写調節解析ルシフェラーゼアッセイの結果、ヒト遺伝子のプロモーターの-96〜-34に最小の転写活性が見られた。ゲルシフトアッセイにより、-79〜-63の領域には複数の因子が結合することがわかった。以前より報告されている因子(BBF)は細胞によって、その複合体を形成する因子の槽成が異なると思われた。3.マウスXXIV型コラーゲンα1鎖遺伝子の転写調節解析XXIV型コラーゲンは最近、見出されたコラーゲンであり、主に骨に発現するが、その発現量は非常に少ない。今回、このプロモーター領域のDNAをクローニングし、転写調節機構の解析を行った。その結果、骨肉腫細胞を用いた実験により、このプロモーターにはc-Jun、CREB1、ArF1、ATF2が結合していることを見出した。
著者
佐伯 卓也 小宮山 晴夫 中嶋 文雄 沼田 稔 佐々木 盛男
出版者
岩手大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

研究目標は、本科学研究費補助金(一般研究B)研究成果報告書にも記したが、教育現場でのパソコンのいかなる設置状態(教室に1セットから生徒1人につき1セットのランシステムまで)でも実現できて、伝統的な授業の教師の役割をあまり変えずに教師の個性が十分発揮できてそれでいて教室のハプニングにも臨機応変な対応ができるスタイルのパソコン利用の授業、非CAI的授業のソフト開発、非CAI的授業そのものの研究、あわせて、学生や附属学校の教師も参加しての教師教育、とくに学生の教師教育にあった。このためのパソコンソフトは、この期間に開発したのが23点、それ以前に代表者が開発したのが19点あるので、合わせて42点になる。このうち、29点は実際に附属中学校で、1年、2年の生徒を対象にして授業実践を経ている。教師教育については、非CAI的授業のソフトは、内容にもよるが、1単位時間のソフト開発時間が5時間ぐらいのものもあり、開発しやすい。このソフト作成技術とそれを利用した授業実践技術のマニアルにまとめた。さらに小学校算数教育のためのVTR教材を作成した。また、大学数学そのものの理解を助けるためのソフト作成も試み、今後の教師教育の課題の糸口をつかんだ。研究期間に開発したソフトの一部を、東北大学理学部、山形大学教育学部、八戸工業大学に提供、さらに現場関係では、岩手県総合教育センタ-にも提供した。また、ソフトや新しい知見は日本科学教育学会、日本教育工学会、日本教育情報学会、日数教数学教育論文発表会等で公表した。期間中の発表論文数は25本(報告書に記載)、以前の論文を合わせると関係論文数は57本あり、合計82本である。
著者
内田 照雄
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、測定時間の大幅な短縮をはかりかつ分光強度パターンと蛍光寿命パターンを同時測定するため,光源の二重振幅変調と高速撮像素子としてのイメージインテンシファイヤーの利得変調方式を併用した検出器内部ヘテロダイン検出法を考案し,その理論的解析を行なった。さらに,装置の試作を行い、装置の動作確認を行なった。まず、イ)高速撮像素子としてのイメージインテンシファイヤー、ロ)レーザ、ハ)2台のAO変調器、ニ)3種類の変調用正弦波発信器,ホ)タイミング回路、ヘ)I.I.の蛍光面画像撮像用CCDカメラ、ト)パソコンからなる装置の試作を行った。レーザとしては小型空冷アルゴンイオンレーザを用い、2個の直列に配置したAO変調器を二重に正弦波変調を行い、蛍光試料を変調励起する。この変調信号とわずかに異なる変調信号でイメージインテンシファイヤーの利得変調を行った。2個のAO変調器(No.0とNo.1)のうちNo.1のAO変調器はNo.0のAO変調器(変調周波数 f_0=20.0000MHz)とイメージインテンシファイヤーの利得変調周波数(f_2=19.9990MHz)の差の周波数(f_1=1kHz)の正弦波で変調される。たとえ,f_0,f_2の周波数が時間的に若干変動してもf_1は常にf_0とf_2の差となるように,ミキサー回路を用いた。この結果CCDからは,No.1のAO変調器による変調をOFFにすることにより,通常のDC蛍光像が得られる。また,No.1のAO変調器による変調がONの状態におけるCCDの蛍光像から,OFF時の蛍光像信号を差し引くことにより,蛍光寿命情報すなわち蛍光寿命パターンが一括して得られる。アクリジンオレンジ等標準蛍光試料測定により,nsオーダの蛍光寿命が計測可能であることが分かった。蛍光像信号のSN比向上が今後の課題である。
著者
深港 豪
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では、真の単一分子デバイスの実現に向けて、情報を読み出す光とスイッチを行う光刺激がそれぞれ独立に作用する "非破壊読み出し"機能を有するフォトクロミック蛍光スイッチング分子の開発をめざした。紫外領域でのみフォトクロミズムが起こる不可視型ジアリールエテン分子を開発し、その不可視型ジアリールエテンと蛍光色素を連結した分子を用いることで、分子内電子移動を利用した可逆的な蛍光スイッチングおよび完全な非破壊読み出しが達成できることを実証した。
著者
田中 克典 田中 延亮
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

研究対象地である落葉林では、雨季の始まりとその期間の変動によって落葉林の着葉期の長さが変わり、その年々変動が著しいことが明らかになった。昨年度は落葉林の大気-植生-土壌内の熱・水環境を再現できる大気-植物-土壌間の蒸発散のモデルが開発された。本年度はこのモデルによる対象地の熱・水環境の再現と数値実験を通じて、落葉林の蒸発散の季節・年々変化と着葉期間のメカニズムを調べた。これらの再現実験では、葉面積指数の季節性を考える場合と一定にした場合を仮定して行われた。現実と異なり葉面積指数を一定にした理由として、土壌水分が著しく減少する乾季においても、光合成による二酸化炭素吸収が可能であるかを検証するためである。ここでは、調査で得られた葉面積指数のピーク時の値、土壌の水利特性や土壌の深さを考慮した。葉面積指数の季節性を考慮した実験では、3年間の土壌水分の観測結果が十分再現され、モデルで計算された蒸散が蒸散の指標となる樹液流速の季節性とよく一致した。また、この再現実験によって、蒸発散のピークが雨季に現れるなどの熱・水交換の特徴が抽出され、着葉期間中、二酸化炭素の吸収を持続できることがわかった。一方、葉面積指数を一定にした場合では、乾季に二酸化炭素の吸収を持続できず、逆に放出し、葉を通年維持できないことが示された。これは、土壌水分の減少とともに気孔が閉じ、蒸散による葉温のコントロールが失われ葉温が上昇し、呼吸活動が活発になるためである。また乾季から雨季に移っていくなかで、純光合成の値が放出から吸収に転じる時点と春分の日以降に展葉した年での展葉期がよく一致した。一方、雨季が終わって、完全落葉する少し前の時点で純光合成の値が吸収から放出に転じることが示された。この数値実験により研究対象である落葉林の成長期間における予測可能性を示した。現在これらの成果は論文に纏められ、英文誌に投稿中である。