著者
川嶋 昌美 大滝 周 浅野 和仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.654-660, 2019 (Released:2020-02-06)
参考文献数
22

近年,花粉症を代表とするアレルギー性鼻炎の患者は増加の一途をたどり,日本人の約40%が花粉症であると言われている.本症の発症には,肥満細胞に由来するヒスタミンが重要な役割をはたしていることから,抗ヒスタミン薬が治療に多用されているものの,副作用の発現する患者が多くみられることから新たな治療法の開発も望まれている.星状神経節ブロック(SGB)は,スギ花粉症の治療法として見いだされ有効性が報告されているが,治療機序に関しては不明な点が多い.アレルギー性鼻炎の発症にはサブスタンスP(SP)等の神経ペプチドが重要な役割をはたしていることが知られていることから,今回アレルギー性鼻炎ラットを用いてSGBの鼻粘膜における神経ぺプチド産生におよぼす効果を検討した.5週齢の雄SD系ラットに10%トルエン・イソチオシアネート(TDI)を1日1回,5日間点鼻することによって感作ラットを作製した.TDI感作1日目に,被験ラットの両側頸部星状神経節を切除した.切除4日目にTDIを点鼻,アレルギー症状の発現と鼻汁中のSP濃度をELISA法によって測定した.感作ラットのSGBの施行により,TDI攻撃点鼻によるクシャミ,鼻掻き回数ならびに鼻汁中SP濃度が対照ラットと比較し,統計学的に有意に減少した.上述した結果はSGBが鼻粘膜における神経原性炎症を抑制し,アレルギー鼻炎症状の発現を調節している可能性があることを示唆している.
著者
多田 伊織
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.373-411, 2010-03-31

丹波康頼が永観二(九八四)年に撰進した『医心方』三十巻は、当時日本に伝わっていた中国・朝鮮やインド起源の医書や日本の処方を集大成した、現存する日本最古の医学全書である。最善本は院政期の写本が中心となっている国宝半井家本であるが、幕末に幕府の医学館が翻刻するまで、ほとんど世に出なかった。その後も文化庁が買い上げる昭和五七(一九八二)年まで秘蔵されていた。
著者
大伴 潔 林 安紀子 橋本 創一 菅野 敦
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

幼児期から学齢期にかけての言語・コミュニケーションスキルの変化を縦断的に追跡し、学齢期での支援ニーズを予測する関連要因について検討した。併せて環境的要因としての家庭での語りかけの豊富さや読み聞かせの頻度等についてアンケート調査も実施した。その結果、幼児期の総合LC指数は学齢期のLCSA指数と有意に相関し、幼児期の言語発達面の課題は学齢期の困難を予測することが示されるとともに、環境・生活要因の影響も明らかになった。幼児期の支援としては、間接的な方法としての言語環境の調整と、より直接的な介入として語彙面、統語面、対人交渉場面でのコミュニケーション面の指導に整理された。
著者
天野 みゆき 鈴木 永子 河合 美重子 馬嶋 昭生
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.182-189, 1992-11-20 (Released:2009-10-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

1986年より1990年までの間に愛知県総合保健センター視力診断部色覚外来を受診した色覚異常者296名(第1色盲35名,第1色弱46名,第2色盲122名,第2色弱93名)に対して,AO H-R-R表(H-R-R表),東京医大式色覚検査表(TMC表),大熊曲線表(大熊表)による程度判定と,市川式ランタン,パネルD-15によるpass fail分類を行ない結果を比較した。色盲表3表は色覚異常の程度分類につき,それぞれ独自の基準を持っている。296名のうち3表共に程度判定が一致するものは72名であり,3表共にそれぞれ異なった程度に判定されたものは41名いた。各色盲表の特徴として,H-R-R表は第1異常,第2異常共に強度に判定されるものは少なく,TMC表では2色型色覚である強度をよく判定した。また,大熊表は第1異常は軽く判定され,第2異常は強く判定される傾向を持った。パネルD-15においては2色型色覚の97%と異常3色型色覚の23%がfailを示し,機能的色盲と色弱および正常とを適度に区別した。また,2色型色覚の殆どが定型的なパターンを示したのに対し,異常3色型色覚では多くが非定型的なパターンを示した。
著者
石合 純夫
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.266-272, 2016-04-18 (Released:2016-05-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1

右半球の脳血管障害後の主要な高次脳機能障害は,半側空間無視,病態失認,半側身体失認である.特に半側空間無視は,急性期を過ぎても残ることが少なくなく,リハビリテーションの実施にあたって見落としのない評価と対応が重要である.日常生活動作を念頭に置いた探索訓練に加えて,プリズム順応などのボトムアップアプローチ,低頻度反復経頭蓋磁気刺激も含めて,幅広く改善の手がかりを得たい.また,半側空間無視があるなりに日常生活動作を可能とする機能的アプローチも欠かせない.右半球損傷では,言語性に頭でわかったような応答をすることが多い一方で,真の病識は乏しい.転倒リスクも高くチームアプローチでの評価と対応が大切である.
著者
林 基哉 小林 健一 金 勲 開原 典子
出版者
National Institute of Public Health
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.63-72, 2020-02-01 (Released:2020-03-12)
参考文献数
6

建築物衛生法(LEHB)の制定から50年を経て,建物の衛生が再び注目されている. 1970年代には,LEHBによってシックビルディングシンドロームを予防できると考えられていたが,LEHBの基準に対する空気環境の不適合率は,この20年間増加している.最近の研究では,オフィスでのシックビルディング症候群の発生率は低くないことが示された.この不適合率の要因の 1 つは,1990年代以降の建物の省エネルギー対策のためであり,この傾向は,2017年に建物のエネルギー効率化が義務付けられたため,今後も続くと考えられている.建物衛生を考慮しつつ環境負荷を軽減するには,建築衛生の実態把握と課題の抽出が必要である.本稿では,LEHBと,日本の建物における環境衛生管理,室内空気環境,保健所による監視指導,建物衛生向上のための課題に関する最近の研究の結果を紹介する.
著者
宮谷 尚実
出版者
国立音楽大学
雑誌
研究紀要 = Kunitachi College of Music journal (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.127-137, 2022-03-31

18世紀ドイツ語圏における句読法の一断面を、ゲーテ『若きヴェルターの悩み』におけるダッシュ(Gedankenstrich)を手がかりとして明らかにする。初版(1774年)と改訂版(1787年)を比較すると、改訂版においてダッシュの使用回数が顕著に増え、補助符号も多様化している。『ヴェルター』におけるダッシュのさまざまな機能を、アーデルング『ドイツ語正書法完全手引』も参照して分析することにより、イギリス多感主義文学からドイツ語圏にも取り入れられたこの補助符号の系譜が浮き彫りになる。読み手や聴き手の思考や共感を要求する「沈黙の記号」としてのダッシュを日本語の縦書き文で再現することは容易ではない。音楽と言語の狭間に位置する句読法を日本語への翻訳においていかに反映させるか、その取り組みを提示することで今後にむけた翻訳の課題や可能性を提示する。
著者
宮谷 尚実
出版者
国立音楽大学
雑誌
研究紀要 = Kunitachi College of Music journal (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.85-96, 2021-03-31

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの著作、特に『言語起源論』で用いられた各種の補助符号を手がかりとして18世紀ドイツ語語圏における句読法の一断面を明らかにする。その際、同時代の言語学者であり近代ドイツ語正書法の整備に貢献したヨハン・クリストフ・アーデルングによる句読法手引に記された符号の種類や使用法を参照することで、当時の句読法をめぐる状況からヘルダーの句読法を読み解いていく。ヘルダーの『言語起源論』には自筆稿や清書稿、初版と第2版という諸段階があり、そのプロセスで変更された符号もある。その後の複数の校訂版において補助符号がどのように変更されたかを比較検討し、さらに日本語訳において句読法をいかに「翻訳」できるのかという問題についても考察する。
著者
松田 知明 田中 ふみ子
出版者
羽陽学園短期大学
雑誌
羽陽学園短期大学紀要 = Bulletin of Uyo Gakuen College (ISSN:02873656)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.71-87, 2015-02-01

本研究では、青木マサが設立した「青木幼稚遊戯園」の設立沿革及び運営について検討した。その結果、青木マサが施設を運営する過程で、託児的機能とともに、教育の重要性を強く認識し、その後幼稚園と保育所を併設するという運営を行ったことを検証できた。この運営は、平成27年度から実施される「子ども・子育て支援新制度」における幼保連携型認定こども園と酷似していると考える。また、これは保育における養護の必要性と保育の教育的機能を充実させるための展開の一形態と考える。
著者
Jun OJIMA
出版者
National Institute of Occupational Safety and Health
雑誌
Industrial Health (ISSN:00198366)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.479-486, 2020 (Released:2020-10-08)
参考文献数
1
被引用文献数
2 1

The Japanese Industrial Safety and Health Act was first enacted in 1972. The purpose of this Act is to secure the safety and health of workers in the workplace, as well as to facilitate the establishment of a comfortable work environment. To fulfill these purposes, the Industrial Safety and Health Act aims to clarify the responsibility system in the workplace and to promote proactive efforts by both employers and employees to maintain safety and health in the workplace. Specifically, it is expected that occupational accidents will be prevented by obligating employers to appoint safety and health personnel in accordance with the Act. In this paper, I introduce the features and key points of the Industrial Safety and Health Act, especially in relation to Chapter 3 (Articles 10–19), which provides for the organization of the safety and health management system. In addition, I describe recent amendments to the Act.
著者
斉藤 奈美子 池野 順一 竹村 貴人
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌論文集 (ISSN:13488724)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.1531-1535, 2005 (Released:2007-05-15)
参考文献数
10

本研究は, 硬脆材料の仕上げ加工において研磨加工と同等以上の創成面品位が得られる研削砥石の開発を目的とする. 開発のヒントを古来より人類が使用してきた天然砥石に求めることにした. 本報では天然砥石の基本的な特徴を構造解析・元素分析によって明らかにした. さらに天然砥石の構造を模した砥石を作製し, その有効性を研削実験により確認した.
著者
時実 象一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.435-441, 2014-10-01 (Released:2017-04-13)

この記事は,ここ数年のオープンアクセスの動向について詳述するもので,前後編に分かれる。この後編では,PLOS ONEの成功によってもたらされた,新しいオープンアクセス・ビジネスについて,PLOS ONE型メガジャーナル,カスケード型雑誌の2種類について,実例を挙げて解説した。また,人文・社会科学分野のオープンアクセス雑誌,学位論文のオープンアクセスの動きについて述べた。最後に,最近進みつつあるデータのオープンアクセスとそのリポジトリについて述べた。
著者
関口 達也 林 直樹 杉野 弘明 寺田 悠希
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.465-474, 2017-12-30 (Released:2018-12-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1

This study aims to analyze the conceptual and spatial recognition to “Jimoto” of people by using an online survey data. The result showed that both recognitions of “Jimoto” were classified into several groups and each group had own feature. The result also showed these “Jimoto” consciousness were formed through the life events and daily lives of people. We also analyzed the relationship of these recognitions and undesired change to their “Jimoto”. The results indicated that people didn’t desire specific change if the connections between them and their “Jimoto” were formed by concrete objects or intimate people. These “Jimoto” consciousness sometimes comes from outside of each region and spreads over administrative boundaries. This suggests the necessity of the systems that enable people to participate regional development projects from the outside or cooperation of several local governments.
著者
明石 光史 田中 守 田中 宏暁 檜垣 靖樹
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.745-754, 2014 (Released:2014-12-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2

The purposes of this study were (1) to examine the effect of body contact (BC) on running power, and (2) to evaluate the relationship between physical ability and BC during measurement of both aerobic exercise and intermittent anaerobic running power in 14 male university handball players, all of whom were court players.   Significantly shorter running distances were achieved in the yo-yo intermittent endurance test [yo-yo IE] with full BC than without BC, and there was a significant relationship between the final distance run and the degree of BC. Intermittent exercise was measured by the intermittent shuttle sprint test (ISST) that involved eight 20-m shuttle sprints with a 20-s rest period after each sprint. The subjects exhibited a significantly lower retention rate during the 8th repetition of the ISST with BC than during the eighth repetition of the ISST without BC, but there was no significant correlation between the mean retention rates during the 2 tests. A positive correlation between retention rates during the ISST BC and muscle strength and body weight was evident from the first 2—3 sets of the ISST with BC, and a negative correlation was evident between the retention rates during the ISST BC and the yo-yo IE from the first 5 sets of the ISST with BC.   These results indicate that intermittent anaerobic running power is important for high aerobic ability. However, for intermittent exercise that includes BC, higher body weight and muscle strength are necessary to prevent any decrease in running power.