著者
福江 純
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の研究課題のもとで得られた成果は非常に多岐にわたるが、大きく5 つに分けると、(1)相対論的輻射流体力学の問題点の洗い出しを行った。(2)相対論的輻射圧駆動球対称定常風のモデル計算をした。(3)ブラックホール風の"見た目"など相対論的効果を入れた観測的特徴について調べた。(4)平行平板流で速度一定という仮定のもとだが、相対論的輻射輸送の新しい解析解を求めた。(5)解析的な立場から、相対論的変動エディントン因子の形を探り、いくつかの性質や振る舞いを明らかにした。
著者
乙部 厳己
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

通常のWiener空間を含む一般のガウス測度の導入された連続関数の空間における、指定された値以上の関数からなる自然な凸集合に対して発散定理を定式化した。それによって発散定理の性質が速度のマルコフ性よりもむしろ、ガウス測度とその最大値のもつある種の正則性によって制御されていることを示した。またフラクタル集合上のパーコレーションの臨界確率を数値解析によって得たほか、特異な外力項を持つ相互作用粒子の運動を可視化、レヴィ型の雑音項を持つ偏微分方程式の解の挙動の可視化などに成功した。これによって新しい知見のもとで正則性に関する予想とそれに対する数学的に厳密な証明を与えることにも成功した。
著者
和泉 潔 松尾 豊
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

テキストマイニングによる動向分析手法の開発、人工市場シミュレーションソフトウェアの開発、実データによるシステム評価の3つの研究要素について、当該研究期間において下記の研究実績が得られた。以下の内容について海外および国内の学術誌での研究成果の発表を行った。本分野の発展および人事養成のため、新規国際および国内研究集会の設立に貢献した。1.テキストマイニングによる動向分析手法の開発:経済新聞記事データを用いて、テキストマイニング(関連用語のカテゴリ分類、各単語やカテゴリの頻度及び共起関係の分類)を実行して人工市場シミュレーションの入力データを作成するプログラムを構築した。分析手法の性能評価のために、国際金融情報センターの発行した解説記事による経済動向分析を行った。同じテキストデータで金融関係者が判別した結果と比較したところ、訓練データに対する正答率のテストでは平均92.2%、外部データに対する交差検定テストでは平均71.9%の高い精度を示すことができた。2.人工市場シミュレーションソフトウェアの開発経済動向分析結果を入力として受け取る人工市場シミュレーションを行うプログラムの作成を行った。テキストマイニングプログラムと連携し統合的なシミュレーションを行うためのデータ連携手法を開発した。実際のテキストデータと市場データを用いて実証実験を行った結果、100試行の平均で約67%の価格変動をシミュレーションにより再現することに成功した。3.実データによるシステム評価前述のテキストマイニングプログラミングと人工市場シミュレーションを統合した意思決定支援システムを構築した。システム評価のために実際のテキストデータと市場データを用いて、市場安定化のための行動方略を提示させたところ、実際の市場価格の分散を70%以上低減することができる方略を示すことができた。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

我々は、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のサブユニットGluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingがALS患者の脊髄運動ニューロンで選択的に低下していることを明らかにした。GluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingはRNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA type 2(ADAR2)により特異的に触媒されるので、この分子変化は、ADAR2の活性低下によると考えられる。ADAR2の活性を規定する因子のひとつに総mRNA量、ADAR2 mRNA対GluR2 mRNA比が明らかにされているが、ADAR2のmRNAには多くのsplicing variantが存在することが知られており、翻訳タンパクの活性が異なることが報告されているため、variantの発現量により活性への影響が異なり、ひとつの調節機構として働いていることが考えられる。今回、RT-PCR、ノーザンブロッティングによるADAR2 mRNAの分析により、新しいsplicing variant 2種を見出し、他のvariantと共に発生段階、脳部位による発現パターンの違いの有無を検討した。新たに見出されたvariantの1つはADAR2に存在する二個の二重鎖RNA結合部位をコードするexon2のexon skippingであり、frameshiftにより下流のexonに新たなストップコドンを生じていることから、活性型タンパクに翻訳されるとは考えにくいsplicing variantである。第2のsplicing siteはexon 9に位置し、long C terminusをコードするストップコドンの83塩基下流に位置する。このsplicing variantは従来のlong C端を持つisoformに翻訳され、活性型ADAR2をコードする。この2種のvariantを加え、理論的には48種のRNA splicing variantが存在すると考えられる。とくにC端には4種のvariantがあり、long C terminus 2種のみが活性型ADAR2に翻訳され、ADAR2活性制御に主要な役割を持つと考えられる。ヒト小脳の核分画抽出物によるウェスタンブロッティングでは、long C terminusを持つメジャーバンド2種が確認できた。このことは、ADAR2は多数のmRNA splicing variantを持ちながら活性型タンパクに翻訳されるものはそのごく一部であり、splicingを通じで活性調節を行っている可能性を示している。ALSの神経細胞で、この調節機構がどのような変化を受けているかを解明することは病因の解明につながると考えられる。
著者
酒井 憲司 星野 義延 神崎 伸夫 笹尾 彰 渋沢 栄 岡本 博史 田村 仁 浅田 真一
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究背景:本研究のモチベーションは農林地の時空間変動を引き起こすメカニズムの究明に必要な方法の探索である。即ち、耕地、果樹園、森林の各種属性パラメータの時空間変動が内在的な決定論的ダイナミクス、確率過程、環境外乱の何れによるものか、もしくはそれらの貢献度を定量化したいということである。そこで、本研究では、耕地、果樹園、森林、草地など生物生産の場における時空間変動メカニズムの解明のための技術として、カオス時空間解析手法を開発し,耕地、果樹園、森林における時空間変動データに対して当該解析手法を応用して変動メカニズムの解明を行い、その有用性を実証することを目的とした。農林生態系を対象として工学的なアプローチを実施しようとした場合、(1)データサイズ問題、(2)オブザベーション問題、(3)マニピュレーション問題、の3課題を克服しなくてはならない。データサイズ問題とは、農林生態系の諸現象においては年に1点というようなスケールでしか時系列データが得られない場合も多く、非線形時系列解析などが数千点以上のデータサイズを要求するのに対して極めてデータサイズが小さい。この極めて短い時系列データを如何にして非線形時系列解析の枠組みに適用させるかという問題がデータサイズ問題である。これについては、第1部で扱った。ここでは、データサイズ問題をアンサンブル時系列によるダイナミクスの再構成として課題化した。大域的線形・局所線形ダイナミクスの再構成を試み、1年先の収量予測によって手法の妥当性を示した.第2部ではオブザベーション問題を扱った.特に,航空ハイパースペクトル画像,マルチスペクトル画像を用いて温州みかんおよびコナラの個体レベルでの収量推定の可能性を明らかにした.
著者
高宮 いづみ 白井 則行 遠藤 仁
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、エジプト・アラブ共和国南部に位置するヒエラコンポリス遺跡の一角で発掘調査と分布調査を実施し、エジプトの初期国家形成期において、穀物(麦)の調理の専業化がどのように進行したのかを考察するとともに、それらと集落の都市化および文化・社会の複雑化との関係を明らかにすることを目指した。調査と研究の結果、前4千年紀前半から集落の中に家政を遙かに超える規模の穀物調理施設が主に集落縁辺部に存在するようになっており、穀物調理と関連して集落の構造化が進行した可能性を示唆した。
著者
嶺崎 寛子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は「ムスリマ(イスラーム教徒の女性)によるイスラーム言説の創出および利用の実態を、彼女たちの日常実践と法識字レベルとに注目して明らかにすること」である。本年度の研究では、1)イスラーム言説にかかるムスリマの主体的活動について研究するとともに、2)2011年に起きた革命といわゆる「アラブの春」についての情報収集と分析を行った。本年度は具体的には、1)イスラーム言説の利用について、女性説教師の活動を事例として、権威というキーワードを用いて論じた英語論文を完成させた。この論文はオランダ・ライデンの著名な出版社、ブリル社から刊行された論文集に査読を経て掲載された。この本にはインデックスの語句の選定・語句説明の執筆、アラビア語の英語表記の方法等の決定、分担執筆など、論文だけではなく包括的な形で関わった。MLを立ち上げ、世界各国をフィールドにする多国籍の他の執筆者とEメールで意見交換しつつ、決定し、分担して執筆する過程で、学術的な国際的ネットワークを築くことが出来たことも今年度の成果である。2)アラブの春で宗教界が果たした役割について、現地紙等を資料にキリスト教、イスラームについて整理・分析を行った。日本語で読める、宗教界にフォーカスしてアラブの春を分析した研究はなかったため、本論文はアラブの春を多角的に理解するため、一定の貢献をしたといえよう。(嶺崎寛子「エジプト、1月25日革命を読む-宗教の視点から」『国際宗教研究所ニュースレター』70.東京:国際宗教研究所、pp.11-16)。
著者
徳田 功 福田 弘和 池口 徹 郡 宏 池口 徹 郡 宏
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

視交叉上核(SCN)におけるニューロン群のネットワークモデルを生理実験に基づいて忠実に構築し,数値解析を行うことにより,哺乳類のサーカディアンリズムの動的メカニズムの理解を目指した。ラットSCNスライス計測データからニューロン間の結合構造を推定し,ネットワークモデルを構築して解析を行ったところ,スライスデータで観測される位相波を再現することが出来た。ニューロン間に位相差を生じる位相波は時差ボケ機構などにおいて重要な役割を果たしていると考えられる。また,概日リズム制御を目標に,電気化学振動子の結合系に対して遅延フィードバックを適用し,クラスター状態の制御が可能であることを確認した。さらには,植物遺伝子発現データの位相応答特性の計測結果に基づいて,特異点摂動から同期状態の制御を試みた。
著者
青井 啓悟
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は、先進的な分子設計概念により、全く新しい糖質大環状デンドリマーの創成を行うことを目的として行った。計画に従って、ポリリシンの側鎖アミノ基からポリ(アミドアミン)デンドリマー構築を行い、新しいシリンダー状高分子を得た。この反応では、市販のポリリシン臭化物塩をトリエチルアミン存在下アクリル酸メチルを用いたマイケル付加反応によりデンドリマー分岐構造に誘導した。表面アミノ基と糖誘導体置換セリンN-カルボキシ無水物(GlycoNCA)との高分子反応により、嵩高い糖の層を形成し、チューブ状の構造体を得ることに成功した。糖としては、N-アセチル-D-グルコサミンなどを導入した。シリンダー状デンドリマー内部の、ポリリシン部分の高次構造をIR測定、CD測定さらには中性子小角散乱により解析し、評価した。大環状ポリリシンを用いて、同様のデンドリマー精密構築と糖の導入により大環状糖質デンドリマーの合成が可能であり、大環状ポリリシン合成を試みた。ポリ(アミドアミン)デンドリマーの末端部分をヒドロキシル基とした新規重合体も合成し、高次構造の解析を上記と同様に行った。その結果、ヒドロキシル型でもナノスケールの円筒状の形態をとり、糖質を導入したものはより安定に円筒状となることが明らかになった。糖鎖シリンダー状デンドリマーの分子認識能を、実際に小麦胚芽(WGA)レクチンを用いた赤血球凝集阻害試験により調べた。4分岐型で優れた認識能を発揮することが分かった。また、電気泳動により、プラスミドDNAと安定な複合体を形成し、生体機能材料として有用な展望が開けた。
著者
三成 由美 徳井 教孝 内山 文昭 酒見 康廣 大仁田 あずさ 山口 祐美 鶴田 忠良 和才 信子 川口 彰
出版者
中村学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

児童に生きる力を発揮させ、健康管理能力を高める事を目的に、望ましい食習慣と規則正しい排便習慣の形成のための日本型薬膳食育プログラムを開発し評価した。食と健康の意識・実態調査と学校給食にヘルシーメニューを導入することで知識は向上した。さらに、食育CD-ROM、解説書・カレンダーを作成して3ヵ月間、児童に配布し評価すると効果は認められた。これらの教材は学校現場の食育で利用価値が高まると考えられる。
著者
岡 まゆ子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

1.卵胎生ウミタナゴを用いた母仔間移行研究大槌湾にて採集したウミタナゴの親魚(n=25)と胎仔(n=10)中の有機塩素系化合物(OCs)濃度を調査した。胎仔は出生直前に指数関数的に汚染物質を体内に蓄積していることが明らかとなった。これは、親魚の血液に含まれるリポ蛋白のうち有機塩素系化合物と親和性の高い種類が妊娠後期に分泌されるためであることが推測された。最終的に胎仔中の濃度と親魚中の濃度は平衡に近い値を示した。これは妊娠期間の長い卵胎生魚に特徴的であることが考えられ、胎仔への危険が高いことが明らかとなった。2.サケ科魚類におけるOCsの蓄積特性サクラマスは降海する降海型と一生を河川で過ごす残留型が存在する。降海型サクラマスは約1年半の河川生活ののち、降海する。約1年後に母川回帰し、遡上後約4ヶ月河川で成熟を待ってから産卵する。各成長段階におけるOCs蓄積を調べるために、幼魚から回帰親魚まで幅広い生殖腺指数(GSI)を持つサクラマス中のOCs濃度を調べた。海洋生活期を経たサクラマスは降海直後と比較して筋肉中で最大58倍、肝臓中で最大11倍にOCs濃度が増加した。卵形成の時期が近くなるにつれ、肝臓へと脂肪は集中する。この時、OCsの肝臓中濃度が筋肉中濃度の約7倍となり、降海直後の約4倍と比較すると高い値を示した。このことから、OCsも脂肪とどもに肝臓へと移行することが示唆された。卵形成がさらに進むと肝臓中で合成された脂肪や蛋白が卵へと移行し、肝臓中OCs濃度は徐々に減少した。肝臓中OCs濃度はGSIが5%付近で筋肉中濃度と並び、最後には筋肉中濃度より下回ることが明らかとなった
著者
廣田 栄子 井脇 貴子 樺沢 一之 鈴木 恵子 小渕 千絵
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

聴覚障害児者の様々な領域での活躍には、聴覚音声情報の制限を視覚情報で収集する技能の向上が重要であり、書記リテラシー(読書き能力)の形成が欠かせない。本研究では、近年の各種先進医療・技術開発による書記リテラシーの改善と達成度・課題について実態を明らかにした。さらに、IT化による書記リテラシー評価・支援システムを開発し、臨床手法としての有用性を実証して、生涯発達の視点での包括的支援に関する知見を得た。
著者
藤本 啓二
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

細胞表層にポリマーからなるシールド層を形成させ、さらに外側に種々のバイオアフィニティを提示させることにより多様な細胞からなる組織体を形成させた。次に組織再生を視野に入れた細胞の構造化に向けた表層改質条件の検討を行った。また、このアフィニティを利用して基板上に細胞を2次元あるいは3次元状に配列し、セルチップなどの技術への展開をはかるための基盤技術の確立を行った。また、リガンド・レセプター間結合を高め、細胞表層改質のために、リガンド固定化部位、光反応性部位、アフィニティ部位および解離性部位からなる多機能性ナノ分子(ポリマーナノツール)を作製した。これにより、細胞の移動性を光によって制御することができた。
著者
橋本 晴行 善 功企 江崎 哲郎 戸田 圭一 高橋 和雄 北園 芳人
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2003

03年7月19日から20日未明にかけて九州各地で,局地的な集中豪雨により,河川の氾濫や斜面崩壊,土石流が発生した。本調査研究は,被災地の現地踏査,住民・防災関係機関への聞き取り調査,資料収集などを実施し,以下のような成果を得た。1.7・19北部九州豪雨による災害-福岡都市水害福岡県太宰府市において,19日午前4時に最大時間雨量99mm,総雨量315mmに達する豪雨が発生したその結果,2級河川御笠川の上流に当たる同市三条地区などで土石流が発生するとともに,下流の福岡市博多駅周辺で御笠川が氾濫し,ビル地下階,地下鉄駅構内が浸水した。99年水害の再来となった当時の降雨量は,太宰府市で総雨量180mmであったため,今回の水害は99年水害を上回る規模であったと推測された。99年水害と異なった点は,御笠川上流の太宰市で,前回を大幅に上回る降雨量が発生したため土石流や崩壊が発生し,土砂が多く下流に流下・氾濫したことと,流量規模が大きく,前回越流のなかった中・上流においても広範囲に氾濫が発生したことである。2.7・20中南部九州豪雨による災害-水俣土石流災害熊本県水俣市で20日午前4時に最大時間雨量91mm,総雨量323mmの降雨を記録した。その結果,同市集川において上流右岸斜面が崩壊して土石流化し,下流の人家を襲った.集地区では,斜面中腹から地下水噴出が発生しその影響で崩壊を起こした。下流の扇状地では巨礫が多く堆積しており,土石流の本体部分は典型的な砂礫型士石流であったと推定された。97年に隣接の出水市で発生した土百流は泥流型土石流と考えられている。質的な面において両者は異なると推定された。現在,熊本県では土砂災害警戒雨量が参考値として扱われ避難勧告基準としては活用されていない。土砂災害情報を初動体制に活用する行政の体制づくりが不可欠である。
著者
中井 泉 真道 洋子 大村 幸弘 吉村 作治 川床 睦夫
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ガラスの古代の東西交易を明らかにするためにポータブルX線分析装置を開発し、美術館や中国、インド、エジプト、シリア、トルコ、クロアチアの現地で出土遺物を分析した。日本の古墳出土ガラスは、インド、タイ、中国などのアジアの国々から伝来したものであることを実証した。また、平等院出土ガラスの分析では、奈良時代の鉛ガラスの製法が平安時代も継続し、新たにカリ鉛ガラスの製法が中国から伝来したことを示した。地中海沿岸諸国における東西交流についても実証的データを得た。
著者
土方 久
出版者
西南学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

複式簿記を包摂して「会計」に進化するとしたら、簿記と会計の接点にあるのは「年度決算書」。世界で最初に規定されたのは17世紀の中葉。簡便ないし簡単な簿記としての「単式簿記」を頼りに「財産目録」の貸借対照表を作成することが普通商人(小売商)にのみ規定されたのである。大商人(卸売商)および銀行家に規定されることがなかったのは、すでに、17世紀、18世紀に、複式簿記を頼りに「損益勘定」と「残高勘定」を作成、この残高勘定を貸借対照表の代用にしえたからである。しかし、ドイツに複式簿記が普及するのは19世紀の中葉。「損益勘定」に相当する「財産目録の検証表」まで作成しなければならなくなると、単式簿記は複雑ないし煩雑な簿記に陥ってしまい、むしろ、退化して、複式簿記に融合することになる。さらに、株式会社が急増する19世紀の中葉に、ドイツ株式法、ドイツ商法によっては、貸借対照表に併存して、「損益計算書」も作成することが規定されることから、複式簿記に、最終的に融合したにちがいない。
著者
川西 宏幸 周藤 芳幸 堀 賀貴 内田 杉彦 辻村 純代 津本 英利 花坂 哲
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

古代エジプトで外来系土器が増加するのは第20王朝からであり、第18・19王朝で主流をなしたミケーネ系をはるかに凌ぐ量がフェニキアからもたらされ、一部は模倣されたことが判明した。また、アコリス遺跡の発掘によって、第20王朝から第3中間期における地方社会の実態と交易の殷賑が立証された。すなわち、王朝の衰微と西アジアにおける強国不在状態が、地方社会の自立を促し、交易を隆盛に導いたという、文献史学が語りえなかった衰亡期研究の新たなパラダイムに逢着した点に、本研究の成果がある。
著者
大月 康弘 加藤 博 坂内 徳明 中島 由美 齊藤 寛海 立石 博高 長澤 栄治 大稔 哲也 三沢 伸生 亀長 洋子 堀井 優 竹中 克行 松木 栄三 三浦 徹 栗原 尚子 臼杵 陽 勝田 由美 黒木 英充 堀内 正樹 岩崎 えり奈 青山 弘之 飯田 巳貴
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地中海世界の歴史において人びとの活動の重要拠点となった「島嶼」に注目し、自然・生態環境に規定された人々の生活・経済空間としてのマイクロエコロジー圏、および当該マイクロエコロジー圏が対外世界と切り結んだ経済社会ネットワークの構造分析を行った。政治的、人為的に設定され認知されてきた「地域」「海域」概念、および歴史的統一体としての地中海世界の存在論にも批判的検討を加えた。
著者
中西 祐子
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では「doing gender(ジェンダーをする)」という概念に着目し、学校・職場内において、人々が自らのジェンダー/セクシュアリティを、自ら意図的に、あるいは他者から意思に反して構築する/されることがどのようなメカニズムで起きているのかを検討した。本研究では、人々のジェンダー/セクシュアリティというものが、アプリオリに存在しているのではなく、ある場面で行為者間の間で持ち出されることによって作り出されているのではないか、という理論的立場をとっている。たとえば、セクシュアル・ハラスメントに代表されるような学校・職場のトラブルは、文脈を無視して突然「ジェンダーをする」ことが持ち出される現象の典型例である、と考える。本年度行ったのは次の4点である。(1)国内外の先行研究の収集、(2)アメリカ社会学会参加と「ジェンダーの構築」に関連する最先端の研究動向の把握、(3)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についての質問紙調査、(4)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についてのインタビュー調査(継続実施中)。なお、平成20年度中に、これまでの研究をまとめた成果を論文として発表する予定である。ここまでの知見を簡単にまとめると、(1)アルバイト先でのハラスメント経験者は量的にはごく少数であるが、お客や上司からのハラスメントを経験しているものは存在している。(2)経験者の中で、その場で表立って文句をいったものは皆無であり、(3)「相手がお客さんだからはっきりと拒否するわけにはいかない」「相手が上司だからあまり強くいえない」という理由から、何とかその場をうまく「やり過ごす」/「取り繕う」ことにむしろ力点が置かれていることがわかった。これは、突然構築された「ジェンダー/セクシュアリティ」が、「客と販売員」「上司と部下」という別な文脈で消去されようとするプロセスといえるのではないだろうか。
著者
中山 祐一郎 西野 貴子 渡邉 修 渡邉 修
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

白山(石川県)の高山帯・亜高山帯には,12種(群)の雑草性植物が侵入していた。そのうち,オオバコでは,自生種ハクサンオオバコと雑種を形成していた。スズメノカタビラでは,高山の環境に適応した生活史特性をもつ個体が定着していると考えられた。外来タンポポでは,低地~山地に生育する様々な種や雑種の型のうち,一部の種や型が亜高山帯や高山帯に侵入していた。これらの知見に基づき,侵入雑草への対策について「白山国立公園生態系維持回復事業検討会(環境省中部地方環境事務所)」等で提案した。