著者
佐藤 孝 大河 正志 丸山 武男
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

現在用いられている光通信システムの光強度変調方式では、将来のより高度でより大容量の通信の需要に対応する事は困難である。しかし、電波の領域で開発されてきた周波数変調や位相変調を用いた光通信を実現するには、現在の半導体レーザの周波数安定度は不十分であり、搬送波としての特性に問題があり直ちに実用化することは困難である。そこで光源である半導体レーザの発振周波数の安定化を検討した。我々が考案した方法は単純な包絡線検波回路を応用したものであるが、変調時に得られる信号の変化を利用して安定化のための制御信号を得る方式(PEAK方式)であり、安定度改善の効果は十分なものが得られている。本研究では、これまでの研究を更に進めて精度並びに信頼性の高い安定度の評価を実現し、実際の光通信に用いられている波長帯に我々の周波数安定化法を適応することの可能性について検討した。まず様々な光FSK変調条件の下で基準波長としてRb原子のD_2吸収線(780nm)を用いて発振周波数の安定化を行った。続いて光通信用の波長である1.5μm帯の半導体レーザの周波数安定化の実験を、半導体レーザの内在的2次高調波を用いることで、780nm帯での周波数安定化と同じ方法で行うことを検討するとともに、エタロンとRbのD_2吸収線を組み合わせて両者の特徴を生かす周波数安定化方法を検討した。この結果、1.5μm帯の半導体レーザーの安定化を実現する基礎実験が行えた。一方、受信側の局部発振器としても安定な半導体レーザが必要となるが、このための安定化法として吸収線の磁気光学効果を用いた間接変調方式を開発した。この方式で安定化されたレーザ光を参照レーザとして用いることで、2つのレーザ光の間のビート信号を用いる周波数安定度の評価方法を採用し、信頼性の高い周波数安定度の評価を行った。
著者
松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、統合失調症(精神分裂病)の記憶機能に注目し、これが統合失調症の病態といかなる関わりがあるかを明らかにするために行った。報告者の研究により統合失調症では、記憶や言語機能を反映する事象関連電位反復効果に異常があることが見いだされているが、今回は特にこの反復効果が、統合失調症に特徴的である思考障害の基盤にある認知神経異常として現れると考え実験を行った。対象は、健常対照者10名、統合失調症患者19名で、患者はDSM-IVの基準を満たし、検査時には寛解期にあった。いずれの被検者に対しても研究について書面でのインフォームドコンセント行った。思考障害の評価にはホルツマンらの思考障害評価尺度を用いた。統合失調症患者は、この尺度に基づき思考障害群9名と非思考障害群10名に分けられた。反復効果課題施行中の事象関連電位が測定された。刺激は、かな二文字からなる単語で、標的は動物を意味する単語、非標的はそれ以外の単語を用いた。非標的の半分は初回提示の後に反復され、その半分は直後に反復される直後反復で、残り半分は平均5単語おいて反復される遅延反復であった。思考障害群では、有効な反復効果は認められず効果の大きさは刺激提示後300-500ミリ秒の平均振幅で健常群と比べ有意に減弱した。非思考障害群は部分的に反復効果を認め、効果の大きさは健常者と思考障害群との中間であった。反復効果の頭皮分布は、思考障害群では健常群や非思考障害群で認められる正中有意の分布を示さなかった。反復効果は、記憶や言語などの認知機能と関わりが深いことが知られており、特に刺激提示後400ミリ秒近辺の電位はN400成分と関わりが深いことが知られている。本研究の結果、思考障害を有する統合失調症患者では、N400の調整機構が障害されており、記憶や言語と関わる認知機能が思考障害の基盤にある可能性が指摘される。
著者
松本 和紀 進藤 克博 松岡 洋夫 松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は脳内で行われる言語情報処理の早期の「知覚処理」から後期の「意味処理」への変換の仕組みとその相互作用を電気生理学的に解明していくために、事象関連電位を用いて早期の知覚情報処理に関わるNA電位と意味・記憶処理と関わるERP反復効果を指標に研究を行った。今年はNA電位とERP反復効果を健常者と精神分裂病者を対象に調べた。実験1:外国文字とかな文字との比較-刺激は非読外国文字、無意味かな単語、有意味かな単語の三種類。刺激は二文字からなり200m秒、2〜3秒の間隔で提示された。被験者はある意味範疇に属する単語に対してボタン押し反応をした。NA電位は非標的刺激に対するERPから単純反応課題に対するERPを差分して得られた。結果、NA電位は、三種類の刺激間で差が認められず、早期知覚処理では、意味の有無、日本語・外国語の違いなく同等に処理が行われることが分かった。健常者と分裂病者の比較では、分裂病者でNA電位の遅延が認められたが、刺激間の差はなかった。実験2:ERP反復効果とNA電位の比較-刺激は二文字からなるかな単語で、標的は動物の意味をもつ単語で非標的はそれ以外のかな単語。非標的の半分は初回に提示される単語で、残り半分は直後反復される単語と平均5単語間隔をおいて遅延反復される単語とに分けられた。単純反応課題も施行され、実験1と同様の方法でNA電位が計測された。結果、反復単語に対してCzを中心に全般性にERPが陽性方向へシフトするERP反復効果が認められた。NA電位とERP反復効果とは振幅や潜時に相関は認められなかった。一方で精神分裂病では、直後反復でのERPで反復効果の減弱が認められた。この結果、知覚の早期処理と記憶処理とでは、ある程度独立した機構が並行した処理を行っている可能性が指摘され、精神分裂病では知覚の早期処理の遅延と、記憶や意味と関連する電気生理学的活動の減弱が推定された。
著者
石橋 正浩 二文字 理明 岩切 昌宏 石田 晋司 ベンクト G・エリクソン キルスティ クウセラ
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

精神障害者の地域生活を支える支援,とりわけサービス利用者と援助者との間でおこなわれる共同意思決定のプロセスについて,スウェーデンの専門職であるパーソナル・オンブズマンの制度と役割を整理し,その機能を日本で展開する可能性について,相談支援専門員を対象にした調査をもとに考察した。両国とも利用者の主観的ニーズと自己決定を最大限尊重しようとする援助者の姿勢は共通であるが,利用者の自己決定を支えるセーフティネットの広がりには違いがある。
著者
是永 かな子
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は多文化共生社会スウェーデンにおけるインクルージョン教育の展開を、実践的、制度的、歴史的観点から分析することを目的とする。本年度は、主にインクルージョン教育が成立する背景と展開過程を検討した。具体的にはノーマライゼーションが提唱され、義務教育学校としての基礎学校が創出された1960年代以降現在に至る、通常学級での個のニーズに応じた教育の展開を分析した。本年度の研究活動は、スウェーデンでの実地調査および研究交流と、日本国内での国際交流と学会発表および論文執筆であった。まず、平成19年4月にはスウェーデン・パティレ市の知的障害特別学校長、特別教育家らを高知大学に招聘し、附属特別支援学校の教員や通常小学校の教員を交えて、日本の特別支援教育とスウェーデンのインクルージョン教育について意見交換を行った。次に平成19年10月22日-31日に渡瑞して、実地調査および資料収集を行った。それらは第一にスウェーデン・パティレ市のインクルージョン教育の実践についての調査研究であり、第二にマルメ市の大学病院内ハビリテーリングにおける障害をもつ子どもを支援する個別サービスチームの編成など医療と教育の連携体制の整備の検討、第三に自閉症学校を訪問して分離的教育措置による個に応じた教育の保障の考察、第四にイェーテボリ大学教育学部図書館におけるインクルージョン教育関連文献の収集、第五にイェーテボリ大学教育学部のJan-Åke Klassonらと意見交換を行いインクルージョン教育に関する最新の研究動向を把握すること、である。最後に、平成20年3月にも渡瑞して、同様の内容で学会発表、実地調査および資料収集を行った。日本国内での学会発表は8月4,5日の日本発達障害学会、2007年9月22,23,24日の日本特殊教育学会、2007年9月29,30日の日本教師教育学会であった。日本国外での学会発表は2008年3月6,7,8日の北欧教育学会であった。また、研究の成果を分担執筆として公表した。
著者
中村 満紀男 二文字 理明 窪田 眞二 鳥山 由子 岡 典子 米田 宏樹 河合 康 石田 祥代
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、インクルーシブ教育の社会的背景と理論的基盤について、アメリカ合衆国・英国・北欧について検討した。インクルーシブ教育(インクルージョン)は、先進風・途上国を間わず、国際機関や各国の中央政府が支持している現代における世界的な教育改革運動であるが、その真の意味は必ずしも正確に把握されていない。同時に、インクルーシブ教育運動が世界的に拡大してきた背景とそれを支えている理論についても、共通的基盤と多元的部分に整理して解明されていない。この複雑さが整理されないまま、インクルーシブ教育が差異ではなく、障害のみに焦点化して捉えられる場合、日本における特別支援教育に例示されるようにインクルーシブ教育のモザイク的理解に陥ることになる。こうして、インクルーシブ教育とは、社会的・経済的・教育的格差、文化的・宗教的差異、エスニシティの相違によって生じる社会からの排除を解消し、社会への完全な参加を促進し、民主制社会を充実・実現するために、通学者が生活する近隣コミュニティに立地する通常の学校において共通の教育課程に基づき、すべての青少年を同年齢集団において教育することである。またインクルーシブ教育は、これらの目的を達成するための方法開発も併せて追求している点にも特徴がある。このように、教育改革運動としてのインクルーシブ教育は、差異やそれに基づく排除を解消するための、政治・経済・宗教・文化等、広範囲に及ぶ社会改革運動であり、画期的な理念を提起していて成果もみられるが、既成の枠組みを打破するまでに至っていない。同時に、理念の普遍化が実現方法の画一化に陥っていて、理念とは裏腹の排除を生んでいる例など、今後の課題も多い。
著者
近藤 久史 二文字 理明
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

スウェーデンの「あなたへ」シリーズを活用して、小学校高学年を中心に授業実践を試みた。ほぼ同一の教材を使用し、ほぼ同一の理念、近似の方法で実践を行っても、学校の雰囲気や担任教師の個性によってそれぞれに魅力のある授業が展開されることが実証できた。絵本のもつ力強いメッセージ性もさることながら、児童が変容すると共に教師もまた自らを変容させてこそ、絵本から発する価値観が心に響くことになる。「心に響く共感」の共有体験がその後の児童の生活にどのように生きてくるかはこれからの児童の成長を見守らねばならない。
著者
二文字 理明 INGEMAR Emanuelsson JAN-AKE Klason BENGT Eriksson
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

スウェーデンにおけるインクルーシブ教育はノーマライゼーション思想に発する「人間としての尊厳」および「すべての者のための一つの学校」という理念を掲げて展開されてきた。「場の統合」を経て「個の統合」を実現してきた。しかし、1990年時点でも「個の統合」の実現の割合は、養護学校の全児童生徒の8.7%に留まる。1990年以降は、社会民主労働党の弱体化と連動して、インクルーシブ教育を支持する言説にも陰りがみられる。カールベック委員会の基本的な構想の破綻はその象徴であろう。理念の標榜と、学校における障害者の処遇の実態との乖離に悩む現実が改めて明らかになった。
著者
北村 有子 稲野 利美 石川 睦弓
出版者
静岡県立静岡がんセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

胃切除術後患者の体重データを分析した結果、術後6ヶ月までは体重減少がみられ、術後6~12ヶ月は横ばいの傾向がみられた。術後6ヶ月までの経過時期にあわせて、体重と食事のポイントをまとめたA4判1枚のリーフレットを2つ試作した。地域で開催される、胃がん術後の患者・家族を対象としたバイキング形式の会食の企画開催に携わった。多職種(医師、看護師、栄養士)で検討した結果、患者・家族が術後症状を自律的に調整するには、術式別の情報提供が効果的と考えられ、臨床の栄養指導実践に活かしていく。
著者
森 友彦 栗原 堅三 高見 茂 林 由佳子 二ノ宮 裕三 山本 隆
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

昧覚機能は、年齢、性別、生活・職業形態、疾病など種々の環境要因によって変動する。特に、過食と肥満、拒食と痩〓、美食と生活習慣病、食スタイルと生老病死では、味覚機能の変動が原因と結果の双方で生起する。これら諸現象には食の健康科学の視点から関心が高まっていることから、味覚の基本的なメカニズムの解明を通じて味覚機能の全体を理解することが要望される。本企画調査を通じて味覚機能と健康の関連性を科学的に解明する研究の拠点的組織を構築することにより、生命科学としての味覚研究の推進をさらに図る。そのために味覚・食・健康に携わる計12名の第一線の研究者を研究班として組織した。まず、7月26日午後1時から4時、名古屋アソシアターミナルホテル、小会議場にて第1回全体会議を行った。特定研究領域発足に向けて研究方針を立てると共に研究組織の改編を行った。第2回全体会議は9月24日午前10時から12時まで、岡山衛生会館第5会議室で発足に向けての最終打ち合わせを行った。その後、インターネットによる綿密な打ち合わせを頻繁に行い、11月に平成16年度発足特定領域「食の健全性と味覚機能」を申請した。そして、2004年3月1日(月)13時半から6時過ぎまで、京都大学宇治キャンパス農学研究科講義室にて「食の健全性と味覚機能」に関して研究報告会兼シンポジウムを開催した。本研究班に加え、米国ジョンズホプキンス大学医学部より恒成隆博士を招聘して、感覚研究がこれから向かうであろう領域に関して情報を収集した。
著者
五十嵐 尚美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

1. 性暴力について看護者の認識とその変化要因に関する調査研究目的:看護婦の性暴力に関する認識とその変化要因に関して明らかにし、看護ケアの方向性を探る。研究方法:平成8年度から継続している学習グループを計5回の学習会を開催し、そのうち1回は部外者によりファシリテーターを行い「性暴力被害者への看護の役割」に焦点をあてる「フォーカス・グループ・ディスカッション」を行い質的に分析を行った。また、学習グループ主催で、1回の看護婦対象にした講演会を開催し、参加者よりアンケートへの回答を得た。結果:「フォーカス・グループ・ディスカッション」においては、性暴力被害者の実態を理解するならば、被害者を見逃すことが少なく、最小限でも現実的なケアできる、という結果であった。講演会では、看護系雑誌に学習会主催という広告を出し、30名の看護婦が出席。地域は神戸から東京在住者であった。被害者へのケアに関する悩み、被害者経験を有する者もおり、看護ケアを積極的に推進するニーズが高かった。2. 医療機関における性・暴力被害者の受け入れ実態調査研究目的:医療機関における性・暴力被害者の受け入れ状況につい実態を把握する。研究方法:前年度の調査票を簡略化し、回収率を上げ、東京都2区にて医療機関の実態をより正確に把握する。警視庁のデータとのつき合わせをする。研究結果:3年間フォローしてきた東京都の2つの区における病院外来診療部、医療機関400箇所を対象に調査票を配布した。前年度は回収率25%であったが、今年度は35%と若干の伸びが見られた。医療機関における性・暴力被害者受け入れ状況は、警視庁報告より多いことがわかった。また詳細な事例報告の中には、ドメスティックバイオレンス(夫やパートナーからの暴力)の割合が7割をしめていた。今後とも実態を把握することの必要性がある。3. 医療機関における性暴力被害者への看護マニュアルの開発学習グループを中心に当該病院において実現可能なマニュアルを作成中である。マニュアルの評価も今後の課題として残るところである。
著者
下村 作次郎
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、この3年間、台湾国内の第一線の台湾原住民文学の研究者と互いに連携を取りながら、研究を推進することができた。それゆえ、最前線の台湾原住民文学の創作と研究状況を充分に理解しながら、予期した以上の研究成果をあげることができた。具体的にあげると、次のようなものがある。1、国際学会での研究報告(4回)。会場は、下記の通りである。国立東華大学(2005.9)、国立中山大学(2006.5)、国家中央図書館(2007.9)、天理大学(2008.4)2、論考の学会誌への発表3、静宜大学および国立台湾文学館での鼎談と講演4、『台湾原住民文学選』の翻訳出版(現在7巻既刊)5、『高一生(矢多一生)研究』全10号の出版6、高一生生誕百年国際シンポジウムの開催の準備(2008年4月18日・19日に開催した)なお、本研究は、台湾原住民文学研究に関する基礎的研究であり、引き続き本研究を発展させる必要がある。幸い平成20年度から22年度まで「台湾原住民族における言語環境の変移および言語転換(日本語から漢語へ)の実相」」(基盤研究(C))を受けることができた。さらなる研究の深化と拡大を期したい。
著者
井鷺 裕司 村上 哲明 加藤 英寿 安部 哲人 藤井 紀行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

生物多様性ホットスポットに生育する絶滅危惧植物を対象に、野生に生育する全個体の植物体の生育場所、繁殖状況、遺伝子型を明らかにすることで、絶滅危惧植物の状況を正しく評価し、適切な保全策を構築することを目的とした。本研究のアプローチにより、絶滅危惧種では、現存する個体数よりも遺伝的に評価した個体数が著しく少ない場合が多いことが明らかになった。また,種を構成する局所集団ごとに遺伝的分化しているため、それぞれを個別の保全対象とすべき種や、更新個体の遺伝解析により未知の繁殖個体の存在が明らかになった種など、生物保全上有用な情報が得られた。
著者
示村 悦二郎 青木 宗也 矢野 眞和 中西 又三 舘 昭 清水 一彦 今野 雅裕
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

平成3年6月に改正された大学設置基準は、各大学がそれぞれの教育理念・目的に基づいて個性豊かな教育を自由に展開していくことを可能にするとともに、その教育研究活動を自らの手で点検・評価することを求めている。本研究は、大学設置基準の改正以降の各大学のカリキュラム改革や自己点検・評価の状況など大学改革の実施状況を把握し、これについて調査研究するものである。平成5年度は、既存の関連調査等の資料やデータの収集・分析をもとに、改正された大学設置基準及び大学審議会答申等の趣旨がどの程度実現されているか、各大学・学部の理念・目的が十分反映された改革が行われているか、という視点に立って、改革の具体的な内容や方法も引き出せるような設問と選択肢の作成を行った。平成6年度は、前年度から準備を進めてきた、わが国の全大学・学部を対称としたアンケート調査を実施した。回収率は約95%という高率であった。解答には自由記述が多く、定量的な調査ではくみ取れぬような改革状況をかなり正確に把握できるものであったので、可能な限り原票に忠実に調査結果の集計作業を進めた。平成7年度は、前年度実施したアンケート調査の集計結果をもとに分析・検討作業を進めた。その際、(1)学生の受け入れに関する改革、(2)教育課程の改革、(3)教育方法の改善、(4)教員組織の改革、(5)研究条件の改革、(6)生涯学習、(7)学生生活への配慮、(8)自己点検・評価といった項目ごとに分析・検討を行った。その結果、改革は各方面にわたっているが、とりわけ一般教養的教育をはじめとする教育課程の改革が進んでいること、また、自己点検・評価については、その組織体性が整い、実施に積極的な姿勢を見せてはいるものの、その結果の公表についてはどちらかといえば消極的であること、などが明らかになった。
著者
稲村 哲也 山本 紀夫 川本 芳 大山 修一 苅谷 愛彦 杉山 三郎 鵜澤 和宏
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究代表者らはこれまで中央アンデス、ネパール・ヒマラヤ山岳地域などで共同研究を重ね、高地環境における牧畜文化の研究を蓄積してきた。アンデス高地の研究から、リャマ・アルパカ牧畜の特徴として、(1)定住的であること、(2)乳を利用しないこと、(3)農耕との結びつきが強いこと、などを明らかになった。これらの特徴は相互に関係し、低緯度の高地に位置する中央アンデスの自然環境、生態学的条件と関係している。そして、アンデスには2種類のラクダ科野生動物ビクーニャとグアナコも生息している。アンデスの家畜種アルパカと野生種ビクーニャの遺伝的近縁性が解明されたことから、その両種の生態を把握することの学術的意義が明確になり、他の地域では困難な「家畜と近縁野生種の同一地域における共時的・通時的研究」がアンデスでは可能となった。そこで、本研究では、ラクダ科動物の家畜種と野生種に関する遺伝学的な分析をさらに精緻化すると共に、それらの生態、牧畜システムの実態をさらに検証し、また、より精度の高い自然環境に関するデータを踏まえて、野生種と家畜種、狩猟と牧畜、動物と農耕などの相互関係、ドメスティケーション等に関わる研究を推進し、新たな知見を得た。また、今後のドメスティケーション、牧畜成立過程、古代文明形成プロセスなどに関する新たな研究への基礎を構築することができた。
著者
本村 一朗 中村 英雄
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

著者らはこれまでチタンの審美歯科補綴の応用に不可欠な前装技術の確立と向上のためにチタンと陶材の焼付けについて研究を行ってきた。本研究はチタン板表面に表面改質装置の出力および照射時間を変化させ、ぬれ性の変化からチタン表面への陶材焼付に最適な条件を求めることにある。前年度では表面処理前の使用金属、純チタンの板上試片の作成および表面改質の条件について検討を行った。本年度は表面改質としてプラズマエッチング処理のみ、プラズマエッチングを行いながらの窒化処理を行い、そのチタン板に陶材の築盛、を行った。なお表面改質を行った板上試片の作成は(1)現在歯科で用いられているロストワックス法による鋳造加工(チタン表面は鋳造時生成される反応層に覆われるため、陶材焼成を行うと界面からの破壊が起こりやすくなる)、(2)高エネルギー加工法としてワイヤ放電加工((1)による反応層の生成を排したもの)の2種類とした。表面改質ではエッチングおよび窒化時間条件により陶材焼成時の酸化が最小限に押さえられたが剪断試験測定時に剥離をきたし、焼付強さの向上には結びつかなかった。これは窒化により陶材築盛面への極度なぬれ性の低下によるものと考えられ、放電加工試片を用いぬれ性の向上のみに努めたプラズマエッチング処理が本研究において最適条件と考えられた。現在、金属コーピングの作成は鋳造が主流であるが今後鋳造以外の加工による歯科補綴物作製法を確立する事が急務と考えられる。チタンへの反応層を生成しない加工法とともにチタン用焼付陶材を用いた審美歯科技術の確立に、本研究で得られた結果はチタンの歯科応用の更なる発展に寄与できるものと考えられる。
著者
森田 良文 鵜飼 裕之
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

理学療法士・作業療法士養成教育機関における下肢運動療法の教育実習のための下肢患者ロボットを開発し,教育現場導入に向けた教育効果を検証した.この患者ロボットでは,膝関節の固縮,拘縮,痙縮といった麻痺の症状や,関節可動域の低下などを再現できる独自の関節機構を用いることで,より人間に近い膝関節の運動を実現する.このような患者ロボットを用いることで,学生は臨床実習の前に訓練手技や検査手技の自主トレーニングが可能となり教育効果の向上が期待される.
著者
沈 建仁 神谷 信夫 梅名 泰史 川上 恵典 高坂 賢之 岩井 雅子 池内 昌彦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

光化学系II複合体(PSII)の構造制御機構を解明するため、各種低分子量サブユニット欠損株由来PSIIの構造・機能解析を行った。Ycf12(Psb30)欠損株由来PSIIの結晶構造解析によりその存在位置を確認し、PsbZ欠損株を用いた研究では、PsbZがPsbKとYcf12のPSIIへの結合に必要であることを示した。また、PsbMはPSII二量体の安定性を維持するのに必要であるが、PsbIは二量体の形成に必要であることを示した。
著者
菊地 俊夫
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は大都市近郊農村を主な対象にして、農地や谷戸、および里山や林地などの緑地空間の再編をグリーントリフィケーション(greentrification)として捉え、その創成メカニズムと持続性を明らかにすることを目的とした。グリーントリフィケーションとは「緑地空間の再編・美化」や「緑地空間価値の高度化」ともいわれるもので、その研究は農村や農山村における非経済的な価値を見直すことにもなる。大都市近郊では、農村空間の構成要素である里山と農地を農村と都市のコミュニティが協働で保全してグリーントリフィケーションを成立発展させ、そのことが大都市近郊農村の持続性を高めていた。
著者
小林 泰子 仲西 正 稲垣 サナエ 井上 広子 久保田 夏子 鈴木 理絵 小阪 君枝 葛西 路子 大野 藍 寺川 未央
出版者
東京家政大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高齢化社会を快適に過ごすために,身体や環境から発生するにおいの除去と抗菌作用を持つ消臭機能綿布を調製した.反応染料や直接染料と銅塩で媒染した綿布は,モデルにおい物質のエタンチオールに対し高い消臭・抗菌性を示した.さらに,ガスクロマトグラフを用いて,媒染綿布のエタンチオールに対する消臭機構を調べた.銅媒染により,エタンチオールが綿布に吸着,または,ジエチルジスルフィドに分解することがわかった.