著者
川手 憲俊 玉田 尋通 稲葉 俊夫 喜田 加世子 玉田 尋通 稲葉 俊夫 喜田 加世子 パシラーナ インドニル ニシャンタ 田中 翔 芦 ゆきの
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、犬の潜在精巣の原因遺伝子・マーカー遺伝子を同定する目的で、潜在精巣に罹患した小型犬のエストロジェン受容体α遺伝子(ESR1)の一部(ESR1の3'側末端から70kbの領域の9ヵ所の多型を示す塩基)について解析し、正常例との比較を行った。その結果、ミニチュアダックスフンドとチワワの潜在精巣例の当該遺伝子領域の多型塩基は正常例と比較して顕著な差異はみられなかった。ただし、両側性潜在精巣例の同遺伝子領域の多型頻度は正常と異なっていたが、例数が少ないため、両側性例とESR1当該多型との関連性についてはさらなる検討が必要と考えられる。
著者
岡本 正明
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、分権化後のインドネシアの地方政治の構造と動態を、公共事業の立案、実施過程に焦点を当てて実証的に明らかにすることを目的とするものであった。最終年度に当たる今年度は、継続的な調査および口頭・論文発表を行った。当初は、ゴロンタロ州とバンカ・ビリトゥン州の二州において調査を行う予定であった。しかし、2006年にはゴロンタロ州に加えて、継続調査中のバンテン州でも州知事の直接選挙がインドネシア政治史上初めて行われたことから、ゴロンタロ州とバンテン州に調査の力点を置いた。ゴロンタロ州では、「企業家州知事」として社会的に知名度を上げた現職のファデル・ムハマドが州知事選史上最高の得票率80.2%で圧勝した。その背景には、「トウモロコシ100万トン計画」をぶちあげ、中央の関係省庁から巧みに予算ぶんどりに成功したこと、そして、その成功をすべて自分の功績に帰すかのような宣伝工作を行ったことなどがあげられる。そういう意味で、ゴロンタロ州においては、中央省庁の公共事業が現職州知事の政治権力基盤の確立につながった。中央省庁の公共事業が首長の政治権力基盤確立につながるという点ではスハルト権威主義体制時代と類似性がある。しかし、根本的に違うのは、彼は中央からの予算ぶんどりを広く住民にアピールするポピュリスト的手段を取ることで政治権力基盤の安定を実現したことである。一方のバンテン州でも現職が僅差で勝利を収めたが、それは州の予算を徹底的に分捕ったからであった。選挙運動資金の7割ともいわれる額を州の予算から充当したのである。州の公共事業配分は基本的に現職州知事勝利を導くために行われたともいえる状況が起きたのである。この二つの州を比較するだけでも、公共事業の持つ意味は政治的に大きいが性格が異なることが明瞭となった。本年度は、この成果を国際会議での発表(一回)、論文(一本)、編著本(一冊)で公表した。
著者
吉田 昌彦
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1)日米修好通商条約違勅調印問題が発生した安政五年段階では孝明天皇は、「勅問之人々」と結んで朝政の実権を掌握、幕藩制的朝政機構である「三職」の長である内覧の九条尚忠を失権させ、戊午の密勅を降下させたこと。その際、孝明天皇と「勅問之人々」は雄藩の軍事的支援を得られるように工作していたこと。(2)安政の大獄により朝廷は幕府のコントロール下に置かれたものの天皇を「君主」とするイデオロギー上の位置づけが不変であったため、和宮降嫁策などにおいて「勅命」を幕府は公式的には拒否できなかったこと。(3)島津久光率兵上京により孝明天皇は、初めて、その至高性を保障する暴力装置を得て勅諚を貫徹し得たのであるが、その際、国事御用書記という幕末朝廷における最初の国事関係ポストが設置されていること。(4)学習院は、その講義施設として藩主クラスに対する礼遇と公卿と大名との政治的会談や伝奏・議奏などとの面談を行え得るスペースと構造とを備えていたことによること。(5)朝廷は、国権の最高機関として、新たに「支配の対象」としなけらばならなかった諸藩の政治的要求や意見を聴取し朝廷の政策決定を伝え諸藩を指揮命令する為の伝達の場を新たに確保する必要があったが、その場として「小御所取合廊下」という天皇や国事御用掛が「政務」を行う空間とは距離を置いた学習院が定置されたこと。(6)儀礼レベルでは藩主との直接的儀礼(天杯拝受など)には宮中小御所という天皇固有の「空間」が設定されいたのに対し、朝廷役職者と藩主・世嗣が儀礼を行う「役向の儀礼」の場として学習院という「空間」が使用されていたこと。
著者
王寺 賢太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

1)「哲学的歴史」と考証学レナルの「哲学的歴史」は、ベイルらの「歴史の懐疑主義」の提起したユダヤ-キリスト教的な世界観の批判、あるいは王と信仰と法の統一性の証明を志すべくベネティクト会士の考証学の批判を受け入れたところから出発する。しかし、レナルにとって一層重要なのは、「歴史の懐疑主義」による歴史認知一般の真理妥当性の否定を退け、「蓋然性」にもとづく歴史認識を理論的に擁護したのみならず、新旧論争における相対主義の提起、聖書の創造譚を規範とする中国の歴史的・民俗学的叙述の批判を行った碑文アカデミーの考証学者フレレである。だが、キリスト教的な世界観にかわる近代的な世界観を示唆したフレレも、過去の事実の検討に目標をおく考証学の言説の内部では、新たな歴史叙述の枠組み自体を示すことはできなかった。世紀中盤考証学の忠実な読者であったレナルが近代ヨーロッパの歴史叙述を選択する背景には、十八世紀の考証学の認識論的な発展によってあきらかにされたその限界を乗り越えようとする企図が控えている。2)「哲学的歴史」と法思想マキャヴェッリの政治思想とベイルにいたる懐疑論の継承者であるレナルは、ストア=キリスト教的な目的論的枠組みのなかで、「真正な理性」や「社交性」から絶対王政の法秩序を導き出す自然法思想を否定する。また、当時「書かれた理性」ないし自然法を体現するとみなされていたローマ法については、フランス王国を近代におけるローマの帝権と法の継承者とみなすボシュエやデュボスの「ロマニズム」をしりぞけ、ブーランヴィリエの「ゲルマニスム」をうけてローマ帝国と近代ヨーロッパ諸国家の断絶を強調する。レナルにおいて法の起源は理性にではなく社会内部の権力関係にあり、近代の王国の政治的秩序は、とりわけ暴力装置と所有の分配の変動を通じて歴史的に生成したものなのである。この認識はモンテスキューによる法についての歴史的で政治的なアプローチを受け継いだものだが、さらにレナルは、「法を歴史によって、歴史を法によって説明する」モンテスキューを批判して、実定法以前にある多数者の意思とその間の社会的な諸関係の存在を強調する。そこで歴史は法を特権的な参照項として叙述されるものであることをやめ、法体系に断絶さえもたらしかねない、社会的な諸関係総体の変動として把握されることになるのである。以上2)の研究内容は、4月25日、パリのフランス国立科学研究所において開かれる『十八世紀における法学的知の形成』研究会で発表される。
著者
松本 真理子 森田 美弥子 栗本 英和 青木 紀久代 松本 英夫 灰田 宗孝 坪井 裕子 鈴木 伸子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

子どものロールシャッハ法に関する多角的視点からの研究を包括することによって、現代に生きる日本人一般児童のパーソナリティの特徴が解明され、また日本における被虐待児の心理的特徴も明らかにされた。さらに脳画像と眼球運動という生理学的視点からも子どものロールシャッハ反応の意味するものについてアプローチした結果、国内外において初の知見が得られ、さらに発達障害児との比較などについて、現在、研究を継続中である(平成21年度~25年度科学研究費基盤研究(B)(課題番号21330159)にて継続)。これまでに得た知見は国内外の学会および論文として既に発表している。平成21年度中には図書として成果の一部を刊行する予定である(2009年9月刊行予定)。
著者
宮地 弘一郎 松島 昭廣
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,NIRSによる脳機能マッピングを活用した,重度脳障害児(重障児)の刺激応答性の即時評価システムを開発することであった.NIRSと心拍モニタリングを用いたアプローチは,重障児の生活刺激に対する応答性の評価に有用であることが示された.さらに,NIRS,脳波,心拍の多面的アプローチによって,定位反応系活動の発達を詳細に評価できる可能性が示され,今後の重障児の発達支援においての活用が期待された.
著者
加藤 守通 井ノ口 淳三 相馬 伸一 大田 光一 下司 裕子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、コメニウス中期の思想を代表する主著『光の道』に焦点を当て、彼の教育思想の多義的・重層的性格を明らかにすることであった。成果は以下の通りである。(1)教育思想史のみならず科学史における基本文献である『光の道』の本邦初訳を完成した。(2) コメニウスと新プラトン主義およびルネサンス思想との関連を明らかにした.(3)コメニウス教育思想が学校教育を超えた生涯学習論へと展開していく過程を明らかにした。(4)『光の道』啓蒙思想との関連を明らかにした。(5) オランダ、チェコなどでの調査や発表を通じてUwe Voigt教授をはじめとした世界的なコメニウス研究者との連係を確立した。
著者
荒尾 晴惠 小林 珠実 田墨 惠子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】本研究は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害について明らかにし、患者自身が必要なセルフケアを実行できるよう支援する有効な看護介入を考案することにある。最終年度の平成22年度は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相を明らかにすることを目的として2つの研究に取り組んだ。【研究方法】研究(1)外来通院中の化学療法を受ける乳がん患者を対象に、認知機能障害の様相について質的研究を行った。半構成的面接法を行い共通したコードを集めてカテゴリー化した。研究(2)在宅療養中の乳がん患者を対象に研究者らが作成した認知機能障害の項目について自記式質問紙による調査を行った。研究の実施にあたっては、調査施設の研究倫理委員会で審査を受け承認を得た後に実施した。【結果と考察】研究(1)対象者は10名で、全員が女性、平均年令は53.5歳、2名が術前化学療法。〈自覚する認知機能の変化〉として《記憶力の低下》《思考力の低下》《注意力の低下》があった。さらに、《家族からの認知機能の評価》があり、自分では気づかないが同居者から指摘を受けていた。影響を与える状況として、末梢神経障害や倦怠感などの〈身体機能の変化〉と同時に〈心の在り様の変化〉があった。これらは《注意力の低下》に影響し〈いつもの暮らしの継続の支障〉として《自動車運転への支障》《対人関係への支障》を来していた。また《記憶力の儀下》は、《家事遂行の支障》を引き起こしていた。研究(2)対象者は30名(回収率62.5%)全員が女性平均年齢は55.3歳。認知機能障害の項目として対象者の自覚があったのは短期記憶、運動機能、情報処理速度だった。以上の研究成果から、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相の特徴が明らになったが、加齢による認知機能障害との識別など課題も明確になっており、対象者の人数を増やし程度や時期による変化についても検証していくことを今後の課題とした。
著者
六鹿 茂夫 渡邊 啓貴 小久保 康之 廣瀬 陽子 佐藤 真千子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、欧州近隣諸国政策(ENP)のイースタン・ディメンション、すなわち西部新独立国家(WNIS:ウクライナ、ベラルシ、モルドヴァ)および南コーカサス(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)をめぐる政治過程について海外調査研究をした結果、以下の結論を得た。1.EUは、ENPの二国間関係に加え、黒海シナジーという多国間協力を展開し始めた。2.ENPのアクション・プランは南コーカサスにも適用されるに至った。3.EU=ロシア関係において貿易は増大したものの、深刻な問題が露呈した。エネルギー問題の解決は困難を極め、「4つの空間」ロードマップも、人権やマスメディアの自由および凍結された紛争をめぐる溝を埋められないでいる。4.凍結された紛争をめぐるOSCEとEUの関係は、前者が主要アクター、後者がそれを後方支援する関係にあり、OSCEの紛争解決における重要性が増している。5.とはいえ、凍結された紛争におけるロシアの影響は依然として重要であり、その役割は極めて大きい。(6)EUはモルドヴァのトランスニストリア紛争解決にも一層積極的となり、問題を残しつつもEUBAM(国境支援使節)氏遣で同地の闇経済摘発と民主化に貢献し始めた。(7)米国の対黒海地域政策としては、ポーランドの米系NGOへの支援を通したウクライナの民主化支援や、チェコおよびポーランドへのレーダー基地の設置計画が重要課題である。だがロシアはその代替案として、アゼルバイジャンのレーダー基地を提示している。これは米露関係が中欧と南コーカサスという二つの広範な地域に展開されている証左であり、広域ヨーロッパを見る際の重な分析視角を提示するものである。ENPを通してWNISや南コーカサス諸国の民主化と市場経済化が推進され、それに伴い黒海地域諸国全体の地政学的戦略的重要性が一層高まった結果、今や黒海地域の安全保障環境が劇的な変化を見せている。
著者
橘高 二郎
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

イセエビ類フィロゾーマの完全飼育をJasus、PanulirusおよびPalinurusの3属について行うと共に、天然採集により得たプエルルスを用いて生態観察および生理実験を行った。1.変態プエルルスの作出 従来困難であったフィロゾーマの完全飼育は、飼育条件としてNannochloropsis sp.100〜500万細胞/ml、アムモニア態窒素1.4ppm以下、COD1.2ppm以下、細菌数10^3〜10^5CFU/mlを適用することにより達成された。平成4、5年度のプエルルス生産尾数はJ.edw-ardsii 5、J.verreauxi 24、Panulirus japonicus 4、Palinurus elephas 2尾であった。プエルルスの観察実験への供試尾数の増加を図るためJ.edwardsii(ニュージーランド)、J.verreauxi(オーストラリア)、Panulirus argns(米国)のプエルルスについて天然採集を行った。2.プエルルスの生態 飼育によるプエルルスの期間は最短でPanulirsuおよびPalinurusは12日、Jasusは20日であった。これらのプエルルスはすべて無投餌で稚エビに脱皮し、水温がプエルルスの期間を決める唯一の環境要因であることが示された。プエルルスは水温の変化に対して抵抗性があり、冷水性のJasus属は28℃の高温に、温水性のPanulirus属は15℃の低温に耐えることができた。着底基盤はJ.edwardsiiは岩の割れ目、J.verreauxiは海藻であるが、P.japonicusはその両方、P.ele-phasは岩の上であった。なおJ.edwardsiiでは潜砂行動に日周性が示された。3.プエルルスの生理 変態後接岸するまでの間のプエルルスは透明であるが、定着数日後には中腸腺が肉眼で認められるようになり、甲殻への色素の沈着が進行して稚エビに脱皮する。プエルルスの中腸腺前葉・中葉の先端部(J.edwardsiiの場合)、または中葉・後葉の合流部(P.argusの場合)には樹状に体腔中に延びる脂肪体の存在が認められた。プエルルスの生育に伴い脂肪体は減少し、それがプエルルス期の栄養貯蔵器官であることが示された。
著者
林 春男 田中 重好 卜蔵 建治 浅野 照雄 中山 隆弘 亀田 弘行
出版者
広島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

広島地区(2124名)及び弘前地区(928名)で共通のフォーマットを用いた住民への意識調査を行い以下のような結論を得た。(1)今回の調査では人口109万人の広島市、17万人の弘前市、さらに純農村である青森県平賀町を調査対象とした。人口規模では大きな差異がみられる広島・弘前両市の住民の間には、今回の台風を契機とするライフライン災害に対する対応には差異がみられなかった。しかし、平賀町と市部との差異は顕著なものであり、少なくとも人口100規模までの都市では都市型災害の様相及び防災対策に共通性が存在しうる。(2)被災住民のがまんには3日間という物理的上限が存在すること。(3)復旧に関する情報の提供のまずさが被災住民にとって最も不満であった。住民が求める情報と提供される情報との間には大きなギャップが存在し、情報伝達手段もマスメディア主体となるために、一方的な情報提示に過ぎなかった。こうした事実をもとに被災地域内での情報フロー・システム構築の必要性が議論された。広島地区では中国電力をはじめとする各種行政機関及び指定公共機関を対象に台風9119号に対する危機対応についてヒヤリングを中心にして検討した。その結果、広島市の中央部が配電線の地中化事業が講師が完成していたために、他の地域とは違い停電期間がきわめて短く、広島市における「文明の島」として機能したことが明らかになった。こうした文明の島の存在によって、停電期間中であっても広島市民は「個人的生活」に関する不安は高かったものの、「社会的サービスの提供」に関する不安は低く、それが停電期間中に大きな社会的混乱がみられなかったことに貢献していることが議論された。
著者
直井 信久 中馬 秀樹 中崎 秀二 丸岩 太 新井 三樹 中野 徹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本年度の研究は人体で計測した臨床電気生理学的実験とネコ、ニワトリ網膜を用いて行った動物網膜の電気生理学的実験を行った。臨床電気生理学的には正常者と網膜内層の異常があると考えられる緑内障眼において、多局所網膜電図(Sutterら)を測定した。緑内障眼では有意に多局所網膜電図各波の振幅の低下、頂点潜時の延長が認められたが、これが網膜内層の変化を反映しているのか、視細胞など外層の変化を反映しているのかは、来年度以降の基礎実験が必要である。基礎実験の内、M波については薬理学的手法を用いて行った。TTXを用いてナトリウム依存性活動電位を抑制するとM波は変化しないがERGのoff反応は減少した。M波のon反応はAPB投与により極性が反転し、この反転した波はaspartateによって消失した。また網膜電図のSustained negativer responseはAPBによって変化しなかった。この様にM波の臨床的ERGへの関与は小さいが、パターン刺激のように小さい刺激野で刺激する場合などでは関与する可能性が考えられた。Scotopic threshold response(STR)に関しては、微少電極でこの波のdepth profileを調べることができたが、STRは内網状層付近で最大となり、網膜中心付近(60%の深さ)で極性が逆転した。このことは、この点より近位側に電流のsinkが存在することが推定され、電流のsourceはさらに遠位側にあると考えられた。またカリウム選択性電極を用いてカリウム変化を測定した結果ではカリウム濃度の変化と網膜電図の変化に密接な関係がみとめられた。
著者
新井 三樹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

パターン視覚誘発電位(PVEP)は眼科領域では眼底黄斑部や視神経の機能評価に用いられ、病変による機能障害の判定などに利用される。PVEPのうち刺激の反転頻度が早い、8ヘルツ以上のものをsteady-statePVEPという。刺激の空間周波数を変化させるとPVEPの振幅はある空間周波数で最大となり、その空間周波数より高いものでも低いものでも振幅は低下する。この現象を空間周波数特性と呼ぶが、この特性を利用して他覚的に視力を測定することができるようにしたものがスイープPVEPである。この方法で得られた視力(PVEP視力)と通常の視力表を使った自覚的視力検査との違いをみるために正常者の眼前にアクリルフィルターをおき視力を低下させてPVEP視力と通常の視力を測定し比較した。フィルターなしの状態で通常の視力検査での視力が1.0以上のときでもPVEP視力は0.6から0.7を示した。アクリルフィルターの数を増やすと通常の視力検査による視力が低下するよりも早くPVEP視力は低下を示した。通常の視力検査とPVEP視力は0.3で一致したが、1.0から0.3のあいだでも両視力検査の値は1オクターブ以上離れることはなかった。実際の臨床ではどれくらい視力が障害されているのかを評価することに使用するため、視力が良い状態での両視力検査の乖離はあまり問題にならないと思われる。また、各種眼疾患による視力障害をもつ80例に対しても両視力検査を行い相関をみた。通常の視力検査では0.3より良い症例ではPVEP視力は低くなり、反対に通常の視力が0.3以下になるとPVEP視力はよくなる傾向がみられた。両視力検査の間の相関係数は0.66であった。特に黄斑疾患の症例で両者の相関は高かった。乳幼児に対してもPVEP視力測定を行う予定である。
著者
饗場 和彦
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本がPKOや難民支援のために自衛隊を送ったのは1992年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が初。以後、モザンビーク、ルワンダ、ゴラン高原(シリア・イスラエル)、東ティモールと派遣され、イラクにも特別措置法に基き2003年末から派遣されている。本研究ではこうした自衛隊の活動の実態を検証し、課題を分析、考察した。東ティモールはすでに終了し、イラクは治安が改善しないため現地調査に入れなかったが、ゴラン高原は現地調査を実施し、国内ヒアリングなどを行った。成果としての主な知見は、まず致命的弱点としての現地における適応障害の存在、である。自衛隊は憲法との関係上、宿命的に「軍隊でないこと」を条件付けられているが、PKOをはじめ紛争地における平和構築支援としての活動においては「軍隊であること」を求められるため現場では大きな乖離、矛盾が発生、しわ寄せは現地の自衛隊員に行っている。また、海外における自衛隊の活動の「性質」についての区別、も重要。自衛隊の海外活動は、概念としては、a)日米同盟の観点から日本の安全保障という国益を図る性質の強い活動と(日米同盟のための海外派遣)、b)国連などの多国間協調の観点から国際社会の公共益に資する性質の強い活動(国際社会のための海外派遣)、とに区分でき、この視点を区別しておかないと自衛隊の海外派遣は軍事主義としての危険性をはらむ。さらに、民軍関係の問題も大きな課題としてある。近年の平和構築支援の活動では軍事組織と文民組織が共同して当たる形が多いが、そこでの両者の関係のあり方、協働の仕方は功罪両面あり、自衛隊としても早急に検討され対応されねばならない課題である。
著者
松浦 正孝 SKABELUND A.H
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

第二次世界大戦後、日本では、軍隊の役割及び「兵士」の意味が大きく変わった。「平和憲法」の制定、教育改革、また強い平和精神の定着により軍への支持は薄れていった。軍隊及び軍隊の理念は、20世紀の後半、世界中で、大きな不信感を持たれるようになったが、日本ほどこの傾向が強く、また永続的だった国はない。この研究は、「日本軍」の戦後の社会史に着目するにあたり、3つのテーマを提示する。第一に、帝国軍と自衛隊の間の組織的、思想的な連続性と断絶性である。第二に、米軍と自衛隊の対等でない同盟関係である。第三に、自衛隊と社会の関係である。自衛隊において目に見える大きな組織的な変化と目に見えない人事的あるいは思想的な連続性が存在したという視点は、今まで論じられてきた日本戦後の政治史と経済史とは異なった新たな歴史的文脈を提示するものと考えている。本研究実績として、自衛隊と米軍と地域社会との関係を探るために次の二つの研究手段をとった。第一に、自衛隊と米軍のやりとりを回顧録、口述歴史、また基地周辺地域でのインタビューによって見直した。この米軍のプレゼンスこそが、自衛隊の存在が不透明である理由の一つであると考えるからである。第二に、地域社会との関係を探る為に、北海道や他の地域で資料収集や隊員および自衛隊関係者とのインタビューを行った。半世紀の間、自衛隊は社会から敵意を受けることなく、関心を持たれず、殆ど尊敬されなかったのが実情であった。組織として、それに対して自衛隊はどういう対策を取ってきたか、また隊員はどういう経験をしてきたか調べた結果、特に災害援助と地域社会への貢献(札幌雪祭りなど)の経過に注目した。
著者
山田 満
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

2004(平成16)年度は、本研究課題の最終年度ということで、4月にインドネシア、11月に東ティモールを訪問して最終的な聞き取り調査を行った。2004年5月にはPKO(国連平和維持活動)に従事していた日本の自衛隊が撤退した一方で、国連東ティモール支援団(UNMISET)の撤退が1年延期された。このような国際社会からの支援・プレゼンスが大幅に消失していくなかで、東ティモールの政治社会、経済状況はどのように変化しているのか、さらにはどのような状況に変化していくのかを調査した。前年度の研究実績報告書にならって、構造的要因と引き金要因の視角から整理しておきたい。(1)構造的要因:24年間実行支配をしてきたインドネシアとの関係は、同支配下における人権侵害のトラウマは依然残ってはいるものの、東ティモールの安全保障上、経済状況から考えた現実的な政策を背景に両国の関係はかなり改善されてきている。国内要因では中央と地方の経済格差、雇用機会の格差、ポルトガル語公用語問題など、社会経済的要因も絡み、次期総選挙に向けて紛争要因が高まっているといえよう。(2)引き金要因:最大の紛争要因はやはり雇用問題であろう。特に、元兵士(元独立ゲリラ)の雇用創出が進んでおらず、彼らの不満は社会混乱の不安定要因になっている。同様に若い世代の不満も高まっており、次総選挙へ向けて社会的緊張が高まっている。また、強権的な政治運営を行っている現内閣への不満が経済運営の失敗と重なった場合、東ティモールの政治社会の紛争要因はいっきに高まるものと思われる。
著者
長谷部 信行 BEREZHNOI A. A.
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

月・惑星研究において、ガンマ線と中性子による核分光法を利用して天体表面全域の元素の濃度分布や平均質量を求め、月・惑星の形成と進化の研究を進めている。主な研究成果を以下に示す。1)月表面から放出される核ガンマ線のシミュレーション2)月表面における揮発性元素H,CO_2,SO_2の存在可熊性3)流星群衝突と月震による月からの電波放出1)月表面におけるガンマ線及び中性子の発生と輸送機構を実験的及び数値計算的にシミュレートし、元素濃度の評価方法の基礎過程を構築した。それに基づけば、ガンマ線分光計のエネルギー分解能が5keV以下の場合、水素及び硫黄の検出が可能であるという結論を得た。従って、月の極域にそれらの揮発性物質が存在すれば検出できることを示した。2)月面揮発性元素の彗星起源説について評価を行った。その結果、炭素に富む彗星では現在までに推測されている揮発性元素の存在量を説明することはできず、酸素に富む彗星であれば、十分に存在量を説明することができるとの結論に至った。水、二酸化酸素及び二酸化硫黄が安定に存在できる極域内の面積を算出し、それら元素の注入率に制約を与えた。SELENEで水、イオンの検出ができることを可能性を示した。3)1999年から2001年までのしし座流星群到来時の電波観測データの解析を複数の波長を用いて行った。1999年のデータからは月からの信号を見出すことはできなかったが、2000年、2001年においては流星群によると思われる信号を発見した。また、数分にもおよぶ振動の存在を確認した。
著者
石田 哲朗
出版者
山梨大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

1.InGaPおよびInGaAsP 状態図の計算と実験結果の比較750,700℃のIn GaP液相線を、全固相組成xの範囲で実験的に求めた。さらに、GaAs(111)B基板上に液相エピタキシアル(LPE)成長させたときの、液相組成と固相組成の関係を明らかにした。それによれば、750℃の溶液では、溶液中のP濃度が0.014〜0.018原子比でx=0.56〜0.50の結晶が成長し、700℃では、P濃度が0.008〜0.010原子比でx=0.53〜0.48の結晶が得られた。これらの結果は、成長層の歪エネルギーを考慮した状態図の計算とよく一致している。四元系のInGaAsPについては、GaAs(100)基板上に格子整合する状態図(800℃)を実験的に明らかにし、計算値と比較した。液相線については、計算値と比較的よく一致するが、固相線については、よくは一致しなかった。これは、相互作用パラメータ等の値がまだ十分明らかになっていないためである。2.In Ga AsPのLPE成長成長温度800℃で、GaAs(100)上に平衡P蒸気圧印加温度差法でLPE成長させた。成長層のホトルミネセンス(PL)ピークエネルギー(77K)が1.9eV以上または1.75eV以下の結晶では、表面は鏡面状である。PL半値幅および(400)X線回折スペクトルの半値半幅も、それぞれ20meV以下および0.05度以下と狭く、結晶性は良い。一方、1.85〜1.9eVのPLピークエネルギーをもつ結晶の表面は曇っており、基板のメルトバックも観察され、界面も平坦ではない。PL半値幅も40meVに急増し、X線回折半値半幅も約0.13度に増加する。さらに、成長層からのX線回折強度は極めて弱くなる。1.7〜1.85eVの結晶は、800℃では成長しなかった。これらの成長層の結晶性をInGaAsP状態図上で考察すると、バイノーダル曲線内の結晶は、非混和性のために得られにくいと結論される。
著者
長谷川 信美
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

牛におけるストレス負荷時のAVP投与後のACTH・Cortisol分泌反応変化が、ストレス評価方法となるか検討を行なった。1.社会的ストレス実験 実験区ホルスタイン種育成雌牛5頭を乾乳牛群(5頭)へ混群し、対照区は元の群にとどまった3頭とした。混群前(P期)、混群後3(D3)、7(D7)、14(D14)、21日(D21)に剄静脈AVP投与後0・10・30・60・120分に採血し、血漿中ACTHとCortiso濃度を測定した。闘争の勝敗より各個体の優劣順位(ADV)を評価した。実験区は混群後優劣順位が低下した。AVP投与後血漿中ACTH濃度は、0-60分では日間差はなく、血漿中Cortisol増加反応は、実験区では30分を除く各時間で混群後有意に低下した(p<0.05)。対照区では差はなかった。実験区ではADVはD3にACTH濃度と正の相関を示し(p≦0.05)、優劣順位の高い個体ほどACTH濃度が高く、順位低下量が大きい個体ほどCortisol濃度が低かった。2.暑熱ストレス実験実験区黒毛和種去勢牛3頭ホルスタイン種去勢牛2頭計5頭を日中2時間直射日光に暴露し、対照区は同品種同頭数を畜舎内に繋留した(最高気温実験区38.0℃、対照区34.7℃)。頸静脈AVP投与後0・5・15・30・60・120分に採血を行った。血漿中ACTH濃度は実験区と対照区間では有意な差は示さなかったが、異常値を示した個体を各区1頭ずつ除くと、5分・15分で実験区よりも対照区が高い傾向を示した(p=0.06)。血漿中Cortisol濃度は、実験区と対照区間では有意な差は示さなかった。これらから、AVP投与後のACTHとCortisolの分泌反応は、ストレス評価方法として有効であることが示された。また月齢によりAVP投与後のACTHとCortisol分泌反応は異なることが示された。
著者
柿本 竜治 溝上 章志
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.路線別バス事業経営評価手法の開発平成14年の道路運送法の改正により,バス路線の需給調整規制の廃止とともに地方バス補助制度も改定された.これにより,これまで内部補助を前提としていた事業者への補助措置ではなく,生活交通確保のために地域にとって必要な路線に対する路線毎の補助制度に改められた.補助金投入に際し,従来,路線を評価する指標として営業係数や輸送密度が用いられてきたが,これらの指標による評価には営業費用を最小にする投入や産出がなされているかという企業努力は不問としている.そこで本研究では,生産性と集客性で構成される「企業努力面」と,公共性と収支性で構成される「経営・環境面」とにより路線を分類し,さらに運行サービス水準等の路線の特性による主成分分析を行い,路線改善策を抽出する方法の提案を行なった.この方法により,公的補助投入対象路線を効率的に絞り込むことが出来るとともに,補助対象外の路線を維持するための具体的な改善策を示すことが出来た.2.路線別特性評価に基づくバス路線網再編手法本研究は,バス輸送の持つ平均生産性構造と実績費用とを比較することによる当該路線の生産効率性,および路線沿線の潜在需要と実際に獲得した乗車人員との比較による潜在需要の顕在化可能性という2つの視点から,バス路線別の特性評価を行なう方法を提案したものである.さらに,この特性評価法による路線の分類,および分類された路線を改善する合理的でシステマティックな路線再編方策を示す.熊本都市圏を対象として汎用交通需要パッケージの一つであるJICASTRADAを利用し,この路線分類別改善方策にしたがったバス路線網の再編を試みた.再編バス路線網に対して交通需要予測を行なった後路線別,および路線網全体の乗車人員や営業係数などについて効果分析を行い,本手法の実用可能性と有用性を検証した.