著者
大塩 寛紀 GRAHAM Newton NEWTON Graham
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、高い分子設計の自由度と電子状態の多様性をもつ金属多核錯体の特徴を生かし、適切な有機配位子を選択し、反応条件の試行錯誤を行うことにで、金属イオン間の相互作用や相乗効果による特異な物性・反応性の発現を目指して研究を行う。特に、自己組織化を伴う超分子錯体合成においては、生成物質を正確に予測することは困難であり、高度に分子設計することでプログラミングされた自己組織化を行うことは機能性分子材料の開発に不可欠であるといえる。本研究では特異な分子構造・結晶構造および電子状態をもつ超分子の創出を目的とし、以下の実験を行った。金属イオンの多核化に必要な架橋配位子であるトリアミン誘導体の合成を行い、これを原料とする新規配位子を合成した。さらに,これまで合成したコバルトクラスターや他の骨格構造をもつクラスターのコリガンドを変えることにより、反強磁性的相互作用をもつ多核錯体など、多様な磁性を示す物質系の合成に成功した。トリアジン骨格を持つリジッドな新規配位子をもちいた場合、金属イオン間に反強磁性的相互作用を示す、混合原子価多核金属錯体M_6(M=Ni, Co, Mn)の合成に成功した。また、異種金属錯体である{M_3M'_3}錯体(MおよびM'=Ni, Co, Mn)の合成にも成功し、元素分析・構造解析および磁気測定から、混合金属多核錯体であることが明らかとなった。これらの結果から、適切な配位子選択と合成条件の試行錯誤により、特徴的な磁気的相互作用を示す様々な多核金属錯体の構築に成功した。
著者
森 欣司 藤原 英二 久保田 稔 呂 暁東 森山 甲一
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、必要な情報サービスを得られるためには、状況に応じてユーザが動的に集まり協力して処理を行なう「コミュニティ」アーキテクチャを提案し、これに基づき、コミュニティ通信・処理技術を提案した。1. コミュニティメンバが個別に変化するサービス要求・機能・情報を持つ分散環境下において、機能不完全なサブシステムが存在する場合にもシステム全体の稼働を保証する自律分散システムコンセプトに基づき、各サブシステムがそれぞれの持つ機能・情報の部分的な共有を繰り返すことにより連携し、高信頼で柔軟な通信・処理を統一的に捉えるデータ指向型システムアーキテクチャを提案した。2. コミュニティ内のネットワークがサービスのレベルに応じて通信範囲を限定しながら自律交信する技術、とユーザが要求するサービスをネットワーク内にて逐次検索を行い、サービス提供者の応答の伝幡によってユーザ要求の拡散を抑制する技術を提案した。3. サービス提供者やユーザの分布等の状況を反映し、サービス情報が配布・共有されるコミュニティエリアを動的に構築する技術、コミュニティメンバのダウンなどの障害が起きたときに、所定の情報配布エリアに対して必要な情報を配布することができるノード間自律協調技術、とサービスの質とそのアシュアランス性を保証するため、各ノードが自律的に冗長ノードの確保と構造の再構築を行なうための自律負荷漸近調整技術を提案した。実際に自律分散コミュニティシステムプラットフォームを構築し、このプラットフォームによって、インターネットを介した研究協力者との共同実験を行い、提案技術の有効性を検証した。
著者
小田内 隆
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究計画は12世紀末から13世紀にかけての北中部イタリアにおけるカタリ派、都市コムーネ、教会の諸関係を、この地域の独自の政治的社会的環境の中で研究し、ラングドック地方のケースとの比較を通じて、カタリ派異端の形と意味の多様性、およびそれに対する態度、政策の地域的偏差の重要性を明らかにしようとした。この報告書では3年間の期間でなされた、以上の計画のための基礎作業の成果の一部を3つの章に分けて提示した。第1章では、異端審問を権力過程の問題として考察する上での方法論的な諸問題を考察した。主として、Tアサドの研究に導かれながら、異端統制のための制度的メカニズムである異端審問の権力作用を具体的な歴史的コンテクストで分析する上での理論的な枠組みを素描した。とくに、異端審問が「告白」の制度の出現と密接な関係に立つことを踏まえて、フーコー的な権力論による理解が目指された。第2章では、ラングドックの異端審問に関する研究を踏まえて、同時代のヨーロッパにおける権力技術の発展の一部として異端審問の成立を理解した。異端と教会(異端審問)の関係は、地域社会の複雑な権力関係の網の目の中に置いて初めて、理解可能である。第3章では、Cランシングによるオルヴィエトのカタリ派に関するミクロな研究を紹介しながら、北中部イタリア都市におけるカタリ派の問題を、コムーネという特定の権力空間のなかでおきた「聖なるものと権威との関係」をめぐる論争という視点から考察した。現段階ではなお史料研究にもとづく研究成果には至らなかったが、少なくとも以上の作業にょって異端を具体的な権力関係の相において解釈し直すための枠組みを確立することはできた。
著者
大河内 信夫 名取 一好
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者大河内信夫は、2000年度学校要覧に示された農業に関する学科の教育課程表を分析した。その結果、1990年度調査に比較して、以下の点から「多様化」がキーワードになることを明らかにした。(1)学科名称が1990年度調査よりも多様になり、「農業科」の占める割合が低下していた。教育内容ではなく、自営者養成=農業科という観念を名称変更によって払拭しようとしているように見えた。(2)普通科目と専門(職業)科目とのそれぞれの合計単位の比率を比べると、普通科目の単位数が専門(職業)科目の単位数を上回る学校が圧倒的に多くなった。(3)選択科目では普通科目と専門(職業)科目との組み合わせの割合が多くなり、学科内でのコース制をとる傾向にあった。(4)専門(職業)科目間の選択を設けている学校は、1990年度調査結果(調査回答校中46.5%)に比べて大幅に増加し、2000年度調査結果は回答校中65.1%であった。(5)「農業に関するその他の科目」に該当する科目名称は、90科目と非常に多く、そのうち69科目は1校でしか開講されていなかった。最も多く開講されている科目でも7校に過ぎなかった。前年度行った「総合実習」に関する調査について、研究分担者名取一好とともにデータ整理、分析を行った。その結果、総合実習の目的について、上位の3つは「農業の実践的技法(技術)を学ぶ」「農業体験を重ねる」「座学の知識を確かめる」となっていた。「農業を受け継ぐきっかけを用意する」「農業を主体的に継承する意志をつくる」といった項目は下位であった。多くの学校(91.5%)が総合実習に時間外実習を含めていた。総合実習に農家での実習を含めていない学校は36.4%あった。農家での実習を実施している学校においても、生徒全員に課している括弧うは全体の15.0%であった。「講義」科目と総合実習との関係では、「講義」科目の実習は「講義との関係で必要」と回答する学校が最も多く、「総合実習があるので各科目での実習は不要」とする学校は皆無であった。一方、「総合実習は農場維持のために必要」とした学校は11.9%であった。農業教育の目的は、農業政策上の制約に由来して農家子弟の教育となってきたため農業後継者の要請として機能しなかった。総合実習もこの枠組みから抜け出せなかったと推察された。
著者
〓 斗燮 小井川 広志 村岡 輝三
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は昨今の東アジア経済の構造転換を「直接投資時代」への移行段階として規定し、その本質を企業連携、産業金融、地域協力という三つの局面において総合的な把握を試みた。この場合、直接投資の雁行型拡大により好調を続けてきたアジア経済が1997年タイの通貨危機以降、地域全体が構造的な危機を露呈している現状に鑑み、以下の三つの追求すべき課題を設定した。(1)「アジア型発展」モデルが90年代の後半に急激に機能不全に陥った理由は?。再び成長基調に乗せるための条件と問題点は何か。(2)経済成長の持続化ためには成長段階に合わせて人材の質を高める必要があるが、学校教育と企業内教育とどちらが有効であろうか。(3)「アジア型発展」モデルは、究極的には日本企業による企業内国際分業の展開及び高度化にその本質がある。今後の直接投資は、大企業よりは中堅中小企業による国境を越えた成長戦略がカギになるものと考えられるが、彼らの国際化を支える競争優位や企業文化とは何か。以上の三つの課題に対する我々の答えは以下の通りである。(1)「アジア経済」の成長は、アメリカ、日本、アジア諸国の3者(トライアングル)による技術、資本、地域協力の枠組みに内在する「協力」と「緊張」の好循環によるもの。しかし、昨今の通貨危機のなかで既存のトライアングルが持つ弱点がはっきりしてきた。特に、金融・通貨面での対応能力が脆弱である点が明らかになった。対応策としては、地域経済路力機構(ASEANやAPEC)の機能強化、共通通貨や通貨圏の設置などが不可欠であるが、問題は2大勢力の円(日本)と人民元(華人経済)が共通目的に向けて協力できるかである。(2)日本の高度成長は質の高い人材を長期安定的に供給できた点に負うところが大きいが、教育投資による経済的効果に関する定量分析によれば、いわゆる学校教育による労働生産性の増加効果はそれほど大きくない。企業内教育(OJTを含む)の重要性を示唆する結果である。(3)中堅企業の国際化がアジア経済を再び成長軌道に乗せるには非常に重要なファクターである。高い競争力を持つ中部圏の製造企業11社に対するヒヤリング調査から以下の点が確認された。第一は、全体として国際化にはまだ消極的であること。第二は、ある特定技術分野に特化した専業企業が多いこと。第三は、カリスマ的な創業者による独特の組織文化を共有していること。第四は、上位文化として製造業や熟練の継承に好都合の地域文化(中部圏)が存在していること。アジア経済の再生には、こうした中堅企業の対アジア進出と組織文化の地域的な拡散が大きく寄与するものと考えられる。
著者
渡部 和彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究における成果をまとめると、これまで一流スキージャンプ選手の踏み切り局面における構えおよびサッツ動作の解析を行うことができた。それと合わせて、足底部圧力分布と圧力中心点(COP)の移動の特徴を解析した。その結果次のような知見を得ることが出来た。(1)バイコンシステムによる3次元画像解析装置により、選手のサッツ動作時における構えのシミュレーション実験を行い、身体重心位置(COM)を特定するとともに、地面からのベクトルが圧力中心位置(COP)といかなる関係にあるかを静的な条件のみならずダイナミックな状態で記録し、すぐさまそれを分析して、その場でコーチ・選手に結果を呈示することを可能とした。このことにより、研究者がその実験資料の意義をについて解説・説明し、その場所で資料を基に、選手・コーチと共に結果と今後の取り組み方等を論議することができるようなシステムを構築できた。(2)足底圧のCOP移動軌跡から、一流選手の特性として、サッツ動作を行わせた際の移動軌跡を分析した結果、COPが足部の尖端近くにまで及んでいるものと、その手前で終了してサッツ動作を行っているものとがあった。その違いは、サッツのテクニックおよび跳躍の高さと関係があることが判明した。ある一流選手のサッツ直後のスキー板の変動とサッツ動作の選手の特性との関係が明らかとなり、選手・コーチの疑問に対してその場で、実験資料を基にアドバイスなど指導することができることが示された。その結果、オリンピック直前に代表選手の一人は、自分が抱いていた疑問を払拭して自信を持って自己のサッツ動作を行いトリノのオリンピックに出場した。良い成績を上げることができた。このたびの研究における成果の一つであり、我が国のオリンピックの成績に貢献できたと考える。今後の指導のあり方に、具体的な方向を示すことが出来た。
著者
片方 信也 佐々木 葉 小伊藤 亜希子 室崎 生子
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 中高層集合住宅の建設動向:京都市都心部では、バブル期についで1993年以降再び中高層集合住宅の建設ラッシュに見舞われている。1993年以降の特徴は、分譲、および9階建て以上の高層の割合いが増えていることであるが、敷地規模は依然として多くが400m^2以下であり、周辺の町並みの日照を奪っている。2 都心部中高層分譲集合住宅入居者の特性:1993年以降では3〜4000万円台と分譲価格が下がっているため、子どものいる世帯を含めて多様な世帯の入居がみられる。全体の7割は京都市内からの転入であり、うち半数は都心部内からである。6割の世帯に現在、または以前に都心部に住んでいた親族がおり、都心部とのコネクションの強い住民の入居が多いことがわかった。3 中高層集合住宅に対する周辺住民の対応:中高層集合住宅の建設に対して、日照やプライバシーの侵害、ビル風等の実施的な被害に加え、周辺住民が多大な不安を示していることがわかった。それは、マナーが悪い、だれが住んでいるかわからない、といったコミュニティ形成上の問題である。また、中高層集合住宅建設時に町内会として業者と交渉したり、建築協定を作って対応するといった積極的な動きがみられる。4 中高層集合住宅の立地する町内のコミュニティ形成:集合住宅自治会として町内会に属し、町内会の行事にも参加しているケース、管理人だけが町内会とのつなぎをしているケース、まったく別組織にしているケースなど、集合住宅の町内会との関係は様々であった。概して、集合住宅住民と周辺既存住民の交流は薄く、周辺環境を破壊する集合住宅の建て方がコミュニティ形成のひとつの疎外要因になっている。5 京都市都心部の地域ストックの享受と破壊:周辺既存住民と同様に、集合住宅入居者も、生活のしやすさ、便利さ、歴史や文化の存在、自然環境等、京都の都心部の「京都らしい」環境を評価して入居しているが、現在のような中高層集合住宅の建設は、その環境を破壊しつつあるという矛盾を抱えている。
著者
箱山 洋
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

無性型・有性型からなるフナ類の集団は同所的に共存している。この共存のメカニズムを理解することを目的とした。(1)野外個体群動態から、共存を可能にする3つの仮説(病気、中立、メタ個体群)を棄却した。(2)実験個体群で、有性生殖のオスを作るコストの個体群への影響を初めて実証した。(3)発育段階ごとに、有性・無性型の成長率の違いを明らかにした。結論として、共存メカニズムは出生率の差に関する何らかの要因によることが示唆された。
著者
大隅 典子
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

脊椎動物の脳形成はまず外胚葉に神経上皮が誘導され、その後背側で癒合して神経管が形成されるとともに、前後軸に沿ったいくつかのコンパートメント(分節)に分がれることによりなされる。近年、多数の形態形成遺伝子やシグナル分子がこの脳分節に特異的に発現することが報告されており、脳の分節構造は形態的な単位であるばかりでなく、その後の領域特異的な神経細胞の分化やネットワーク形成の基本単位として極めて重要な役割を果たしていると推定される。ショウジョウバエの形態形成遺伝子であるpairedのホモログの一つとして同定されたPax-6遺伝子は転写因子をコードし、発生中の前脳や菱脳・脊髄で領域特異的に発現する。本研究では実験発生学的手法と分子形態学的手法を駆使することにより、脳分節形成の細胞系譜的解析および脳のパターニングにおけるPax-6の役割について解析することを目的としている。今年度は、Pax-6陽性領域である前脳コンパートメントの成立とその運命地図の作成について、培養マウス胚を用いて詳細な解析を行った。さらに昨年度確立した電気穿孔法による培養哺乳類胚への遺伝子導入系を用いて、前脳コンパートメントの維持にカドヘリン群が果たす役割を解析した。また、ラット胚菱脳部において、Pax-6の下流の分子カスケードについて解析し、Wnt遺伝子によってコードされる分泌因子がlslet2などの遺伝子発現を調節することにより、神経細胞の多様性獲得に役割を果たしていることが示唆された。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経細胞壊死の機構解明を目的として、2つのテーマで研究を進めてきた。第一に、一過性の脳虚血負荷後の遅発性神経細胞壊死や、カイニン酸などの薬物投与による急性神経細胞壊死に、NMDA受容体チャネルがどのように関与しているかを検討した。カイニン酸投与による急性中毒では、4種類のNMDA受容体チャネルεサブユニットをノックアウトしたマウスはいずれも耐性を示したが、とりわけε1サブユニットノックアウトマウスは高い耐性を示した。また、眼圧上昇による一過性虚血負荷により発生する遅発性神経細胞壊死が、NMDA受容体チャネルサブユニットε1-4失損マウスでどのように起こるかを経時的な組織学的検索により検討した。その結果、一過性虚血負荷により発生する視神経細胞及びアマクリン細胞の遅発性の壊死が、ε1サブユニットノックアウトマウスではほとんど起こらないことが明らかになった。以上のことから、これらの神経細胞壊死の過程にNMDA受容体チャネルを介する過程が存在することが示唆された。一方、ヒト疾患モデル動物を作成するために、ヒト家族性パーキンソン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症の原因遺伝子であるα-Synuclein、SCA1およびDRPLAのマウスカウンターパートをノックアウトした動物の作成を進めている。現在、それぞれの遺伝子のマウスカウンターパートを得るために、プローブ用のマウスcDNAクローンを検索している。
著者
牛田 享宏 大迫 洋治 末冨 勝敏 小畑 浩一 石田 健司 藤原 祥裕 神谷 光広 石田 健司 藤原 祥裕 神谷 光広 小畑 浩一
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

四肢の不動化(ギプスやシーネの装着あるいは過度のベッド上安静)はしばしば不動化した部位の廃用とそれに伴う痛みが生じる。しかし、この痛みのメカニズムについてはまだ明らかにされていないのが現状である。そこで我々は独自に開発したギプス固定法による前肢拘縮モデルを作製し、痛みの発症のメカニズムに関与する脊髄後角における神経ペプチドであるCGRP、転写因子であるC-fosおよびアストロサイトの活性マーカーであるGFAP、ミクログリアの活性マーカーであるCD11 bについて調査した。また、後根神経節においてCGRP陽性細胞の大きさとその分布について調査を行った。更にこのような拘縮に対する運動療法の有用性を検証する目的での訓練の効果について調べた。その結果、ギプス除去後にギプス固定側の脊髄後角においてCGRP陽性線維の増加、C-fosタンパク陽性細胞の増加、GFAPおよびCD11bの染色性の亢進が観察された。これらのことはギプス固定により、脊髄後角においてミクログリアやアストロサイトの活性化亢進し、それを引き金として炎症性神経ペプチドの増加などが引き起こされていることが示唆された。同時に調べた後根神経節細胞レベルのCGRP分布パターンの変化は、同部位においても長期のギプス固定により、後根神経節細胞に感作や可塑的変化が引き起こされていることを疑わせるものと考えられた。今回のモデル動物では、ギプスから解放を行っても治療を行った患肢を使う傾向が乏しい。そこで、水中訓練や反対側のギプス固定などを行ったところ反対側のギプスによって、生活障害が引き起こされると患側を使うようになり自ら動かすようになることが判った。今後はタイミングや運動強度などについても検証を行っていく必要があるものと考えられた。
著者
服部 健司
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

臨床倫理学の特異性はもっぱら個別特殊的なケースに照準を合わせたケーススタディに存する。ケーススタディの成果が豊かなものであるか貧しいかを決定する要因は、議論の仕方に先立ち、すでにケースそのものの叙法のもつ物語論的特性のうちに存する。具体的に言えば、カルテや症例報告を範型とした客観的自然科学的な視点からの記述よりも、見えない陰の部分、発せられる言葉の曖昧さ、明示あるいは暗示される意思の両義性の仄めかしをそのままに残した、多声性を含んだ文学的叙法こそが臨床倫理学ケースにふさわしい叙法である。次に問われるべきはケース解釈の妥当性をいかに確保し確証するかである。正典の妥当な釈義をいかにして得るかをめぐって興った解釈学が、その対象領域を文献一般、他者とその生、歴史へと拡張したのは一九世紀後半である。前世紀には、解釈の方法論の基礎づけという進路そのものの変更と深化が行われ、解釈学的哲学へと転回が図られた。臨床倫理学の領域での課題は、いわば共通の文化的地平上の大文字の文化の理解ではなくて、個々の人々の生きざまや迷いが描き込まれた小文字の物語としての臨床倫理学ケースの理解である。そのためには、解釈学的哲学以前の、方法論的な解釈学へとあえて意図的に後退する必要があるように思われる。客観的にではなくむしろ心理主義的、直観主義的な要素を排除するのでない仕方の解釈学でなければ、目前の小文字の物語を読み解く助けにはならないように思われる。この種の読みの技法を磨きつづけてきたのは文学であった。臨床倫理学の方法論的研究のためには、文学の哲学へと進んでいかなくてはならない。
著者
相内 眞子 相内 俊一
出版者
浅井学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、女性議員の選出に作用するアクターや条件を、日本、アメリカ合衆国、スコットランドの比較を通して検証することにある。議会選挙と議員の選出には、候補者の選考方法、政党の関与と支援、有権者の候補者選好傾向、さらに政治文化や選挙制度など、多様な要因が複合的に作用し結果に大きな影響を与える。本研究は、(1)アメリカにおける候補者選出過程に関する先行研究の紹介、(2)2006年のアメリカ中間選挙の分析、(3)2005年の衆議院選挙の分析、(4)2007年のスコットランド議会選挙の分析(5)ジェンダークオータの有効性分析などを中心に、主に国会レベルの議会への女性の選出につながる要因を抽出しようとするものである。女性の議会への選出については、その促進/阻害要因として、これまでは政治文化や有権者の候補者選好傾向がとりあげられてきたが、本研究はより制度的な側面に焦点を絞り、女性議員の選出に有効な選挙制度に着目した。その一つが、アメリカで議論され、近年採用州も増加しつつある「議員任期制=タームリミット」であり、もう一つが、世界に拡がりつつある「ジェンダークオータ制度」である。アメリカにおけるタームリミットは、『現時点では連邦議会にその効力は及んでいないが、女性の選出に必ずしも積極的な効果を与えていないことが統計上明らかになっている。また、ジェンダークオータ制度については、女性の選出を助けるものとしてその効果が評価される一方、自由主義的立場からは、有権者の選択権を制限するものだとする批判や、平等主義的立揚からは、不公平、逆差別等の批判があり、更にジェンダー論的立場からも賛否を巡る論争が続いている。本研究は、以上の共通の分析視点から3力国における女性の選出プロセスを検証したものであり、日本における政治学、選挙学研究においてまだ十分とはいえない分野に焦点を当てたという意味で、その重要性を主張できよう。
著者
森田 浩 刀根 薫 福山 博文 上田 徹 廣津 信義 関谷 和之 実積 寿也 刀根 薫 福山 博文 上田 徹 廣津 信義 実積 寿也 関谷 和之 高橋 新吾 篠原 正明
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

DEAにおける理論と応用の両面からの展開とその融合研究を行った。ネットワークDEAや不確実性下のDEA、評価指標の開発などの理論的貢献とこれらの成果の多様な分野への適用による事例研究における応用面での貢献を得ることができた。さらに、国際シンポジウムの開催や外国人研究者の招へいなどによる国際交流の活性化および国内におけるDEA研究の中心的役割を果たすことができた。
著者
國谷 知史 岡 綾子 菅沼 圭輔 真水 康樹
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本共同研究では、法学・政治学・農業経済学の諸領域において、農村の土地財産を巡る諸関係に関する制度・理論・実態の基本問題の発見と整理、およびいくつかの具体的問題の解明を進めた。法学領域では、重要な立法(農村土地請負法、農業法および物権法等)が相継ぎ、テーマに関する法整備が進んだことから、立法面・法制面での動きをフォローしながら法理論的問題の発見と整理、考察をおこなった。政治学領域では、基層といわれる「郷鎮-村」レベルの権力関係とそれを支えている構造をできるだけ詳細に明らかにするという課題を設定し、北京市に対象を絞って制度および実態の解明をおこなった。農業経済学領域では、農民の家族経営と農地の請負経営権の分配に関する研究を進めた。そこでの主題は、市場経済化を目指す中国において、農地(または耕地)という農業の生産要素が、他の生産要素(資本)あるいは他の土地(都市の工商業用地や住宅地)と同じように市場で取引される財となりえるのか、ということであった。以上のとおり各領域で本共同研究は進められたが、その結果、農村土地財産権に関する契約と権利構成の基本的内容、末端行政組織の形成プロセス、権利分配に関する集団の意思決定、に関する問題を明らかにすることができた。また、制度・理論・実態の諸層で矛盾が生じ、不安定な状況が生まれ、解決すべき問題が山積していることを確認することができた。その上で、市場経済への移行ないしは市民社会の形成を進めている中国について法学・政治学・経済学の共同研究を進めるにあたっては、「団体と団体構成員」または「集団と個人・家族」という分析概念を用いるのが有効であり、これらの概念で中国農村の土地財産を巡る諸関係を分析していくことが今後の課題である、という結論が導き出された。
著者
豊田 則成
出版者
びわこ成蹊スポーツ大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、元アスリートは、1)どのような出来事を転機として挙げるのか(転機のカテゴリー化)、2)いくつの転機を有するのか(転機の多少は何に起因するのか)、3)ひとつの転機をどのように捉えているのか(出来事をポジティブに捉える要因、ネガティブに捉える要因とは)、4)転機を転機として認める個人内基準とは何か、といったリサーチ・クエスチョンの下、3年間継続して実施された。まず、研究課題として、インタビュー調査の実施と「自己物語」の作成・検討を設定し、具体的には、1)インタビュー・マニュアルの作成、2)集中的なインタビュー調査の実施、3)自己物語の集積と質的分析、等の作業を行った。続いて、インタビュー調査の継続実施と研究成果の一部公開を課題とした。特に、モントリオールオリンピック大会に出場した日本代表選手を対象として、集中的なインタビュー調査を実施した。また、日本体育学会第56回大会(於:筑波大学)において、研究成果の一部を公開した。特に、大会本部が企画したオーガナイズドセッションにおいて、心理学領域のみならず、社会学や体力学、人類学等のプレゼンテーションと伴に、「スポーツ科学領域における事例研究の展開」といった共通のテーマ設定の中、ディスカッションできたことは意味深い。そこでの学究的刺激は、本研究の今後の展望について新たな知見の発掘を促した。そして、前年度に獲得したデータの補完を目指し、継続的なインタビュー調査を実施した。そして、日本体育学会第57回大会(於:弘前大学)において学会発表し、国内研究雑誌への論文投稿作業へと入った。特に、本研究をまとめるにあたり、「転機」といった観点から興味深い知見を得ることができた。そこでは、転機を経ることにより喪失というよりは獲得といった側面が強調され、そこには心理的成熟をみることができた。
著者
吉田 美喜夫
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

「法と現実」との乖離を埋める課題は、法律学にとって古典的な課題であるが、タイのような経済発展を急速に進めている国の場合、この課題には2つの側面がある。1つは、国内法と現実との関係の側面であり、もう1つは、国際的な基準と現実との関係の側面である。とくに、グローバリゼーションが進展している状況の下では、国際的側面が重要である。グローバリゼーションの視点からタイ労働法の動向を見た場合、労働団体法と労働保護法の分野で大きな違いがあるように思われる。労働保護法の分野では、98年の労働保護法の制定に見られるように、ILO基準との整合性が図られており、その意味で、国際労働基準との一致が追求されている。しかし、労働団体法の分野では、近年の労働法改革において労働組合の保護を強化する方向には向いていない。その理由は、グローバリゼーションの中で影響力を高めてきた企業家が、労働組合は国際的な経済競争を勝ち抜く上で障害になると評価しているからだと思われる。では、現実の変化に対応し、「法と現実」との乖離を埋めるための労働法改革はどのような方向に向かうのか。1997年の通貨危機の経験を通じて、再度、伝統的な規範の評価が認められる。しかし、それは開発法制への回帰ではなく、協調的労使関係への回帰であるように思われる。その装置が1999年の労働関係法改正草案が新たに定めた合同協議委員会である。また、企業自体が大きくなっている条件の下で、むしろ交渉や協議を通じた労使関係の方が合理的だと考えられつつあるように思われる。さらに紛争解決手続を一層丁寧に規定しようとしている。このような労働法改革の帰趨は、タイ労働法が開発法制を清算し国際標準化を達成するかどうかを占うことになる。
著者
宮永 豊 向井 直樹 白木 仁 下條 仁士 石井 良昌
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

スポーツ選手に多発する軟部組織損傷の治癒促進を目的に高気圧酸素療法(HBO療法)の有用性を検討した。一連の実験的、臨床的研究により次の結果を得た。1.実験的筋断裂の修復:HBOの投与は筋線維の連続性の回復の促進とhydroxyprolineの代謝を亢進させたことから、コラーゲンの代謝の亢進が示唆される。2.実験的靭帯断裂の修復:HBOは組織学的に治癒の促進と線維芽細胞数の有意な増加(断裂3〜14日後)を招き、分子生物学的にはpro-α_1(I)mRNAの合成量の有意な増加が断裂7〜14日後に認められた。コラーゲン代謝に有利に作用していると思われる。3.設定条件の違いによる実験的靭帯断裂の修復:組織学的な治癒と線維芽細胞数の増加はHBO群の方が、また高気圧、長時間ほど有効であった。pro-α_1(I)mRNAの発現量は1.5〜2ATA(30〜60分間)のいずれの範囲でも増大していた。4.スポーツ選手の傷害やコンディショニングへの臨床的有用性:軟部組織損傷を生じたスポーツ選手22名に対し1.3〜2絶対気圧(ATA)、暴露時間30〜90分、平均3.6回投与したところ、17例、77%に改善がみられた。急性期における投与の方が軽快する傾向を認めた。軽度の耳痛5例以外は副作用はなかった。長野冬季オリンピックの代表選手7名のコンディショニング調整や試合後の筋肉疲労回復を目的とした。オリンピック期間中1.3ATA、30〜40分、平均2回の投与で全例に改善効果や良好なコンディショニング効果が得られた上に、高い競技能力を発揮させることができた。5.血清乳酸の除去:男子6名に疲労困憊にいたるまでの自転車駆動後の乳酸値の除去が1.3ATA、2ATA条件下で促進された。しかも1.3ATAの方がより有効であった。6.安全性の検討:自覚的には「体が楽になった」、「気分よく寝てしまった」、「投与後にリラックスした」など多くは肯定的な感想であったが、副作用として軽度な耳痛、頭痛がみられた。最近のフリーラジカル分析システムによる活性酸素の測定では投与前平均210.6、投与後201.2といずれも正常範囲であった。7.その他:トレーニング効果なども期待されるが、今後の検討課題とする。以上より高気圧酸素療法(2ATA以下)は傷害治癒促進に有用性が高いことが実証された。
著者
近藤 良享 野津 有司 真田 久 河野 一郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

この研究は、国内外のスポーツ界における薬物等ドーピングを防止するために,教育プログラムや啓蒙を行うための基礎的資料を得ることを目的とした。本研究では,まずアンチ・ドーピング対する実態を把握するために,世界アンチ・ドーピング機構(WADA)と日本アンチ・ドーピング機構(JADA)との共同プロジェクトと絡めて、ドーピングに対する意識調査項目(60項目)を作成し、日本の体育系大学のトップレベルの選手、288名に対する予備調査を実施した。この調査結果をふまえ、JOC五輪強化指定選手およびJADA加盟団体選手に対する意識調査(調査項目を10項目に精選)を2,800名に行った。さらに,JADA加盟団体所属選手らと同じドーピングに対する意識調査を体育・スポーツ系のT大学の学生(744名)に実施した。その結果,T大学生とJADA調査との比較検討から,今後の日本におけるアンチ・ドーピング教育の多くの課題が引き出された。具体的には、アンチ・ドーピング意識が,JADA調査の選手らよりもかなり低く,アンチ・ドーピング意識が不完全であること、また,ドーピングに関する知識・情報が,大学生も日本代表選手らへの提供も全く不十分な状況が示された。アンチ・ドーピングの教育・啓蒙のための教材づくりや支援システムを構築する必要性が浮き彫りにされた。世界アンチ・ドーピング規程へのWADAとIFsの締結期限が2004年8月のアテネ開会式前日であり、これより国際レベルでのアンチ・ドーピング活動が開始された。さらにユネスコ国際条約として,2006年2月の政府関係機関の締結が終われば、アンチ・ドーピング運動が国際スポーツ団体・国家レベルで一体となって展開されることになり、ハード面のドーピング撲滅への足がかりが整うが、未だに不十分な健全なアンチ・ドーピング観の形成を行うためのソフト開発が求められる。
著者
竹野 欽昭
出版者
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は夏季トレーニングの前後に携帯型運動量連続測定装置を用いた運動中の運動量測定を実施し、トレーニング効果が運動量に及ぼす影響を明らかにするとともに、簡易的な運動量評価方法の検討を行った。トレーニング効果が運動中の運動量へ及ぼす影響を調べるため、夏季トレーニングの前後に下記の測定を実施した。1)実験室内での最大酸素摂取量測定および乳酸カーブテストこの測定は夏季トレーニングによるトレーニング効果の評価のため行った。トレッドミル運動による漸増負荷テストを実施し、心拍数、酸素摂取量、血中乳酸値を測定した。2)フィールドでの運動量の測定走運動、スケーティング運動について、野外の平坦な走路を用いて行った。簡易的な運動量評価方法を検討するため、1ステージ1分を目安にした、7〜8ステージの漸増負荷運動を行った。前後、左右、上下の3方向の運動量と総運動量を算出し、トレーニング前後の比較や上記のトレーニング効果評価項目との関連を分析した。その結果、トレーニング後に各負荷の心拍数と乳酸値の低下および最大酸素摂取量の増加が認められた。有酸素性運動能改善とフィールドでの運動量測定データとの関連を分析したところ、有酸素性運動能の改善に伴い、走運動では上下方向の運動量の低下が、スケーティング運動では左右方向の運動量の低下が認められた。このようなことから携帯型運動量連続測定装置を用いた運動中の運動量測定は、フィールドでの簡易的な運動能力評価法として適用可能なことが示された。