著者
平井 松午
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.727-746, 1988-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
3 3

近年の移民研究では,移住者の特性や移住意志決定プロセス,さらには移動流の方向などを明らかにするため,移民研究を人口移動研究の一環として捉え,移民の輩出過程と定着過程とにおける一連の移住過程が検討されてきている。本稿もかかる観点から,山形県出身者の多い美唄市西美唄町山形地区を例に,北海道農業移民の輩出・定着過程について報告しようとするものである. 山形地区の開拓は,明治27(1894)年,山形県村山地方の零細農民が組織した山形団体という農民移住団体の入植によって始まった.その後,自作入植者の単独移住によって開拓地の外延的拡大が行なわれるとともに,山形地区では畑作農業期に農民層分解がみられ,一部上層農の出現をみた.大正10(1921)年に山形地区が水田化されると,上層農はその労働力の担い手として小作人や奉公人を入植させた.こうした後続入植者の多くは,地縁的・血縁的なネットワークを通じての連鎖移住による同郷移住者に求められ,このことが山形地区において「同郷性」を維持してきた理由と考えられる.
著者
本宮 嘉弘 山内 春夫 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.34-41, 2015 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

高速道路で事故を起こしたワゴン車が、事故のはずみでガードロープの支柱を押し倒し、これを跨ぐように停止したが、その直後に出火・炎上して6名が死亡した。車底部の強度部材よりも下方に突出した構造のガソリンタンクにガードロープ支柱が突き刺さり、ここから噴出したガソリンが車体と路面の擦過による火花等により着火したものと推定された。このほかにも、高速道路でスリップした乗用車がガードロープ支柱に横向きに衝突して樹脂製ガソリンタンクが破損し出火した事例や、軽自動車が誤って歩道縁石を跨いで走行したためにガソリンタンクが破損し出火した事例について検討を行った。ワゴン型乗用車では、車室の床面を平坦にするためにタンクを車体中央部に下方に大きく突出した構造となっているなど、車体構造上の問題点もある。道路運送車両の保安基準における燃料タンクの安全基準としては、取り付け位置や強度に関する具体的な数値等は明記されておらず、特にタンク下面に到っては何らの規定もない状態である。また自動車アセスメント(JNCAP)において実施されている前面および側面衝突の試験形態では、変形が燃料タンクまで及ぶことはないことから、事故に起因する燃料漏れで車両火災が生じる危険性をメーカーに周知させるまでには到っていない。
著者
紺野 卓
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.176-187, 2017-03-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
20

地方公共団体のステークホルダーである住民の目を,いかにして行政運営に役立てるか,その一つの鍵となるのが住民監査請求である。住民からの適正な監査請求は,行政のムダをなくし,効率的な組織運営に寄与すると考える。しかしながら,仮に適正な監査請求がなされたとしても,監査請求を受ける監査委員の対応が不適当である場合には,同請求は組織の改善等には役立たない。もしも監査請求に際して,監査委員の適当とはいえない対応が見られる場合には,監査委員には法的ペナルティーも検討されるべきである。本稿では,監査委員の法的責任追及の可能性について,これまでの議論を踏まえて概観するとともに,同責任を明確化する目的で会社法の規定を参考とする。特に会社法で規定する「不提訴理由通知書」は,株主からの請求に対して,株式会社の監査役に実効性を伴った監査を実施させる動機づけとして有効であり,併せてどのような監査が実施されたのかが明らかとなるため,ステークホルダーである株主にとって有用な資料となる。地方公共団体の監査委員の法的責任を明らかにするためにも,同通知書に相当する文書の,地方自治法における導入が強く望まれる。併せて,住民監査請求における監査請求期間の制限について,現行の1年から,民事規定も参考にして拡大すべきことを提言する。

8 0 0 0 OA シュー生地

著者
大喜多 祥子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.392-397, 1997-11-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
朝隈 真一郎 村井 和夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.46-53, 2010 (Released:2010-03-19)
参考文献数
28
被引用文献数
11 10

原因も, また内耳に起こっている病態についても全くわかっていない突発性難聴の診断と治療をいかに行うか, そのことを考える上での問題点とそれへの対応について述べた。1989年から2006年までの18年間に報告された論文をみると治癒率の向上はなく治療成績に変化はなかった。治療成績を調べるために検討された症例数が少ないと得られた治癒率のばらつきが大きく, 症例数が増えるにつれてそのばらつきは小さくなる。症例数が200例以上になると治癒率は30数%に集まる。また治療法が違っても症例を増やして検討すれば同じ治癒率が出ることが分かった。このことから, この治癒は治療によるものではなく自然治癒の可能性が高いことを述べた。治療に当たっては, この疾患について十分に説明することが重要である。治療法の選択については身体的にまた経済的にも負担の少ない方法を選択することが望ましい。
著者
後藤 淳
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.15-25, 2004 (Released:2005-03-11)
参考文献数
7
被引用文献数
2

We describe the estimation of problems in ataxia, presenting the clinical view and the treatment of ataxia. It is possible to classify ataxia into cerebellar ataxia, labyrinthine ataxia, spinal ataxia, cerebral ataxia and others. Each type of ataxia has characteristic symptoms, but compensatory methods for ataxia have many common parts. To understand ataxia, it is necessary to understand the following items:1:The characteristic symptoms of each type of ataxia2:The site of ataxic symptoms and the compensatory methods for ataxiai) The position of the head and neckii) Compensatory methods using the trunk movementiii) The relationship between the distal and the proximal parts of the limbsWe can often observe compensation for ataxia by excessive fixation, especially excessive extension of the trunk. Generally, the treatment for ataxia tends to stabilize only the unstable parts only by actual training (sitting or standing or walking…). It is very important that physiotherapists understand the true problems of the patient by copying the patient's posture and movement, then estimating the patient's activities of daily living. Then their actions will be better coordinated with appropriate treatment (smooth operation).
著者
鈴木 亮 中川 哲彦 水口 裕之 今津 進 中西 剛 中川 晋作 中西 真人 早川 尭夫 真弓 忠範
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.87-93, 1998-03-10 (Released:2009-01-21)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

It is necessary to develop a more efficient gene expression system for gene therapy. A plasmid DNA, using eukaryoic or mammalian promoters, requires to localize into nuclear for gene expression. However, it is difficult to entry into nuclear, because nuclear pore size is not sufficient against the size of plasmid DNA. In this study, to develop a novel cytoplasmic gene expression system that dose not require nuclear localization of plasmid DNA to transcription, we examined the characterization of T7 cytoplasmic gene expression system. When co-transfected with pT7-IRES-L(luciferase expression plasmid containing T7 promoter) and T7 RNA polymerase into LLCMK2 cells, the gene expression of pT7-IRES-L was observed rapidly within 6hr after transfection and significant level of luciferase activity was detected. In contrast, pRSVL, a common plasmid DNA consist of luciferase expression plasmid and Rous sarcoma virus promoter, required 24-48hr for induction of gene expression. The gene expression level of the T7 system was enhanced with an increase in the amount of T7 RNA polymerase. To increase and prolong the gene expression, a plasmid DNA(pT7 AUTO-2) which contained the T7 RNA polymerase gene driven by the T7 promoter was co-transfected with pT7-IRES-L and T7 RNA polymerase. The plasmid DNA(pT7 AUTO-2) dose-dependently enhanced the luciferase gene expression by pT7-IRES-L and T7 RNA polymerase. In addition, we attempted to optimize the cytoplasmic gene expression system. The optimal ratio for co-transfection of pT7-IRES-L and pT7 AUTO-2 was 1 to 3 (mole ratio). These results suggest that T7 gene expression system may be useful in many gene therapies where transient but rapid efficient gene expression is required.
著者
前川,直哉
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究
巻号頁・発行日
vol.81, 2007-11-30

This paper elucidates historical changes in the images of homoeroticism between male students in the Meiji Era and examines the factors behind this change. During the Meiji Era, intellectuals subscribed to a morality that prohibited homosexuality. However, some male students, known as kouha (solid students), shared common values that placed a positive value on homoeroticism between male students. They loathed falling victim to women's charms, and aspired to develop ideal relations between themselves and other elite male students. In the 1900s, the number of girls attending school increased markedly, and the presence of female students increased. These women came to be seen as suitable love or marriage partners for male students. In modern Japan, the emergence of female students helped to form the ideology of romantic love and a new positive image composed of love, marriage, and family. These changes brought about by the emergence of female students had an impact on the images of homoeroticism between male students. After the 1900s, a form of homoeroticism called "love between men" became popular among the nampa (soft students), and the kouha students lost their monopoly on homoeroticism. However, "love between men" was just a substitute for love between men and women. On the other hand, the kouha students strengthened their belief that they should avoid falling in love, as they thought it was too feminine. Therefore, they called close relations between men "friendships between men, " avoiding the use of the word "love." In this way, homoeroticism between male students was separated into "love between men, " as an imitation, and "friendship between men." Homoeroticism between male students was transformed into a form adapted to heterosexism.
著者
酒井 裕二
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.109-118, 1999-06-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
38
被引用文献数
2

われわれは洗顏により, 余分な皮脂や過酸化脂質, さらには肌上に吸着した空気中のほこり等を取り除くことで, 肌を清潔に保つことができる。洗顏料を開発するうえで考慮すべき要素として, 機能性, 皮膚安全性, 使用法の3点があげられる。これら3要素はおのおの密接に関係しており, どれか一つ欠けても洗顏料として満足する品質は得られない。またこの3要素に最も影響を与えるのが, 洗浄機能主剤の界面活性剤である。すなわち, この界面活性剤の特性を把握しつつ, 各要素をバランスよく高質化することこそ, 肌に理想的な洗顏料開発を可能にする。今回は, この3要素を中心にこれまで検討してきた研究を報告し, 理想的な洗顏料のあるべき姿について考察した。
著者
塚田 花恵
出版者
国立音楽大学
雑誌
研究紀要 = Kunitachi College of Music journal (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.181-191, 2022-03-31

本稿は、19世紀フランスの作曲家エクトール・ベルリオーズが執筆した小説『ユーフォニア、あるいは音楽都市』のうち、最初の「第一の手紙」と「第二の手紙」を、日本語に翻訳したものである。この小説は、1844年に音楽雑誌『ルヴュ・エ・ガゼット・ミュジカル・ド・パリ』に発表され、その後『オーケストラ夜話』(1852年)の一部となった。ベルリオーズはこの小説において、ファム・ファタルによって狂わせられていく二人の青年作曲家――これらの登場人物は、ベルリオーズ自身と、かつて彼と恋愛関係にあったピアニストのカミーユ・モークをモデルとしている――の悲劇を軸として、同時代のヨーロッパの音楽文化を、ときにユーモアを交えて鮮やかに描き出した。ベルリオーズの伝記的な資料としても、19世紀フランスの音楽批評としても、第一級の史料的価値をもつテクストだと言えるだろう。
著者
羽田野 直道
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.408-414, 2017-06-05 (Released:2018-06-05)
参考文献数
32

我々は日々「時の流れ」の中で生きています.命あるものもいつかは死に,形あるものもいつかは壊れます.日々の生活の中でこれは当然のことですが,物理学にとっては古くからの大問題であり,「時間の矢」と呼ばれています.厳密に言うと時間の矢とは,時間が正の向きに進むに従って,ある特定の現象(例えば物が壊れること)の方が,その時間反転の現象(物が形作られること)よりも頻繁に起こることを指します.ビデオを見て,それが順回しか,それとも逆回しかがわかる場合,そのビデオに映っている状況には時間の矢が存在しています.なぜこれが物理学にとって大問題であるかというと,「弱い相互作用」を除く3つの相互作用が時間反転対称性を持っているからです.微視的なレベルで運動を記述する方程式のほとんどは,ニュートンの運動方程式,マクスウェル方程式,シュレーディンガー方程式を含めて時間反転対称な微分方程式です.したがって,それら微分方程式の解も時間反転対称であるのが当然のように思われます.実際に,理想的な調和振動子のビデオ映像は順回しか,それとも逆回しかを答えられないでしょう.しかし現実には時間反転対称性を破る現象があふれています.それを物理学はどのように説明すればよいのでしょうか.本稿では特に微視的な量子力学に話を絞って,時間の矢が現れる仕組みを明らかにします.例えば輻射場中の二準位原子を考えましょう.励起状態にある二準位原子は光子を放出して次第に基底状態へ崩壊すると考えるのが自然ですし,それが実験でも観測されるところです.理論的には通常は「アインシュタイン係数」を使って議論されますが,そこでも基底状態への崩壊が結論されます.しかし,この現象は明らかに時間の矢を持っています.もとの量子電磁力学(QED)は時間反転対称な学問体系なのに,なぜこういうことが起こるのでしょうか.我々はこの問題を2段階に分けて解き明かします.まず第1段階で,無限体積中のシュレーディンガー方程式には,時間反転対称性を破る解が存在することを示します.元の方程式の時間反転対称性を反映して,そのような解は必ず互いに時間反転対称な,「崩壊状態」と「成長状態」のペアで現れます.(歴史的には,これらは「共鳴状態」・「反共鳴状態」と呼ばれてきました.)実は,ここまではこれまでにも多くの議論があります.しかし時間の矢が現れることを説明するためには,なぜ崩壊状態が卓越して選ばれるのかまで示す必要があります.これが,これまでの議論で欠けていた点でした.それに対して我々は,数学的に厳密な議論を経て以下のことを示しました.初期条件問題,つまり「ある状態が初期条件として与えられたときに,その後,何が起こるかを問う問題」の場合には自動的に崩壊状態が選択され,逆に終末条件問題,つまり「ある状態が終末条件として与えられたときに,その前に,何が起こったかを問う問題」の場合には自動的に成長する解が選択されるのです.(これは,遅延グリーン関数と先進グリーン関数を定義するときに付与する微少量の符号を論理的に説明したことになっています.)輻射場中の二準位原子の問題は初期条件問題なので,崩壊状態が卓越して選択されます.ただし,通常の二準位原子の議論では全時刻で純粋な指数関数的減衰しか得られません.それに対して我々の議論では短時間領域で指数関数的減衰ではなく,徐々に成長状態から崩壊状態に切り替わる様子も確認できました.