著者
西澤 隆 元村 佳恵 村山 秀樹 平 智
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

メロンの「うるみ果(水浸状果)」発生要因とその防止技術について,以下の諸点について明らかにした.1.メロンの「水浸状果」は,果実肥大期の後期に株が一時的に遮光条件下に置かれることによって誘発される生理障害であることを明らかにした.2.「水浸状果」の発生には品種固有性が存在し,供試した品種中では‘アンデス'には「水浸状果」が認められたものの,‘ラスター'では認められなかった.3.遮光処理は果実内におけるスクロースの蓄積を阻害したものの,ヘキソースの蓄積はほとんど阻害されなかったことから,遮光処理は果実内における糖代謝関連酵素の活性を変化させる可能性が示唆された.4.遮光処理は果実内におけるアセトアルデヒド,エタノール生成量を増加させたことから,「水浸状果」は‘プリンスメロン'等で発生が報告されている「発酵果」の一種であり,遮光処理によって果実はより嫌気的な状態に置かれるものと推察された.5.遮光処理はエチレン生成量を増加させ,同時に果肉硬度を低下させたことから,遮光区における急激な果肉硬度の低下には,エチレン生成が関与しているものと推察された.6.摘葉処理および着果過多処理により株のソース・シンクバランスを変えても,果実に水浸症状は認められなかったことから,「水浸状果」は遮光処理によって果実内への光合成産物の供給が制限されることが主要因で起こる生理障害ではないと推察された.7.ABA処理は葉の光合成速度を低下させると同時に果実からのエチレン生成量を増加させ,果実の軟化を促進させた.8.メロンの「水浸状果」の防止には,フィルムの張り替え等による受光態勢の改善,品種の選択,窒素肥料の適正化等が重要であると考えられた.
著者
ANILIR SERKAN
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

IFデータベースは現段階で予想される多種多様な問題に対応しているが、本研究では特に下記の3分類(IF環境)に絞り、21世紀の国際的な社会問題である人口問題や難民問題、それから生まれた衛生管理の問題、また地球環境に対する負荷の低減、大規模災害に対する有効な改善策を見出すことを目指した。(1)Temporary-Infra: 被災地など、一時的にインフラが崩壊した場合大都市居住者のエネルギーや水の使用量は、経済発展のために、今後も増大の一途をたどる。こうした大都市で災害が起き、既存インフラが麻痺した場合でも、一定期間豊かな生活を維持できることを目的とする。(2)No-Infra:途上国における開発途上地域や未開地など、インフラが十分でない場合インフラの未整備地域の一般生活者、又は天災・人災リスクの高い地域の環境難民、経済難民、戦争難民及び極地的環境の居住者への生活の保障を目的とする。中国、中南米を始めに、インフラが十分でない国々との協力関係の構築を図ることを目的とする。(3)Self-Infra: 先進国における開発途上地域や未開地など、インフラを自ら選択できる場合現在の環境先進国の郊外住宅地の開発は消費型社会を基盤としているため、住宅の運用に伴う環境負荷や消費量増大に歯止めがかからない。そこで、資源循環型社会へ転換することで人々の資源節約意識が働き、自然とともに暮らす生活の質を高める都市や住宅開発、または古民家などのストックが持続可能な改修手法の有り方を目指している。平成19年度は前年の研究結果を基にした模型試作による実験とモニタリング。インフラフリー技術の個別要素を適用・実験可能な実物モデル縮小型模型の製作。一般企業への技術移転を前提としたモデル施設の紹介や技術提携、専門者との意見交換、課題の抽出。成果の「インフラフリー技術図書」としてとりまとめた。
著者
鍵谷 昭文 齋藤 良治
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

性ホルモン投与における中枢神経系の形態の変化を主にゴナドトロピン分泌を調節するLH-RHニューロンのシナプス可塑性の変化から検討することを目的として、性機能の推移や性差に伴う視床下部、特に視索前野と弓状核領域のLH-RHニューロンおよびグリア数とその分布状況、軸索樹状突起シナプス数、軸索細胞体シナプス数やその変化などについて電子顕微鏡を用いて超微形態学的研究をおこなった。今回の補助金により、電顕材料を計画的に作成するとともに、免疫組織学的検索をおこなうことができた。各性周期のラットおよび卵巣摘除後、さらにエストロゲン投与後に潅流固定を実施し、脳組織を摘出した。脳の検索部位についてLH-RH免疫組織化学的検討を実施した。透過型電子顕微鏡を用いてLH-RH免疫組織陽性細胞とLH-RHニューロンについての超微形態学的変化の検討をおこなった。双極性のLH-RH免疫組織陽性細胞はラット視索前野を含め視床下部に比較的広く分布していたが、視索前野および弓状核のLH-RHニューロンはドパミンニューロンやGABAニューロンなどともお互いにシナプス結合していることが判明し、この部位は生殖内分泌学的には極めて重要な中枢部位と考えられた。性周期の各時間では、弓状核および視索前野における軸索細胞体シナプス数には変動がみられ、PROSTRUSの時期が最も多く、次いでDIESTRUS,METESTRUS,ESTRUSの順であった。しかし、性周期に伴う変化は軸索樹状突起シナプスではみられなかった。一方、卵巣摘出後のラットでは軸索細胞体シナプス数は減少し、特にEstradiol投与後では平均28.8%の減少がみられたが、この減少は経時的に回復する傾向が認められた。このように、エストロゲンはラット視索前野および弓状核のLH-RH免疫陽性軸索細胞体シナプス数の変化に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。
著者
藤田 雄介 (2023) 藤田 雄介 (2021-2022)
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-03-08

自然界にはながれと関係しているにもかかわらず流線型ではない凹凸形状が観察される.トンボ翼と砂丘はその代表例といえる.それぞれは,流れとの関係において翼性能の向上や,形成維持のメカニズムとの関係が示唆されているが,詳細な研究は不十分である.本研究では流れと凹凸形状の関係に的を絞って理解することを考える.数値計算や実験により,トンボ翼や砂丘の凹凸形状をモデル化した模型周りの流れを解析し,流体力学的に考察する.最終的に,両者の研究を統合し,自然界に見られる流線型でない凹凸形状の普遍的機能やその設計原理を明らかする.
著者
高橋 宏知 磯村 拓哉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では,①物理リザバー推論を実現できる閉ループ実験系を構築し,②実験データに基づき,脳組織の自由エネルギーの計算方法を確立したうえで,③脳組織の推論能力を増強する方法論を探求する.独創的な実験研究と理論研究を両論とし,リザバー計算と自由エネルギー原理を有機的に連携すれば,脳のエンパワーメント技術,ニューロモルフィック計算,次世代AIの開発などの波及効果を期待できる.
著者
石井 克明 細井 佳久 谷口 亨
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

無花粉スギより胚性万能細胞等を誘導する手法を開発し、各個体に共 通する誘導特性を検索し、個体再生、発根、順化の効率化をはかることにより、各クローンに 普遍的な増殖技術の開発を目指した。無花粉スギからの培養条件の検索では、多くの無花粉ス ギ個体を用いて、針葉の無菌化を行い、培養に適した培地や、培養環境を検索して、雄性不稔 スギ福島不稔2 号、5 号、田原1 号、青森1 号等で最適条件を確立した。そして、発根や順化 での適切な処理手法を開発することで、効率的増殖条件を明らかにした。
著者
小川 由英 外間 実裕 諸角 誠人 秦野 直
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

尿路結石の約80%はシュウ酸カルシウムが成分であり、その傾向は沖縄でも同様であった。シュウ酸カルシウム結石の原因は特発性がほとんどで、過シュウ酸尿症は約1/3、過カルシウム尿症が1/3に認められた。尿中シュウ酸排泄が増加する原因は、食事性が多いとされ、シュウ酸含有食物摂取、脂肪の過剰摂取、シュウ酸分解菌の減少などでシュウ酸自体の吸収が増加する。ヒト腸管内のシュウ酸分解菌は、偏性嫌気性菌であり、Oxalobacter formigenesが結石形成の主たる阻害因子とされている。文献上で報告されているシュウ酸分解菌は、すべて偏性嫌気性菌であった。我々はヒトの腸内からシュウ酸分解菌、すなわちEnteococcus fecalis、Providencia rettgeriiを同定し報告した。これらの菌は、酸素の存在下でも発育できる通性嫌気性菌であり、ヒトの腸に常在させた場合、シュウ酸吸収を減らし、尿中シュウ酸排泄を減少させ、シュウ酸カルシウム結石形成予防効果が期待される。しかし、実際にこれらの菌をヒトに感染させるのは困難である。わが国で用いられている生菌製剤の25製剤のシュウ酸分解能について検討したが、現在のところシュウ酸分解能は確認できていない。また、シュウ酸吸収のラットでのモデルを考案し、上部消化管と結腸が重要な吸収部位であることを証明し、消化管内にカルシウムとマグネシウムがシュウ酸と同時に存在すると、その吸収を阻止することを示した。消化管内のシュウ酸吸収機構に関しては、脂肪酸と胆汁酸などの影響に関しは検討中である。さらに、ヒトの腎不全の際にシュウ酸は尿毒症物質であり、高シュウ酸血症が長期持続すると組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。その腎不全の際のシュウ酸代謝では、アスコルビン酸が重要な役割を果たすことを発見したが、その機序が消化管内でシュウ酸に分解され、シュウ酸が吸収されるのであれば、シュウ酸分解菌が応用できる可能性も考えられ、これからの検討課題である。
著者
西口 順子 岡 佳子 牧野 宏子
出版者
相愛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

現在、関西に12ヶ寺の尼門跡とよばれる尼寺が存在する。尼門跡の称号が正式に許可されたのは昭和16年以後のことで、これらは中・近世には比丘尼御所と称された。近年、中世史の分野において、比丘尼御所研究は著しく進展している。しかし、近世の比丘尼御所研究はほとんどなされてこなかった。それは尼門跡寺院の文書調査が全く手つかずの状態であったからである。本研究では、尼門跡寺院のうち京都の宝鏡寺・養林庵・光照院・霊鑑寺・慈受院、奈良の中宮寺が所蔵する近世・近代文書の調査を実施し、研究の基礎となる文書目録を作成するとともに、比丘尼御所の歴史的変遷と生活文化の多様性を明らかにすることを試みた。各寺院には江戸時代中期以後の多量の文書が存在する。近世の比丘尼御所には皇女・公家の女性が入寺し、彼女ら自身の手による多くの文書が残された。そこから、尼僧たちは自らが寺院経営を行い、寺格の高めるために政治的に動き、積極的に帰依層を拡げていった状況が明らかになった。従来の研究では比丘尼御所は高貴の女性が幼少より入寺する閉鎖的な空間と考えられてきたが、実際は女性達が尼僧として積極的に社会と関わりをもったことが明確になったのである。この側面は文書調査によってしか明確にしえない点であった。さらに尼僧が行った仏事法会や儀式の次第書、和歌や典籍などの国文学資料、美術工芸資料など、宮廷と寺院が一体となった独特の比丘尼御所の生活文化を明らかにした。また、予想以上多量の近代文書が残り、明治政府の宗教政策のもとでの皇室系寺院の歴史的変遷をあつづけることもできた。もっとも各寺院の所蔵する文書は厖大な量であったために、予備調査のみや、調査継続中の寺院などが残り、それらが今後の課題として残っている。
著者
森 源治郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

ヒガンバナ科球根植物の種間及び属間雑種を育成することを最終目的とし、交配の機会を多くするための開花調節の方法および花粉の貯臓法を検討したうえで、種々の組合せの種間及び属間交配を試みた。1.これまでに明らかにされていないCrinum powellii cv.Album及びZephyranthes candidaについて、開花特性を調べたところ、前者は花芽が雌ずい形成期に達した後に6〜15/12℃で45日間処理することによって開花期を調節できること、また後者では冬期も加温して栽培すると周年にわたって開花を続けることが分かった。2.花粉の貯臓条件を調べたところ、硝酸マグネシュウム飽和溶液を用いて湿度を58.8%に保ち、ー18℃で貯蔵すると、6か月後においても高い発芽能力を維持していた。3.自然開花あるいは開花調節によって開花した母株に開葯直後の花粉あるいは貯蔵花粉を用い、21組合せの種間交配、63組合せの属間交配を行った。種子形成が認められたのは種間交配の11組合せ、属間交配の22組合せであり、バ-ミキュライトに播種して発芽が認められたのは種間交配の5組合せ、属間交配の10組合せであった。4.種子を形成しながら発芽に至らなかったものには、胚がほとんど確認できないものと未発達の状態でとどまっているものがあった。後者では胚珠培養によって発芽が可能になるのではないかと考え、バ-ミキュライト播種で発芽の見られなかったCyrtanthus mackenii X Clivia miniataおよびLycoris属の種間交配によって得られた未熟胚珠を1/2MS培地で培養すると、発芽が認められた。5.種間および属間交配で発芽の認められた個体は現在発育中であるが、初期形態から明らかに両親の中間タイプを示すものを確認している。
著者
窪田 悠一 大林 一広 冨永 靖敬 田中 有佳子
出版者
日本大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2021-10-07

本国際共同研究の目的は、国内武力紛争(内戦)下の反政府武装勢力(反乱軍)による市民経済の管理・統制のメカニズムとその影響を理論的、実証的に明らかにすることにある。本研究では、反乱軍経済やその影響について、定量的な分析を可能にするデータセットの構築と現地調査を含む事例研究を通して考察する。内戦下の反乱軍は、なぜ、またどのように市民経済に関与するのか、またそうした経済政策や市民経済との関係は紛争の動態や市民の意識や政治社会行動にいかなる影響を及ぼすのかという問いに多角的にアプローチすることで、反乱軍経済だけでなくその領域統治メカニズムの解明に貢献することを目指す。
著者
久保田 明子 青木 睦 高岩 義信 飯田 香穂里 兵藤 友博 小沼 通二 後藤 基行 清原 和之 菊谷 英司
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

日本学術会議所蔵の歴史的資料について、(A)資料を用いた研究(日本の学術体制史研究)と(B)アーカイブズ学にのっとった資料整備を行うことが研究の計画であるが、本研究は特に(A)と(B)を別々に行うのではなく、日本の科学史等当該分野の研究者とアーカイブズ学を専門とする研究者が互いの知見や成果を相互に活用しながら共同で実施する試みである。
著者
佐賀 公太郎 玉井 克人 新保 敬史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

これまでに申請者らは、損傷組織から放出された HMGB1 が骨髄中の間葉系幹細胞 (MSC) を活性化することで骨髄 MSC の血中動員や損傷部集積を促進し、損傷組織再生を強力に誘導することを明らかにしてきた。しかし、HMGB1 による骨髄 MSC 活性化に関わる受容体やシグナル経路は未だ明らかとなっていない。本研究では、HMGB1 が骨髄 MSC を活性化するための新規受容体を同定し、その活性化機構を明らかにすることを目的とする。
著者
山田 嚴子 小山 隆秀 渡辺 麻里子 小池 淳一 原 克昭 羽渕 一代
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は東北の巫者が近代以降の新たな制度に対応してゆく過程で、在来の「知識」をどのように再配置し、地域住民とともに新たな宗教的実践を再構築してきたのか、そのプロセスを問うものである。一関市大乗寺については、映像資料を作成し、祭文、経典については、録音、翻字を行う。また恐山円通寺については、もと小川原湖民俗博物館旧蔵資料で、現在は青森県立郷土館に寄贈されている文書類の翻刻と、文書の収集の背景の聞き取りを行う。量的調査は青森県、岩手県と比較のために東京都で質問紙調査を行う。研究成果は報告書を作成し、弘前大学地域未来創生センターや青森県立郷土館のwebページなどでも発信してゆく。
著者
吉田 江依子 横越 梓 武藤 敦子
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

毎年、年末になると、今年の「流行語大賞」が話題になる。本研究で取り上げる新語・流行語は、その時々の社会の世相を表すその場限りの奇抜な表現を含んだ言葉に過ぎず、その研究に学術的意義があるのか、と考える人がいるかもしれない。しかし、言語学的視野に立ってみると、流行語は言語の創出、変異、消滅といった言語サイクルを短期間で表出している非常に興味深い言語対象である。どのような流行語が廃れ、どのような流行語が残るのか。ツイッターから言語データを収集し、生成文法を基本とする理論言語学の枠組みを用いて、今現在、進行形で起こっている流行語の言語変遷の仕組みを解明する。
著者
松田 英子
出版者
江戸川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

調査から労働者と学生の睡眠の不調は深刻な状態にあるものの,薬物治療による抵抗感が確認された。労働者は不眠と悪夢症状が強いが,さらに学生は不眠が深刻で過眠症状も強く,睡眠のリズムの乱れの影響が疑われた。労働者と学生において,職務ストレサーや学生生活ストレサーそのものよりも,不眠,過眠,悪夢症状から成る睡眠の不調が,抑うつ症状をよく予測するモデルが見出された。つまり,抑うつの予防には睡眠の不調の改善が重要であることが示唆された。非薬物療法である CBT による事例研究と準実験研究を実施し,不眠に関して,入眠前の筋弛緩法や思考に対する認知療法の効果を確認し,悪夢に関して入眠前の思考に対する認知療法の効果を一部確認した。
著者
高 哲男
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

「本能」概念を中心としたアダム・スミスの人間本性論や科学方法論、社会的本能の概念を多用して進化を説明しようとしたチャールズ・ダーウィン、ダーウィンの影響の下に「生物学こそが経済学のメッカだ」と公言したマーシャル、さらに「進化論的経済学」を提唱したヴェブレンの制度進化論をそれぞれ学説史的に再検討した結果、おおよそ以下の事実が判明してきた。人間理性の役割を強調する啓蒙期の哲学・科学革命の進展の中で、人間と他の動物との客観的な比較が始まり、単純な人間機械論は排除される。科学革命の中では、ニュートンに代表される物理科学と並んで、リンネやビュフォンに代表される生物学研究が大きく進展し、人間の科学的な理解への道が大きく開ける。「人間性」が客観的な科学の対象として議論し始めるからである。こうしてヒュームのように、人間行動を社会のなかで理解するという観点から科学的に捉えなおそうという試みが始まり、18世紀の末には、心理学という用語が登場するようになる。アダム・スミスの『道徳感情の理論』は、明らかにこのような傾向の中で生み出されたものだ。もちろん、啓蒙期の「自然神学」的な人間性の解釈を根底から覆したのは、ダーウィンの進化論とくに『人間の由来』である。自己保存という本能と集団の仲間に対する社会的本能、この二つの本能が社会的動物である人間を基本的に特徴付けているというダーウィンの主張は、マーシャルとヴェブレンによって受け止められる。もっともマーシャルの場合は、ダーウィンと比べてさえ、まだ伝統的な価値観に対して大きな譲歩がなされており、進化論をその経済学体系の基礎にすえることはできず、『経済学』の後半で生かしたに過ぎない。これに対してヴェブレンは、人間性がもつ社会的特徴を、とくに競争心という「社会的本能の発現」が制度進化のプロセスにおいてもつ役割として理解し、独自の進化論的経済学の基礎にすえたが、「利己心」つまり「自己保存」という側面については、十分な解明がなされなかった。その意味では、利己心と互恵的利他心とを理論の基礎に据えていたスミスが、現代から見てもっとも「進化論的」な経済学を展開していた、ということができるのである。
著者
杉浦 正利 成田 真澄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、日本人英語学習者の持つコロケーション知識と英語母語話者の持つコロケーション知識とが、質的・量的にどのように違うのかということを、コーパス・反応時間・光トポグラフィーという三つのデータを利用して明らかにすることを目的としている。平成17年度は、まず学習者コーパスの設計と構築を行った。著作権処理をし研究資料として自由に使用できるデータを英語学習者と母語話者それぞれ200人分収集し、テキスト処理を施し学習者コーパスNICE(Nagoya Inter language Corpus of English)の基礎部分を構築した。また、反応時間測定実験のためのプログラム開発を行った。平成18年度は、学習者コーパスのデータに、英語母語話者による添削文を付与し、誤用分析ができるようにコーパスデータを拡張した。コーパスデータに含まれるn-gram表現を抽出し、英語学習者と母語話者の使用するコロケーション表現の分析を行った。また、反応時間の測定実験と光トポグラフィーによる実験で使用する実験項目の選定を行った。平成19年度は、学習者コーパスの言語的特徴を分析し、英語学習者と母語話者の違いを判別分析により明らかにした。また、添削文データの分析に基づく誤用分析も行った。反応時間の測定実験により、英語学習者もコロケーション知識を持っているが、習熟度により差があることが明らかになった。光トポグラフィーによる実験では、英語母語話者はコロケーション表現の処理に言語野のみを使いながらも脳に対する負荷が少ないのに対し、学習者では言語野以外の部分の活性化が起きるのみならず、その活性化に統一的なパターンが見られないことと、コロケーションを処理する際に脳に負荷がかかってることが明らかになった。
著者
杉浦 正利 木下 徹 山下 淳子 井佐原 均 大名 力
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、書きことばと話しことばに関する英語学習者の産出データを大量に収集し、各文に英語母語話者による「書き換え文」を付けた上で、自然言語処理技術を応用し「誤り」や「不自然な表現」をコンピューターを使い自動的に抽出・解析・分類し、その特徴を英語教育の専門家が分析することで、英語学習者の中間言語体系全般にわたるエラーの全体像を明らかにすることを目的としている。本年度は、これまでの分析のまとめと、研究成果および開発したプログラムとデータを公開するための環境整備を行った。(1)英語学習者の誤りに関する体系的な分析:話しことぱと書きことばに関する分析を統合した。(1-1)誤用タグの種類と付与方法に関する知見をまとめた。(1-2)話しことばに関する誤用の傾向をまとめた。(1-3)書きことばに関する誤用の傾向をまとめた。(1-4)話しことばと書きことばの誤用の相違点をまとめた。(1-5)英語学習者の言語習得プロセスを誤用データの分析から把握できるような指標の開発を試みた。(2)開発したプログラムの公開:本研究で開発した誤り表現の自動抽出プログラムをWWW上に公開できるようにした。本プロジェクトで得られた知見のみならず、開発したプログラムも広くフリーで使用できるようにする。(3)データベースの公開:本研究で作成した誤りデータベースをWWW上で検索可能にし公開できるようにした。本プロジェクトで得られたデータをまとめ、今後、本格的に誤用研究を行う際に、さまざまな観点から誤用分析を試せるような検索システムを開発した。本研究により、自然言語処理技術の応用による誤用分析の可能性を追求できたとともに、その限界や問題点も把握でき、今後、本格的な誤用分析研究を行うための基礎となる有益な知見を得ることができた。
著者
星 信彦 横山 俊史 杉尾 翔太 池中 良徳 平野 哲史
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

環境化学物質の悪影響が世代を越えて伝わる継世代影響が懸念されている.一方,「胎児期や乳児期における環境因子が生後の各種疾患のリスクを高める」こともわかってきた.中でも,発達神経毒性は極めて重要な問題である.しかし,多くの農薬は神経毒性作用を有し,胎盤関門を容易に通過する事実はあるが,継世代影響の実態やそのメカニズムはほとんどわかっていない.本研究では,中枢神経の活動や代謝系を,生体マウスの覚醒下で脳の様々な細胞を可視化イメージング技術により,これまで困難であった投与期間全体を通じた連続観察や,最も感受性が高い胎子脳に対する薬剤影響を直接的に観察をすることで継世代影響を捉え,その原因を探る.